★ カレークエスト補欠戦 ★
イラスト/キャラクター:猫宮にゃおん 背景:ぐったりにゃんこ


灰田 汐:
こんにちは、『対策課』の灰田汐です。
みなさん、カレークエストには参加されるんですか?

え、参加したかったけど、作成チームに入れなかったんですか?
……そういう人もいるかもしれませんね。

実は、私もカレーなら得意料理なので、挑戦してみようかな、と思っていたんです。
もしよかったら、あなたのアイデアを、私に聞かせてもらえませんか?
いいものがあったら、一緒に作ってみて、カレークエストの補欠作品として
加えてもらえないか、相談してみたいと思います。






<ノベル>

「うーん」
 応募作を前に、灰田汐は腕組みをしていた。
 汐の呼びかけにより集まったレシピが、デスクの上には並べられている。いずれ劣らぬ力作、名案揃い。はたしてどれを選べばよいか……。
 デスクをのぞきこんできた人影に気づき、汐はかるく微笑んで応えると、気になった候補作について、ひとつひとつ取り上げ始めた。

「『ローズカレー』ですって。スパイスを利かせた本格的なカレーなんですけど、ローズヒップやローズを入れて、薔薇の香りや、酸味を加えたっていう点が新しいですよね。オレンジピールやパプリカを使って、ルー自体、薔薇色にできるんですって。器も薔薇の描かれた食器に盛ったあと、薔薇の花弁を飾る――、素直に食べてみたいなあ、って思うんですよね」
 ただ、これが『銀幕市カレー』かっていうと……こじつけでも理由が欲しかったかな、って思います、と続ける。

「この『海賊シーフードカレー』も、コンセプトとしては一番うまくまとまっていると思います。お子様ランチみたいに海賊旗を刺す、っていうのも楽しいし、ベースになるスープも魚介のダシ、新鮮な魚介類を使うのも美味しそうですし。単なるレシピコンテンストだったならこれが一番かな」

「アイデアって、いう点では、『甘いカレー』っていう提案も面白かったです。野菜の甘味をたっぷり生かして……ってことだったんですけど、ここはもうひと押し、突き抜けてほしかったところです」

 意外と辛口なコメントにいささか周囲をおののかせながら、汐の審査は続いた。
「銀幕市っていうテーマにいちばん忠実だったのは、この石焼スープカレーでした。スープ状のルーを海に見立て、ナンで銀幕市、ターメリックライスでダイノランド島を表現。ほうれん草のペーストやブロッコリーの密林の中に、ハンバーグのギッシーがいるなんて、かわいいですよね。スープカレーの応募はこれ一作だったので、その点もポイント高いです。作成した人の情熱もとっても伝わってくる力作なんですけど……でもこれ、作るのちょっと大変ですよね? スープカレーの器の中にナンとかライスを入れたら崩れちゃいそうだし……頭の中のアイデアだけに頼りすぎちゃったかな。このレシピを見てるだけだと楽しいんだけどなあ。残念」

「というわけで、総合的に見て、いちばんバランスがよく、考えられていたのは、この応募作です――」

バッキーカラーのカレーを作りたいと思います。作り方は標準のカレーと同じ。ターメリックを減らして作ります。カレーの色はそれぞれ、ミルク・生クリーム・ココナツベースの白(まろやか)、トマトベースの赤と白を混ぜた桃(トマト味?)、ほうれん草など緑の濃い野菜で緑、イカ墨で黒カレーを作ります。ライスはターメリックライスを用意します。あとは、普通のカレーを作り、バッキー型に抜いたニンジンやナスを入れます。器を空色にすることで、バッキーの体色をフルカバーできるかなといった感じです。

「バッキーの「色」に注目し、それをカレーで表現しようという作品です。正直、ちょっと苦しいところもありますし、味は二の次という感じが気になりますが、私はこれで勝負したいと思います」

★ ★ ★

「と、いうことで、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ! 張り切っていきましょう。あ、そこ、刃物は触らないで!」
 有栖川三國が、あわてて天野屋リシュカの手から包丁を奪い去る。
「えー。せっかくだから料理したーい。僕はカレー大好きなんだよねっ!」
「じゃあ、包丁を使わない作業をお願いしますね」
 と、にべもなく三國が言った。
「俺も料理は得意じゃないから……作り方教えてもらえたらって思ったんだけど」
「オレも右に同じ。心得っつーのはねえな」
 相原圭と九条遥那が口を揃えた。
 じゃあ何しに来たんだ、という空気が若干漂わないでもなかったが、三國と汐が中心になって調理開始となった。
「って!」
「あ、大丈夫ですか? 絆創膏ありますよ?」
「ああ、平気。すいません」
 さっそく指を切ったらしい圭。汐に手をとられて、ほのかに赤面する。
「お、なんだこれ。チョコレートか?」
「カレールーですよ! そんな基本的なところでボケなくても」
「そうなのか? カレーっていうのはスパイスをフライパンで炒ってた気がするな、TVで観たかぎりだと……」
「本格的に作るならそうですね。小麦粉を炒めて作るんですよね。じゃあ、せっかくだからやってもらおうかな。これをお願いします」
 三國がてきぱきと指示を出し、言われるままにフライパンをふるう遥那。
「僕も!僕も!」
「うーん、それじゃ……、これで型抜きをお願いします」
 リシュカには、バッキー型の型を手渡す。
 それで切ったニンジンを抜けば、ニンジンバッキーの出来上がり。
「面白い!」
 楽しげに量産していく。
「まず、普通のカレーが『ココア』、ココナッツを使ったクリームベースの『ピュアスノー』に、イカ墨の『ミッドナイト』、トマトクリームの『ピーチ』、ほうれん草の『ハーブ』、黄色いご飯が『ボイルドエッグ』で、ニンジンが『シトラス』、ナスが『ラベンダー』、そして器のブルーが『サニーデイ』、白と黒がすでにあるから『ブラック&ホワイト』もOKとして……これで10色揃いましたね」
 汐が微笑んだ。
 はたしてこれで、カレー王子の眼鏡にかなう銀幕市カレー足りうるだろうか。
 だが、少なくとも、ここに集まった面々が楽しんでカレーを作ったことは間違いないようだ。






<参加者>

有栖川 三國  天野屋 リシュカ  相原 圭  九条 遥那 





戻る