★ レーギーナと『楽園』で優雅なお茶会 ★
<イラスト/新田みのる>


<参加者>

理月(cazh7597) ルイス キリング(cdur5792) クラスメイトP(ctdm8392) 来栖 香介(cvrz6094) 八之 銀二(cwuh7563)






 来栖香介は周囲のすべてを警戒しながらカフェ『楽園』の一角に佇んでいた。
 忙しく、楽しげに立ち働く森の娘たちは、衣装の美麗さもあいまって、こうして遠くから見ている分には微笑ましく美しいが、アレが自分に向かってくる可能性があり、それによって自分の『男としての大切な何か』が盛大に試されるとなれば話は別だ。断固として拒否だ。
 周囲の裏切りもあって、すでに結構な回数を彼女らの犠牲になっている香介だが、そんな彼が、クリスマスとか言う騒々しい祭のさなかにカフェ『楽園』に足を向ける気になってしまったのは、
「……何で来たんだろ、オレ……」
 もちろん、運命という名の逃れ難いデフォルトが彼を雁字搦めにしているからなのだが。
「適当に茶でも飲んで、帰ろう」
 密かに、クリスマス限定スイーツそのものは楽しみなので――何せここは、とあるハザードさえなければ甘味好きには天国のような場所なのだ――、それを食べたら電光石火の勢いで逃げよう、などと心に決めつつ、香介は準備が整うのを待つ。
 ――もちろん、森の娘たちの『準備』は水面下で着々と進んでいたが、なるべくそこに思いを至らせたくない香介には気づくよしもない。

 ルイス・キリングは、賑やかな店内をぐるりと見渡して、見知った面々の顔を確認し、すでにのっぴきならない状況下に置かれている約一名をさすが御大は違うねっ★ などと軽やかに見捨てながら周囲の様子を確認していた。
「何せ、せっかくのお祭り騒ぎに参加しないとあっちゃこのルイス・キリング様の名前に疵がつくからな……!」
 美味な茶と菓子、気のおけない友人たち、美しい店員たちと来れば、楽しいお茶会にならないはずがないのだ。毎日がネタと騒動とお楽しみに満ちたお祭野郎としては、そこに参加しないなどという選択肢は存在しない。
 とはいえ、男性が集うとほぼ百パーセントの割合で発生する某ハザードは出来ればごめん被りたいので、有事の際には問答無用で他の面子を犠牲にして逃げる所存だった。
 さすがのルイスにも踏み込めない領域というのはある。
「今回の限定スイーツ、どんなんかなー。お茶はアールグレイよりダージリンがいいな。コーヒーだったらブルーマウンテン……は、贅沢かな。あ、でも、女王特製のハーブブレンドも捨て難い……」
 スイーツが余ったら相棒と同居人に持って帰ってやろう、などと思いつつ(もちろんタッパー持参である)、ルイスは準備が整うのをウキウキと待っていた。

 ちっきしょーッ! 判ってたよ! 招待状どころかツタが俺の部屋のノックしてきた段階で死を覚悟したよ! 覚悟したけど逃げたけどな! 逃げたけど捕まったけどな!
 そんな、同性ならば涙なしには語れないようなクリスマスお茶会への(強制)参加理由を声なく叫びつつ、八之銀二は胸中に血涙を迸らせながらツタの餌食になっていた。
 もがいてももがいてもツタは我が身に食い込むばかりで、そこに逃亡可能の四文字は存在しない。
「もう……銀子さんたら、逃げようだなんて……つれない方ね」
 春の野原のような穏やかな笑みを浮かべたリーリウムが、そのくせ死刑執行人さながらの目つきでやわらかく銀二をなじる。
 しかもすでに源氏名である。
「逃げるよ! 逃げるに決まってんだろうがコンチクショウ!」
 またしても、『八之銀二の歴史』という一冊の本の中に、甘塩っぱいベビーピンクの一ページが更新されてゆく気配をひしひしと感じつつ、銀二はせめてもの抵抗とばかりに叫ぶ。当然ながら必死である。
 しかしながら、そんな、男としての矜持などというものは、傍迷惑すぎるマイペースぶりで我が道を行く神聖生物の前にはまったくもって無意味だ。彼女らの指先ひとつで軽やかに吹き飛ばされる運命にある。
「さあお着替えをしましょうね、可愛い方。今回の衣装も、とっても頑張ったんですよ?」
 輝くような笑顔笑顔で手を差し出すリーリウムが死の神の兵士より怖い、と銀二は思った。
 もちろん、その後響き渡る『帆布を引き裂くような悲鳴』は、彼がまとうべきベビーピンク同様、覆し難いデフォルトである。

