★ ニンジンなんて要らない。 ★
<オープニング>

「無力だ……」
 うさたんは赤い目を更に赤くし、涙を流した。
「僕は、無力だ。こうして、ニンジンの前で立ち尽くすことしか出来ない」
 むしろ、飛びつかずに立ち尽くしている時点でかなりの力が発揮されているのだが、うさたんとしては無力と言うステイタスになっているらしい。
「この世にニンジンがあるから、いけないんだ。だから、たくさんの仲間達が手玉にとられていったんだ!」
 果たしてニンジンにそこまでの魔力があるかどうかは知らないが、どうやらうさたんの仲間はニンジンにつられてしまったらしい。
「僕は闘おう。この世にニンジンをなくす為に」
 ぐっと白の前足を空へと突き上げる。
 なんとも可愛らしい風景であった。


 市役所の対策課に、写真とともに「どうにかしてくれ」という飲食店からの投書があった。何事かと写真を見ると、そこには愛らしいウサギが銃を構える姿が映っていた。
「このウサギ……『うさたん』が銃を持って暴れているようです」
 植村の説明によると、うさたんは「戦え、うさたん!」という子ども向けアニメ映画の主人公で、内容はニンジンを使って悪の手先となった仲間達をニンジン大王から救い出すというものらしい。
「うさたんの持っている銃は、ニンジンを大根に変える銃です。カレー屋では、既に4回もやられてしまったようです」
 植村はそう言い、写真を見せながら口を開く。
「今も他の飲食店内にあるニンジンを目指し、暴れているようです。すいませんが、行ってもらえますか?」
 植村の言葉に、暴れているウサギを想像する。ちょっと可愛いかもしれない、と頭の中で付け加えながら。

種別名シナリオ 管理番号28
クリエイター霜月玲守(wsba2220)
クリエイターコメントうさたんの能力は、ニンジンを大根に変える銃を持っているだけです。喋ったり二本足で歩いたりということはしますが、特殊能力はありません。
町中のニンジンを大根に変えられる前に止めてください。

参加者
山下 真琴(czmw8888) ムービースター 女 18歳 学生兼巫女
フィオナ(cume1940) ムービースター 女 15歳 日常の体現者
山下 逆鬼(caxw3696) ムービースター 男 18歳 学生兼霊媒師
鹿瀬 蔵人(cemb5472) ムービーファン 男 24歳 師範代+アルバイト
<ノベル>

 植村から依頼を受けた四人は、きょろきょろと辺りを見回す。騒ぎが起こっているとはいえど、しょせんウサギ一匹。大騒ぎとは程遠い。
「今は何処にいるんでしょうか?」
 山下 真琴(ヤマシタ マコト)はそう言い、小首を傾げる。
「ニンジンをわざわざ大根に変えるくらいだから、飲食店か八百屋だとは思いますけど」
 フィオナはそう言い、きょろきょろと辺りを見回す。
「うさたんといえば『戦え、うさたん!』の主人公ですよね。だったら、ニンジンのある所を狙っていきますね。特に、カレー屋とか」
 鹿瀬 蔵人(カノセ クランド)はそう言い、こくこくと何度も頷く。
「どうしてカレー屋なんだ? そういえば、4回も被害に遭ったとは聞いたが」
 山下 逆鬼(ヤマシタ サカキ)はそう言い、植村の話を思い出すように上を見上げる。その質問に、蔵人がおもむろにパンフレットを取り出す。
 題名は「戦え、うさたん!」だ。
 蔵人はパンフレットの一ページを開き、他の三人に見せる。そこには「手先となったカレー屋の陰謀により……」と書いてある。
「つまり、うさたんの中ではカレー屋こそが悪の手先となっているのです」
「いや、だからと言ってまたカレー屋に来るとは限らないだろう?」
 逆鬼の言葉に、真琴がちらりと逆鬼を見る。
「そんな事ありません。重要な事ですよ」
「そうか? だが、さすがに5回とかは来ないだろう、真琴」
「兄さんはうさたんの事を良く知らないでしょう? ここは、専門家の意見を聞くのも一つの手だと思いますけれど」
 真琴と逆鬼がじっと見詰め合う。兄妹の関係にある二人だが、意見は食い違っているようだ。
「ま、そうは言ってもうさたんを捕獲しないとどうにもなりませんからね。にしても、ニンジンを大根に」
 フィオナは二人をなだめながらそう言い、ふと気付いたようにはっとする。
「それって、ニンジンより大根が劣っているように聞こえます」
「そうですか?」
 蔵人が不思議そうに言うが、フィオナはこっくりと頷く。
「ええ、聞こえます。そんな事ないのに、ひどいです!」
 フィオナはぐっと拳を握り締める。決意は固い。意志も固い。拳も硬い。
「それじゃあ、一先ず分かれて探しませんか? 見つけたら、各自捕獲を試みるということで」
 真琴の提案に、皆が頷く。それぞれが胸に、うさたん捕獲作戦を抱きながら。


