片岡マサフミはコンダクターである。 壱番世界の出身で、とある地方の高校に通う高校生だ。 進学のために親元を離れ、不慣れな一人暮らしに悪戦苦闘するものの、学校の友達やバイト先で知り合った友人に助けられ日々を精一杯過ごしている。 コンダクターに覚醒してからは色々と命の意味的に危険な目にあったものの……そこは年頃のと性格的なこともありそんなに悲壮な気分は背負ってはいない。むしろ黒歴史を作ってしまう年齢だし、実体験としてそのテの経験をしているのだから、クラスメートの鈴原くんみたいに言動が痛々しくならないからその辺りはまあ幸運だろう。「………すぅすぅ………」 今振り返ると死にかけたこともあったものである。 コンダクターに支給されるトラベルギアは、武芸の経験がなくても所持しているだけで一定の戦闘能力を手に入れることのできる優れた逸品だ。 インヤンガイの暴霊やヴォロスの剣の達人、そしてトレインウォーでの戦いなどただの一般人だった自分なら、一体何度死んでいたことだろうか。「………zzz………」 だが、そんな苦労も彼女の前にすると一発で消し飛ぶものである。 何故なら、先週恋人が出来たからだ。 しかも相手の方から告白してきたという男冥利に尽きる展開だ。「………うぅん………」 思えば今まで女っ気のない人生だった。 小学生の頃はスカートめくりに精を出して女子から総スカンされたのは自業自得として、中学生の頃はその場のノリで「俺、ギャルゲーが大好きさ!」なんて叫んだ翌日から女子から汚物のごとき扱い。 いや、何だかんだでオタク文化に対してそれなりに理解されないのは判っているけれど、それはないと思う。いいじゃない。好きなものは好きなんだし、まあ準にゃんは俺の嫁と言ったのは悪ノリが過ぎたけれど。「………ん………」 わざわざ実家より遠い高校に進学したのはそういう理由がないこともない。 高校生になったら絶対バラ色の生活を送るって決めたんだ。もうあんな路傍の石を見るような眼は御免だ。 そんなある日に女の子から告白されたのだ。 名前は沖島めぐみさん。学校でも美少女と評判の同級生なのだ。 告白された日は一瞬、悪戯と思ったものである。 何故かって、中学生の時は偽ラブレターで真冬の夜に呼び出されて何時間も待った。最後に悪戯を仕掛けた連中が現れて爆笑された時はもう本気で死にたくなった。 あの時も、そうだと思ったのだ。 だけど、一応付き合うことになって日々を過ごしていく中、それが本当だって判った。 ブラザー、考えてみてくれ。 高校生の自分に可愛い彼女がいる。それってものすごく幸せと思わないか? ああ、幸せさ。 学校の行き帰りは彼女と一緒。昼食も一緒に食べたし試験勉強や遊ぶのも一緒さ。 休日になればデートしたり、逆に休日になるまでの時間が楽しい。次の休みは何をするのか。デート先の情報を仕入れたり、次着ていく洋服を選ぶのも楽しくて仕方ない。 これぞまさにリアルラ○プラスさ。 クラスメートの男子からは、リア充氏ねとか一緒に魔法使いになる誓いはどうしたとかほざいていたけど、だれが誓うかアホウ。 まあまだそこまでの関係になってないけどさ、その内なってみせるさ? もちろんそれだけが目的じゃないし、沖島が好きさ大好きだ。もうラブだね。大事にするさ だから、こんな状況を見られる訳にはいかないのだ。「ん………」 目の前のやたらファンタジーな格好の女性が眼を開けた。 なんかもう、色々前衛的な衣装だ。「あ……、おはようございます………」「うん。おはよう」 いや、もう夜だよ。 少し振り返ってみよう。 彼女はロストナンバーだ。 トレインウォーが終わった後、北海道でディラックの落とし子が取り付いた動物が現れた。 それの退治にロストナンバーが駆り出されて解決を迎えたと聞いていたのだが、どうも撃ち漏らしがあったのだろうか。 眼の前のロストナンバー……リリィは、突然知らない場所に飛ばされて、そして怪物に襲われひらすら逃げ回っていたらしいのだ。(変異獣の駆逐は完了したって世界司書は言ってたよな。そう言えば、トレインウォーで知り合ったコンダクターからメールがあったけど、北海道で魔法陣のようなものを見たとか……関係があるのかな?) ともかく、北海道からここまで逃げ続けるのは驚嘆するばかりだ。