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[174] 【偽シナリオ】Visual Dreama
ヴィクトル(cxrt7901) 2011-12-03(土) 23:56
 ――魅せてくれ。 夢と散るその前に。

 ※ ※ ※

 目が覚めた。 目の先にはどこまでも、どこまでもまっさらな白。
 雲はない、それどころか空の青なんてものもない、果てしない白の世界。
 それが、ぼくに与えられた世界。 何もない、仮にあるとしたら、“餌”になるものだけ。
 たまに降ってくる“餌”だけが、“ここ”以外の場所が確かにあるのだと教えてくれた。

 ここから出たい、ここから出して。 ぼくは“ここ”以外の場所をもっと知りたい。
 けれどそれは叶わぬ願い、その事実を分かっていても、そう強く願うようになっていて。
 そとの世界の手がかりになるものを齧り、喰らいながら、啼いた、叫んだ。

「ここから、出して」

 そして、今。
 目が覚めた。 目の先にはどこまでも、どこまでも彩られたあざやかな世界。
 微かにひげや羽毛、着ているパーカーのフードが引っ張られる感覚が、なんだか不思議に思う。 これは“風”?
 見上げればまぶしい光、思わず目を閉じた。 体がぽかぽかと暖かい。 あれは“太陽”?
 すんと鼻を鳴らせば、今まで匂いなど感じたことのないそれは土と絵の具の匂いを嗅ぎ取った。 これは……なに?
 そして……、ここはどこなんだろう。 ここは、なんなのだろう。 ここは……。

「ここは……、“ここ”、じゃない……?」

 ※ ※ ※

「迷子のお知らせだよ」
 ディスと名乗った灰色の猫は人前だというのに、眠たげな目のまま一度大きなあくびをした。 宙に浮いていた『導きの書』がひとりでに開き、ページがぱらぱらと捲られていく。 やがて目当てのページが開けたらしい、導きの書はゆるやかに猫の目前に下りてきた。
「もちろん、覚醒したばかりのロストナンバーのことだよ? ちょっと急いで欲しい要因があるから、ぱぱっと説明済ませちゃうね」
 ぐしぐしと前足で顔を洗う猫は、左目の前につけた黒いモノクルの位置を調節しながら言う。 緑色の眼にはじんわりと涙が溜まっていたが、ただ眠たいだけで悲しいわけではないそうだ。 一度しか言わないから、と前置きを置き、前足で導きの書を示す。
「その子の名前はタリス。んで、行き着いた先はインヤンガイ、所謂暴霊域になっている地点で絶賛孤立中」
「暴霊域? 急いで欲しい要因というのはそれか?」
「話は最後まで聞いて欲しいなぁ、時間ないんだから。 ふあぁ……っ」
 横槍を咎める猫は急いでいるのかいないのか、曖昧な態度を取りながらまたページを捲る。 見て、と前足でとある町の絵をぽんぽんと叩いた。 様々な色がごちゃまぜになった、毒々しい鮮やかさに目が痛くなるような光景。 色の正体は、白い部分を余すことなく塗り潰すかのように描かれた無数の絵だった。 その横には“迷子”……保護対象だろうか、奇妙な姿が描かれている。
 体系は人のそれで、顔そのものは愛らしい猫のようだが、彼の顔や身体を覆う黒は毛皮ではなく、鳥類に備わっている羽毛のようなモノだった。 足もまた黒い鱗に覆われた鳥足を思わせる部位で、まるで黒猫と鴉を混ぜて生まれたような奇怪な姿。 それに見入っている人々の視線を無視するかのように、司書猫は説明を始める。
「ここがタリスが迷い込んでしまった場所ね。 今はヘンテコでニギヤカな街になってるけど……。 急ぐ要因その1、この辺り一帯は既に世界樹旅団の手によって造り変えられた世界になっている」
 場所が暴霊域で生きている現地人がいない点は幸いかなぁ、と灰色の雄猫は視線を逸らして呟く。 過去に上げられた報告書を紐解けば、ロストレイル襲撃事件の10号車や、ブルーインブルーのとある海上都市が丸ごと異なる世界に造り替えられた事柄を見られるはずだ。
「この造り替えられた世界にも、世界樹旅団所属のロストナンバーが一人だけ留まっている。 たったひとりの街で何がしたいのかまではわからないけど、世界のコトワリを乱す行いを見過ごすわけにはいかないだろう? この子を保護するついでに、この世界の情報を幾つか収集してほしいんだ。 ……で、ここから本題入るよ、しっかり聞いてね」
 急ぐ要因その2、と前足に備えた爪を二本立てた猫は、いくらか低い声で続きを述べる。 これだけは決して忘れてくれるなと、先ほどまで眠たげだった目を細めている。
「今回の迷子の件……ね。 急がないと、その子は君達が到着してから3時間後に消失すると、僕の導きの書は示した。 それまでにその子を保護し、パスホルダーを手渡して消失の運命から救って欲しいんだ」
「消失の運命だとっ!?」
 先の横槍を入れた襟巻蜥蜴の魔導師が声を荒げた。 猫は若干耳を伏せながら返答として頷いてみせる。 司書猫はさらにと悪いニュースを続けていく、急げ、急げと自身や話し相手を急かすように。
「急ぐ要因その3。 この子は君らが到着するその前に、この世界に留まっている世界樹旅団のツーリストと接触している。 図書館に関するあることないことを吹き込まれている可能性は勿論だけど……、旅団のツーリストはどうも、今回の迷子を気に入ったらしくてね……自分が愛するその世界で消失のときを迎えさせようとしているみたいだ。 旅団員として保護する意思はない……それってつまり、意図的に放置して消失させるってワケだよね」
「何をバカなことを……、消失の運命を迎えた者は徐々に忘れ去られ、やがては存在すらかき消されると言うのに」
「……その世界に残ってる彼の命も、これまでの報告書から察するにあと僅かだろうからね。 道連れが欲しくなったんじゃない? 迷子がそれを望むか望まないかは別問題だけど……世界図書館の仕事の一つに、ロストナンバーの保護も含まれている以上、頼まれてくれる人をこうして募集しているんだよね」
 口調そのものは他人事だが、長々としたセリフを間も無く喋り通した猫の焦りに気付いたものはいただろうか。 本に挟んでいたチケットを6枚宙に浮かせると、きりりと目を細めた。
「君たちに頼みたいのは、迅速な保護」
 よろしく頼んだよ、と猫は小さく頭を垂れた。

「……何故、世界樹旅団のツーリストに関して触れなかった」
 5名のロストナンバーの背中を見届けた後、襟巻蜥蜴の魔術師――ヴィクトルがチケットを片手に猫へ問う。 ふと顔を上げた猫は、バツの悪そうな表情を浮かべたあと、視線を逸らし、
「……放っておいてもどうせ、作り変えられた世界もろとも死ぬんだ。 彼らが知る必要なんかないだろう」
 吐き捨てるように、そう言い切った。 前足で目元をぐしぐしと擦りながら。 ヴィクトルはそうかと短く返し、5人の後を追うためその身を翻した。

 ※ ※ ※

 色あざやかな道を歩くと、ぼく以外のだれかに出会った。 何もない白の上に、あざやかな色を残すだれか。
 はじめてぼく以外のひとと会えたのがついうれしくて、だれかにおぼえたての声と言葉で話しかけた。
 だれかは目を宙に泳がせながらだけど、ぼくに言葉を返してくれる。
 うれしかった。 ぼくは、ぼく以外のひとと話してみたかったから。