「クリスマス限定スイーツ……畜生、これを楽しみにしねぇなんて奴は、もぐりだ」
 理月はすでにすっかり臨戦態勢だった。
 ハロウィン限定スイーツも、秋限定スイーツも、冬限定スイーツも、それ以外の新作も、とにかくカフェ『楽園』の商品ラインナップをひたすら網羅してきた理月である。
 この世界では、クリスマスにはブッシュ・ド・ノエルやクリスマス・プディング、パネトーネやシュトーレンなどという特別なスイーツを作って聖人の生誕を祝うのだという。
 今回の限定品が、それらに関連したスイーツかどうかは判らないが、カフェ『楽園』の商品に限って、それが期待外れであるはずがないのだ。となれば、楽しみにしない方が嘘というものだろう。
「楽しみだなぁ」
 三十路を超えた男子とはとても思えない無邪気さ無防備さで笑い、他に誰が来ているんだろうと周囲を見渡した理月は、そこかしこに見知った顔を見つけてまた笑う。
 これなら、飾らない、楽しい茶会になるだろうと思ったのだ。
 ――そんな、期待に満ち溢れた理月の耳を、帆布を引き裂くような悲鳴がかすめるのは、その十秒後のことである。

 クラスメイトPは大きな袋とともに来店していた。
「うん、頑張ろう」
 もちろんここへ来たメインはクリスマス・ティーパーティだが、クラスメイトPにはもうひとつの野望があった。
「……正直、身の危険はひしひしと感じるわけだけど……」
 すでにわりと色々な方面で、『楽園』というよりは女王と愉快な仲間たちの犠牲になっているクラスメイトPは、自分自身がコモンであり、身を守るすべを持たないと心底自覚しているがゆえに、この来店がものすごい危険を伴うことを理解していた。
 戦闘系ムービースターを初めとした、腕に覚えのある人々とは違い、彼にはツタから逃れる方法すらないのだ。もちろん、大抵の殿方はあのツタからは逃れられないように出来ているようだが。
 それでもなお、ここへ来たのは、ひとえにその『野望』を成就させるために他ならない。
「ああ……何か、びっくりするくらい見慣れた面々だなぁ」
 安心するべきなのか、不安がるべきなのか、とても微妙だ。
 微妙だが、どうやら、茶会はもうじき始まるらしい。
 森の娘たちに手招きされて、彼女らへ笑顔で頷き――少々引き攣っていたかもしれないが、仕方ないだろう――、クラスメイトPは袋を担ぎなおした。
 視界の端をベビーピンクがかすめたような気がするが、きっと気の所為だ。たぶん。



