オープニング

「御伽噺に参加してみないか?」
 どこか面白そうに声をそうかけてきたのは、わすれもの屋の店主。また暇が高じたんだなと断じる程度には慣れた風景に、今度は何のイベントかと季節を思い出す。
「御伽噺って言うと、白雪姫とか桃太郎とか?」
 壱番世界出身らしい一人が首を傾げると、それだと嬉しそうに頷かれる。
「参加って事は、劇でもしようって提案なのか」
「いやいや。どちらかと言うと障害物借り物競争だな」
「……ごめん、今のどこに御伽噺が絡んでくるんだ?」
 分からないと眉を顰める何人かに、店主はその反応こそが分からないとばかりに首を傾げた。
「先日、世界童話全集なる物を客人の一人に貰ったんだ」
「うん。それで?」
「? それだけだが」
 どこまでも真顔で答える店主に、聞いた俺が間違ってるのか!? と頭を抱える一人に同情の目は向けられるが。単に店主が感化されたのかと納得し、謎は追及しない事にして詳細はと尋ねる。
「今回は町仕立てのチェンバーで。その町の住人が古今東西色んな御伽噺のキャラクターに扮して、行く手を妨害する」
「御伽噺のキャラが妨害か……、下手したら毒でも盛られたりして」
 ははと笑った冗談のつもりだろう言葉に、鋭いなと店主が頷いている。え!? と思わず全員が店主を見ると、本気ではやらないから安心してくれと苦笑される。
「ただ、毒を盛った体で紅茶や林檎は振舞われるだろう。迂闊に口にすれば実は毒入りだから一時間はここで足止めしてもらうとか、そんな具合だ」
「それって、素直に一時間待ち惚けする以外にこっちに手はないの?」
「いや、御伽噺的に切り返してくれればいい。例えば通りかかった誰かを捕まえて、王子が来たからもう平気とか。持って行った小槌を振って、毒消しを願うのもいいな」
「相手の御伽噺に対応してなくてもいい、と」
「ああ。御伽噺的だと相手が納得するなら何でもいい」
 軽く頷いて請け負う店主に、はーいと一人が手を上げた。
「先生、源氏物語は御伽噺に入りますか?」
「ふむ。自分が御伽噺と思えば許可としよう。町の住人は壱番世界の童話全集を元にしているが、出身世界の御伽噺も加えようか」
 要は面白ければそれでいいとあっさり範囲を広げた店主は、そうそうと手を打った。
「肝心の借り物の説明がまだだったな。借り物は全員同じで、最初の目的地は領主の館だ。地図などないが分かるようにはしているし、住人に尋ねてくれてもいい」
 その場合の妨害対策もしたほうがいいだろうなと付け足して、借り物の説明を続ける。
「町に入った段階から妨害は始まるが、領主から湖に至る許可証を受け取れば免罪符になる」
「見せたら通れる、って事か。許可証は一枚だけ?」
「辿り着いた人数分は用意してある。今度は湖までの地図も手に入るから、それを頼りに湖に向かってくれ」
 町を抜けてすぐだから迷わないだろうと説明を続けた店主は、そこで手に入れる物は一つだけと指を立てた。
「正直者の白鳥が湖の精に貰った、金の飾り羽根だ」
「っ、予想はついたけど混じりすぎだろ、色々!」
 思わず誰かが突っ込むと、店主はけろっとしてそういう趣旨だからなと笑う。
「因みに本物の白鳥から羽根を毟るなど非道すぎるので、一応着ぐるみだが。白鳥は本物で、飾り羽根は頭に生えているという設定で頼む」
「それだと、着ぐるみから無理やり引っぺがすのは禁止?」
「そうだな、その場合は白鳥も必死で抵抗するだろう」
 いたいけな兄を苛めるのはやめてやってくれと、どこか面白そうに語尾を上げた店主の言葉でとうとう兄まで犠牲にしたのかとざわめきが走る。気づかないような顔をした店主は、さらりと流して言う。
「飾り羽根を貰う方法として、正解は用意してある。頭数は足りないが白鳥は雄だ、と言えば分かってもらえるかな。だがまぁ、手段は人それぞれだ。正解に固執しなくても構わない。誰に渡すかは白鳥の気が向くまま、色々と試してくれ」
「ところで、それを手に入れたら何かいい事でもあるとか」
「まぁ、望むなら勇者の称号でも」
 勲章か王冠か賞状かどれがいいと尋ねた店主の目は、大分本気だったように思うのだが。冗談だと笑って手を揺らし、硝子でできた雪の結晶を見せた。
「参加者全員に、この雪を。飾り羽根を手に入れた一人だけ、特別な石で作ったこちらを」
 言ってもう片手に出した雪の結晶は内に柔らかな光を秘め、角度を変えれば確かに色を変えた。へえ、と上がる声に少しだけ嬉しそうにした店主は丁寧に頭を下げた。
「それでは、気が向いた方のご参加をお待ちしている」

品目シナリオ 管理番号1590
クリエイター梶原 おと(wupy9516)
クリエイターコメント御伽噺を交えつつ障害物借り物競争など如何でしょう。

一番の目的は、白鳥から飾り羽根を貰ってくる事。どんな手段で白鳥から金の飾り羽根を貰い受けるか、お聞かせください。
そこに辿り着けず町から進めなかったり、面白がって妨害側に参加されても構いません。その場合は町での過ごし方をお聞かせください。

