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<ノベル>
1.頼もしい助っ人たち?(一部疑問形)
対策課は今日も賑わっていた。
シリアスで重々しい事件からあっけらかんとして明るい出来事、思わず笑ってしまうような案件まで、今日も様々な問題が持ち込まれているからだ。
ここには、一目でムービースターと判るような連中から、ぱっと見にはどちらとも言えない雰囲気を持つもの、バッキーを身体のあちこちに乗せたムービーファンたちまで、様々な人々が集まって、銀幕市の厄介ごとや困りごとの相談や解決のために、額を合わせて会話を交わしている。
その一角で、月下部理晨(かすかべ・りしん)は、依頼書をざっと読み返しながら、
「……久我が行方不明ってか。そりゃ、由々しき事態だなぁ」
知己である歌い手・神音と、その歌い手としっかり手をつないだ少女とを交互に見比べていた。
その視線を受けて、
「あのね、おにいちゃんがいなくなっちゃったのは、リオネが魔法をかけたからかもしれないの。だからリオネは、お手伝いをして、……それで」
言葉を重ねるリオネの視線が下を向き、彼女の手が神音のそれを更にぎゅっと握り締める。
理晨は苦笑して頷いた。
「聞いた。あんたは覚悟をしてるんだな」
「かくご? わかんない。でも、せきにんをとる、っていうんだって。リオネは、自分のしたことを、ちゃんとさいごまでみなくちゃいけないの。それが、せきにんをとることなの。だから」
「久我がどういう状況下に置かれているのだとしても、最後まで付き合う、か」
「……うん」
こっくりと頷くリオネの頭を撫で、理晨は微笑した。
何が罪で何が罰なのかは、今の理晨にはあまり関係がない。
それよりも、幼子が、己が罪を見据えて何かしようとしていることの方が重要だった。
何故ならそれは、時に大人ですら、真っ直ぐには向き合えぬことだからだ。
「よし、じゃあ俺も手伝おう」
「ほんと?」
「ああ、幸い、幾つか情報網も持ってる。神音とは映画で共演した仲だしな、久我のことも知ってるし、放ってはおけねぇだろ。あんたが頑張ってんのも、聞いてるしな」
「うん……ありがとう、おにいちゃん」
にっこりと愛らしく笑ったリオネがぺこりと頭を下げる。
「……まぁ、正直、お兄ちゃんって年でもねぇんだけどな」
理晨はちょっと肩をすくめて笑った。
そこへ、
「植村さん今日は、この依頼のことなんだけど――……」
依頼書と、白い布で包まれた細長い何かを手に、印象的なハスキー・ヴォイスとともに対策課へ踏み込んで来た青年が、対策課の一角に佇む三人を見遣って首を傾げ、近づいてきた。
「リオネちゃんに……神音さん。なんか……すっごい久々」
鮮やかなアメジストの双眸に、光を受けて色合いを微妙に変える紫の髪の、端正に整った顔立ちの彼に、にっこり笑ったリオネが手を振り、神音は小さく目礼を返す。
「片山瑠意(かたやま・るい)か。確かに久しぶりだ、『平成帝都あやかし譚・乱之巻』以来だな」
「うん、あの時はどうも。勉強になったし、楽しかった」
「……それは、私もだ」
片山瑠意と呼ばれた青年は、神音と他愛ない挨拶を交わした後、理晨に視線を向ける。
「理月……じゃ、ないな。もしかして、彼を演じた俳優さん?」
アメジストの双眸を、悪戯っぽい光がよぎった。
理晨は肩をすくめる。
「お察しの通りだ」
「ファン? エキストラ?」
「バッキーは友人に預けてある」
「あ、そうなんだ」
理晨は俳優だ。
それが完全に本業と言うわけではないが、基本的には俳優である。
高い身体能力を活かして様々なアクション映画に出演している理晨の代表作が、眼以外が漆黒の傭兵が世界を戦いとともに巡る異世界ファンタジー映画『ムーンシェイド』なのだ。
この街には彼が演じた漆黒の傭兵が実体化していて、様々な事件に関わっているようだから、恐らく今理晨を目にしたものの大抵は、彼を、理晨本人ではなくかの傭兵だと思うことだろう。
「そういうあんたは、ムービースター疑惑の片割れだったか。ウチのが……っていうのも変な話だが、世話になってるみてぇだな、ありがとよ」
「いや、世話になってるのはこっちもだし……って、スターじゃないからな。ったく、俺みたいな一般人を捕まえて何を言うんだ、皆」
「本当の一般人ってのは、自分じゃそうは言わねぇもんさ」
「え、そんなことないって」
本気で自分は一般人だと思っているのか、そう言い募る瑠意に、理晨は思わず噴き出した。
「……そんな面白いことを言った覚えもないんだけど」
さすがに不本意だったのか、瑠意が眉根を寄せる。
理晨は悪いと謝ってから、
「いや、歌手と俳優を兼業してる片山瑠意ってヤツの話は聞いたことがあったんだが、何か、想像してたよりも雰囲気が可愛いから、驚いた」
「可愛いって……何だよ。可愛くないし、俺……」
瑠意が、呆れたような、毒気を抜かれたような表情をする。
理晨はそうかな、と笑って肩をすくめた。
確かに、二十代半ばを過ぎた、しかも自分より背の高い青年に言うべき言葉ではないかもしれないが、実際にそう感じてしまったのだから仕方がない。
十歳以上年が離れていれば、尚更だ。
「そういやあんた、すんげー美形の恋人が出来たって聞いたけど……本当なのか?」
「えっ」
「あんたって、そういうゴシップ聞かねぇからさ。どうなのかなって」
「い、いやその」
理晨が言うと、瑠意は首まで赤くなった。
理晨は、とある米国人監督の作品によく出ているので、基本的な活動拠点はハリウッドだ。そのため、日本の俳優にはそれほど詳しくはないが、画面映えする端正な顔立ちと高い身体能力及び演技力を持つという、片山瑠意の話は少なからず耳にしたことがある。
それらの噂から、片山瑠意という青年を描き出すとすれば、爽やかな笑顔の中に剛胆さと強かさ、ほのかな黒さを持ち合わせた人物……というイメージなのだが、今、理晨の問いにしどろもどろになり、視線をあさっての方向に彷徨わせている彼からは、その強気な姿は想像できない。
だから、彼をこんな風に右往左往させるものすごい美人の恋人と言うのも、あながち出鱈目な噂話ではないのかもしれない。
「ええと……そ、そうだ、それより」
あからさまなほど強引に話題の転換を図った瑠意が、細かい文字が印刷された上質紙を、ふたりの会話をきょとんとした表情で聞いていたリオネと、無表情でふたりの様子を観察していた神音に示してみせる。
「久我さんが行方不明って、本当なのか。俺、びっくりしちゃって」
「ん、ああ。どうも……そのようだな」
「そのようだ、って他人事かよ。えらく落ち着いてるよな……って、まぁ、そういう性格なんだっていうのは知ってるけど」
「そうだな、どうも私は暢気すぎるようだ」
「まぁ、神音が暢気なのは前からだしな、今更驚くようなことでもねぇや。っつーか、あんたも久我のことを知ってんのかい、片山?」
「瑠意でいいよ、俺も理晨さんって呼ぶから」
「理晨、でいいぜ」
「いや、だって、さすがに十歳以上年上の相手を呼び捨てにするのは。本当は敬語使った方がいいのかなって思うけど、理月の中の人だと思うとどうしてもタメ口になっちゃうなぁ」
「ん? 別に構わねぇぜ、年功序列ってわけでもねぇだろうしな。名前も好きなように呼んでくれりゃあいい」
「うん、そうする。……っと、久我さんは、そんなに親しいってわけでもなかったんだけど、神音さんと一緒の映画に出た時、色々お世話になったからさ。理晨さんも?」
「あー、まぁ、大方同じだ。ってことは、あんたもこの依頼を受けに来たんだな?」
「そういうこと」
瑠意の言葉に、理晨は依頼書を指先で弾いた。
ぱしん、という軽い音がする。
「よし、とりあえず捜索人員四名確保だな」
「四名?」
「俺と、あんたと、神音と、リオネ」
「あ、依頼人って言うだけじゃなくて、リオネちゃんも探してくれるんだ。そっか……よろしく、リオネちゃん」
「うん、リオネ、じんねさんが大好きなひとにあえるようにがんばるね」
床に膝をつき、目線を合わせた瑠意が微笑むと、リオネは頬を紅潮させて頷いた。
「うん……頼りにしてる」
瑠意の眼差しは限りなく優しい。
そういう青年なのだろうと理晨は思った。
「よし、じゃあどうする? 俺は知り合いの情報屋を当たってみようかと思うんだが……」
「俺はあちこちに実体化してる『世界』を探してみたらどうかなぁって。結構広いところ、多いからさ。最近だったら、ダイノランドとか、温泉郷とか、鉄塊都市とか。……しかし理晨さん、情報屋にツテとかあるんだ」
「ん? ああ、仕事柄、な」
「仕事柄……って、理晨さん、俳優だよな?」
「あー、まぁ、一応は」
「一応って……」
理晨の、もうひとつの本業については知らないのか、不思議そうに首を傾げる瑠意に、軽く肩をすくめてみせつつ、理晨はともかく、と続ける。
「打てる手はさっさと打っちまおうぜ、どんな事情か知らねぇけど、早いとこ見つけてやりてぇし」
「あ、うん」
と、瑠意が同意する。
その時、
「あの……」
中性的で静かな声が脇から響き、少女と見紛う美しい青年が顔を覗かせた。
手には、分厚い冊子を持っている。
「あれ、白亜(はくあ)さん」
