クリエイター神無月まりばな(wwyt8985)
管理番号1164-13692 オファー日2011-12-25(日) 08:13

オファーPC ディーナ・ティモネン(cnuc9362)ツーリスト 女 23歳 逃亡者(犯罪者)/殺人鬼
ゲストPC1 シオン・ユング(crmf8449) ツーリスト 男 19歳 『クリスタル・パレス』の前ギャルソン

<ノベル>

 ディーナ・ティモネンがそのアクセサリーショップに立ち寄ったのは偶然だった。
 きらめく色彩の洪水に、思わず息を呑む。
 小さな店舗には、さまざまな世界から仕入れた宝石が陳列されている。ブルーインプルーの深い海のしずくを結晶にしたような、サンタマリア・アクアマリン。ヴォロスの森の奥に咲く花のように、藤色の彩りを持つ大粒のサファィア。くっきりとした星の輝きを放つ深紅のスタールビー。虹色のファイアを見せるスフェーンと透明度の高いエメラルド・キャッツアイは、壱番世界のものだろうか。
 あまりの眩しさにサングラスをかけ直したとき、女店主が声をかけてきた。
「いらっしゃい。誰かへのプレゼント?」
「……え?」
「ぶしつけでごめんなさいね。ご自分のためにアクセサリーを買うようには、見えなかったものだから」
 答えあぐねているディーナに、店主はそう微笑む。
 こっくん、と、ディーナは頷いた。そして、きらびやかな宝石ではなく、シンプルなブレスレットが並ぶ一角で立ち止まる。その仕草に、店主は何かを察したようだった。
「石つきではない、普段使いのブレスがいいのかしら? それならシルバーの、細身のデザインで」
 銀のブレスレットがガラスケースから出され、デザイン違いのものが、いくつも並べられる。
「シルバー、は、嫌い……」
「あら、なぜ?」
「……変色するから。変わってしまうものは、いや」

  † † †

 硫化して黒く変化してしまう《銀》は苦手。悲しくなる。
 ひとは変わるものだと言われているようで。
 心変わりが当たり前と言われているようで。

 だから私は、プラチナのブレスレットを選んだ。

  † † †

 その日、ディーナは朝から張り切っていた。
 以前、クリスタル・パレスを訪れたさい、営業日のランチタイムに、シオンの外出許可を得たのである。
(シオンくん……。今度公園で、ランチしない?)
(おおおおっ、きたきたきたぁぁああー! そっりゃあもう、ディーナ姉さんが誘ってくれるんならふたつ返事でOKに決まってるじゃんか)
(いつが、いいかな?)
(いつでも! 明日でも明後日でも。ディーナ姉さんの都合に合わせるよ)
(……お弁当、作っていくね)
(マジ? いいの?)
(何か、リクエストあったら、言って……? 味の品評、して欲しいの。私……、いつか、お店で料理、作りたい)
(なーる。実験台だな納得! そういうわけなんで、そんときは中抜けしていいよね店長?)

 ――何を、作ろうか。
 ひとしきり悩んでから、取りかかる。
 冷めても美味しいもの? でも、保温容器に入れておいて、温かく食べられるものもいい。
 そうだ、いっそ、両方持って行こう。
 ホットサンドはベーコンとレタスとトマトのオーソドックスなものと、柔らかいアボガドと豚肉をはさんだものを用意して。温野菜のサラダは、じゃがいも、にんじん、ズッキーニ、アスパラガス、ブロッコリー、カリフラワーを茹でて、オリーブオイルとワインビネガーで味を整えて。
 シオンくんは紅茶派だっけ? 今日はティーバックで我慢してもらおう。
 チキンバー……は、敬遠されちゃうかな? じゃあ、お豆腐を使ったふわふわのチキンナゲット風にしよう。
 上等のガーリックバターを使ったガーリックトーストと、ディップ用のトマトのみじん切りとレバーペーストと、リクエストされた魚介のマリネと――
 
 全部用意したら、バスケット2つになっちゃうけれど。
 おまけにマットを背負うと、ピクニックっていうより、サバイバルな感じになっちゃうけど。
 
 身支度に手間取って、少し、出遅れた。
 公園についたとき、シオンはもう来ていて、シラサギのすがたで、ベンチの上で羽根を広げていた。
 虫干しだか日なたぼっこだか、待ち時間をそういう趣旨で過ごしていたらしい。
「ごめんなさい……、シオンくん。待った?」
「いやぁ全然。今来たばかり……、って、ディーナ姉さんッ……!」
 いつもの有翼人の形態を取ったシオンは、ディーナの大荷物を見て目を見張る。
「今日のテーマ、おれてっきり、『ディーナ姉さんと公園でピクニック。手作りランチを食べさせてもらうんだぜヒャッホー!』だと思ってたんだけど」
 あたりを伺い、シオンは声をひそめる。
「もしかして、もっとディープな企画だった?」
「ディープ……?」
「夜逃げとか。いや、おれはかまわないけどさ、どこへ逃げるにしても戦闘力ないんで足手まといかなって」
「違う……よ?」
「じゃあキャンプしながら戦闘訓練か。そっちも自信ないなぁ。ディーナ姉さんに一方的に守ってもらうことになっちまう」
「それも、違う……」
 ディーナはしょんぼり肩を落とす。
 夜逃げやら戦闘訓練やらに間違われてしまったというのもあるが、そもそも両手がふさがっていては、手を握るとかそういうシチュエーションは限りなく不可能ではないか。
「重いだろ? 荷物持つよ」
 そういってシオンが抱えたのは、背中にしょったマットのほうだったので、なおさらである。

