★ 『Chaos Chase!』 ★
イラスト/キャラクター:meg


<オープニング>

「えっ、文化祭?」
 植村は意外そうに聞き返した。
「もう12月ですよ。文化祭っていうと、普通はもっと秋のシーズンに行うもんじゃないですか? 綺羅星学園ではいつもこの時期でしたっけ」
「いや、違うんだけどさ……。今年はほら、いろいろあっただろ」
 浦安映人は、言葉を濁す。
 植村はそれですべてを察した。学園の生徒がかかわったムービースターの殺害事件――そして、それに端を発し、銀幕市民の多くを巻き込んだ騒乱。綺羅星学園は、まさにその渦中にあったのだから、文化祭どころではなかっただろう。
「それで中止になるところだったんだけど、どうしてもやりたいっていう声が多かったらしくて。それで時期をズラして12月にやることになったわけ」
 だから告知のポスターを貼らせてほしいといって、浦安は市役所を訪れたのだった。
「今回は特に学外の人にいっぱい来てもらいたいんだ。いろいろ催しものもあるし、来てくれると嬉しいな。あ、俺は映研で自主製作映画を撮るから期待してて!」

★ ★ ★

「……と、見栄は切ったものの」
 映人の顔には焦りが浮かんでいた。
 文化祭の日程はもうすぐそこ。しかし、急に立ち上げた企画なので、今から映画をつくるということ自体、かなり無謀だったと言わざるをえない。なにせ、まだなにも決まっていないのだ。
「キャストはまあ、どうにかなるとして……脚本が用意できてないんじゃなあ。でももう撮影しないと間に合わないし……。う〜ん……」
 しばらく悩んだあと、ふいに、吹っ切れたように表情をゆるめた。
「ま、しょうがない。こうなったら、アドリブで適当にやっちまえ」
 たしかにそのような撮り方をする映画監督もいないわけではないが……あまりにも場当たりすぎる。浦安映人――、案外、大物かもしれなかった。






<ノベル>

 そんなわけで――
 浦安映人の映画は、結論からいえば完成した。
 これも、銀幕市民の協力の賜物だろう。その意味では、銀幕市ほど映画の撮影に適した場所は、やはりないのである。セットを組まなくても、ハザードエリアは迫力ある風景をそこに出現させてくれるし、ムービースターたちの手を借りればどんなハードなアクションも、特殊効果も元手いらずなのだから。せいぜいが、かれらに払う日当くらいで。映人はそれも、ロケ弁でごまかしてしまった。
 文化祭で上映された作品の評判は上々で、実際は、でたとこまかせの無理な撮影がたたってシナリオもめちゃくちゃだし、構成は破綻していたけれど――集まってくれた協力者たちのなかなか達者な演技の甲斐あってなんとか格好がついたというところだ。
 文化祭の数日の間しか観られないのはもったいない。
 そんな声があがりはじめ、すっかり気を良くした映人が訪ねたのは、ダウンタウンは『名画座』。市民たちの手により復興したこの下町の映画館は、時折、学生たちの自主上映に場所を貸してくれることでも知られていた。
「いいッスよ、そういうことならぜひ協力させて下さい」
 若き支配人・此花慎太郎はこころよく頷くと、映画館のスケジュールを調整してくれた。
 かくして、クリスマスシーズンの数日間、件の映画は『名画座』でも上映されることになったのである。

「タイトルは『Chaos Chase!(カオス・チェイス)』。カッコいいだろ!」
「ふーん」
 誇らしげな映人に対して、さくらは今いち冷めた表情だった。
「なんだよ」
「名詞に続けるならカオスは形容詞でChaoticじゃないの」
「……っ!? い、いいんだよ、そんなの!」
「その日は『クリスマスツリーの森』に行こうかと思ってたけど」
「いいじゃん、映画の後に行けばさ。友達誘って見に来てくれよ」
「まあいいけど。で、どんな内容なの?」
「アクション超大作って感じかな。まずオープニングはダイノランドで撮影したんだ。密林で登場人物が謎の追手に追われているところから始まる。いきなりのスリリングな展開で観客のハートをがっちり鷲掴み!って感じでさ――」