どんなキャラクターに妨害されるか指定してくださってもいいですし、妨害を避ける方法だけ書いてくださるのでも構いません。
但し色んなキャラクターに扮しているのは一般人ですので、互いに怪我をするような方法は取らないでください。
それ以外ならどんな手段でもどんとこいです。

壱番世界の童話全集をベースにしておりますが、OPにもありますように他世界の方はこんな話があったと捏造して頂いても構いません。壱番世界の方でも、こんな絵本があったで押し通されるのも歓迎です。


プレイングはまたも5日と短めですので、ご注意ください。


それでは、金の飾り羽根を揺らしつつお待ちしております。

参加者
ディーナ・ティモネン(cnuc9362)ツーリスト 女 23歳 逃亡者(犯罪者)/殺人鬼
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042)ツーリスト その他 23歳 使い魔
音成 梓(camd1904)コンダクター 男 24歳 歌うウェイター
ニワトコ(cauv4259)ツーリスト 男 19歳 樹木/庭師
リーリス・キャロン(chse2070)ツーリスト その他 11歳 人喰い(吸精鬼)*/魔術師の卵

ノベル

「御伽噺かぁ」
 ぴんと張った髭を僅かに動かして呟いたのは、レイド・グローリーベル・エルスノール。スタート地点である町の南に建つ大門の上に立ち、被っている帽子のつばを軽く押し上げた。
「面白そうだね」
 色の違う両目を細めたレイドは笑みを含んだ声で呟くと、猫らしく優雅な仕種で飛び降りた。
 本日のコンセプトは勿論、長靴を履いた猫、だ。壱番世界でケット・シーが登場するメジャーな話といえば、やはりこれだろう。
「知的で主思いの点なんか、流石ケット・シーだ」
 誇らしげに深く頷きながら町に踏み入って辺りを見回すが、その目には警戒よりも面白がるような光が踊っている。
「さてさて、この旅ではどんなキャラクターに会えるかな」
 弾んだ声と足取りで気が向くまま足を進めていると、
「そこを行くのはお猫様で?」
「ん?」
 呼んだかいとレイドが顔を巡らせると、ロバの着ぐるみを着た男が物陰から手招きしている。早速の妨害かと面白がりながら近寄っていくと、突然低い位置からぷっぷくぷーと玩具の楽器が吹き鳴らされた。
 何事かと視線を向けるとロバの傍らには鶏の着ぐるみが座っていて、遠い目をして楽器を吹いている。よく見ればロバの頭には、似つかわしくない葡萄型の髪飾り。これは近寄らないほうが身の為なのではないかと顔を顰めた時には、ロバに捕まえられた。
「よぉし、よく来たな! 俺たちはブレーメンの音楽隊、残る犬を探すまで解放してやんねぇ!」
「まぁ、自棄にもなりたくなるよなぁ。何でこんな事してんだろう、何でだと思う?」
「うるせぇ、振り返りたいなら他所に行ってやれ! いや待て、音楽隊を解散してから行け」
 今は頭数が必要だと訂正するロバに、鶏はぷっぷくぷーと楽器を吹いて返す。
「ところでその音楽隊に、葡萄は必要なのかい?」
「っ、これは前回妨害の名残だ、触れるんじゃねぇっ」
 話したくないと苦虫を噛み潰して言うロバに、レイドはふぅんとどうでもよく返す。とりあえず犬がいれば解放されるのだろうと踏んで、自身の影から漆黒の獣を呼んだ。正確に言えばレギオンは獅子だが、細かい事は気にしない。
「うお、何か出た!?」
 でかいーっとレギオンを見て大騒ぎしている鶏に胸を張り、犬がいたらいいんだよね? とロバに確認する。
「つーかそれ、どう見ても獅子だろう」
 犬には無理があると顔を顰めるロバに、犬だよと言い張る。しばらく顔を顰めたまま考えていたロバは、やがて大きな溜め息をついた。
「……まぁ、いいか。犬って言うなら犬だろ、よし、んじゃ解散!」
「投げたろ、なぁ、考えるの投げたろ、今」
「うるせ、とりあえず揃ったんだから解散だ。邪魔したな、坊主」
 次のターゲットに向かうぞとやる気なく促しているロバに、ちょっと待ってと尻尾を引っ張った。
「そっちばかりじゃ不公平だ、僕にだってお願いする権利はあるはずだよ」
「お願い?」
 何を言い出すんだと眉根を寄せたロバと鶏に、にいと嬉しそうに笑って告げる。
「ディルドルムにドルドルムが死んだと伝えて」
「? ドルドルドル……ドムドル?」
 何の呪文だと頭を抱えている鶏を他所に、ロバは不審げに片眉を上げた。
「次はオールドトムじゃねぇのか」
「あ、君も知ってるんだ?」
「この企画のせいで、俺が毎日何冊読まされた事か……っ」
 拳を震わせるほど悔しげな姿に声にして笑うと、好きに笑えと吐き捨てたロバはまだ首を傾げている鶏を捕まえ、じゃあなと片手を上げた。
「その伝言は次のターゲットに伝えてやらぁ。──ああ、因みにそこらにいる猫も店主仕込みだぞ」
 笑うように目を細めて教えたロバは、鶏を引き摺って本当に離れていく。
 これで遣り過ごせるなんて緩い妨害だなと苦笑しながらレギオンを戻したレイドは、再び歩を進めながらちらりと視線を走らせた。
 道端の樽の上で眠っていた白猫は視線に気づいたようにむくりと身体を起こし、大きく欠伸をすると樽から降りて細い道を入って行く。何気なく視線で追いかけていると道の奥からぶち猫が来て、なぁ聞いたかいと白猫に話かける。
「バルグリーが死んだよ、満月の夜にお葬式さ」
「へえ、そうなのかい。じゃあ次は誰になるのかな」
「それは勿論、バルギャリーだろう」
「なら、伝えないと。バルグリーが死んだと黒猫のバルギャリーに伝えて」
 ひそひそと聞こえるように内緒話を交わした猫たちは、レイドの事など気づいていないような顔をして行ってしまう。ふんふんと頷いたレイドは猫を探して辺りを見回し、てっぷりとした黒猫が遠く眠っているのに気づいてそっと近寄った。
「バルギャリー、君に伝言だよ。バルグリーが死んだって」
 悪戯っぽく囁くと、眠っていたはずの黒猫はぱちっと目を開けて身体を起こした。そうして今にも口を開きそうなのを見越し、
「何だって! それなら僕が次の王様だ!」
 黒猫が言うはずだった台詞を先に紡ぐと、悔しげな複雑そうな何とも言えない顔をするのを見て、にゃははははと嬉しそうに笑う。
「これは妨害するほうが楽しいかもしれないねー」



