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[63] noozh
てへぺろ!
ハイユ・ティップラル(cxda9871) 2013-10-02(水) 23:45
 桐島怜生がトラベラーズカフェの一席で番茶をすすっていると、おっぱいが現れた。より正確には、エプロンとメイド服と黒下着(希望)に包まれて美女の顔を乗せたおっぱいだった。
「怜生くん」
 おっぱいの上の顔──ハイユ・ティップラルが呼びかけてくる。にこやかな表情が怜生の心に危険信号を灯らせた。
「あ、どうも」
 あいまいに会釈して見せる。
  この人に関わるとろくな事がない。付き合いはさほど深くもないが、その経験則には自信があった。
「怜生くんって学生よね?」
「まあ、そうスけど?」
「今ヒマ?」
 危険信号が一段階上がる。
「いやー、それがその……、待ち合わせ中なもんで」
「へー。彼女? 友達?」
「かの……。すんません、嘘です! 見栄張りました!」
「だよねー」
 けらけらとハイユは笑う。彼女はともかく、友達と呼ぶべきなのか分からない腐れ縁の相手なら何人かいるのだが、あいにくと今日はその誰とも予定はない。
「じゃあちょうどいいや。ヒマならちょっと来い」
 そう言ってハイユは手招きをする。
  学生なら来いって、どういう事だ?
  ついて歩きながら、怜生は内心、首をひねる。ハイユが先にトラムに乗り込み、ちょうど怜生の視線の高さに彼女の巨乳が来た瞬間、頭にひらめくものがあった。
  本来なら学生は利用できないなんらかのサービスをしてくれるのか? エロメイドさんが若い肉体を求めているのか?
  そうか、そういう事か! ふははは、ざまあみろ律! 俺は一足お先に大人の階段を上ってやるぜ!
「──要は普段の怜生くんを見せてくれればいいんよ」
 しまった、話をよく聞いていなかった。
「分かりました! もう俺の情熱を思う存分に」
「何に情熱燃やしてんだか」
 よし、話はそれていないようだ。
  からかうような表情のハイユに、会心のスマイルを決めて見せる。
「で、その、場所はどんな感じの?」
「は?」
「いやいやいや! 女性に恥ずかしいことを言わせようとかそういうつもりはないですよ!? ただ、その、俺も心の準備がほしいわけで」
「あたしの話聞いてなかったでしょ」
 そう指摘する表情には、下心を見透かすような視線が混じっていた。
「場所はうちのお嬢が作ったチェンバー。学校をイメージしてるんだけどね。怜生くんには一般的な学生として、学校生活について教えてほしいの」
 分かっていた。神展開なんかこの世にはない。
「でも、学生なんて腐るほどいるんじゃないすか?」
「うん、だからまあ誰でもよかったんだけど」
 鬼かこの人は。
「学校は若者が集まって勉強をするところですとかいう説明は今さら求めてないんよ。お嬢がほしがってるのは日常性って言うか、ナマの学校生活のデータ。だから勉強以外で、怜生くんみたいな適当な学生生活を送ってそうなサンプルの方がほしいわけ」
 あれ、美女に求められている場面なのにちっとも嬉しくないぞ?
 どうやら生命や貞操への危険は無さそうだと怜生が結論付けたところで、ハイユがトラムを降りた。
「こっからは歩きね。あそこまで」
 トラムの停車場から少し離れたところに小ぢんまりとした邸宅が見える。
  歩くと言うほどでもない距離だが、できれば若い体力は有意義に使いたいと怜生は思った。

