その日もドードーは、いつものように庭師の仕事にいそしんでいた。 オープンガーデンが行われないときでも、公邸の庭の一部は常に開放されており、ロストナンバーたちの憩いの場になっている。 人々が好んで散策するのはたいてい、解放感のある洋風庭園部分だ。さりげなく芝生が途切れ、なめらかな苔地に変わるその先に行くものは少ない。そこまで歩を進めれば、がらりと趣を異にした、日本風の庭園を見ることができるのだが。 椎の樹、椋の樹、楓の樹を絶妙に組み合わせた濃緑の植え込み。深い溪谷に見立てて、岩と石が配置されている。深山幽谷の観がある庭園は、禁じられた場所ではないはずなのに人影は見えず、ひっそりと静まり返っている。(……あれ?) いつもはドードーが枝を刈りこむ音が響くだけの植え込み付近は、今日は様子が違っていた。 にょーろ、にょろ。 にょろ、にょろん。 小さな黒蛇と緑蛇が連れだって、植え込みを横切っていく。素朴な地図が描き添えられた手紙のようなものを、くわえて。 きゅー、きゅー。 きゅきゅっ、きゅ。 二匹のイタチが敏捷に、ドードーの足元を駆け抜ける。やはり手紙を持っているようだ。 ……んびゃ。びゃう。 びゃうびゃう、びゃうーー!!! 見れば楓の樹の上に、黒く小さな影があった。 黒猫によく似た影は、手紙らしきものをぐぐっ、と、握りしめている。何かを強く、訴えるように。 たたた、すたたたたっっ。 漆黒の狼が、風のように走っている。 その背に、小さな黒蝙蝠を乗せて。 ついでに、お土産のお菓子も乗せているようだが――「面白ソウジャネーカ。オレッチモ行クゼ!」 悪魔を象った石像の使い魔が、蝙蝠の羽を広げ長い鞭尾を伸ばしたまま、律儀にとことこ歩いている。「友護に内緒ってのが気に入ったよ! 勝手に行くと泣くかもしんねーからうまくごましたけどな」 その隣を歩く小さな翼竜型のロボットは、とても楽しげっだった。 そして、 一匹のカエルが、ひょっこり登場した。 いつの間に持ち込んだのやら、ダンボールの上に立っているではないか。「おまえら、よく来てくれたな! まさか、こんなに集まるなんて思ってなかった。マジ嬉しいぜっ!」 どうやら彼が、この集まりの主催者のようだ。「いまからオレ達がやるのは、簡単に言うとストレス発散だ。使い魔だって、たまには休みたい時あるもんな。オレだってそうだー。だから、今日は一緒に楽しもうぜー!!」 ドードーは何も気づかないふりをして、樹木の手入れを続けている。 ぱちん、ぱちん、と、剪定を行うたびに枝葉の構成は変わり、彼らのささやかな集まりを、秘密基地さながらに隠していく。 枝をわずかに調節しただけで、空間の様相はがらりと変わるものだ。 どんな広大な庭も、ディティールの積み重ねで構成されているのだから。 ――たとえば、彼らのあるじが、彼らを失えば、その存在が変貌するように。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>松本 彩野(czpp1907)チャルネジェロネ・ヴェルデネーロ(cucc1266)レナ・フォルトゥス(cawr1092)ボルツォーニ・アウグスト(cmmn7693)志野・V ノスフェラトゥ(cxyf7869)ブレイク・エルスノール(cybt3247)冬路 友護(cpvt3946)=========
