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<ノベル>
ACT.1★ベースキャンプ、再び?
「ええっ? キノコ料理大会ですって? カフェを会場に使うの?」
「まあまあ。お店や梨奈に迷惑はかけませぬゆえ。これもまた、迫り来るておななかとる対策の一環ということで、『対策課』経由にて銀幕市保健所には話を通してありまする」
呆れ顔の梨奈の肩を、かなーり苦しい言い訳をしつつ珊瑚姫はぽんぽんと叩く。
カフェ・スキャンダルの入口扉にはでかでかと、【だ〜れ〜か〜! 妾たちが飢え死にする前に、美味なきのこ料理を食べさせてたもれ〜! ばい珊瑚姫あんど源内】という、身も蓋もない貼り紙がされた。そして、大皿小皿に箸茶碗スプーンフォーク等、取り分け用の食器がスタンバイされたのである。
――しかし。
「……おい。誰もこないぞ?」
「おかしいわね。いつもはもっとお店がにぎやかになる時間帯なのに」
「もしや皆様、まるぱす閣下とともに戦うべく、大挙して集合していて、料理大会どころではないのですかの?」
「他にもいろんな事件が起こってるみたいだからな。導次親分がアンテナキノコを食っちまったり、さくらがドジっ娘になったり、盾崎編集長が怖い笑顔になって記者たちがドン引きだったり、新米戦闘型ロボットがキノコモンスターに立ち向かったり、懐メロキノコを食って歌い出したやつがいるかと思えば、昼メロ風超大作映画作成に挑戦した連中がいたりして」
貼り紙をして3時間が経過したが、相変わらず来客はない。がら〜んとした店内で、梨奈と珊瑚姫と源内は、水(ただの水道水)を飲みながら、テーブルに頬杖をついていた。
「くっ……! もうどうなっても構いませぬ。このうえは、そこらへんで見かけた毒々しい極彩色きのこを適当に採取して、再び、きのこすぱげってぃを……!」
「まて、姫さん。早まるな。あきらめるのはまだ早いっ。きっと誰か来てくれる!」
「そうですよ。ほら、せめてお水にレモン絞ってあげますから!」
空腹のあまり、雰囲気が何やら悲壮な様相を呈し始めたとき。
待ちに待った救いの天使たちが、つぎつぎに現れたのである。
★ ★ ★
「こんにちは。珊瑚ちゃん、源内さん。お腹すいてるんですって?」
大きな包みを抱え、金色の髪をなびかせてやってきた三月薺は、珊瑚の目には、まさしく切支丹が思い描くところの聖天使に思えた。小柄なその背に、純白の翼の幻さえ見える。
「うううえーん。薺ぁ〜! 来てくれて嬉しいですえ〜!」
「泣かない泣かない。今、愛情いっぱいの美味しいご飯を作りますからね?」
薺はテーブルの上で、持参の包みを広げる。中には、ころんとした丸っこいキノコが、いくつも入っていた。
「む。一見したところ、松茸のような感じですえ。これはどこで入手したのですか?」
「茂霧山ですよ。探索してたときに転んじゃって。で、目の前にあったものがコレだったんです。美味しそうでしょ?」
「うんうんうん!」
珊瑚は力いっぱい頷く。
「実は3つ、メニューの候補があるんですけど、なかなかひとつに絞り込めなくて」
「どんなめにゅうですか? 是非、聞かせてたもれ!」
しっかと薺の手を握りしめながら、珊瑚は目を輝かせる。
「えっと。そのいち、『ほかほかキノコの炊き込みご飯』」
「うんうん」
「そのに。『ほくほくキノコのお味噌汁』」
「うんうんうん」
「そのさん。『ほわほわキノコカレー』」
「うんうんうんうん!!!」
「でも、他に作るひとがいたら、かぶっちゃいますもんね。どれがいいですか?」
「たとえかぶっても構いませぬえ! 全部作って欲しいですえ! 特にかれーを多めに! 薺のかれーは、べぇすきゃんぷでも大評判だったと聞き及びます。いわば茂霧山探索部隊の公式かれーではありませぬか!」
ごくんとつばを呑み込んで珊瑚が叫べば、横合いから源内も、珊瑚からかっさらうようにして、薺の手を掴む。