 だれかはぼくに、この世界の色について教えてくれた。
 この世界で描かれた色は、色に込められた“おもい”によって動き出すんだと。
 “おもい”ってなに? そう尋ねたら、だれかは自分の胸をぽんと、自分の手で叩いて見せただけだった。

「“おもい”は、どこで知ることができる?」

 そう尋ねると、だれかはそっと、色の付いた筆と色の入ったバケツをぼくにくれた。
 この世界では、だれもが“グラフィッカー”になれるんだと、とてもほこらしげに語る。
 だれかは一度だけゆっくりとわらうと、ぼくの胸をぽんと叩いてからこう言った。

「お前も描いてみろよ。 そうすれば見つかるかもしれないぜ」

 だれか――クレオはわらっていた。 とてもうれしそうに、けれどさびしそうなえがおで。
 釣られてぼくもわらった。 ぼくとクレオ、ふたりに与えられた結末なんて、しらないままで。
 ぼくとクレオ以外、なにも動き出すことのないあざやかなまちで。 ただわらいあっていた。


[175] PLコメント(偽クリエイターコメント)
ヴィクトル(cxrt7901) 2011-12-03(土) 23:59
この度は当スポットにお越し頂き、ありがとうございます。
巷では運動会も終了間近というこの時期にも、偽シナリオのOPを公開致しました。

偽シナリオとは、言葉の通り非公式のシナリオっぽいものです。
この偽シナリオの執筆しているのは正規のWR様ではなく、普段はPCを動かしている一人のPLであることをご承知頂ければと思います。

今回のお話の舞台はインヤンガイ、ですが捜索地点は世界樹旅団のツーリストによって作り変えられ、別世界と化しています。
この別世界に偶然覚醒してやってきた覚醒者の保護が、今回『貴方』へ与えられたお仕事です。
ただしディスと名乗った猫から注意事項の一つとして……覚醒者が消失の運命を迎えるまで、『3時間』となっています。
それまでに覚醒者と出会い、パスホルダーを手渡さなければ、覚醒者は消失してしまいます。 早急の保護をお願いしたいと思います。

ただし、この地には世界樹旅団のツーリストが一人留まり、既に覚醒者と接触しています。
ディスも触れていますが、旅団員ツーリストは覚醒者に何かを吹き込んでいる可能性が大いに有り得ます。 接触の際はこの点を注意してください。 場合によってはタリスが逃走したり、タリスとの戦闘になる可能性も十分あります。

ディスは世界樹旅団のツーリストには触れませんでしたが、彼に関して聞きたいことがあれば、今回同行させて頂くヴィクトルが代わりに答えます。
参加表明をする際に、本文に聞きたいことがあればご記入ください。 ヴィクトルが答えられる範囲であれば、参加者確定時にお答えします。
勿論、タリスのことを尋ねていただいても構いませんし、それ以外のことでも結構です。 ただし質問はお一人様一つまででお願いします。

また、今回の偽シナリオは参加者が確定した後に追加情報があります。


※このお話の登場人物。
◆タリス
今回の保護対象者で、黒猫と鴉を掛け合わせたような奇怪な姿をしている。
無彩色な世界の出身者のようで、色あざやかに彩られた異世界に心を惹かれている。
世界図書館のロストナンバーが到着後、『3時間以内』に消失の運命を迎えるとされている。

※追加情報
出身世界は“シムネット”という仮想世界。
物質作成能力に“グラフィッカー”の力(描いた絵を実物化させる能力)を混合させた能力を持つ。
世界図書館のロストナンバーに対し恐怖心を抱き、現在は逃走中。

・特殊能力一覧
・赤い猫
筆から赤い猫の群れを生み出し、敵対者を噛み付かせる。

・黄色い蝶
筆から黄色の蝶の群れを生み出し、敵対者の視界を塞ぐ。

・青い鳥(EX)
筆から青い鳥を一羽生み出し、敵対者を一人貫く。 重傷判定。

(EX特殊能力は、一度しか使用できません。)

◆クレオ
世界樹旅団所属のツーリストで、今回作り変えられて生まれた世界の出身者。
元いた世界では“グラフィッカー”なる職業らしく、作り変えられた世界の町に様々な絵を塗りたくっている。
タリスのことを気に入り、彼を意図的に消失させることで自身の道連れにしようと目論んでいる様子。

※追加情報
彼の描く絵には「上っ面だけで何も篭っていない」。

◆ヴィクトル
襟巻蜥蜴の魔術師で、今回の仕事の同行者。
今回の保護対象者や、旅団側のツーリストに関して何かを知っているらしい。

※追加情報
ヴィクトルはタリスと面識があったらしい。
ディスから“グラフィッカー”の特殊能力について聞いていた。

◆And You…….(5/5)
・ツィーダ
・ゼシカ・ホーエンハイム
・ミケランジェロ
・ダルタニア
・ティリクティア


※参加表明
発言時のタイトルを「【参加表明】」として、このスレッドに発言してください。 それを参加表明と受け取ります。
万一、参加表明されたお方が6名以上になった場合は、抽選をとらせて頂きます。 抽選期間は12月5日の0:00まで。

また、ヴィクトルに聞きたいことがありましたら、それを本文にお書きください。
※聞いた内容によって、参加者確定後に情報が追加される可能性と、今回の仕事の難易度が変わる可能性があります。
(万一、抽選から外れたお方の質問にもお答えします。)

※プレイング
プレイングの受付は12月14日、0:00まで。
プレイングはPC「ヴィクトル」宛てに600文字以内の行動プレイングをお送りください。

※最後に
これは『螺旋特急ロストレイル』の本筋とは全く無関係な、所謂「二次製作のシナリオっぽいもの」です。
それでも、迷子の鴉猫や一人ぼっちの絵描き、そして襟巻蜥蜴の魔術師に関わって下さるお方がいらっしゃいましたら、ヘンテコな街と化した一帯で共にお待ちしております。

これまでの説明でまだ不明な点がございましたら、このスレッドにて質問などをしていただければと思います。
[176] 【参加表明】正体不明の懐かしさと、

ツィーダ(cpmc4617) 2011-12-04(日) 10:05
妙に懐かしさを感じるような気がするんだよね。
いやさ、昔の友人とかそんな話じゃないんだよ?ボクの記憶(ログ)には彼らの存在はなかったし。
まあ、AIのボクが情報ソースを出せない不明確な感覚―――直感とか言うのも変な話なんだけどね。
…それにしても、まさかね。

ねー、ヴィクトル。
もしかして、その『タリス』って言う子のこと、知ってるの?
あとさ、旅団のツーリストに関しての情報がなんか少なかったかな、って思うんだけど…これって、ディスの方でも分からなかったのかな?
[177] 【参加表明】
ゼシはちっちゃいからバナナは半分しか食べられないの
ゼシカ・ホーエンハイム(cahu8675) 2011-12-04(日) 23:12
(物陰に隠れた少女がじーっとこっちをうかがってる)

あっ

(視線に気づきおどおどと出てくる)
……あの、はじめまして。
ゼシはゼシといいます(ぺこり)

ゼシとおなじ迷子の猫さんが困ってるって聞いて……何かお手伝いできないかなって来てみたの。
ゼシ、おむかえにいってあげたい。
ひとりぼっちはさびしいものね。

そんなわけでよろしくおねがいします、エリマキトカゲ(=ヴィクトル)さん。
[178] 【参加表明】
「……あァ?」
ミケランジェロ(chwe5486) 2011-12-04(日) 23:57
……ロストナンバーの保護依頼と聞いてみれば、世界樹旅団も来てんのか。
ほんっとに面倒くせェ奴らだが……まァ、放って置くわけにもいかねぇか。