ACT.1★自己紹介からはじめよう カエルは、演台代わりの段ボール箱から、ぴょんと飛び降りた。 その仕草がいちいちキュートで胸きゅんなのは、松本彩野のキャラクター造形力の素晴らしさなのだが、「可愛い」と表現されやすい魅力を本人(本カエル)は、まったく自覚していない。むしろ愛玩動物扱いされるとワナワナ震える。 なにせ彼の自己イメージは、身の丈ほどの大剣を携えた戦士なのだ。……たとえ彼にとっての「大剣」が、身長と同じくらいの60cmであったとしても。 先日、彩野と図書館ホールへ出向いたときのことだ。 黒ショールをマチコ巻にした名も知らぬ司書がにじりよってきて、 「きゃーきゃーきゃー! ケロちゃんかわいいー。すべすべー! ぷにぷにー!」 とか言われて撫でまくられてほっぺたぷにぷにされて、戦士の矜持を台無しにされたことがある。まったく失礼なことこの上ない。いったい世界図書館上層部は司書にどんな教育をしているのか。強く苦情を申し立てたい。 「クルルー?(訳:カエル隊長は、可愛い呼ばれ方するの、嫌なんだよねー?)」 鳩の鳩吉(カエル隊長命名)がぱたぱたホバリングしながら、カエルの顔を覗き込む。 「クルッ、クルルー(訳:見た目可愛い系なのにねー)」 「う、うるせー! おまえだって彩野から『ポッポちゃん』って呼ばれてるくせにー!」 「クルルル、ルル……(訳:僕はその名前気に入ってるんだけどなぁ。ていうか隊長のつけた鳩吉ってあだ名の方が……、ちょっと、どうかと……)」 「ダメだだめだ駄目だっ! 部隊指揮するのに、ポッポちゃんじゃ締りがつかないだろう。おまえは鳩吉! そしてオレの名前はカエル! それ以外は認めん! ケロちゃん呼ばわり禁止!」 「クルゥー? クルルゥ?(訳:えー? ケロちゃんに殿とか様とか部長とか課長とか社長とか陛下とかつけても?)」 ダメだだめだ駄目だっ! と、カエルはぶんぶん首を横に振る。 なにやら息の合った掛け合いが展開されているが、それも道理で、カエルは、御主人である彩野たん19歳おさげで眼鏡っ娘な美大生が描くところのキャラクター部隊のリーダーであり、立場から言えば鳩吉の上司なのである。 もっとも、上下関係を飛び越えた親しみと信頼を持ち合っているらしいのは、その場にいる一同には、すっっっっっごく伝わった。 んもー仲良しさんなんだから、みたいな? 「ン? コノ手紙出シタノ、オ前カ? ゴブサタジャネーカ」 蛙&鳩コンビのお笑いを一席状態が一段落したのを見計らい、ガーゴイルの石像がにやりと笑みを浮かべた。手紙は尖った爪牙に挟んだままだ。 「おっ、ひさしぶりー! 竜刻回収の冒険以来だな!」 「アノ沼、カエルダラケダッタヨナー」 「イボマダラカエルみっっっっしりのアレな。オレ、いろんな意味でうなされたけど、いい経験だったと思ってるぜ」 「ソウダナ。セッカク招待ニ預カッタワケダシ、今宵ハ楽シマセテモラウゼー」 ヨロシクナ、と、ガーゴイルの石像は一同を見回す。 「オレッチハ魔導師ブレイク・エルスノールノ『従者』ラドヴァスターダ。気軽ニ『ラド』ッテ呼ンデクレテイインダゼ?」 見かけによらず、ラドヴァスターはフレンドリーだった。なお、ラドさんの一人称は「オレッチ」で口調は「ワイルド」だそうです。全世界司書は覚えておくように。ここ、試験に出ます(何の?)。 「知ラネェヤツモ多イガ、コレデ固ク結バレタキョーダイシマイッテヤツダ、仲良クシヨーゼェ?」 その場には、面識のあるものもないものも、言葉を発せるものも発せないものもいる。 だが、さまざまな手段を通じて、誰が誰に従属している存在であるかは、そこはそれ、なんとな~~~く情報共有でき……、るはずであったが。 「きゅ、きゅー、きゅきゅー」 茶色の毛並みのイタチが、先ほどから必死に身振り手振りを駆使している。 「きゅ〜〜。きゅうう〜」 その隣で、純白の毛並みのイタチも、目をくるくるさせ、尻尾をぱたぱたさせながら、懸命に何かを訴えていた。 「きゅー……」 「きゅう〜……」 やがて二匹は息を切らし、ぜえぜえしはじめた。やがて、顔を寄せてひそひそ囁き合ってから頷く。どうやら最終手段に訴えることにしたようだ。 茶色のイタチが、御主人様んとこから持ち出した魔法道具を起動する。