 のんびりと町の門を潜ったニワトコは両手一杯に花を抱えていて、終始にこにこしたまま領主の館に向かい始めた。
「白鳥さんの頭の飾り羽根、金色なんだ。すごく綺麗なんだろうなぁ……。それを貰うんだったら、こちらもおんなじくらい素敵なものをあげないとね」
 嬉しそうに呟き、領主の館はこちら、と書かれた看板に従って進んでいると少し先の曲がり角から虎が飛び出してきた。
 目をぱちくりとさせて足を止めたニワトコの前には虎が三体、値踏みするように眺めながらゆっくりと近寄ってくる。てっきり妨害は着ぐるみがするのだと思っていたが、動くたびに微かに聞こえる音からしてどうやら機械仕掛けらしい。
「そっか、店主さんは何でも作れるんだっけ」
 感心して眺めている間にすっかりニワトコを取り囲んだ虎の内、一体が鼻先を向けてきた。
「花を抱いたお客人、これからどちらにお向かいで?」
「白鳥さんの飾り羽根を貰いに湖に。その前に領主さんの館に向かっているところだよ」
「おやおや、それでは全然方向が違います。私たちが案内してあげましょう」
「それはご親切に、ありがとう」
 花を抱えたまま視線を合わせてにこりと笑うと、別の一体が甘えるような声で擦り寄ってきた。
「ところでお客人、あなたの着ている服はとっても素敵。どうか私に服を頂戴な」
「おや、それよりあなたの履く靴はとても素敵。私には靴を頂戴な」
「それなら私には、あなたの下げているカンテラを頂戴な」
 頂戴なと声を揃える虎たちに、ニワトコは花を抱いたままぽふっと手を打った。
「そのお話、図書館で読んだことがあるよ」
 嬉しそうに言ったニワトコは、けれどすぐに悲しげに眉根を寄せて小さく頭を振った。
「皆のお願いは叶えてあげたいけれど、たぶん別々のものを渡したら喧嘩になっちゃうよね? そしたらぐるぐる回って、バターになっちゃう……」
 それは悲しすぎるよと少し考えたニワトコは、ふと思い当たって顔を輝かせた。
「そうならないように、皆に同じものをあげるね」
 声を弾ませて抱いていた花束から一本ずつを取り出すと、そっと虎の頭を飾った。皆可愛いねとにっこりと笑うと、虎たちは何だか困った様子で顔を見合わせた。
「服を、「靴を、「カンテラを、」」」
 頂戴なと続けかけた虎たちは、ニワトコがじーっと逸らさず見据えてくる強さにたじろいで言葉を止めた。それからちらりと目で合図し、一体が脅すように大きく口を開けて迫ったのだが。何の効果もないと教えるように、ニワトコの眼差しは変わらない。おずおずと口を閉じた虎は縋るように残りの二体を見たが、無情にも逸らされている。
 どうしよう、と戸惑った空気が漂い始めるが、ニワトコは虎たちを見たまま動かない。
「……お花をありがとう、お客人」
 一体が根負けしたように呟くと、ニワトコはようやくにっこりした。他の二体もありがとうと軽く頭を下げ、逃げるようにそろりと踵を返した。
「皆仲良くねー」
 花を抱いたままひらひらと手を振って見送ると、虎たちは花を落とさないように気遣いながら何度か頷いてとぼとぼと離れて行った。
「天然って強ぇ……」
「つか、あんなもんが作れるなら俺たちが着ぐるみを着せられる意味はどこだ!」
 絶対店主が面白がってるだけだろうと憤っている声に振り返った先には、ロバと鶏の着ぐるみがいる。今度は何の御伽噺だろうと首を捻ると、我に返ったらしいロバが違うと頭を振って近づいてきた。
「えー、俺たちは悪い魔法使いに姿を変えられているけれどー、本当は猫なんですー」
 棒読み口調でロバが語るのを聞き、ニワトコは何度か目を瞬かせた。猫と繰り返すと、深く突っ込むな! と主張されるので頷いておく。
 鶏は玩具の楽器を手にしたまま、伝言伝言ーと繰り返した。
「何だっけ、ドルドルドー。ドルダムドー?」
「お前はもう黙ってろ」
 無造作に鶏を蹴りつけたロバは、よく聞けよと前置きして告げる。
「長靴を履いた猫に、ディルドルムが死んだと伝えてくれ。それまで領主の館には立ち入り禁止だ」
「ディルドルムさんが死んだ? そう伝えればいいのかい?」
「そうだ。長靴を履いた猫にだ、頼んだぞ」
 重々しく頷いて離れていこうとするロバに、ちょっと待ってと引き止めて花束からまた二本を引き抜いた。
「これ、お二人もどうぞ」
 せっかく会えたんだからと笑顔で差し出すと、ロバは戸惑った顔をしたが鶏はありがとうと嬉しそうに受け取った。
「てめ、妨害してる相手から物を貰うなっ」
「えー、だって花だぞ。花ならいいだろ。ありがとうなー」
 にへらっと笑顔を向ける鶏に溜め息をついたロバは、じゃあこれの礼にと顔を顰めつつ付け足した。
「領主の館は西北の、でけぇ屋敷が並ぶ中に紛れてる。わざと同じような外観の屋敷が並んでるから、門を見て歩け。白鳥の飾り門は一つだけ、そこが領主の館だ」
 ぶっきらぼうに教えてくれたロバに、ニワトコはその情報を疑う気もなく嬉しそうに笑った。



