★ 【銀幕市民運動会】 障害物サバイバル・レース! ★
<オープニング>

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 銀幕市民運動会

 参加者募集!!
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 そんな貼り紙が、市役所の掲示板にあらわれたのは、10月に入った日のことだった。
「ええ、そう、運動会です」
 植村は、ポスターについて聞かれると、ニコニコと、手元の資料を広げてみせる。どうやらこれも彼の仕事のようで……また多忙も甚だしいわけだが、それでも楽しそうなのは、なんだかんだいって、この男はこういうイベントごとが好きなのだろう。
「ムービースターの方も含めて、市民なら誰でも参加できます。会場は自然公園の競技場がメインですが、種目によっては、他の場所を使います。全市をあげたイベントだと思って下さい。紅白2陣営に分かれて競争するんですが……組分けは市役所のファイルの整理番号で行うことにしました。たとえば私は「cmba8550」、灰田さんなら「cvtn8683」。末尾が偶数なら紅組、奇数なら白組ですから……この場合、私が紅組、灰田さんは白組ですね」
 広げられた案内には、さまざまな競技種目のリストが並んでいる。
 運動会と言えば欠かせない玉入れや綱引きといったものから、中には、ちょっと見慣れないものまで。
「いろんな種目がありますよ。当日、飛び入り参加できるものもありますが、参加者を事前に募集しているものもあります。よかったら、あなたも出場してみませんか?」

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「だからって、私は出ないんですからねっ! か弱い乙女に障害物競争なんて……!」
「……そうはおっしゃられますけど」
「フェアさん立体映像なんでしょ? 自分で走ればいいじゃない。ロケーションエリアとか使ってさぁ。私はときめくワンショットを獲りにビデオカメラを構えてなきゃいけないんです! ムービースターたちの競演……ジャージだと学園パロっぽくてなおさら……」
「御自分の趣味をだだ漏れさせるのはご遠慮ください! 時と場合によっては不愉快です。――それにしたって限界というものがございますし、ロケエリは使用不可ですよ。それに私が走れるとも思えませんし」
 何やら市役所の一角が騒がしくなっていた。なにかと見やれば、そちらにいるのは一人の女子大生と一つの立体映像だ。視線に気づいたか、二人はふと言い合うのをやめた。
「あ、あのほら、今度銀幕市民運動会があるでしょう?」
 気まず過ぎる沈黙に、女子大生……二宮由佳が口を開いた。
「その競技の一つに、障害物競争があるらしいんですね。で、この使えないノートパソコンが出場者を集めようと」
 使えないは余計でございますとさくっと突っ込んでから、立体映像……フェアがその語尾を引き取って続けた。
「そうなのです。障害物はみな銀幕市にいままで起こった事件を模しているそうでございますよ。なんでも、今まで起こった障害を乗り越えてきたように、障害物競争でも乗り越えてしまえということらしいのでございます」
「事件と障害物じゃえらく差がある気がするけど」
「そんなこと関係ございません。運動会でございますから何でもありなのでございます」
 澄ました顔でコメディ出身のムービースターはそう言い切ると、やけに期待に輝く瞳で手にしたビラを示して見せた。そこには参加者募集の文字が躍っていた。

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 銀幕市民運動会

  障害物競争

☆いままで乗り越えてきた数々のイベントや事件に見立てた障害を、
 あなたは潜り抜けることができるのか!?

☆予定障害物
 1・キノコ騒動(麻袋に両足を入れて跳ねて進む)
 2・忘却の森の茨(網が張られたコースを進む)
 3・雪まつりとチョコレートキング
   (飴食いならぬチョコ食い。手を使ってはいけない)
 4・ピラミッド(跳び箱を跳んでいく)
 5・ダイノランド(簡易プール上の飛び石を進む)
 6・『穴』(落とし穴フィールドをよけて進む)
 7・公園整備(スコップにボールをのせて進む。よくスプーンとピンポンで行う)

☆ぜひばっちり対策を練られてご参加ください。
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「ね? 楽しそうではございませんか! ぜひご参加ください。……私は白組でございますので、白組だと嬉しいのでございますが」
「ちょっと……! 勝つのは紅組なんだから!! 紅組の人、ぜひ参加してくださいね!」


種別名シナリオ 管理番号758
クリエイター有秋在亜(wrdz9670)
クリエイターコメント<ご案内>
このシナリオは10月18日から開催予定のイベント「銀幕市市民運動会」に関連するイベントシナリオです。ノベルでは「当日の競技の結果」が描写され、会期中に公開されます。競技の結果、配点があり、他シナリオや掲示板イベントなどと合わせて、大会の全体結果に影響します。