あとで聞いたところによれば、この道具名は「ブルーリボン」。翻訳機能を有するらしい。 とはいえ、彼らの言葉を一方的に変換するだけなので、他の皆さんの言葉の理解については、やはり、非言語的コミュニケーションを駆使するしかないのだが。 「おれ、フォルテ。よろしくー。おっ、通じたかな?」 「ピアノですわよ、よろしくね? あら、言葉になってるようね?」 ここでようやく、彼らの名前と所属が判明する。 茶色のイタチがフォルテ。純白のイタチがピアノ。どちらもレナ・フォルトゥス赤毛の大魔導師19歳Dカップの使い魔であった。なんでここであえてDカップを強調するかというとそりゃアナタ、報告書作成者の趣味に決まって、いえなんでもありません。 「……んびゃう。びゃううう!」 びゃうびゃう主張している小さな黒猫のすがたをした『影』は、ボルツォーニ・アウグストの使い魔である。この「びゃう語」は、ほんのり脳内変換されるので、意思の疎通に支障はなさそうだ。 「びゃう! びゃうぅう〜(訳:てがみをもらったらあそびにいくしかないのだ)」 黒い子猫はひたむきに訴える。自分と似たような使い魔的存在には、今まであまり会う機会がなかったこと、それゆえ、同じような立場のヤツがいっぱい集まると知ったら、そりゃもう駆けつけるしかないと思ったこと。 使い魔は自分の影に小物を入れて持ち運べるので、昨日御主人様から貰ったおやつのガレットを少しと、携帯ゲーム機を持ってきたことを。 「びゃう。びゃうぅ〜(訳:きのうのおやつをたべずにとっておいたのだ)」 むい〜っと胸を張る。 「びゃううん!(訳:えらいだろーえっへん!)」 なお、固有名詞は特にないのだが、御主人さまが参加なさった冒険旅行の報告書等で「つかいま」とひらがな標記されている場合、ほぼ間違いなくこの子のことなので無問題。 (あらあら、いいこねー。じゃあみんなで分けて食べましょうねー) 黒い蝙蝠が翼の先で、つかいまの頭をよしよしと撫でる。 (皆さぁん、つかいまちゃんのガレット、切り分けるからどうぞー) 黒狼は無言で、こっちにもお菓子があるぞ、これも配れ、とばかり、自分の背に乗せたお土産を指し示す。 優しい甘さの、さつまいもの蒸しパン、さくさくした歯ごたえの香ばしいナッツクッキー、しっとり美味しいかぼちゃのケーキなど、どれも手作りのあたたかさにあふれている。なんでも、事情を打ち明けた際、「あのひとには内緒なのね、いいわよ」と、御主人さまの奥さまが、こっそり作ってくれたものらしい。 蝙蝠の名はシャラ。狼の名はジーク。御主人さまは志野・V ノスフェラトゥ。御主人様はねー、ターミナルで再会した奥様のことをヤンデレっちゃうくらいそれはそれは愛しているのよねーとか、娘さんは反抗期なんで手を焼いてるみたいーとか、そんなご家庭の事情までも、おしゃべり好きなシャラはテレパシーとボディランゲージで語り倒す。 ときどき、ツッコミ属性のジークに、そこまで言うなと、前脚でぺしっと頭を叩かれてもめげずに、 (そうそう、お茶もあるわよー。もー、何て気が利くのかしら。お嫁さんにしたい蝙蝠ナンバーワンね♪) お菓子と一緒に持ってきたお茶缶(註:某世界司書さんと外見がすさまじく似てるけど無関係のお茶缶ですよ無関係ですよ2回言いました)を配りはじめた。 (皆さぁん、プロポーズは順番にねー。一度に言われても困っちゃうー♪) 女子力の高さを自負しているシャラは、もててもててもてすぎて、言い寄る殿方をちぎっては投げちぎっては投げするだけで一日が終わってしまうのよねー的妄想暴走発言領域に突入してしまったため、ジークのツッコミも、壱番世界のバラエティ番組のボタン早押しレベルで、ぺしぺしぺしぺしぺしと連打に余念がない。 (楽しいね) (楽しいね) くふん、と、緑蛇と黒蛇が、揃って鼻をひくつかせた。 