 あそこで食べよ、と、ディーナは大振りの枝を伸ばす樹木の根元を指さした。
 マットを敷き、バスケットを広げるなり、シオンは目を輝かせる。
「すげー。ゴージャスじゃん」
 ディーナが驚くほどの勢いで料理を平らげていくシオンに、ディーナはおずおずとメモとペンを用意する。感想を書き留めて、今後の参考にしようと思ったのだ。
「……どう、かな?」
「うん! 美味い!」
「……どんな、ふうに?」
「とにかく美味い!」
「……他には?」
「ホットサンドもサラダもマリネもガーリックトーストもばっちり!」
「こうしたほうがいい、とか……、は?」
「あ? うん。そうだなー、温野菜のサラダはバジルを加えてもいけるかな。魚介のマリネは、バルサミコソースを使うのもいいかも」
「……ありがと。すごく参考になる」
 真剣にメモを取るディーナの横顔を、シオンはしみじみと見つめる。
「ディーナ姉さんて、たしか酒呑みだよな?」
「あまり強くない……、けど」
「おれの経験則からいくと、酒呑みって酒の肴になる料理作るの、自然と上手くなるみたいだ」
「そう……? シオンくんも?」
「いやいやいや、おれ一応未成年なんで! ともかくこのレベルだと、すぐにでも店ひらけるよ。おれが保証する」
「ほんと? ありがとう」
「あはは、その台詞はおれのほうだって。美味いランチのお礼に、何かお返ししなきゃな。何がいい?」
「……お礼?」
 ディーナは少し口ごもる。
 ――そして。

「じゃ、ハグさせて」
「えっ」

 問答無用。
 ディーナの俊敏さに、シオンがかなうはずもない。
 次の瞬間、人目をはばからぬラブシーンにしか見えない光景が、公園を行き交う人々の目前で展開された。

 シオンはすっかり固まっていて、両手をどうしてよいのやら、わきわきさせている。
「ええとですね、ディーナ姉さん。すごくうれしいんだけども」
「……ごめん。シオンくん、迫られ慣れてると思って。お姉さんキラーだし」
「おれ、こう見えて純情なんですよ」
「シオンくんの羽根、お日様の匂いがする」
「はは。さっき虫干ししたばっかだから」

 ……たぶん、困っている。困らせている。
 だけど振りほどいたりはしない。シオンくんは、迷いの森で助けを求める女性が誰であれ、決して拒絶したりはしない。
 それが私でも、私でなくても。
「……ねえ。誰かが喜んでくれるなら。料理食べて、笑ってくれるなら。……生きてて、いいよね? 私、生きてること、許して貰えるよね?」
 ――シオンくんは……、許してくれるよね?

「許すも許さないも、ディーナ姉さんはそのままでいいんだよ。思うように生きていいんだよ。……おれさあ」
「……?」
「ディーナ姉さんが思ってくれてるような、いいやつじゃないんだ」
「どうして?」
「約束を破って、友だちを酷く傷つけたことがあってさ」

  † † †

 一緒にいてくれるって、言ったじゃないか。
「トリ」であることをやめて、「ヒト」になるって約束したじゃないか。
 彼はそう言ったけれど、おれは気づいてしまった。
 翼を落としても、「ヒト」にはなれないことに。
 ただの籠の鳥に、なってしまうことに。
 だからおれは、土壇場で逃げ出した。すべての約束を反古にして。
 翼を切り落とされる、その直前に。

 そのとき、友人であったはずの彼は言った。
 ――もういい。
 もう知らない。

 おまえなんか、いらない。

  † † †

「これ……。プレゼント。今日はありがとう」
 シオンの手首に、ディーナはプラチナのブレスレットをおさめる。
 そして、背を向ける。
「『レディ・ビクトリア』の店主さんが、言ってた……。昔、プラチナは、銀と間違えられて、だけど……、銀のように溶かしたり、加工したりすることはできなくて……。捨てられてしまったことが、あったって」

 曲げられない。
 思い通りにならない。
 そして廃棄された、大量のプラチナ。

 だから、あげる。
 変われないきみに、これを。

「……お仕事、がんばって?」
 
 いつ思い出して眺めても、何も変わっていないように。
 変われないきみが、私を思い出すときに、何の負担もかけないように。

クリエイターコメント【シオンより一筆】

 親愛なるディーナ姉さんへ

 あれからかなり経ったけど、元気してる?
 ……ってのも変か。いろいろ大変そうなのは、風の便りに聞いてるよ。
 おれは、ディーナ姉さんには笑っていてほしいし、幸せになってほしい。あまり無茶しないでほしい、とも思うけど、それはそれでおれのエゴかもしれないな。
 ディーナ姉さんがどんな運命を選択しても、おれはそれを尊重するけれど、そうだなぁ……、路線変更や仕切り直しをすることを「負け」とは思わないでほしいかな。
 変わったって、いいんだよ?

 もし、いろんなことに疲れて、しんどくなったら、少しの時間でいいから、店に寄ってみてくれない?
 いつもどおりに、とびきりの席へ案内するよ。
 30分、お茶を飲んでゆっくりするだけで、気分は変わってくるものだから。
 ……な?

                                       敬意を込めて
           シオン・ユング
公開日時2012-04-13(金) 23:40

 

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