イラスト/ぷみさ (iabh9357)
事の発端を遡ると。 それは昏睡中であったはずの世界司書からのクリスマスプレゼントがセクタン便により吉備 サクラの手に届いた事に突きあたる。『メリークリスマス! 司書のカウベルよ! こういうイベントって何だか楽しみで、凄く早く準備しちゃうのよねぇ。 セクタン便に混ぜて貰えるようにエミリエに頼んだけど大丈夫だったかしらぁ。 あ、あのねプレゼントはぁ、『牛柄パジャマ(フリーサイズ)』 ほらぁフードに角もついてて可愛いでしょお? アタシもお揃いのを買っちゃったわー角は自前のがあるけどぉ。 良かったら届いた貴方とパジャマパーティしたいわぁ。考えておいてねっ』 まずサクラはそこで美しいガッツポーズを決めた。「牛の着ぐるみパジャマ!? カウベルさんさすがです、コスプレについて良く分かってらっしゃいます! しかもパジャマパーティ!? 更に更に良く分かってらっしゃいます!」 零世界レイヤー倍増計画推進中のサクラにとって、この提案はザッツ渡りに船! 昏睡中のカウベルがボンヤリと中空に浮かび、笑顔で手を振っているところがサクラには見えた。後光が眩しい。口が「よきにはからえ」と動いたようにサクラは感じた。「そしてカウベルさんと言えば……ですよねぇ!」 サクラはパジャマを崇めるように一度高く掲げると、そっとラッピングペーパーの上に戻し、そしてダッシュで移動した。☆ ☆ ☆ ○ ☆ ☆ ☆「ソアさん、女の子オンリーパジャマパーティしませんか!?」「……?!」 突然図書館の中で声をかけられたソアは驚きに荷物をギュッと抱いて小さくなった。「ソアさんのリスペクトされてるカウベルさんは招待します勿論です!」「あ、あの……カウベルさんは……まだ眠っていて……」「そこは私が何とかします!(キリッ」「ええ……!?」「ソアさんちはチェンバーですか一軒家ですか!? それは何があってもOKです会場大決定です! では他の面子をご招待に行ってきます!」「ちょ、待……あぅぅ。おやつは野菜で良いのでしょうか……?」気が付けばソアは主催者の1人に祭り上げられ、会場準備係になっていた。 しかし、カウベルさんのことは何とかしますだなんて……。「本当に何とかして下さいそうな気がしてしまうのは、何故でしょう……?」 ソアは久しぶりに強張っていた表情をほころばせた。 もう一度抱えた荷物をぎゅっと抱きしめる。 それはカウベルへのクリスマスプレゼントなのだ。☆ ☆ ☆ ○ ☆ ☆ ☆ サクラが次に駆けこんだのは昼過ぎながら人で賑わうトラベラーズ・カフェだった。『女の子オンリーパジャマパーティ 受付』 即席の段ボールに紙を張っただけの看板を傍らに、遅めのランチを口いっぱいに頬張る。「忙しい女は食べながらも働くのです!」心の中で呟くと、また「よきにはからえ……」と声がした気がした。勿論気のせいであるが。「あ、あの、初めまして。 わ、私もご一緒してみてもいいかしら?」 そんなサクラにまず声をかけたのは漆黒の髪と鮮やかな紫の瞳が印象的な少女、華月であった。「ほごごんごふ……(ごっくん)……勿論です勿論です!」 サクラは慌てて向かいの席を手で進めた。 華月は遠慮がちに、しかし美しい仕草で席に着くとはにかんだ様な笑みを浮かべた。「何だかとても楽しそうだなって思って……よ、よろしくお願いしますね」「はい! こ、こちらこそ!」 二人は向かいのテーブルで頭を下げ合い、お約束のように頭をぶつけ合って、顔を赤くして謝り合った。 華月が恥じらうと自分まで恥ずかしくなる……と、サクラは思った。 そこにふわりと上から声が降って来た。「パジャマパーティー……とても素敵な響きね。しかも女の子だけでだなんて、とても心が躍るわ。えぇ、とても心が躍るわ」 夢を見るような口調で看板を見つめる少女は真っ白なドレスに身を包んでいて、サクラは自分の食べ物が万が一にも染みなどを作らないように、そっと離した。