緑蛇は、壱番世界でいうところの「ミドリナメラ」の外見を持っている。名前はイェスィルー。 黒蛇の外見はカラスヘビ――黒化型(メラニスティック)のシマヘビに酷似している。名前はスィヤフ。 (イェスィルーって、緑って意味なんだって。スィルでいいよ) (スィヤフは黒って意味だって。ヤフでいいよ)【註:どちらもトルコ語です】 彼らの御主人さまは、魔力の根源たる巨蛇チャルネジェロネ・ヴェルデネーロ。常に寝ていたいすっごく寝ていたいとにかく寝ていたい気持ちよく寝ていたいなスタンスのかたである。冒険旅行は本人(本蛇)的には「いい寝床探し」の意味を持つのだが、旅先で寝るのはなかなか難しかろう。 スィルは、そろ〜りとカエルに近寄り、見上げる。 (こんにちはー。普通のカエルと微妙に匂い違うー。大きいねー) 「おう! なんたって戦士だからな。よろしくな!」 ヤフのほうは、つかいまに近づき、くんくんと匂いを嗅いだ。 (あれ? 匂いちがう。猫さんじゃないの?) 「びゃううう!(訳:ちがうのがくおりていというものなのだ)」 二匹の蛇は、それぞれ、鳩吉とフォルテ&ピアノとシャラ&ジークとラドに、おずおずと挨拶をしていたが、ヤフは最後に、蛇行状態でぴきーーーーんと固まった。ヤフたんてば、ビビリくんなのである。 そこには、首にバンダナを巻いた翼竜型ロボットがいた。 「こんにちは。ボクはフォニス。冬路友護っていうトカゲツーリストのナビゲーターロボさ。ヨロシクなー」 フォニスのほうは、積極的に交流するべく、親しげに声をかけている。彼としては、同じような立場の存在から、さまざまな話を聞くことを楽しみにしていたのだ。 皆、どんな御主人を持ち、どんな経験をしているのか。そのエピソードの断片を聞くだけでもわくわくする。 「……ん? どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」 ヤフはロボット全般に馴染みが薄く、気後れしてしまうのだった。固まっている黒蛇を、フォニスは心配そうに覗き込む。 スィルがにょろろん、と、間に入り、取りなした。 (もー。フォニスさんに失礼だよー。「ろぼっと」って知らないのー?) (うん……) (じゃあ、いい機会だから勉強しないと。はい、ご挨拶からー) (こ、こんにちは……) 「こんにちは。ヤフにスィルか。改めてよろしくな。……あ、そうだ」 ふっくらもちもち厳選素材の焼きドーナツ、バニラ・ゴマ・くるみ・抹茶・チョコ・紅茶・レモン・レーズン・モカ・メープルの10種詰め合わせ入りの手提げ袋を、フォニスは一同の前に広げる。 「これ、良かったら食べてくれ! あ、食えない奴は主人にでも渡してやってくれ」 (ありがとう、フォニスさん) スィルはひょこっと、鎌首をもたげる。 (こちらからも挨拶しなくちゃー。だってふつう、初対面の挨拶って、丸 呑 み だものねー) ……え? スィルさん、今、何とおっしゃいました? 蛇にまるっと丸呑みされるのに適していそうな、カエル&鳩吉、フォルテ&ピアノ、つられてシャラ&ジークまでが、ずささささっと後ずさる。 動揺したフォルテとピアノは、 「「きゅー!!((訳:ハイペリオン・チェンジ!!))」」 と叫ぶ。 んで、フォルテは、ウルヴァリンという、北米に生息するイタチ科の生き物に、ピアノは、ラーテルという、ライオンの牙すら通さない頑丈な皮膚を持ったイタチ科の生き物に変身(??)したわけだが。 (ん? どしたのー?) しかしスィルは、レモン味のドーナツを、まるっと丸呑みしただけだった。 蛇さんズにとって、お菓子は丸呑みが基本なのよねー。 ACT.2★いろいろ苦労があるのです その後、スィルとヤフが、あんたらどこから出したねん的謎の場所から、林檎やオレンジなどの果物を取り出して配布するなどして、一同はすっかり打ち解けた。 