 四人いるという事で、それぞれが東西南北に分かれて捜索する事になった。北を進む真琴は、ポケットから何かを取り出してそっと微笑む。
「これで、うさたんもばっちりです」
 取り出したそれは、狩人がウサギ狩りの時に使用する犬笛ならぬ兎笛である。それを使い、うさたんをおびき寄せようと言う計画だ。
 真琴は兎笛を口にくわえ、思い切り息を吐き出す。人間の耳には聞こえない超音波が発せられる。
 息が続く限り吹いてみるが、特に変わった事はない。
「駄目だったのでしょうか」
 真琴はそう言い、ため息をつく。と、その時だった。
 ぱたり。
 電信柱の影から、何かが倒れこんできた。見れば、白い塊が道の上でへばっている。
「うさたん……?」
 良く見れば、ウサギの手には銃が握られている。件のうさたんに間違いないだろう。
 真琴はそっと近づき、うさたんを見る。ふわふわの毛並み、真っ白な体、ぎゅっと閉じている目。
(抱きしめたいです)
 きゅうん、と胸が高鳴るのを感じる。兎笛によって倒れているうさたんは、何処からどう見てもただのウサギにしか見えない。
 それも、なんとも愛らしいウサギだ。ただし、その前足に銃さえなければ。
「……とりあえず、銃は取り上げておきましょうか」
 うさたんの姿に癒されている場合ではない。抱きしめてしまいたい衝動をどうにか押さえつけ、真琴はそっと銃へと手を伸ばす。
 すると、うさたんがぴょんと跳ね起きた。真琴を見ると「手先、手先なのか?」と言いながら、ものすごい勢いで逃げていってしまった。真琴が術をかける暇を与えられないままに。
「逃げられてしまいました」
 でも可愛らしかった、と真琴は思う。抱きしめておけばよかった、とも。


 東には、フィオナが向かっていた。
「ともかく、ニンジンよりも大根が美味しいと思わせないといけませんね」
 何かが少しずつずれたものの、フィオナはそう言ってぐっと拳を握り締める。うさたんはニンジンを大根に変えているのだが、それはニンジンならば惑わされてしまうから。
 つまり、うさたんにとってはニンジンと比べて大根が劣ると言っているようなものだ。
 何か料理を作ろうか、と考えていると、視界の端に白いものが映った。白くて、毛がふさふさしていて、耳が長い生き物だ。
 というか、ウサギ。
 フィオナはそれをじっと凝視し、恐る恐る口にする。
「まさか、うさたんですか?」
 フィオナの問いかけに、くるり、とウサギが振り返った。前足には銃を持った、まさしくうさたん。
「いかにも、僕はうさたんですが」
 しかも認めた。
「うさたん、いいところに会いました。……いいですか? 大根は、とても素晴らしい食べ物なのです」
「え?」
「ふろふき大根に、ぶり大根。おろしてソースと絡めてもいいし、漬物にしてもいいでしょう。そのような大根が、ニンジンに劣ると思いますか?」
「お、思わないけど」
 勢いに思わずうさたんはたじたじと後ずさる。
「そうでしょう。つまり、ニンジンを大根に変える意味などないのです!」
 ぐぐっと握られた拳に、うさたんは「あ、うん」と頷く。そうして、ふとうさたんが気付く。
「じゃ、じゃあ……大根じゃなければいいの?」
「え」
「食べ物でなければ、変えてもいいの?」
 ぴた。
 フィオナの動きが止まる。
「食べ物でなければ……い、いいえ。そうじゃなくて……ああ、でも」
 悩みだしたフィオナを見、うさたんは「それじゃ」と言ってその場から走っていく。文字通り、脱兎の如く。


