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<ノベル>
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その館は銀幕市の外れ、杵間山の麓にあった。
明治時代に建てられたと言うだけあって、年月の持つ独特の重みを醸し出している。
その二階の窓から見えるのはこの館の主、ブラックウッドだ。
彼の視線は遠く銀幕市の中央部に向けられている。
ここは銀幕市内であるとはいえ、中央部からは遠く離れている。
それにも関わらず、こうして視線を向けいているのは吸血鬼としての嗅覚が働いたのか、はたまた彼の視力はそれほど離れた先の景色までも捉えているのか。
そこでふと、ブラックウッドは視線を近くへと向けた。
その先には、立派な屋敷の佇まいに惹かれて来たのか3人の盗賊たちが向かってきていた。
一人は鉈、一人は鎌、最後の一人は斧を持っている。
たった3人で専用の武器も持たずに吸血鬼の屋敷にやってくるとは余程の命知らずのように思えるが、ブラックウッドとしてもうっかり門を破壊されでもしたら面白くない。
ブラックウッドは少しの逡巡の後、階下へと降りていった。
「やぁ、よく来たね」
表までやってきたブラックウッドは柔らかな笑みを浮かべながら盗賊たちに近寄った。
「外は寒かっただろう? 早く中に入って温まるといい」
そんなことを言いながら、彼らを屋敷の中へと案内し、温かい飲み物も用意してやった。
あまりにも予想から外れたブラックウッドの行動に3人も毒気を抜かれてしまったらしい。
戸惑いながらもブラックウッドの勧めに従っている。
そんな様子を見てブラックウッドは言葉を漏らす。
「そろそろかな?」
唐突なその言葉に盗賊たちが顔を上げると、ブラックウッドは魅了の邪眼を発動させた。
そのまま盗賊たちの目を覗き込むと、彼らの目がブラックウッドへの好意を湛え始めた。
そして、頃合いを見計らってブラックウッドは彼らに語りかける。
「ところで、屋敷は気に入ってもらえたかな? 私自身はなかなか気に入っているのだけれど、管理が大変でね。最近は何人かメイドも置いているのだけれどなかなか庭の方まで手が回らなくて困ってしまうよ」
肩を竦めて見せると、既にブラックウッドへ並々ならぬ好意を持たされた盗賊たちは勿論こう答える。
「それなら、俺達が手入れします!」
そして、ブラックウッドはそっと笑みを深めるのだった。
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その日、聖杯通りの銀幕広場近くにあるコンビニにアルは居た。
本当は休日であったはずだったのだが、欠勤した相棒の代わりに休日出勤する羽目になってしまったのだ。
いや、彼にも理由があるのは分かっているのだ。
どうしても、今日彼は出勤することが出来なかった。
しかし、だからと言って自分が休日出勤せねばならないことを良しと出来るかというと、それはまた別の話である。
アルにも休日の予定というものがあるのだ。
それが白紙に帰してしまった上に、使い魔ルビーも拗ねてしまって今日は口をきいてくれない。
気分が塞いでしまうのも当然のことだろう。
そうであるからこそ、目の前の状況はアルにとって勿怪の幸いであった。
いきなり怒声と他の客の悲鳴が聞こえてきたときは迷惑な客が来たかと身構えてしまったが、今となってはそんな失礼なことを考えてしまったことを謝罪してもいいくらいの気分である。
やって来たのは迷惑な客は迷惑な客でも、強盗だったのだから。
武装して入店してきた彼ら2人は、アルに獲物を突きつけてこうのたまったのである。
「金を出せ」
全くいい憂さ晴らしが見つかった。
アルは隣で硬直している店長に軽く微笑みかけた。
「ちょっと掃除をしてきます」
返事は待たなかった。アルは2人の顔面を潰れてしまわない程度に殴ると、彼らを引きずって外へ出た。
向かう先は騒動の中心、銀幕広場だ。
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銀幕市に異変が起こってからもう何日も経つためか市民達の避難の腕前は格段に向上したらしく、いつもは賑わっている銀幕広場も今日ばかりは人気がない。