 ああこれいつも通りだな。うん、地獄。
 誰もが諦観とともにそんなことを思ったのは、手招きされて集まった先で、ベビーピンクのサンタ服、白いファーで縁取りがされたミニスカートに露出度の高いフリッフリのトップス、ベビーピンクの天然石を使った可愛いアクセサリにブロンドかつら、という、明らかに男性が手を出してはいけない衣装をまとった八之銀二が、クリスマスプレゼントが詰め込まれていると思しき大きな袋に腰かけ、『燃えたよ、燃え尽きた。真っ白にな……』的な姿でうなだれている姿を目にしてしまったからだ。
 しかも、口からは魂と思われるものが出て行きかけていた。
 すでに何か別のものが見えているのかもしれない。
「……!」
 しかし、帰って来て銀子姐さん! と呼びかける暇もない。
 何せ、明日は我が身なのだ。
 無言でダッシュの態勢に入るのは来栖香介とルイス・キリング。
 諦観を滲ませて「ふふふやっぱりこうなると思ってたんだ……」などとつぶやくのはクラスメイトP。
 どれを自宅用に買って帰ろうかと、ショウケースを穴が空くほど見つめていた所為で、他の面子よりも茶会用フロアへの到着がずれ、事態を把握するのが遅れたのは理月。
「せっかくですから、相応しい格好に着替えましょう、ね?」
 何がどう『せっかく』なのか原稿用紙十枚以内で詳しく説明してください、と誰もが突っ込みたくなるようなことを満面の笑顔で告げるのは森の女王レーギーナ(もちろん、必要とあらば、原稿用紙十枚分、きっちり説明するけれども)。
 女王は、滑らかな光沢を持った真紅のドレスに、サンタクロースの扮装という意味合いなのだろう、純白のファーマフラーと、雪の結晶のように輝くダイヤモンドのピアスで装い、結い上げた髪には柊の葉と実を飾りつけていた。
 彼女がそういう格好を今日の犠牲者にもと考えていることは明白で、誰もがそれは本物の女の子にやらせてくださいと心底思ったが、彼らの思い通りには決して行かないのが美★空間の恐ろしいところなのだ。
 女王の周囲で緑がざわめく。
 危険を察して走り出そうとしたが、あっ、と思ったときには、香介は、ルイスに足をひっかけられて盛大にバランスを崩し、その場に膝をついていた。
 その背に迫るツタの群れ。
「てめこのクソルイス、またかよ……ッ!?」
「はっはー、油断大敵火がボウボウ、ってね! ごめんね香子ちゃん、キミの尊い犠牲は忘れな……」
 香介を盾に逃げようとしたルイスだったが、彼がすべてを言い終わるより早く、いつもの1.5倍の速度で飛来したツタが、あっという間に香介とルイスを雁字搦めにしてしまい、ルイスの逃亡を不可能にしてしまった。
「え、いつもより速くね、今の……!? クリスマスだから!? クリスマスだから張り切ってんのか、ツタ!」
「だからオレを巻き込むなっつってんだろうが! マジで刺すぞ!?」
「やー、だって、ここは押さえとかなきゃ駄目だろ、ネタ的に……」
「てめぇはネタで人様を危険に晒すのかよ!」
「まあ、相手が香子ちゃんなら?」
「アホかッ! いっぺん死ね! っつか殺す!」
 仲良くツタに絡まれたふたりが仲良く口論していると、赤やピンクやオレンジと言った色鮮やかなミニドレスに身を包み、純白のショールと柊の葉と実の髪飾りで装った森の娘たちが、銀二と同じデザインのミニスカサンタ衣装を手に、にこやかににじり寄って来る。
「ちょ、その満面の笑顔でこっち来んな、怖ぇっつーの!」
「うっわー、香子ちゃんはともかく、オレはちょーっとやばいんじゃないかなー、その格好」
 香子ちゃん用はスカーレット、ルシーダ姐さん用はショッキングピンク。
 膝上十五センチというミニスカートの裾を飾る白いファーは、恐らく本物の毛皮を使っているのだろう、見目も手触りもよかったが、それを着せられるとなると話は別だ。
 何故この寒い時期に、素足を放り出してまであんなものを履かねばならないというのか。
 女の子ってすごい。