その“グラフィッカー”とやらの世界にも、興味がない訳じゃねェしな。

で、そこの蜥蜴。お前今司書と話してたみたいだが、ひとつ訊かせろ。
その世界樹旅団の奴がどんな能力を持ってるか、猫から聞いたか。
俺は頭を使うのが苦手なんでな。情報は先に得ておいた方がやりやすい。
知ってんなら答えてくれ。知らねェんならそれでいい。
[179] 【参加表明】

ダルタニア(cnua5716) 2011-12-04(日) 23:58
ディアスポラされて飛んできたツーリストがいるそうですね。
助けに行こうと思います。
[180] (削除されました)
ヴィクトル(cxrt7901) 2011-12-05(月) 00:01
(削除されました)
[181] 参加希望
見た目だけで判断しない事ね
ティリクティア(curp9866) 2011-12-05(月) 00:02
この依頼、私も参加したいわ。
いいかしら?・・・って、あら。

ごめんなさい。名乗るのが、少し遅れたみたい。
皆、頑張ってきてね!
[182] む。

ヴィクトル(cxrt7901) 2011-12-05(月) 00:13
>ティリクティア
 ああ、まだ参加は受け付けている。
 丁度貴殿で5人目だ、もし貴殿が宜しければ、参加は可能だ。
[183] (ほっとしつつ)
すごく嬉しいわ!どうも有難う!
ティリクティア(curp9866) 2011-12-05(月) 00:18
>ヴィクトル
まだ参加受付中なのね。良かった・・・!
勿論、参加希望するわ。

よろしくね!
[184] 参加者確定、OPノベル(2:45、公開)
ヴィクトル(cxrt7901) 2011-12-05(月) 00:20
「ねー、ヴィクトル」
 霊力都市・インヤンガイに到着した一行は、指定された一帯まで歩みを進めていく。
 トラベラーズノートに記された地図を見ながら先頭を歩くツィーダは、それに続くヴィクトルの名を呼んだ。
「どうした、ツィーダ」
「もしかして、今回覚醒した『タリス』って言う子のこと、知ってるの?」
 ちらっと背後を伺いながら尋ねるツィーダに、ヴィクトルは微かに目を細める。 暫くの間、どういった返答を返そうか決めかねている様子だが、やがてこう答えた。
「……以前、出会ったことがある。我輩が異界を越える力をまだ持っていた時の事だ。タリスはたった一人の世界で生まれたようだった。 タリス以外に存在していたものと言えば……瓦礫の山ぐらいだったろうか。 寂れた地だったと記憶している」
「あとさ……旅団のツーリストに関しての情報がなんか少なかったかな、って思うんだけど……これって、ディスの方でも分からなかったのかな?」
「ディスの予言も万能ではない。 旅団のツーリストと言えば、我々にとっては未知の世界の住民だ。 そのものの詳細を事細かに予言しろと言うのは酷な話だろう。 ……ただ」
 ふとヴィクトルが歩みを止める。 その背後を歩いていたゼシカ・ホーエンハイムにヴィクトルの何気なく揺れた尻尾がぶつかりそうになった。
「きゃ」
「む、すまない。 怪我はないか」
 引っ込み思案な少女の小さな声に気付き、ヴィクトルは尾を引っ込めてしゃがみ込む。 怪我はないか、と言う問いかけにゼシカはこくんと頷いた。
「我輩は少々不注意だったな。 ……疲れてはいないか?」
「ううん、ゼシはだいじょうぶよ。 ゼシね、ゼシと同じ迷子の猫さんが困ってるって聞いて……。 ゼシ、迷子の猫さんをはやくおむかえにいってあげたいの。 ひとりぼっちは、さみしいものね」
「そうか……まだ小さいのに、偉い子だ」
「ゼシはもうちっちゃくないのよ」
 ぷくっと頬を膨らませたレディに、ヴィクトルは暫く頭が上がらない様子だった。 やがて青いカードを3枚取り出して砕くと、ゼシカの体はふわりと宙へ浮かび上がる。 『浮遊』の魔術を行使したらしく、ヴィクトルはゼシカの手をそっと取る。
「少し休ませてやりたいが時間がない、これで暫く我慢してほしい」
「おい、蜥蜴」
 ふわふわと浮くゼシカの手を取るヴィクトルに声を掛けたのはミケランジェロだ。 猫司書が示した「様々な色が散りばめられた町」のようなつなぎを着た芸術の神は問う。
「ひとつ聞かせろ。 お前、司書と話してたみたいだが……世界樹旅団の奴がどんな能力を持ってるか、猫から聞いたか。 俺は頭を使うのが苦手なんでな。情報は先に得ておいた方がやりやすい」
「そうそう、情報こそ力ってね。 ディスから何か聞いてない?」
 横からツィーダが顔を覗かせる。 青い鳥の姿を認め、ヴィクトルは彼との話が途中だったことを思い出した。
「知ってんなら答えてくれ。知らねェんならそれでいい」
「……それは、『街』に到着してからの方が説明がしやすいだろう。 彼の世界の『役割』が生きていれば、だが」
 その言葉の後、一向は再び歩みを進める。 彼ら――いや、覚醒したロストナンバー、タリスに残された時間は、わずか3時間しかないのだからと。

 ※ ※ ※

「『Visual Dreama』……?」
「視覚的な……夢? いえ、綴りがちょっと違いますね」
 やがて一行は『街』に到着し、中央広場らしき場所で周囲の様子を伺っていた。
 ティリクティアが街の看板らしき板切れを見つけて小首を傾げていると、その横にダルタニアがやってきて文字を指でなぞる。
「『Dreama』とは、『Dream』――夢、そして『Drama』――ドラマを掛け合わせた造語のようだ」
 二人の背後に居たヴィクトルが説明を足す。 その背後ではツィーダがタリスの気配がしないかを探っていて、ミケランジェロは極彩色で無秩序に彩られた街をじっと眺めていた。
「夢とドラマ……、夢物語みたいなものかしら? ええと、視覚的な夢物語……ってこと?」
「これは、この『街』の名前なのでしょうか? それとも旅団員の世界の名前?」
「そこまでは分からぬが……旅団員が書き残したものならば、彼にとって何か意味のある名前なのだろうな」

「ねーミケランジェロ。 芸術の神様から見てどう、この世界の絵の感想は?」
「下らねぇ、反吐が出る」
「えっ?」
 タリスの索敵を一時中断したツィーダはミケランジェロに声を掛けていた。 ミケランジェロはしばらく街中に溢れ返った絵を眺めていたが、やがて不快感を露にした表情で言い切る。 芸術の神はかつて壱番世界の混沌とした美しさに惹かれはしたが、この『街』の色は彼にとっては「下らない」ものらしかった。
「ただ上っ面だけで描きました、ってだけで、これだけ見てても何も感じねぇ……何も篭っちゃいねぇ。 チッ、“グラフィッカー”とやらの世界にゃ興味がなかったワケじゃねぇが……これを“芸術”だと思い込んでるオメデタイ世界だってんなら、心底呆れるぜ」
「へぇ……、確かにクセのある絵だとは思ったけど、そこまで感じ取れなかったよ。 ほら、あの大きな家の壁に描いてある青い鳥なんて、キレイだなーって思ったんだけど」