「白鳥なぁ」
 うーんと唸った音成梓は、御伽噺の記憶を辿る。
「白鳥の湖は女だし違うよなー。どっちかっていうと白鳥の王子か?」
 どんな話だっけなと悩みながら何気なく視線を落とし、足元で跳ねるように歩いているレガートを見つけてふっと口許を緩めた。
「ま、あんまり堅苦しく考えてもしょうがない。それよりせっかくお伽噺やろうっていうんだから、それっぽいことでもしてみるか!」
 そして御伽噺と言えば! と自分で効果音をつけて取り出したのは、クッキーの包み。レガートはそれを見上げて、どこか嬉しそうに跳ねる。
「最初に交換するのがわらしべじゃ、相手が可哀想だもんな」
 音符が跳ねているような愛らしい姿に知らず口許を緩めながら、名づけて! とクッキーを高々と持ち上げた。
「目指せ飾り羽根! わらしべ長者大作戦!」
 なんてなと笑いながらクッキーを下ろした梓はご機嫌そうなレガートを肩に乗せると、それじゃあ行くかと町の門を潜った。
「しかし問題は、領主の館に無事に辿り着くか、だよなー」
 方向音痴のつもりはないが、初めて来る町で案内もなく、間違った情報を与えられるとしたら無事に辿り着く自信はあまりない。
「クッキーと情報の交換……、ちょっと無理があるか」
 次の人と交換する物がなくなるしなぁと考えながら歩いていると、少し先に緑の物体が蹲っている。何だあれと近寄っていくと、バッタらしい着ぐるみの男が顔を上げてきた。
「いいところに来た。何か食いもん持ってね? 持ってたらくれね? つーかくれるまで先行かしてやんね」
 遊んで暮らして何が悪いよなとヤサグレた台詞を吐くのは、キリギリスだろう。食物なら丁度いい事にと持っていたクッキーを見ると、視線を追いかけたキリギリスがぱっと顔を輝かせる。
「食いもんか、食いもんだな、是非くれ!」
「けど、ただって言うのもなぁ。あんたは何をくれる?」
「げっ。哀れなキリギリスから分捕る気か、ちくしょてめー、蟻よりひでぇな! さっきの嬢ちゃんも、声かけてんのにスルーするとか有り得なくね? 空飛ぶ絨毯がマジ飛ぶとかなくね?」
 人情がねぇよと捲くし立てるように嘆いたキリギリスに、近寄らないほうがいい類の人だったかと梓がちょっぴり後悔し始めた頃。ごそごそと鞄を探っていたキリギリスが、ふっと勝ち誇ったように笑った。
「でも幸いな事に、俺にはこれがある!」
 ふははははと高笑いしながら出されたのは、バイオリン。あまり値打ち物には見えなかったが、クッキーと交換するには十分すぎるそれに思わず目を輝かせた。
「いいのか、マジでこれ貰っていいのか!?」
「食いもんが美味かったらな!」
「やるやる、食え食え」
 押しつけるようにクッキーを手渡し、代わりにバイオリンを受け取る。指先で弾くと期待以上の音が出て、思わず頬を緩めると弓を受け取って弾き始めた。
 梓の身体をずずーっと滑って降り立ったレガートは、踊っているつもりなのか左右に揺れている。可愛い姿に機嫌もよくなり、気持ちよく一曲弾き上げるとキリギリスは惜しみない拍手を贈りながら身を乗り出させてきた。
「すっげ、まじすげ、鳥肌立ったって! 食ったけど俺これ貰ったら駄目なんじゃね? それと曲引き換えにしても俺のが得してね?」
 すっげぇと子供みたいに目をきらきらさせて誉められると、悪い気はしない。クッキーくらいいくらでも作れるから好きなだけ食えと肩を叩いた梓は、ふと思い当たって顔を上げた。
「じゃあ今の曲と交換で、領主の館の場所は教えてくれねぇかな」
「おっけ、お安い御用だっ。地図書くか、な、地図書くし待ってろ」
 言いながら持っていた紙に簡単な地図を書いたキリギリスは、がっしり握手まで交わして気をつけてなー! と見えなくなるまで見送ってくれた。
 いい奴だったなとレガートに同意を求めつつ歩を進めていると、参加者の一人らしい女性がおろおろと辺りを見回していた。領主の館が分からないと嘆く彼女に貰ったばかりの地図を出すと、飛び跳ねるほど喜んだ彼女はお礼にと髪を飾っていた大輪の花のピンをくれた。厳密に言うとクッキーより曲で手に入れた地図だが、そこから花のピンはわらしべ長者っぽい。
 順調だなとピンを揺らしながら歩いていると羨ましそうに見ている親指姫に気づき、金貨の玩具と交換した。次に遭遇したでっかい鼠は金貨の代わりに丸々のチーズを出し、道端で倒れていた王子はチーズと交換に着ていた緑のセーターをくれた。
「おっ。これひょっとして、使えるかも?」
 まさかの長者達成かと嬉しそうにした梓はようやく辿り着いた領主の館で、領主に扮した店主と対峙した。
「よく来た、客人。さて、ここまでわらしべ長者で来たなら許可証も何かと交換してくれるのかい?」
 悪戯っぽく尋ねられ、はっとした梓は自分の手にある物を見下ろす。右手には飾り羽根獲得に使えそうなセーター。左手には交換しないまま持ってきたバイオリン。
 しばらく悩んだ後、梓はそろそろと右手を出していた。
「許せ、白鳥っ。俺はバイオリンを取る……っ」
 寧ろもう飾り羽根よりこれが欲しいと切実な宣言に、店主は楽しそうに声を立てて笑った。