 南には、逆鬼が向かっていた。
「うさたんの居所は、術で探せば良いだろう」
 逆鬼はそう呟くと、そっと目を閉じる。まぶたの裏にうさたんの姿を思い浮かべ、意識を集中させる。
 白いウサギだ。ふわふわの毛。つぶらな瞳。前足には、物騒な銃。
 そう、銃。
(一気に、可愛らしさが不穏な方向にいったな)
 苦笑交じりに術を発動する。すると、一方向へと導き出された。
 逆鬼は目を開け、そちらへと向かっていく。術でうさたんのいる場所は分かっているものの、万が一移動されたらまずい。
「いた」
 目の前にある八百屋を伺う白い物体を、逆鬼は見つけた。それは辺りを伺い、銃を握り締めている。
 うさたんに間違いない。
「……うさたん、だな?」
 声をかけると、うさたんが体をびくりと震わせてから振り返った。つぶらな瞳が、逆鬼を見つめる。
「確かに、僕はうさたんです。あなたは、一体?」
 小首を愛らしく傾げるうさたんに、逆鬼は「こほん」と一つ咳払いをする。
「ニンジンは、確かに素晴らしい」
「え」
 うさたんの動きが止まる。が、逆鬼は気にせず先を続ける。
「種をまき、何度も水をやり、時折雑草を取り除き……ようやくニンジンはできる。なかなか手間のかかる野菜なんだ」
「あ、はあ」
「それに、ニンジンにはビタミンAカロテンが豊富に含まれている。がん予防にもなる、とも言われているんだ」
「へぇ、そうなんですか」
「しかも、だな。ニンジンには、金時ニンジンなどの甘味が強くて臭みが少ない東洋系ニンジンと、五寸ニンジンなどの甘味もカロテンも豊富に含んでいる西洋系ニンジンと二種類ある。どちらも栄養価は高く……」
 逆鬼はそこまでいい、はっとする。
 うさたんが、口からたり、と涎を出しながら話を聞いているのだ。
 うさたんは逆鬼の目線に気付き、慌てて前足で涎を拭った。
「つまり、ニンジンは素晴らしい野菜だ。大根に差し替える事はしてはいけない」
 逆鬼の言葉に、うさたんは「確かに」と頷く。それと同時に「でも」と、力いっぱいに口にする。
「だからこそ、ニンジンは誘惑してくるんだ! ええい、忌々しいニンジン大王」
「いや、だから」
「待っていろ、ニンジン大王! 僕が必ず倒してやる」
 うさたんはそう高らかに宣言すると、あっという間にその場から去っていってしまった。一人残された逆鬼は、うさたんが走っていった方向を見てから「さて」と言い、再び目を閉じた。
 うさたんの居場所を追跡するための、術を発動するため。


