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[237] 【偽シナリオ】瓦礫だらけのお茶会へ
ノラ・グース(cxmv1112) 2012-10-12(金) 14:01
看板「“博物館”建築予定地   おちゃかいかいじょう」

-------------------------

「おちゃかいしたいのです」

 “博物館”建築予定地としている場所に戻り次第、茶色いブルゾンを着込んだ青年はそんな声を耳にした。
 目前には瓦礫の台の側でぐったりとしている茶トラ模様の猫、ノラ・グースと、それを宥めるカラカル頭の悪魔、テリガン・ウルグナズがいた。
「二人とも、無事で何より」
「リーダー! 良かった、リーダーも無事みたいだな」
「だいぶ疲れたけどね。 ……ノラは大丈夫? かなり元気がないみたいだけど」
 青年がノラを気遣うように視線を流せば、ノラに反して活発な返事をしてみせたテリガンは「よく聞いてくれた」と頷いた。
「図書館の被害については聞いてる? 建物もそうだけど、特に重要なのは……そうだ、世界計が壊れたって話」
「……修理に一月近くは掛かるって話なら聞いた。 それがノラとどう関係が?」
「世界計がないと異世界旅行に出れないだろ?」
 原因はソレだ、と紫色の蛇舌をちろりとさせながら、テリガンもノラを見遣った。 
「この戦いが終わったら“モフトピアでお茶会するのですー”って言ってたから」
「へぇ……」
「リアクション薄いな」
 しかしお茶は好きだが“茶会”に馴染みのない青年は首を傾げる。 人々との交流を幸福としない彼には、ノラの哀しみにピンと来ないのだ。 そもそもなぜモフトピアなのだろうと思い、青年は改めてそれを口にする。
「……お茶会ならモフトピアじゃなくても、ここですればいいんじゃないの」
「看板と瓦礫しかねェ所で? そりゃ流石にムリだろリーダー」
「ナレッジキューブは」
「殆どバレンフォールっていうじーさんの兵器につぎ込んじゃったらしいぜ」
「……計画性のカケラもない」
「そりゃーココが滅ぶか滅ばないかの瀬戸際だったんだから、仕方ないんじゃん?」

「……おちゃかいしたいのです、じゅんびもしっかりしてたのです、一月も待てないのです、楽しみにしてたのですぅ~」

 青年と悪魔が話し込んでいる最中も、お茶会をこよなく愛する猫又はめそめそと涙ぐんでいた。 かなり楽しみにしていたらしく、傍らに何枚も用意されていた手書きの招待状がどっさり。 今となっては寂しさを演出させるアイテムとなっていた。 青年は首を横に振りつつも、手にした携帯電話を開いていた。

「エク、予定地まで急いで」


 ※ ※ ※


「おっちゃかい、おっちゃかい♪」
「やれやれ……、コレで満足かい、リーダー」
「少なくともノラは満足そうだよ、エク」
 “博物館”建築予定地と書かれた看板と瓦礫しかなかった空き地は今や、絢爛豪華な調度品に溢れたパーティ会場となっていた。 セレブリティ溢れるテーブルやチェアは勿論、ティーポットやカップに至ってもロイアル式の最上級品ばかり取り揃えられている。 それを自慢げにポケットから取り出してみせた黒豹の獣人――エク・シュヴァイスはウインクしてみせた。
「ところで貴方からは報酬をまだ頂いてないんだがな、リーダー? 今回のコレもそうだが、トレインウォーでのフォローに関しても」
「期限はいつまで? 今は持ち合わせがないんだ」
「そう来ると思ってたよ。 じゃ、今回もツケにしとくぜ」
 エクのお蔭で設備が整い笑顔ではしゃぐノラ、金ぴかなティーカップを凝視し固まるテリガンを眺める青年は、相変わらずの仏頂面で応答する。 エクもそれに慣れているのだろう、つまらなそうな表情を一瞬だけ青年に見せつけた後、跳ねるノラを捕まえた。
「で? ぼうや、その招待状には送る宛はあるのか?」
「はいなのです! 実はもうお一人様のお名前は書いてあるのです、他の招待状は、広場辺りで配るのですー」
 ぴっ、とノラが差し出した招待状をエクが受け取り、宛名を見る。 首を傾げたエクの横から、青年が顔を出した。
「……リエ・フー? あぁ、ネリムから話を聞いてる」
「はい、ネリムさんがお助けいただいたとお伺いしてるので、お礼を兼ねてのご招待なのですー♪」
「へぇ。 ……テリガンも何か書いてるみたいだけど」
「ああ、オイラはコイツね」
 ノラに次いでテリガンが書き殴った招待状を青年が受け取る。 そこに記されていた名には、青年も身に覚えがあった。
「…………オズ/TMX-SLM57-P? 前に話してた怖いデクノボー。 ……随分と大冒険するね」
「デクノボー、っていうかロボ? 出会い頭に毎日冒険したくねーし、ここいらでちょいと関係修復をと思ってさ……」
「お茶会の最中に喧嘩したら、二人纏めてどっかに転移させるから、そのつもりでお願い」
「……りょーかいしました」


 その数分後、復興作業が進む駅前広場には、こんな内容の招待状がばら撒かれることになる。

『お茶会へ皆様をご招待いたしますです。 “博物館”へようこそ!』
[238] PLコメント(偽クリエイターコメント)
ノラ・グース(cxmv1112) 2012-10-12(金) 14:06
この度は、当スポットにお越しいただき、誠にありがとうございます。

世界計が壊れて異世界旅行が出来ないなんて、そんなまさか。
ヴォロスの烙聖節、楽しみにしてたのーにー。(もだもだもだ)

……などと戯言をのたまいつつ、お久しぶりの偽シナリオです。
偽シナリオとは、言葉の通り非公式のシナリオっぽいものです。
この偽シナリオの執筆しているのは正規のWR様ではなく、普段はPCを動かしている一人のPLであることをご承知頂ければと思います。

進撃のナラゴニア、マキシマムトレインウォーと、ドキドキする日々が続いたので、まったりしたいです。
なので、やっつけ仕事気味なOPで恐縮ですが、まったりとしたお茶会はいかがでしょうか。


お茶会開催にあたりまして、状況をまとめます。
場所は0世界のとある空き地「“博物館”建築予定地」、そこにはお茶会のセットが取り揃えられてます。
テーブルやチェア、ティーセットこそは豪華ですが、周辺は戦闘の影響で瓦礫ばっかり、荒れています。
しかし足元はそれなりに整備されているので、つまづいて転ぶことはあまりないはずです。
そしてそんな即席お茶会の会場へヒトを招くため、ノラが駅前広場辺りで招待状を配る予定です。
参加者の皆様は、ノラからその場で招待状を受け取り、こちらにお越しいただく流れになるかと思います。

また、一部のPCさんには上記の通り、ノラとテリガンから招待状をメールで送信されています。
ノラ・グースからは、偽シナリオ「英雄の条件」に参加されていたリエ・フーさん。
テリガン・ウルグナズからは偽シナリオ「黒歴史は幾度も輝く」に参加されていたオズ/TMX-SLM57-Pさん。
こちらのお二人が参加表明をされた場合、その時点で参加を確定させていただきます。