衣装は命より大事である。「ご機嫌よう、サクラさん。宜しければ私もお邪魔して宜しいかしら? 年端もいかない女の子達が、真夜中に、布団の上で、パジャマをはためかせながら……うふふ、胸が熱くなるわねぇ」「幸せの魔女さん! ええ、そうですよねぇ。実はちょっと年端が言っているかたもお誘いしているのですが、それでも勿論……くひっ」 幸せの魔女はそっとスカートをつまむと、サクラの横に腰かけた。食べ物がまた少し移動する。「こんにちわ! 女の子だけの集まりって、わたし、あんまり参加したことがなくて……。よかったら、わたしも混ぜてもらえませんか?」 白い衣服を気にしている間に近づいてきていた少女がぺこりと頭を下げる。「ふおおおおおおおおサンタコスですか!! よろしくお願いいたします!!」 サクラが思わず立ち上がりその手を取ったのは、彼女がミニスカ・ブーツのサンタ衣装に身を包んでいたからだ。――コスプレなら 何でも美味しく いただきます 吉備 サクラ「コスってなんですか? 服装のことです? わたしサンタ見習いなんです!」「本職のかたでしたか! 失礼いたしました」 慌てて頭を下げるサクラにサンタ少女、ミルカ・アハティアラが両手と首を振り答える。「見習いですから! それよりあの、パジャマパーティ……よろしいですか?」 眉を八の字にしたミルカに見上げられ、サクラはキュンとした。「勿論ですとも!! これで人数は揃いました!! あとはカウベルさんを起こすだけです!!」「え、これから寝るのに起こすんです??」 ミルカが不思議そうに首を傾げた。☆ ☆ ☆ ○ ☆ ☆ ☆ 本当にカウベルのことを何とかしてきたらしいサクラは参加メンバを引き連れてソアの家に来た。そしておずおずと顔を出したソアにサクラは胸を張って宣言した。「純情、エロさ、らぶ巨乳、全方向に正当なパジャマパーティを目指してみました!」 鼻息荒く言ったサクラに、「そうかなぁ?」と思ったものの、ソアは口を出すのは止めておいた。 少なくとも大好きなカウベルさんと、自分の家でパジャマパーティすることは間違いない。カウベルはみんなの後ろからソアに見えるようにハートマークを送ってくれる。――参加した人みんな喜んでくれるといいな……。 ソアはやってきたみんなにペコリとお辞儀をした。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>吉備 サクラ(cnxm1610)ソア・ヒタネ(cwed3922)華月(cade5246)幸せの魔女(cyxm2318)ミルカ・アハティアラ(cefr6795)カウベル・カワード(cpxc2025)
ソアの家は農地チェンバーの片隅にある。 純和風の古民家を模しており、土間や板の間、畳敷きの座敷、縁側のある、木造住宅だ。外観こそこじんまりとしているものの、今日の為にいくつか戸を外した部屋は広々と奥まで見渡せて家を広く感じさせる。 「すっごーい! 一人でお家も畑もあるなんて、広すぎて寂しくならなぁい?」 「借り物ですからっ! 近所に他のかたも住んでいますし、寂しくはないです」 キラキラと目を輝かせたカウベルに言われて、思わず首をぶんぶんと振りながら返したソアだったが、ふと思う。 ――カウベルさんってどこに住んでいるんだろう?? 「あ、あのーカウベルさんってどこに」 「わーコレ囲炉裏ですよね! 素敵! ロマンですぅ~」 やたらと大きいキャリーバッグを家の外に放ったままとりあえず中を覗き込んだサクラが祈るように手を組んで声をあげた。 「はじめて見ましたー!」 続くようにミルカが手を叩き、それを見たカウベルと華月がほのぼのと笑い合い、さらにその様子を見た幸せの魔女が幸せそうに微笑む。ソアは自分の口から出た質問の言葉を思わず払うように手を振った。 