長時間の行動を可能とする、なんらかの技能を持っているのだろう。 まあそれはいい。同じロストナンバーだし、転移してきたばかりのロストナンバーを保護するのは仲間としての義務だ。ロストレイルに乗せて0番世界に一緒に行こうと思う。 そう、思っているのだが今日はマズイのだ。「あのね、マサフミくん。晩御飯作りに来てあげる。楽しみに待っててね(はぁと)」 愛しの彼女が今日ご飯を作りに来るのだ。 それ自体は嬉しい限りだ。むしろ君まで食べていいですか。答えは以下略。 というか俺、何であの時いいよって返事してしまったんだろう。 ベッドに腰掛けている女性。前衛的な格好はともかく少し寝乱れている。 見られたらもう○される。「申し訳ありません、マサフミさん。ベッドを使わせてもらって……」 いやいや、構いませんよ? 困っている人を助けるのは当然ですし。「まあ! マサフミさんは紳士ですね。初めて会ったばかりのわたくしにこんなに良くしてくださって」 HAHAHA。日本男児たるもの女性に優しくするのは当然じゃないですか。何より貴女のような美人ならなおさらです。「お上手ですね。こんなに優しくして下さって、こちらも何かお礼をしないといけませんね」 お気になさらずに。「そういう訳にはいきませんわ。母から恩人に尽くしなさいと教えられてますし、それに……」 ところでプリティレディ? なぜに俺の手を握ってるのデスカ?「自分の危険を顧みずに助けてくださったのは本当にうれしかったですわ。あの……その、わたくし………」 頬を赤らめて握った手をスイカのような宝物に。ハハッこれなんてエロゲ? コンコンコン。「マサフミくん。入るね」 胸が十六ビート。夢なら覚めろ? いや、覚めるなよ。 昔のエロい人は言いました。 据え膳を、食わねばならぬホトトギス。「アオーーーーン!!!」 ああもう、心の中の狼に身を任せますよ。だってもう当たり前じゃないですか。 ドサッ……。 何やら物が落ちる音。 ……物? 音が聞こえた方を向いた。 例えるなら『時よ止まれ』「……………………」 俺はその日の惨劇を生涯忘れないと思う。 部屋の入り口にはまさしく夜叉と言わんばかりの形相のマイ・スイートハニー。「……誰よその女!」 インヤンガイで戦った殺人鬼よりずっと怖かった。「さて、今回は一番世界に転移したロストナンバーを保護してもらいたい」 依頼を受けることになった一同は世界司書のリベル・セヴァンにより状況の説明を受けていた。「ロストナンバーの名はリリィ。女性で魔法使いだ。姓の方は確認出来なかったが……出身世界ではそれなりに裕福な家の出らしい」 要約するとこうだ。 対象となるロストナンバーは、当初北海道に転移したもののとある事情により○県に移動。現地のコンダクターに保護された。 ロストナンバーは何者かに襲われその逃走中であったため現在においても襲撃される可能性があるとのこと。至急救助に向かうとのこと――「対象のロストナンバーは召喚術に長けている。戦闘の可能性もある以上注意してほしいのだが、現在そのロストナンバーは……何とも面倒な状況に陥っている」 リゼルは言葉を濁した。「痴情のもつれというのが正しいのか? どうも修羅場のようでな、保護しているコンダクターに原因があるらしい? 手が早い男かもしれないので女性のロストナンバーは注意するように」 色々違っているのだが、現場にいない者の判断としてはそんなものだろう。「後、リリィ氏を追って謎の襲撃者の集団が迫っている。また、対処によってはリリィ氏との戦闘にもなるかもしれない。推測される人物像からすれば余程よけいなことをしない限り氏と戦闘はならないだろう」 渡された資料を見ると、細かい手段は現場に一任するとのことだ。「まったく、面倒なものだな」 男女の諍いは総じて面倒なものである。
