★ 宇宙戦争になる前に ★
<オープニング>

 突然の異変に混乱と動揺醒めやらぬ銀幕市であったが、市長からのメッセージが広報され、ひとまず――そう、ひとまずは束の間の落ち着きを取り戻しつつあった。
 それは異変前の平穏とはほど遠いのだが、非常時もそれが続けば日常になる。ムービースターがそこらへんを闊歩する日常に、市民がほんの少し慣れてきた、ということかも知れない。
 そして市役所窓口は今日もまた、新たな住民を受け入れるため、てんてこまいだった。
 今、植村直紀を受付カウンターに呼びつけたのは、江戸時代の姫君風衣装の少女と、やはり江戸時代の、こちらは遊び人風に江戸小紋を着崩した男性の、ふたり連れである。
「もしー、そこな男衆。住民登録を所望いたしますぞ。……はて、『きゃらくたぁたいぷ』ですか? 妾は、『世直し姫君、からくり妖変』の主役を務めておりまするが……。『むぅびぃすたぁ』で良いのですね? 『名のみ』で『珊瑚姫(サンゴヒメ)』、16歳でお願いいたしまする」
「同じくムービースター。平賀・源内(ヒラガ・ゲンナイ)。34歳だ」
 おっとりと微笑む珊瑚姫と、飄々とした平賀源内のコンビは、人気アニメ映画で一世を風靡した新進気鋭の監督が、少々妙な方向に暴走して製作したすちゃらか特撮時代劇「世直し姫君、からくり妖変」の登場人物である。
 将軍家の姫であるところの珊瑚が、政略結婚を嫌って家出し、江戸の街を彷徨っていたところを平賀源内と出会い、てんやわんやのうちに、源内が密かに作成した不動明王型巨大機械の操縦者として世直しを計る――という、まあ、そんな話だ(ちなみに監督ファンからもアニメファンからも特撮ファンからも時代劇ファンからも黙殺されている)。
「では、こちらの欄に『能力』を記入して下さい」
 直紀は慣れた調子で、事務的に手続きを進めていく――と。
 何かにはたと気づいた珊瑚が、急に身を翻し、市役所から駆けだした。
 慌てて源内も後を追う。
「どうした? 姫さん」
「あーれー! 市役所前に止めておいた『からくり初号機・べぇた版』がどこかへ行ってしまいましたー!」
「機械がひとりでに動くはずないだろう。りもこんはどうした?」
「こっくぴっとに置いてまいりましたえ」
「ああもう。管理には気をつけろといつもあれほど……」
 ぼやく源内の目に、信じられない光景が映る。
 巨大な不動明王が、銀幕広場で暴れている。
 そして、操縦席にいたのは。
 源内の知るところの「人」ですらなかったのだ。
 それは、クラゲのような、タコのような、八本足の……。
「もしー。そこな火星のお方〜。妾のましーんを返してたもれー」
 妙に勘のいい珊瑚が叫び、源内も気づく。
 おそらくはムービースターと思われる「火星人」に、巨大機械を奪われてしまったことを。

種別名シナリオ 管理番号3
クリエイター神無月まりばな(wwyt8985)
クリエイターコメントそんなわけで、住民登録も終了しないうちに、巨大機械は珊瑚と源内の手を離れてしまいました。こうなると彼らはまったく無力ですので、皆さまのお力におすがりするしかありませぬ〜。お助けくださいませ。
火星人の設定は、あなたが今ご想像なさった「火星人」とお考えいただいてかまいません。
どうぞ、ご尽力を、お待ちしております。

参加者
太助(czyt9111) ムービースター 男 10歳 タヌキ少年
シルヴィア・ルーン(cwbc3187) ムービースター 女 16歳 ヴァンパイア
七浮 カナン(ctut5453) ムービースター 女 12歳 魔法少女
山下 真琴(czmw8888) ムービースター 女 18歳 学生兼巫女
クオ(cvff6453) ムービースター 男 12歳 パニック映画の敵役
風花 イル(cdcs4367) ムービーファン 女 16歳 学生
<ノベル>

ACT.1-a■タヌキとヴァンパイアと女子高生

「あ〜れ〜! お助けくださいまし〜〜」
 銀幕広場に響き渡る、絹を裂くような姫君の声。
 しかし被害に遭ったのは、その姫ではなく、本来は彼女が操縦者であるところの不動明王型巨大ロボットであった。
 のっし、のっしと、不動明王は広場を闊歩する。
 自動車の運転席に酷似したコックピットには、タコ型火星人が座っている。八本の足のうち二本だけを器用に用い、ハンドルに似た操縦桿をぐるぐると回していた――