なお、組分けは「キャラクターID」によって次の通りに行われます。
・キャラクターIDの末尾が偶数……紅組
・キャラクターIDの末尾が奇数……白組
※組分けを間違えないように十分注意して下さい。

こんにちは、有秋です。
運動会の季節ですね。体力の限界に挑む時期ですね。
運動苦手な有秋ですが、シナリオを持ってこさせていただきました。

配点の都合上、このWR欄でお願いさせていただくことがひとつあります。
予定の障害のうち、得意なものを二つ、苦手であろうものをひとつ、番号でよいのでプレイングの端に書いておいてください。他の人が得意ではないところで得意だと、一着の可能性が高くなります。
また、一つがすごく得意で、一つが苦手、でも可能です。
イメージとしては、プラスを二つ、マイナスを一つ持っていると考えてください。
それを参考に、順位をつけさせていただきます。

参加者
梛織(czne7359) ムービースター 男 19歳 万事屋
李 白月(cnum4379) ムービースター 男 20歳 半人狼
藤田 博美(ccbb5197) ムービースター 女 19歳 元・某国人民陸軍中士
ウィズ(cwtu1362) ムービースター 男 21歳 ギャリック海賊団
<ノベル>

 ぽん、ぱぽぽんっ。
 軽やかに空砲が鳴り、運動会が行われているグラウンドは活気にあふれていた。現在の種目は銀幕市を模した障害物競争。賑やかな歓声が、一層華やぐ――次のランナーの、登場だ。と、どこかで聞いたような声。女性が進行しているらしく、やたらはりきった声が拡声器を通して流れてきた。
『それでは、次のランナーを紹介します――第一レーン、えー、白組! ムービースターの梛織さんっ!』
 軽くウォーミングアップしていた梛織が顔をあげ、歓声に応えるように軽く手を振った。上はだぼだぼの三本線ジャージに下はハーフパンツ。すらりと伸びた足を丁寧に屈伸させることでひらひら揺れているのは、額に巻いた白の鉢巻きだ。とんとんっと軽く跳ねると彼はにっこりと笑ってまたギャラリーに手を振った。
「応援よろしく―!」
「運動会なんて初めてだからわくわくするな」
 その隣でやはり体をほぐしながら、李白月が瞳を輝かせて呟く。その言葉に梛織がにっと笑った。
「何かこの盛り上がってる感じがいいんだよなー」
「なんかもう、ここに立ってるだけで盛り上がるというか」
『もう本当にジャージのあの上下のチョイスは素敵ですね! なんでしょうかあのひらひら鉢巻きとかダボダボのジャージとか! それだけで一位をあげたくむぐふむ……ちょ、なにすもご! ――えー、申し訳ございません、音声が乱れました。その隣に並んでいらっしゃるのが、第二レーン、白組・ムービースターの李白月さんです!』
 途中からなぜか声が別の人間に切り替わったが、特に問題はないらしくそのままギャラリーも盛り上がっている。白月が梛織に習って手を振っていると、そのままアナウンスは続けた。
『そしてその次、第三レーンはこのレースの紅一点でございます、白組・ムービースターの藤田博美さん!』
「……ん?」
 やはり体を動かして暖めていた博美はそのアナウンスにふと顔をあげてから、「ありゃー」と呻いた。黒髪を少し掻きあげてから首を傾げる。
「私白組だったのね。忘れてエントリーしてたわ」
「忘れてたって」
 きれいに梛織と白月がハモった突っ込みに、彼女はひょいっと肩をすくめた。
「今回は紅組参加とかダメかしら」
「やー、それはどうだろ」
 あははとウィズが苦笑する。それに合わせたように、紹介が入った。
『そして最後、第四レーンが紅組・ムービースターのウィズさんでございます!』
『きゃあぁっ、このレースはどうやら見事にムービースターの競演となった模様です! ときめきますねっ! これはまさに銀幕市ならでは! まるで学パむぐふもごっ!?』
 周囲に手を振っていたウィズが、スピーカーからのやり取りにそちらを向いた。風になびくのはある意味紅一点な赤の鉢巻き。ジャージを着こんでやる気は十分とばかりに足の腱を伸ばしていたが、放送席に向かって手を振った。
「やっほー由佳ちゃん。原稿頑張ってるー? あ、オレ紅組だから。よろしくね♪」
 なにやら電源が切られたマイクに向かってししょーとかなんとか言っている声が放送席あたりから聞こえたが、ウィズはきょろきょろと他のレーンを見回して苦笑する。
「あーらら、今回の競技、なんか紅組オレ1人みたいだねー」
「わー、偏ってる」
 思わず小声で突っ込みを入れた白月に、ウィズがあ、と言った。
「あ、白月さん。いつもお世話になってます。……それに博美ちゃんもお久しぶり」
 ええ、と博美がにっこりして頷き、白月がいつもお世話にというほど何かがあったかしらんと首を傾げる。あっごめんあんまり深く気にしないでとウィズが手を振った。まさかあなたをモデルにちょっとひと儲けしてますとは、本人に面と向かって言いづらい。
「……だから私が……あら、でもこのレース、ほかの組も均等ってわけじゃないみたいね」
 博美が順番待ちや走った後の選手を確かめながら呟いた。ウィズがなおも手を振る。
「なるほどねー。あ、でももっちろん1人でも、全力で頑張るから応援ヨロシクねー! あ、チアガールのコスとかだったら尚頑張っちゃうかも、なーんて」
 彼はそこまで言ってふふっと笑うと、唐突にびしりと第一レーンにいた梛織を指さした。
「そしてー、ライバルは、梛織くん! 負けないからね、覚悟しておいてー?」
「俺かよ! ――いや、俺だって負けないですからねー!?」
 びしッと入る裏拳付きの突っ込み。
「最近は体も鈍ってるしね。新兵だったころを思い出すわ」
 完全に今時の女子大生ながら実は元軍人さんだったりする博美が、わくわくと呟いた。
 それでは各人、位置についてくださいという放送が、選手たちの表情を、このレースを楽しもうという気持ちを浮かべたまま、ぴしりと引き締めさせる。