住宅街の片隅にある公園。いつもこの時間帯では、近所の子供が遊びまわったり主婦の皆様が井戸端会議で賑わっている頃合いだ。今のご時世では主婦の方々が不審者から子供を守るため連携して見張ってたりするものだが…… 「あのな? 俺は常々思うんだが、なーんでハーレムルートに突入してる奴のノロケを聞きに行かなきゃならねーんだよ」 ベンチを陣取り虎部隆がぶちぶちと仰った。 陰陽師の奇稲田慧一には、しっかりと隆から負のオーラが放たれているのが見えてちょっと引いている。どうも先刻からカラスが集まって来てわめいているのはこれが原因だろうか。 「恋人がいるのにまた新しく女作って修羅場? 電話では誤解を解くのを手伝ってくれって言ってたけど、誤解じゃないよな? 何なの? バカなの氏ぬの?」 「いや……とりあえず、今回の目的はリリィの保護だ。それが済み次第説教でもすればよかろう」 何というかこう……慧一は相槌を打つが微妙な雰囲気の中だ。どうも奥歯に物が挟まったような言い方だ。 というか隆は不審者オーラ全開だ。まあ昨今の学生はアレな事件ばかりだから、そんなのも珍しくないから特に違和感がないような気もしないのではないのだけど。 「マサフミの境遇については自業自得だ。後でじっくり説教すればいい。そうだろう?」 慧一は場の空気を変えようと隣のコンダクターに話を振ったが相手が悪かった。 「それだけでは(俺の気が)済まん! リア充なくせに、更にファンタジーな嫁がいるなんざ天が許しても俺が許さん! 主な理由は嫉妬だけどね!」 桐島怜生、お前もか。 「話が判るな、桐島。俺はいっそ片岡を助けるより……」 「HAHAHA! リア充なんか爆発すればイイと思うYO!」 本人たちはステキにいい笑顔ででハイタッチしてくれてるが、 (ダメだこの二人。早く何とかしないと……) 傍から見て軽く頭のネジがぶっ飛んでてそうに見えるというか何というか、このテンションがむちゃくちゃ怖い。 「なっ? お前もそう思うだろ緑郎」 「いや……僕はとりあえずリリィを保護を。ちょっと片岡君に言うことはあるけど……」 このメンバーの中で一番年少だが、三ツ屋緑郎は中学生の身で勤労で勤しんでいるだけに公と私をしっかり区別できているようだ。 だけどベクトルが明後日の方向に飛んじゃってる隆と怜生はそう受け取らなかった。 「はーんほーんふーん。さすが現役のモデル様は言うこと違いますなぁー」 「ファッション雑誌では何度もトップ飾ってますし、役者としても評価されてるよねー? 女の子からの人気も上々だからって調子のってるんですかぁー?」 「ふ……二人とも……?」 「きっと女の子に不自由したことないんでしょぉー?」 「入れ食い状態ですかぁー? きっと飽きたら別の選んで遊ぶんでしょぉー? ちょっと許せませんなぁー」 モデルや役者となれば確かに容姿は見事なものだろう。しかも、親兄弟がその系統に全て連なっているとなれば緑郎にもそのチート具合は充分に発揮されるもの。妬みも合わせてインネン付けてくる輩も少なくはない筈だ。 というかどこのヤンキーだ。 「いや……だから……」 「判るよネ? 社会倫理的に一人の男は一人の女の子としか付き合ったらいけないんだよ。一人の男がたくさんの女の子を侍らすからあぶれる男が出るんだ」 「男の子に女の子は一人! 女の子にも男の子は一人! これ基本だから特別言う必要はないよNEEEEEE!!!」 「ちょぉぉぉぉ! 指が食い込んで……肩がもげるぅぅぅぅぅ!!!」 みりみりみりみり。 左右の肩を引きちぎらんばかりに掴む隆と怜生。お前らそんなに彼女が欲しいのか。 しばかれる緑郎を見てディブロがなるほどと手を叩いた。 「これも、痴情のもつれというやつですか?」 「それは違うな……」 いかにも他人事、な感じだがもともとクロウ・ハーベストは修羅場は傍観するつもりだったし、自分も巻き込まれたらいやだ。 だって彼もイケメンだもの。 何かこう本来の目的を忘れている感があるが、リリィを追う集団を警戒するため緑郎と慧一はオウルフォームのセクタンを上空に飛ばし警戒させていた。 セクタンの視覚を通して慧一は公園の付近に現れたマサフミとリリィを確認した。 「うん、まあ出来れば浮気問題を解決してやりたいと思っているがな? 自重という言葉はしっかり教えてやるつもりだが」 「危険な状況だから……匿っていた、でいいか。メグミには適当に誤魔化そう。特に捻りもないが、シンプルが一番だ。しかし……」 クロウはこめかみを抑えた。 