 珊瑚の声を聞きつけて、真っ先に反応したのは太助だった。
 コメディムービー『タヌキの島へようこそ』に登場する、少年に化けたタヌキである。
 最近のお気に入り喫茶店、『Cafeスキャンダル』で知り合いたちと雑談をしていたのだが、いち早く異変を察し、我が身にげしげしと渇を入れる。
「姫さんが困ってるぞ! ぼーっとするな! 男だろー!」
 ――そして、変身する。茫然とする知人たちを尻目に、掛け声だけは颯爽と。
「待ってろ。すぐに助けにいくぞー!」
 やがて銀幕市上空に、鮮やかなマントを翻し、昔懐かしいスタイルのヒーローが飛ぶ。
 ……とはいえ。
 そのマントは唐草模様の風呂敷であり、小柄なヒーローには狸の耳と、ふさふさした尻尾がついていたのだが。
「気合入れろー! 変身解けるぞー!」 
 それは知人の声なのか、それとも彼自身の声だったろうか。

「ふっふっふ。今の銀幕市には、ムービースターがてんこもり。スターといえば、何たってイケメン揃いってもんさね。新しい出会いが押すな押すなであたしを呼んでるよ! 異変万歳! 銀幕ジャーナルを華麗なスキャンダル記事で埋め尽くしてみせようじゃないか!」
 そんなろくでもないことを考えながら、外見だけは銀髪美少女、実は300年以上生きているヴァンパイア、シルヴィア・ルーンは銀幕広場をぶらぶら歩いていた。
「おんや? 何事だい?」
 見れば、何やら不動明王に似た巨大なものが暴れているようだ。
「どぉれ。様子を見てみようか。もしかしたら、超イケメンと知り合えるかも知れないしねぇ」

「ふ……不動明王型巨大機械……。巨大機械もアレですが、あえて不動明王なあたり、おかしいセンスを感じます……」
 実も蓋も無い独り言を呟いているのは、肩口で跳ねた髪がチャームポイントの女子高生、風花イルだった。
 物怖じせずにロボットを見つめ、じっと観察を続けている。
「おいおい娘さん。江戸時代きっての才人、蘭学者兼発明家兼画家兼作家兼有能コピーライター、平賀源内のセンスにもの申すとはいい度胸だな」
 聞きとがめた源内が、ついつい、大人げないことを言っても、
「ああ……源内さん。あの不動ロボ『お不動くん』の基本的な構造を知りたいのですけれど……」
 と、あくまでもマイペースである。
「こら。勝手に名付けるな。あれは『からくり初号機・べぇた版』だ」
「β版でしたら、正式名称は決まってないのでしょう……? 私が命名してもいいじゃありませんか。あ、紹介します……。バッキーの木場(こば)さんです」
 現代女子高生のネーミングセンスに気圧されて、江戸のコピーライターはしばし黙り込んだ。

ACT.1-b■巫女とサイキッカーと魔法少女

 山下真琴もまた、その時、銀幕広場に居合わせたひとりであった。折りからの風に、長い黒髪と、清楚な巫女服の裾がなびく。
「不動明王様を奪うなんて、罰当たりな宇宙人……。のうまく さんまんだ ばさらだ せんだんまかろしゃだや そはたや うんたらた かんまん」
 不動明王慈救咒(ふどうみょうおうじぐのじゅ)を唱えたのは、特に目的があってのことではない。
 悪魔祓い、もしくは妖怪退治に乗り出す前の、心の準備のようなものである。
 宇宙人とて同じこと。神を恐れぬものには、神罰必定。
(いざとなったら、時間を止める必要がありそうですね)

「うわ〜! やっぱりあのロボット、かっこいいなあ。ボクも乗りたかったのに、火星人さん、ずるいよー」
 クオは目を輝かせて、無邪気に声を張り上げる。
 銀色の髪をふっさりと耳元で切りそろえた、可愛らしい少年だ。白いブラウスに赤いリボンをあしらい、ベージュのショートパンツがよく似合う彼は、人形に命を吹き込むことのできるサイキッカーである。
 市役所前に止められていたロボットに、最初に目を止めたのはクオだった。源内と珊瑚が目を離している間に、そっと触ってみようともしたのである。
(それなのに、火星人さんが横取りしちゃってさ)
 ともかくもクオは、ロボットで遊んでみたいのだ。それに、火星人とも話してみたい。
「行けー! ティラノザウルス! スペシャルファイトだぁ!」
 鞄から恐竜の人形を取りだして命を吹き込み、まずは体当たりをかましてみる。被害を防ごうとか街を救おうとか、あんましそういう高邁なことは考えず、面白そうな方向に暴走しがちなお年頃であった。