 ハイユに案内されたのは邸宅の中ではなく、庭の小屋だった。
「ここっすか?」
「中は広いから安心してよ」
 チェンバーが外観どおりの中身をしているわけでないことくらいは知っている。
  小屋の中に入ると、古めかしい煉瓦造りの洋館が立っていた。正面には時計塔が立ち、左右には四階建ての建物が広がっている。
「なんかちょっと、高級すぎるような」
  間違いとまでは言わないが、イメージしていたコンクリート製の四角い建物でなかったことに怜生は戸惑う。ミッション系の歴史ある学校ならこんな感じなのだろうか。
「そっか。こういう建物もあるって聞いたから、お嬢が馴染みのある感じに近づけたみたいなんだけど。ダメ出ししとくわ」
 ハイユは時計塔を見上げ、スーツのポケットからノートを出してメモを取った。
 スーツ?
  黒い服と白い胸元で一瞬察知が遅れたが、ハイユは黒いスーツに開襟シャツという服装に変わっていた。タイトミニから覗く脚のラインが悩ましい。
「ああ、これ? 女教師ってこういう服なんでしょ?」
 ロングスカートに隠されていた脚線美に怜生は釘づけになる。
「怜生くんは上半身も下半身もいけるクチだね」
 ハイユはにやにやと笑い、
「怜生くんも制服着る? 学ランとブレザーとセーラー服から選べるよ」
 ここも若干情報が間違っていた。あるいはわざと言っているのか。
「セーラーは女子用なんで」
 校舎の雰囲気に合わせるとブレザーの方が良い気もしたが、着慣れた学ランを選ぶ。選んでから、ハイユの前で生着替えをさせれたらどうしようかと思ったが、幸いなことに服装は一瞬で変わった。窮屈な着心地が懐かしい。
 何これイメクラ? 行ったことないけど。
「んじゃ、中もちょいちょい歩いてみようか」
 煉瓦敷きに響くハイヒールの音も高らかに、ハイユは昇降口へ向かった。

  二人で歩いた「校内」の様子は、拍子抜けするほど普通だった。人影がまったくないことを除いては、一般の教室が延々と連なり、時たま特別教室がある、という構造。あえて言えば全体的にレトロな造りくらいだが、外観同様、わざわざ直させるほどの違和感はない。
「いいんじゃないすかね、このままで」
「ふーん。やっぱりハードウェアはデータをそのまま反映させればオッケー、と」
 となると、と呟き、ハイユが怜生を見上げて艶然と笑む。
「ネックはソフトウェア、主に放課後の過ごし方よね。怜生くんは部活とか不純異性交遊とかしてた?」
 なぜ同列に?
「いや、俺道場があったんで、放課後はさっさと帰ることが多かったですね。律は図書室とかも行ってましたけど」
 不純異性交遊は明らかにトラップなので乗らない。
「なんだよ、使えないなー!」
 ハイユが露骨に顔をしかめた。
「す、すんません。あと無人の学校じゃやることないですって! だべるにしても部活とか行くにしてもほかの連中と一緒になるのが普通だし」
「ここにセクシー女教師がいるだろ?」
「そんな状況はゲームとかの中だけ!」
 なんで俺こんな必死に言い訳してるの? 説明もなしに連れて来たのハイユさんなのに。あー、説明はあったんだっけ。俺が青いドリームにひたっていただけで。
「ならせめて、若い肉体の反応でも楽しませてもらおうか?」
 まさかの青いドリーム逆襲。
 ハイユがジャケットを脱ぎ棄てて一歩、怜生に歩み寄る。
「シュマイトさんのチェンバーで18禁展開はまずいでしょ!?」
「お嬢、19だよ」
 ハイヒールと黒ストッキングで武装した右足が軽やかに浮き、ローキックを打ち込んできた。考えるより早く怜生は半歩下がった。狙いがそれたと気づいたハイユは軌道修正をかけるが、怜生はすでに脚の動きを完全に捉えていた。動きに逆らわず、ハイユの脚をからめて引き倒す。
「やるじゃない」
 あお向けになったハイユは楽しそうだった。
「ハイユさん、明らかに本気でかかってきてないじゃないすか」
「まーね」
 よっこらせと床から起き上がり、ハイユは上気した顔で髪をさらりと払った。
「ちなみに今のは」
「先生攻撃と生徒防衛?」
 得意げなハイユに、せめてもの抵抗で答えを先に言う。
「そういうセンスはあるんね」
「『も』って言ってくださいよ! 今の受け、見てたでしょ!?」
「結局、怜生くんはこのネタ言うだけにしか立たなかったわね」
「ハイユさん」
「ん?」
「俺役立たずなんで、もう帰っていいすか?」
「え~? もっと遊んできなよ」
 遊んで、と言うよりは、遊ばれて、と言う方が正しい気がした。
「まあ、帰りたいんならしょうがない。今度は律くんと学園ラブコメ見せてね~」
 自分一人で不幸を引き受けるべきか、律も一緒に不幸にするべきか。
 究極の選択を胸に、怜生はロストレイル学園を辞去した。
[64] あとがき
ふふん♪
ハイユ・ティップラル(cxda9871) 2013-10-02(水) 23:45
桐島怜生さん、ご出演ありがとうございました。ご指定いただいた単語からこんな話になりました。作成中にrとeの順番を何度か打ち間違えました。
なお、今回のタイトルは非常に簡単な暗号になっています。

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螺旋特急ロストレイル

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