 西には蔵人が向かっていた。蔵人が歩くたび、誰もが振り返る。それはクォーターに似つかわしく、見目麗しい姿かたちをしているから……ではない。
 蔵人のしている格好が、あまりにも突飛だったからだ。
 頭には鉢巻をし、ニンジンを刺している。着ているのは作務衣で、懐が異様に膨らんでいる。そこから一本ずつニンジンを取り出し、ぼりぼりと食べながら歩いている。
 異様だ。
「生うさたん、かぁ」
 蔵人は呟き、へら、と笑う。何せ、映画を観にいった時から、うさたんの愛らしさに心惹かれていたのだ。こうして実際に会えるなんて、蔵人にとっては嬉しい以外に何があろうか。
 蔵人は一軒のカレー屋の前で足を止め、辺りを見回す。映画ならば、ニンジン大王の手先となってしまったのがカレー屋。うさたんはそこを4回も襲撃しているのだから、5回目があっても良いはずだ。
 もっとも、カレー屋だって警戒しているだろうが。
 そっと電信柱の影からカレー屋を見る。すると、視界の端に白い物体が映った。毛がふわふわしていて、耳がぴんと立っている、ウサギ。前足に銃を持っているあたり、間違いなくうさたんだろう。
「うわぁ。やっぱり可愛いなぁ、うさたん」
 ほわ、と顔を綻ばせながら、蔵人は呟く。ファンとして、うさたんが目の前で動いているというのはたまらない構図だ。
「またうさたんはカレー屋を狙ってるのか? そこはニンジン大王の手先じゃないんだよ」
 あわてんぼさんだなぁ、と付け加える。顔はずっとにこにこと笑んでおり、緊張の欠片もない。
 うさたんが銃を構える。再びカレー屋のニンジンを大根に変えてやろうとしているのだ。
「だ、駄目だ!」
 銃を構えたうさたんの前に、蔵人はばっと飛び出る。うさたんは突如出てきた蔵人に驚き、思わず銃を発砲してしまう。
 ばしゅっという音がし、蔵人が頭にさしていたニンジンにあたり、あっという間に大根へと変化した。その変わり身の早さに、周囲から拍手が沸いた。
「駄目だ、うさたん。そこはニンジン大王の手先なんかじゃないんだ」
「で、でも」
「大丈夫だ! カレー屋は敵じゃない、むしろ味方だよ」
 少なくとも、ニンジンを大根に変える限りは敵にもなり得るのだが。
「だけど、ここにはニンジンがあるんだ!」
 ばしゅっ!
 再び銃が放たれる。蔵人は懐からニンジンを取り出し、投げつける。すると、ニンジンがあっという間に大根へと変わった。再び盛大な拍手が響く。
「駄目だ、うさたん。そんな風にしては」
 蔵人の説得に、うさたんはじり、と後方に下がる。その姿も愛らしかったため、蔵人の顔がほころんだ。
「それでも僕は、僕は!」
 うさたんはそう叫ぶと、どこかに向かって走っていった。と、そこに他の三人も合流した。
「後一歩だったんですけれど」
 真琴が残念そうに、うさたんが走っていく方向を見る。術を発動しようとした後があり、どうやらそれでうさたんの銃を取り上げてしまうつもりだったらしい。
「銃を破壊しようとしたんだがな」
 逆鬼はそう言い、ため息をつく。こちらも、何かの術を発動しようとしていたらしい。
「また大根に変えたんですね。大根だって、いい食材なのに」
 フィオナはそう言い、その場に落ちている大根をひょいと拾い上げる。小さく「そりゃ、食べ物じゃなかったらいい、というわけじゃないですけど」と付け加える。
「うさたんの行き先なら、分かります。……おそらくは、最終決戦に挑むつもりでしょうから」
 蔵人はそう言い、映画のパンフレットを皆に見せる。
 そこには、広大なニンジン畑が広がっていた。