瑠意はどうやら彼と知己であるらしい。
「スター用のガイドブック、もらいに来たんだ?」
瑠意が問うと、白亜と呼ばれた青年はこくりと頷き、
「……話が聞こえて、つい来てしまったのだが」
その場に集った一堂をくるりと見渡した。
「私もお手伝いしても、構わないだろうか。お節介と言われるかもしれないが、放っておけないと思って」
「いや、普通にありがたいけど……他に用事とかないんだ?」
「ええと……その、今日は月曜日でも金曜日でもないから……」
「……ああ」
遠い目をしながら言う白亜と、目をそらしつつすべてを納得した表情をする瑠意。
理晨には何のことか判らなかったが、多分、突っ込んでは尋ねない方がいいことなのだろう。
「じゃあ、人員五名確保だな。出来れば、少なくともあと二三人はほしいとこだが……」
銀幕市をくまなく探そうと思ったら、実際には十倍二十倍ほしいというのが正直なところだが、さすがにそれは無理だろうから、地道にやるしかない。
「人間が迷い込みそうな場所をしらみつぶしに探すとしたら……どこからが適当だろうな」
「うーん、やっぱ鉄塊都市? あそこ、死ぬほど広いし」
「私は、市内の病院を当たってみるのはどうかと」
「なるほど、意識不明で担ぎ込まれて長期入院、とかそういう事態もあり得るわけだしな」
「それから……もしかしたら、記憶をなくしているのではないかと」
「あー、それも可能性がないとは言い切れねぇな」
「鉄塊都市だけでなく、銀幕市もまた充分すぎるほど広い。記憶を失った状態でどこかへ迷い込めば、連絡なども一切出来ないだろうし」
「……確かに」
ではまず第一の捜索先はこの市役所の地下空間か、と思案していた理晨は、
「あれ?」
瑠意がきょろきょろと周囲を見渡したので、首を傾げて彼を見遣った。
「どうした、瑠意」
「いや……何か、騒がしくない?」
言われてみれば、役所内がざわざわしている。
「なんだ、何かあったのか」
理晨が周囲を見渡すと同時に、ばたばたばたっ、という派手な足音が聞こえたかと思うと、
「いやーん、くるたんにキズモノにされちゃうぅ〜っ」
何やら色々と不穏当な言葉を含んだ声が対策課中に響き渡り、
「誰がくるたんだ、何がキズモノだこの有害物質! 今すぐ粉々に砕けて詫びろ、主にオレに!」
次の瞬間には、対策課に走り込んできた灰色の髪と青い目の青年を、黒髪に赤い眼をした中性的な面立ちの青年が追い回すという珍事が展開される。
「何やってんだ、あいつら……」
瑠意が呆れたようにこぼし、片手で顔を覆った。
理晨は、それらを呆気に取られて見つめながら、銀幕市って面白ぇとこだなぁ、などと他人事のように思っていた。
2.賑やかに、捜索開始
「いやー、ホント危なかったぜ。危うくそこのムービースターにお嫁に行けねぇカラダにされちまうとこだった」
「誰がムービースターで誰が嫁に行くんだッ!」
「ちょっと、」
「いってぇっ!? 幾らオレがドMだからって、くるたんちょっと本気で殴りすぎよ!?」
「うるせぇ、くるたんじゃねぇっつってんだろこのアホルイス!」
「ふたりとも、」
「えー、だってくるたんはくるたんじゃーん?」
「本気で潰すぞ……!?」
「人の話を、」
「いやん、潰すだなんて、ルイス、ドキドキしちゃう……ッ★」
「駄目だ、今忍耐とか堪忍袋の緒とかそういうのが軒並み切れる音がした、殺る」
「だからな、」
「きゃー、誰か助けてえー、くるたんに殺されるうー」
「あああマジでムカつく今すぐ肉塊になれ……!」
「……」
ぶち。
「いいからお前らちょっと黙ろう、な?」
片山瑠意は、爽やかに黒い笑顔で、今この場で殺し合いを始めようとしているルイス・キリングと来栖香介の頭を鷲掴みにした。
百近い(最近色々あったので、下手をするとそれを遥かに超えているかもしれない)握力を持つ彼の全力鷲掴みは、局地的ムービーハザード扱いされているルイスにも、実はムービースターなんじゃないかと疑われている香介にも相当なインパクトだったようで、
「いたたたたたたッ!? ちょっとるいーん、なにすんの!?」
「ちょ、待、何でオレはあんたに頭蓋を割られそうになんなきゃいけねぇんだ……!?」
睨み合いをやめたふたりが各自めいめいに抗議の声を上げる。
瑠意はにっこり笑って交互にふたりを見比べた。
もちろん、両手はまだ、ふたりの頭を絶賛締め付け中だ。
「そんなの決まってるじゃないか」
「え」
「何がだよ……?」
「俺の話を聞こうとしないなんて、万死に値するからだろ?」
「……」
「……」
欠片ほどの躊躇いもなく瑠意が断言すると、沈黙したふたりがあさっての方角を見遣る。
「ええと……その、なんていうか、すみませんでした……」
「うん、なんか色々と釈然とはしねぇけど、とりあえずオレが悪かったことにしとく……」
「判ればよろしい」
瑠意は爽やかなのに黒さ含有率100%の笑顔とともに頷き、ふたりの頭から手を放した。納得が行かない表情で、ルイスと香介が、ぶつぶつと何やらつぶやきながら瑠意から距離を取る。
それを、理晨たちが不思議そうに見ていた。
とはいえ、普段の……本来の片山瑠意はこういう人間なのだ。若干数名の――特に、某杵間山に住まう某一名が顕著だ――特別な存在が絡むと、「可愛らしい」と言われてしまうだけで。
「えーと、それで何だって、るいーん? そもそもあんたたちって何でここに集まってんだ? 白亜にリオネに……あんたは理月? じゃねぇよな。肌の色がちょっと違うし」
「まぁ、その中身ってヤツだな。あんたはルイスだろ。活躍、ジャーナルで拝見してるぜ」
「あ、なんかカツヤクハイケンのとこに微妙なニュアンスが……」
「当然だろこの視覚災害的ムービースターめ」
「やだわくるたんったら、自分だって同じムービースターじゃないのっ」
「え、マジで? 歌手の来栖香介じゃなくて、ムービースターの来栖香介? 実体化してたんだ、知らなかった」
「ムービースターじゃねぇッ! そんでそっちのあんたも真に受けんなッ!」
吠えた香介が臨戦態勢を取り、ルイスが全身をくねらせて、いやん怖いわ、などと言いながらしなを作ったが、双方、瑠意の眉間に皺が寄ったのを見てすぐにそれを解除する。
ルイスも香介も、瑠意が怒らせると怖い人間だということを、身を持って理解しているからだろう。
「ええと、話を戻すと、何……なんの集まり? 何か依頼って出てたっけ?」
瑠意に戦々恐々としつつも首を傾げるルイスに、瑠意は依頼書を手渡した。
あ、どうも、などと言いながらそれを受け取ったルイスは、内容をざっと読んだあと、頷いた。
「なるほど、じゃあ、神音のマネージャーを探してるんだ?」
「そういうこと。じゃあルイスと香介も参加決定な」
「え、いやあの、」
「ちょっと待て瑠意、」
「決定な?」
「……はい判りました、判りましたから頭蓋骨を握り締めるのやめてもらえませんか片山さん」
「判った判った、どうせ暇だし手伝う! これでいいんだろ!?」
またしても頭を鷲掴みにされて、ルイスと香介が半強制的に仲間に加わる。
瑠意は満足げに頷いて手を放した。
「ったく……暴力的なんだから、るいーんったら。あの人に言いつけちゃうぞっ?」
「何か言ったか、ルイス?」
「イーエ、キノセイネ。ボクナニモイッテナイヨ」
何故かカタコトになったルイスがあさっての方向を見て口笛を吹く。
それを横目に、大袈裟な溜め息をついた香介の、真紅の眼差しが神音へ向かう。
神音がほんの少し目を細めて香介を見遣った。
「久しぶりだな、来栖香介」
「ん、ああ。そっか、神音って、あんたか。声聴くまで判んなかったわ」
「……きみらしいな」
「あれ、香介と神音さんって、知り合い?」
「まぁ……仕事で何度か、な」
「映画主題歌用の楽曲を幾つか提供してもらったことがある」
「ああ、なるほど。んじゃ久我さんのことも知ってるんだ?」
「んー、正直あんま覚えてねーな。あー、じゃあオレ、萩堂にも言って音楽関係の知り合い当たるわ。なんか知ってるヤツがいるかもしんねーし」
言った香介が携帯電話を取り出す。
「でも」
冷徹な視線が神音を見据える。
「何かに巻き込まれた可能性は否定できねぇんじゃねーの? 覚悟は必要かもしんねーぜ?」
「香介、あのな……」
容赦や配慮というものを知らない香介の言葉に瑠意は呆れた。
もちろん、瑠意とてそれをわずかにでも思わなかったと言えば嘘になる。
今の銀幕市には――否、銀幕市でなくとも――、それほど危険が多い。
とはいえそれを口にせず、まず希望的な方面からアプローチするのが大人と言うものだろうと思うのだが、瑠意には、残念ながら香介にそういうものを求めたところで無駄だということも判る。
「すみません神音さん、こいつ、ストレートすぎるから」
「……いや」
神音は微苦笑とともに首を横に振る。
「人間の――生命の行き先は、常に我々の思いの範疇を越える。それは、理解している」
「……はい」
瑠意もまた苦笑するしかない。
ままならぬものをこそ、生命と言うのではないかとすら思うからだ。
すると、リオネが神音の手をぎゅっと握った。
「でも、リオネは、じんねさんをおにいちゃんに会わせてあげたいよ。おにいちゃんにぶじでいてほしいよ」
視線が俯く。