「そうか! あんたが噂の、料理上手な薺か。ベースキャンプの美味いカレーのことは、俺も聞いている。あんたが作ってくれるなら、たとえどんなキノコに寄生されようと、カレーも炊き込みご飯も味噌汁も、一生食べ続けよう」
「源内っ! どさくさ紛れに何を」
「源内さん。店内での過度なナンパは控えてくださいね?」
「はっ。すまん、つい、カレーの幻影が頭をよぎってしまって……おわぁぁぁ?」
源内は、慌てて薺の手を離した。その視界に、新たな来客をみとめたからである。
「どうもー。あれ? どうしたんですか、源内さん。そんな怯えた目をして」
鹿瀬蔵人の、登場であった。
あれは忘れもしない、キノコスパゲッティ事件のクライマックス。珍妙キノコの効果により「目の前にいる人にひとめ惚れしてしまう」という状態に囚われてしまった蔵人は、源内にフォールインラブの挙げ句、その場に押し倒(銀幕ジャーナル検閲により、以下13行削除)……まあ、詳しいことは、柱の影から一部始終を見届けていた梨奈が知っている。
ともあれ、蔵人がカフェで正気に戻ったときは、厨房は無人であり、蔵人の後頭部には巨大なたんこぶが出来ており、床にはすりこぎ棒が転がり、そのそばには、誰かの涙の跡が残っていたらしい。
じりり、と後ずさる源内に、まるっと何も気にしていない蔵人は、爽やかな笑顔を見せる。
「源内さんたちも水臭いですね。ご近所なんですから、米や味噌ぐらい、いくらでも貸しますよ?」
「本当ですかえ、蔵人。恩に着ますえー」
すたたっと走り寄った珊瑚が、ちゃっかりと、その逞しい腕にすがる。
「もちろんです。でも今回は、キノコ料理の試食会ということですから、僕も取っておきの奴を持ってきました」
蔵人が持参したのは、シメジに似た、白いキノコだった。何でも、自分の家の庭に生えていたのを、溺愛しているバッキー『ぶんたん』用に養殖したのだそうだ。
「1日1回、水をやるだけで簡単に育つので、とても重宝してます。僕も普通に食べてますが、特殊効果とかはないようですよ」
「おお! それは願ったりかなったり。ささ、勝手知ったる厨房で、蔵人も自慢料理を作ってくださいですえー!」
副作用なしであれば、それに越したことはない。珊瑚は浮き浮きと、蔵人の背を押した、が。
「……ただ」
ぽつりと呟いた蔵人の言葉を、源内は聞き逃さなかった。
「ただ、何だ?」
「栄養価が、異様に高いんですよね。これひとつで」
と、蔵人は小さめのキノコを取り上げ、
「ケーキワンホールぐらいのカロリーがあるみたいです」
と言ったので、さあ大変。
「……高カロリー。そんな……。確かに、美味しいものは大抵、ダイエットの天敵だけど」
薺は青ざめ、
「か、かろりーを気にして試食会が出来ようか! ちょ、ちょっとくらいは太った方がちゃーみんぐなのです」
珊瑚は口ごもりながら、冷や汗を拭う。
「じゃあ、キノコグラタンを作りましょう。チーズと生クリームをたっぷり入れて」
「……おいこら蔵人。そこでどうして、さらにカロリーを高める調理法を選ぶ?」
源内のぼやきに呼応するように、カフェの扉が開いた。
「そうそう。グラタンも悪くないけど、やっぱ、シメジはシンプルに焼くのがいいと思うぞ?」
快活な声が響く。
シメジ……に見えるキノコが何本も入った籠を小脇に抱え、やってきたのは太助だった。
柔らかそうな耳を得意げにぴくぴくと動かし、タヌキの少年はえっへんと胸を張る。
「待ってろ。すぐに焼きたてあつあつを食べさせてやっからな。源内のために、取ってきたんだ」
「俺のために?」
「うん。だって、就職先決まんなくて苦労してんだろ? こんだけ集めるの、結構大変だったんだぞ。あっちこっちで、怪人に体当たりかましてさー」
「……そうか。すまないな。おまえ、マルパス指令の迎撃部隊に参加するんじゃなかったか? ここに来てる暇なんて、ないんだろうに」
「へへ。気にすんなよ。腹が減っちゃあ戦はできないって、言うじゃん」
「ありがとう」