 キャミソール状のトップスは、スカートと同じ色合いで揃えてあり、裾をかがるレースと、胸元に施された雪の結晶の刺繍が大変繊細で美しい代物だ。
 そこに、カシミア百パーセントという手触りのいい純白のマフラーと、衣装と同じ色合いのサンタ帽子を添え、衣装と同じ色調の石を使ったアクセサリ、香子ちゃんにはカーネリアンとレッドアゲート、ルシーダ姐さんにはピンクオパールとチェリークオーツを飾れば、クリスマス限定サンタクロース風漢女の出来上がりである。
「こんんんんッッの、アホルイスッ!!」
 額に青筋を立てながら吼えた香子ちゃんが、「あれ案外似合ってる?」的ポーズを取って目の前の鏡をひび割れさせているルシーダ姐さんを蹴り上げる。
「いってえぇッ!」
 盛大な悲鳴が上がったが、それで香子ちゃんの腹が治まったかどうか。
「ふふふ、そうだよね、やっぱりここに来たらこうなるよね……!」
 諦観めいたことをつぶやきつつも盛大に涙目のクララちゃんは、皆とお揃いの衣装、色は明るいオレンジというそれをあっという間に装わされ、床に座り込んで打ちひしがれていた。
 使用アクセサリはオレンジカルサイトと琥珀。
 正直、決して男性的ではない容貌の彼に、それらはとてもよく似合っていたが、さすがにメイドカフェの時ほど開き直れないらしく、クラスメイトPは耳の先端まで赤くなっている。
「うう……で、でも泣いてても仕方ないし……せっかくだから、ケーキを配るよ!」
 めそめそと泣いていたクラスメイトPだったが、さすがに打たれ強いというか何と言うか、何とか立ち直って、持参した白い大きな袋に手をかけた。どうやら中身は、参加者及び『楽園』の面々へのクリスマス・プレゼントであるらしい。
 そう、彼の野望とは、これを配ることだったのだ。
「皆、いつもありがとう、これ心ばかりのお礼で……」
 言いつつ、絶賛打ちひしがれ中の面々にスイーツやプレゼントの小箱を手渡そうとしたクララちゃんだったが、これまたクラスメイトPクオリティなのか、
「って、あああッ、スカートが動き辛、うわツタが足下から絡んで転ッ、ケーキがぁあ゛! ついでにレーギーナさんへのプレゼントがあぁあ!」
 スカートなどという履き慣れない衣装の所為でよろめいたところへ、足元から今日はとばかりに顔を出したツタに足を取られ、盛大に転倒、手にしていたプレゼントの山を、いっそ清々しいほど派手にブチまけていた。
 ルシーダ姐さんが「あちゃー」という表情で顔を覆う。
「ちょっ……ま、待てって……!?」
 必死でプレゼントを拾い集めるクララちゃんのすぐ傍で、ツタの緊縛プレイを受けつつ往生際悪くもがくのは理月だ。
 少し遅れて茶会スペースに入った彼は、今まさにひん剥かれている。
「俺は平和なお茶会に来たのであって、美★チェンジの犠牲になりに来たわけじゃねええ……!」
 盛大にツタに絡みつかれ、漆黒の武装を問答無用で剥かれて半裸を晒しつつ、傍からはそうは見えないだろうが、理月は首まで赤くなってもがいていた。おまけに思い切り涙目である。
 もがこうが足掻こうが、辿り着く先は一緒だが、嫌なものは嫌だし恥ずかしいものは恥ずかしい。
「これさえなきゃ本当に天国なのに、ここ……ッ!」
 そんな切実な呻き声など完全スルーで、わらわらと寄って来た森の娘たちが、他参加者と書いて犠牲者と読む面々と同じデザインの衣装、大人っぽい深紅のそれを手早く着せ付ける。
「赤は理子さんの肌の色にとっても映えますからね」
 まったく嬉しくない賛辞の言葉を聞きつつ、ガーネットとチェリーアンバーを使ったアクセサリで飾られてしまうと、もうクリスマス限定サンタクロース風漢女の完成である。
「ううう……」
 さめざめと泣きながら打ちひしがれる理子ちゃんに手を差し伸べつつ、一通りのお着替えが終わったことを確認して女王は微笑んだ。
「さあ、では、お茶会を始めましょう?」
 その優雅な宣言が、逃れようのない死の宣告に聞こえた、という参加者は少なからずいたという噂である。