なお、OPには登場していませんが、それぞれの偽シナリオに登場したNPC
「ネリム・ラルヴァローグ」と「ニコラウス・ソルベルグ」の二人もお茶会の隅っこにちゃっかりいます。

他の人物(いわゆる拠点PC、つまりは執筆者のPC)は、一部だけ招待状を片手にやってくるかもしれません。


※参加表明
発言時のタイトルを「【参加表明】」として、このスレッドに発言してください。 それを参加表明と受け取ります。
万一、参加表明されたお方が6名以上になった場合は、抽選をとらせて頂きます。 抽選期間は10月13日の22:00まで。

※プレイング
プレイングの受付は10月22日、22:00まで。
プレイングはPC「ノラ・グース」宛てに600文字以内の行動プレイングをお送りください。

※最後に
これは『螺旋特急ロストレイル』の本筋とは全く無関係な、所謂「二次製作のシナリオっぽいもの」です。
それでもやっつけ仕事満載なお茶会会場へお越しいただけるお方がいらっしゃいましたら、看板と瓦礫の陰でお待ちしております。

これまでの説明でまだ不明な点がございましたら、このスレッドにて質問などをしていただければと思います。
[239] 【参加表明】
「行くぜ楊貴妃」
リエ・フー(cfrd1035) 2012-10-12(金) 19:05
瓦礫ン中で茶会ってのも乙なもんじゃねーか、諸行無常侘び寂び浸るにゃお誂え向きだ。
タダ飯食えるなら断る理由はねえ、お呼ばれしてやるさ。
……ネリムの事も気になってたしな

ったく、俺のダチ……って呼んでいいのか微妙だが、その手の奴らはどうしてこうもひねくれてんのかね。
[240] 【参加表明】

オズ/TMX-SLM57-P(cxtd3615) 2012-10-13(土) 00:22
我輩は構造上、茶は飲めない。
その代わり複合高濃縮型エネルギー触媒【SPR-1037】でいい…といいたいが、この惨状じゃそんな希少品も望めまい。
量産品なのが不満だが、【MA-365】があればそれでいい。
[241] 【参加表明】
私に何用か?
アマリリス・リーゼンブルグ(cbfm8372) 2012-10-13(土) 00:41
(チラシを受け取り)
・・・ほう、お茶会か。
ふむ。顔見知りはいないだろうが・・・少し覗いてみるかな。
[242] 【参加表明】

黄金の魔女(chen4602) 2012-10-13(土) 01:06
お茶会…ねぇ。何だかとても懐かしい響きだわ。

瓦礫の中でのお茶会だなんて優雅さの欠片も無さそうだけれども、それはそれでとても興味があるわ。折角だからお呼ばれしてみようかしら。
…まさか、とは思うけど。禁煙なんて事は無いわよね?
[243] 【参加表明】
畏まりました。ワタクシに御任せ下さいませ。
医龍・KSC/AW-05S(ctdh1944) 2012-10-13(土) 05:41
ノラ様。お元気そうで何よりでございます。
アナタ様のお茶会、ワタクシもお伺いしても宜しいでしょうか?
この頃は心安らげる時間がございませんでしたので。このような場を御提供頂き、とても喜ばしく思います。
宜しければワタクシも御手伝いさせて頂きたく。何なりとお申し付け下さいませ(一礼)
ニコラウス様にお会いしますのも、とても楽しみにございます。
[244] 【参加表明】

バナー(cptd2674) 2012-10-13(土) 13:30
あ、お茶会の招待状だー。
確か、この前、物好き屋さんと一緒だったこと、あったねー。
いたら、今度もよろしくだよー。
[245] 参加者確定、OPノベル
ノラ・グース(cxmv1112) 2012-10-13(土) 23:07
「お茶会ですー、お茶会やってるのですー」
 旅団の攻撃により荒廃した駅前広場で招待状を配っているノラは張り切っていた。 前々から願っていた「図書館の人たちとのお茶会」がようやく実現するのだから、自慢のヒゲはもちろん、尻尾が二本ともぴんと張っている。
「お茶会なのですー、復興作業の合間にお茶会どうぞーなのですー」
 ぴっ、と差し出す招待状にはどれにも歯車を象ったエンブレムが描かれている。 それ自体はノラの手書きであるため形はまちまちだが、そのどれもがしっかりとした線をしていた。
 そして、そんな招待状を受け取る人がまた一人。
「……ほう、お茶会か」
 その背に白銀の翼を持つ女将軍、アマリリス・リーゼンブルグ。 今回の“戦争”により、久方ぶりにここターミナルへ戻ってきたばかりだ。
「ふむ、顔見知りはいないだろうが……少し覗いてみるかな」
「ぜひぜひどうぞなのですー。 ……はっ」
 好意的な反応を返したアマリリスへ笑顔を向けた後、ノラはある人の姿を見かけて手を振った。 先のトレインウォーでは共に行動していた人の名を叫ぶ。
「医龍さーん、お茶会しましょうなのですー」
「これはノラ様、お元気そうで何よりでございます。 ……お茶会ですか?」
「はいなのです、お茶会なのです、医龍さんもぜひぜひー」
 ぱっと手渡された招待状を受け取り、医龍・KSC/AW-05Sもまた笑顔を返した。

 ※ ※ ※

「瓦礫の中でのお茶会だなんて優雅さの欠片も無さそうだけれども……」
「ほとんど強行だからな。 よく人が来てくれたなって驚いてるよ」
 招待状を受け取り、興味もあったしせっかくだからとやってきたのは黄金の魔女。 名の通り黄金のドレスを身に纏い、気品に溢れた彼女を翡翠の眼をした少年――ネリム・ラルヴァローグが瓦礫だらけの会場を一瞥しながら出迎えた。
「“博物館”へようこそ。 ――まだ建物すら建ってないけどな」
「……見たところ、スタッフは子供ばかり? まさか、とは思うけど……禁煙なんてことは無いわよね?」
 目前にいるネリムや、会場中を箒掛けで掃除しているテリガン、そして童顔故に未成年と誤解されやすい青年――物好き屋を見た後、ふと疑問を口にする。 喫煙所がないかと顔を横に向けたとき。
「喫煙スペースはこちらになります。 “博物館”はなぜだか鼻が利くものばかりが集まっていてね」
 魔女の正面に、ご不便をおかけして申し訳ないと微笑む黒豹の獣人がいた。 彼が手を翳すほうには一回り小さなテーブルと灰皿が設置されている。
「ご所望であれば、ワインの類もこちらでどうぞ。 会場は廃墟染みていますが、品だけはある」

 黄金の魔女への対応をエクに委ねたネリムは、他の来客よりも一足早く会場へ来ていた少年の方へ向かう。 肩に乗っている狐にも彼には見覚えがあった。
「ノラに呼ばれたのか」
「タダ飯食えるなら断る理由はねえ」
 テーブルの上の菓子や料理に目を向けていたリエ・フーは、くるりとネリムの方を向き直る。 へらりとしたリエの表情は一瞬だけ固まった。
「その傷」
「戦闘に巻き込まれただけだ。 すぐ治る」
 かつての敵――同じ荷台に揺られた仲であるネリムの顔には、額と左目を覆うように包帯が巻かれていた。 傷のことを尋ねられると、ネリムはリエの横を通り過ぎて適当な席に腰掛ける。 丁度、リエの視界から左目の傷が隠れる位置だ。
「(俺のダチ……って呼んでいいのか微妙だが、その手の奴らはどうしてこうもひねくれてんのかね)」

