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ある日の午後・曇り空
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| 吉備 サクラ(cnxm1610) 2013-04-14(日) 21:30 |
ヴォロスまで取りに行った竜刻が生み出した護り石。 針金で包んで黒い革紐をつけて、男性用のネックレスを作った。 自分の目の高さに持ち上げて暫く眺める。 うん、悪くない。 カジュアルな格好が似あう男性なら、普段使いのアクセサリーにしても悪くない。 でも。 「渡す機会、ないですものね」 革紐を丸めてそのまま自分のポケットにしまい込んだ。
いつも通り自作したスーツを着て、小さめのジュラルミンケースにアイロン掛けした男性用スリーピースを入れて陰陽街を歩く。 ただ今日は、仕立て屋の仕事探しはついでで、メインは他のこと。 前、2回行ったことがある廟。 あの裏手にはお守りを吊るす樹がある。 2度目に貰ったお守りと自分が作った首飾りをその樹にかけた。
(好きだったんだけどな、それでもまだ好きなんだけどな) 口に出さず小さく呟く。 出来上がったお守りをまじまじ眺めて、1日考えて、分かってしまった。
依頼で擦れ違う事はあっても、もうこういう物を渡す機会はないってこと。
生きていてくれればうれしい、遠目にでも眺められればほんの少し心が温かくなる気がする。 まるで太陽みたい。 前を向く元気が少しだけ出る気がする。 でも。 太陽は、人間の事なんか気にしない。
人には太陽が必要でも、太陽に人間は必要じゃない、関係ない。 人の想いは絶対太陽には伝わらない。
「私、イェイナさんになりたかったな…」 そうすればどんな形であれ傍に居られる。 心の底からそう思った。 |
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雷雨のち晴れ、になるといい
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| 吉備 サクラ(cnxm1610) 2013-05-12(日) 16:02 |
いくら鏡を見ても、今の自分のことは良く分からないから。 自分が他の人からどう見えるのか知りたくて、トゥレーンで花を作ることにした。
咲いた花をただ見つめる。 もっとみっともなさすぎる花が咲くかと思っていた。 暗くて暗くて、目を背けたくなるような。 もしかしてマスターが何かしてくれたのかな? お茶を淹れに行ったマスターの様子を窺う。 ・・・そうでもないのかな。 顔色を探るのは諦めて、出されたお茶をゆっくり啜った。
作った花は持ち帰ることにした。 路地裏で立ち止まり、ゆっくりと花を眺める。 ・・・これが、私の花。 嫌われて終わった恋。 マフラーだって返して、完璧に終わっていたのに、忘れられなくてしがみついた。 みっともなくて気持ち悪くて傍迷惑な執着。 これは、そういう気持ちで出来た花。
イェイナさんが回復したか聞きたかった。 貴方が選んだ人と幸せになれるよう祈っていると伝えたかった。 それすら相手にとっては迷惑で気持ち悪いものなんだって、やっと気付いた。
嫌われた相手の記憶に、みっともない気持ち悪い相手として残るのはまっぴらだ。 少なくとも私は。 もう遅すぎるかもしれないけれど。
陰陽街で仕事を見つけようという気持ちは変わらなくても、あの人を見かけてももう気付かないふりが出来る。 やっとちゃんと私の気持ちは終わった…凍りついた。 そういう花か…そう思った。
花をしっかり握り締める。 人づてに、花を触れば取り出した感情は戻ると聞いていた。 重苦しい気持ちが戻っても、もう気にならないから。 みっともなくて気持ち悪い人間と思われるのは嫌。 あの人が誰と歩こうがもう関係ない。 私たちはお互いにとって路傍の石。
「ごめんなさいマスター。でもありがとう」 これがわたしにとってのけじめ。 花の気持ちを全部自分に戻して花を捨てた。
背伸びをする。 見上げたターミナルの空は、今もこれからも変わらない。 「何だかお腹空いちゃいましたね、ゆりりん。ご飯食べに行きましょうか」 肩の上に浮かぶセクタンをつついて、笑いながら歩き出した。 |
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