「見事に男ばっかだよな、このメンツ。どうもやりにくいというか何というか」 依頼の説明を受けている時点では一応女性はいたことはいた。 しかし、マサフミの話を聞いた時点で女性のロストナンバーは一通りマサフミをなじった後、男性陣を蛇蠍を見るような眼をくれつつ退散したのだ。 まあやったこと的に女性陣が憤るのも無理はない。どー見てもマサフミに非はあるし、これだから男はとなじる女性ロストナンバーに意見した男性ロストナバーはフルボッコ(精神的に)されたものである。 この場に女性ロストナンバーがいれば多少空気も変わっただろうが、それはそれで男性陣はさぞ居心地も悪かろう。 「皆さん、二人が来ましたよ」 ディブロがマサフミとリリィの到着を知らせた。 「マサフミさん、ここが壱番世界の公園ですか?」 「うん。以前来た時はブランコやら遊具があったけど、最近色々面倒なご時世だから撤去されてるね」 「そうなのですか。わたくしは、マサフミさんと御一緒ならばどこでもいいですわ(ギュッ)」 「リ、リリィさん!?」 「ふふっ。どこを見てらっしゃいますの? でも、マサフミさんがどうしてもと仰るならば……」 その時何かが切れる音が二重に聞こえた。 同時に緑郎から手を離し、隆と怜生はトラベルギアを取りだす。 「あ、皆さん! お待たせヒィッ!」 その時マサフミは鬼を見たと言う。 「「よし、殺そう」」 見事にハモッた。 「はい。マサフミさんからお聞きした所、わたくしはロストナンバーというものに覚醒したのですね?」 「ああ。理解が早くて助かる」 アパートのマサフミの部屋。まあ色々あって場を移して話し合おうとなった。同じツーリスト同士、クロウは色々説明している。 「さて、俺の感ではここにエロ本が隠してある筈なんだが」 「ふんふん、うわー……人の性癖どうこう言う気ないけど、このジャンルばかりってさすがに引くわー」 「な、何やってるんですか!」 「いやいや? お前の浮気問題を解決してやろうと思ってな? リア充っぷりにむかついたし、エロ本見せてフラグをへし折って(強調)やろうと」 「むかついたって何ですか怜生さん!」 今にも泣きそうなマサフミを無視して物色している隆と怜生。何だか妙にコゲてるのは気のせいだろうか。 「ファンタジーなのが好みなのか。ならリリィさんなんかストライクド真ん中だな(カチカチ)」 「隆さんDドライブ開かないで!」 「インストールしてるゲームもか○やにギル○○にリ○ッ○とか『アレ』なゲームのばかりのメーカーじゃないか」 「メーカー最新作もあるぞ。しかも、ほぼシーン開始にセーブ取ってある。回想で見ればいいのに……というか、お前まだ買える歳じゃないのにどうやってここまで揃えられたんだ?(カチカチ)」 「見ちゃらめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 (鬼……悪魔だ。悪魔がいる……!) 確かにリリィとのフラグを折るためにある程度の行動を考えていたが、さすがにやりすぎというか嫉妬というか逆恨みというか。 いくら何でも助けやろうと思う。だって慧一も男だし、ねえ? 「ディブロ、クロウ。マサフミを……」 助け舟を求めるが、 「●REC] 「ま、ロストナンバーもけっこう楽しいもんだぜ?」 「ええい! スルーか!?」 慧一は盛大に突っ込んだ。 「(カチカチ)あ、そう言えばこんな画像見つけたんだが心当たりある?(カチカチ)」 ネットの都市伝説板で見つけた画像を最大で開く。 「それは……わたくしが召喚した魔獣ですね」 隆が開いたのはファンタジー映画で登場してそうなモンスターの画像だった。 「じゃあこれは?」 「わたくしが召喚の際に展開する魔法陣ですが、何か?」 「うん、インターネットで……って言っても判らないかな。新聞のようなもので、こんなのが出たって噂になってたんだ。壱番世界では魔法や魔物なんて空想のものだからね」 魔法陣が描かれたメモ帳をしまう。緑郎は北海道遠征の際に見かけたそれを模写していたのだ。 トレインウォーの時期だったので何らかの関係があると思っていた。 「トレインウォー……ですか。