「みなさん上がってください。囲炉裏の近くは暖かいですよ」 誰かが泊りに来るのは初めてだ。とても嬉しいけれどかなり緊張しているソアである。掃除も片付けもしたし、布団は昼間に干したし、必要な物も用意した――つもり。 「ソアさんありがとうございます、今日は宜しくお願いします!」 靴を脱いで一人ずつ上がり、一人ひとりが笑顔で「おじゃまします」「よろしくお願いします」と声をかけてくれる。 ソアはワクワクした。 ――あとでサクラさんにも誘ってくれてありがとうって言わなきゃ。 ぴょんと玄関に降りて、みんなが通った引き戸を閉じて。 今夜は素敵な夜になりそう。 「初めて行くお家にはお土産必須です! 特にパジャマパーティはお菓子を切らしたら楽しさ半減です、足りないかもしれませんが頑張りました!」 そう言いながらサクラは手早く囲炉裏の周りにキャリーバッグの中身を並べ始めた。 レアチーズケーキ1ホール、2Lのオレンジジュース&お茶、スナック菓子、クラッカー、紙皿、保冷バッグ入りカップアイス12個、スケッチブック、大型タッパーに入れた苺、練乳チューブ、デジカメ、ごみ袋、裁縫道具、それからクリスマスにカウベルから届いた牛柄のパジャマと何やら包みとか包みとか包みと、その他宿泊グッズ等等……。 「すっごーいドッサリです!」 「あの、私も和菓子を持って来たのだけど……良かったら」 華月の差し出した箱には色とりどりの練り菓子が上品に並んでいる。良く見るとその一つ一つが、紅白の梅、真っ白な牡丹、黒い百合、淡色の桜、ピンクの桃、そして黄色の蝶の形をしている。 「まぁ、これはもしかして私たちを表しているのかしら? 私は牡丹。花言葉は高貴……そして恥じらいね」 うっとりとした様子で幸せの魔女が言うのを聞き、華月は慌てたように首を振った。 「ごめんなさい、花言葉までは気にしていなかったわ。でもそう、皆に似あうようにと思って一つ一つ選んで見たの。気に入ってもらえたら嬉しいわ」 「ねぇねぇ魔女さん! わたしの花の花言葉はわかりますか!」 「ミルカさんのお花。梅はそう……高潔、上品……それから忍耐のお花かしら?」 「へぇぇ、うーん今の自分にはちょっと手の届かないお花ですね。華月さんが選んでくださった花なので似あうようになりたいなー!」 ミルカがニコニコと拳を作るところを見て、華月はほっとしたように微笑んだ。 「今でも十分似合っていると思うわ」 「華月さんは髪飾りと一緒の蝶々の形なんですね! 華月さんもお花に例えたとしたら何がお似合いになりますかねぇ!」 サクラがワクワクと一同の顔を見渡す。ソアが遠慮がちにそっと手を上げた。 「はい、ソアさんどうぞ!」 「華月さんは紫の瞳がとっても綺麗ですので、菫……いえもっと華やかな、菖蒲なんかはいかがでしょうか?」 「それ素敵です!」 「菖蒲の花言葉は良い便り。華月さんは私に幸せな便りを下さるハッピーガールと言う事かしら。どうしましょう、貴女を見つめると胸の鼓動が早まってしまうわ! もしかして私ったら貴女に恋心を抱いてしまったのかしら。ねぇ、私達お付き合いしてみない?」 幸せの魔女がずずいと距離を詰めてくるのに、華月は慌ててそばにあった紙皿を自分を隠すように構えた。顔が熱い。きっと真っ赤だ。恥ずかしい。 「って、キャー! カウベルさん何か静かだと思ったらなんでパンツ一丁なんですかぁああ」 サクラの悲鳴に一同の注目が部屋の隅で服を脱いでるカウベルへ注がれる。そしていくつかは慌てたように反らされた。 「あらぁ? だってぇパジャマパーティでしょう? はやくパジャマに着替えないとって思ってぇ」 「あわわわわカウベルさん、ちょっとこの手ぬぐいを。あのお風呂沸いてますので、良かったら着替える前に入ってください」 ソアが慌ててカウベルを部屋の外へ案内する。 「まぁ本当? お先にいただいちゃっていいかしらぁー。