己が犯した罪を思ってか、久我が戻らなかったときの神音の哀しみを思ってか、薔薇色の小さな唇がきゅっと引き結ばれた。
瑠意は微笑してリオネの頭を撫でる。
「……そうだね」
神の子は神の子なりに、ヒトの世の枠に己を当てはめて、償うべき何かを模索している。それはつたなく危なっかしいが、そのどれもが、彼女が誰かのために何かしたいと願い、何かしなくてはならないと決意しての、全身全霊での努力なのだ。
そう思うと、協力するしかないだろうと思ってしまう。
「よしっ!」
唐突に声を上げたのは、依頼書を熟読していたルイスだ。
「リオネには、ルイスお兄ちゃんが重要な任務を与えよう!」
「にんむ? おしごとのこと?」
「そうだ、すんげー大事な仕事だから、頑張ってくれよ?」
「うん、リオネ、がんばる。なにをしたらいいの?」
「ああ、ちょっと待ってくれよ」
と、対策課窓口にて様々な道具を借り、器用な手つきでルイスが作成したのは、久我の写真と連絡先が入った、尋ね人のビラだった。
ルイスは、紙束を重過ぎない程度にリオネへ手渡しながら、『任務』の内容をリオネに説明している。
「これを、なるべく人の多いところで、色んなヒトに配るんだ。そしたら、久我のことを知ってるヤツが、何か教えてくれるかもしれないだろ?」
「……うん」
紙束を受け取ったリオネが、責任感に頬を紅潮させて頷くのを笑って見つめながら、ルイスが一同をぐるりと見渡す。
「オレ、他にも行くところがあるし、頼みたいこともあるから、まずリオネと一緒にミッドタウン方面でビラ配りするわ」
「了解。じゃあ俺は、白亜さんと一緒に鉄塊都市と市内の病院を当たる。白亜さん、それでOK?」
「ああ、構わない」
「香介は?」
「俺は単独行動でいい。萩堂にサポートさせて、あちこち探る」
「なら、俺は神音と一緒に行くかな。情報屋を回ってから、人間が迷い込めそうな場所を探すわ。神音、それで構わねぇよな?」
「ああ」
「お互いに共通認識は持っておいた方がいいだろうし、一時間ごとに連絡を取り合うようにしようか。あ、俺の携帯番号、これだから」
「ほいほい了解……って、るいーんのケータイ、シルバーカラーなんだなぁ。……どこかの誰かさんを想像しちゃったのって、オレだけ?」
「……ルイス、鼻フックの刑とフェイスハガーの刑、どっちがいい?」
「ええと、出来ればどっちも遠慮したいです……」
と、一部愉快なやり取りの後、携帯電話の番号を交換し、それぞれ、めいめいに行動を開始する。
願わくは、望むような、よい結果が得られるように、と、思いつつ。
3.結末を探して
ジョシュア・フォルシウスは、大ヒット映画『Hunter of Vermilion』で、ダークヒーロー、シャノン・ヴォルムスを演じ、一躍スターダムにのし上がることとなった、新進気鋭の若手俳優である。
それゆえ、かなりの親日家であるジョシュアが銀幕市に滞在していることや、街を歩く彼に、憧憬と羨望のこもった熱烈な眼差しが注がれていることは、けっして不可解な出来事ではなかった。
熱い視線に関しては、唐突にスターの仲間入りをしてしまったために、初めは戸惑うことも多かったジョシュアも、最近では、少し、耐性が出来てきている。そうでなくては、俳優としてやっていけない。
「あれは……」
周囲は気にしないようにしながら、気ままな散歩を続けるジョシュアは、パニックシネマの近くを通りかかった辺りで、何かのビラを配る異色の取り合わせと行き逢った。
片方は、背の高い、浅黒い肌の青年。
もう片方は、ふわふわの銀髪の、愛くるしい少女。
ジョシュアは、双方に見覚えがあった。
半吸血鬼の青年ルイス・キリングと、神の子リオネだ。
とはいえ、銀幕ジャーナルを通してのことなので、ふたりはジョシュアのことを知るまいが。
ふたりは、誰かの顔写真が印刷されたビラを、道行く人々、物珍しげに近寄ってくる人々に配っては、よろしくお願いします、と頭を下げていた。
興味を覚えたジョシュアがふたりに近付き、
「突然すみません、何をしてらっしゃるんですか?」
と、声をかけると、ぱっと振り向いた青年は、
「……お兄さま。どうした、こんなとこで?」
不思議そうな顔をして首を傾げた。
ああ、間違われているな、と思いつつ、ジョシュアは笑顔で首を横に振る。
「私は『お兄さま』ではありませんが。あなたがたが何をなさっているのか、少々気になりまして」
親日家のジョシュアは日本語が非常に堪能で、敬語も丁寧語もバッチリだ。
演じた役柄とは違い、非常に穏やかで真面目な性格のジョシュアは、日本ではこの丁寧語を貫いているのだが、それを聞いたルイス・キリングの顔から血の気が引く。
「お……お兄さま!? い、いったいどうしたんだ、何か悪いものでも食べちゃったのか……!? あ、そうか、もしかして、肉ばっかり食ってる所為で頭の血の巡りが悪くなったとか!? だ……だからあれほど野菜も食えって言ったのに……!」
ドン引き、と言うのが相応しい表情で、一歩後ずさったルイスの言葉に、一体自分の演じたあのヴァンパイアハンターはどういう生活を営んでいるのかと素朴な疑問が湧くが、今はおいておき、ひとまず誤解を解くことにする。
「それは、シャノン・ヴォルムスのことでしょう。私は、彼を演じた俳優です。名をジョシュア・フォルシウスと。――どうぞお見知りおきを」
穏やかに名乗り、一礼すると、ルイスが酢を飲んだような表情をした。
「あー……なるほど、理晨さんと理月みたいなもんか、納得。いやでも、あのふたりはあんま変わらねぇもんなぁ。はー、あまりのギャップに胃が引っ繰り返るかと思ったぜ……」
やれやれとばかりに首を横に振る彼と、シャノンの関係がどういうものなのか、大変気になるところだが、ジョシュアの興味は、それよりも、ふたりが今何をしているのか、だったので、この件に関してはスルーした。
「それで……一体何をしておられるんですか?」
再度ジョシュアが問うと、彼にビラを差し出し、リオネが答えてくれた。
「あのね、じんねさんの大切なひとを探すおてつだいをしているの」
「じんね? それはもしかして……歌手の神音ですか?」
「そう。おにいちゃん、しってるの?」
「はい、実は、個人的に彼のファンなのです。CDもたくさん持っていますよ」
言いながら、ビラの文字に目を落とすと、神音の日本におけるマネージャー、久我正登が行方不明だということと、彼に関する情報を求めている旨とを知ることが出来た。
ジョシュアは、神音の歌声とメロディとを脳裏に思い浮かべながらしばし考え込み、
「……私もこの件に関わらせていただいてもよろしいでしょうか? 神音のいちファンとして、彼の憂いを取り除いて差し上げたいのです」
ふたりにそう提案した。
ルイスとリオネが顔を見合わせて笑い、頷く。
「ありがとう、おにいちゃん」
「もちろん、大歓迎だぜ。何せ銀幕市は広いからさ、人手なんか幾らあったって足りねぇんだわ」
ジョシュアはありがとうございます、と笑って、ルイスから紙束を受け取った。
ヒット映画に出演した有名俳優であるジョシュアがビラ配りに加わると、効果は覿面で、こちらを興味深げに伺うだけだった野次馬までがビラを受け取りに来てくれるようになった。
そのため、位置を変えながらビラ配りを続けること小一時間、ビラがすべてなくなった頃には、幾つかの情報を得ることが出来た。パニックシネマを中心とした賑やかな地域、映画関係者や音楽関係者も多く行き来する場所で情報提供を求めたお陰かもしれない。
曰く、久我正登を複数の人間がベイエリア付近で目撃している。
曰く、そのときの久我正登は、熱に浮かされたかのような定まらぬ目つきで、ふらふらと歩いていた。
曰く、行方不明になる少し前の久我正登は、様子がおかしかった。
曰く、思いつめたような眼差しで、バッキーに向かって独り言を言っていることが多かった。
曰く、彼の連れていたバッキーもまた、行方が知れない。
それらを足し算して、導き出される結果は、どれも冴えないものばかりだ。
長い時間立ちっ放しでビラ配りをした所為で疲れたのだろう、ジョシュアの腕の中でうとうとしているリオネには、なかなか聞かせ難い結末が導き出されつつある。
「……正直、あんまり励みになる情報じゃねぇよなぁ」
うーん、と唸りながらルイスが考え込む。
ジョシュアは頷いた。
「しかし……諦めるわけにもいかないでしょう」
「いや、うん、それはそうなんだけどさ」
「マネージャーが不在というのは仕事に支障をきたす可能性もありますし、ましてや家族同然の付き合いがあるのなら尚更見つけ出さなければならないでしょうね。……それに、精神的な問題もあるでしょうから」
「そうだな、やっぱ、いて普通、ってヤツがいなくなるってのは、大きいと思う。オレだって、同じ立場になったら落ち着かねぇだろうなぁ」
ルイスがしみじみと言う。
ジョシュアはそうですね、と返し、
「最初は、誘拐かと思ったのですが」
小さく呟く。
「今回集まった情報を元に考えてみると、ただの誘拐、ただの失踪事件ではないようです。油断は出来ないということですかね」
「だろうな。なーんか、キナ臭いにおいがする」
「何かの事件に巻き込まれた……という感じでしょうか。誘拐されたにしても要求がまったくないというのもおかしな話です」