「猫さん、猫さん」
「ゼシカ、一人で行くと危ない」
 極彩色に彩られた街並みを一人歩くゼシカを、ヴィクトルが見つけて慌てて駆け寄る。 その途中、ゼシカの視線がある一点を差していることに気付いたヴィクトルは、彼女の傍に跪きながらその視線を辿った。 それに気がついたティリクティア、ダルタニアも駆け寄ってくる。
「猫さん、ゼシね、猫さんをおむかえにきたの」
 天使のように愛くるしい少女が呼びかけるその先に、鮮やか過ぎる街並みの中で一つ浮いた存在が居た。
 着ているパーカーも、表皮を覆う羽毛も、鱗に覆われた鳥足も黒尽くめで、鮮やかな街に決して溶け込めない無彩色な存在。 深々と被ったフードの中で煌く小さな光は恐らく瞳だろう、微かに見える表情は骨格からして猫のそれだった。 フードを突き破って生えた耳がぴくぴくを動かし、ゼシカの声を聞いている。 彼の特徴は、出発前に猫司書が指した“迷子”とほぼ一致していた。

「おむかえ……?」
 猫の顔に鴉の羽毛を持った迷子――タリスは一瞬だけ首をかしげた。 そう、“一瞬だけ”
 次の瞬間には、タリスはゼシカ達に背を向け、手にした筆を振るっていた。 街並みの色に似た筆先から飛び出したのは、青い鳥、赤い猫、黄色い蝶……色とりどりの「絵」がタリスを庇うように躍り出る。 ティリクティアがすぐにタリスを追おうと走り出すが、フゥゥゥと唸る赤い猫の群れが行く手を塞いだ。
「タリス、待って! 私たちはタリスを迎えに来たの! 敵じゃないわ!」
 その声にタリスは答えない。 一瞬だけティリクティアの顔を覗き込むように振り返ったが、その瞳は恐怖に震えていた。 フードを突き破る尖った耳はぺたりと伏せ、震える声を絞り出すかのように泣き叫んだ。
「いやだ、いやだ、いやだいやだいやだいやだ! ぼくはここにいたいんだ! おむかえなんかいらない! もう“ここ”には帰らない! こないで、こないでぇ!」
 ティリクティアが差し伸べた手など見ずに、タリスは街の奥へと駆け出していく。 筆を振り回すことで生み出される『絵』をばら撒きながら。

 タリスの悲鳴に気付き、ツィーダとミケランジェロがゼシカ達と合流したときには、タリスの姿も、そしてタリスが生み出した絵も消えていた。

「おい、蜥蜴。 グラフィッカーっつうのは」
 ミケランジェロはすかさずヴィクトルに問い詰める。 『街』に着いたら説明するという、その約束を果たせとばかりに。 ヴィクトルはそれに素直に応じた。 その視線はツィーダの方を向いている。
「……グラフィッカーは描いた絵を実体化させる能力を持っている。 この世界のグラフィッカーに受け入れられたタリスも、その力を得ているようだ」
「でも待って! さっきの『絵』、『描く』って言うより『生み出して』た! あんなことまで出来るなんて……まるで」

 ――まるで、ボクの物質作成みたいじゃないか

 ツィーダがその言葉を言いかけて、ハッと一つの可能性に至る。 タリス、彼の姿を見てから、どこか正体不明の懐かしさを感じていた彼に、ヴィクトルは重い口をそっと開いた。

「……タリスの出身世界の名は“シムネット”。 ツィーダ、お前と同じ世界の出身者だ」

-----------------------参加者-------------------------

・ツィーダ
・ゼシカ・ホーエンハイム
・ミケランジェロ
・ダルタニア
・ティリクティア
[185] ※グラフィッカー、タリス、プレイングについて
ヴィクトル(cxrt7901) 2011-12-05(月) 12:35
※グラフィッカーについて
グラフィッカーとは、クレオの居た世界『Visual Dreama』で活躍していた職業です。
この街に足を踏み入れた全ての人物は、このグラフィッカーの能力を手にします。

グラフィッカーの能力とは、「描いた絵を実物化させる」こと。 ただしただ描いただけでは絵は実物化しません。
絵に強い“感情”を込めながら描くことで、絵はグラフィッカーの想いに答えて動き出すのです。
(今回保護対象になっているタリスの絵の場合は、彼の“恐怖”と言う感情に基づいて動いています。)
『Visual Dreama』という世界において、グラフィッカーの描いた絵に勝る力はありません。 グラフィッカーの絵には、グラフィッカーの絵で対抗するしかありません。 この場合、より思いの込められた絵が、相手の絵を打ち消すことが出来るようです。

グラフィッカーの力を行使するには絵を描く道具が必要ですが、素材はどのようなものを使っても構わないようです。 チョーク、クレヨン、絵筆は勿論、カラースプレーなども使用可能です。
周囲の建造物は既に別の絵が描かれていますが、その上から絵を描くことも可能です。

※タリスについて
今回、保護対象となっているタリスは自身の「物質生成」の力とグラフィッカーの力が反応を起こし、「瞬時にグラフィッカーの絵を生み出す」ことが出来るようです。
彼の絵に対抗するには、予め思いを込めた絵を書き溜めておいて、彼の生み出す絵にぶつける必要があります。
(勿論、絵を使わずにタリスの絵を物理的に打ち消すことも可能ですが、時間が掛かります。)

※プレイングについて
プレイングには、こういった要素を取り入れるといいかもしれません。

・絵を描く場合、素材は何を使うか、どんな絵を描くか。
・描く絵にはどのような思いを込めるか。
・逃走するタリスに対しどのように対応するか
・タリスが放つ絵に対しどのように対応するか
[186] 本編ノベル(公開日時:12/29 20:40)
ヴィクトル(cxrt7901) 2011-12-13(火) 00:00
「タリスは……未帰還者? いや、違う……」
 襟巻蜥蜴の次元旅行者から、今回の迷子の話を聞いた青い鳥――ツィーダは自らの世界の都市伝説をふと記憶の中から引き摺り出す。 未帰還者……膨大で果ての見えぬネット世界に意識だけを取り込まれ、現実世界に帰れなくなる者がいるという話だそうだ。 けれどその考えを隅に押しやると、タリスの叫びを思い描きながら、彼が立たされていた境遇を推理する。
「タリスは“ここ”には帰らないって言ってた。 恐らくタリスには“ここ”……、嫌々しながら住んでいた、いや住まされていたサーバーがあって、そのサーバーは……シムネットにいるアバターで溢れた賑やかな所じゃない。 ヴィクトルが言ってたような寂れた地……孤立してしまったサーバーに、ただ一人だけで住まわされていた、一人ぼっちのAIなんだ」
 “ここ”以外の表現の仕方を知らないんだろうね、と黄色っぽい手で頭を抱えてみせる。 ひとりぼっち、その言葉に胸をぎゅっと締め付けられる思いをした幼い少女――ゼシカ・ホーエンハイムは、その胸に自身の手を当てた。
「ゼシね、猫さんを助けたい。 このまま消えちゃうなんて寂しすぎるもの」
 ひとりぼっちの猫に残された期限は刻々と迫っている。 このままその時を迎えてしまえば、彼は消失の運命を手繰り寄せ、永遠にひとりぼっちとなってしまう。 そうなる前に助けたいと願う、かつてひとりぼっちだった少女はまっしろなクレヨンに自らの思いを託しながら絵を描いている。 ゼシカの“思い”に答えた絵はふわりと浮かび上がり、小さな背中にそっと根付いた。 天高くまで飛んでいけそうな天使の翼を広げ、彩られた世界へと羽ばたく。

 ここは絵に込められた思いが力となり、込められた思いが人々に力を奇跡を齎す視覚的な夢物語、『Visual Dreama』。
 孤独の恐怖に震える迷子の猫を救うべく、彼らは様々な思いを色に込め、世界に新たな絵を描き足していく。