 ごおおお。
 風が吹き抜けていく。対峙するのは、四人の男女と白いウサギ。ウサギが手にしているのは銃であり、震える前足で四人の男女に向けられている。ここが荒野であったならば、もっと格好がついたかもしれない。が、生憎ここはニンジン畑だ。
「どうしても、止めるのか?」
 うさたんが言う。銃口は四人に向けられているままだ。
「もうやめてください、うさたん。もう、いいでしょう?」
 真琴が優しく諭すように言う。それに、うさたんはゆっくりと首を横に振る。
「駄目だ。僕はまだ、ニンジン大王を倒していないんだから」
「だからと言って、大根に変える必要がどこにあるのかは分かりませんけれど」
 フィオナの言葉に、うさたんは「あるあるあるある」と高速で頷く。どこかにプレイヤーがいて、ボタン連打しているのではないかと思ってしまう動きだ。
「大根ならば誘惑を受けないけど、ニンジンなら受ける!」
「ち、力強い言葉ですね」
 ちょっと圧倒されるフィオナ。
「うさたん、頑張れ!」
 ぐっと拳を握り締めながら言う蔵人に、一瞬皆がしんとなる。蔵人は「あ」と声を出し、頭を横に振る。「やばいやばい」と呟きながら。
「うさたん、駄目だよ。悪の手先じゃない所で、ニンジンを大根に変えるなんて」
 蔵人が力いっぱい言うと、うさたんは「でも」と言いながら首をふるふると横に振る。愛らしさに、全てが許される気分がする。
「ああ、だ、だめだよ。そんな可愛い……でも」
 軽く慌てながら言う蔵人に、うさたんもふるふると首を振るわせる。
 そこで、一つ咳払いをして逆鬼が「ええと」と言う。
「それで、肝心のニンジン大王はいるのか?」
 しん。
 辺りが静まる。皆、一言も口をきかない。ごう、と風が吹き抜ける。
 しばらく経ち、ようやくうさたんが「え、えと」と口を開いた。
「い、いない。ニンジン大王、いないよ!」
 その言葉に、四人はぐっとガッツポーズを取る。敵がいなければ、うさたんの戦う意味はそこで無くなる筈だから。
 うさたんは少しの間うろうろとそこら辺を回った後、がっくりとうなだれた。
「僕は、戦う意味は無いんだ……この銃も、持っている意味なんて無いんだ」
 はらはらと涙ぐむうさたんに、フィオナが「うさたん」と声をかける。
「これからは、別の事を目的にしたら良いじゃないですか」
「別の事?」
 きょと、とするうさたんに、真琴が「例えば」と言う。
「ニンジンの美味しさを伝えてみるとか」
 真琴の言葉に、うさたんは「ええっ」と声を上げる。だが、逆鬼は「それはいいな」と頷く。
「惑わされるほどのニンジンなんだろう? いいじゃないか」
 逆鬼はそう言うと、ちらりと真琴を見る。真琴は逆鬼に対して「でしょう」とだけ言い、つい、とそっぽを向く。どうも兄妹仲良くできないようだ。
「ああ、ニンジン大使のうさたんもいいですね」
 肩から「ニンジン大使」とたすきをかけたうさたんを想像し、蔵人はにっこりと笑う。
 うさたんは四人から「ニンジン大使」といわれ、徐々に肩を震わせ、ついにぐっと前足を上に掲げる。その前足に、すでに銃は無い。
「僕は、やろう! ニンジンの素晴らしさを伝える、ニンジン大使に!」
 おおー、と一同が拍手をする。うさたんは胸を張って誇らしげに笑う。
「あ、可愛い」
 ぱしゃ、とすかさず蔵人が写真を撮った。うさたんはカメラを見、再びポーズを決める。
 既にニンジン大使になりきってしまっているようだった。


 その後、ニンジンを食べられない子ども達のところに「ニンジン大使」なるウサギが出没するようになった。主な活動の場は、因縁のカレー屋である。
「うさたん、人気者になりましたね」
 真琴がカレーを食べながら、店内で人気者のうさたんを見る。肩から「ニンジン大使」と書かれたたすきをかけたうさたんは子ども達に囲まれ、力いっぱい「ニンジンは美味しいんだよ」と説明している。
「俺のニンジン情報も、役に立っているようだ」
 うさたんの説明を小耳に挟み、逆鬼が誇らしそうに笑う。
「カレー屋さんも、良かったですね。大根に変えられないばかりか、人気まで出て」
 フィオナがカレーを口にしながら店内を見回す。中々の人気店ぶりだ。
「うさたんファンも、たくさん訪れているようですよ」
 自らもうさたんファンの蔵人は、うさたんをカメラに収める人々を見て微笑んだ。「やっぱり、可愛いし」と小さな声で付け加える。
 うさたんはと言うと、何度も何度も「ニンジンは凄い食べ物なんだよ」と説明していた。
 たり、と出てきた涎を前足で拭いながら。


<ニンジンは要ると力説しつつ・了>

クリエイターコメント 初めまして、コニチハ。霜月玲守です。このたびは「ニンジンなんて要らない。」にご参加いただき、本当に有難うございます。
 最終的にカレー屋のマスコット的存在に落ち着いたうさたんのノベルは、如何だったでしょうか。少しでも気に入ってくださると嬉しいです。
 御意見・ご感想等、心よりお待ちしております。
 それではまたお会いできるその時迄。
公開日時2006-12-06(水) 18:00
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