★ 珊瑚姫と空飛ぶサンタのケーキ配達 ★
<イラスト/河合ユカ>


<参加者>

北條 レイラ(cbsb6662) 狼牙(ceth5272) 三月 薺(cuhu9939) 梛織(czne7359) 浅間 縁(czdc6711)






「まぁ、なんて素敵。たくさんお作りになりましたこと」
「時としてケーキは甘いだけでなく人生の深淵も感じさせるがやはり苺とチョコの組み合わせは最強にして君の瞳に乾杯だってばっちゃんが言ってたぜ! 生きてるかおいコーコーセー」
 サインラリーを終えた北條レイラは、カフェ・スキャンダルの厨房に並ぶ、色とりどりのケーキを見回してにっこりする。とっとこやってきた狼牙は、通りすがりの高校生と言い切ってケーキ作成に全力を注ぎ、そして力尽き倒れた本田流星の頭を、前足でちょいと突いた。流星はぴくりとも動かない。
「苺の花模様ホワイトクリスマスケーキ。和栗のブッシュ・ド・ノエル。聖夜の宝石箱ケーキ。Xmasファンタジーワインゼリー。これらを手分けして、銀幕市の皆様に配りますのね?」
「おれ、手で持てないからソリに乗っけて引いてやるぞ」
「おお、れいら。狼牙。手伝ってくれますかえ?」
「もちろんですわ」
「おれのばっちゃんは、一時間あれば銀幕市中のケーキなくて淋しい連中をピックアップできるぜ」
「頼もしいですのう。それでは、このまかないをどうぞですえ〜」
 珊瑚姫は、スパゲッティを皿に盛り、【必殺お手伝いさんたの皆様は、こちらで腹ごしらえですえ〜】と貼り紙のあるテーブルに置いた。
 ほかほかと湯気を立てている茄子とトマトの特製スープスパゲッティに、レイラは小首を傾げる。
「今からお食事ですの?」
「ちと小腹が空く時間ですゆえ。これから手を貸して下さる皆様も、何か食べたほうが宜しかろうと思いましての」
「うれしいですわ、恐れ入ります」
「そんなに言うなら、食ってやるぞ」
 それぞれひとくちずつ食べてから、レイラと狼牙はふと隣を見た。
 すでに、そこには先客がいたのだ。三月薺である。
「いらしてたのね、薺さん。メリークリスマス」
「ヨォ! ナズナ!」
「あ、こんばんは、レイラさん、狼牙さん。はふっ。メリクリです。これからケーキ配るんですよね。縁ちゃんも来ますよ。頑張りましょうね!」
 はーふー言いながら、薺はおっとり美味しそうにスパゲッティを食べているのだが……。
「ねえ、薺さん……?」
「はい?」
「あなた……。天使でいらしたのね?」
「ええっ?」
 けふ、と、薺はスパゲッティにむせた。
「そっ、そんなはずないです」
「だって、背中に羽根が生えてましてよ? 純白の……」
 えっ? えっ? えええー? と、薺は自分の背に手をやった。たしかに、天使の翼らしきものが存在するのを確かめてから、ふたくちめをすくい上げたレイラを見て、いっそう目を丸くする。
 彼女の背にも、同じような羽根があったのだ。
「あの……。レイラさんも、そうですよ? 生えてます」
「……あら」
「狼牙さんも」
「マジ!?」
「みんなっ! 珊瑚のスパゲッティ食べるの、ちょーっと待ったぁ! ……って、もう遅かったか」
 厨房に駆け込んできた浅間縁は、レイラと狼牙と薺の背を見るなり、がくぅと片膝を突いた。
「縁ちゃーん。スパゲッティ美味しいですよー!」
「ああっ。何素直に食べてんのっ。珊瑚が作ったケーキだって超怪しいのに」
「おんやぁ〜縁。女装のばりえーしょんとして、みにすかさんた姿に挑戦してみますかえ〜?」
「女子高生に向かって、ナチュラルに女装とか言わないでくれる?」
「まあまあ。縁もすぱげってぃをほれ、はい、あーん」
「あーん。…………って! それ違う、平賀さんじゃあるまいし」
 うっかり食べてしまった縁は、とうとう両膝と両手も床につけ、がっくりする。
 その背に、ぱふん、と。

 コウモリの羽根が、出現した。

「ちょ、なんで私はコウモリなわけーーーー!!!」
 
 レイラ、薺、縁、珊瑚は、生えた羽(注:縁のみコウモリ)にミニスカサンタ服を合わせた。
 狼牙も犬用のサンタ服にトナカイの角つきサンタ帽をつけて、準備万端である。
 箱を抱え、たくさんソリにも積み込み、街へ出かけた一同は――新たなる犠牲者、もとい、協力者、梛織と遭遇した。
「わわっ! 何みんな、えっと、似合ってるね!」
 いや〜んな予感とともに、梛織はじりっと後ろに下がる。が。
「これは梛織。よいところでお会いできました。さあ皆様。お仲間げっとですえ」
「かしこまりましたわ」
「プリンスー。一緒にケーキ配りましょ」
「そうそう。開き直って気前よく羽根生やそ?」
「ヨゥ、ナオ。おれとソリを引いてみないか?」
 女子5名に取り囲まれて詰め寄られ、梛織くん絶体絶命。
 しかも。
「梛織〜。はい、あーんですえ〜」
「あーん、ですわ」
「プリンス、はい、あーん」
「ほら、口開けて」
「ホレ、あーん、だってよ!」
「ごめんなさいすみませんわかりましたお手伝いします。でもお願い普通の格好でやらせて!!!」
 まかないのスパゲッティ(何故持ってる)を差し出され、首をふるふるして抵抗するも――

  ☆ ★ ☆ ★ ☆ 

 粉雪の舞い散る中、6人は翼を広げ、揃って銀幕市上空を行く。
 眼下に広がる街は、宝石を散らしたようなクリスマスイルミネーションに覆われている。
「わ。バランス取るの、難しい」
「大丈夫だって。手貸して、ほら!」
 薺と縁は、片手で箱を抱え、片手で互いの手を繋ぎ、息を合わせて飛んでいる。

「……で、まずはどこに配達するんですか?」
 観念して羽根つきサンタ化した梛織が問い、珊瑚はイルミネーションのひとつを指さす。
「銀幕べいさいどほてるへごーですえ」
「そういえば、SAYURI様がケーキをお望みとか」
「よし。じゃあ、俺が届けてくるよ」
「ふむ。手分けすると早いですのう。では、薺と縁は、銀幕市役所で残業中の直紀としんでれらへ」
「わかりましたっ!」
「おっけー」
「狼牙とれいらは綺羅星びばりーひるずの市長邸へ。市長とりおねとぎっしーとみだすの分を頼みますえ」
「ばっちゃんが言ってたぞ。ミダス、もの食えないって」
「まぁ。眺めるだけですのね……」

 さて、妾は、超物理研究所方面に参りましょうかのう、東博士に是非とも食して欲しいですからのう……などと呟いて、箱を4つ重ねて持っていた珊瑚は、大きくバランスを崩した。

「あ〜〜れ〜〜〜!」

  ☆ ★ ☆ ★ ☆ 

 クリスマスの夜。

 銀幕市の空に降るのは。
 
 雪と。

 天使の羽根と。

 ………ケーキ箱。


 ――Fin.

<ノベル/神無月まりばな>





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