そんな静寂を破るように、広場を全速力で横断する男達がいる。
その先頭を走るのがマックス・ウォーケンだ。
彼の後ろからは盗賊団員と思しき武装した男達が笑いながらマックスを追い立てている。
元々、マックスは盗賊団を入口で食い止めようとしていた。
彼らがファンタジー世界の住人であるということから、銃には敵わないだろうと踏んだのである。
だから彼は広場に殺到する盗賊たちに向かって銃を突きつけながらこう叫んだのだ。
「動くな! FBIだ!」
マックスの予想はある程度は当たった。
確かに彼らの武器は良いものでも剣や弓であって、大半は農具であった。銃を持っている者など居なかったのである。
だが、マックスの誤算は盗賊と盗賊団の区別を付け忘れたことである。
多勢に無勢、逆に追い回される結果となってしまったのだ。
そんな訳でマックスはただ今絶体絶命の危機である。
そして息も絶え絶えにマックスは叫ぶ。
「おい、キミたち! この町で強盗なんてしても逃げ切れないぞ!? 僕たちFBIがどこまでも追いかけるからな!」
追いかけられているのは自分だという突っ込みはともかく、マックスの言葉は尤もだ。
今やムービースターで溢れかえるこの町で堂々と犯罪行為を行うなど、自殺行為に他ならないだろう。
しかしマックスを追いかける盗賊団、特に先頭をひた走るロドリグは嬉しげに笑った。
「逃げやしないさ! 俺達は悪役になりたいだけなんだからな」
そして、ついにマックスとの距離を縮めにかかる。
だが、マックスは今のロドリグの言葉に思うところがあったらしく、何やらぶつぶつと呟いている。
「悪役として追われることを望むだなんて、本末転倒じゃないか。いや、まて、もしかしてこれには何か深いわけが。銀幕広場を襲うのには裏の目的があるのでは!? 政府の陰謀が関係しているのか!?」
突然目が据わって、立ち止まるマックス。
そして、周囲を妙に警戒しながら挙動不審な動きを始めた。
その纏う雰囲気の怪しさに、追い立てていた盗賊たちもマックスを遠巻きに囲みながら様子を伺っている。
異様な空気の中、マックスは突然何かひらめいたようでスーツのポケットに手を突っ込み、中から写真を取り出した。
「これを見ろ!」
そう言って写真をかざす。
「やはり、お前、根は善人なんだろ! 見ろ、"雨の日に子犬を拾っている"じゃないか! 自分に正直になったほうがいいぞ!」
確かに、その写真には雨の日に子犬を拾うロドリグが写っていた。
どこで、誰がその写真を撮ったのかなどと言うことは誰にも分からない。
何故かそんな写真が出現したのだ。
どうやらマックスはその写真を元に説得を試みるつもりらしい。
しかし。
「余計なことをおっしゃらないで下さいませ。」
少し割れたスピーカー越しの声が聞こえた。
その声の主こそ、コンピューターウイルスである白姫であった。
「悪党という己の役割を全うするという考え方は評価すべきこと。命を賭けるというのならば、わたくしはソレをお手伝いいたしたく思います」
落ち着いた少女の声が、またも静かになってしまった銀幕広場に響く。
「もしよろしければ、わたくしがお相手させていただきますわ」
「望むところだ」
当然のようにロドリグは応じる。
「では、ロドリグ様から見て右手に見える灰色のビルの5階にてお待ちしております」
その言葉を最後に、もう白姫の声は聞こえなくなった。
そこで、そうと決まればとばかりに、ロドリグは10人ばかりの手勢を率いてそのビルに殺到した。
「待て! この町で勝手なことはさせないぞ!」
そう叫んで追いかけるのは勿論マックスだ。
そしてもう一人、今になっても銀幕広場に現れたばかりの少年も彼らの後を追ってビルの中へと消えていった。
エレベーターの搭載人数限界まで乗り込んだ盗賊団は5階で全て吐き出された。(エレベーターに入りきらなかった団員はマックスとやり合いながら階段でこの階へ上がって来た)
そして、ここで彼らを迎えたの何台ものパソコンであった。
そのスーピーカーから、先ほどのものと同じ少女の声がよりクリアに聞こえてきた。
「さぁ、それではお相手をいたしましょう」