「うーん、うちの御主人さまはね、昔は怖かったけど、いまは奥さんとのんびりしてる」 皆の御主人さまはどうなの、と、シャラが話を振ったのがきっかけで、一同、口々に想いのたけを語りだす。 あれこれを披露するたび、その共感度と親密度は右肩上がりである。おお心の友よ。 「彩野は優しくて良い奴なんだけど、トロすぎるのが問題なんだよなぁ」 ぼそりと、カエルがぼやく。 「俺が傍にいてやらないと、本当に心配で仕方ないぜ」 「びゃうう(訳:ますたーをまもるのはつかいまのやくめなのだ)」 「だな。……まぁ、だからこそ、護り甲斐があるとも言えるんだけどな」 ピアノとフォルテも、ほうっ、と、小さくため息をつく。 「とにかく、レナ――御主人さまはあたしたちのことがお気に入りなんだけど」 「それでもさ、時たま『ダルの使い魔みたいにかっこいい方がよかったなぁ』て言うんだ。ひどいよね。あ、ダルの使い魔って白い狼なんだ」 「あと……、時と場合によっては、巨大化の魔法を使うことになるし……」 「……あぁ、あんときはカオスだったな……」 「……思い出したくないわ」 「……思い出したくないなぁ」 スィルとヤフも、揃って遠くを見つめた。 (チャルさま、寝っぱなしなのー) (起きてくれないんだ) (お買い物とかぜんぶ、まかされっぱなしだし) (起きてほしくても、起こせないし、起きない) (何があっても寝てる) (大きいから、転がすこともできないしー) (困るよねー) (困るよねー) フォニスに至っては、辛辣だった。 「あいつさー、良い歳して馬鹿だしヘタレだしビビリだしすぐ泣くし……! ホント世話の焼けるヤツなんだよ」 いろいろ思い出したようで、フォニスの罵倒は冴え渡る。 「ヴォロスでさー、倒したと思った魔物がまだ生きてて動き出した時、『きゃー! ゾンビー!』とか言いながら逃げようとするしさ」 ふと、つかいまを見る。 「つかいまのところはどうなんだい? ゲーム機とか持ってるとこ見ると、恵まれてる感じするけど」 「びゃうぅう……(訳:いたずらがすぎるとぞうきんしぼりのけいにしょせられるのだ……)」 ぎゅううう、と、つかいまは、自らを雑巾に見立てて身をねじる。情け容赦なく徹底的に絞って絞って絞り尽くされる状態を表現してみせた。 ボルツォーニの住まい『常夜邸』の一室を、つかいまはプレイルームとして与えられている。遊具もそれなりに用意されており、ふだんの生活は一見、贅沢な環境に見える。 だ が 。 御主人さまは、あ の お か た なのだ。その容赦のなさは想像を絶する。 つかいまは色々と思い出したようで、携帯マナーモード着信の勢いで小刻みに震えながら、冷や汗っぽいものをガマの油並に流すのだった。 「ミンナ、イロイロアルンダナ」 それまで聞き役に徹していたラドは、面白そうに、我があるじのことを語り始める。 「オレッチ、元々ハ本屋ノ倉庫ニ仕舞ワレテタンダガ、ソコデバイトシテタアイツニ見ツカッテナァ?」 局に加入するには使い魔が必要だと、ブレイクに言われたのだ。 「マア、倉庫ン中ハ退屈ダシ、悪魔憑キトカ面白ソウダッタカラ契約シテヤッタノサ」 ソレガナァ、と、ラドは肩をすくめる仕草をする。 「最初ハ期待外レダッタネ、局ニイタ頃ノアイツハソリャー、オ人形サンミテーニ大人シクテツマンネーガキダッタ」 (でも、ラドさんは、ブレイクさんと一緒にいたのよねー?) シャラに言われ、ラドは、マイッタナ、と、頭を掻いた。 ACT.3★基本的にツンデレだよね 「ソレガ0世界ニ来タラドウヨ、完ッ全ニフリーダムダ!」 ラドの語調が一転する。 「監査モナシ、規律モナシ、正体隠ス必要モナシトクリャ、大暴走ノ始マリダ!」 あるじを褒めたたえるモードに入ったか、と思いきや。 「コノ落差ハ何ダッテンダ? 