ねぇねぇソアちゃんちのお風呂って湯船があるのでしょう? 温泉みたいよねぇ。楽しみだゎぁ……」 「カウベルさん巨乳です……」 「わたしも大きくなったらああなれるでしょうか……」 フェードアウトするカウベルの声を聞きながら、サクラとミルカが呟く。華月は真っ赤なまま紙皿の影に隠れていた。 「はぁ。ビックリしました。あのみなさんも、お風呂良かったら順番にどうぞ。あとお腹が空いた方はキノコ汁も準備してありますので言ってください」 ソアが戸を閉めて囲炉裏の傍に戻ってきて言う。 「わーい! お風呂もキノコ汁もいただきますー! お風呂の順番どうしましょうか?」 「あ、私は何番目でも……」 「ふふ、私は勿論最後。愛らしい少女たちの残り湯に浸かるのって何となく背徳的で良いと思わなくて?」 「はぁぁん、流石幸せの魔女さんです! 私もじゃあ最後のほうで……くひっ」 「やっぱり後のほうがいいわ。あまり先に入るのも申し訳ないし」 珍しく華月は強引に言いなおした。 ――華月のコミュニケーションレベルが1上がった! そんな中ミルカが遠慮がちにソアをつつく。 「ねえソアさんソアさん、カウベルさんがおっしゃっていたお風呂が温泉みたいってどういうことですか! あの、実はこういうお家のお風呂って初めてで……」 「まぁあ! ミルカさん、では私と貴方、一緒にお風呂に入りませんこと? 何だか貴女を見てると血液の循環が、えぇ、一緒にお背中流しっことか、うふ。ねぇ、私達お付き合いしてみない?」 「ミルカさんはソアさんと一緒に入るといいんじゃないかしら? 二人とも小柄だし。ね?」 ――華月の「かばう」! ――なんと、華月のコミュニケーションレベルが2も上がった! 「まぁ華月さんが言うなら仕方がないわね」 「じゃあパジャマがネタバレしてる私が先に入りまーす! カウベルさんの残り汁……くひっ」 牛汁たっぷり……とサクラが訳の分からないことを呟く。たっぷりと言えばソアの後のがたっぷりなような気も、いやいや。 「お先にいただきましたぁー! ウフフ、私はサクラちゃんにあげたのとお揃いの牛柄パジャマ。可愛いでしょぉ!」 ホカホカと湯上りで上気したままの顔でくるくると回って見せた。 囲炉裏の周りでキノコ汁をいただいていた一同が手を叩く。 「お風呂空きましたよー! カウベルさんから頂いたお揃いパジャマですー! えへへ、角っこですよぉ!」 二番目にお風呂から上がったサクラはカウベルの真似をしてくるくると回った。 サクラがカウベルの横に座ると二人は顔の横にVサインを作ってファインダーに収まる。 「とっても良いお風呂だったわ。 私は白のネグリジェ。下品にならない程度の色気と少女らしい愛らしさの二面性を持っているの。わかっていただけまして??」 幸せの魔女がフリルたっぷりのネグリジェの裾をつまんでお辞儀をする。 「わかるわかるぅー!」 「勿論ですとも!」 入浴済みチームはソアから冷たいりんご入り寒天を貰って、飲酒したかのようにテンションが高かった。 「シャワーの無いお風呂って初めて入りました! それに湯船ってああいうことだったんですね。凄いですあったかかったです!!」 トナカイパジャマのミルカが興奮して手をバタバタするところを、幸せの魔女がちょっとだらしない顔になりながらそうねそうねと相槌を打つ。 「みなさんのパジャマ可愛いですね。私は何だか地味で……洋服って憧れです」 ソアが白い浴衣で恥ずかしそうに俯く。 「ソアさん、これ私の自作ですけど貰って下さい、カウベルさんともお揃いです!」 驚いて包みを開けるとそこにはカウベルとサクラとお揃いながら少し小ぶりに作られた、牛柄のパジャマがあった。 「着替えてきます!」 ソアが目を輝かせて出てきたばかりの風呂場のほうへもどっていく。 パジャマ牛は3匹となり、再びファインダーに収まった。 「! お布団、私の分まで引いてもらっちゃってごめんなさい!」 