 心宿らぬ絵があちらこちらに散乱している街の中、黒いつなぎを着た芸術の神――ミケランジェロは快く思えなかった。 普段の自分も街中の壁に絵を描いてはいるため、自嘲的な嫌悪の念が脳裏を巡る。 そしてそれ以上に、何の感情も込められずに動き出せない絵に触れて、苦い表情を浮かべた。
「絵を実体化させるための心を、喪ったのか」
 蜥蜴は絵に想いを込めて描くことで、グラフィッカーの絵はその想いに答えて動くのだと話した。 けれど、この地に留まっていると言う世界樹旅団のツーリストが描いただろう数多の絵は、自分達が『街』を訪れてから、一向に動き出す気配を見せずにいた。 描かれた不思議な獣達の瞳には光など描かれず、ただ呆然と虚空を眺めている。
「この世界を作った人は、どこにいるのでしょうね」
 白にに黒の水滴をいくつも落としたような毛並みを持つ犬獣人――ダルタニアは絵筆を片手にして思案する。 信仰深い彼は自らが崇める神たる白き獣、神狼(カムラウ)の姿を再現して見せていた。 荒々しい表情の中に垣間見える慈悲の念を描き足された獣の神は、心喪った街を見て何を想うのか。
「タリスは、こっちにいるわ」
 そう答えたのは予知能力を持つ姫巫女――ティリクティアだ。 彼女は自らがこの地にやってくる前に乗っていた列車、ロストレイルを描き、それに乗ってミケランジェロとダルタニアの前に現れた。 ターミナルでの楽しい生活を想いながら描かれた列車の脇にちゃっかりとヴィクトルが乗り込んでおり、ティリクティアを傍で支えるように立っている。
「無理をするなティリクティア、貴殿の予知能力は……」
 襟巻蜥蜴の魔導師は険しい表情で、臨時の車掌を勤める姫の身を案じている。 ティリクティアは詳細な未来予知――詳細であればあるほど身体に負担がかかるものらしい――を行った後のようで、列車の座席に座り込んでいた。 傍らのヴィクトルが魔力の一部をティリクティアに明け渡しつつ、彼女の指差す方へ想いのたくさん詰まった列車を動かしている。 ダルタニアは描き出されたロストレイルに「アクセラレーション」、動く速度を上昇させる魔術を行使してから乗り込んだ。 それに続いたミケランジェロは、車窓から自分達が先ほどまでいた広場を少しだけ眺めた後、視線を前へと向ける。

 誰もいなくなった広場に、響いたのは無数の羽音。 それが天へ行く様を見届けたのは、芸術の神ただ一人。

 ※ ※ ※

 狭い道が幾つも繋がり、まるで迷路のような路地裏を黒い迷子が横切っていく。 やがて走ることに疲れたのか、広い道に出たところでふと足を止めた。 息遣いが荒く、胸のうちはばくばくと高鳴っている。 ふと耳をぴくりと動かし、空を見上げる。 タリスはあおい空を横切る列車を見ていた。 空を翔る列車、それに乗って「おむかえ」は来るのだと言う絵描きの言葉を思い出す。
「いやだ」
 一言呟けば、記録されたことのない感情が込み上げてくる。 ここに居たいという願い、“ここ”には帰らないという誓い、そして……クレオの言葉を無垢に肯定し、「おむかえ」を頑なに拒絶する意思が入り乱れる。 人工的に生み出されたとある世界の管理AIは覚醒を経て、思考回路に深刻なエラーを発生させていた。

 ぼくはここにいる。 ぼくはここにいたいんだ。
 それだけ、ただそれだけなのに……、なぜ、どうして?

 ※ ※ ※

「見つけた」
 極彩色の街並みから上空、空を掛ける絵の列車の車窓からヴィクトルは言った。 赤茶色の鱗に覆われた指が差す先には、街の中でも広い道路。 その右端辺りに在る黒い人影は、フードを捲り上げて空を見上げていた。 彼の周囲には逃げる前に生み出した黄色い蝶が数匹、花びらのようにひらひらと飛びまわっている。
「猫さん、こっちを見てるみたい」
「……逃げる様子はないようだけど」
 白い羽を羽ばたかせ、ロストレイルの横を飛ぶゼシカと、車窓から顔を覗かせたツィーダが顔を合わせる。 ツィーダの言葉の通り、黒い迷子――タリスは先ほどのように逃げる姿勢を見せずに空を、ロストレイルを睨んでいた。 フードを外されて露になった、水晶のような瞳が鋭く光る。 それと同時に黄色い蝶の数が急激に増え始め――。