 リーリス・キャロンは軽い足取りで門を潜り、どうしようかなーと嬉しそうに声を弾ませた。
「どうせなら一番乗りしたいよねぇ」
 だって白鳥を人に戻すんだもんと張り切ったように拳を作ったリーリスは、物陰から窺っている狼の着ぐるみを見つけて飛び切り愛らしく微笑んだ。魅了の力を全開にしている今、リーリスに惹かれない者など誰もない。狼もその笑顔に射抜かれたように、ぽやんとした様子で近寄ってきた。
「狼さん、リーリスに領主の館の場所を教えてくれる?」
 そしたら嬉しいなぁと甘えた声で強請ると、案内しようか!? と言い出されそうだったが。騙されんなと狼を蹴り飛ばしたのは、妙にリアルなのに二足歩行する子豚。どうやらこちらは機械仕掛けらしく、リーリスの魅了も効いていない。
「赤頭巾ちゃんよう、狼は騙せても俺の目は誤魔化せないぜ。煉瓦の家をプレゼントしてくんな、それまで通してやらないぜー」
 藁も木も、お菓子の家もなしだからなーとちんまりした腕を組んで偉そうに宣言する子豚に、リーリスは軽く小首を傾げた。狼はちらちらと見てきながら、やめろよと子豚を小突く。
「煉瓦の家ってお前しか得しねぇじゃん」
「お前ばかー? 三匹の子豚がそれ以外の何を要求するんだよ」
 分かってないなぁと顰つめらしい顔を作る子豚に、狼が言い募ろうとするのを見てリーリスはさり気なく彼の腕を押さえた。そしてじっと目を見つめると、ありがとうと魅惑的に微笑む。途端にくたくたと腰が砕けたように座り込んだ狼から視線を変えたリーリスは、子豚に嵌めている指輪を見せた。
「この指にはまっているのは指輪の魔人。小さな願いなら何でも叶えてくれるの。だから、領主の館までの道順、教えてね?」
 煉瓦の家は諦めてと笑顔で強請ると、子豚は考える素振りを見せた後にぶうーと不服を表すように息を吐いた。
「別にそっから出て来た覚えはないけどなぁ。まぁいっか、魔人は願いを叶えるもんだ」
 しょうがないと頷いた子豚は、蹄で説明を始める。
「……で、赤い屋根の、杖が交差した看板が下がった家の角を左に曲がったら、真正面が領主の館だ」
「それは嘘じゃないよね?」
「信じないなら別にいいけどー。魔人は逆らえないんだろ?」
 ほんとだよーと子供っぽく主張した子豚にくすくすと笑い、ありがとうとお礼を言って聞いた道順を辿り始める。けれど角を二回も曲がらない内から、そこのお嬢さんと声をかけられた。
「マッチを買ってくれませんか」
 買ってくれるまで通せませんと、魅了されてほんのりと頬を染めつつも邪魔をしてくる少女の手を取り、それは困るわと眉根を寄せた。はわわわと嬉しそうに狼狽え出す少女を押し退けたのは、どうやらかぐや姫らしい。
「月に帰る為、不死の薬がいるの。どうか譲ってくださいな」
 言いながら手を取ってくるかぐや姫に目を向けると、邪魔と押し退けて出てきたのは小人風の女性。
「白雪、お城になんて行かないで僕らと暮らそう」
 言って縋ってくる小人たちが賑やかに争い出すのを見て、リーリスは持ってきたカーペットを取り出した。
「ここにあるのは、空飛ぶカーペット」
 言いながら広げたカーペットにちょこんと座り、力を使って十センチほど浮かび上がった。驚いたように目を瞬かせている三人に、にこりと笑いかける。
「カーペットはいろんな障害物を無効にして、目的地まで運んでくれるの。だから、ばいば~い♪」
 ごめんね付き合えなくてと手を揺らして進み始めると、待ってと三人とも縋ってきたが足が縺れたように追いついてこない。それを後目に先に進み、やはり面倒な障害物はスルーして進むに限ると何度か頷く。
 そうしてゆったりと空の旅を楽しみながら進んでいたリーリスは、本来であれば遭遇したであろう御伽噺を見下ろして軽く眉を上げた。
「あそこにいるのは熊かな。相撲を取らされてるって事は、きっと金太郎の熊ね。あ、あっちにも相撲中の河童──ん? 緑の塊が他にもいたような?」
 そこの人と遠く流れた呼びかけが聞こえたような気はするが、止まる気は欠片もなく通り過ぎてしまった。何にせよ、面倒事に巻き込まれず先に進めるのはいい事だ。
「ウンウン、どれもパスして正解よねー」
 このまま一番に領主の館まで突っ走っちゃえと気分よく考えているところに、猫さーんと誰かの声が聞こえて顔を巡らせた。
 猫さーん、伝言ですよと細い道を覗いては声をかけ、猫を見つけては近寄っているのは花束を抱いた人。どうやら律儀に、妨害として出されたお願いに付き合っているのだろう。
「さすがにちょっと心苦しいけど……、でも勝負だもんね」
 お先ーと聞こえないように断りを入れ、リーリスは狙い通り一番に領主の館へと辿り着いた。



