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<ノベル>
ACT.1★すでに戦いは始まってたりそうじゃなかったり
「むむっ、そこにいるのはちぇすたーではありませぬか。奇遇ですなあ偶然ですなあさあさあさあ共に華麗なるかれーの地平を突き進みましょうぞ!」
「……何の話?」
翌日の、まるぎん食料品売場である。
普通に買い物に来ていたチェスター・シェフィールドは、特選野菜コーナーに居合わせた珊瑚姫から、出会い頭に煮詰まった課題を突きつけられてしまった。
「話せば長い事ながら、こちら、対策課が記した銀幕市かれーぷろじぇくとちーむ招聘に至るえぴそーどですえ〜」
何やら乱雑に書かれたA4コピー用紙がぴらんと差し出される。手書き&殴り書きの文字が躍り、非常に読みづらい。
「これ書いたの植村さん? すごく途方に暮れてることだけは伝わってくる……。カレー王子かぁ。惚れた相手をここまで追いかけてくるってことは本気なんだろうけど、相手の都合を考えないのは良くないよなぁ」
「そうでしょうとも。王子にちぇすたーの万分の一でも思いやりがあれば宜しいものを」
「わかった、わかったよ。協力するよ。王子に強力なカレーをお見舞いしてやろうぜ」
なんつーかすごく面倒だけどなー、放置しといてもいつ騒ぎに巻き込まれるかわかんないしなー、とは、チェスターの心の呟きである。
いやぁ、だがこの時点でチェスターは、もうしっかり激流に巻き込まれて呑まれて流されちまってんだがなぁ〜、と、珊瑚の荷物持ちをやらされている源内は思ったが、まだ口には出さなかった。すぐわかることだし。
「話は聞いたわ。聞いたわ。聞いたわよ!」
野菜コーナーで仁王立ちになって3回繰り返し、珊瑚に負けず劣らずな灼熱のオーラを発しているのは、沢渡ラクシュミであった。床でバッキーの『ハヌマーン』が、3回続けてでんぐりがえりをしている。つきあいのいいバッキーだ。
「あたしのDNAが燃えたぎってるわ。ここは死力を尽くして、と・て・つ・も・な・い・や・つ・を作ってやるんだから! あたしやるわよ!」
「よっ、頼もしいですえ、らくしゅみ! さすがは気高いいんど娘と淑やかな大和撫子の魂を併せ持つ娘御!」
ガッツポーズのラクシュミに、ぱちぱちぱちと珊瑚は拍手を送る。
「やあ珊瑚姫ちゃん、源内君。対策課で聞いたんだけど、銀幕市カレープロジェクトに参加するんだって?」
「ぷえー」
今度は、壮年男性の響きのよろしい声と、やたらユニークなバッキーの声の二重奏が響いてきた。
見れば、お父さんにしたい俳優として世間様に絶大な支持を誇る佐藤英秋である。その頭にはちょこんと、バッキーの『白玉』が乗っかっている。
珊瑚は、英秋の手をひしと握りしめた。
「いかにもっ! 待ってましたえ、その言葉を。英秋がそんなにも強く激しく熱烈に仰ってくださるなら、我らがめんばーとして歓迎しますえ!」
「まだ何にも言ってないけど?」
「今ここで声かけたが最後、カレー作りに参加決定だ。あきらめてくれ」
きょとんとする英秋の肩を叩き、源内がふっと首を横に振る。
「そうなのかぁー」
しかし英秋は、拍子抜けするほどにあっさりと承諾してくれたのだった。
「うん、がんばるよ。美味しいカレーを作ろうね」
ACT.2★本職、発見!