最後に湯からあがった華月が部屋に戻ると皆が布団を部屋に敷き詰め、枕を選んでいるところだった。 「華月さん綺麗な着物です!」 浴衣から牛に変身したソアが頬を染めて華月さんの着物を褒める。 淡い紫の地に薄く模様の入った華月の夜着は、大人っぽく。いつも付けている蝶の髪飾りをはずして、ゆるく髪をまとめた姿は色っぽかった。ソアは憧れるようにその姿を見て、着物姿の目標を華月に定める。 「あらあら皆さん随分と可愛らしいパジャマなのね。……ふふ、思わず食指が動いてしまいそうだわ。そうねぇ。サクラさん、貴女の髪……とても綺麗だわ。そして貴女自身も……。ねぇ、私達お付き合いしてみない?」 「やっだぁ魔女さんたらーまたまたー。さぁて、パジャマパーティ開始ですよー! パーティのおやつは別腹です勿論です! じゃんじゃん食べてくださーい!」 サクラは幸せの魔女の告白をさらりと流してパジャマパーティの開幕を宣言した。 それぞれお布団の上で枕を抱えて。ちょっとお行儀悪いけど、布団の間にはジュースとお菓子。まだ歯磨きはしていない。いっぱいおしゃべりして、お菓子を食べないと、まだまだ眠れない。 「わたしおじいさんと二人暮らしだから、こんなおねぇさんばっかりに囲まれてお泊り会なんて初めてですー! ドキドキ!」 「私も始めてで、そのあまり慣れてなくて、ごめんなさいね。私上手くおしゃべりできてるかしら?」 「大丈夫ですよー! 最初の話題いいですかー! みなさん、BLGLNLどれが好きですか? 私は全部好きです!」 「やっだぁーサクラちゃんさすが、最初っから飛ばしてるぅー」 カウベルがふざけてサクラに寄りかかって見せたが、ミルカと華月とソアはきょとんとした眼をしていた。 「はい、先生!BLGLNLってなんですかぁ!」 ミルカが元気に隣の華月に向かって手をあげるが、華月は首を振った。 「ごめんなさい、私もわからないわ」 しかしその質問の答えは幸せの魔女が引き継いだ。 「ボーイズラブ、ガールズラブ、ニュートラルラブ。つまり男同士と愛、女同士の愛。そして異性との愛。つまりガールズラブは例えば……ソアさん、貴女はとても可愛らしいわね。私ね、丁度貴女位の年頃の子がタイプなの。私達お付き合いしてみない?」 「ええっ!? そ、そんなこと、女同士ですよ!?」 「そう、そこがミソなのですよ! カウベルさんの事が好きなソアさんならきっと理解できるはずぅー!」 サクラがびしっと指を天井に向けるので、全員がその先を見つめたが特に何もなかった。 「カウベルさんのことは、そ……」 「そ……」の先はカウベルのニッコリとした笑顔を見つけてしまったらすっとんだ。ソアは布団に沈んだ。 ソアが沈んでしまったのを見て、華月が慌てて新しい話題を出した。 「皆は故郷では……どんな風に暮らしていたの? カウベルには覚えていない事を質問して、ごめんなさいね」 「ううん、全然構わないわぁ。華月ちゃんはどんな風だったの??」 「私は……遊郭の守り手として暮らしていたわ」 「遊郭って何ですか??」 ミルカの純粋な質問に、華月が慌てて言葉を探す。 「美人さんがいっぱいいてぇ、お金を払った男の人をチヤホヤしてくれるところよぉ」 カウベルのドストレートながら絶妙に大事なところがボケた説明に華月は関心する。 「それは守らなくっちゃいけませんね! 綺麗な女の人は大事です! でも華月さんも綺麗なかたなので、守られる側じゃなかったんですか??」 鋭いミルカの質問に華月は過去を振り返り少し苦い気持ちになった。でもゆっくりと首を振り、眉を下げてミルカに言う。 「私、男の人が苦手だから」 「わたしはサンタクロースのおじいさんと一緒に暮らしていました! わたしの師匠でもあるんですけど、ちょっといい加減なところが合って、凄く世話がかかるんですよー! あんなおじいさんなら華月さんも良い人だからついつい世話焼いちゃいますよ!」 