この世界に飛ばされた時、確かに激しい戦闘音が聞こえたのはそういう理由だったのですか」 「それで、召喚したのは何故だ?」 「気付いたら突然見知らぬ場所でしたから。博識な悪魔を呼びだしてあの土地のことを聞こうと思ったのですが、召喚が失敗しまして」 追われた理由は? クロウは続きを催促する。 「召喚魔法については説明が長くなりますから色々省きますが、あの時何故か制御関連の魔法がうまく作用しませんでした。基本召喚対象は召喚者を殺害すれば自由を得られますので理由はそれかと」 「式神も凶暴なのがいるからな。異世界の召喚魔法もそういうのがあるのか」 陰陽師をやってるだけに慧一もそれなりに共感する部分もあるのだろう。 一通り『嫉妬の映像』を取り終えたディブロはビデオカメラを下ろした。 「そうでした。ひとまず、リリィさんは零番世界に行ってはどうでした?」 いかにも今思い出しました、な感じである。 「壱番世界には恋敵がいますからねぇ。零番世界ではいつでも彼にアタックできますよ。それに……」 轟く轟音歪む扉。 「このコスプレ泥棒猫! またマサフミくんの家にいて!」 「マサフミさんはわたくしの運命の人です!」 「んなっ!」 リリィは色んな意味で再起不能になったマサフミを抱きしめる。普通に顔を埋められるってスバラシイですね。 「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆゆ許さないッ!」 「●REC」 沖島めぐみの全身から殺意な波動が轟き唸る。陰陽師だからか慧一にはしっかりと黒い怨霊的なものが見えていた。 というか現在のリリィの状況からめぐみとの会話は言語的な問題で不可能なのだが、こういう状況ではあんまり関係ないようだ。 あれから数日後の公園。一同はひとまず結果報告という形で集まった。 「ビデオカメラでの録画は目立つから……と思ってましたが、その心配はなかったようですね」 「そう言えばディブロ、お前はカメラで修羅場を撮影していたが何故だ?」 「ええ。痴情のもつれというものが少々気になりましてね。始めは『れこーだー』というもので録音しようかと思ってたのですよ。いやはや、電子機器とは便利なものです」 「お前はお前で何やってるんだ……」 クロウはこめかみをおさえた。 「こいつらも全滅だったからいい加減にどうにかしないといけないんだが」 「ふむ。俺はマサフミに用があったから離れてたが、あの三人は何故コゲてるんだ?」 マサフミと一緒にファミレスや定食屋で親睦を深めていた慧一は経費で落ちないかと領収書の束を纏めていた。 人間食事をともにすれば大抵打ち解けるものである。 「ああ、それは……」 どれから話そうかとクロウは迷った。 ※虎部隆の場合 「いやな? 人間諦めが肝心だと思うんだ」 めぐみとリリィがリアルファイトしている中、隆はそんな事を仰った。 美少女同士が自分を巡って争う様はある意味男の浪漫だろうが、もとの顔が綺麗なだけにキレてる今はむちゃくちゃ怖い。というかこんなに部屋が荒れてきっと敷金返してもらえない。 「勘弁して下さいよ。俺を助けるために来てくれたんじゃないんですか!?」 「いや、別にリリィを保護しに来ただけなんだが」 確かに依頼そのものはリリィの保護であって浮気がどうの、は個人的なお願いだったりする。ちなみに、今マサフミの部屋はディブロと隆。そして渦中の人のマサフミとリリィとめぐみだけだ。 他の連中はとばっちりを喰らうからと早々に逃げ出した後だ。 「どこの国の人か知りませんが、私のマサフミくんを誑かしたのはその胸ですか? ムダにでかい胸ですか!?」 「皆さんに聞きましたが、貴女はマサフミさんの恋人だなんて信じられませんわ。ただの町娘がでしゃばらないでほしいですわ(異世界の言葉なのでめぐみには判りません)」 「英語か何か知りませんが人がよく判らないからってバカにしてるんですか? 日本語喋りなさい!」 「これだから庶民は低俗なのですわ。すぐに感情的になって。わたくしと違って良い教育を受けてないのだから仕方ないのでしょうが、少しは落ち着いてものを言ったらどうです(異世界の言葉なので以下略)」 「きぃぃぃぃぃぃっ! その顔! その態度! マサフミくんがそういうの好きだからってコスプレなんかして! 