 魔法使いのおばあさんらしい衣装を纏ったディーナ・ティモネンは、わくわくした様子で町の門を潜った。参加者らしい何人かは、それぞれが張り切った様子でばらばらに散って行く。
「皆、館の場所は知ってる、のかな」
 誰かについていけば分かるのだろうかとちらりと考えたが、それでは面白くない。自分で探すべくディーナより背の高い外壁に登り、見える範囲で町を見渡す。けれどこれと分かる豪奢な建物も、馬鹿っ高い細い塔も、案内の札も見当たらないで顎先に手を当てた。
「やっぱりここは、御者捜し……?」
 それなりに用意はしてきたけどとひらりと壁から飛び降り、少し大きい南瓜を取り出すと住人を捜して視線を揺らす。魔女が来たーっ! とざわざわしている気配に足を向け、逃げろ隠れろと何故か隠れてしまう何人かに首を傾げた。
「隠れん坊する御伽噺、……何かあったっけ」
 首を捻りつつ手近な気配を頼りに家と家の隙間を覗くと、ぴょこんと短い尻尾が出ている。ふっと口許を緩め、見ーつけたと尻尾を引っ張った。
「僕なんか食べても美味しくないよー!」
 鍋でぐつぐつ煮込まないでと頭を抱えるのは、白い子山羊。南瓜を片手にぽんと手を打ち、七匹いるのかなと隠れている気配を捜す。けれど途中ではっと我に返り、子山羊さんとしゃがんでいる肩をつついた。
「食べないから、安心して? それより……、はい」
 問答無用で南瓜を押しつけると、きょとんとしている子山羊を見据えて言う。
「シンデレラは言いました。舞踏会に行く準備がないの。魔法使いのおばあさんが杖を振ると、ネズミが御者に、かぼちゃが馬車になってシンデレラを王子様の待つお城まで連れて行ってくれました。……だからキミ、御者なの」
 山羊だけど!? と南瓜を受け取りながらも突っ込んでくる子山羊に、ディーナはさっと魔法使いの衣装を脱いだ。シンデレラよろしくドレス姿へと早変わりしたディーナは、細かい事は気にしないでとさらりと流した。
「私を安全に、領主の館までエスコート。……お願い?」
 視線を合わせて頬っぺたをつつくとーように頼むと、子山羊は困ったように頭をかいたがやがていいよと頷いた。
「魔法使いじゃないなら、案内してあげる。──食べないよね?」
「大丈夫。……まだお腹は空いてないよ」
 空いたら食べるの!? と冗談を真に受けて青褪める子山羊に微笑ましく目を細め、お腹が空かない内に頑張って? と声をかけると生真面目に何度も頷かれた。
 そうして子山羊に案内されるまま歩いていると、細い道に入ったところで前方からそこ行く参加者と声をかけられた。
「この重ったるいセメント袋を、砂糖と交換しろ。でないと先には進ませねぇ」
 さほど重くなさそうな麻袋を担いだロバの着ぐるみに通せんぼをされ、ディーナはいつかの熊の人? と心中に呟きながら荷物を探った。そしてあまり興味もなさそうに眺めてくるロバの鼻先に、葡萄型の髪飾りを突きつけた。
「……何だ、こりゃ」
 砂糖じゃねぇよなと眉を顰められ、うんうんと頷く。
「壱番世界の人に、聞いたの。追いかけられた時、これを投げて逃れたって。一人目、髪飾りのブドウ。二人目、櫛のタケノコ、三人目、桃って。だからキミに、コレ」
「……お前さん、ロバを嫁にしてたのか」
 しかも俺ゃあ死んでねぇよと複雑そうに言うロバに、まぁいいからと頭に付けてやった。
「うん。お似合い?」
「聞くなっ。つか、似合うわけがあるかー!」
 力一杯怒鳴りつけてくるロバに、案内をしていた子山羊もけらけらと楽しそうに笑い出す。人相のよろしくないロバを見るなりディーナの後ろに隠れていたのだが、心から楽しんでいる様子にディーナも満足そうに頷いた。
「子供を笑顔にできるのは、いい事だよ。……多分」
「言いたい事は色々あるが、もういい。行け行け、さっさと行っちまえ」
 頭痛を堪えるように額に手を当てながら促すロバに、ディーナはありがとうと口許を緩めて再び子山羊と一緒に歩き出した。その後も立ち塞がってきた赤鬼に筍の描かれた櫛を渡して遣り過ごし、金の卵を寄越せー! と迫ってきた鶏には桃を渡してさくさくと先に進んで行く。
 その間も素直に案内を務めていた子山羊が、後もうちょっとだよーと言いながら曲がる後ろについて行こうとして、ふと遠く聞こえてきた音に足を止めた。
「お姉ちゃん? 来ないの?」
 帰っちゃうよと不服そうに振り返ってきた子山羊に、しいと口の前で指を立てて音がするほうへと顔を向ける。子山羊は首を捻りながらもディーナを真似て耳を澄まし、バイオリン? と不思議そうに呟いた。
「キミにも聞こえる? ……綺麗、だね」
「うん。けど、近寄ったら捕まっちゃうかもしれないよ」
「そっか」
 そう言えばそんなイベント中なのだったと思い出し、まだ聞こえてくる曲に心を残しながらも子山羊に頷いた。
「待たせてごめん。行こう?」