「我輩は構造上、茶は飲めない」
「見ればわかる」
「……あのような招待状を送りつけておいて貴様、喧嘩を売っているのか?」
「ボーリョクハンタイデス、つか、どんなの食べるの? むしろ食えるの??」
 メールによる招待客はここにも居た。 オズ/TMX-SLM57-Pは早速テリガンに声を掛けられていたが、そもそもロボットである彼は“普通の”飲食物は口にしない。 故にテリガンもその辺りの対応をどうするべきか悩んでいた。
「複合高濃縮型エネルギー触媒【SPR-1037】でいい」
「えっ?」
「……といいたいが、この惨状じゃそんな希少品も望めまい。 量産品なのが不満だが、【MA-365】があればそれでいい」
「……えっ??」
 とりあえずエクを呼ぼう、そう思ったテリガンはすぐに喫煙スペースへ、黄金の魔女をエスコートするエクに手を振った。

「物好き屋さーん、この前も一緒だったよね、スイーツおいしかったなぁ」
「ああ、君はたしか……バナーくん。 久しぶり」
 かつては物好き屋とお一人様仲間だったリス、バナーは会場の隅に腰掛けていた物好き屋を見つけた。 彼は瓦礫のなかでも高く突起している石柱の上に腰掛け、黒いスケッチブックを開いている。
「そんなところでなにしてるのー? 一緒にお茶会しようよー」
 バナーが手を振って誘うも、物好き屋は一度軽く微笑み返してから、またスケッチブックへと視線を戻してしまう。 すたたっ、と石柱を昇り物好き屋の側へ向かったバナーは、彼が持つスケッチブックを覗き見れば。
「……これ、お茶会の会場?」
「模写。 絵の練習にもなるから」
「物好き屋さん、絵を描く人なの?」
「……描いてた人、かな。 あ、また人が来たみたい」
 なんだか賑やかになりそうだと呟く視線の先には、一風変わった来客も姿を見せていた。

「ふおおぉぉぉ……!」
「ニコラウス様、お久しぶりでございますね」
「魔法少女いんてり☆いりゅーではないかっ! やや、あちらにはめかにか☆おずまでおるぅ~!」
 ニコラウス・ソルベルグはふわっふわな魔法少女衣装……ではなく、普段着のチェックなワイシャツ姿でも相変わらずだった。

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 参加者一覧
 リエ・フー
 オズ/TMX-SLM57-P
 アマリリス・リーゼンブルグ
 黄金の魔女
 医龍・KSC/AW-05S
 バナー 
[246] お茶会、スタッフ一覧
ノラ・グース(cxmv1112) 2012-10-13(土) 23:25
※スタッフについて
 “博物館”のメンバー……お茶会スタッフはそれぞれ別々の位置にいます。
 プレイングを記入する際に、ちまっとした参考になれればと思います。

・物好き屋(リーダー)
 会場の隅っこにある瓦礫の上から、会場を眺めつつスケッチブックに絵を描いています。
 彼の近くには、タリス(cxvm7259)が来ているようです。

・ノラ・グース
 会場の大きなテーブルの側、中央辺りでお茶を淹れながら談笑を楽しんでいます。
 大きなテーブルには、お菓子や洋風の料理も取り揃えられているようです。
 彼の近くには、ブレイク(cybt3247)が来ています。

・ネリム・ラルヴァローグ
 会場の大きなテーブルの側、端で席に座ってゆったりとしています。
 戦闘に巻き込まれ、顔(額と左目辺り)に傷を負ったようです。
 彼の近くには、オルグ(cuxr9072)が来ているようです。

・テリガン・ウルグナズ
 会場中を走り回っています、ウエイターの役です。
 名を呼べばどこからともなくやってくるでしょう。

・ニコラウス・ソルベルグ
 会場中を歩き回っています、ウエイターの役です。
 名を呼べばゆっくりとやって来ます、“博物館”の新規メンバーになっているようです。

・エク・シュヴァイス
 会場の端にある小さなテーブル、喫煙スペースでワインを嗜んでます。
 喫煙スペースにはワインの類が置いてあるので、お酒が好みなお方はこちらへどうぞ。
[247] 結果ノベル
ノラ・グース(cxmv1112) 2013-03-06(水) 00:58
1.虎と狼

「ほらよ」
「? お土産なのですー?」
 包みを受け取ったお茶会の主催者、ノラはきょと、と小首を傾げていた。 すんすんと鼻を鳴らすと、微かに甘い餡の香りが漂っている。
「ここにゃいずれ“博物館”が建つんだろ? それの前祝みたいなモンだ、遠慮なく食いやがれ」
「あうあう、ありがとうございますなのですー」
 ほくほくなのです、と微笑み髭をふにゃふにゃとさせて喜ぶ猫又から振り返った少年――リエ・フーは、そのままテーブルの隅にある席に腰を下ろす。 その隣に座っていたネリムの方へ視線を流せば、その人物は別の誰かに声を掛けられていた。
「御初にお目にかかります。 ワタクシ、医療スタッフとして働かせて頂いております医龍と申します者に御座います」
 お見知り置きのほどを、と頭を垂れるのは白の翼竜――医龍・KSC/AW-05S。 医療スタッフでもある彼が真っ先にネリムへと声を掛ける理由は一目で分かった。 声を掛けられたネリムと言えば、包帯に覆われていない右目だけを医龍へと向け「どうも」と返した。
「先の戦争でお怪我をなされたので御座いますね」
「ああ、まぁ……大したことない、すぐ治る」
「ですがその患部です、万一という場合、傷が神経にまで達していれば……」
 包帯に覆われた患部……ネリムの左目辺りを見据える医龍の言葉に、ネリムは視線を逸らした。 テーブルの上でちょこんと佇む子狐と子猫――リエのセクタンである楊貴妃と、ネリムの使い魔であるカノだ――も不安げな表情だ。 ネリムはため息をついた。
『ネリム様、おけがはだいじょうぶなのにゃ?』
「大丈夫だよ。 ……カノが心配するから、あまり大事にしないでほしいんだけど」
「けど片目ってのは不自由じゃねぇか? せっかく名医がそこにいるんだ、診て貰えよ」
 無理強いはしねェけど、と戸惑うネリムをリエがやんわりと諭すと、医龍もトラベルギアの救急箱をいそいそと取り出す。 ネリムはテーブル側へ顔を背ければ、その向かいからからからと笑い声が聞こえた。
「心配されるのには慣れてねぇってな、なぁネリム?」
「……オルグ。 いや、そんなワケじゃ」
「安心しろよ、ここにはお前を爪弾きにするヤツなんかいねぇから」
 向かいの席でコーヒーの煙を燻らせながら語る金色の狼、オルグの言葉にネリムはついに俯いた。 崩壊する前のホワイトタワーで尋問を担当しており、かつ同一世界の出身と知れたからか、オルグはネリムの素性に詳しくなっていた。 それ以前に親譲りの「瞳」を持つ彼には、ネリムが思うこともわかっているのだろう。
 やがてネリムは観念したように、顔半分を覆う包帯に手を掛ける。 慣れた手つきで解かれる包帯の下から現れた栗色の髪。 その隙間からぴこんと何かが飛び出した。
「……傷はもう治ってる。 悪かったな、騙すつもりじゃなかったんだけど」
 包帯が解かれたネリムの額には傷はあったが、適切な処置を施された甲斐あってか傷口は塞がっていた。 念のため、と傷口を注目する医龍の横で、リエはくくっ、と笑う。 視線の先には栗色の髪の間から覗いている獣の耳、尖ったその形は狼のそれによく似ていた。
「どっちかって言うと、隠すつもりだったってコトか」 
「……半獣化したほうが、傷の治りが早いからさ。 癖になってんだよ、怪我したら決まって頭に包帯ってのがさ」
 獣耳を隠すための包帯を鞄に仕舞うネリムの隣の席にリエが腰掛ける頃、医龍も診察を終えたようで救急箱を仕舞う。 お大事に、と微笑んだ医龍はスポーツバッグを抱えてその場を後にした。
「さて、俺はコーヒーのおかわりでも貰ってくるかね」
 次いでオルグも席を立ちその場を離れようとする。 ネリムとすれ違う時、彼の肩をぽんと叩いた後、その手を振りながら離れていった。