★ ★ ★

 密林の中を、息を殺して進む一人の少年がいる。彼――蔡 笙香は胸に黒い鞄を大事そうに抱えていた。
「何としテモ奴らに此れを渡すわけにはいきマセン……! 早く逃げなくては。……だ、誰デス!?」
 茂みがざわつくのに、弾かれたように振りむく。
「ボクだよッ! 味方だよ! 多分!」
 多分?
 いささか頼りないが、神龍 命の言葉に嘘はないと察してか、笙香は安堵の息をつく。
 そんなかれらを、木陰から見つめるあやしい影……
「ここはあたしに任せなさい。ここで手柄を入れればいずれあたしが組織のトップになれるわ。下克上よ下克上。まずは小手調べよ。さぁ、あんた達あの黒い鞄を奪うのよ!」
 レモンは手にした小枝で、ふたりを示した。
「何で私が……」
 シィ・滝はあからさまにいやな顔をしたが、「いーえ、何でもありません」と、こぼしつつ、ふたりの前に飛び出す。
「ってことでそこの人! 黒の鞄ワタシナサイ!」
「追っ手が来たようデスネ……! 渡すわけにはいきマセン。お断りしマス!」
 滝に向かって毅然と対する笙香。――と、命が手を広げたのを見て、鞄をパスする。
「へーい! グッジョブだよ! これは渡さない、お断りさッ!」
 受け取った命が脱兎のごとく走りだす。
 しかし――

 ギィィ゛イイぃ゙いぃいあ゛ぁア゛ア゛アアァァァ゛ァア!!!

 異様な咆哮とともにあらわれたのは、およそ地球上の生物とは思われないなにかだった。
「ってェ!? 何あの地球外生物! ちょッ、ヘルプ!」
 慌てる命。
 そこへ、あらわれたのは、やたらいい笑顔のひとりの男だった。
「ああ、ちょっと目を離してる間にそんな所に。ピーちゃん、あんまり人を驚かせちゃだめだよ〜」
 ピーちゃんというのはあの怪物(T−06)のことだろうか。するとこの男(エドガー・ウォレス)が飼い主ということか。
 男が姿をあらわした茂みは、ちょうどレモンが潜んでいる場所だった。
「何やってるの?」
「何って、あの黒い鞄を狙っているのよ……! ほら、あんたもペット追いかけなくっちゃ!!」
「おっと、そうだった。ははは、ピーちゃんは足が速いな〜。とても追いつけないよ〜。……ね、あの鞄、さっきからカチコチ音がしているような気がするんだけど?」
「!?」
 鞄は、命から再び笙香へパスされたところだった。
「んン??音?? こ、これは!? 爆弾!? もしやあの時すりかえラレテ……?」
 爆弾、と聞くがはやいか、命が鞄をひったくって、放り投げる!
「ぶ!」
 鞄がエドガーの顔面を直撃した。
「いたた……兎さん、あの人達が鞄を返してくれたみたいだよ」
「何いってんの! 爆弾ってどういうこと!? っていうか本当に爆弾だったら危ないでしょ! なんとかしなさいよ!」
 逆ギレというか八つ当たりも甚だしいレモン。
 エドガーは一瞬、考えて、それから渾身の力をこめて鞄を空高く投げる。
 ダイノランドの空に、爆炎の華が咲いた。

★ ★ ★

「その隙に、ふたりは海へ向かって、隠してあったモーターボートで本土に向かうんだけど……」
「わかった、わかったわよ。そんなに細かく説明してくれなくってもいいから」
 さくらは映人を止めた。
 微に入り細に入り……映人の説明を聞いていると、ストーリーからカットから、映画を見ないでもなにもかもわかってしまいそうだ。
「大変だったんだぜ。爆発の音で怪獣が集まってきちゃってさ。……ええと、それかれ、そのあとは……あ、そうだ、予告編もつくったから見てみてくれよ」
「そんなのあるなら最初から出しなさいよ!」

★ ★ ★

 倉庫街の曇天を舞う鴉。
 ひとりの女(西村)が、無表情に立つ。どさり、と空のカバンを放り出した。
「余計…な動き、はしないこと、だ。空から、我が同志が見…張っ、ているー…ぞ、? もっとも……彼女を諦めたー…なら、ば、話は別、だがー…な」

Chaos Chase!