 *

「それでは位置についてくださーい」
 チアガールは間に合わなかったのか、ジャージにお下げ姿の二宮由佳が、ビニールひものぽんぽんと開始合図用のピストルを手に現われた。
「位置について、用意、ドン! ではじめますからねー」
 彼女はピストルを持った手をまっすぐ頭上に掲げると、開いた手で片方の耳をふさいで声を張り上げた。
「位置についてっ!」
 四人がそれぞれ体勢を整える。
「よぉーいっ!」
 しん、と空気が張り詰めた。

「ドンっ!」

 タァーンという軽やかな空砲とともに、四人の選手は一斉に飛び出した。

 *

「あら、麻袋。……教官のシゴキを思い出すなぁ」
 飛び出した選手たちを待ち構えていたのは、麻袋と編笠だった。どうやらこれをかぶって袋に足を突っ込んで飛ぶということらしい。早速笠をかぶってふと横を見た白月はふと横を向いて……
「ってどこまで入ってんだよ!」
 なぜか頭まですっぽりと麻袋に収まってしまっている博美を見て思わず突っ込んだ白月に、彼女は軽く笑った。
「麻袋に詰め込まれるとこから脱出するの思い出しちゃって、つい」
「詰め込まれるって……」
 ひょこっと脱出した博美が頭に笠をかぶり、白月が麻袋に両足を入れて飛び始めたころに、ちょうど梛織とウィズもスタートを切ったところだった。
「うぉっ、これ結構難しいな……」
「梛織くーん、バランス崩したらオレの胸に飛びこんでおいでー」
「崩しません飛び込みませんッ!!」
 ちぇ、つれないんだからとウィズが呟きつつもぴょんぴょん跳ねる。
『最初の障害は麻袋です! ちょっと遠目に見ると確かにキノコっぽくもありますねー。各選手、一歩も譲りません!』
 ぴょんぴょんと跳ぶ四人はほぼ横一列で、誰も先行しない。やはり運動に秀でている選手がほとんどのせいか、かなりのペースの割と誰一人遅れることなくレースが展開されている。
 ――最初に着いたのは、誰だったろうか。
「っし、次!」
 白線を越えたとたんに笠を投げて麻袋を放り、いざ次の障害へと思った梛織の足が、ぴくりと鈍る。その眼前に広がるのは、なにやらあまり面白くない思い出を彷彿とさせる、茨を模した緑の網。
「次は網? 潜るのかな」
「そうみたいね。じゃ、お先に」
「……梛織?」
「っあ、ああ」
 ひょいっと笠を地において、網をくぐり始める三人に、慌てて梛織も続く。が。
『次の障害は忘却の森の茨ならぬ網! ……っとおおっと? 梛織選手が一歩遅れていますがどうしたことでしょう!?』
「忘却の森……」
 ジョとかソウとかそう言うもののトラウマが何とはなしに思い出されのか、一瞬網の下を潜るのをためらってしまったのだ。
「金剛山の麓を思い出すわね……あそこは寒かった」
「……博美ちゃん金剛山って」
「極寒の中飛んだり跳ねたり這ったりしたのよ……残念ながら日本ですらないけど」
「それ聞く限りだとそこまで残念でもない気が――よしっ、抜けた!」
 白月が網をはねのけて次のコーナーへ駆けつける。博美とウィズがそれに続いた。続く障害は……チョコ食い。
『お、三人が先に抜けました! 梛織選手がそれに続きます。次なる競技は……飴食いならぬチョコ食い! 雪まつりとも絡めてあるだけあってお馴染みの小麦粉がなんとレース前半に登場です!』
「げ。何にも見えないじゃん」
 手を後ろ手に回し、真っ白なパッドを覗き込んでウィズが呻く。その横でやはり手を後ろに回しつつ、博美がにこにことした。
「手を使わないのは朝飯前ね。後ろ手に縛られてても歯磨きだってできるもの」
「え……それ、どうやるの?」
「チョコ……えー、ここだっ!」
 手を後ろ手にやった白月が、すん、と小さく鼻を動かして小麦粉に顔を突っ込んだ。狙いたがわず一発でミルクチョコレートのかけらを口にした白月は、髪の白と同じく白くなってしまった顔からぱたぱたと小麦粉をはたき落すと、一目散に駆けだす。
「お先ぃっ」