「怪我をしたら、包帯は大袈裟に巻くといい」
「ん」
 手近にあったジャスミンティー入りのカップを片手に持ったまま、リエは隣からぽつりと呟いたネリムへ視線を向ける。 狼の耳をぺたりと寝かせたネリムは薄く笑っていた。
「……“あの人”からの教えだ」
「ああ、あん時言ってた憧れの人か。 ……どんな奴だ?」
 独り言とも取れる呟き、その中にある憧れの人のことを尋ねれば、ネリムはきょとんとした様子でリエの方を向く。
「何、ただの詮索好きの好奇心だ。あの時のてめえの顔が年相応にガキっぽくて、妙に心に残っちまったんだよ」
「……実年齢で換算すれば五十過ぎだ、子供じゃない。 そういうお前こそ……、やっぱいい」
 荷台で話した時のように――今回は探るようにではなく、友人として――、へらりと笑いかければ、ネリムは「コイツ絶対オレより年上だろ」と呟き視線を逸らした。 そうやってムキになるところがガキっぽいんだ、という言の葉を胸にしまいつつリエは話の続きを促す。
「包帯は大袈裟に、ってのは」
「怪我したら誰だって痛いんだってコトを、石やらなんやらをぶつけてくるヤツらに分からせる意味もあったらしい。 あの時代は、オレみたいな“混血”は珍しかったからな。 人間じゃなくて、獣人でもない……そんなオレを初めて受け入れてくれたのがあの人だ。 始めは殺されるんじゃないか、騙されるんじゃないか、そう思ったけど……、気が付いたらあの人の群れの仲間になれてた。 あの人……アイギルス様に出会えていなかったら、今のオレは無かっただろうな」
 かたり、とネリムが持つ空のカップがソーサーの上に置かれた、逸らされていた視線がリエへと返される。
「今度はそっちだ。 リエ……だったな、お前にはそういう……憧れてる人っていうのはいるのか?」
「オレの憧れの人か……、そうだな、生き別れた親父になんのかね。 顔も覚えてねえけど、あのお袋が心底惚れた男だ。 どんな奴か会ってみてえ」
「……? 父親の記憶はないのか?」
「風の噂じゃあ東の島国から来た軍人か諜報員か、てなことを聞くんだがな……それ以外はさっぱりだ」
 娼婦の子として生まれ、その母からの薫陶を受けて育ったからその記憶は今も根強く残っている。 けれどその母が愛したと言う男――リエにとっては父となる男の事はまるで覚えていないのだと語る。 顔を知らなければ名も知れず、その夫婦が互いのどれに惹かれて愛し合ったのかさえも、知らずに今までを生きてきたのだと。 ネリムは目を伏せて「そうか」と返し、空になっていたリエのカップに紅茶を注ぎ入れた。
「案外ロストナンバーとして覚醒してたりしてな」
「有り得ない話でもないな、お前やオレみたいにしぶとく生き延びてるかもしれない」
「だと……いいがな。 人生で初めて出会う手本なせいか、身内への情ってなァ本当厄介だぜ」
「まったくだ」

「つきもちー、つきもちうまうまなのですー」
「それは“月餅”と書いて“げっぺい”と読むんだよ、ノラ君」
「って、コラァ! 一人で全部食うなーっ!」
 中央の方では、リエが手土産として持ち込んだ月餅――ユエピンとも読む、中国菓子を突付いている面々がいる。 かつては図書館と旅団、それぞれ別の組織に属していた者同士は今、こうして一つのお茶会に同席している。 向かいの席では楊貴妃とカノが同じ皿に乗せられたビスケットを摘んでいる。
「戦争は終わった、こうなりゃ旅団も図書館もねえ」
「問題はまだ山積みだけどな。 けど……なんとかなるだろ」
 問題はまだ多いが、リエの言葉の通り旅団と図書館のロストナンバーが面と向かって対立し合うことはないだろう。 このお茶会が何よりの証拠だと笑むネリムの横顔を見て、リエも笑い出す。 しかしその笑みもすぐに引っ込んだ。
「俺のダチ……グレイズってんだが、旅団に渡って行方知れずだ。 あいつとお前、よく似てる」
「えっ?」
「とんがって人を寄せつけねえとこや、危なっかしくてほっとけねえとこがそっくりだ。 ま、こっちに来てから少しは丸くなったみてえだがな」
「……何だよ、それ」
「だから、俺は……」
 ネリムは首を傾げて、リエをじぃっと見ている。 その目の前でリエは紅茶を口に含み、