こみ上げてくるものを感じ、源内は目頭を押さえた。しかし、太助はあくまでも、太助であったのである。
「言っとくけど、この中のどれか1本は、イッポンシメジだかんな?」
「何だと?」
「いっぽんだけ、いっぽんしめじー!」
「イッポンシメジというのは、問答無用で毒キノコだろうが! そんなものをなぜ混ぜるっ?」
「ん。つまりあれだ、ろしあんるーれっと風焼きシメジ?」
「あのー。太助くんには、どれがイッポンシメジか判っているんですか?」
まったくもって常識的なことを、薺は聞く。だが太助は、
「さー? 食べればわかんじゃね?」
と、アバウトまっしぐらである。わかったときには、もう遅いのだが。
実は太助は、なんとなくシメジっぽいキノコと、なんとなくイッポンシメジっぽいキノコを採取してきただけ(怪人とバトルをかましたのは本当)なので、何がどれでどんな効果があるのかは、本人にも謎のままなのだ。
「かんらかんら。これは愉快滅法界。何とも豪快な料理であることよ」
「うわ? 御大の殿様? いつの間にそんなとこに」
太助は飛び上がった。ふっとテーブルから目を離して、また目を戻したその時には、テーブル上に山野御大が、ラフな普段着というか渋い着流しをお召し遊ばして、きっちりと鎮座ましまししていたのである。
「余は神出鬼没なるぞ。何でも、世にも美味なる茸料理を食する催しがあると聞き及び、駆けつけてまいった。さて、馳走になるとしようか。苦しゅうない。どんどん持ってくるが良い」
袂から日の丸マークの扇を取りだして、御大はぱたぱたと大きな顔をあおぎ、鼻をひくつかせる。
「うぬっ。この妙なるカレーの香りは、茂霧山探索時に漂っていたものと同じであるな。……ほほう、そこの、おたまを持った可憐な娘御には見覚えがある。三月薺であろ?」
厨房からは香ばしい匂いが流れ始めた。カレーと炊き込みご飯とお味噌汁づくりを、薺は手際よく同時進行していたのだ。御大に呼びかけられたので、ひょいと頭を下げる。
「こんにちは。ご無事の撤退、なによりです」
「うむうむ。そちもな」
「ていうか御大、あんなに大勢いたのにフルネームで覚えてんのか。なあなあ、俺のことは? 探索部隊にいたぞ?」
「僕もいましたよ。カレーも食べました」
太助と蔵人に言われたが、御大は「はて?」と首を捻るばかりだ。
「男衆のことはどうでもいい……いやさ興味がない……いやさあまり記憶に残っておらぬのぉ」
随分とあんまりな記憶力を御大はご披露なさり、どうでもいいらしい男衆(太助&蔵人)はがっくりと肩を落とす。
と。そこに更なる男衆が加わった。一升瓶と魔法瓶をぶら下げた、白神弦間である。
「お、盛況盛況。いやぁー。茸料理大会だってね? ご招待多謝!」
あの貼り紙をどう読んだら「招待」になるのかミステリーだが、最愛の妻が習い事で忙しく、ちょっぴり淋しんぼうな縫製職人68歳は、御大の前に酒瓶をどんと置く。
「ときにみんな、こないだの秋祭りは参加したかい?」
「したした。金魚すくいにすっげー燃えたぞ!」
太助が言えば、薺も厨房から答える。
「私も、巫女さんのアルバイトをしましたよー」
「ほほぉ。過日にそういう催しがあったとは。見物できず残念至極」
「僕も話だけは聞いてます。行きたかったなぁ」
「いやいやご同輩。ボクときたらうっかり南の参道で寝こけて、風邪をこじらせてしまってさぁ。入院してる間に、何やら世間は荒唐無稽な秋の収穫祭になっちまって。まあまあ一杯」
秋祭りに参加できなかったことを残念がる御大と蔵人に、シンパシーを感じたらしき弦間は、さっと盃を渡して酒を注ぐ。
「露天のレース買いそびれちまったなぁ。やー、いい仕事してたんだ、これが」
「さもありなん。薺お嬢の巫女姿は、さぞ神々しかったであろうの」
「あのー。御大と弦間さん、話が噛み合ってませんが?」
注がれた酒を取りあえず飲みながら、蔵人は突っ込みを入れてみる。
「なーなー。弦間のおっちゃん。大人の魅力満載なのはいいんだけどさー、俺にも飲めるもの、何かない?」