「あら、置いてかないで?」
 同じくビターチョコをほおばりながら追ってきたのは博美だ。彼女はなぜか鼻の頭にしか付いていない小麦粉をぽふぽふと払い落しながら続けた。
「顔が汚れる競技が前半なんて。ある意味驚異的よね」
 二人ともひょいっと無造作に、しかも少し顔を伏せただけで次の瞬間にはチョコを口に駆けだしていた。あまりの速さに会場からどよめきが沸き起こる。
『おおっと! これは凄まじい速さです! 李選手と藤田選手が一歩リード! 手こずるウィズ選手にすでに追いついている梛織選手は、ここで抜くことになるのかっ!?』
「チョコ……どこだ……」
「目に入る……あ、あった!」
「やった!」
 ほぼ同時にチョコレート片を探り当てた二人が顔をあげてふとお互いを見る。
「っあはは! 梛織くん真っ白!」
「ウィズさんこそ前髪小麦粉」
 前の二人に追いつこうと駈け出す梛織に、同じく駆けだしたウィズが口を開く。
「小麦粉、これでとれてる?」
「だから前髪に」
「えー、見えないもん。梛織くん払ってー」
「……仕方ないですねッ」
 追いつこうと走りつつお互いはたいて小麦粉を落としている間に、前の二人はどうやら次の障害にたどりついたようだ。
「これ、跳んでけばいいのよね」
「っと……跳び箱、か」
 博美と白月が、段ボールでそれっぽく装飾されている跳び箱を見て呟いた。助走をつけて一つ目の跳び箱を飛び越す。
『先頭の二人が早くも挑む障害は跳び箱! あの突如現れたピラミッドを模してるとのことですが……あの段ボールは』
『それっぽさのためでございますね』
『すみません、ちょっとびみょーかなって思っちゃいました……』
「得意分野っ!」
 走ってきたウィズと梛織が同じように一つ目の跳び箱に取り掛かる。が、そこで一斉に会場が沸いた。軽い助走だけで、軽やかに跳び上がった梛織が、すたんっと身軽に降り立つ。続く二つ目で前の二人に追いつくと、これまた軽やかに……宙返りのおまけつきで飛び越えていった。
『おっとここで梛織選手がまた一位争いに浮上です! これは綺麗ですね!』
「やっぱり普通に飛べたところでアドバンテージは取れないものね」
 梛織の姿を見て博美がううんと呟いた。
『これはハイレベルですねー! 全選手、跳べて当然のようです』
 とりあえず苦もなくクリアしたウィズが前を追い掛ける。――選手たちの前に間もなく現れるのは、ビニールシートを使って作られた、巨大な池、だ。
「おっさきー」
 真っ先に辿り着いた梛織が、これまた軽やかにぐらつく飛び石をひょいひょいと飛んでゆく。後の三人が、それを追う形となった。
「これ――先に人が通った後だと余計難しいな!」
 あわやバランスを崩しかけそうになりながらもしかし落ちず、白月が言って後を追う。
『お次はダイノランドを模した? 浮島を渡っていきます! っていうか、ダイノランドってああいう諸島じゃないですよね? ――え? ごっごめんなさいちょっと口が滑って』
「海賊に……水の上で勝負を仕掛けるなんてなかなかだね!」
「あー、水着着てくれば良かった。濡れてもいい格好にすれば良かったなぁ」
 博美とウィズが、足元に注意しながら進む。
「でもこのためだけに水着で他の障害通るのもどうなの?」
「んー、それもそうっちゃそうだけど」
『おおーっ! 梛織選手が一歩リードです! これはすごいバランス感覚だ! 抜き方がまた鮮やかですねー! しかしまだ逆転のチャンスは全選手にあります! 頑張れ!』
「通過ッ!」
 いち早く再び陸に降り立った梛織は、ぴたりと足を止めた。目の前に広がるのは、それっぽく草を被せてあったり、いかにもに均してあったり、一見何もなさそうに見える、フィールド。
『現在先頭、梛織選手が落とし穴フィールドに到着です! これは『穴』に無理矢理こじつけましたねぇ。あっはいすみません。……えーと、全部が穴というわけではなく、フェイクが織り混ぜられています! 心してお進みください! ――おおっと!? 後ろが追いついてきました!』