「なんでもねえ、忘れてくれ」

 言いかけた、その言葉ごと飲み込んだ。


 2.悪魔達の密談

「さて、テリガン・ウルグナズよ」
「どーしたんだい、オズ/TMX-SLM57-Pさんや」
 いきなりフルネームで呼び合う二人にはいくつかの因縁があった。 ちなみにテリガンは苦笑いのままカンペを持参している。
「あ、月餅食う?」
「いらん。 まずはあのニコラウス事件から見ていこうか」
 ニコラウス事件。 今こそは図書館に保護されお菓子や紅茶を運んでいる老人ニコラウス・ソルベルグが関与している事柄だ。 テリガンが件の老人に接触し、“契約”を結んだ後にナラゴニアへ連れ去ろうとした。 そこへ図書館勢力であるオズ達と遭遇、その結果テリガンが持ちかけた“契約”は阻止され、負傷したニコラウスの身柄は図書館が確保する形となった。 報告書に記されているのは以上の事柄である。 だがそれ以上に、その事件の当事者であるテリガンには気がかりなことがあった。
「あー。 なんかあん時のアンタのテンションさ、スカウトダブりの争奪戦ってカンジじゃなかったけど……何かあったの??」
 オズに同行していた蜘蛛女が憤怒していた理由――壱番世界の素人が「魔法少女」、すなわち魔女を騙るその行為にキレた理由は分かる。 しかしオズが自分を目の敵にしていた理由までは分からないと、テリガンは頬杖を突きながら首を捻った。 オズは唸るように音声を発した。
「我輩があの事件で貴様を狙ったのは、貴様が迂闊にも我輩の領分を犯して調子に乗ったからだ」
「リョーブン、ねぇ。 そういやアンタにゃモデルがいたな?」
 ここでテリガンのニヤケ面がピタリと固まる。 ネコ科特有の眼をすぅっと細め、“ドウギョウ”の次の言葉を待っている。
「故に、関係修復をするなら領分をはっきりと決めておこうではないか。 貴様の領分は力と願い、だったな。 我輩の……序列57の地獄の大総裁としての領分は変身と幻惑だ。 変身と幻惑に関する願いを叶えなければ我輩はそれで構わん」
「なるほど、まぁあの時のじーさんの変わりっぷりは確かに“変身”って言ってもいい状況かもしれねーしなぁ。 けどいきなり殺る気満々なのはマジ勘弁」
 土産の月餅を頬張りつつ、テリガンは傍らに置いたスーツケースを手に取る。 中からノートパソコンを取り出して起動させ、キーボートをかたかたと叩き始めた。 初対面の時より若干の余裕が見受けられ、オズの唸り声はまだ止まない。 やがて壱番世界の中でも最新鋭のスペックを誇る小型画面には、オズのモデルになった悪魔の詳細が記されていた。
「ソロモン72柱の魔神が一柱、3、若しくは30の軍隊を率いる悪魔。 教養学にも富んでて、神学や秘密事に正しく答える力がある。 そしてそれこそアンタが言う変身と幻惑の力は当然ある……か……。 あぁ、アンタのその格好、豹だったんだ。 青い装甲は鎧ってコトでオーケー?」
「貴様、悪魔のくせにそのようなことも知らなかったのか」
「そりゃーオイラの世界にゃそんなのいないし。 つか、メカメカしてるアンタの世界にこんな悪魔学や知識があって、それが壱番世界のソレとダブってることにビックリだね」
 「ん、これ旨いな」と月餅を次々と平らげ、用が済んだノートパソコンを折りたたんだ頃、テリガンはふと首を傾げる。 それからゆっくりとオズの方へ向き直れば、何を言えばいいのかわからないと言った、引きつった笑みと疑いの眼差しをオズに向けた。 オズの思考AIが刺激される。
「何か、言いたいことがあるようだな」
 自然と、腰に下げているブレードの柄へと手が伸びる。 それをみてビクリと肩を竦めるテリガンは「抜くなよ、絶対抜くなよ!?」と必死に前置きをした後。

「……てかアンタ、変身と幻惑なんて力……、ホントに」
「それ以上はいかんのじゃぁー!!」

 迂闊な禁句は、真後ろから聞こえる大声によって阻まれた。 先ほどからテリガンとオズの密談を盗み聞きしていた老人ニコラウス・ソルベルグが二人の間に割って入り、テリガンの肩をがっしりと掴み、携帯電話のバイブレーションを連想させるほどがたがたと揺らし始めた。
「魔法少女の三大鉄則は努力! 友情! そして勝利! 魔法少女めかにか☆おずは大きな努力を乗り越えたその先に新たなマジックパワーである変身と幻惑を得るのじゃよ! たとえ今はなくとも、いずれ、必ずやー!!」
「ええい、変身と幻惑の機能はそんな三大鉄則など無くともいずれ実装予定だ! これ以上とやかく言うなら貴様らまとめて斬る!」
「ちょ、まっ、ぼーりょくはんたーい! ってかじーさん力入れすぎってか揺らしすぎー!」

「おや、随分と賑わっているようでございますね」
 比較的話を聞かない闖入者が乱入し、今にもオズがブレードを抜きそうな雰囲気の中、勇敢にも(?)声を掛ける者がいた。 先ほどまでネリムの診察をしていた医龍がスポーツバッグを片手にニコリとしている。
「おおぅ、待っておったぞいんてり☆いりゅー!」
 その声に答えたニコラウスはくるっと方向転換をし、老人とは思えぬ高速ダッシュで医龍の真ん前へと躍り出る。 激しく揺さぶられている中、急に手を離されたテリガンは椅子ごと後ろに倒れる。 床に後頭部を打ち付け痛い痛いとのた打ち回るテリガンを医龍が助け起こした頃にはオズも興奮が冷め、ブレードから手を離していた。 テリガンの治療がざっくり済んだ後、医龍は大事そうに持っていたスポーツバッグの封印を解き始める。
「ニコラウス様にお見せする為に用意して参りました。ワタクシの衣装は勿論ですが、ニコラウス様とオズ様の分もございますよ」
「待てキサラギの。 今、『オズ様の分』と言ったか」
「ええ、もちろん」
 リリイ様に特注依頼させて頂きました、と語りながら取り出した衣装――フリルたっぷりのひらひらスカート、ラメが散りばめられキラキラしている魔法少女衣装――は、全部で三着。 その内二つはニコラウスと医龍用の衣装らしいが、ニコラウス事件当時に着ていたそれよりも格段にパワーアップしていた。 そしてもう一着……一際大きい青の魔法少女衣装はオズの為に作られたもののようだった。 リリイもよく引き受けてくれたものである。
「以前、オススメした衣装を改良して頂いたのです。 さあ、オズ様」
「ぶっははははは! いいじゃん着てみれば、ぜってー似合うって、なぁ!」
「貴様……余計なことを」
 にっこり笑顔の医龍と、今にもブレードで両断してしまいたい衣装を前にオズの思考はヒート寸前だった。 端から見ているテリガンが腹を抱えながら着ろ着ろと嘲笑うが、そんな彼の肩に再び手が置かれる。 ニコラウスかと思い視線をそちらに向けると、テリガンもまた固まった。 三着しかないと思われた衣装のイレギュラー、四着目が――橙色の魔法少女衣装、アクセントに赤や黄色のラインが描かれている――、そこにある。
「めかにか☆おずをこの場に招いた理由は知っておるぞテリガンよ。 確か……関係修復じゃったな、そうじゃろう?」
「……ソウデスケド。 じーさんなにそれ、どっから持ってきたのってかそれどうするつもり」
 引きつった笑顔を浮かべることしかできないテリガンの問いに対し、愚問じゃなと笑む老人の瞳がギラリと危ない光を放つ。 そして高らかに叫ぶ。
「ならば即ちぃ! この魔法少女のふりっふり衣装を二人仲良く着てしまえばそれこそ関係修復の上を行く友好の証じゃろがーい!!」
「そう来ると思ったァー!! 何でオイラまで着なきゃいけないんだよ!? いいじゃんそこのめかにか? めかにかだけで満足しちゃえよ!」
「いやじゃいやじゃあ、テリにゃんも着てくれなきゃ6人揃わん、魔法少女戦隊にならぬのじゃぁ~~!」
「え、魔法少女ってそういう設定あるの? ってかナニ、既に4人もいたの!? いやいや戦隊って大体5人編成じゃ……ってま、ちょっと!?」
 身の危険を感じ腕を振り払おうにも、コンダクター補正によって力を得た魔法少女(翁)の情熱を曲げることは叶わない。 がっしりと、まるで蜘蛛に捕われた哀れな獲物のようにがっしりとキャプチャーされた悪魔は会場から少しずつフェードアウトしていく。 去る『ドウギョウ』の行く先には、誰が組み立てたのだろう一人用のテントが置いてあった。 それで全てを察したテリガンは、瓦礫の上にいるはずの物好き屋を見やるが――、彼は既にそこにはいなかった。
 悪魔らしからぬ悲鳴がテントに吸い込まれ、オズはふぅ、と機械であるはずなのにため息をつく。 が、彼もまだ逃れられない運命だった。 目の前で大柄の魔法少女衣装を翳す医龍が、全く悪意のない笑みで宣告する。