 クリスマス限定のスイーツは、甘さを控えたふわふわの生地に、淡雪を髣髴とさせる夢のような口当たりの生クリームとルビーを思わせる苺をたっぷり使った純白のブッシュ・ド・ノエル、様々な材料を牛脂とともに熟成させて食すという、深いコクのあるクリスマス・プディングだった。
 その他、ラム風味のチョコレート・クリームを詰め込んだシュー・ア・ラ・クレーム、洋酒と生クリームとナッツでやわらかく仕上げた特製トリュフ、クレーム・フランジパーヌと生クリームを詰めてその上に洋酒漬けのチェリーや生の果物を飾った可愛いミニタルト、マスカルポーネ・チーズをふんだんに使った一口サイズのティラミス、じっくり焼いてエスプレッソとともに出された胡桃風味のビスコッティ、口直し用の甘くないビスケットなど、多種多様なスイーツが広いテーブルを彩っている。
 飲み物は、一杯ずつじっくり淹れた濃厚なコーヒー、爽やかな香りのダージリン、穏やかに心に沁みるハーブティ、深いコクのホット・ココア。
 ツタと女装の地獄から(一応)生還した人々は、荒んだ心を癒すべく、目に留まったスイーツを手に取り、賞味する。
 ブッシュ・ド・ノエルはかなり大きく作ってあるのに決して大味ではなく、ホワイト・クリスマスを思わせて見た目も素晴らしく、クリスマス・プディングは純粋な日本人には少し変わった印象を与えるが慣れてみれば味わい深く、他のスイーツももちろん、そのどれもが、サリクスの心がこもった素晴らしいものばかりだ。
「あー……生き返る……!」
 心の底から声を絞り出す理月を筆頭に、『とりあえず自分及び他参加者の出で立ちは気にしない方向で』という暗黙の了解の中、漢女たちはひとまず、優雅なお茶会に没頭する。
 というか、没頭しておかないと、切腹したい気分になってくるので、皆、他愛ないお喋りに余念がない。
 女王と森の娘たちは、クラスメイトPから心尽くしのプレゼントをもらって嬉しそうだ。
「次は、どんなお茶会がいいかしらね」
「お正月に、晴れ着でお茶会はどうかしら?」
「ああ……素敵ね。なら、友禅染めの、華やかな衣装を準備しなくては」
「って、そこで俺をちらっと見るのやめようぜレーギーナ君っ! ベビーピンクの振袖を着てる自分とか想像するだけで死にそうだから!」
「あら……そうかしら? でも、皆さん絶対似合うと思うわよ?」
「さらっと範囲広げんな、そこ! そんな茶会絶対に行かねーからな、オレは!」
「香子さんなら絶対に似合うのに、残念。じゃあ……ええと、二月だったかしら、バレンタインデーお茶会とか。最高級のクーベルチュール・チョコレートをふんだんに使ったスイーツでおもてなしするのはどうかしら?」
「あ、それ美味そうだな。チョコレートをもらえなかった侘しい野郎どもが特攻してくるかもなっ」
「ええ、そしてお給仕をする漢女の皆さんと恋に落ちるのよ。素敵よね……めくるめくロマンスの予感だわ」
「って、もてなすの漢女の皆さんかよっ!? オレだったら百年の恋も冷めちまうっつーか、それ恋じゃなくて濃いじゃねぇの……!?」
「大丈夫よ、ルシーダさんなら両手で数え切れないくらいの相手から告白されるわ」
「すみません全力で遠慮させてください」
「あとは、お雛祭りお茶会も外せないわね。漢女の皆さんには、十二単を着てお給仕してもらうのよ」
「想像するだに微妙ってツッコミ以前に、まず間違いなく動けねぇから、それ!」
「理子姫様にお給仕される人たちはきっと幸せでしょうね……」
「そもそも俺の肌色で和装は似合わねぇだろっつーか、姫にもなりたくなきゃ給仕もしたくねぇっつの! 大体、何で三十路超えて姫呼ばわりされなきゃいけねぇんだよ!?」
「あら……それを言ったら、銀子姫様はどうなるの? 大丈夫、皆素敵な漢姫(おとめ)になれるわ」
「矛先こっち来たッ!? いやもうその時は全力で逃亡させてもらうッ! どうせ逃げられないだろうが、男には無駄と判っていてもやらなくちゃいけないときがあるんだ……!」
 森の娘たちが挙げるお茶会プランに、どうあっても巻き込まれそうな面々が悲壮な顔で突っ込みを入れる中、それらをはらはらした表情で見守っていたクラスメイトPに女王が声をかける。
「ああ……そうだわ、クラスメイトPさん」
「あ、は、はいっ!?」
「プレゼント、どうもありがとう。大切にさせてもらうわね」
「あ、い、いえ……そのっ、ち……ちょっとでも喜んでもらえたら、嬉しいです……!」
「ええ」
 艶やかに微笑み、女王は親愛なる銀幕市民たちを見渡した。
「どうかしたか、レーギーナ君?」
 純白のブッシュ・ド・ノエルをつつく手を止めて銀二が問い、レーギーナは微笑とともに首を横に振った。
 こんな賑やかで愛おしい日々が、途切れることなく続けばいい、などという他愛ない願望は、あまりに他愛なさ過ぎて口に出すことが憚られる。
 しかし、きっと、そう思っている人々は多かろうと、そう思うだけで何もかもが愛しくなるから、レーギーナは、微笑とともにお茶のお代わりを注ぐに留めた。

 賑やかなお茶会は、まだもう少し続く。

<ノベル/犬井ハク>





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