 首をかしげながらも前に進む梛織に、博美が追いついた。一面の落とし穴を見渡し、肩を竦める。
「落とし穴に落ちるのは乙女の仕事じゃないわ……ええっと……」
「追いついたぁっ!」
 白月が無造作にフィールドに駆け込んだ。野性的な勘か何かが働いているのか、すいすいと本物の落とし穴を避けて軽々と梛織に追いつく。
「うん。こういうのは先に進んだ人の後を進めばいいのよね」
 ぽむっと手を打って、博美が白月の後を追う様に駆けだした。そこでにやりと小さく笑ったのはウィズだ。
「体力温存しといた甲斐があったなー! こういう典型的罠なんてお手の物だぜ」
 何の迷いもなくウィズが落とし穴フィールドに向かって駆けだす。と、その前方で派手な悲鳴が上がった。
『おおっとー!? 梛織選手が落とし穴に捕まったか!? 流石は貧乏籤カルテットと囁かれるだけあります! あー、しかもあの穴は……』
「ちょ! 深っ! っつーか、下に針山とか何これ!? 運動競技にこんなんあり!? 罠じゃねぇか!」
 さりげなくそこに入れられている針山に顔を青ざめていた梛織は、ふと何を思ったのか後ろから追いついてくる(はずの)ウィズに向かって声を張り上げた。
「ウィズさん! 助けてよー! 可愛い俺が穴だらけになっていいの!?」
「梛織くんにそこまで言われちゃあ、オレとしても可愛い梛織くんを放っておくのもしのびな――」
 追いついてきたどころか実は追い抜いていたらしいウィズが穴のそばにやってきたのを見計らってぴょんっと穴から飛び出た梛織は、すたたたっと駈け出した。
「おっ先に〜」
「あっちょっ、梛織くん!?」
『きゃああっ、これは目が離せなくなってきましたねっ! 白熱したレース展開となっております! ――ああっ! ただいまの暫定一位・李選手がどうやら最後の障害に着いたようです!!』
「……これを落としたらまずいのか」
 意外と腕にずっしり来るスコップを持ち、白月はその上にボールを乗せた。隻眼のせいか、もののバランスを取るのがなかなか難しいのだ。ぐらつくボールを支えつつ、ともかく走り出す。
「これが最後ね? ……スコップ……武器なんだよね。妨害する以外にやることってあるかしら?」
「よっし、さくさく行くぜっ!」
「結構重いねー」
 博美と梛織、それにウィズがスコップにボールを乗せて駆けだす。
『三人も追い付きました! いち早く飛び出したのは梛織選手だが……二人の追い上げが速い! これはどうなるのか全く見当が付きません! と、ああっ!? 李選手がボールを取り落しました!』
 あわててボールを乗せなおし、白月はちらりと後ろの方を見やった。と。
「はぁい」
 にこっと、スコップの裏にボールを器用に載せてすぐ横を走る博美と目が合う。
「いや、裏ってどんだけ扱い慣れてんの!?」
「慣れてるというか、ねぇ?」
 裏、表と面からはなさないようにボールを転がしつつ、博美が首を傾げる。じゃね、と軽やかに彼女は走っていった。
「ちょ、待っ……いや、まだ間に合う!」
『藤田選手のボールさばきが見事ですねー! 李選手と藤田選手が逆転しました! きゃあっ、これは展開が読めません! どどどどうなるんだろうじゃない、どうなるんでしょうか!? あ、ウィズ選手、これは速いっ!!』
「なーおーくーんーっ!!」
 逃げの一手、とばかりに駆けて行く梛織を怒涛の勢いで追いかけつつ、ウィズが声をあげた。
「レースっていえばさー、この間のツインテール可愛かったよねー?」
「う……!?」
 ぎくりと一瞬身を止める梛織。そのせいでぽろっと手元からボールが落ち、慌てて拾いあげる。その横をさらーっと軽やかに駆け抜けながらもウィズが慌てたように声をかけた。
「猫耳も似合いそうだし――って梛織くん、足、足動いてないよー!?」
「っあ、やべっ?!」
 