酒を酌み交わす大人たちの手元を、太助は少々うらやましげに覗き込む。
「すまんすまん、未成年もおったな。ほれ、こっちを飲め飲め。なぁに、遠慮はいらん」
弦間はうんうんと頷いて、魔法瓶を太助に渡す。
「ふーん? いい匂いがする。これ何?」
蓋を取れば、最上級の松茸にも似た芳香が、店内中に漂う。太助は鼻をひくひくさせた。
「うむ、うちの大根に生えてた茸から取った、ただの出汁なんだけどな。わっはっは」
「ほほう。大根きのこの出汁ですかえ。ま、これはこれで」
素早く茶碗を用意した珊瑚は、太助とともに、魔法瓶の中身をきゅーっと飲んだ。
「そうそう。今日提供する料理はだな、退院したとき自転車にみっちり生えてた松茸風茸を土瓶蒸しにするぞ。あと、そっちの酒のほうには、外に干した玉ねぎに生えとった茸を漬けてあるからな」
「ええっ?」
「これはキノコ酒であったか!」
いい調子で飲んでいた蔵人と御大は、げほっとむせた。真実を知ったからといって、酒を飲むのを、やめはしなかったけれども。
ACT.2★そして、試食会
そうこうするうちに、各自持ち寄りの特選素材を使用したキノコ料理も、あらかた出揃った。
本日の豪華メニューを列記すると、以下のようになる。
【三月薺提供:愛情たっぷり3種メニュー】
★ほかほかキノコの炊き込みご飯(ふっくらご飯にキノコの旨味がしみて絶品)
★ほくほくキノコのお味噌汁(殿方が発作的にプロポーズしたくなる味)
★ほわほわキノコカレー(探索部隊が舌鼓を打ったあの味が今、蘇る)
☆素材採取地……茂霧山
【鹿瀬蔵人提供:超高カロ……もとい栄養価満点メニュー】
★あつあつキノコグラタン(味は最高)
☆素材採取地……鹿瀬家の庭で養殖(なお、本元は現在蔵人の延髄の辺りに寄生中)
【太助提供:ゲーム性抜群メニュー】
★焼きたてロシアンルーレットキノコ(イッポンシメジ入り)
☆素材採取地……そこらへん。怪人とバトルオプションつき。
※特記事項:テオナナカトル討伐前の、貴重な時間をぬって参加
【白神弦間提供:素材優先シンプルメニュー】
★水出しすまし汁(最高級お吸い物の味)
★じっくり土瓶蒸し(最高級国産松茸風味)
☆素材採取地……白神家産の野菜や弦間の愛用自転車に寄生。
「くうううう……。感無量ですえー」
「さあさ、珊瑚ちゃん。涙ぐんでないで、どれか食べませんか?」
「そうですのう。迷いますが、まずはこの、湯気の立っている炊き込みご飯を」
にこにこと見守る薺に促され、珊瑚は炊き込みご飯をもぐもぐと食べた。
――途端。
「薺っ!」
「はい?」
「妾と結婚してたもれ!」
「はいいっ?」
いきなり求婚されて、薺は目をぱちくりさせる。それはどうやら、薺が使用したキノコの効果であるらしかった。
何となれば、炊き込みご飯とお味噌汁とカレーを食べた全員が、次々に将来設計を語り始めたからである。
「姫さんは引っ込んでろ。薺は俺と結婚するんだ――薺、あんたのために、俺は1日も早く就職する!」
「源内さん、ここは譲れませんよ。薺さんは僕と結婚するんです。ぶんたんとばっくんも、きっと仲良くやっていけます」
「これ薺お嬢。そちに苦労はさせぬゆえ、どうじゃな、余の奥方に。そち専用の屋敷を建てようぞ」
「うっわー! 薺ねえちゃんがすんげー美人に見える! いや、もともと美人だけど、なんつーかさ。お、俺、早く大人になるよ!」
「うおお困った! ボクには最愛の妻が! 心と身辺の整理のため、少し時間をくれー!」
「えっと、あの、皆さん、落ち着いて」
薺はおろおろしながらも、これがキノコのせいだとはわかっていたため、
「他のお料理、そう、グラタンと土瓶蒸しも食べましょうよ、ねっねっ?」
と、提案した(さりげなくロシアン焼きキノコをスルーしている)。毒をもって毒を制す発想だが、世の中には「相乗効果」という言葉もあるわけで――
「むう? 皆の顔がオレンジ色に見えてきましたえ?」
「俺は緑色に見える」
