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<ノベル>
【一】
かっぽかっぽと蹄を鳴らす馬にまたがりながら男はため息をついた。
山野御大(ヤマノオンタイ)は探し人は見つからず、半ば途方にくれた。
市役所から出ると、銀幕広場でコンサート会場へ向かっていく一団とすれ違う。
「時間はあまりないようであるな……はぁっ!」
山野は手綱を打ちつけ、市街から外へと馬を走らすのだった。
馬と共に星砂海岸へつくと、強い風がふき、麦藁帽子が風と追いかけっこをしてきた。
さっと手を出し捕まえると、白いワンピースを着た少女が山野のほうへ駆けて来る。
「あ、ごめんなさぁい。わたしのでぇすぅ」
両手をさしだし、受け取ろうとするその少女と植村からもらった写真を見比べる。
「そちが、柏ルミであるか。保護に参った」
「柏ルミって役の名前よ、おじさま」
麦藁帽子を受け取ると、少女はからかうように笑った。
「なぬ! では、そちは柏ルミでないと?」
「わたしは御座鳴キミコよぉん。役名じゃなくって、芸名で覚えてほしいわ♪」
両手を腰に当てて踏ん反りかえるキミコを前に、山野は米神をつまんでため息をついた。
「そちに瓜二つな女子をどこかでみかけなんだか?」
「わたしのそっくりさん? それなら、今、記者会見会場よ」
【二】
「記者会見はそちの仕事のはずであろう? ならば、なぜここにいる?」
馬から下りず、山野は顔をしかめながら、キミコを見下ろした。
「なんでって言われてもぉ。遊びたいから?」
「そちに責任感というものは、ないのであろうか?」
軽薄な回答に嘆かわしいとつぶやきながら、首を左右に振った。
「まだ記者会見は始まってはおらん、ゆくぞ」
しかし、山野の言葉にキミコは首を振った。
「何で、記者会見から逃げてきたのに戻らなきゃならないわけぇ? ばっかじゃないの?」
「ばかとは……余をばかと申すか!」
山野は顔を赤くして、キミコに食いかかろうとする。
だが、人の上に立つものとしての理性がそれを食い止めた。
「ならば、申すが己に課せられた命をまっとうせず、本能に殉ずるそちは何であろう?」
山野の問いにキミコは考えるまでもなく、自信に満ちた目で山野を見ながら答えた。
「仕事は自分で選ぶものでしょぉ? それだけの権利だって、わたしにはあるのよ!」
「義務を果たさず、権利を掲げるとは。最近の女子は変わったであるな……」
説得は無理なのかと、山野は心の中で思う。
だが、彼女自身のためにもやらなければ……。
【三】
「どうして、そちは自由を求めるのだ?」
キミコに山野は問いかける。
キミコは帽子を持ったまま、山野に背を向け、堤防の階段を下りていく。
「望んでこの仕事にはいったんだけどさ、思ったより窮屈で……」
「華やかなのは表だけだったと?」
「そういうこと、地味な仕事やお堅い会見とかそーゆーのを求めてはいないのよ。わたし」
山野は馬から降りて、堤防の上に立った。
扇子で額を突きながら考えて、重い口をあける。
「しかし、望んだことであるならば、どのような仕事も請けるのが責任であろう?」
「なんで、そんなことあんたに言われなきゃいけないわけぇ?」
反論するキミコへ山野の扇子が刺すように向けられた。
「どの世界であろうと、権利とは義務を果たしてこそ得られるものであるぞ」
山野は微笑み扇子を広げて口元へ当てた。
「そちが、自由を欲するならばそれをなせるだけの責務を果たすのが普通であろう?」
「それはそうだけど……」
「その自分が嫌がることを見ず知らずの他人に押し付けるようでは、長くはあるまい」
山野は挑発するかのように目を細めた。
「勝手なこといっているけど、あんたこそなんなのよ!」
キミコは山野へ詰め寄った。
「わたしは選ばれて、役者にもなったわ。輝かしい世界で生きたいの!」
「もう、地味な生き方はしたくないの……」
感情があふれ出したかの用に馬に抱きつき、涙を流しだした。
「なにやら、深い理由があるようであるな」
山野は扇子を腰帯に納め、耳を傾けた。
【四】
山野の馬にもたれかかり、ぽつぽつとキミコは話し出した。
「昔、学校でいじめられていて。地味で、内気で」
「でも、アイドルのオーディションの広告を見て、変われるって思った。全部」
「外見をいくら取り繕っても、かわれはしない。内面から変えていかなければ……」
