★ エメラルドとダイノランド島で常夏のクリスマス ★
<イラスト/向日葵>


<参加者>

レモン(catc9428) 新倉 アオイ(crux5721) 西村(cvny1597) エディ・クラーク(czwx2833)






1)かやくを入れる。
2)熱湯を注いで、三分待つ。
3)湯を切り、ソースを混ぜる。

「ぅをををををを……!」
 エメラルドは歌にも出来ない衝撃を覚え、湯気を立てる馳走を見つめた。
 インスタントのやきそば。さらに加わるふりかけの、緑と赤のコントラストが美しい。
「ど、うぞ……召し…上がーれ?」
 西村は微笑みを浮かべて、そっと割り箸を差し出した。
 スーパーまるぎんのクリスマス出血大セールで、カップ麺はどれでも五個二九八円だった。
 三九八円は稀に聞けど、二九八円なんていまだかつて無かった。加えて、一五〇円を超える高級品まで選びたい放題だった。
「ちょ、クリスマスにそれって、ありえなくない?」
 新倉アオイが至極当然のつっこみを入れたが、右手に骨付き肉を持っていては説得力がない。しかも、いい感じに歯形がついている。
「インスタント食品だけじゃ、栄養が偏るよ。……どうぞ」
 エディ・クラークは笑いながら、チキンをテーブルの上に置いた。
 ザワークラウトとベーコンを炒めて、フランス風に仕上げたり。
 クスクスのサラダ、トマトとほうれん草で彩りを添えて。
 そば粉のクレープは、まず粉糖で。それから、季節の果実ソースとの相性を楽しんで。
 そして忘れてはならない、ブッシュ・ド・ノエル。
 バイトをしている店で持たせてもらったものだ。チキンだけのつもりが、店長がクリスマスプレゼント、と言っていろいろと詰めてくれた。
 エメラルドの形容し難いサバイバル料理・西村の貧乏生活エンジョイ料理・エディのカジュアルフレンチ。
 それらの間で、アオイの持参した簡単なのに見栄えも味も良しなオードブルが、一抹の安らぎを演出している。
 ……その場の食べ物の八十四パーセントは、肉で占められていたが。
「粗食。この粗食うまいぞ」
「それーは、よか…った、ねー」
「カァ!」(またもや、主を粗食呼ばわりするか!)
「お袋の味。懐かしき味する、美味ぞ」
「お袋…………。うん、よかったね」
「グルタミン酸ナトリウム。新しいの舌触り」
「あんたの命名、マジでやばいから」
 パーティはなごやかに終わりを告げ――
「おーほっほっほっほっほ! 待たせたわね、レモン様の参上よ!」
 なかった。
 頭上から声がした。皆は高台となった洞窟の上を見上げる、が、姿は見えなかった。
 小さなウサギの姿は、サバ折りよろしく抱えたマグロに覆い隠されていた。
「……差し入れのつもり?」
「と、通りがかったら落ちてたから拾っただけよ! べ、別に海に潜って『獲ったどー!』とかやってきたわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!」
 レモンの頬が赤いのは、マグロが尻尾でビンタしているからだ。照れているわけではない。皆には見えていないが。
 アオイもかっとなる。
「別に勘違いなんかしてないから! あんたこそ勘違いしないでよね!」
 一部のマニアが泣いて喜びそうな、ツンデレ合戦が発生する。
「刺身タタキトロヅケカルパッチョ炙り」
 妙な呪文を聞いた鴉が目をやると、エメラルドは牛刀を手にしていた。顔が本気だ。
「ギャッ」
 鴉らしからぬ悲鳴を上げて、主を守るべく翼を広げる。
 西村は黒翼を見上げた。鈍い煌めきは隠れてしまって、事態に気づいていない。
「どーう、したの…?」
 首を傾げる。
 エディはレモンに声をかけた。
「メリークリスマス、うさぎさん。一緒にパーティはいかがかな?」
「仕方ないわね。そこまで言うんなら、参加してあげないでもないわ。べ、別にその言葉を待ってたわけじゃないんだからね!」
 聞かれてもいないのに否定して、レモンはたっと足場を蹴った。
 背中に羽根を生やして、ふわりと降りてくる。……着地点に、牛刀を手にした少女。

 一時間後。
 マグロは解体調理されて、まずはツリーの飾り付けが始まった。
 わいわい騒ぎながら、持ち寄ったオーナメントをぶら下げる。
 いわゆる流木アートを縄で縛り付けたエメラルドは、ふと声をかけた。
「兎――」
「ちょっと! あたしは聖なるうさぎ様よ! そんじょそこらの兎と一緒にしないでくれる!?」
「でも、兎は兎。兎、違うは違う」
「謎の早口言葉」
 アオイの呟きに、鴉が深く頷いた。
「まあいいわ。で、何なのよ」
「兎さばく、どうして駄目?」
 食料にする気満々だ。
「駄目に決まってるでしょー!」
「今は、楽しむことを楽しもう?」
 エディはふわりと笑って、エメラルドをリフトした。安定感のある肩に座って、彼女は歓喜の歌を高らかに歌い上げる。
 一緒になって彼がロケーションエリアを展開すれば、すべてが歌って踊る。生きとし生けるものすべて、今日の喜びを体中で表現する。
 西村と鴉は手を取ってワルツ風のカップルダンスを。本人の意志を無視して、アオイの体は自然とパラパラを踊ってしまう。盆踊りでもフラメンコでも踊りそうなレモン。
 草も木も花も、一緒に歌い踊る。ツリーも巨躯を軽やかに動かして踊る。
「あ」
 アオイはてっぺんを見上げた。熾烈な争いに勝利して、そこに星ではなく大切なものを飾ったのだが。
 うごうご踊る推定モミの木に、見え隠れするパステルイエローと白の姿。



 ここは、ハッピーエンドと相場が決まっている。

<ノベル/高村紀和子>





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