 ゴールはすぐ目前。四人がスコップとボールを置いて最後のダッシュをかける。

『――ゴールっ!!』

 場内が一瞬で沸騰したかのように、にわかに歓声に満ち溢れた。

「はあっ、はぁ……っ、こ、こんなに運動のためだけに運動したの、久しぶりだな……」
 息を切らして顎の下の汗をぬぐいながら、白月が笑う。
「ふぅ……あー、楽しかった」
 にこにこと博美が腕を伸ばす。膝に手をついていた梛織が顔をあげて体をのばすと、さっとウィズの方を向いた。
「ウィズさん最後の最後であんなこと言うなんて――」
「えー? でも、梛織くんあれはスポーツマンシップに乗っ取ってないよねぇ? 落とし穴」
 にやにや、が似合うような笑い方でウィズが返す。う、と言葉に詰まる梛織。
「ダメだなぁ、そんな悪い子にはお仕置きっ!」
「い!?」
 そのやり取りに白月がポンと手を打つ。
「あー、あの落とし穴の。……ま、頑張れ梛織」
「お仕置きって?」
 頭を抱えてしゃがみ込む梛織を見つつ何気なく博美が訊ねると、ウィズは満面の笑みで一言。
「今度猫耳メイドフィギュアを作ってみたくて」
「いーやーだー!?」
『はーい皆様お待たせいたしましたー、先ほどのレースの結果が出ましたので発表いたします』
 入った放送に、四人はそう言えばと顔をあげた。
「……そういえば、順位出てなかったな」
「正直な話、最初からあまりこだわってはなかったけどね」
 静まり返る場内。アナウンスの声が、わんわんとエコーを残して響く。
『えーと、写真判定の結果、一位・藤田選手、二位・ウィズ選手、三位・李選手、四位が梛織選手です! ちなみにほとんど僅差でしたー っていうか私としてはカメラ持ちださなくても、ときめいたしぶっちゃけみんな一位でいいと思もぐほむぐっ!?』
『失礼、音声が乱れました。――それでは、四人の選手に盛大な拍手を!』
 わあっ、と歓声が盛り上がる。嵐のように響く拍手にこたえて四人は手を振った。
「……って言っても、これで終わったわけじゃあないんだよな」
「だな。まだほかにも競技があるし」
「目一杯楽しめそうねー」
「そゆこと! じゃみんな、運動会も含め、今後の健闘を祈って――」

 四人がそれぞれ出したこぶしが、こつんと真中でぶつかった。
 ――秋の空に響き渡る歓声が、高く澄んだ空を華やかに染め上げている。



クリエイターコメントどうも、有秋在亜です。
運動会、盛り上がっておりますでしょうか?
このたびは障害物レースの結果をリポートさせていただきました!

順位ですが、プレイングに書いていただいた得手不得手と、プレイングの内容(書き方の巧みさではないですよ、念のため)とを参考につけさせていただきました。厳密な集計法のようなものは使っていないので、そのあたりはどうかご勘弁を。

銀幕市をちょっとだけ振り返る、障害物競争。
楽しんでいただけたならば、幸いです。
このたびはご参加、ありがとうございました!
公開日時2008-10-18(土) 21:10
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