「僕はマーブル模様がぐるぐるしてます」
「余には絢爛たる加賀五彩が見えるぞよ」
「えー? これ、虹色グラデーションだろぉー?」
「ボクは究極の江戸小紋『超極毛万微塵筋』がちらつくけどなー」
「……何となく楽しそうですね」
薺も、料理をひととおり食べてみた。
……すると。
「あれ……? 皆さんの顔に、ぷちバッキーの模様が浮かんで見えますにゃ。……にゃ?」
どうやら、語尾変化という、新たなる効果が発現したようである。
「焼きキノコ、食べてみろにゃ、源内。だいじょーぶだって。ろけーしょんえりあ使えば、不死身のヒーローに化けて毒も無効化できるんにゃから」
「しかし太助は、これから本家本元の戦いに行くんにゃろ? ロケーションエリアは温存しておいたほうがいいんじゃにゃいか? それにこれ以上食べたらさすがにやばいんにゃ?」
「そう言わずに源内さん、グラタンもどうですにゃ? なあに、地獄で普通に食用にされてますし、平気ですにゃ」
「んむ。食っても死人は出とらんにょだろ。なら、いろいろ食べてみんとにゃ。万一、一斉にゅーいんっちゅー事になってもな、おっちゃん最近までいたし、病院中、隅々まで案内出来るから気楽に楽しもうにゃ」
……わかりにくいが、太助、源内、蔵人、弦間の順である。
「かんらかんら。よきかにゃよきかにゃ」
ずっとテーブル上で胡坐をかいたまま、御大はご機嫌で片っ端から料理を平らげていた。太助提供の焼きキノコさえ、平気で醤油をかけて食べている。今のところ、イッポンシメジには当たってないようだ。
「あにょですのう、御大。本日の趣旨は、確かに試食会ではあるのですが、そのう、皆様の採取なすったきのこを手ずから調理いただくところに主眼が」
未だ、御大だけが料理を作っていない。どうやら食べ専を決め込んでいるらしい御大に、珊瑚は、持って回った言い回しながら、料理作成を依頼してみた。
「むう? 左様な趣向であったかにゃ。しかしにゃがら、余は特に調理用茸を採取してはおらぬにゃ」
「でも、せっかくいらしたのですから、是非ともお願いしますにゃ」
「そう言われてもにゃあ……。おお、そういえば」
何か思い出したらしく、御大は、懐から、白い塊を取り出した。
「撤退前にあの藤壺を切り落としてから、ずっと持っておったにゃ。これを食してみようにゃ。生のまま、刺身にするのが良かろうて」
「藤壺……!?」
「ふじつぼぉー?」
「えええ、フジツボって!」
薺と太助と蔵人は同時に叫ぶ。あまりの驚きに、「にゃ」をつける余裕もない。
暫定的にその名称で呼ばれていたものが何なのか、茂霧山探索部隊の面々は、身にしみて知っているからだ。
「それって」
「もしかして」
「まさか」
「「「テオナナカトルー!!!」」」
【山野御大提供:トンデモ激レアメニュー】
★テオナナカトルの刺身(さっぱりと山葵醤油で)
☆素材採取地……茂霧山。撤退時直前、切りつけた時にゲット。
ACT.3★遅れてきた戦士たち
「ともかく、太助だけはこれを食べちゃだめにゃ。早く解毒剤を飲んで、マルパス司令のもとへ行くんにゃ」
「う、うん。そうするにょ」
源内が用意した解毒剤を、太助は一気に飲み干した。
「……あ? なんか、平気になったみたい」
「良かったにゃ。銀幕市で手に入る限りの漢方薬を駆使して作った薬だが、テオナナカトルなんざ食べたあとにゃあ、効果の保証はできないからにゃ」
「太助くん、頑張ってにゃ」
「僕たちがついてるにゃ!」
「よっしゃあ。まかせろー!」
薺と蔵人の声援を受け、太助は意気揚々と店外へ駆け出していく。
窓の外、討伐隊一員の姿は、すぐに見えなくなった。
そして。
残された4人と珊瑚と源内は、半ばむきになって、料理を食べ続けた。
どうやら太助の持ってきたキノコの中にはイッポンシメジは含まれてなかったのが、不幸中の幸いであったと言えようか。
やがて、禁断のテオナカカトルの刺身さえ、全員が食べてしまい……。
――小一時間後。
がたーん!