 領主の館を経て、最初に湖に辿り着いたのはキャロンだった。
「へっへー、一番乗り~! だってぇ、みんなが来る前にチャレンジしたかったんだもん」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねたキャロンは、水中から突き出している杭の上に立っている白鳥を見つけて近寄った。
「白鳥さん、こっちに来てくれる?」
 手招きに応えて白鳥は杭を蹴ると、一息でキャロンの側に降り立った。無駄に体格のいい白鳥が見下ろしてくると、キャロンはどことなくもじもじと白鳥を見上げる。
「あのね、リーリスはね、呪いにかかって動物になっちゃった王子さまの呪いを解きに来たの」
 照れ臭そうに告げたキャロンは、相変わらず無言の白鳥にはにかんだように笑いかけた。
「王子さま、人間に戻ったら、リーリスに飾り羽根ちょうだいね?」
 言って、動かないでねとお願いしたキャロンは白鳥の腕を取って顔の高さまで浮かび上がると、頬にさっとキスを送って離れた。
「狡い、わすれもの屋ばっかり狡いー! 俺なんか桃しか貰ってないのに、美少女のキスとか不公平だっ!」
 断固として抗議すると飛び出した鶏に、キャロンは驚いたように振り返る。煩そうに耳を押さえているロバは、そんな事よりと白鳥を睨んで声を尖らせる。
「あんたはどうして着ぐるみじゃないんだ」
 不満そうに指摘されるまま、白鳥は普段の格好を白くしただけの服装だ。手を広げると羽は広がるし、飾り羽根や嘴のある頭はつけているが、本物っぽい羽根で仕上げられたそれは着ぐるみほど無様ではない。
「贔屓も過ぎるだろ!」
「そうだそうだ、美少女からキスされるなら白鳥もやったのにー!」
 地団太を踏んでいる鶏に、ロバがそうじゃねぇと頭を叩くのを見てキャロンがきょとんとしていると、賑やかだねーと面白そうにしたエルスノールとニワトコが姿を見せた。
 仏頂面をしていたロバは振り返ってニワトコを見つけると、軽く眉を上げた。
「本当に長靴を履いた猫を見つけたのか」
「うん。レイドさんにはちゃんと伝えたよ?」
 ね、とニワトコに笑いかけられたエルスノールは、ひょいと肩を竦めた。
「町の猫たちと一緒になって、伝言を伝えろーって絡んでいくのも楽しかったんだけど。あんな真面目に捜されたら、それ以上妨害するのも気が引けてね」
 ついでだから一緒に来たんだと説明するエルスノールに、本気で妨害してたのかとロバが頬を引き攣らせる。その間に白鳥に近寄ったニワトコは、金色の飾り羽を見てとっても綺麗だねと微笑んだ。
「すぐに作るから、ちょっと待っててね」
 飾り羽根と交換にと言いながら、ニワトコは最初に見た時より半分ほど減っている花でせっせと冠を作り始めた。
「あれ、結構人が揃ってんなー」
 割と早く着いたと思ったんだけどなと、黒いセクタンに同意を求めながら森を抜けてきたのは音成。何故かバイオリンを持っているのを見て、ロバが何か弾いてくれんのかと語尾を上げた。
「これはちょっと成り行きで……。でも聞きたいなら弾いてもいいぜ」
 何しろ俺は歌って演奏もできるプロのウェイターだからと胸を張った音成に、白鳥が興味を持ったように顔を巡らせている。けれどすぐに視線を変えたのは、できたと嬉しそうにニワトコが花冠を差し出したからだ。
 どうぞと差し出されるそれに身を屈めて頭に乗せた白鳥は、心なし嬉しそうではあるが飾り羽根を取る気配は見せない。
「残念、人に戻ってくれないかー」
「ふふ、でも楽しかったよ」
 小さく肩を竦めたキャロンの隣でニワトコが満足そうににこにこしていると、間に合わなかったかな? と残念そうに眉根を寄せたティモネンが辿り着いた。
「お前さん、随分早く領主の館に着いてなかったか」
 始まったばっかりの頃に会ったろとロバが眉を顰めると、ティモネンは何度か頷いた。