途端、全てのモニターが激しく明滅し、かと思うとその場に集まっていた者たちの視界が暗転、一瞬後には不思議な空間に放り出されていた。
初めはどちらが上とも下とも分からなかったが、白姫が気を利かせてくれたのか地面が出現し、一同は足を着けることができた。
そして、彼らの目の前に現れたのは純白の髪をした少女である。
「ようこそお出で下さいました」
そう言って軽くお辞儀をする。
「どういたしまして」
律儀にそう返すロドリグに、白姫は言葉を続ける。
「ここは仮想現実空間です。ここでなら、私も存分に力を振るえます」
その言葉に、ロドリグは腰の剣に手をかけて言った。
「じゃあ、始めようぜ」
そして剣を抜き払い、白姫に肉薄する。
それと同時に放たれるデジタル映像の奔流。
これは、仮想現実空間でデジタル化したロドリグたちには現実的な脅威だ。
炎の映像が熱量のデータを持ち、触れるものを焦がす。
ロドリグは第一波を横っ飛びに避ける。
幾人かの仲間が炎に飲み込まれるのが見える。
だが、感傷に浸る暇は無い。
すぐさま第二波がやってきた
ロドリグへと一直線に向かうそれを、彼は手に持った盾で防いだ。
そして、白姫に向かって剣を突き出す。
残った盗賊たちも武器を構えて間合いを詰める。
すると、そこで気づく。
「お頭、それ、どうしたんですか?」
「いや、何か落ちてた」
ロドリグが白姫の攻撃を防いだそれは実は盾ではなかった。
あっけらかんとした様子のロドリグに部下達は頭を抱えたくなったがそれどころではない。
完全に傷を治し、少年の姿へと戻った盾はこう叫んだ。
「熱い!」
それは吸血鬼アルだった。
銀幕広場までの道々にいた盗賊を倒しながら進み、ようやっと騒ぎの中心たちに追いついたと思ったら、いきなり仮想空間に飛ばされて、混乱しているところを盾として使われたらしい。
全く酷い話ものあるものだが、次に酷い目に遭うのはロドリグということになりそうだ。
アルはもがいてロドリグの手から逃れ、彼に向かって凄惨な笑みを浮かべていた。
「僕を盾の代用品に使うとは……覚悟は出来ているのであろうな?」
感情の昂ぶりの為かアルの全身を薄い紫の霧が覆い、その力が強化されたことを知らせている。
白姫もロドリグに向けて攻撃の狙いを定めているようだ。
そして白姫一人相手に防戦一方だったロドリグが、二人がかりの相手に太刀打ちが出来るはずが無かった。
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ロドリグを倒した後、盗賊団は呆気ないほど簡単に鎮圧されてしまった。
その理由は、首領を失ったことと銀幕市には沢山の猛者が居るからだろう。
ロドリグのプレミアムフィルムはマックスが持っていった。
何でもロドリグの拾っていた犬がどこに居るのか調べて、保護するらしい。
何にせよ、これにて一件落着である。
「全く、酷い目に遭った!」
憂さ晴らしのつもりが貧乏くじを引いたアルだけは憤懣やるかたない様子ではあったけれど。
所変わってブラックウッドの屋敷。
先ほどは荒れていた庭が、立派な屋敷に似つかわしい手入れの行き届いたものになっている。
そして、その功労者である盗賊たちはブラックウッドの館で夕食を摂っていた。
「君たちのお蔭で庭が見違えるようになったよ」
そういって微笑を浮かべるブラックウッド。
盗賊たちも報酬と言う名目で古美術品を貰った上、夕食まで用意してもらってホクホク顔だ。
そこでブラックウッドは「ところで」と前置きをした上で続けた。
「次は私の晩餐に招待したいと思うのだけれど、どうかね?」
どうやら彼の食事はこれからのようだ。
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クリエイターコメント | 遅くなりましたがようやく完成です。 白姫様、マックス・ウォーケン様、アル様、ブラックウッド様、ご参加ありがとうございました。 楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、また次回。 |
公開日時 | 2006-12-04(月) 10:10 |
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