チーズケーキのフォークを振り回しながら言うミルカに華月が微笑む。 「そうね、きっと」 「あとお洋服のお話がしたかったんですー! あのサクラさんのおっしゃる“コスプレ”は良くわからないんですけど」 「今度詳しくレクチャーいたします。勿論ですともー!」 サクラが嬉しそうに声をあげる。 「カウベルさんもお洋服、詳しそうですよね。どうです? 今着たいお洋服とかー!」 「そうねぇ、うーん、ミルカちゃんを見てるとサンタさんの格好がしたくなるわぁ。今年はほとんどできなかったしぃ」 「ふふ、サンタ服は制服ですよー!」 「じゃあアタシもサンタさんになろうかしらぁ?」 カウベルが嘘か本気かそんなことを言いだす。 「あとやっぱり女の子らしい可愛い服も好きなんです。幸せの魔女さんみたいなフリルのついたふわふわな衣装とか!」 「まぁ、きっと似合うわ。そう、サンタの衣装に合わせて赤地に白い縁取りとか。きっと清らかなミルカさんの雰囲気に一滴のエロスを注いで素晴らしいコンビネーションになるのではないかしら」 幸せの魔女は愛を語るように熱烈に支持をした。 「でも華月さんやソアさんみたいな和装にも憧れます。あ、あの良かったらさっき着ていたソアさんの着物? を着せていただけませんか?」 「私の浴衣ですか?」 「はい! 一度着て見たくって!」 「寝間着なので恥ずかしいですが、じゃあ……」 ミルカは「わーい!」と喜んでその場でトナカイの着ぐるみパジャマを脱ぎだす。 「下着はそのままでいいんでしたっけ?」 「わわ、ハイ、その上から着られると思います」 ソアはそう言うと手早く浴衣を着つけてやる。 「きつくないですか?」 「大丈夫でーす!」 「やーん、可愛い可愛いぃー、ねねサクラちゃん写真写真」 「勿論ですとも!」 パシャパシャとシャッターが切られ、ミルカが照れた顔でVサインを作る。 「ねぇねぇ私も着物着てみたいわ、華月ちゃん貸してぇ!」 「ええっコレですか? お風呂上がりで汗すっちゃってないかしら?」 「で、サクラさんはわたくしのネグリジェを着ると宜しいわ。ソアさんはミルカさんの。華月さんはカウベルさんのパジャマを。みんなで交換なんてどうかしら?」 「きゃー楽しそう。素敵ぃ!」 カウベルがぴょんぴょんはしゃぐので、みな布団から立ちあがって服を交換しだす。 「カウベルさん、その逞しいお胸がとても素敵ね。私達お付き合いしてみない?」 言ったのは幸せの魔女ではなく、幸せの魔女になりきって髪をおろしたサクラである。眼鏡も外し、いつもと雰囲気が違う。コスプレモードに入っていた。 「ちょっとその逞しいお胸が苦しいわぁ。なんかちょっとぉ帯の上に載っちゃうのよねぇ」 マイペースな発言のカウベルに着つけた華月が「ごめんなさいっ」と慌てる。 「ふふ、みんな本当に可愛らしいこと。トナカイ姿のソアちゃんなんて……食べちゃいたいぐらい」 そういう幸せの魔女はいつもの服装から一転、牛柄のパジャマ姿で、丁寧に角付のフードまで被っている。サクラがデジカメのシャッターを切る際も、いつもの余裕たっぷりの笑顔で「ドヤッ」といったかんじである。 それぞれきゃっきゃとくっついて写真を撮り合い、「焼き増ししまぁす」のサクラの声にみんな嬉しそうに「お願いしまーす」と声を揃えた。 「さぁさぁ、そろそろお約束のネタにいたしませんか? みなさん」 「お約束って何かしら?」 「勿論、恋の話じゃなくて?」 ひとしきり衣装交換を楽しんだ後、誰から始めたのか簡単にお菓子や飲み物を片づけて、顔を洗って歯磨き。みんないつでも眠れる体制になってから、うつぶせに布団にもぐってから枕を抱えた。 明かりも薄暗く絞って、ちょっとムードが変わる。 「年頃の乙女が経験した恋話は聞き手側にも幸せを招き寄せるのよ。