「友好の証をどうぞ、オズ様」


3.黄金と漆黒

「……アイツら、一体何やってんだ」
 悪魔や人工竜、戦闘ロボットに魔法大好き老人の密会の行く末を、喫煙コーナーで――煙草は勿論、紅茶では満足できない紳士淑女のために、資材提供者が独断で設けたゾーンである――見届けていた黒豹の獣人にして博物館の資材提供者、エク・シュヴァイスは顔を顰めた。 
「小蜘蛛とじゃれてた愚かな男ね、私の方に向かってくる前に宙に浮いてたわ」
 エクの丸い耳がぴくりと動く。 彼の背後から密談の一部始終を眺めていた女性――黄金の魔女が煙を燻らせながら答えた。 直接相手をしたことはないが、顔見知りの魔女にエリアルコンボを受けているところをたまたま目撃したのだと言う。 0世界で言う「魔女」の殆どは「アンダーランド」という世界の出身者でもあるそうだが、0世界にとって新参者であるエクはその件に関して未調査だった。
「男なのに女性の姿形になりたがる感性……、私には理解しがたいものです」
「同感ね。 壱番世界の御伽話には男の魔女もいるそうだけど」
「所詮は御伽話です。 それを事実と示す物証があるわけでもない。 ……と、これは失礼、お飲み物は何になさいますか?」
 振り返ったエクは、目の前の招待客が何も手に持っていないことに気がつき視線とテーブルへと向ける。 エク自身が調達したと言うワインや、それを受けるためのグラス、そしてノラが一生懸命作ったと言うビスケットなどの菓子類や飾りの花などが円形のテーブルを彩るなか、一つだけ馴染みのないものが置かれていた。
 それは黄金で出来た篭手だった。 手首までを覆う板金は勿論、複雑な動作を要求される指の関節部、その全てが黄金――いや、純金で構築されていた。 エクは黄金の魔女の正式な名を脳裏に描きながら、ワイングラスを一つ手繰り寄せる。
「生憎、"黄金の舌"とも呼ばれる私の舌は安物のワインは受け付けなくてね。ブルゴーニュ産のアイスワインはあるかしら?」
「ブルゴーニュ産……。 ああ、少々お待ちを」
「それと……生憎と、私は透明なグラスでワインを飲む趣味は無いの」
 エクが目当てのボトルに手を伸ばすと同時に、黄金の魔女はテーブルに用意されていた透明なグラスに指先を当てる。 触れられたグラスは一瞬のうちに透明度を無くし、傍らに置かれた篭手と同様の輝きを放つ黄金のグラスと化した。 目の錯覚かと、ワインを手にしたエクの動作が一瞬止まる。 しかしそれは決して目の錯覚ではなかった。
「……『Witch of Midas』」
「不用意に魔女の、本来の名を口にしないことね。 このグラスのようになりたくなければ」
 目を見開いたまま、乗客名簿に記されていた本来の名を口走ったエクに向けて、黄金の魔女――『Witch of Midas』は透明“だった”グラスを、モノクル越しの金――エクの瞳の前に翳した。
『黄金の魔法』は、黄金の魔女が触れたもの全てを黄金に変えてしまう魔法。 鉄やガラスは勿論、生き物でさえも一瞬で物言わぬ金属へと変える力。 魔女達の世界でもその力を恐れ、彼女に近付くものはおらず、また彼女自身も他者との関わり合いを避けたという。 
「ワインを注いで頂けるかしら? 生憎、両手が塞がっていてボトルを持つ事が出来ないのよ」
「……ええ、ただいま」
 ブルゴーニュ産のワインボトルが開けられるまで、数秒の時が経過していた。 まず黄金の魔女が左手に持つ黄金のグラスにワインが注がれ、次いでエクも透明なグラスにワインを流し込む。 賑やかな竜と悪魔と人間達の密談組は二手に分かれてから会場は静かになってしまった為、ワインが注がれる水音は勿論、喫煙コーナーにいるお互いの息遣いが聞こえるほどに静かだった。 エクがグラスを持ち、黄金の魔女へ目線を送る。 黄金の魔女もそれに答え、グラスを翳す。

「魔女と黒豹だなんて、随分と理想的な巡り合わせだこと」
「そうですか。 貴女の理想に叶うことが出来て光栄です」
 かちん、と二色のグラスが重なった後、魔女と黒豹はグラスに口をつけた。

「――?」
 舌の先端に液体が触れ、魔女の動きはピタリと止まる。 ゆっくりとグラスを下げると、目の前では黒豹が、自分と同じように動きを止めている。 やがて自分が凝視されていることに気が付いたエクは、魔女から視線を逸らした後、ぽつりと震えた声で呟いた。