私だってどうしてもって言うなら!」 「●REC] ディブロはディブロで普通に録画するな。 一部始終話を聞いていた隆は爽やかな笑顔でトラベルギアを抜いた。 「よし、MO☆GE☆RO!」 「ちょっ! 痛い痛い痛い!」 問答無用でシャーペンを刺しまくる。どう見ても筆記具だが、これでもトラベルギアだし普通に武器としても使える。 「ハハッ。これからは二次元だと思うけど、これ何てエロゲ?」 「しょうがないじゃないですか事実なんですから!」 「へー……事実って……。そんな事言うんだ……」 一気に温度が下がった気がした。無表情が怖すぎる。 「うん、こうなったらね? 教育的指導を――」 この時隆は風を切る音がしたと証言したという。 「マサフミくんに!」 「何をなさいますの!」 唸る剛拳ブチ抜く壁。ちなみにアパートの大家に壊れた部分の修理代を請求されたとか何とか。 ※三ツ屋緑郎の場合 「リリィは熱しやすくて冷めやすいタイプだと思うんだ。だから一つ仕掛けてみるよ。これでも僕は役者、演技力の見せどころだね。ということで、名付けて曲がり角でぶつかったら恋が始まる大作戦!」 「う~ダッシュダッシュ」 今、トーストを加えて全力疾走しているのはちょい悪の少年。 強いて言うならライダースーツの似合うワイルドな不良って感じだ。 目的は曲がり角でぶつかって運命の出会いを演出することかなー。 名前は三ツ屋緑郎。 「きゃっ!」 そんな訳で曲がり角でリリィさんとぶつかったのだ。 「ちゃんと前を見て歩け――うほっ、凄い美人! 一目惚」 「自分からぶつかってきてインネン付ける気ですか! 許せません! 雷の魔法・ライトニング!」 「しびびびび」 ※桐島怜生の場合 「今更だけどな、まともに対応しようかと思うんだ」 「散々好き勝手しておいてですか(ビキビキ)」 ようやく素に戻った怜生がのたまった。 「ぶっちゃけリア充は【ピー】した方がいいと思ってるし、ファンタジーの嫁まではべらしてるからな。実際沖島についてどう思うよ?」 「めぐちゃんについてですか? えへへ、勿論――」 この質問、全力で地雷だったりする。 恋愛相談自体は悪い事じゃない。問題なのは、バカップルとかそういう類に聞くのがいけないのだ。 「例えば【中略】で【中略】で【中略】で。こないだなんか【中略】だったし、【中略】なんですよ。そして――」 「もういい。黙れ」 気持ちはわかる。怜生は血の涙を流していた。 「お前な? 彼女がいて、そんなにラブラブ(死後)でむしろちぎりたいのにファンタジーな嫁に言い寄られて満更でもない? 何なの? 馬鹿なの氏ぬの?」 「え~っと。怜生さん?」 壊れた笑顔ってこんなのを言うのかもしれない。 眼は焦点があってないしカタカタ笑ってる。そら軽く三時間ものろけ話を聞かされたあげく、その当人は違うタイプの美人に言い寄られてるんだもの。 もう【禁則事項】してもいいよネ……? 「氏ねぇ、リア充!」 「どういう事情か知りませんがマサフミさんの敵はわたくしの敵です! 炎界より来たれ業火の魔人!」 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 「――とまあ、そういう訳だ」 「緑郎以外自業自得じゃないか……」 女の争いに巻き込まれたらこうなるのか。怜生も隆もしっかりしていそうな男だと思っていたが、こんな有様を見ると下手に女性に関わらない方がいいかもしれない。 「それで慧一、マサフミたちはどうしてる?」 「リリィとめぐみがまた喧嘩しているが……」 セクタンは常にマサフミとリリィたちの近くに待機させていた。アパートや住宅の屋根を飛ぶ影がセクタンを通して視覚に入る。 「行くぞ。あいつらを起こす」 「どうかしたのですか?」 ディブロが尋ねる。 「リリィたちの近くに魔物の集団が現れた」 「浮気なんて最低じゃん。別れるにしろ別れないにしろ、そろそろけりを付けた方がいいんじゃない?」 友人グループの一人の、小さくて可愛いと評判の三島ちゃんが放課後にそう仰った。 