「来るぞ!」
 ヴィクトルの声とほぼ同時、車窓から見える景色は黄色一色に染め上げられた。 タリスが放った蝶の群れがロストレイル全体を覆いつくし、ティリクティアが描いたロストレイルに激しくぶつかってくる。
「うわ、ロストレイルが!」
 ツィーダの悲鳴が響く先で、蝶が当たった箇所からロストレイルがみるみる内に削られていく。 蝶は他者を傷付ける力は無くとも、『グラフィッカーの絵』には屍に群がる蟻のように貪って行く。 全員が乗っている車両が蝶に消される前に、ヴィクトルは青いカードを三枚、ティリクティアは真っ白な画用紙を取り出した。
「全員、列車から飛び降りるぞ!」
「ロストレイル、絵に戻って!」
 足場が消える前に『浮遊』の魔術が発動し、その場に居た全員の身がふわりと浮き上がった。 一部が欠けたロストレイルは黄色の群れに呑まれる前に、ティリクティアが持つ画用紙の中に収まった。
 周囲を覆う黄色に対し、適当に描いた線を周囲に撒くのはミケランジェロ。 緩やかなカーブのある線は「風」となり、蝶の群れを薙ぎ払っていった。 視界が開けた先からダルタニアと『神狼』の絵が飛び込み、その後をツィーダがゼシカの手を引いて追う。 やがて全員が蝶の群れから逃れて道路に降り立つカタチとなり、顔を上げれば皆がタリスを視界に捉えることが出来た。 タリスは再び――。
「わたくしは、あなたを助けに来たのです!!」
 ――筆を振るう前に、ダルタニアはすかさず言い放つ。 「助け」と聞き、耳を傾けたタリスは一瞬だけ戸惑ったような表情を浮かべるが、すぐに瞳をきゅっと閉じてしまう。
「いやだ、ぼくはここにいるんだ」
 聞く耳など持たぬとばかりに振るわれた筆先から次に生まれたのは、赤い猫の群れだ。 この猫達はタリスの庇うように全身の毛を逆立たせ、喉からフゥゥゥと威嚇音を漏らす。
「クレオはここにいていいって言ってくれたんだ。だから、もう“ここ”には帰らないって決めたんだ」
 だから、だからと消え行きそうな声を絞り出して訴える。 タリスにとって、この世界は大嫌いだった“ここ”ではない、いろあざやかで楽しい世界。 その魅力に取り付かれた無垢な迷子は、ただここにいることだけを望んでいた。 けれどそれは、このままだと叶えられぬ願いだとロストナンバー達は分かっていた。
「あなたに残された時間は……」
 その事実をダルタニアが告げる、その前に一歩タリスへ歩み寄るのはツィーダ。
「……わかったよ」
 物質生成により生み出されたタブレットにペンを走らせながら、呼びかけた。
「目を開けて。 君が知らないせかいを見せてあげるから」
 知らないせかい、そう聞いてタリスはハッと目を見開かせた。 それに応じるように笑みを浮かべた後、外部出力のモニターに描かれる色は“ここ”ではない異世界の光景。 緑豊かな大自然に各々の文化が眠る地はヴォロス、空と海の僅かに異なる青が共存する世はブルーインブルー。 それは世界図書館にいるロストナンバーには馴染み深い世界だが、タリスにとっては見知らぬ世界であり、初めて目にする光景だろう。 その上で天使の羽を羽ばたかせるゼシカもまた、にこりと微笑みを湛えながらだいすきなクレヨンで世界に色を足していく。 空に描かれる七色のクレヨンの線は虹となり、白のクレヨンは綿飴のようにふかふかとした雲となる。
「あのね、怖くないよ。 猫さんがどうしてもいやだっていうなら無理に連れてかないよ。 だからゼシたちのお話聞いてほしいの」
 足元に虹の橋を描きながら、ゼシカはタリスにゆっくりと近付いていく。 初めは警戒ばかりしていた赤い猫の群れも唸るのを止め、その身を少しだけ引かせた。 タリス自身もツィーダが魅せる世界に舞い降りる天使を見つけて、ネコ科の大きな瞳をぱちぱちと瞬かせる。
「猫さんは、神様って知ってる? いつでも空の上にいて、ゼシたちのことを見守ってくれてるのよ」
 白い羽毛をひらりと舞わせて振り返り、ブルーインブルーの空に掛かる虹を指差す。 この虹のずっと、ずーっと向こうにいるのと穏やかに語りかけて、タリスの警戒心を柔らかく解いていく。
「ボクらは色々な場所を巡るのさ。で、迷子になった君も一緒にどうかな、って」
 世界の影からツィーダが語れば、遥か空の向こうに幾つもの列車が飛び交う様子が見える。 様々な異世界を行き来する螺旋特急ロストレイルは、ティリクティアが描いたものだ。 ミケランジェロから借り受けたスプレー缶で描かれる新たな線路の上を走る列車は、まるで未来が描かれたかのように光を瞬かせる。
「私は少しだけ、貴方の気持ちがわかるわ」
 二回り小さなロストレイルの上に乗って、ティリクティアもまたタリスに語りかける。 私も貴方と同じ、白い箱庭の中でずっと暮らしてきたから。 だからこそ。
「私達は、貴方を寂しい“ここ”へ連れて行くために迎えに来たんじゃないの」
「でも……」
 暖かな色をいきなり目の当たりにして、もごもごと戸惑うタリスの頭に、ゼシカの小さな手がそっと乗せられた。 迷子の猫と同じ、一人ぼっちの寂しさを知る少女は、無垢故に傷付きやすい電子の獣を優しくなでる。
「ゼシと一緒に色んな色を見に行こうよ。ホントはね、世界ってキレイなのよ」
「でも、でも……」
 小さく黒い羽毛に覆われた身を震わせるタリス。 色の付いた絵筆をぎゅっと握り、二の腕で自分の胸を抱き締めて小さく、ゼシカの手を振り払ってしまわぬよう、本当に小さく首を横に振る。
「やくそくしたんだ、クレオと。 “おもい”をみつけたら、“おもい”を込めた絵を見せるって。 でも、でも“おもい”が見つからないんだ」
 分からないんだ、と言いかけたところで猫の瞳は潤んでいく。 まぶたを下ろせば零れ落ちる雫は顔を覆う羽毛が吸い込んでしまい、ぽろぽろと流れることはなかったけれど。
「……さっきは俺達が怖いって逃げて、今は“おもい”が見つからなくて悲しいんだろう?」
 極彩色の街に描かれた世界に囲われて、今もやや不機嫌そうな顔をしたままのミケランジェロもまたタリスに歩み寄る。 その人相にタリスがびくりと身を竦ませるが、芸術の神が迷子の顔と同じくらいの高さになるようしゃがみ込み――。
「その気持ちが、お前が探してた“想い”だ」
 とん、とタリスの胸に手を当ててやる。 その仕草を“だれか”の姿と重ねたらしいタリスは、自分の手で自身の胸を押さえつけた。
「これが、ぼくの“想い”……?」
 縋りつくような声に、誰もが首を縦に振る。 本来ならば管理AIに宿ることのない感情を得た迷い子の“想い”を、否定するものなどいなかった。
「これが、ぼくの“想い”……」
 その場にぺたりと座り込むタリスを、白いウエディングドレスを着た女性の手が優しく包む。 ゼシカがいつも大切に持ち歩いている思い出の写真に写るママに、とてもよく似た聖母の絵はタリスと一緒に、その絵を描いたゼシカを抱きしめる。
「マリア様がゼシと猫さんをぎゅってしてくれるから、もう寂しくないよ」
「そうです、わたくしたちは別の世界からあなたを救うために来ました」
 ゼシカと同じように、神の姿を描いたダルタニアも。
「貴方はもう一人ぼっちじゃないわ」
 白い箱庭で長い時を、孤独に過ごしたティリクティアも。
「この世界だけで満足する気か」
 彼の“想い”の在り処を見抜いたミケランジェロも、タリスを見ている。
 それと、と口にしたツィーダは懐を探り、取り出したものは、タリスのために発行された一つのパスホルダー。
「迎えに来た、ってのは言い方がまずかったね、ごめん。 だからさ、言い直すよ」
 もう迷子ではない、同じ世界を超える仲間として、そして同じ世界から訪れた仲間として。
「――ボクと一緒に、“ここ”じゃない外の世界へ『旅に出よう』よ?」
 青い鳥が差し出したパスホルダーを、黒の鴉猫は。
「…………んっ」
 世界の<真理>を受け入れ、新たな乗客の一人として、それを受け取った。 瞳からぽろぽろと涙を零しながら。

 ※ ※ ※

 世界が崩れる音がする。
 そんなこと、些細な問題だと思うことにした、つもりだった。
 けれど、今はなぜかそのことがとてもとても苦しいことのように思えてしまう。
「この世界、この絵、全部消えちゃうんだね」
 いつの間に来ていた物好き屋が感傷に浸るように呟く声がした。
 寂しさをさらけ出すと同時に、どこか悔しさを滲ませた声に、丸い耳をぴくりと、尻尾の先をゆらりと揺らして応じる。

「こんなことしちゃう前に、なんで言ってくれなかったの」
「言ったらアンタ、オレのこと止めただろう」
「止めたよ。 死んでほしくなんかなかったもの」
 けどもう遅いんだね、と乾いた笑い声が届いた。
「キミが描く絵、好きだったのにね」
 止めてくれ、と思う。 そんな甘くて優しい言葉、なんで今更。
「キミは信じてくれなかったけどね。 だからこんなことをしちゃったんでしょう?」
「オレの絵を好きになってくれる人なんて、いないと思ってた」
 本当、なんて今更だ。 筆を握る手が震えてくる。 筆先に宿る色は青に染まっていた、哀を思わせる青に。
「けど……、好きだって言ってくれるヤツがいきなり現れた」
「へぇ、その子の言葉は信じられたんだ。 その子が羨ましいなぁ」
「……アンタもオレの絵、好きだったのか?」
「過去形にしないでほしいんだけどな。 けど……いつかは忘れて、過去形になっちゃうのかなぁ、寂しいね」
「……本当、だったのか?」
「何度も言ってるよ。 何度も言ってたんだよ」
「……」