 響く銃声!
 ウィズの身体がゆっくりと、崩れていく――
「アイツが、オレの助けを、待っている…のに……」
 飛び出したのは針上 小瑠璃だ。
「ちぃっ、どないなっとんや、他にアレを狙ぉとんがおるっちゅー事か!? しゃーないな……。ええか!?これは、誰にも渡さへんで?」

その時、かれらの運命は回り出す

「オレが何者かって聞いたのかな? オレはね、研究所の人間、だよ。さあ、いくよ――楽しくいこうじゃないか、ね?」
 小日向 悟が車のギアを入れる。唸るエンジン。
 装甲車が動き出す。
 小瑠璃が飛び乗ってきた。
「ココはしゃぁない。逃げきるまで、手、組もうやないか?」
 ふっと、その唇に笑みが浮かび――

姿を見せ始める真の敵

「……謀、られた…っ! A57…! 追うな、罠…だ!」
 通信機に向かって叫ぶ西村。
 サマリスの声が応答する。
『A57よりB56、本部からの連絡を確認した。こちらはそろそろ燃料切れだ、これより帰投する。爆撃は全弾回避された。敵は手練れだ、気を付けろ』
 サブマシンガンを手にヴェロニカが駆けこんできた。
「C55だ。B56、取引は失敗したようだが状況は!?」

明かされた真実

「動くな、警察だ!」
 エドガーの手の中で銃口が鈍く光る。
 『りょウ解』と、書いたお描き帳を首から下げたT−06が、ぺしぺしと、倒れたウィズの頬を叩く。
「ヤツラが狙っているのは『ウィルス』だ。ウチの製薬会社が完成させた、一晩で一国を滅ぼす程の威力を持つ……」

そして絆――

「しゃぁないな、これは、あんたらにやるわぁ」
 小瑠璃が装甲車の窓からアタッシュケーヅを放り出す!
「いいね、派手な演出は大スキだよ」
 ハンドルを切りながら、悟が微笑った。
「な! アレはマサカ……!」
 駆ける笙香。しかし間に合わない。だが命は……
「花火は好きかい?ボクは好きだね! ふゥーーー…はァッ!!」
 高々と蹴り上げた!
 アタッシュケースは蹴り返されて……爆発する!
「たーまやァ〜!」

衝撃のラストシーンに、全銀幕市が泣いた!!

浦安映人・監督作品

Chaos Chase!

『名画座』にて絶賛上映中!

★ ★ ★

「ぜったい、観に来てくれよな!」
「あー、はいはい」


 <CAST>
 エージェント1……蔡 笙香(caua6059)
 エージェント2……神龍 命(czrs6525)
 兎ボス………………レモン(catc9428)
 兎ボスの手下………シィ・滝(cuzv3840)
 ピーちゃん…………T−06(cpsm4491)
 刑事…………………エドガー・ウォレス(crww6933)
 製薬会社の男………ウィズ(cwtu1362)
 研究所の男…………小日向 悟(cuxb4756)
 謎の女………………針上 小瑠璃(cncp3410)
 B56………………西村(cvny1597)
 C55………………ヴェロニカ(csat8734)
 A57………………サマリス(cmmc6433)

 <STAFF>
 監督…………………浦安 映人(cdrm3610)
 助監督………………相原 圭(czwp5987)
 爆発物提供…………サマリス(cmmc6433)
 ロケ協力……………アズマ超物理研究所








「すごいじゃないか。大盛況だよ」
「え? ああ……」
 相原 圭に話しかけられて、映人は顔を上げた。
 上映中なので、名画座のロビーにいるのは2人だけ。
「みんなのおかげだよ」
「そうだけど、監督は映人だろ。頑張ったもんな」
「……」
 しばし、沈黙――。
「……神谷のやつ、今、どうしてるんだろうな」
 ふいに、映人が口を開いた。
 圭は、言葉に詰まった。
 撮影中は……映人もそのことは忘れたかのように元気そうだと、思ったのだったが……。
「今のあいつは……本当のあいつじゃない。早くなんとかしてやらないとな……」
「……大丈夫だよ、きっと」
 圭は言った。
 何が大丈夫なのか、自分でもよくわからない。
 しかしここは銀幕市。
 どんなピンチがあっても、最後はハッピーエンドが待っている街だ。まして季節はクリスマス。強い願いはきっとかなうはずだと、彼は思うのだった。






戻る