クリエイター天音みゆ(weys1093)
管理番号1558-27277 オファー日2014-01-27(月) 23:45

オファーPC 華月(cade5246)ツーリスト 女 16歳 土御門の華

<ノベル>

 左大臣家嫡男、藤原鷹頼に伴侶として望まれる形で華月が夢浮橋へと帰属してから半年。華月は漸く土御門邸への引っ越しを終え、数カ月前にすでに居を移していた鷹頼との同居が始まった。この国は何をするにしても占いで吉日や方角を選ぶのがややまどろっこしくも感じたが、どこの世界でも凶事を避けようとすることは大なり小なりあったため、それを考えると上手く付き合っていけばなんとか慣れることが出来そうだった。

 この半年の間に暁王朝でも、そして華月の身辺でも色々な変化があった。本格的に帝が代替わりし、それに付随して夢幻の宮が御所に召される機会が格段に増えた。本格的に鷹頼と同居するにあたりこの国での妻としての仕事を教えて貰いたかったし、夢幻の宮もそのつもりだったようだが、さすがに国事を放り出すわけにはいかない。それでも可能な限り一日に一度はわずかでも『家族三人』で過ごす時間を持ってくれたのはありがたかった。
 花橘殿を出る日までは女房頭の和泉による花嫁修業を受けながら引っ越しの準備をしたり、この世界の知識や教養について学んだり、鷹頼を迎えて過ごしたりと充実した時間を過ごすことが出来たと思う。
 出立の日、荷物を載せた荷車を先に出して、土御門から迎えに訪れた牛車へと乗り込む。父と母と、和泉を始めとした花橘殿の女房たちに見送られて華月は花橘殿を出た。けれどもここはいつでも帰ってこられる場所。華月の居場所の一つであることには変わりはない。


「お方さま、用意が整いました」
「今行くわ」
 露顕の際に父から貰った花を植えた庭の一部に手ずから柄杓で水を遣っていた華月を呼びに来たのは、花橘殿から連れてきた女房だ。彼女は以前、華月が花橘殿で鷹頼の文を待っていた時に火を持ってきて、「きっと間もなくですよ」と華月を励ましてくれた近い年頃の女房だ。名を白波という。
 土御門邸の女房は鷹頼が左大臣邸から連れてきた女房が六割、華月が花橘殿から連れてきた女房が三割、新しく雇った女房が一割。そのすべてを取り仕切るのが北の方たる華月の役目の一つである。指示を出して人を使うということにまだ慣れぬ面もあったが、鷹頼の配慮で華月の側には花橘殿からきた女房を多く配置してもらっているため、徐々に慣れていくことが出来るだろう。
「わ……凄い量ね」
 几帳ので囲まれた部屋の内側を見やると、数人の女房がすでに待機をしていた。そして広げられているのは沢山の種類の布地。華月が教えてもらいつつ自分で染めたものもあるが、左大臣家や花橘殿から送られてきたものもある。
「これ、花橘殿から? 染めたのお母様でしょう?」
 そっと手を伸ばすと夏用の風通しのいい生地の感触。太陽を凝らせたような色は、母が好んで父のために染める色だ。
「これをお使いになりますか?」
「そうね……やっぱり自分の染めたのにするわ。染め物も裁縫もまだまだだから……」
 上質な布を使って失敗しては申し訳が立たないから、自分が染めたものにしよう、人に着てもらえる出来になるかはわからないから――華月はそう思ったが、実際問題として彼女の技術は練習を重ねれば重ねるほど上達していった。元々手先が器用だということもあるし、何より鷹頼のために上達しようという意志があるからだ。
 女房たちに仕立てを教わりながら、他愛のない会話をしつつの作業。和やかな時間が、彼女を更にこの世界へと溶けこませていく。


