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[57] ある日の午後・曇り空

吉備 サクラ(cnxm1610) 2013-04-14(日) 21:30
ヴォロスまで取りに行った竜刻が生み出した護り石。
針金で包んで黒い革紐をつけて、男性用のネックレスを作った。
自分の目の高さに持ち上げて暫く眺める。
うん、悪くない。
カジュアルな格好が似あう男性なら、普段使いのアクセサリーにしても悪くない。
でも。
「渡す機会、ないですものね」
革紐を丸めてそのまま自分のポケットにしまい込んだ。

いつも通り自作したスーツを着て、小さめのジュラルミンケースにアイロン掛けした男性用スリーピースを入れて陰陽街を歩く。
ただ今日は、仕立て屋の仕事探しはついでで、メインは他のこと。
前、2回行ったことがある廟。
あの裏手にはお守りを吊るす樹がある。
2度目に貰ったお守りと自分が作った首飾りをその樹にかけた。

(好きだったんだけどな、それでもまだ好きなんだけどな)
口に出さず小さく呟く。
出来上がったお守りをまじまじ眺めて、1日考えて、分かってしまった。

依頼で擦れ違う事はあっても、もうこういう物を渡す機会はないってこと。

生きていてくれればうれしい、遠目にでも眺められればほんの少し心が温かくなる気がする。
まるで太陽みたい。
前を向く元気が少しだけ出る気がする。
でも。
太陽は、人間の事なんか気にしない。

人には太陽が必要でも、太陽に人間は必要じゃない、関係ない。
人の想いは絶対太陽には伝わらない。

「私、イェイナさんになりたかったな…」
そうすればどんな形であれ傍に居られる。
心の底からそう思った。
[58] 雷雨のち晴れ、になるといい

吉備 サクラ(cnxm1610) 2013-05-12(日) 16:02
いくら鏡を見ても、今の自分のことは良く分からないから。
自分が他の人からどう見えるのか知りたくて、トゥレーンで花を作ることにした。

咲いた花をただ見つめる。
もっとみっともなさすぎる花が咲くかと思っていた。
暗くて暗くて、目を背けたくなるような。
もしかしてマスターが何かしてくれたのかな?
お茶を淹れに行ったマスターの様子を窺う。
・・・そうでもないのかな。
顔色を探るのは諦めて、出されたお茶をゆっくり啜った。

作った花は持ち帰ることにした。
路地裏で立ち止まり、ゆっくりと花を眺める。
・・・これが、私の花。
嫌われて終わった恋。
マフラーだって返して、完璧に終わっていたのに、忘れられなくてしがみついた。
みっともなくて気持ち悪くて傍迷惑な執着。
これは、そういう気持ちで出来た花。

イェイナさんが回復したか聞きたかった。
貴方が選んだ人と幸せになれるよう祈っていると伝えたかった。
それすら相手にとっては迷惑で気持ち悪いものなんだって、やっと気付いた。

嫌われた相手の記憶に、みっともない気持ち悪い相手として残るのはまっぴらだ。
少なくとも私は。
もう遅すぎるかもしれないけれど。

陰陽街で仕事を見つけようという気持ちは変わらなくても、あの人を見かけてももう気付かないふりが出来る。
やっとちゃんと私の気持ちは終わった…凍りついた。
そういう花か…そう思った。

花をしっかり握り締める。
人づてに、花を触れば取り出した感情は戻ると聞いていた。
重苦しい気持ちが戻っても、もう気にならないから。
みっともなくて気持ち悪い人間と思われるのは嫌。
あの人が誰と歩こうがもう関係ない。
私たちはお互いにとって路傍の石。

「ごめんなさいマスター。でもありがとう」
これがわたしにとってのけじめ。
花の気持ちを全部自分に戻して花を捨てた。

背伸びをする。
見上げたターミナルの空は、今もこれからも変わらない。
「何だかお腹空いちゃいましたね、ゆりりん。ご飯食べに行きましょうか」
肩の上に浮かぶセクタンをつついて、笑いながら歩き出した。

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