「でも許可証を貰った後、子山羊さんを送り返したから」
「町の連中なら、ほっといたところで支障ないだろ」
 狼に食われるわけでもなしとロバが呆れると、ティモネンは頬をかきながら白鳥を窺った。
「よかった、……まだ誰も飾り羽根は貰ってない?」
 私も挑戦していいかなと周りに断って近寄って行ったティモネンは、荷物の中から緑のセーターを取り出して白鳥に押しつけた。
「お兄様たちは、恐ろしい魔女の呪いで白鳥にされてしまったのです。お兄様たちが人間に戻るにはイラクサでシャツを作ること。その間は口をきいてはいけないと。やっとシャツが出来上がりました、お兄様」
 何故か棒読み口調で語ったティモネンは、サングラス越しにじっと白鳥を見据えて続ける。
「どうぞ人間にお戻りになって……そしてその飾り羽根、貰えるとうれしい、な」
 ティモネンの言葉に静かな笑みを広げた白鳥は、花冠ごと白鳥の頭を外すとセーターを着て花冠を被り直し、外した金の飾り羽根をティモネンに差し出した。
「あー、やっぱり白鳥の王子だったか」
 いいところまではいったんだけどなぁと指を鳴らした音成は、まぁいっかと笑ってバイオリンを構えた。
「ハッピーエンドを彩るBGMなら、俺にお任せ」
 言って華やかな曲が奏でられるのを聞き、鶏がなぁなぁとキャロンに声をかけている。
「飾り羽根はないけど、俺と踊ってくんない?」
 言いながら出される手を見てにっこりしたキャロンは、いいよーと軽く頷いて手を乗せた。
「そこそこたくさんの人とコミュニケーションとったから、リーリスは満足だよ~。とっても楽しかったもん」
 満足そうに笑うキャロンに、皆はー? と声をかけられてエルスノールは髭を揺らした。
「まぁ、色んなキャラクターと絡めたし。それなりに面白かったかな」
「僕も色んな人に花を配れて楽しかったよ」
 白鳥さんもよく似合ってるしと嬉しそうなニワトコに、花冠の角度を直した元白鳥は丁寧にお辞儀をする。
「俺はこのバイオリンで大満足。あ、貰っていいのかな?」
 弾く手は止めないまま尋ねた音成に、白鳥が大きく頷く。よし! と嬉しそうにして一層楽しげに弾くのを聞きながら、ロバがティモネンによかったなと声をかけた。
「飾り羽根を手に入れた感想は?」
「真面目に頑張った、よ? 勇者の称号、欲しかったの」
「そっちかよ」
「それに……、雪の結晶、とてもきれいだったの。色が変わって、キラキラして」
 控えめながらはしゃいでいるらしいティモネンは、白鳥と目が合うと思い出したように荷物を探った。
「衣装準備したり、小道具準備したり……演劇みたいで、楽しかった。だから、お兄さんにも……参加賞?」
 言ってクッキーの包みを出したティモネンに、白鳥が眉を上げた時。
「あー! わすれもの屋ばっかり狡いー!」
 奏でられる曲の合間に鶏の悲鳴が響き渡り、だからてめぇは白鳥じゃねぇんだよとロバが小さく毒づいた。

クリエイターコメントどうにか年内に間に合いました……か? だといいなと祈りつつ、年内最後のイベントをお届けに上がりました。

久し振りに色んな御伽噺を思い出し、心から楽しく書かせて頂きました。
相変わらず字数の壁に阻まれて、さらっと流してしまった部分もありましたが。ここだけは! と思う場所は書かせて頂けたかな、と思います。

飾り羽根を獲得されたのは、完全な正解を出して頂けた方となりました。
他の方法や色んな遣り過ごし方など、こんな手段もあるのかと面白がって読ませて頂いた空気を、できるだけそのままお伝えできていれば幸いに思います。

結局のところ文化祭崩れだったのか? と自分でも謎なイベントではありましたが、ご参加ありがとうございました!
公開日時2011-12-30(金) 21:40

 

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