「……やられた」


 ――数分後。
 “本物の”ブルゴーニュ産アイスワインで気を取り直したエクが浮かない表情で語るのは、この“博物館”を仕切る“リーダー”こと、物好き屋と名乗る男の話。
「“博物館”のリーダー、物好き屋は大の酒嫌いでして。 私がこういったスペースを設けることを、もしかしたら、いや確実にノラよりも快く思っていなかったのでしょう。 だからって、来客に振舞うワインボトルの中身を市販のグレープジュースとすり替えるなんて……、やりすぎだろ……」
 その来客の前で口調を乱し、頭を抱えているエクを黄金の魔女はさぞ面白そうに眺めている。 0世界に来てからは「アンダーランド」に居た頃と異なり、他者との交流に興味を持ち始めた魔女にとって、他人の感情の移り変わる様は大変興味深いもので。 だからこそ、このお茶会に足を運んだのだが……目前の黒豹獣人は中々のお気に入りに登録されていた。
「流石に貴方ご自慢の“ポケット”の中身は無事だったようね。 お蔭で貴方を黄金に変えずに済んだわ」
「も、申し訳ございません。 それはご勘弁を」
 軽く睨みを入れて囁けば、気取った態度ばかり取っていたエクはびくりと肩を震わせた。 よくよく見れば、普通ならばピンと立っているはずの髭が下に曲がり、背の向こうで揺らめいているであろう尻尾は股の下で燻っている。 この黒豹もまた、かつての世界に自分を恐れた他の魔女たちと同様に、黄金の魔女を恐れているようだった。
「……」
 黄金の鎧が一歩、エクへ歩み寄れば、エクの肩はぴくりと微かに震える。 今のエクにあるのは、『一歩間違えれば、自分が黄金にされてしまうかもしれない』という恐怖心。 少なくとも、魔女はそう感じていた。
「実はこうやって殿方と面と向かって御話をするのは慣れないものでね」
 それでも魔女は、理想に叶う黒豹を試すように口を開く。 自分は来客で、黒豹はその持て成しをする立場にいる以前に、彼は『自分を甘く見られないように振舞うこと』で必死なのだ。
「みんな、この私を恐れて逃げ出してしまって色んな意味でお話にならないのよ。 でも仕方が無いことね、私が触れたものは皆、『黄金の魔法』によって変わってしまうんだもの。 貴方のスーツは勿論、艶やかな毛並みも、金色の瞳も全て、物言わぬ金属の塊に、ね」
「……」
 グラスを持たぬ手がさり気無くテーブルに置かれれば、白と銀を基調にデザインされた台から四つの足の先まで黄金に変わった。 ごくりと、息を呑む音が聞こえるほど、手を伸ばせば届いてしまうほどに二人の距離は近い。 尚も強がる黒豹に魔女は微笑みかける。
「貴方はこの私が怖くないの? それとも……」


 ――恐怖にじっと耐えているのかしら?


 微かに震える肩の向こうでは、ある種の“変身”を遂げてしまった悪魔のウェイターが顔を赤らめつつ女将軍に酌を注いでいたり、くせのある髪をした少年がワインを一本くすねていったりしていたが、そんなお茶会の光景を眺め、静かに楽しみながら、魔女はエクの言葉を待っていた。 再びエクは口を開いたのは、魔女が囁いてから数分の時が経った頃だった。

「お手に触れぬよう、気をつけさせて頂きます」



4.瓦礫塗れのお茶会

「ぼくはバナーだよー。 今回のお茶会、一緒に楽しもうねー」
 お茶会が始まる前、大きなリスのバナーは瓦礫を退けていくノラや、博物館の面々――お茶会のスタッフにそう声を掛けて回っていた。
「バナーさんようこそなのです、ぜひぜひ楽しんでいってくださいなのですー」
「うん。 招待してくれてありがとー! あ、そうだ」
 ほくほくとした笑顔で迎えてくれたノラへ、バナーはこのために用意したと言う包みを差し出した。 木の実の香ばしい香りから、果物の甘い香りまで漂ってくる。
「お茶会をやるって聞いたから、お菓子いっぱい持ってきちゃった。 秋だし、木の実もいっぱいあったんだよー」
 実りの季節だからねー、と微笑むバナーへ、ノラは「ありがとなのですー」とぺこぺこ頭を下げた。 つきもちも頂いたのでぜひー、と誘われたテーブルには、クッキーやらビスケットなどの素朴なお菓子が用意されていた。
「ノラもこのためにいっぱい、いーっぱい用意したのですー。 リーダーにも、少し手伝ってもらったのです」
 にこにことしたままカップに紅茶を注ぎ、それをバナーへ差し出したノラはきょろりと周囲を見回した。 それに釣られてバナーもノラの視線を追いかける。 やがて困ったように首を傾げてノラはまた笑う。
「リーダー、人がいーっぱいなところはニガテなのです」
「ええと。 リーダーって」
「あうあう、失礼しました。 皆さんが“物好き屋”さんと呼ばれているお方を、ノラ達は“リーダー”と呼んでるのです」
「そうなんだー。 物好き屋さんは、博物館のリーダーなんだねー」
「なのですー」
 ノラから紅茶を受け取り、向かった先は一際大きな瓦礫がある所。 そのてっぺんでは話の種にされているリーダーこと物好き屋がいた。 バナーが最初に声を掛けた時と同じく、スケッチブックにペンを走らせていた。
「物好き屋さーん、色々となんか食べないの? みんな集まってるんだし、賑わいながら食べようよー!」
 ぱたぱたと手を振るバナーに気付き、物好き屋は軽く微笑む。 やがて彼はスケッチブックを閉じると、瞬く間にそこから姿を消した。 バナーの後をついて来たノラは少し寂しげだ。
「リーダー、人込みはニガテなのです。 最近は少し慣れてきたと仰ってたのですがー」
「そうなんだ。 ともかくとして、ケーキはあるかなー?」
「もちろんなのです! リーダーがおいしいショートケーキをお土産に持ってきてくれたのですー♪」
「それ、もしかしてパティスリー・ポールのかなー? この前、物好き屋さん達と一緒に行ったんだよー」

 バナーと共に中央テーブルに戻ったノラがケーキを切り分けはじめる光景を、遠くで微笑む一人の女性がいた。
 アマリリス・リーゼンブルグ。 マキシマムトレインウォーを経て、ターミナルに戻ってきた有翼人の女将軍はゆるりと時を過ごしていた。 廃墟同然の建築予定地での茶会というものに興味を惹かれたが、それよりも絢爛豪華な調度品で溢れた会場に目を見張っていた。
「なんか飲む?」
 声のする方へ顔を向ければ、そこには先ほどまでスーツ姿だった悪魔がいた。 アグレッシブな老人によりテントに連れ込まれた後となった今では、橙色の魔法少女風ドレスに身を包み、顔は明後日の方向を向けていた。 毛皮で覆われているはずなのに、なぜか顔を赤らませているように見える。
「とても似合うよ」
「オイラは“なんか飲む?”って聞いたんだけど」
 本気の嫌顔を見せ付けるテリガンをどうにか宥め、アマリリスが持つカップにハーブティーが注がれたのは、それから数分後のことだった。 向かいではノラとバナーが、リエが持参した月餅をほくほく笑顔で摘んでいて、眺めているだけでも微笑ましい。 ウェイター業務を一通り済ませ、席についてアップルジュースを飲んでいたテリガンにお勧めのお菓子を訪ねれば、ぶっきらぼうにクラッカーを指差された。 側にはフルーツや生クリームなども置かれていて、「どーぞご自由にトッピングすれば」と声も飛んできた。

「……」
 瓦礫の中に人々の賑わう様を眺めながら、アマリリスは目を細め、そっと首元を手で押さえる。 その仕草に気付いたテリガンが目線だけを寄越し、アマリリスと同じように目を細めた。
 押えられた首元にはクランチの部品が埋め込まれていた。 その部品は人に特殊な力を与えると同時に、それ相応の代償と忠誠を求めるものだった。
 そしてその部品は、旅団を裏切り園丁の首を跳ねた後に爆発した。 牧師がロザリオと共に持っていたスイッチによって。
 将軍はそこで死を迎えたはずだったが、その箇所に刺さった世界計の破片によって息を吹き返した。 そして、その破片はニーズヘッグに飲み込まれていく牧師によって……。