誰が、何処で、誰と、どんな風に、是非とも細かくお聞かせ願いたいわ」 カウベルが年頃に入るかはともかくとして、幸せの魔女はそう言ってうっとりと皆の話を促した。全員が誰から話すのかキョロキョロと目配せし合う。 「みなさん、告白したことありますか?」 サクラがそんな質問で沈黙を破った。 みなの視線が集まり、一瞬だけ表情を作るのを失敗して苦い顔をしてから、慌てたようにサクラは笑って繋げた。 「……私はまだなので皆さんにお知恵を借りたいです!」 そんなサクラの様子に華月がそっと手を伸ばしてサクラの手に触れた。 「わっ!? どうしたんですか、私に告白してくれるんですか? 返事はオッケーです! 勿論ですとも!!」 サクラが手をぎゅっと握り返してきたので、華月は慌てた。サクラが心配になって思わず手を握ってしまったが、スキンシップは苦手なのだ。 「え、きゃっ、違うんだけど。ええと、私は実は告白したことないの。男性が苦手で」 「だから私ですか、GLですね! 分かってもらえて嬉しいです!!」 「きゃーーー!!」 ガバリと布団の上からサクラに襲われ華月は悲鳴を上げた。 「ふふ、華月さんったら照れちゃって…… ……ありがとうございます」 そっとサクラからお礼の言葉が降ってきて、華月は布団の中で思わず赤面してしまい。しばらくそのまま布団から出てこなかった。 「私も告白なんて全然です。そもそも男性の知り合いもまだあまり居なくて……みなさんどうですか? 周りの男性のこと教えてください!」 「男性っていうとぉ、うーん、司書はあんまり思い浮かばないわぁ、ヒルガブちゃんとか! ヒルガブちゃんは手先が器用でぇやさしいわよぉ。あと、ツーリストだとバイト先の店長とかぁ。博物屋って妖しいお店をやっててぇ、ソアちゃんは会った事あるわよね?」 ソアは先ほどから脳裡に浮かぶ、サキの顔に困惑していた。元旅団の彼。 彼の力になりたいと思う、しかしそれは皆の言うような恋愛の話になるのかどうか、ソアにはわからなかった。 「ねぇねぇ、ソアちゃーん。サキくんじゃなくってぇ、店長の話よぉ」 頭の中を読まれたようなカウベルの台詞にソアは顔が熱くなるのを感じる。 「サキさんって誰ですかぁ! ソアさんの好きな人なんです!?」 ミルカが身を乗り出すが、ソアは布団を被ったままフルフル揺れる。 「そ、そんなんじゃないですよぉ。博物屋さんにお世話になってる元旅団のかたで、そのうーん、彼の力にはなりたいとは思うんですが、でもそんな、そんな恋なんて大それたものでは……」 「えー」 ミルカは布団の中にもぐってしまったソアを覗きこむようにしたが、ソアはそのまま布団の口を閉じてしまった。 「ふふふ、窒息しちゃうわよぉ!」 カウベルは朗らかに声をかける。カウベルは自分とサキの関係をどう思っているのだろう?? ソアは頭がグルグルしてきた。熱い。 ――ばっさぁ 「ぷ、ぷはーーーーー???」 ソアは気づくとカウベルに布団を引っぺがされていた。息が苦しくて胸が苦しくて、苦しかった。空気が涼しい。呼吸を忘れていたらしい。 「もぉーみんな可愛いんだからぁー。恋なんて、ぱぁーっとしてぽぉーっとして、バーンで、どーんよぉ!」 「カウベルさん年長者として、もう少し詳しく」 「あらあら、私はカウベルさんの言うことが分かる気がするわね?」 ソアに優しく布団をかけ直してあげながらカウベルが言う。サクラが伺うように食いつき、幸せの魔女がカウベルへ同意するように頷いた。 「どーんって、爆発ですかぁ? かっこいいお兄さんの話はどこにいったんですかぁ?」 「ミルカさん、それは違うんじゃないかしら? というか、眠いのでしょう? 眠いなら先に寝ちゃってもいいのよ?」 「やだぁーまだお話聞くですぅー」 ミルカが目をこすりながら頬を膨らますので、華月は笑った。 「はいはい、そうねもっとお話しましょう」 「幸せの魔女さんの恋の話はどうですかー? GLなんですか? GL??」 