「だよなぁ。うーん、とりあえず、裏関連でちょっと探り入れるかー」
がしがしと髪を掻き回したルイスが、携帯電話を取り出す。
「えーと……陳(チャオ)は……っと」
コール数回で、相手が出たようだった。
「あ、もしもし、『導遊公司・蜜蜂』? あ、店長? そうです、ルゥでっす。えーと、ちょっと訊きたいことがあるんだけど……今日、三谷さんって来てるかなぁ?」
答えは是。
しばらくすると、漏れてくる声の質が変わる。
ジョシュアは、ルイスが、三谷と言う男を宥めたりすかしたり時には脅したりしているのを聞くともなしに聞きながら、自分にしがみつくように眠るリオネを見つめた。
そして、どのような結果になろうとも事件の顛末はハッキリとさせておいた方がいいだろう、と思う。
それが悲劇的なものなのか、よい結果なのか、どちらになるかはまだ判らないが、覚悟は必要だろうとも思う。
もちろん、神音を――そしてリオネを安心させることができる結果を望みはするが、いつでも自分たちが思い描いた通りの結末になるとは限らないのが、世界であり、運命であるのだから。
と、
「ありがとうございます、三谷さん。ええ……このお礼は、いずれ必ず」
ものすごい営業スマイルとともにルイスが電源を切る。
「……どうでしたか」
「んー、地元のヤクザにも、ヴィランズの組織にも、久我らしき兄ちゃんを拉致ったって連中はいないみたいだなぁ」
「そうですか……と、いうことは」
「ムービーハザードに巻き込まれたか、モンスター系のヴィランズに何かされた、って可能性が高いか?」
「となると……普通の情報網では、なかなか掴み難そうですね。他に何か、ツテや心当たりはあるんですか?」
ジョシュアの問いに、ルイスは何故か遠い目をした。
青い目が、ジョシュアに抱かれて眠るリオネに向けられる。
「まぁ……リオネがいてくれりゃ、何とかなる、か……?」
虎穴に入らずんば虎子を得ず、とも言うし……などとぶつぶつつぶやいてから、
「よし、じゃあジョシュア、ちょっと付き合ってくれ。他の情報網に関しては、ひとつ、心当たりがあるんだ」
ルイスがジョシュアをいざなう。
ジョシュアは頷き、ルイスの隣に並んだ。
いやな予感は確かにするが、それで投げ出すわけには、行かない。
4.不吉な喜悦
「あー、なるほど、そっか。判った、じゃあ次当たれ」
ものすごく自然に命令形でものを言い、香介は携帯電話の電源を切った。
「これも手がかりなし、と……」
依頼書の裏にこしらえた即席メモの、心当たり一覧からそれを消し、
「さて、次はどーすっかなー」
何ごともなかったように呟いて、四つん這いでそそくさと逃げ出そうとしていた男の背中を踏ん付け、「ぐぇ」という愉快な声が漏れる中、体重をかけて容赦なく動きを封じる。
「ちょ、苦し……」
じたばたともがく男の背中に半ば乗りながら、香介は身をかがめた。
「ん? ああ、悪ィ、ゴキブリかと思って、つい」
薄く目を細め、唇の端を吊り上げて笑う香介は、端正で中性的な面立ちにも関わらず、凶悪でタチの悪い雰囲気を醸し出している。
来栖香介をよく知るものなら、それが彼の本性で真実だ、と言ったかもしれない。
「そんで、どーなんだよ? なんか知ってんのか、知らねーのか」
真紅の目が、冷酷な愉悦を孕んだ。
「知ってんのに黙ってる、なァんてふざけたマネは、してねぇよな?」
ぐっ、と、背中を踏む足に力を込める。
男が情けない悲鳴を上げた。
「判った、言う! 言うから、脚を退けろ!」
「退けろ、だァ?」
「うううすみません、脚を退けてくださいっ」
ごついブーツに背を踏み躙られて、自分の倍は生きていると思しき男が、涙声で哀願する。
香介は嗤って脚を退けた。
「大体、逃げるよーなことじゃねぇだろ。一歌手の、一マネージャーを探してる、ってだけのことじゃねーかよ」
「い、いや、それは、だから」
なァ? と問うと、男は不自然に目をそらした。
どうせ別件で、香介を目の敵にしている連中から、香介を追い落とすか貶めるための何かを受けているのだろう、あいつらも懲りねーな、などと思いつつ、香介はそれで? と続けた。
「久我の情報。何でもいい、持ってるモン全部出せ。そうしたらとりあえず見逃してやる」
傲然とした物言いに男はものすごく不本意な顔をしたが――何せ痛い目に遭わされた上、大事な『商品』をタダで盗って行かれそうになっているのだ――、うっすらと嗤った香介が足を上げて見せると、泣きそうな表情で肩を落とし、口を開いた。
「久我正登が消息を絶ったのは今年の一月。詳細には、一月二十日だろうと推測される。最後の目撃者が久我を見たのがその日だからだ」
「場所は?」
「ベイエリアの西、工業地帯の一角だ」
「一角?」
「工業地帯南端の、廃工場が連なった辺りだな」
「同行者の有無」
「なかったようだ。ひとりで、ふらふらと歩いているのを見た、っていう証言があちこちから出た」
「……工業地帯に、ひとりで、ふらふらと? 何をしに行ったんだ?」
「そういう質問をする細かい客がいるだろうと思って、一応調べには行ったが、特に何もなかった。廃工場のちょっとした隙間なんかも見てみたが……人間が迷い込んだり、出られなくなったりしている様子はなかったな」
「なるほど」
「ただ」
「あん?」
「あの辺りなんだが……どうも、ちょくちょく行方不明者が出ているらしい。若い男女が、久我と同じく、ふらふらと入り込んで、それきり出て来ないんだと」
「何でだ」
「そこまでは判らなかった。何も痕跡が残っていないから、普通の人間の仕業じゃないんじゃないかと言われてる」
「……ヴィランズの仕業、か?」
「恐らく。しかも、組織立った行動をするような、ヒトガタの連中じゃない可能性が高い」
そこで言葉を切り、男は戦々恐々とした表情で香介を見上げた。
「手持ちの情報は全部出したぞ、これでいいだろう?」
「本当に、全部だな? あとで嘘だと判ったら全力で潰しにいくからな?」
「本当だ、嘘じゃない!」
「ふん……まァ、いいだろ。行っていいぜ」
軽く肩をすくめた香介が、虫でも払うような仕草をすると、男はほうほうの態でそそくさとその場から立ち去った。
ひとり、その場に佇み、香介は沈黙とともに思案する。
「行方不明者をちょくちょく出すようなヴィランズ……な」
先ほどまで醒めていた香介の赤眼には、今は凶悪な愉悦が漂っている。
正直、神音のことも、神音のマネージャーのことも、どうでもいい。
仕事に関するすべてに香介は冷淡だし、興味もない。
自分のマネージャーである萩堂を思い、あいつでも黙っていなくなりはしねぇよな、確かにアイツいなくなったら困るけど……でもここまで頑張って探しはしねぇな、などと非道なことを考えただけだ。
しかし、
「久々に暴れられる、か……?」
そこに戦闘が待っているかもしれないとなれば、話は別だ。
「行ってみるか」
一時間ごとに連絡を、と言われたのを思い出し、面倒臭いと心底思ったが、瑠意にもう一度頭を鷲掴みにされるのは嫌なので――香介は、何せ思う存分迂闊に生きているので、腹黒い人々にはどうも弱いのだ――、先刻得た情報と、工業地帯南端へ向かうという旨をメールしておく。
「……楽しみだ、な……?」
携帯電話を仕舞い込み、歩き出す。
薄い唇には、くっきりとした喜悦が刻まれていた。
5.『楽園』にて
薄野鎮(すすきの・まもる)は、別件で市役所を訪れた際、その依頼のことを知った。
他の参加者がそうであるように、放っておけないと感じて後を追い、現在、他の参加者ともども、何故か『楽園』にて一堂に会している。
来栖香介だけは不在だったが、恐らく、後ほど合流することになるだろう。
「ええと、あの、それで……」
もごもごと言うのは、ルイス・キリングだ。
彼は、きょとんとした表情をしているリオネの背後で、大きな身体を縮こまらせ、恐る恐る顔を覗かせている。
あれは、隠れているつもりなのだろうか。
しかし、実を言うと、ルイスの緊張も判らなくもない。
――彼らの前には、カフェ『楽園』のオーナーにして偉大なる神代の女王たるレーギーナがいて、穏やかで美しい笑みを浮かべているのだ。
鎮は、正直に言うと、すでに女装に対する抵抗も薄れてしまっているうえ甘いものが大好きなので、『楽園』に対する屈託や恐怖感はないのだが、恐らく、男としての大切な何かを捨てられない人々には、少々ハードルの高い場所だろうとも思う。
「それで、どうだった、薄野さん」
蛇に睨まれた蛙状態で固まっているルイスを尻目に、瑠意が鎮に声をかける。
鎮は首を横に振った。
ちらり、と、神音を見遣る。
自分よりわずかに年上のように見えるが、性別と同じく幾つとは計り難い、独特の雰囲気を持った褐色の面は、特別な感情を何も宿してはいない。
「地獄の方にも顔を出してみましたけど……やっぱり、手がかりはなし、でした」
「そっか……鉄塊都市にも、病院関係にも訪ねてみたけど、該当者はいなかったし……」
「だったら、やっぱり、ルイスさんと来栖さんが言う、廃工場が怪しい、かな?」
「うん、俺もそう思う。あ、でも」
「どうしたんですか?」
「ああ、うん、失踪と直接関係あるのかどうかは判らないけど、久我さん、いなくなる直前まで、心療内科に通ってたらしいんだ」