 ひらひらと、一枚の白い羽が降りてきた。
 ふと見上げてみれば、何も動き出さないハズの街で、無数の鳩が飛んでいることに気が付いた。
 ああ、そっか、世界図書館の連中が来たんだな、オレを消しに。 若しくはタリスを迎えに。
「じゃ、僕はもう行くよ」
 ホントは最期まで見てたかったけど、と物好き屋はこちらに背を向けた。
 面倒なコトになりそうだしと、立ち去り際に一度手を振って。
「なぁ、リーダー」
 今にも消えそうな背中に声を掛けた。 こげ茶色のブルゾンコートを着た物好き屋はピタリと立ち止まる、振り返らない。
「……アンタ、名前なんて言うんだ。 まさか“リーダー”とか“物好き屋”が本名ってワケじゃないだろ」
「僕の名前を冥土の土産代わりに、って? 嬉しいやら寂しいやら……」
 舞い降りてきた鳩達と少し戯れながら、物好き屋は悲しそうな笑顔を浮かべた。
 キミがあの子に“おもい”を聞かれた時、こんな顔してたかもね、と余計なことを告げた後。

「初めまして。 流杉(ルスキ)です」
 そしてさようなら、と、不思議な響きの名を言い残して、物好き屋はこの世界から瞬く間に姿を消した。
 そのすぐ後で、鳩の群れの中に一羽だけ、青い鳥が混じっていることに気がついて、ふと口許が緩んだ。

 ※ ※ ※

 この街の中央には、とても大きくて真っ白な壁がある。 『王の壁』と呼ばれるこの壁は何かを覆っているわけでも、何かを隔てているわけでもない。 ただ一枚の巨大な壁が、街の中央部に堂々と飾られている。 他の世界ならばきっと不思議に思うだろうこの光景は、この世界に留まった一人のツーリストにとってはごく自然な風景だった。
 一つの街の絵を自分の絵だけで支配出来たグラフィッカーは、『王の壁』に自らの名と絵を描く権利を与えられる。 この壁に名を刻むものの絵は、その街で永久に語り継がれるのだと言う御伽話があった。 けれどそれを実際に試したものなどいない。 なぜならコレだけ広い街を自分だけの絵で埋め尽くすなど、多くのグラフィッカーが存在する世界では到底不可能なことだからだ。 さらに御伽話の主役となる『王の壁』は、力のあるグラフィッカーの組織に厳重に護られているため、迂闊に触れることすら許されない。 そんな巨大な壁の前に敷かれたブルーシートの上に、クレオ・パーキンスは居た。 様々な色の入ったバケツがいくつも置かれた奥の脚立に腰掛け、色が塗られていただろう壁を白く塗り潰している。 着ている服は辺りにちらほらと塗料が散らばったワイシャツとジーンズ。 ジーンズの腰辺りから突き出した尻尾は、先端に筆のようなふさふさとした毛が生えていて、頭部には立派な鬣を生やした獅子の顔を備えた獣人の青年だ。
 物好き屋を自称する男が立ち去った後、彼の指先に止まった青い鳥をしばし眺めて、まどろむ様にと目を細めて微笑む。 何も動き出すことのないはずの街で羽ばたく青い鳥の出所を悟ると、彼は脚立からゆっくりと降りブルーシートを踏みしめた。
「お前は……タリスの想いで動いてる絵なんだな」
「ああ、そうだ」
 ブルーシートの外から聞こえてきた声に、クレオは丸い耳をぴくりと動かしてから、声した方へと顔を向ける。 そこに居たのは自分の服と同じように、所々が塗料に塗れたつなぎを着た銀色の髪の男だ。 先ほどまでクレオの周りを飛んでいた鳩の群れは、銀髪の男の周囲を囲うように集い始める。 その光景を見て、獅子の顔をへらりと崩した。
「この鳩はアンタが描いたのか。 とても静かで繊細で……けど見てるとなんだか、胸が熱くなってくると言うか……固い殻の中に、熱いなにかを閉じ込めたような……そんな鼓動を感じるよ」
「そうやって他人の感情を欲しがった所で、それがお前のものになるわけねェだろ」
「……その口ぶりだと、オレの絵のこと分かってるみたいだな」
 鋭く返されて、クレオは痛みと哀しみが入り混じったような表情を浮かべる。 他人の手で描かれた鳩と青い小鳥を物欲しげにじぃっと眺めた後、『王の壁』に振り返って見せる。 銀髪の男もブルーシートを避けて『王の壁』へと近寄る。
「オレはただ、静かに絵を描いていたかっただけなんだ。 けど絵を描くものはみんなグラフィッカーと見なされて、街の一角に領土を作って、奪い合う戦いを強いられる。 けどオレはそんなこと望んでなかった。 オレはただ、静かに絵を描いていたかっただけだからさ。 けど、それは『Visual Dreama』じゃ叶わないことだって分かりきってた」
「だから、人気のねェところに世界を生み出して、一人だけの世界を造ったのか」
 横から銀髪の男が顔を覗き込んでくる。 それに対しゆっくりと頷くクレオの瞳は虚ろだった。 静寂を求めた絵描きは、騒然とした絵師達の戦いに呑まれ、潰された後に絵を描く喜びを失ったようだった。
「お前の世界じゃ、力だけを求められてきたのか?」
「それはオレにも分からない……、けど皆は確かに力を求めたよ」
 力ない返答の後、銀髪の男は「そうかよ」と、不機嫌な調子で返してきた。 その手にスプレー缶が握られているのに気がついた後、男は空いたもう一方の手でクレオの腕を掴んでいた。
「?」
 なすがままにされ、そのまま男に引っ張られていく。 連れて行かれたのは『王の壁』の裏側だ。 その先にはこの壁の前で出会ったタリスと一緒に、青いローブを着た襟巻蜥蜴、見覚えの無い青い鳥と、白に黒ブチをいくつも落とした毛並みの犬、そして金色の髪をした少女と女性が立っていた。 恐らく世界図書館からやってきた「おむかえ」だろう、多くの人に囲まれて、もう一人ぼっちではないタリスを見て、クレオは一息ついた。
「そっか、アンタ達はクレオを迎えに……」
「お前に見せたいものがある」
「……見せたいもの?」
 タリスを含めた6人が見ている先に、クレオも目を向ける。 その先には真っ白な『王の壁』の裏側があるはずだった。 けれど――。

「!! ……これは……」

 ――そこには、彼が目にしたことの無い風景があった。
 植物の緑と空の青に満ちた広大な自然、木製の床が足場となる海上都市の営みと文化、ほのかな闇を秘めつつも活気ある街並みに、まるで夢を描いたような浮き島の世界。
 それらを繋ぐのは異世界を行き来する12車両の列車、車窓の中に見える人々はみな各々の世界から見聞した話を披露し合い、道中も賑わう様が描かれている。
 空に掛かる虹の橋の上を渡るのは愛らしい赤い猫や凛々しい青い鳥達だ。 そんな橋の上に一人腰掛けている女神は、真っ黒い猫と天使のような女の子を両腕で抱いて、優しい笑みを浮かべている。
 虹の向こう側に描かれているのは、神々しくも慈悲深い瞳を持つ白く大きな狼の姿。 その周囲を静かながら、嵐と見紛うような感情赴くままに羽ばたくのは無数の鳩の群れ。
 それぞれが異なるタッチで描かれた絵だと分かると、クレオは地に膝を付け、両手でぎゅっと己の胸を握り締めていた。 幾人の者の手で描かれた絵が共存し心通わせている様など、他者の絵を潰しあう世界の出身者であるクレオは見たことがなかったから。
「すごい……、こんな絵を見るのは、生まれて初めてだ」
 これ以上の言葉は思い浮かばないと言葉を失う孤独な絵描きに、己の名を奢らぬ芸術の神は手にしていたスプレー缶を差し出した。 視線を壁に描かれた新たなグラフィッカー達の絵へ向ける。
「想いが欲しければもう一度絵を描いてみせろ。 描きたい想いがあれば、それは上っ面の感情じゃねぇ」
 そうでなきゃ筆を折れ。これ以上芸術を愚弄するな。 神はそれだけを言い残して一歩下がり、一人のギャラリーとなる。 クレオがそっと振り返れば、そこには新たな絵が書き足されることを望む迷子と、その「お迎え達」が彼を見ていた。