「魔女の恋愛なんて性別種族関係無くてよ! ようは私が幸せならいいの」 「きゃー無差別! うーん総受けというよりは総攻めですね! 幸せ攻め! 私も幸せにしてもらっちゃおうかなぁー」 「ひゅーひゅー! カップル成立ぅ? 応援するわぁ!」 「あ、ちょっと冗談です、きゃーどこ触ってるんですか魔女さん!?」 「えーどこ触ってるんですか?」 「ミルカさん、見ちゃダメ」 「Zzz……」 静かな寝息が聞こえて、ん、と皆がソアの方を確認する。 朝から家の掃除や布団干し、食べ物の準備と張り切っていたソアは、一番初めに眠りについてしまったようだ。 「みなさん、これからは小声で……」 サクラが声をひそめるのに、皆大きく頷いたけれど、静かになってから一人、また一人と眠りの世界に引きづり込まれていってしまう。 最後まで目を覚ましていたのは華月だ。 みなの穏やかな寝顔を確認して、部屋の明かりを最小まで落とした。 「おやすみなさい」 静かに微笑んで布団にもぐりこむ。 ************* 「ソアちゃん、ソアちゃん」 遠慮がちに自分の名前を呼ぶ声で、ソアは目覚めた。 「ごめんね、ちょっと先に帰らないといけない用事ができて。まだ皆眠っているのだけど……」 カウベルは既にパジャマから普段着に着替え、ソアの枕元にしゃがみこんでいた。 ソアの頭が突然覚醒する。 「鍵、ですね、わかりましたわかりました。あの、でもちょっとだけ待っていただけますか!」 「勿論よぉ、寝てるとこに本当ゴメンねぇ」 カウベルがそう言って手を合わせるのに、畏まりながらソアは慌てて別室から包みを一つ持ってくる。 「足元暗いですけど、気をつけて」 そう言って、ソアはカウベルの手を引いて、玄関まで連れていった。 カウベルは一人ひとりの寝顔や寝像を嬉しそうに眺めている。 幸せの魔女は幸せそうにサクラの布団に入りこんでいたし、華月もまたサクラの手を握ったまま寝ている。サクラはモテモテだ。 ミルカは枕を両手で抱えて眠っている。普段はぬいぐるみでも抱いて眠っているのだろうか? 「お泊り楽しかったわぁ。ありがとうね。サクラちゃんにも幹事ありがとうって伝えておいてくれるぅ? あ、でも後でメールもしようかな」 そんな事を言うカウベルに、ソアはドキドキしながら切りだした。 「カウベルさん、帰ってきてくれてありがとうございます。おかえりなさい。 あの、これ遅くなってしまったんですが、クリスマスプレゼントなんです」 カウベルは目を大きく開いて驚いた顔をした。 そしてソアの大好きな笑顔で「ありがとう」と言った。 「来た時よりも美しくです!大量製造したゴミは持ち帰ります!」 サクラが顔を洗ってシャキッとした表情で敬礼のポーズをした。 みんなでゴミはゴミ袋へ。 「帰るまでがお泊り会ですー!」 『はーい』 目覚めたらサクラの布団に入りこんでいた華月は朝からずっと謝りっぱなしだったが、今は皆と声を揃えてサクラの声かけに返した。 随分、みんなと気安く話せるようになった。「少しでも人と会話する事、一緒に過ごす事に慣れよう」という目標は達成できたようだ。自然と顔がほころぶ。 ソアが眠ってしまった後、続くように眠ってしまったミルカは幸せの魔女に「あの後、何を話していたの?」と何度も聞いて「ふふふ」と妖しい笑いにあしらわれている。 実のところ、うつらうつらとしていたので話なんて覚えてない幸せの魔女だが、ミルカが食いついてくるところが可愛らしくて仕方がない彼女だ。 皆の楽しそうな姿を見て、それからカウベルの笑顔を思い出して。 ――また、お泊り会がしたいな。 と、ソアは満ち足りた気持ちになるのだった。 後日焼き増しされた写真とともに、幸せな記憶はずっと、皆の中に。 (終)
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