「心療内科ですか……何故?」
「主治医はもちろん教えてくれなかったけど、久我さんの友達に訊いてみたら、ひどい幻聴に見舞われていたらしいよ。頭の中で、碌でもないことを囁く声がする、って、すごく苦しんでたって」
「碌でもないこと?」
「それは、誰にも教えなかったみたいだけど。廃工場付近で目撃された彼も、熱に浮かされたような状態だったらしいし……もしかして、何かに操られてた、とか?」
「ああ、それもありえますよね。……とりあえず、今、友人たちにあの周辺を調査してもらってますから、詳しいことが判り次第、そちらに向かいましょうか」
「うん、そうだな。香介のことも気になるし。……しかしあいつ、本当に単独行動が好きなんだからなぁ」
やれやれといった風情で呟く瑠意に苦笑し、鎮は他の面子の様子を伺った。
ルイスはリオネの背後に隠れて絶賛硬直中、女王はそれを面白そうに観察中。
理晨とジョシュアは何やら話し込んでいて、白亜は森の娘たちに囲まれて視線を泳がせている。
なかなかに個性的な状況だが、そこに確かに満ちるのは、ぴりりとした緊張感だった。
誰もが、今この時に及んで、『いやな予感』以上の何かを感じ取っていた。
恐らく、彼らの向かう先には何かが待っている。
彼らに対して友好的ではない何かが。
「判ったわ」
不意に、女王レーギーナがにっこりと微笑んで、言った。
「わたくしも情報集めに協力させていただくわ。リオネさんに頼まれたというのもあるし、亜子さんは当然として、ルシーダさんと瑠衣香さん、香子さんも、メイドさんの格好をして働いてくださるそうだから。素敵なご褒美よね」
「って、なに本人の意志を無視した『ご褒美』についてうっとり語ってるんですか、レーギーナさん!? そこのアホルイスも、そんな約束に話持って行かれてんじゃねぇぞ!?」
「え、えええっ!? いやあの、オレひとっこともそんな約束してないんですけど……!?」
「ええと、あの、私は当然なのかと問うてもいいだろうか……!?」
「理晨さんとジョシュアさんにも是非お願いしてみたいけど……それはまたの機会に、ね」
「へ? 何、何の話だ? ジョシュア、あんた聞いてたか?」
「いえ、すみません、聞き逃しました。何の話でしたか?」
「いいえ、何でもないわ。いずれまた……ね」
「ああ、うん、判った、じゃあそのうち?」
「うわあ、フラグ立っちまった人がいる……ってか、だったら薄野に頼めばいいじゃん! ホラ、彼ってもう女装のエキスパートだし!」
妙に必死なルイスに指差され、鎮は苦笑した。
女装に対する忌避感はなくなってしまっているので、それで女王の助力が得られるのなら、と普通に納得してしまうが、女王はにっこりと笑って首を横に振った。
「エキスパートだからこそ、駄目なのよ」
「何で!? それどういう理屈っ!?」
「薄野さんには、他にも、色々な場所で活躍していただかなくてはならないもの。もちろん、時間が許せばとは思うけれど……彼の美しさを、『楽園』だけで独占することは出来ないわ」
「そ、そういうもの、なのか……!?」
「ええ、そうよ、瑠衣香さん。だから、もしかしたら、あなたもいずれ、『楽園』から世界へ羽ばたくことになるのかもしれないわね」
「いやいやいや、羽ばたいちゃったらまずいですし、俺!」
交互に目を剥くルイスと瑠意の抗議の声を軽くスルーし、微笑とともに見つめた後、女王は、
「では……少し、お待ちいただけるかしら? 植物たちに、尋ねてみるわ」
そう断って、目を閉じた。
――それだけ見ていたら、普通の美しい女性なのだが。
魂を抜かれたような、真っ白に燃え尽きたような表情をしているルイスと瑠意と白亜に、強く生きてくださいなどと、胸中で他人事そのものの激励をしながら、鎮は女王の返事を待った。
「お、」
不意に声を上げたのは、理晨だ。
「どうしました、理晨さん?」
「いや、ほら、見てみろよ、ジョシュア」
理晨が指差す先には、ふたりにそっくりの顔立ちをしたムービースターを含む数名が、盛大に及び腰になりながら、森の娘の筆頭・リーリウムと何かを話している。そのうちの何人かは物珍しげに周囲を見ているから、『楽園』未体験者だろう。
「……おや」
ジョシュアが微笑んだ。
途中、漆黒の傭兵が不思議そうにこちらを見たが、そのときには理晨は、物陰に隠れていた。
漆黒の傭兵が首を傾げるのが見える。
ジョシュアがくすくすと笑った。
「理晨さんは、まだ彼とは会っていないのですか?」
「ん、ああ。なんか、気恥ずかしくてさ」
「ああ、その気持ちは、判ります」
鎮は俳優ではないので、自分の演じた登場人物が実体化したくすぐったさは判らないが、自宅に何人ものムービースターたちを住まわせ、家族同然に暮らしていることから、彼らが自分たちの半身に向ける思いを理解することは出来る。
鎮もまた、夢の化身だからとか、人間とは違う存在だから、本当は命ではないから、歪んでいるから、そんなことはまったく関係なく、単純に、ずっと彼らと一緒にいられたらいいと思うからだ。
それだけの思い、願いのために、日々を忙しく過ごしているからだ。
――唐突に携帯電話の着信音が鳴り響いた。
発信者は、彼の家に同居している、殺し屋の男。
彼は、忍の男とともに、工業地帯を探っていたのだ。
「ああ、僕だよ、どうだった? ……そうか。じゃあ、結界のようなものが張られてる、ってこと? 彼がそう言ってるんだね、判った、ありがとう。いや、いいよ、僕たちが行く。うん、だから、家のこと、よろしく」
彼が、居候たちを充分に労って、携帯電話を切ったのと、
「工業地帯の南端、もとは鉄工所だった廃墟。入り口は、工場中央の大部屋、左隅にある小さな棘。『餌』は夢うつつに訪れてその棘を押し、中へと招き入れられる」
目を開いた女王が、歌うようにそう言ったのはほぼ同時だった。
「主の名は【闇黒の糸】。ヒトの精気を啜って生きる、魔性のもの。――どうやら、『巣』に『餌』を溜め込む癖があるようね」
「じゃあ……そこに久我さんたちが?」
「そうね、おそらくは。わたくしのツタは、『餌』ではないから、周囲の空気や植物たちにものをたずねることは出来ても、中は入れなかったの」
「そうですか。でも……これで、必要な情報は揃いました。ありがとう、レーギーナさん」
「いいえ、瑠意さん。どうせ皆で行かれるのでしょう? どうぞお気をつけて」
「はい」
瑠意が、ずっと手にしていた細長い何かから白い布をはがす。
そこには、美しい剣が収まっていて、強烈に自己主張をしているようだった。
武器を目にするに当たって、一同の間を、緊迫した空気が流れる。
「まず間違いなく危険だから、慣れてない人は残った方がいい」
「……って、誰がだよ?」
肩をすくめる理晨は、いつの間にか、大ぶりのナイフを弄んでいる。
「ええと……神音さんは?」
「腐ってもアクション俳優だ、実戦的に鍛えているから、身を守るくらいは出来る」
「でも、やっぱり危ないし……」
「……出来ることなら、自分で迎えに行ってやりたい」
「あー……」
そう言われてしまえば、瑠意も黙るしかないだろう。
鎮はくすりと笑って、ディレクターズカッターの調子を確かめた。
ウェイトの軽い鎮は、自分がそれほど戦闘に向いているとは思わないが、手助けくらいは出来るだろうとも思う。
「レーギーナさん、リオネさんをお願いします。傷つく恐れはないと判っていても、心配ですので」
「ええ、判ったわ、ジョシュアさん。あなたも、気をつけて」
「……はい」
女王がリオネを手招きし、椅子に座らせる。
「リオネさん、ここで、わたくしたちと一緒に、彼らの帰りを待ちましょう。彼らの無事を、一緒に信じましょう」
リオネは頷き、不安と信頼との入り混じった眼差しで男たちを見上げた。
「きをつけてね。みんな、ぶじにかえってきてね。リオネ、ここで待ってるから。ずっと待ってるからね」
彼女を安心させるように、めいめいに頷き、微笑んだ後、それぞれに踵を返す。
対決の時は間近に迫っていた。
6.Song for
「なぁなぁ」
足早に工業地帯へと向かう道中。
張り詰める空気の中、飄々と響くのは、理晨の声だ。
「……どうした」
返る神音の声もまた、静かだった。
「こんな時に何言ってんだ、って怒られるかもしれねぇけど」
「ああ」
「あれ歌ってくれよ、あれ。俺、あの歌が世界で一番綺麗だと思うんだよな。……親馬鹿? って笑うなよな」
「『あれ』? ……ああ、『In This World』か、『ムーンシェイド』主題歌の」
「うん。景気づけ……には、ちょっと、ならねぇかもしれねぇけど」
「……そうか」
理晨のリクエストに神音が頷き、小さく息を吸い込んだ。
白亜は期待の眼差しで神音を見遣る。
神音が著名な歌手だと知って、実は、事件がすべて解決したら、歌を一曲所望しようと思っていたのだ。
それが少し早めに叶って、ならば尚更励まねば、と、白亜は耳を澄ませながら思う。
「I was born in the Darkness,
I was born in the Despair.
And I am from the Purgatory,
And I am from the Underground.