 私立綺羅星学園小学部6年生、七浮カナンは学校帰りだった。ランドセルをしょったまま立ち止まり、ボーイッシュなショートヘアを軽く傾げる。
「う〜ん、仕方ないなぁ。このままのわたしじゃ、どうしようも出来なさそうだし――よぉし」
 まずは人目のない路地裏に駆け込む。スター★シルクへの変身は、人知れず行わなければならないのだから。
 片手を天にかざせば、ピンク色の魔法のマイクが現れる。輝き始めたマイクは光の帯を放ち、カナンを包む。
 そして小学生だった少女はみるみるうちに成長し、推定年齢18歳の、ツインテールの美女に変わるのだ。
「許さないわ。世界を脅かす悪の集団『ブラック▼ハリケーン』! ……じゃなかった。えーと、地球侵略を目論む悪の火星人。ってあれ? あの火星人さんって地球侵略が目的なのかしら? ていうか、悪なのかしら? まあいいわ、レッツ★GO!」

ACT.2■ヒーロー集結……なのか?

「大丈夫かっ、お姫さま。俺が来たからにはもう安心だぞ!」
 珊瑚の前にしゅたっと降り立ち、風呂敷マントをはためかせ、太助はえっへんと胸を張る。しかし、何がどう安心なのか、この時点では皆目見当もつかない。
「なんと愛らしい耳と尻尾。城に残してきたぽめらにあんの『じょにぃ』を思い出しまする」
「ちょいとお姫さん。江戸時代にポメラニアンがいたのかい?」
 シルヴィアが、ものすごく本質から外れた突っ込みをする。
「……たしか、ポメラニアンの祖先って、アイスランドやラップランドの氷原でソリを曵いていた大型のスピッツ族サモエドですよね……」
 理系女子高生、イルは雑学にも詳しかった。
「そうですね。今のサイズに定着したのは、ここ100年ばかりの間のはずです」
 出典の国内外を問わず、各種退魔に対応して、すっかり各分野に博識になってしまった真琴もまた、冷静に答える。
「うわぁ!? ティラノザウルスがやられちゃったあ! 強いなぁ! じゃあ今度はウルトラサウルスでいっちゃえ〜〜!」
 クオはクオで、ロボット対怪獣総当たり大決戦大会をひとりで開催して楽しんでいる。今日の彼の鞄には恐竜の人形がみっちり詰まっているので、対戦相手には事欠かない。
 どしーん。ばたーん。どっかーん!
 ロボットと怪獣がぶつかり合うたびに、建物は崩れ、人々は逃げまどい、被害甚大である。
「やぁれやれ。仕方ない。ちょいとコックピットに行って、機械を開け渡すよう、火星人を説得してこようかねぇ」
 白い指をぱちんと鳴らす。次の瞬間、シルヴィアの姿は小さなコウモリに変わった。
「コウモリ……! あなたはヴァンパイアね!」
 真琴の目が、すうと鋭くなる。悪魔も妖怪も震え上がる、退魔師の顔だ。
「やだよ巫女さん。あたしを退治してる場合じゃないだろう。当面の敵は宇宙人なんだからさ。さてと」
「火星人を説得できるのかぁ。おばちゃん、すごいなー!」
「こらタヌキ少年。どさくさ紛れにおばちゃん言うな! しょせん相手はタコじゃないか。なんたってあたしの美貌は宇宙的スケールだから、一目見た瞬間、ゆでダコになっちまって全面降伏ってもんさ。これで一挙解決! いい女は辛いねぇあっはっはっは」