「一応、料理は普通に出来るし、手伝えないこともないけど」
まるぎん店長気合い入れまくりの、充実した野菜類のラインナップを前に、チェスターは腕組みをする。
「まだ材料買ってないんだよな? どんなカレー作るのか、決めてから揃えたほうがいいな」
「妾は野菜かれーが良いと思うのですえ〜」
「あたしもあたしも! 和風の野菜カレーがいいと思うんだ。オクラと山芋と納豆とめかぶと、あといろんなネバネバ食材を投入した激辛カレー!」
ラクシュミが目を輝かせながら、いきなりすっとんだレシピを提案した。
「何かに触るとくっついて離れなくなるカレーなの。特殊効果は30分! それを王子に食べさせたら、SAYURIさん以外の誰かとくっついてくれるかも知れないじゃない?」
「いいね。あと、銀幕市っていったら、やっぱりバッキーだよね。食べたらバッキー耳やしっぽが生えちゃうカレーってどうかな?」
英秋が、特殊効果前提のフォロー(?)をする。
チェスターも、そうだなぁ、と同意した。
「ギャップがある感じのほうが良いんだろうな。普通のカレーだと面白くねーだろうし」
「妾も、まるぎんの野菜の特性を生かせればと思うのですが、なかなか意表をつくれしぴが思いつきませんで」
「そうかぁ。俺が今思いつくのは、素材由来だと、普通に頭が吹っ飛ぶ感じのとか、見た目野菜なのに恐ろしく辛かったりしょっぱかったりとか、特殊効果系だと、普通に背が縮んだり大きくなったり普通に性別が変わってみたりとかだけど……。ま、どれも普通だしな」
あっさり「普通」を連発するチェスターに、
「ううむ。銀幕市民はいべんと時におけるらんだむな年齢変化性別変化種族変化語尾変化服装変化もろもろに慣れておりますからのぅ〜」
「そうだな、ちょっとやそっとじゃ驚かなくなっちまったな」
珊瑚と源内が、うむうむいやはやまったくまったく、皆、刺激に慣れてしまって困ったもんだ、などと相槌を打っている。
後日、この記事を読んだ銀幕市民全員から、いったい誰のせいで慣れてしまったんやねん責任者出てこいコラ、と総ツッコミを受けること必至であろうに。
「まあでも、基本、美味しいカレーを作るという前提でいいと思うよ。カレーに詳しいひとにアドバイスもらえればベストかも知れないね」
英秋が提案した、そのときである。
「適材適所、当意即妙!」
ラクシュミが四文字熟語の歓声を上げた。
「珊瑚ちゃん、地産地消スパイスコーナーにカレー屋店主ゴロさん発見!」
なんと、と、珊瑚の双眸がきら〜んと光る。
悟郎が営んでいるカレー店『GORO』は、カレーの美味しさと店主の渋さが、若いOLや奥様の心を釘付けにし、口コミで評判が広がっているお店である。名物の特製カレーは、たっぷりの野菜と果実をじっくり煮込んだ逸品だ。
「これぞ天の配剤。皆のもの、ごろーを捕獲するのですえ〜! 逃がしてはなりませぬ!」
だだだだだだ、と、一同は特選野菜コーナーを離れ、ダッシュした。買い出し中の槌谷悟郎を取り囲む。
「やあ。みんな揃って買い物かい? 今日は随分と品揃えが良くて助かるよ。日替わりランチのカレーは、ちょっと凝ったものにしてみようかな」
なんぞと呑気なことを言っていた悟郎は、ぐるっと輪になってじりじり迫ってきた面々に面食らった。
「……どうしたんだい?」
「話せば長くなりますが、簡単にまとめるとこういうことですえ〜」
珊瑚に突きつけられたA4コピー用紙に目を通し、悟郎は、ははん、と、頷く。
「市役所の壁が壊れてたのは、そういうことだったのか」
「お願いです、ゴロさん。とてつもないカレーを作るため、力を貸してください!」
ラクシュミが指を組んで目をうるうるさせる。
「ラクシュミくんにそう言われちゃ、断れないね」
頭を掻いた悟郎に、
「みんなで作ると、きっと楽しいですよ」