But I know all of beautiful things,
Yes,I know, the World,the Earth,the Globe,it’s Beautiful.
So I believe that,
So I love that.
I will walk,I will go far away,
And I will be there」
歩きながらでありながら、それはとても明瞭で、美しく、伸びやかに響いた。
ごくごく簡単な言葉を連ねた歌詞と、揺らめくようにリフレインするメロディが、幻想的で物悲しい雰囲気を醸し出す。
それどころではないと知りつつ、白亜は歌に耽溺した。
ひとりの人間が奏でているはずの『音』が、幾重にも連なって聞こえるのは、神音独特のテクニックなのだとジョシュアが教えてくれる。
そして、この歌声は、容易に脳内麻薬を発生させ、聴くものを酩酊させる、または心の痛みをやわらかく昇華させることが出来るのだという。
「『暗闇から生まれ、絶望から生まれた』。……色んなことを考えちまうね、この歌詞」
「……うん」
理晨の言葉に瑠意が頷く。
思うところは誰にでもある、ということだろう。
生きるとは、思うことの繰り返しなのだから。
――1時間もかからずに、そこへは辿り着いた。
レーギーナの言葉の通り、朽ちかけた工場のいくつかを探り、鉄工所であったのだろうと思われる場所へ入り込む。
朽ちて崩れかけた薄暗い内部を、油断なく周囲を伺いながら進むこと十分前後で、開けた場所に出た。
恐らく、以前はここに、大きな機械があって、ここでたくさんの品物が造り出されていたのだろう。
そしてそこには先客がいた。
「……香介」
瑠意が、鋭い視線を投げかけながら周囲を観察している香介の背に声をかけると、ひとつにまとめられた長い黒髪を揺らして振り向いた彼は、ニッと獰猛な笑みを浮かべた。
「ったく先走りやがって」
「早いもん勝ちだ」
香介には悪びれる風情もない。
「その様子だと、『中』に入る方法、持ってるみてーだな?」
「『中』って……香介もどこかでその情報を?」
「いーや、感覚的に、なんとなく判っただけだ」
「……やっぱり香介って……」
「先に言っとくけど、違うからな」
呆れた表情で何か言いかけた瑠意を、不機嫌な顔で香介が制する。
瑠意は肩をすくめ、部屋の四隅を交互に見遣った。
「……あった」
声を上げたのはルイスだ。
「これじゃね?」
彼の指差す先、壁の隅に、小指の爪くらいのサイズの黒い棘が埋まっている。
ルイスが皆を見渡すと、全員が小さく頷く。
――ルイスの指先が、棘を押した。
その途端、
ざわ、ざわざわざわ。
周囲で、漆黒の闇がざわめき、彼らを取り囲んだ。
ふわりとした浮遊感ののち、景色が変わる。
空を掻き毟る腕のような、気味の悪い形状をした黒い木がまばらに生える暗褐色の空間。
人間を誘い込み、餌とするための、化け物の巣だ。
「なるほど、これが」
呟き、周囲を見渡せば、十ではきかぬ数の若い男女が、ねっとりとした黒色の糸に絡みつかれ、黒い木々につなぎとめられて、ぐったりとうなだれているのが見える。
その中に、写真で見たのと寸分違わぬ久我正登の姿があった。
顔色は蒼白で、ぴくりとも動かない。
生きているのか、死んでいるのかも、他の囚われた人々同様に、判らない。
「……正登」
神音が小さく名を呼ぶと同時に、
『我が餌場に迷い込むとは……憐れな』
おどろおどろしい声が響き、巣の一角にある洞窟から、美しい女の上半身に蜘蛛の下半身、脚は触手で尾は蛇と言う禍々しい姿をしたモンスターがずるりと這い出して来る。
身の丈は、三メートルほどになるだろうか。
【闇黒の糸】。
ヒトの精気を啜る、邪悪な化け物だ。
――滅さなくては、ならない。
そして、囚われた人々を救い出さなくてはならない。
白亜は冷静な眼差しでそれらを見つめ、さまざまなことを一瞬のうちに算段して、素早く行動に移る。
もっともそれは、他の面子もまったく同じだったが。
7.暗闇から私は生まれた
『ここで逢(お)うたが天命の尽き。貴様らも、妾(わらは)の滋養となるがいい』
艶めいた、しかし邪悪な笑みを浮かべた【闇黒の糸】が、全身からぬらぬらと黒い糸を発生させる。彼女――と言っていいものなのかは微妙だが――は、どこかのファンタジー映画から実体化した、この糸でもって人間を捕らえては、その精を啜る怪物であるらしい。
ルイスがこの事件に関わる気になったのは、瑠意に思い切り脅された所為もあるが、何より、自分と向き合い前へと歩き出したリオネを、他者を愛することを覚え、未来と言う言葉を肯定的に捉えるようになった相棒と重ね、相棒にするのと同じように、彼女の背中を押してやろうと思ったからなのだ。
だからこそ、この事件は、ハッピーエンドで終わってほしい、というのがルイスの願いだった。
リオネには、ここで立ち止まらず、まっすぐに進んでほしいと思うからだ。
彼の、大切な、小さな兄と同様に。
「うーん、しかし、まさかこういう展開になるとは思ってもみなかったなぁ」
とはいえ、もう少し現代的な、単純な事件を想像していたルイスは、珍妙な顔をしながらも銃を引き抜き、身構える。百戦錬磨のハンターとして、油断をするつもりは更々ないが、このメンバーで負ける気はしないというのもまた事実だった。
「……お前が捕らえた人たちを、返してもらう」
ちらと横を見遣れば、天狼剣を構えた瑠意が、低く断ずると同時に、およそ一般人とは言えない速さで【闇黒の糸】に斬りかかるところだった。
瑠意の右手中指にはまった指輪の、深い深い色合いをした紫水晶が、ぼんやりと光を放っている。
『……小賢しい』
怪物が吐き捨てると同時に、その周囲で、漆黒の糸が波のようにうねり、瑠意に襲いかかる。
だがその不吉な波は、
「小賢しいのは、どっちだよ?」
瑠意が揮った天狼剣と、
「浄化の白き火、コラールの十七番!」
ルイスの放った炎系白魔術によって、あっけなく吹き散らかされ、燃やし尽くされた。
『何?』
訝しげに眉根を寄せる【闇黒の糸】。
その右肩口と脇腹に、目にも留まらぬ速さで飛来したナイフが突き刺さったのは、次の瞬間のことだった。
確認するまでもなく、ナイフを投擲したのは香介だ。
確認するまでもなく、異様に楽しそうな表情をしていることだろう。
「っとに、あれでムービーファンなんて、嘘ばっか吐くんだからなぁ」
「何か言ったか、アホルイス!?」
「いーえ、なんでもございませんことよ、ホホホ」
などとしなを作りつつ、ルイスは銃を構えて引鉄を引いた。
響く銃声はふたつ。
【闇黒の糸】の身体からしぶいた血も、二箇所から。
「お兄さま……じゃなくて、ジョシュア」
見れば、相棒の恋人であるヴァンパイアハンターを演じた俳優の手には、H&K P2000と呼ばれる小振りの自動拳銃が握られている。
今日一日のわずかな付き合いで、ジョシュアの穏やかな内面を知り、出来れば相棒には、本人でなくこちらの中身に惚れてほしかった、と思うルイスだが、ヒトの想いと言うのはままならぬものなので仕方がない。
ルイスのそんな思いなど知る由もなく、
「捕らえた人間たちを、解放してください」
静かな、しかし凛とした声でジョシュアが言うが、返事はなかった。
ただ、みしみしと、黒い糸が軋んだだけだ。
人間を捕食されるだけの存在と見ていたのか、
『ぐぐ、貴様ら……!?』
驚愕の表情とともにぎちぎちと歯を噛み鳴らした【闇黒の糸】が、下半身を覆う触手を波打たせ、攻撃に転ずる。
あれに締め上げられれば、普通の人間の骨など、容易く砕けてしまうだろう。
ルイスは咄嗟に跳躍し、ジョシュアを抱えてその場から飛びのいた。
ゴウ、という不吉な音が行き過ぎ、ぬめぬめとした質感の触手が、彼らがたった今までいた場所を大きく抉ってゆく。
「スリル満点だなぁ」
「……そうですね、なかなかに心躍る光景です」
「ありゃ、あんたも結構言うじゃないの」
ルイスは笑って【闇黒の糸】から距離を取り、自分とジョシュアの銃弾に補強魔術をかけてから引鉄を引いた。
轟音と同時に、【闇黒の糸】の右耳と、左上腕部に大きな穴が空く。
『ギャア!』
魔物が悲鳴を上げる。
よろめいた『彼女』の触手のいくつかに巻きついたのは、ワイヤーだ。
それを握るのは、理晨。
「まぁ……ボチボチ、削っていくとしようか」
ばたばたと暴れ、悔し紛れのように襲ってくる触手を軽くかわし、理晨がワイヤーを引くと、鋭く強靭な『糸』はずぶずぶと触手に食い込んで、緑色の体液を迸らせるそれを、ぶつぶつと切断した。
切断された触手は、緑色の体液を滴らせつつ、地面に落ちてもしばらくはうねうねと蠢いていたが、ゆっくりと黒い粘液に変わり、それもじきに消えてなくなった。
「降参するんなら、今だぜ? ちゃんと謝って、捕まえた人たちを無事に解放するんなら、命までは取らねぇから」
『ふざけるな、獲物の分際で……!』
忌々しげに【闇黒の糸】が吐き捨てると、理晨は醒めた、冷酷ですらある表情を浮かべた。
「そっか……そりゃ、残念」
彼の手には、いつの間にか、刃の分厚いナイフが握られている。