ここ数日、学校では女子にシカトされるか「これだから男は」「男の甲斐性とか言うけど下衆なだけね」「氏ねばいいのに」なんて文句言われるかどちらかだ。 いやもう自業自得とはいえ、昔を思い出してもう泣ける。 俺が大好きなのはめぐちゃん。だからここで一言びしっと言おうと思っていたのだが…… 「………………」 「………………」 目の前でひたすら黙って笑顔のめぐみとリリィ。もう胃がキリキリ痛すぎて逃げ出したい。今にもゴゴゴゴな擬音が聞こえてそうな勢いだ。 「片岡君、ちょっと」 振り向くと物陰に妙にコゲている緑郎とその他。いくら呼ばれたからって逃げるように、はどうかと思う。 「いやー……こうまで来るともう哀れだな。頑張れ少年」 「クロウ。そんな事言う暇はないでしょう。魔物の姿を確認したので――あ」 『ククク。召喚師よ、ようやく見つけたぞ(魔物の言葉なので一般人のめぐみには判りません)』 リリィたちを中心に、全身を体毛に包まれた狼の顔を持つ人間――ワーウルフがいつの間にか囲んでいた。 『いずれかの異世界だろうが、これまでだ(魔物の言葉なので一般人の以下略)』 『召喚したはいいが支配の術に失敗したのが運の尽きだ(魔物の言葉なので以下略)』 『貴様を始末して自由を得てみせよう!(魔物の言葉以下略)』 『まずはこの小娘からだ。召喚師と一緒にいることを呪うがよい!(魔物略)』 「邪魔です!」 『キャイン!』 唸る裏拳聞こえる悲鳴。腰の入っためぐみの裏拳が一匹のワーウルフの顔に抉りこむ。 「今度は何です? 貴女のお友達ですか? いい大人にアニメか映画か知りませんがコスプレなんてさせて恥ずかしくありませんかこの【禁則事項】。いい加減にしないと●すよ?」 「これだから庶民は野蛮ですね。何でも力づくで解決しようとして恥ずかしくないですか【禁則事項】(異世界の言葉略)」 「だから日本語で話しなさいと。馬鹿にしてますね? 馬鹿にしてるでしょう」 「やはり蛮人には蛮人の流儀で答えないといけないということですか。いいですよ望むなら存分に付き合ってあげましょう(異世界略)」 「フフフフフ……」 「フフフフフ……」 何かもう二人の間だけ空気が歪んでいる。 リリィを追っていた魔物たちは何事かと全力で引いてるし、マサフミはずっとこんな鉄火場のような中にいたのか。 「うっわー……」 この依頼期間中、慧一は変装と得意の声帯模写を使ってリリィに対しアクション取ろうと思っていたがしないで本当に良かった。 ぶっちゃけ今すぐ帰りたい。 「で、結局どうするの? めぐみさんを本当に好きなのかそれともリア充の自分に酔ってるの? 後者だったらいっそ一生童貞のままでいればいいと思うけど」 「緑郎くん大人しそうな顔して結構言うね……」 「え……? あれ、なに……」 ざわめく声。気付くと一般人の皆さんが一山いくらと集まっていた。 そらまあこんな住宅街のど真ん中で暴れてたら不審に思う人もいるだろう。 「コスプレ……_」 「凄いリアル……」 「何かの撮影?」 ちょうど学校の放課後の時間帯だ。女子校生が多い。 隆やはりビデオカメラ回してるディブロを利用することにした。 「監督! やっぱり騒ぎになったじゃないですか。だからあれほどゲリラ撮影はやめて、許可を取ろうと」 緑郎をぐいぐいと押す。 とたん黄色い悲鳴が上がった。 「あ! あれってモデルの緑郎くん!」 「もしかしてドラマの撮影? 後でサイン貰わないと」 こういう時知名度が高いのは便利だ。約二名ビキビキ青筋立ててるけど。 「とりあえず、あの魔物連中始末するか?」 「女の戦いは当人たちに任せるか。めんどいし」 「そうだネ? 緑郎クンは後で『話し合い』しないといけないけれど」 「なにそれ、こわい」 前の二人と随分空気が違うものだ。 ちなみに、リリィはディブロの「いつでも彼にアタックできますから零番世界で拠点を構えたらどうです?」の一言で彼らに同行することになった。随分あっさりというか最初から言えばよかったきがする。 ついでに緑郎主演の特撮番組のゲリラ撮影が行われたと噂が立ち、今月の芸能関連の雑誌は普段より売上が伸びたという。
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