 ……ぱたぱたぱた。
 そしてコウモリは、乱闘中のロボットのコックピットへと姿を消した――が。
 5分後に、帰ってきた。

「んで、おばちゃんの美貌でゆでダコになったのかぁ? なんか乱闘続行中みたいだけどぉ?」
「うるさいっ! あの火星人め、あたしの魅力がわからないとは、なんて(延々と痛快なはっちゃけ発言が続き、その表現力は素晴らしいものですが、いたいけなお子様もいらっしゃるので、教育的配慮のため涙ながらに23行ほど削除いたしました)だいっ!」
「振られたんですね」
 クールな表情を崩さずに、真琴が言う。
「おだまり小娘。あーあーそりゃ巫女は全国の青少年の萌え対象だろうよ! 結構なこったね!」
 コウモリは空中で一回転し、ぶんむくれるシルヴィアに戻った。
「あらあら。そんなに怒っちゃダメ★よ。平和的に行きましょう。ところであの機械、壊さないほうがいいの?」
 レースとフリルいっぱいの衣装で登場したスター★シルクが、源内に聞く。
「できれば、無傷で回収したいんだがな」
「オッケイ★♪ ワタシにまかせて」
「こらまた嬢ちゃん、ゴスい衣装だねぇ。リオネ顔負けだ。あの子もちょっと何というかかなり、はじけてるけどさぁ」
 シルヴィアがオーバーアクションで肩を竦める。
「みなさん、ムービースターなのですね……。バッキーは木場さんだけですか……」
 イルは、自分のバッキーを庇うように抱えた。
「木場さんは大事な身体なんですから、私と一緒に安全なところにいましょうね……。戦闘関係はムービースターの皆さんが、ロケーションエリアを展開して、きっとなんとかしてくれますから……」
 合理主義者のイルは、ちょいちょいちょい、と、ムービースターたちの背を押し、阿鼻叫喚の銀幕広場に追いやるのだった。

ACT.3■ときめきのムービースター

「いっくぞ〜! マジカル★ロケーションエリア! ってあれ、シルクのおねえちゃんに影響されちまった!」
 いまひとつ掛け声が揺らいだものの、太助のロケーションエリアはきちんと発動された。おもに、源内に対してであるが。
 ……すなわち。
「――おい少年! おれにタヌキ耳と尻尾が生えたぞ!」
「へへ。これで源内さんは半狸だから、いつでも変身できるよ。『チェーンジロボ! パワーアップ』って言ってみな」
「……ちぇーんじろぼ? ぱわーあっぷ? ……いったい……うわぁぁ〜〜」
「あーれー。源内がろぼっとになってしまいましたえー」
「ロボットにはロボットだよ! どんなもんだい」
 言って太助は、自分も狸姿になり、その背中にちゃっかりとしがみつく。 
「それではワタシも」
 スター★シルクがロケーションエリアを展開すると、周囲は全てクッション素材に変わった。これで、どんな大乱闘も安心安全である。ついでに、あたりはパステルカラーのファンシーテイストになったのだった。
 真琴の巫女服はリボンつき水玉模様に、クオのシャツは総レースのひらひら仕様に、イルの髪は乙女ちっくなくるくる巻き毛になり、バッキーの木場さんにも、頭にピンクのチューリップが生える始末である。
 シルヴィアは今の今まで綺羅星学園高等部の制服を着ていた(注:学園に通っているわけではない。早い話がなんちゃって女子高生である)のに、パステルオレンジのフリルみっちりなドレスに変化して大慌てだ。
「耽美で美貌な孤高のヴァンパイアに、何てもの着せるんだい!」
「うわぁああ〜〜! 俺の勝負服(注:風呂敷マントのこと)がぁぁぁ〜〜〜! ラベンダー色の花模様にぃぃぃ〜〜!!」
 ロボット化した源内にしがみついたまま、太助は叫ぶ。
「はぁ〜。みんなお子ちゃまだねぇ。イケメンとの運命的邂逅を期待していたのに、出会う連中はこーんな女子供ばっかり。しけてんねぇ。源内はまあまあだけど、ロボ化しちゃぁね」
「世直し姫君、からくり妖変」は、一応、アイドル映画でもあったので、珊瑚姫役には某美少女アイドルが、源内役には、トレンディドラマで人気の某韓流スターが起用されている。なので、ムービースター平賀源内は設定を逸脱するほどに男前だった。
 んがしかし、太助のロケーションエリアの影響で、変身可能な半狸状態→攻撃可能なロボゲンナイにスペシャル二段変型してしまっては、もともとの容貌なんぞ無意味もいいところである。
「ともかく、いけー! ロボゲンナイ! 突撃だー!」
「よぉし、ヤッチマイナー!」
 シルヴィアが、日本刀を持った金髪美女が大暴れする某映画の主人公のような、怪しいカタコトの日本語で叫ぶ。
「わあ! いいないいな! ボクもロボゲンナイを操縦したいよ」
 クオが羨ましそうに言う。そろそろ怪獣総当たり大決戦大会に飽きてきたらしい。
「ふふん。いいだろー! 武器はゲンナイキックとゲンナイパンチだぜ。って、それしかないけどな!」