 拳が強く、固く握られる。
 本当は、救いたかった。 誰も、彼もを助けたかった。
 一人でも多くの人の命を救いたくて、将軍は旅団へと渡り、部品の戒めを受け入れたというのに。
 助けられなかった人の名と顔を思うと、自分は何のために旅団へ渡ったのだろうかと自嘲に顔を歪めてしまう。

「どうかしましたか」
 顔を上げると、浮かない表情をしていると言いたげな顔をした物好き屋がアマリリスを眺めていた。 先ほどまで茶色いブルゾンを着ていた彼は、今は黒のスーツを着ている。
「いいや、少し考え事を」
「……テリガンが何か気分を害したのかと思ったのだけど、杞憂だったかな」
「オイラまだ何もしてねぇ!?」
 抗議の声を上げるテリガンを他所に、物好き屋は何事もなかったかのように立ち去っていく。 彼の歩く先ではノラとバナーが手を振っていた。 そこへリエと、彼に手を引かれてネリムが、そして今のテリガンと同じような魔法少女衣装えを着せられたオズが、医龍とニコラウスに導かれて集っていく。 隅にある喫煙スペースでは、黄金の魔女がそれを眺めて静かに微笑み、傍らに立つエクも呆れつつも、悪い気はしていない様子で見守っていた。
 かつて図書館と旅団、互いを敵として争い続けた彼らは今、一つになりつつある。


5.

「この度はこんな会場に足を運んで頂き、ありがとうございます」
 少し地が盛り上がっている箇所をお立ち台代わりに、物好き屋が小さく会釈する。 隣に並んだノラとバナーもソレに習い、「ありがとう(なのですー)」と大きく頭を下げた。 なんでバナーまで、と突っ込みを入れるものはいない。
「招待状を配ってるとき、少し不安だったのです。 ノラ達はその、元々は旅団の人なので。 でもこうして集まってくれてほくほくなのです、ありがとなのですー!」
 ノラが両手一杯に嬉しさを表す横で、エクが優雅に頭を下げてみせる。 だが視線の先で黄金の魔女が微笑んでいるのを見ると、その動きはぎこちなくなった。
 テリガンもステージに上がっているが、あの魔法少女衣装からいつものスーツに着替えてしまった為にニコラウスから悲鳴が、医龍からは「お気に召していただけませんでしたか」と嘆く声が、そしてオズからはブレードが飛んできていた。

「それじゃ、ここいらで乾杯と行くか?」
 ティーカップじゃ締まらねぇけど、とリエが客席から声を上げる。 隣に立つネリムは、沢山のカップが乗せられたトレーを抱えて何故か浮かない表情をしていた。
「……オイ、コレさ、マジで入れたのかよ」
「折角の茶会だ、こん位大目に見ろよ。 ワイン一滴で酔っ払っちまうガキじゃあるまいし」
 丁度エクが黄金の魔女に怯えて固まっている時、リエはこっそりとワインとぶどうジュースをすり替えて客席に持ってきていたのだ。 エクは物好き屋にすり替えられたと勘違いしているし、それだけならネリムも黙っていた。 問題は皆に配ろうとしているカップには、そのワインが一滴ずつ垂らしてあるということ。
 チラりと翡翠の瞳が物好き屋の表情を伺う。 その視線に気付いたリーダーは、傍らに置いてあった紙に何かを書いて、ネリムの手元に転移させた。

『もうすり替えてあるから大丈夫』

「ぶっ」
「どうした、ネリム?」
「いや、別に。 さ、乾杯だ乾杯!」

「ほら、アンタも」
 急にカップ配りを率先して始めたネリムを余所目に、テリガンがカップを運んだ先はアマリリスの手元だ。
「さっきの紅茶なら下げちゃったぜ。 考え事もいいけどさ、もうすっかり冷めちゃってたから」
「もうカップは行き渡ったかー?」
 向こうでネリムが確認の声を上げる。 テリガンがカップを掲げると、アマリリスもそれに合わせて渡されたカップを天に掲げる。

 それは決意の表れでもあった。 あの牧師から託された想いは今も尚アマリリスの中に生きている。
 その想いを胸に、この愛しき仲間達のために、自分の出来る事をしていくと。 そしてあの時託された言葉の意味に、必ず辿り着くと。

 ――乾杯!

 複数の誰かがそれぞれに声を上げる、その中にはアマリリスの声もあった。
 その瞬間に、瓦礫しかなかったお茶会の会場に色とりどりの花弁が舞い降りてくる。 0世界の空を見ていた人々からは驚きや感嘆の声が漏れる中、花の名を持つ将軍はカップに口をつけた。 そして、舞い散る白い花びらの一つを手に目を丸くしている悪魔に微笑む。

「美味しい、有難う」
[248] あとがき(偽クリエイターコメント)
ノラ・グース(cxmv1112) 2013-03-06(水) 01:00
(平伏)

 大変申し訳ございませんでした。
 偽シナリオのOPは去年の10月に出したのに、ノベルの公開は3月になってしまいました。 もう復旧作業終わってます。
 お時間を頂き過ぎ、大変今更感が溢れ出していますが、ここに結果を提出させて頂きます。

 皆様にはご迷惑をおかけいたしました。
 以下、個別コメントです。

>リエ・フーさん
 ノラの招待に応じて頂き、ありがとうございました。 月餅は美味しく頂きました。
 ネリムも少しは心を開いているようです、少しだけ彼の境遇が明かされています。
 乾杯の音頭はありがとうございます、が、ワインを仕込むプレはリーダーストップが掛かりました。

>オズ/TMX-SLM57-Pさん
 テリガンの招待に応じて頂き、ありがとうございました。 悪魔と不可解な乱入者と熱く語って頂けたでしょうか。
 魔法少女衣装は大体医龍さんの仕業です、ニコラウスはそれに乗っかる形でテリガンを巻き込んどきました。
 友好の印ゲットです。 これでターミナル内での喧嘩は半年くらい起こらなかったと思いたいです。

>アマリリス・リーゼンブルグさん
 ご来場ありがとうございます。 アマリリスさんの決意が固まったでしょうか。
 テリガンが何か言いたそうにしていましたが、ここはそっとしておくべきかと思い口を噤みました。

>黄金の魔女さん
 ご来場ありがとうございます。 当時は影の薄いエクにお声を掛けて頂いて感謝しております。
 女性恐怖症のことは完全に後出しになってしまいました、ここで改めてお詫び申し上げます。
 書いてる途中、食事の描写に少し悩みました。 ワインは黄金にならないと言うことは……(むむむ)

>医龍・KSC/AW-05Sさん
 ご来場ありがとうございます。 魔法少女ネタがすごい影響を及ぼしていて驚いています。
 それだけにネリムの傷の診断や、礼の魔法少女衣装の準備など、予測の範囲内でした。
 友好の印は無事に受け取って頂けたようです。 リリイさんならやってくれると思うんです。

>バナーさん
 ご来場ありがとうございます。 お菓子の差し入れは美味しく頂きました。
 プレで唯一物好き屋に絡んで頂けましたが、すらっと逃げてしまい申し訳なく。
 なんとなくノラとなかよくして頂けそうです。 今度はどこかのパティシナでお会いしましょう。

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螺旋特急ロストレイル

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