前ヨカ面白ェガキニ育ッテクレタ分ニャイインダガ」 ラドは、自分で自分の肩を揉む真似をする。 「今度ハオレッチノ扱イガメチャクチャ荒イノナンノ! オ蔭デ最近ハ身体全体ガ重クッテ仕方ネェヨ」 (石だから重いのは当然だ) ジークは前脚でぺしっとラドの肩を叩き、律儀にツッコんだ。 「マ、退屈ハシネェカラ構ワネェケドナ」 ラドは辺りを見回し、声をひそめる。 「今ノハブレイクノ前ジャゼッテー言エネェナー、調子付イテ余計ニ扱イガ荒クナリソウダ」 「びゃう、びゃう(訳:でもますたーはやっぱりますたーなのだ)」 まだ冷や汗っぽいものを流しながらも、つかいまはこくこく頷く。 「びゃう、びゃうびゃう、びゃううう(訳:こわくてときどきやさしくてでもやっぱりこわいけどおいらのますたーがいちばんかっこいいしいちばんつよいのだ)」 つかいまはむふん、と得意げに胸を張った。 スィルとヤフもまた、眠り続けるあるじに想いを馳せる。 (チャルさま、たまに起きたとき、厳しい躾をしてくれた。初対面のひとを丸呑みしちゃだめでござる、って) (お菓子とか果物だったら丸呑みでいいでござるっていわれたねー) (林檎の割り方も教えてもらったー) 「うん! わかるぞ。彩野の描く絵は、マジすげぇんだ!」 カエルも、デレモードに突入する。 「オレも彼女見習って絵の練習してるんだ」 「その成果が、今回の地図なんだな」 フォニスが微笑ましげに、もう一度地図を見た。 「そうだな……。友護は良い奴だよ。ボクの事をさ、パートナーとか……、それ以上の目で見てくれてるからな」 「クル、クルルー?(訳:信頼できる相棒って感じなんだな?)」 「うん。このバンダナ、友護からもらったんだ。お気に入りだから、ずっと首に巻いてる」 ここまでデレておきながら、フォニスは皆に釘を指した。 「あ、今の話、友護には間違っても言うんじゃねーぞ! ボクはあいつに小言を言うのが役目なんだからな!」 せっかく庭園にいるんだから、遊んでいこうよ。 誰かが最初に言い出して―― それぞれが提案したゲームを、彼らは思い切り楽しんだ。 帰り際には、持ち寄ったお土産へのお礼と、 主催したカエルへの感謝と、 皆の御主人さま同士が仲良くなればいいのにね、そうしたら、もっと会えるのに、というシャラの言葉に、ちょっとしんみりしながら。 ACT.4★そのころの御主人様 「あれ? ケロちゃん、どこ?」 彩野は最初、いなくなったカエルを案じ、探しまわっていた。 しかしそのうち、通りすがりの皆さんが口を揃えて、 「庭園に行ったみたいだよー。なんか、段ボール箱抱えてたな」 「ボルツォーニさんとこのつかいまと、友護さんとこのロボットと、志野さんとこの狼&蝙蝠と、ブレイクさんとこの石像と、レナさんとこのイタチ2匹と、チャルさんとこの小蛇2匹も一緒だと思うよ。地図掲げて向かってた」 「あのあたりだとドードーさんが見てくれてるし、心配しなくていいよ」 などと、目撃情報ばっちりで現在地も把握でき、可憐な保護者は胸を撫で下ろしたのだった。 ビバ、ターミナルの地域社会ネットワーク。 ヒミツばればれだけどな! ブレイクは、書斎で魔法書を読んでる合間に、魔術師の瞳で、ラドの話をこっそり聞いていた。 ガーゴイルの石像は戻り次第、語尾が「ニャ」になる刑を科せられることになる。 ノスフェラトゥは何も気づかず、愛する妻へ贈る花など購入しながら、花屋の店員に「娘が反抗期で……」的な人生相談を行っていた。 レナは、魔法道具が足りないことに気付いて、首を傾げる。 友護は、くしゃみをひとつ。 チャルは、寝ていた。 ボルツォーニは無表情で、雑巾を絞るようなしぐさをなさっているようだが……、はて?
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