(皆さん頑張ってますけど、このままでは、長引いてしまいますね)
 巫女服が水玉模様になってしまっても、真琴は冷静だった。
「私が直接、コックピットに入ってみます。……イルさん」
「え? あ、はい……?」
 いきなり話しかけられて驚いた拍子に、くるくる巻き毛がぴょんと跳ねる。
「あの機械の構造について、源内さんは何と仰っていましたか? 操縦席への入り方や、外部からの停止方法についてですが」
「操縦席へは、足元にある開閉スイッチを押せば自動で入れるらしいです……。リモコンが中にあるので遠隔操作は無理だとか。外部からの停止は不可能です……」
「わかりました。それでは」
 前髪を掻き上げて、巫女は一歩足を踏み出した。

「時間を、止めます」

ACT.4■Cafeスキャンダルで会いましょう

 ――そして。
 数秒、時間は止まった。
 その間に、コックピットに忍び込んだ真琴は火星人と相対し、見事、不動明王型巨大ロボットの中から、引きずり出すことができたのである。
 真琴のサポートは、スター★シルクが、魔法のマイクによる脱力系歌声で行った。
「火星人さんも本当はいい子よね? シルクのお願い聞いて! シルク★ラブショット!」
 火星人めがけ、マイクからマイクからハート型の弾が飛ぶ。これは攻撃魔法ではなく、心を痺れさせる効果を持つらしい。
 だが――
 キシャアー! と火星人は牙を剥く。どうやら、友好的解決は無理のようだ。
 かくなるうえは。
「シルク★スパイラルウェーブ!」
 白い帯状のものが、火星人をぐるぐると取り囲む。
 八本の足を拘束され、火星人はころりと転がった。

「タコだぁ!」
「タコだねぇ。どこからどう見ても」
「タコ★ね」
「タコですね」
「わーい! タコだタコだぁ」
「タコ……」
 太助が、シルヴィアが、スター★シルクが、クオが、イルが、異口同音に言う。
「ねぇねぇ。なんか、美味しそうだよなー」
 じぃぃぃーっと、太助は巨大タコを眺める。まだ観念しない火星人は、相変わらずキシャアーー! と暴れているというのにだ。
「茹でて食べちゃおっか」
 狸は食い意地全開なことを言ったが、それは、人間に戻った源内に止められてしまった。
「やめとけ。腹こわすぞ。ムービーハザードはバッキーに食わせろ」
 イルが頷いて、木場さんをうながす。
「木場さん、御飯の時間です……」
 ココア色のバッキーはとことこと火星人に近づき、まくまくまくと食べ始めた。
「ちぇっ。なあ木場さん。タコうまいか? どんな味だ?」
 太助は未練たっぷりに食事中のバッキーを覗き込む。
 物言わぬバッキーは、ひたすらに巨大タコを平らげ、やがて、ぺいっとプレミアフィルムを吐き出したのだった。

「そんなにタコが食いたいなら、たこ焼きくらいはおごるぞ、ぼうず。あんたたちもだ。世話になったからな」
 回収した不動明王型ロボットを仮住まいに安置して、源内は一同を振り返る。
「ああ、でも杵間神社の秋祭りは終わっちまったか。もう屋台は出てないな」
「『Cafeスキャンダル』の隣には、常時、たこ焼き屋とクレープ屋がありますえ」
 珊瑚がにこにこと言う。
「……では、いっそ、皆さんで『Cafeスキャンダル』へ行きませんか? 源内さんに、不動ロボ『お不動くん』のことをもっと聞きたいですし……。あの巨体を操作可能な動力のことや、推進装置や、駆動系や……」
「そうだな。あんたとは気が合いそうだ。どうだ、新しい機械を作ったら、操縦してみるか?」
「嬉しいです……。映画の中の不思議なものが、現実に動いていて。……解明できれば、現代の産業革命ですね」
 普段ならば、まず見せないような表情で、イルは微笑む。
「フフ。素敵な競演者に感謝よ★ それより源内さん、大事なものは肌身離さず、よ★」
 全員で『Cafeスキャンダル』に移動する途中、スター★シルクは、マイクを持ってウインクをした。


 
 ――完

クリエイターコメント皆さま、初めまして。銀幕市でお会いできて光栄です。神無月まりばなと申します。
この度は、ムービーハザード解決にご協力いただきまして、まことにありがとうございました。ムービースター5名さまとムービーファン1名さまの異色パーティでしたね。プレイングの楽しさに、含み笑いをしながら書かせていただきました。
皆さまの今後のご活躍を楽しみにしつつ、また、どこかでお会いできますことを願っております。
公開日時2006-10-17(火) 00:00
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