 *


「あの、お方さま」
「?」
 裁縫を切り上げて渡殿を移動していると、控えめな声で呼び止められた。振り返れば新しく雇った若い女房が数人、何か言いたそうにして立っている。
「なにか困ったことでも?」
「いえ、その」
 顔を見合わせて言い淀む女房たち。何かあったのだろうか、華月が優しく問おうとすると、そのうち一人が思い切って口を開いた。
「あの、次にあれをなさるのは、いつ頃でしょうか?」
「?」
「銀色の、でございます」
「ああ」
 そこまで言われて漸く理解が出来た。華月の特技の一つ、銀細工作りのことだ。鷹頼や華月の指にはめられている指輪は勿論、華月が手がけたいくつかの銀細工物を見せると、女房たちは目を輝かせたのだった。元々美しいものが好きな女性達だ、しかもそれが自らの主が創りだしたものだというのだから、盛り上がるのは自然なことだ。
「お方さまの指先から素晴らしき細工物が出来上がるさまを、また見せていただきたいのです」
「決して邪魔はいたしませんからっ」
「あなた達、図々しいですよ」
 白波が女房たちを諌めるのを手で制し、華月は微笑む。
「いいのよ。興味を持ってくれて嬉しいわ。今日はまだ時間があるから、今からやりましょうか」
「お方さま、甘やかしては……」
「いいの。だって私も嬉しいのだもの」
 先輩女房として新人女房たちを諌めていた白波はため息を付いて。それでも「私も参加させていただきます」と決まりが悪そうにいうところを見ると、彼女も興味があったのだろう。
 女房たちと共に廊下を行く。以前の自分からは考えられなかった。こうして人に囲まれて過ごしている自分の姿なんて。人との間に溝を作って孤立しがちだった自分が今の自分を見たらなんと言うだろう。
 生まれ変わったみたいね――そう言うかもしれない。


 銀粘土をこねていると、記憶が刺激されて様々なことが思い出される。今まで銀細工をプレゼントした人たちの顔が、浮かぶ。
(ヴァネッサさん)
 中でも気になるのは、あの、不器用な淑女のこと。確実に約束の言葉をかわしたわけではないけれど、いつか、いつの日か、彼女が会いに来てくれることを楽しみに待っている。
(そうね)
 今日作るのは、いつか彼女が訪ねてきてくれた時にプレゼントするための物にしよう、そう、決めた。


 *


 力尽きて褥にしどけなく寝転んでいる華月の柔肌を、鷹頼はその長い指で愛撫する。優しく触れられるたびに華月の口からは、言葉にならない吐息が漏れた。すでに達した華月だったが、敏感になっている身体は鷹頼の求めに応じるように刺激をむさぼる。
「た、かよりさ……だ、め」
 これ以上睦み合っていては、朝起きれなくなってしまう。鷹頼は早朝から出仕だし、華月はそんな彼の身支度を整えて送り出さねばならない。それなのに鷹頼は、唇やら舌先やら指先で華月を翻弄することをやめないのだ。
「明日は休みだ」
「えっ……?」
「だから、久々にゆっくり寝ていよう。そして目が覚めたら、少し出かけないか?」
 組み敷かれるように見下されたまま、魅力的な提案がなされる。愛撫の連続によってぼんやりとしていた華月の耳にも、それは魅力を持って響いた。
「出かけたい、わっ……! でもそれなら、もう」
 ならば今日はもうゆっくり休みましょう、そんな意味を持った華月の言葉は彼の唇によって封じられる。さやかな抵抗も、甘い舌使いによって蕩ける。
「今宵は寝かさない……と言ったら?」
 蝋燭の灯は遠くに一つ。薄闇の中ですでに目は慣れていて。いたずらっぽく笑った彼の表情もつぶさに見て取れた。
「そんなっ……」
 もうすでに月は空高く輝いている。庭の虫達と見張りの者くらいしか起きてはいない時間だ。華月は困り果てたように声を上げたが、そこには絶望は含まれていない。むしろ嬉しさや愛おしさと戸惑いが入り交じっている。
 鷹頼もそれをわかっているのか、返事を待たずに鎖骨に唇を落とした。その唇は乳房を伝い、下腹部に降りていく。
「あっ……んっ」
 長い指先で刺激され、かき混ぜられるようにされると頭の芯が熱くなって意識が曖昧になってゆく。
 甘い刺激が身体を貫き、華月は鷹頼の背を掻き抱いた。足の先から募り来る快感の波に恐怖を覚え、思わずその広い背中に爪を立てる。


 ――!


 白濁して遠くなりゆく意識の端で、愛しいあの人が、甘い声で名を呼んでくれたことまでは覚えている。


 *


 不快感を帯びない気だるさが全身を支配していて、瞼を押し上げるのも億劫だった。だが庭からは小鳥の鳴き声が聞こえる。朝なのだ。起きなくてはならない。自分に言い聞かせて重い瞼を押し上げる。
「?」
 ぼやけた視界で見るいつもの光景が、なんだか違う気がして。2.3度瞬いてみると、その違和感が明らかになった。
「たっ……」
「おはよう、華月」
 隣で眠っているはずの鷹頼の黒い瞳が至近距離で自分を見つめていて、思わず飛び上がりそうになった。最初の頃こそ鷹頼より先に目覚めて彼の支度の準備をするというのは難しかったものの、ここ数ヶ月はそれにも慣れてきたところだったのだ。
「起きてたの?」
「ああ。お前の寝顔が見たくて」
 向い合って横になっている華月の頬に、鷹頼の大きな手が優しく触れる。
「恥ずかしいわ……」
 そう言いつつも、心地よい幸せを感じるこの時間がずっと続けばいい、そう願うのであった。