すっと息を吸った理晨が、【闇黒の糸】の下半身、蜘蛛の部分を勢いよく駆け上がり、駆け抜け様に、『彼女』の首筋をナイフで薙いでゆく。
これまでにない量の血がしぶいた。
女の上半身の方は、赤い血が流れているらしい。
『ぐ、ぎ……!』
上半身を赤黒く汚しながらよろめく【闇黒の糸】の腹部や胸部に、香介の投擲したナイフが何本も突き刺さる。
【闇黒の糸】の身体から飛び降りた理晨が、何でもないように距離を取る。
その隣に並んだ瑠意が、油断なく身構えつつ、呆れたような声を漏らした。
「人のことは言えないけど……理晨さん、何か、慣れてない?」
「ん? そりゃ俺、現役の傭兵だしな。この稼業始めて二十年以上経つし、慣れてなきゃおかしいだろ」
「え、あ、じゃあ、趣味で傭兵やってる俳優って、理晨さんのことだったのか! 噂では聞いたことあったけど……まさか理月の中身さんだなんて!」
「そのまんまで、面白ぇだろ」
飄々と肩をすくめる理晨から少し離れた位置では、鎮と白亜が、ディレクターズカッターと鋭い爪を使って、黒い糸に絡みつかれ、木々につなぎとめられた人々を救出している。
危険だからなるべく離れているようにと言われた神音も、黙々とそれを手伝っていた。
それに気づいた【闇黒の糸】が、凄まじい形相になる。
『貴様ら、妾の獲物に手を出すか、無礼な……!』
「そんなの、オレの知ったこっちゃねーな」
冷え冷えとした声は、香介のものだ。
その声と同時に投擲されたナイフの一本が、【闇黒の糸】の眼窩へとめり込んだ。
金属を掻き毟るような、不快感を催す絶叫が上がる。
香介はかすかに顔をしかめたが、楽しげな表情は変わらなかった。
「このまちにはこのまちのルールがある。それに従えないのなら――元の世界から持ち込んだ横暴さで罪のない人たちを傷つけるのなら、あんたにはここから退場してもらうしかない」
無造作に天狼剣を提げた、しかし隙のない足運びで、【闇黒の糸】に一歩迫りながら瑠意が断じる。
それに同意するように、理晨が、ジョシュアが踏み出し、ルイスもまたそれに倣った。
――このまちのルール云々にはまったく興味のない香介だけは、オレはそれどーでもいいけどな、などと言いつつ輪に加わる。
『き、貴様、ら……!』
【闇黒の糸】は、あちこちから血を流しながら、鬼気迫る表情でぎちぎちと歯を噛み鳴らしていたが、ルイスたちが包囲網を狭めてゆく中、唐突ににやりと嗤った。
それと同時に、『彼女』の周囲を、どす黒い霧がたゆたった。
――あっと思う間もなく、それが辺り一面を覆い尽くす。
霧を吸い込んだからか、妙に身体がふわふわとし、視界が揺らぐ。
『ここへ来るがいい、そなたの望みはすべて叶えて進ぜよう』
甘い、やわらかい声がルイスを呼んだ。
そして、目の前に、明るい光景が展開される。
「……」
ルイスはその光景を、苦笑とともに見ていた。
それは、ルイスが望んでやまない、『満たされた』自分の姿だった。
飢えにも渇きにも苦しまず、誰かをただひたすらに愛し、愛されることを許された、幸せに満たされた自分自身。
『こちらへおいで、可愛い子。妾ならば、そなたの望みを真実にしてやれる』
猫撫で声がルイスを呼ぶ。
――ああ、皆、こうやって捕まったんだ、と、ルイスは思った。
心の、一番弱い部分に忍び込む甘い夢。
それが、人間たちを『巣』へといざない、『餌』としてつなぎとめてしまったのだ。
『ここへおいで、愛しい子』
声はなおもルイスを呼んでいる。
――恐らく、他の面々も呼ばれているだろう、とルイスは思った。
唇に、うっすらと、困ったような笑みが浮かぶ。
「ホント、どうすりゃいいんだろうな」
それは、その甘い夢に向かって手を差し伸べようとも思わない、あまりにも絶望しきった自分自身に対する言葉だ。
しかし、その絶望を不幸だとは、ルイスは思っていない。
彼には救いがあり、なすべきことがある。
だからルイスは生きている。
だから、この声に応えることは、出来ない。
「……残念ながら、この程度の誘惑には引っかかれないな」
声は、ルイスのものではなかった。
「るいーん?」
つぶやくと同時に、視界が晴れた。
「ったく、甘く見られたもんだぜ」
呆れた声音は、理晨のもの。
「『暗闇から私は生まれた』。真理だと思うね。誰だって闇を内包してる。俺はそれを知ってる。――だからこそ、俺は、しゃんと立って自分を見ることが出来るんだ」
言葉は力強い。
「……己が望みは己自身の手で果たせと、師に教わりましたので」
ジョシュアの声にも揺らぎはなく、
「うぜぇ、心底うぜぇ。化け物が望みとかなんとかほざくんじゃねーよ」
吐き捨てる香介もまた、いつも通りだ。
背後を見遣れば、白亜も鎮も、神音も、静かな微苦笑を浮かべるのみだ。
ルイスはかすかに笑った。
「あんたの不幸は」
小さく呟く。
「規格外ばっかが集まってるのを、餌だと思って巣に入れちまったことかな」
【闇黒の糸】は、全身から体液を滴らせながら、訝しげにこちらを見ていた。
『彼女』の故郷では、甘い誘惑に抗し得るものはいなかったのだろうか。
ご都合主義的なB級映画にはよくありがちなことだが。
「さて、それじゃ」
友人に別れでも告げるような気軽さでルイスは言い、軽く印を切った。
不吉を感じたか、【闇黒の糸】が身構えようとしたが、
「――黄金なる葬送の雷(いかずち)、レクイエムの二十四番!」
ルイスの、最上級雷系魔術が完成する方が、早かった。
ぎらり、と天から黄金の光槍が堕ち、
ばうっ。
それに脳天から貫かれた瞬間、【闇黒の糸】の上半身は、弾け飛ぶように砕け散っていた。
雷光に焼かれた肉がじりじりと音を立てる。
ぐらぐら揺れた巨体が、ゆっくりと地面に倒れてゆく。
――次の瞬間、薄ら寒い景色は掻き消え、元の工場跡が戻ってきた。
あっけないほどの何気なさで。
そして、からりと転げる、いつも通りのプレミアフィルム。
「ひとまず、終わり……か」
それを拾い上げ、白亜が、ぐったりと倒れ伏す人々へ痛ましげな視線を向けた。
「白亜、どうだった?」
「……皆、息はある」
「そうか……なら後は、衰弱の度合い、かな。目覚めねぇようなら、病院に運ぶしかないか」
ルイスたちの視線は、自然と、長身の青年を抱きかかえるように起こす神音へと注がれる。
「しっかりしろ、久我」
「大丈夫ですか、久我さん」
「久我さん、気を確かに持ってください。もう脅威は去りましたよ」
「……いい加減目を覚ませ、正登」
理晨の、瑠意の、ジョシュアの……神音の呼びかけが、何度か静かに繰り返される。
と、
「う……」
青年の瞼がぴくりと動いた。
同時に、あちこちから呻き声が聞こえてくる。
工場跡の床に寝かされていた人々が、ぼんやりと目を開きつつあるのが見えた。
「ここ、は……」
お約束とでも言うべき言葉とともに、久我が目を開けたのは、その一瞬後だった。
「久我さん……よかった……!」
瑠意が安堵の息を吐く。
ゆっくりと身体を起こしながら、久我が、不思議そうに周囲を見渡す。
理晨が瑠意と、白亜が鎮と顔を見合わせて微笑し、ルイスもまた、ジョシュアと笑みをかわす。
香介だけは、感動の再会には興味がない様子でナイフを拾う作業に没頭していたが、それも別に、悪い雰囲気ではなかった。
8.無窮の祈り
廃工場を出てみると、すでに日は落ちかけていた。
それほど長い時間を過ごしたつもりもなかったが、あの『巣』の中では、時間の流れ方が違うのかもしれない。
鎮とジョシュア、白亜は、長時間囚われていたから何かあってはまずいと、意識を取り戻した人々に付き添って、念のため病院に向かっている。
面倒くさいことを嫌う香介は、任務完了だし帰っていいよな、などと言い出し、さっさとこの場から消えていた。
残りの三人、理晨と瑠意とルイス、そして神音と久我は、皆の無事を信じて待つリオネを安心させるべく、『楽園』へと向かっていた。
久我は少し憔悴しているようだったが、足取りはしっかりしていたし、言葉も明瞭だった。
ただ、奇妙なことに、彼は、何故自分がそこまで悩んでいたのか、そのすべてをすっかり忘れてしまっていた。
工場から出て行く途中、どこかからもぞもぞと這い出して来て、自分自身の肩に陣取ったラベンダーカラーのバッキーを、いったいいつ得たのか思い出せないのと同じく、自分が【闇黒の糸】に囚われる羽目になった原因と思しき『何か』を、すっかり失ってしまっていたのだった。
彼はそれをひどく恐縮し、何度も礼を言うのと同じくらい何度も詫びたが、久我が無事に戻ってきた今は、殊更騒ぎ立てるべきことでもなかった。
当然、『楽園』へ向かう彼らの足取りは軽い。
そんな中、瑠意は、ふと思いついたことを神音に問うていた。
「っていうかさ、今更気づいたんだけど……神音さんって、もしかして、壱衛さん?」
神音が頷く。
「ん、ああ、そうだ」
「あー、やっぱり。なんか全然雰囲気違うから、判らなかったよ」
「特殊メイクを多用しているから、気づかれぬことも多い」
「うん、ほんと全然違う。そっか、壱衛さんの中の人なんだー。俺、この前、壱衛さんに会ったんだ、鉄塊都市で」