「いわれてみて自分がいやなやつだってのわかったから、ダメなのかな」
そのとき、草むらがざわめいた。
でてきたのは隠れファンたち。記者会見までの時間つぶしに探していたようだった。
「こ、こんなところで密会!」
「俺たちのキミコちゃんが、あんなおっさんとなんて!」
口々に好き勝手言い出すファンたち、キミコはどうしていいかうろたえていた。
「そちが行ったこと……その結果がこれである。そちが望んだことはこのことか?」
パシャパシャとカメラのフラッシュが光、キミコは山野の裏に隠れだす。背丈は等しい。
「本来の仕事に戻るか?」
「こんなスキャンダルで芸能界終わりたくないもの……ちゃんと仕事する」
「それこそ武士(もののふ)の役目」
山野はキミコの言葉に頷くと、腰の脇差を抜き出した。それを見て人だかりが下がる。
そのとき、山野の刀が光、線を描くとファンたちが持つカメラを真っ二つに切り裂いた。
真っ二つに割れたカメラにぎょっとするファンたち。
「抜けば珠散る氷の刃、よらば刀のさびにいたすぞ?」
じりじりと下がりだすファンたちを尻目に、山野が馬に乗りキミコへ手を差し伸べた。
「変わりたい、変えたいのであればそちから手を差し伸べるべきであるぞ」
山野のそばされた手を握り締め、キミコは馬へまたがった。
【五】
夕日の赤に染まりだす並木道。
買い物帰りのカップルなどでごった返している。
「どけぇぇっ!」
そんな日常から程遠い叫びとともに馬が駆け行く。そこに乗っているのは山野とキミコだ。キミコはぎゅっと山野にしがみついていた。
「日がだいぶ落ちかけているな……」
「まだ、間に合うと思う……急いで!」
だが、会場は繁華街。人波が荒れ、信号機が進路を遮断する。
「仕方あるまい、余の晴れ舞台をそちに見せてしんぜよう」
手綱をとり、気合をいれた。すると、山野を中心に世界が白黒になっていく。
動く人が時代劇の町人の格好になり、町並みも長屋風に代わっていく。
人波がコマ送りのようになったとき、脇を馬が駆け抜けた。
「な、なにこれ!」
「ロケーションエリアであるぞ。余はムービースター山野御大なり」
「ムービースター……。あ、マネージャーに注意されたあの」
「そう。そして、そちが入れ変わった女子もムービースター柏ルミである」
「通りでそっくりなわけね……謝らなくちゃ」
最後の言葉は流れる景色に飲み込まれた。
【六】
記者会見会場となっているホールの前にはすでに整理券を持った人だかりができていた。
その最後尾の果てより、砂煙を巻き上げて、疾風が駆けてくる。
「下民よをあけい! 山野御大、推して参る!」
その叫びと同時に、ねって並んでいる人垣の上を馬が飛び越えた。
大きな虹のようにぐっと伸びた馬が人々を越え、誰にもぶつからずに着地した。
夜になり、記者会見と突発的なミニコンサートが会場では行われた。
ファンにはうれしいアクシデントに、夜空は多くの声を受けてまぶしく輝いた。
それを夜の銀幕公園から眺める二つの影がいる。『柏ルミ』と『山野御大』だ。
「あの女子は無事、自分の仕事と言うものを確立してゆくであろう」
「そうですね……少しうらやましいです」
「そちには別の仕事があろう。余にもな」
馬が二人を乗せて夜の聖林通りに向かい、消えていった
【七】
それから数日後。
御座鳴キミコの次回作は『お殿様日本晴れ〜今度は黙っちゃいられないぜ〜』らしい。
昔のサイレント・チャンバラの復刻版らしいが、今までのキミコで受けない仕事だった。
どうして、こうなったのかマネージャーも驚きらしい。噂ではキミコが提案しただとか。
真偽のほどは銀幕ジャーナルで調査中。
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クリエイターコメント | こんな具合となりましたがいかがでしょうか? 満足していただければ幸いと思います。
殿様な山野さんをうまく表現できているのか不安ではありますが、雅にのびのびと表現させていただきました。
感想、指摘などお待ちしております。 再び、共に物語を作れる日まで、ごきげんよう |
公開日時 | 2006-11-15(水) 22:20 |
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