 *


 久々にロストナンバー時代に着ていた服に袖を通した。馬に乗って出かけるから動きやすい服装がいいと言われたからだ。
「懐かしいな」
「ええ。二度目に逢った時、こうして馬に乗せてもらったわ」
 鷹頼の前に座り、抱かれるようにして馬に同乗する。あの時と違うのは、華月が頭に衣を被いていること。理由を問えば「お前の顔を知らない男に見せてやる理由がない」と言われてしまって。少し驚いたもののなんだか嬉しい。
 華月を乗せているからだろう、無闇に飛ばすことはせず、危険のない速度で馬を走らせる鷹頼。何かあると困るからと家令がついてきたが、彼らは気を使って二人の乗る馬を見失わない程度に離れてくれている。
(都の外だわ)
 衣の下からそっと外の様子を覗く。都を出た馬は、一体どこへ向かっているのだろうか?
 だが恐怖心はない。鷹頼が自分を変な所へ連れて行くはずがないと信じているからだ。鷹頼に任せておけば、間違いないと。
 蹄が乾いた土を踏む音から草を踏みしめる音に変わった。顔を上げると視界にはたくさんの木々が。どうやら木々の間に出来た道を走っているようだった。
(どこに行くのかしら)
 都を出てからそれなりの距離を走った気がした。ふと疑問を覚えたのを見透かしたかのように、鷹頼の声が降ってくる。
「あと少しだ。暑いか?」
 心配そうな声に華月は首を振った。確かに今は夏であるがこの世界の夏は比較的過ごしやすい。衣を被いていても暑すぎるということはなかった。だが少し胸のあたりが苦しいというか、胃の辺りがぐるぐるする感覚があるのは、馬の揺れに酔ったせいかもしれない。
 しばらくして、馬が止まった。
「華月」
 名を呼ばれて被っていた衣を外されると、一気に視界が開けた。
「っ!」
 目の前に広がるのは青い海、白い飛沫がはじけ飛ぶ。涼しい海風が、温まった華月の頬を撫でていく。
「……海」
「ああ。森を越えねばならぬから、あまり人は来ないのだがな」
 寄せては返す波が、耳朶をくすぐるよう。
「綺麗」
「ああ。一度、この海を見せたかった」
 透き通った水は底まで見通せそうで。ちらちらと影を見せるのは魚だろうか。きらきらと太陽に輝く波が、二人を歓迎しているようだ。
「暁京の貴族の女達は無闇に外に出ないこと、異性に素顔を見せないことを美徳としているが……俺はこうして素敵な景色は共に見たいし、共に色々な場所に出かけたいと思っている」
 ただ、無闇に男に顔を見せないのは賛成だ、と鷹頼がいたずらっぽく付け加えたものだから、華月も思わず吹き出してしまった。
「私も、ただお屋敷の中で大切にされているだけというのは嫌だわ。勿論、妻としての御役目はきちんと果たした上でのことよ。私も、出来るならば鷹頼さんと同じものが見たいわ」
 抱き上げられるようにして馬から降ろされる。砂浜に足をついた時に少しよろめいたが、支えられて大事には至らなかった。
「結構長い間馬に乗っていたからな。少し休むか」
 岩場に腰を下ろし、二人で浅瀬に足を下ろす。透き通った水が冷たくて、心地いい。戯れにぱしゃぱしゃと足を揺らして飛沫を上げる華月を、鷹頼は優しい瞳で見つめていた。
「……!」
 突然、座っているのに激しい目眩に襲われて華月は身体を折った。遠くに彼の声が聞こえる。強い腕で抱きとめられた後の記憶はなかった。


 次に華月が目を覚ますと、そこは土御門の自室だった。
 おめでとうございます、告げられた言葉の意味がわかるまで、しばしの時を要したのである。




   【了】

クリエイターコメントこのたびはオファーありがとうございました。
おまたせしてしまい申し訳ありませんでした。
帰属後のお話ということで、お任せしていただき、ありがとうございます。
とてもとても楽しく書かせていただきました!
お約束の、字数が足らない現象で細々と削らせていただきましたが……いかがだったでしょうか。
正直、書き足りないです(笑)

楽しんでいただければ幸いです。
重ねてになりますが、オファーありがとうございました。
公開日時2014-02-21(金) 22:20

 

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