「ああ、そうか、あれも実体化しているんだな。しかし……あれを演じてからもう十年になるのか、懐かしいな」
「十年……えーと、幾つの時? 下手すりゃ十代前半だよね?」
「二十七の時だが」
「え?」
思わず瑠意の動きが止まる。
「どうした?」
「ええと、神音さんって……今、いくつ?」
「つい一月ほど前、三十七になったばかりだが」
「だよな、俺と同い年のはずだぜ?」
あっけらかんと同意するのは理晨だ。
瑠意は呆れた。
「理晨さんもだけど、どんだけ童顔。ぶっちゃけ、年下かと思ってた……」
などと、他愛ない会話を交わしながら歩くことしばし。
見慣れた店舗が目に入ると同時に、リオネが、『楽園』の店先で、爪先立ちをしてあちこちを見ているのが見えた。
女王が植物たちからの連絡を受け、それを教えたのだろうか、そわそわとした風情の少女の目は、表情は、輝いていた。
「おーい、リオネちゃん、ただいま!」
瑠意が声を上げ、手を振ると、少女はぱっと振り向き、花が綻ぶような笑顔になった。
「おかえりなさい、おにいちゃんたち……!」
駆け寄ってきたリオネの視線が久我に行き着く。
「おにいちゃんが、くがさん?」
久我は穏やかに微笑み、頷いた。
「ああ、そうだ。助けてくれて、どうもありがとう」
「ううん、リオネのせいで、たいへんなことになって、ごめんなさい。ぶじでいてくれて、どうもありがとう」
リオネがぺこりと頭を下げる。
理晨も、瑠意も、ルイスも、それを微笑みながら見つめていた。
「リオネ」
挨拶が一段落した後、ルイスが呼ぶと、リオネは愛くるしい仕草で首を傾げた。
「どうしたの、おにいちゃん」
「お疲れさん」
「……うん、でも……リオネ、やくにたてたかなぁ? まだよくわかんないの、どうすればいいのかって。どうすれば、リオネが泣かしちゃったひとたちを、笑顔にできるのか、まだよくわかんないの」
「……そっか」
ルイスは笑ってリオネの頭をなでた。
「オレはさ、感謝してるんだ」
「え?」
「リオネに。もちろん、リオネのこと、恨んだり憎んだりしてる連中はいると思う。リオネも自分で判ってるよな、それ」
「……うん」
「でも、オレは、リオネの魔法のお陰で、楽しい毎日が送れてるから。辛い目に遭ってる奴らには申し訳ねぇけど、感謝してるんだ。――魔法をかけてくれてありがとうな」
「…………うん」
きゅっと唇を引き結び、リオネが俯く。
「いっぱいいっぱいなやんで、くるしんで、かんがえることが、リオネがせきにんをとる、っていうことだとおもうから」
「ああ……そうだな」
償い、贖いはまだ済んではいない。
それは、彼女にも判るだろう。
瑠意はその前に膝をつき、彼女と同じ目線で、リオネに話しかけた。
「君ももう判ってるだろうけど、リオネちゃんのしたことは取り返しのつかない、大変なことだ。俺の大切な人たちも、とても辛い思いをした」
「うん、しってる。ごめんなさい……」
「そうだね、だから、怒られて当然だし、皆に謝らなきゃならない。でも、リオネちゃんは自分で考えてここに来た。皆の力になりたい、皆に笑顔が戻りますようにって思ったんだろう? そう思って、頑張ってるんだろう? その気持ちはきっと皆に通じるよ。俺はそう思う」
「そう、かな……?」
「リオネちゃんの魔法のお陰で、俺には、本来なら出会えなかったはずの多くの友達が出来たよ。誰よりも大切なヒトにも出逢えた。辛いこともたくさんあったけど、楽しいこともあった。今も、たくさんの幸せを感じてる。……だから、ルイスと同じく、俺は感謝してる。ありがとう、リオネちゃん」
「……」
リオネは俯いたままで小さく頷いた。
それを見つめる理晨の眼差しは、限りなくやわらかい。
「……俺の『弟』が、俺と痛みを共有する俺の半分が、あんたの魔法のお陰で幸せそうに笑ってる。自己愛に近い醜い満足かも知れねぇけど、俺はそのことを、すごく嬉しく思うんだ」
「そうなの……?」
「ああ」
「むずかしいね。すごく、むずかしい。しあわせなひともいるし、ふしあわせなひともいるんだね。どうすればいいのか、なにをすればいいのかって、かんがえるのは、むずかしいよ」
「ああ、そうだな。でも、それは多分、誰だって生きてる限り続けていくしかねぇことなんだろうとも思う」
「うん……」
「だからリオネ、そうやっていつも真っ直ぐに前を見てろよ、罪は気持ちひとつで必ず償えるし、心あるものはいつでも変われる。ただ、歩むのを止めたら、終わりだってことだけ覚えておけばいい」
今このときにも、リオネを憎むものはいるだろう。
ムービースターも、ムービーファンも、エキストラも変わらず。
彼女のしたことが、たくさんの命を、そしてたくさんの人々のたくさんの大切なものを奪ったのは、動かしようのない事実だ。
しかし、今日ここに集った人々は、多くの哀しみを経験しながらも、銀幕市にかかった魔法、銀幕市を訪れた奇跡を、肯定的に受け止めている。罪を罪と認識し、償いのために前を向くリオネの力になりたいと感じている。
それもまた動かしようのない事実で、真実だ。
リオネを恨み憎んで、彼女の所業に怒り狂う誰かが、この銀幕市のあちこちに存在するのと同じく、リオネの魔法に感謝し、幸せを享受している誰かがいることもまた、事実なのだ。
たくさんの夢とたくさんの願い、たくさんの望みがこのまちをかたちづくり、たくさんの涙と痛み、たくさんの苦しみがこのまちを動かし、尽きることのない祈り、誰かが誰かに向ける思いが、今日も途切れずに続いているという事実と同等に。
「……うん」
理晨の言葉を噛み締めるようにリオネが再度頷き、ルイスがもう一度その頭を撫でた時、店の奥から女王が姿を現した。道の向こう側には、病院から戻ってきたと思しき白亜、ジョシュア、鎮の姿が見える。
「皆さん、お疲れ様。大活躍だったようね」
「いや、そんなことないです。あ、でも腹は減ったかも」
「さすがはるいーん、食欲魔神!」
「ブラックホール胃袋のルイスに言われたくない」
「いや、そこまで大きくはないぞ!?」
ふたりのやりとりに、周囲から笑いが起きる。
女王が微笑み、皆をいざなう。
「なら、どうぞ『楽園』のお茶とお菓子で疲れを癒して行って。よきことがあったのですもの、色々とサービスさせていただくわ」
「わ、ホントですか、ラッキー!」
瑠意が心底幸せそうな表情をした。
理晨もルイスも、楽しげに笑って病院からの帰還組を迎える。
久我が、帰還組に向かって頭を下げた。
白亜が微笑み、ジョシュアは頷き、鎮は手を振る。
ふわり、と、紅茶の清々しい香りが漂う。
――静かな黄昏が、周囲を包み込もうとしていた。
∞.凶兆の足音
仄暗い空間に、ふたつの声が響く。
「……戻ったのかい、クロノス」
「ああ」
「少々、予想外の出来事だったね」
「まったくだ……このように時間を取られるとは、思ってもみなかったぞ」
「だが……悪くない結果だ」
「ああ、そうだな、演出としては、申し分ない」
「演出の効果だね。『彼』はごく自然に銀幕市に溶け込むことが出来た。お陰で、やりやすくなる」
「人間たちはこれを、災い転じて福となす、と言うのだったか。人間万事塞翁が馬、だったかな」
「もっとも、人間たちにとっては、福どころか……だけれども」
「はは、そうだな、貴様の言う通りだ」
「さて、ならば……次は、何を?」
「貴様はどう考える、瑕莫(トガナシ)」
「……では、まずは、凶兆の種を」
「いかようにして」
「恐らく、きみと同じことを」
「ふむ、そうだな……あれは厄介だが、同時に便利でもある。精々利用させてもらうとしよう」
「無論だ」
「……ならば、協定の通りに」
「ああ。願わくは、奇跡と歪みに踊るこのまちに、選択の混沌と決意の結晶とが満ちるように」
かすかな笑い声。
そして、声が遠ざかる。
残念ながら、その会話を耳にすることが出来たものは、いない。
――ひどく不吉な予兆を孕んだ、その会話を。
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クリエイターコメント | 大変お待たせいたしました! 各方面に向かって土下座しつつ、【小さな神の手】黄昏無窮祈をお届けいたします。
皆さんが様々な方面からアプローチを行ってくださったお陰で、マネージャー氏は無事、光の当たる場所に戻ってくることが出来ました。そのことを、リオネと神音に変わって御礼申し上げます。
なお、神音は、しばしこのまちに身を置くことにしたようです。 この人物に関わる依頼が、また出されることになるかもしれませんが、その時はどうぞよろしくお願い致します。
そして、背後では、何やら不穏な動きが見られる様子。激動の銀幕市において、親しき隣人たちの笑顔を守るため、今後ともご協力をいただければ幸いです。
それでは、ご参加どうもありがとうございました。 次なるシナリオで皆さんにお目にかかれることを、楽しみにしております。 |
公開日時 | 2008-06-23(月) 18:00 |
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