「本職がいると、助かるな」
英秋が微笑み、チェスターが頷く。
両手を上げ、悟郎は降参のポーズを取った。
「了解。だけど、ダメなものを作ったら店の評判にもかかわるなあ。がんばるとしよう」
ACT.3★レシピ決定と材料選択
「珊瑚くんやラクシュミくんは、野菜カレーを提案していたね」
一同は再び、特選野菜コーナーに戻ってきた。
山なりに積んであるジャガイモ・人参・玉葱から、悟郎は良さげなものを選び取る。
「わたしも、あえて肉は入れないほうがいいんじゃないかと思うんだ。いいブイヨンを使えば、十分コクも出るしね。メインは野菜でフルーツの甘味も加えて――スパイスは強めにして辛みを効かせ、味に幅を持たせよう」」
「じゃあ、基本のジャガイモと人参と玉葱と、あとは?」
買い物カゴに入れるのを手伝いながら、英秋が問う。
「夏野菜がいいわ、ええと、ナスやズッキーニとか!」
言うが早いか、ラクシュミは、『ムービースター岡本治朗さん(職業:漫画家)の作った茄子』と、『ムービースター六本木ミラクルさん(職業:手品師)が作ったズッキーニ』をいくつも抱えてきた。
「うん、夏野菜は加えようと思ってたところだ。あと、ベビーコーンなんか、美味いよね。具材にするフルーツは、やっぱりパイナップルかな」
悟郎もカゴに、『ムービースター夢野ゆかりさん(職業:少女漫画家)が作ったベビーコーン』と、『ムービースター富士山登さん(職業:劇画家)が作ったパイナップル』を追加する。
「リンゴすりおろして入れてみたりとかは?」
チェスターが手に取っていたのは『ムービースター銀崎哲也さん(職業:アニメーター)の作ったマッキントッシュ(注:リンゴの品種名)』である。
「そうそう、具材の他にそういう隠し味的なものも必要だね。あとは、店に在庫があるマンゴーチャツネも使ってみようかな」
チャツネ、の単語に、悟郎の肩の上にいたおとなしげなバッキーが、自分の名を呼ばれたのかと、つぶらな目をくりんと動かす。
「悟郎さん、トマトはどうかな? フルーツと野菜の甘味を両方持ってると思うんだけど」
「いいですね。水煮じゃなくて、あえて生のものを使いましょう」
英秋が持ってきた『ムービースターSTARさん(職業:イラストレーター)の作ったおどりこ(注:トマトの品種名)』もカゴに入れたあたりで、ほぼ、買い出しは終了した。
「じゃあ、さっそくうちの店で試作してみよう」
そして一同の冒険(?)は、カレー店『GORO』へと舞台を移す。
★ ★ ★
メニュー名は、材料を考慮して『新鮮野菜とトロピカルフルーツのカレー』に決まった。
ルーを構成するスパイスは、『GORO』特製調合のカレー粉を使用することにした。
詳細は企業秘密ということだが、推察するならば、コリアンダー、クミン、フェヌグリーク、とうがらし、ホワイトペッパー、ブラックペッパー、ターメリック、オールスパイス、シナモン、カルダモン、クローブ、フェンネル、ジンジャー、メース、マスタード、ナツメグ、スターアニス、リカリス、アニス、ディル、キャラウェー、ローレル、サボリー、オレガノ、ローズマリー、セージ、マジョラム、タイム、バジル、マンダリン、ガーリック、パプリカ、サフランのうち、どれかを使ったり使わなかったりしていると思われる(つまりよくわからない)。
それはともかく、一同は悟郎の進行のもと調理を進め――
カレーは、完成した。
とろりと柔らかく煮込まれた野菜とフルーツ。
素揚げを施して加えられた茄子。
絶妙にして玄妙な隠し味。
食欲を刺激する、鮮烈なスパイスの香り。
しかし、である。
ここまでは、まあ、いいのだが。
問題は――
そう……。
材料が、まるぎん製だということだ。
今 更 だ け ど。
ACT.4★特殊効果、爆発!