 缶を一振りして描いた絵は、とてもシンプルな一羽の鴉だ。 タリスに良く似た瞳をした鳥を壁画の隅に描いていく。 次元が凍りついたかのように静まり返った時の中、絵の中の鴉は少しずつ形作られていく。 やがて嘴の先の艶や、鳥足に備わった鱗の一枚一枚を丁寧に小筆で補正した後、クレオはその場を振り返る。 その瞳にはやっと光が灯っていた。
「ライオンさん」
 クレヨンの箱を大切そうに抱えた少女が微笑みながら、手を差し出す。
「ライオンさんも、ゼシ達と一緒に行こうよ」
「はは……、そいつは素敵な提案だな」
 照れを隠すように浮かべた笑みは、本当に嬉しそうで、とても悲しそうな笑みだった。 絵の中の鴉が羽ばたく音がしたと思えば、遠くの方から何かが崩れ行く音が聞こえる。 その音に、かりそめの世界が消え去る音を聞いたことがあるのだろう犬獣人の神官戦士はそっと祈りを捧げる。 傍らに立つ姫巫女も、絵描きの逃れることが出来ない崩壊の未来を見て、目を伏せた。
「アンタ達に会うのが、もうちょっと早かったら……良かったのに……」
 それが、誰かとともに同じ壁画を描く喜びを初めて知り。
 崩壊を辿る道を選んでしまった事実を心の底から嘆いた、孤独だった絵描きの最後の言葉だった。


「クレオ!」
 身体の力が抜け、その場に崩れるように倒れる彼の名をタリスが叫ぶ。 今にも駆け出しそうな彼の腕を、ヴィクトルの手が掴んだ。
「まずいぞ……世界が崩れる!」
「でも、でもまだあそこにクレオが、クレオがいるのに!!」
「危ない!」
 ツィーダのトラベルギアであるリボルバーが宙へ向けて火を噴く。 その先に居たのは、今にもタリスに喰らい付こうとしていた暴霊の一匹だった。 運良く一発で仕留めても、新たに湧き出る暴霊の群れが瞬く間に追い寄せてくる。
「暴霊!? なんでこんなところに!」
「忘れたのか、ここは元々暴霊域なんだぞ!」
「……全く、少しは空気読んで欲しいよね!」
「みんなこっちよ、早く!」
 ティリクティアが壊れる街から脱出するためのルートを指で示せばダルタニアが先陣を切り、ミケランジェロがゼシカをひょいと抱えてそれに続いて駆ける。 今の彼の目に映る街の絵は、瓦礫の涙を零して泣き叫んでいた。
「ここはもう危険だ、タリス!」
 ヴィクトルがタリスの身体を『浮遊』の魔術で浮かしてむりやり連れ出していく。 いやだいやだと大声で泣くタリスを落ち着かせようと嘴を開こうとしたツィーダの視界の隅に、何者かの影が映った。
 強大な暴霊の視界に入らぬ小さな路地の隅に座り込んだ、一見すれば壱番世界の出身者に見える青年。 そちらに声を掛けようとしたところで、彼は路地裏の奥へと姿を眩ませる。 この場での追跡を諦めたツィーダは、泣き叫び荒れ狂う路上の地を強く踏み込んだ。

 どこかで鴉の啼く声が響く。 喜びと哀しみが入り混じった叫びにも似た声が。

 ※ ※ ※

 クレオの死を見届けた、彼の為だけの夢の世界は轟音とともに崩れ落ちる。 その音はこの地に本来留まっていた暴霊達の目覚めの合図でもあった。 崩れ落ちる瓦礫と襲い来る暴霊の猛攻から逃れるべく、7人のロストナンバーが消え行く世界の中を駆ける。 主を失った街の絵はその死を悲んでいるのか、目が痛くなるほどの彩度を既に失っていた。
 やがて一つの世界が終わる頃、とあるツーリストがこの地の片隅に留まっていた。 こげ茶色のブルゾンコートを着た青年は、一人の仲間の時間が永遠に止まった事実に泣き崩れた後、溶けるようにその場から姿を消したと言う。

 青年――流杉(ルスキ)と名乗った男の名が猫司書の口から紡がれる前、6人のロストナンバーによって保護されたタリスは色の付いた絵筆とバケツを大切そうに抱えていたと言う。 「たいせつなひとからもらった、大事なものなんだ」と、そう誇らしげに語った。
「けど」
「けど……どうしたの?」
 言葉を濁す鴉猫の子に、猫司書は首を傾げて尋ねる。

「たいせつなひとなのにね。 なぜだかそのひとのことが、思い出せないんだ」
[187] あとがき(偽クリエイターコメント)
ヴィクトル(cxrt7901) 2011-12-29(木) 20:43
 新年、あけましておめでとうございます。
 今年もディクローズの庭園に纏わるPCや、そのPLを宜しくお願いします。

 そして、この度の偽シナリオにご参加頂けた皆様に、改めて感謝を。
 どうも、ありがとうございました。 皆様のお蔭で迷子は保護されたようです。
 敵であるはずのクレオにも、暖かな説得の言葉をかけて下さったこと、嬉しく思います。
 きっとクレオの心にも届いたはずです……結末を変えるまでには至りませんでしたが。
 また、今回は顔見せとなった「物好き屋の流杉」ですが、今後は「VS世界樹旅団」系のシナリオに現れるかもしれません。

 タリスは後日、PCとして登録される予定です。
 スポットなどで見かけたら、声を掛けてやってくださると喜ぶと思います。


>ツィーダさん
 この度はタリスの出身世界やその詳細に付きまして、いろいろ相談に乗って頂きありがとうございます。
 そのお蔭でプレイングには、タリスの過去について文字数を裂かせるカタチになってしまいました……今後は気をつけねばなりませんね。
 もし今後も宜しければ、タリスと遊んでやっていただけたら嬉しく思います。

>ゼシカさん
 実を言いますと、ゼシカさんのプラノベを拝見させて頂きほくほくしていた身でした。
 その影響で、マリア様にはウエディングドレスを着て頂いてますが……マズかったらお申し付けくださいませ。
 過去から絵に馴染みあるお方の参加表明に、驚いたり嬉しかったりです、改めまして、ご参加ありがとうございます。

>ミケランジェロさん
 まさか芸術の神様が現れるとは……!(土下座の構え)
 お持ちの能力もグラフィッカーに類似されていることから、クレオの能力を分析、解説して頂いております。
 説得のお言葉、素敵でした。 プレイングを読み返すだけで時間が過ぎ行く罠が常時発動していました。
 ちなみに、クレオの説得に尤も多く字数を下さったのはミケランジェロさんでした。

>ダルタニアさん
 過去に作り変えられた世界へ赴いたことのあるお方として、参加して頂けて嬉しかったです。
 また今回のプレイングでは、唯一「タイムrミットは3時間」を考慮して下さったため、急ぎ足でタリスを保護するに至っています。
 ところで神狼さんの映写は、あのような形でよかったでしょうか……ドキドキしています。

>ティリクティアさん
 今回、尤も体力を消費された方かとPLは思っております。 ヴィクトルが独自の判断で、ティリクティアさんのサポート役に回りました。
 ロストレイルを描くと言うプレイングも素敵でしたし、予想外でもありました。 描かれた絵の中では、唯一被害を受けてしまった絵でもありますが。
 あと、今回はスパーン☆ なハリセンの出番を作れずに申し訳ありませんでした。

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螺旋特急ロストレイル

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