椅子を蹴倒して、立ち上がったのは珊瑚だった。その目に、異様な闘志が燃えたぎっている。
「決めたですにゃ! テオナナカトル討伐隊に、妾も参加するですにゃ!」
「よし、俺も加わるにゃ!」
同じように、源内も拳を握りしめる。
「私も行きますにゃ!」
「余も、藤壺に立ち向かおうにゃ!」
「僕も、マルパス司令と一緒に戦いたいですにゃ!」
「ふむっ。ボクも闘えるかもしれん。何だか気力体力が充実してきたにゃ!」
どうやら、食材としてのテオナナカトルは、戦意高揚の効果があるようだった。
景気付けに6人は、それぞれ不思議なポーズを決める。
珊瑚は不動明王型ロボット『お不動くん』を召還した。
「妾のはぁとが真っ赤に燃えるのにゃ! 敵を倒せと轟き叫ぶのにゃ! お不動くん、あああぁぁーくしょん! いっつ・あ・しょーたーいむ!」
★ ★ ★
試食会が始まったあたりから、梨奈は1歩……どころか13歩ほど下がってカフェの壁に貼りつき、この騒ぎを見ていた。当然、どの料理も口にしてはいない。
梨奈以外の全員がすでに外に出て、戦闘オーラを放ちながら、お不動くんに乗り込んでいる。
「そんなわけで梨奈! 行ってきますにゃー! 後片付けは宜しくですにゃー」
「よろしくと言われても……」
不動明王型ロボットは、のっしのっしと戦闘に向かう。狭いコックピットにパイロット6人をぎゅうぎゅうづめにして。
「……太助くんが向かってからかなり経ってますし、もう、間に合わないというか、全部終わっちゃってる気がしますよ……?」
しかしその呟きは、彼らの耳には届かない。梨奈はふと、皿の上に残っているテオナナカトルの切り身を見る。
それは、急速にしなびていった。
厨房に残っていた、松茸タイプやシメジタイプのキノコを確かめてみれば、それらも、先刻までの新鮮さが嘘のように、干からびてしまっている。
(ほら、ね)
おそらくそれが、全ての戦いが終結した証明であろう。
(でも、七瀬さんには連絡しておきましょうか。せめて写真だけでも撮ってもらえれば、記念になりますよね。……こんな顛末でも)
――そして、遅れてきた戦士たちを乗せた『お不動くん』の写真が、銀幕ジャーナルにおける、【謎のキノコ騒動】一連の記事の、ラストを飾ることとなったのである。
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クリエイターコメント | こんにちは、神無月まりばなです。 この度は、珍妙なキノコ料理大会にご参加くださいまして、まことに有り難うございます。
★薺さま。お料理もモテっぷりも素晴らしゅうございました。お疲れ様でした! ★蔵人さま。そのせつは源内がお世話になりました(?)。延髄にキノコが寄生していても、マイペースなところが素敵です。 ★太助さま。討伐前のお忙しい中、ありがとうございました。記録者は結末を知ってはおりますが、お気を付けていってらっしゃいませ! ★弦間さま。退院早々、ヘビーな催しにいらしていただき、ありがとうございます。奥様に宜しくお伝えくださいませ。 ★御大さま。探索部隊参加組ならではの、超激レア素材のご提供、感謝申し上げます。おかげさまで、トンデモ度に拍車をかけることができました。
はからずも、【謎のキノコ騒動】一連のシナリオにつきまして、公開のトリを取らせていただきました。そらおめぇが遅筆なだけじゃんというご指摘は置いといて(置くなよ!)、ともあれ、キノコスパゲッティ事件に端を発し、茂霧山探索イベント、討伐シナリオ、関連シナリオに至るまで、いずれかにご参加、もしくは、ご閲覧くださいました全ての方々に、記録者のひとりとして御礼申し上げます。 |
公開日時 | 2006-12-12(火) 20:50 |
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