「うん、いいできだ。評判が良ければ、うちのメニューに載せようかな」
できあがったカレーを器に盛り、悟郎は一同の前に並べていく。
カレーのいい香りとは裏腹に、そこはかとなくいや〜な予感がしたチェスターは、試食に抵抗しながらも、おずおずと食べる。
「どうせヘンな効果があるんだろ?」
……背が伸びるならとか思わなくもないけど、というのは切ない男心の呟きである。
「いただきまーす!」
ラクシュミは躊躇せず、なかなか良い食べっぷりを見せる。
「いやあ、美味しそうだねぇ」
英秋も屈託のない笑顔でスプーンを手にする。なお、バッキーの白玉たんは、作っている途中からずっと、食材やスパイスラックで遊んだりしちゃってたので、たーぶーん、入れちゃいけないものが多少、カレー鍋に紛れ込んだのではないかと思われる。だが、まるぎん素材の特殊効果威力の前には、可愛いバッキーの悪戯などそよ風であろう。
「おお、このような見事なかれー、王子ごときに食べさせるのは惜しいですな〜」
「ありがたい。朝から姫さんにこき使われて、何も食べてなくてね」
珊瑚姫と源内は、言うまでもなくぱくぱく食べ始め――
そ し て。
「……さっきから、わたしの顔が劇画調になってる気がするんだけど……」
「悟郎はまだいいぞ。俺なんか……」
「あ〜〜れ〜〜〜!!! 源内が少女漫画調になってしまいましたえ〜〜〜。そして、英秋は現代あーと風味に!」
「これ、面白いね。ところで珊瑚姫ちゃんもラクシュミちゃんもアニメ調だね」
「あ、ちょっといいかも。チェスターくんは劇画調かな?」
「………………(あまりのことに言葉も出ず、劇画調な迫力でショックを受けている)」
さ ら に。
「お、おっ、おおーー? これはすごい!」
途轍もない浮遊感に、悟郎は思わず大声を上げる。
「「「「「「身体が」」」」」」
「「「「「「宙に」」」」」」
「「「「「「「浮いたぁ〜〜〜〜?」」」」」」
「これは王子にも受けるんじゃないかな? どことなくインド的だね」
みんなで店内をふわふわ漂いながら、悟郎は、メニュー名をちょっぴり変更した。
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★メニュー名★
【真夏の銀幕市に飛べ! 天にも昇る美味しさ、新鮮野菜とトロピカルフルーツの空中浮遊カレー】
※特殊効果の有効時間はお約束の30分です。
★材料(一部抜粋)
岡本治朗さん(職業:漫画家)の茄子
六本木ミラクルさん(職業:手品師)のズッキーニ
夢野ゆかりさん(職業:少女漫画家)のベビーコーン
富士山登さん(職業:劇画家)のパイナップル
銀崎哲也さん(職業:アニメーター)のリンゴ
STARさん(職業:イラストレーター)のトマト
コンセプト設計&調理進行:槌谷悟郎
素材選択&調理協力:佐藤英秋
素材選択&調理協力:チェスター・シェフィールド
素材選択&調理協力&燃えたぎるDNAパワー投入:沢渡ラクシュミ
オブザーバー:珊瑚姫&平賀源内
後方支援:スーパー『まるぎん』食料品売場
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クリエイターコメント | ええっと。 そんなこんなで、王道編&トンデモ編ともに、無事、カレーが完成いたしました! いろいろございましたが(ホントにな)、ご協力くださったかたがたにはお疲れ様でしたー。 王子への献上については、銀幕市民の皆様のご判断にゆだねると聞いておりますが、どちらもすんばらしい出来映えだと思いますよ、どっちもカオスですけどねえっへん!(おまえが威張るな!) |
公開日時 | 2008-08-18(月) 21:00 |
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