そこは人々の暮らす村からそう遠くない所にあった。 青々とした緑に囲まれた豊かな森。木漏れ日は優しく、横になって目を瞑れば夢に体を任せてしまいそうな場所で、近辺には良質な茶葉と香草が生えている。 この茶葉で淹れるお茶は村の名産品のひとつで、遠くから足を伸ばして堪能しに来る愛好家も多いのだという。 香草もそれを使ったパンが人気で、お茶と一緒に売られているのもよく目にする。 茶葉と香草は1年を通して採取出来、そのため人がこの森へ入ってくることもそう途絶えない。 中には近場にキャンプを構え、そこを拠点に採取に励む者も居るくらいだ。 そんなある日、穏やかだったその場所で「よくないもの」が生まれた。●「茶葉と香草の採れる森?」 ジャルス・ミュンティは先ほど世界司書から手渡された資料に目を通す。 文面からでもなかなかに良い森だということが分かったが、そこで生まれたもの……退治対象を目にし、閉口した。「なんじゃどうした、どれどれ。……カマキリ……?」 何事かと覗き込んだジュリエッタ・凛・アヴェルリーノが眉を寄せる。 資料にはこうあった。・カマキリ型の化け物 数日前に生まれたばかりの化け物 元は普通のカマキリだが、竜刻を取り込み変質・巨大化している 非常に凶暴かつ攻撃的。鋭い鎌と化した腕が4本あり、それを振り回して攻撃してくる 翅を振動させることで衝撃波を起こすことが可能 口から吐き出される毒霧は吸い込めば確実に体力が削られるため注意「本当、竜刻はなんでも変質させちゃうんだな……」「しかし一体だけのようです……皆で力を合わせれば、早期段階で討伐出来そうです」 坂上 健の隣から資料に目を通していたノラ・グースが言う。 早くに決着を付けられる可能性は世界司書も分かっていたようで、敵の情報の他に森の楽しみ方まで書いてあった。「採れたての茶葉が一番美味しいみたいだね、少し気になるかもしれない……」 味を想像するシューラ。それは尻尾をゆらゆらとさせたリジョルも同じだった。「倒した後、時間が残っていればこれらを楽しむことも可能か。……リジョルは飲んでみたいな、皆は?」 合わさる頷き。やっぱり美味しいものは気になる。「ここで採れる香草とブレンドすると更に美味しいらしいです。これは――」 ジャルスが皆の顔を見て、一言。「――行くしかありません、ね!」=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>ジャルス・ミュンティ(cwrs6658)坂上 健(czzp3547)ノラ・グース(cxmv1112)シューラ(cvdb2044)ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノ(cppx6659)リジョル(cvdp7345)=========
緑豊かな森の中、すでに鼻腔をくすぐる香りに顔を綻ばせながらジュリエッタ・凛・アヴェルリーノは5人を振り返って微笑んだ。 「うむ、よい香りじゃ。茶会が楽しみじゃな!」 「おっちゃかい、おっちゃかい♪」 ノラ・グースが軽快な足取りでスキップしながら耳を揺らす。 お待ちかねのお茶会の前にやるべき事があるのはわかっているが、浮かれてしまう気持ちを抑えろというのが無理な話。心の中ではすでに席についているノラはうきうきと道を進む。 「お茶会、ジャルスも楽しみ?」 「ええ。お茶が好きなもので、茶葉と香草には非常に興味が御座います」 リジョルの円らな瞳を見つつ、ジャルス・ミュンティが頷く。 ジャルスにとってお茶はとても好きな趣味のひとつだ。淹れ方を少し変えるだけで味は変化を見せてくれるし、茶葉も種類が豊富で飲むのも選ぶのも飽きない。それに味も香りも楽しめるところが気に入っていた。 一方リジョルもそんなお茶を楽しみにしていたが、彼の関心は「甘いもの」にも向いていた。 お茶会といえば甘いものを一緒に連想したし、荷物の中には角砂糖がたっぷりと入った大きめのシュガーポットが出番を待っている。それもあと少しで活躍するだろう。 シューラには二つの姿、男の姿と女の姿があった。 特殊能力たるそれを自由にコントロールすることが出来るが、性別に関しては無頓着なため、どうしてもその性別でないといけないという場合以外は大抵なんとなく決めている。今回は女性の姿でヴォロスへと降り立っていた。 「もうそろそろかな……さて、どんなのだろうね。楽しみだ」 今回のお仕事は茶葉と香草のため。村はついでだったりする。 「この辺りだな、みんな一旦止まってくれ」 ジュリエッタの隣を歩いていた坂上 健が片腕を上げ、足を止める。 ふわり……と健のセクタン・ポッポとジュリエッタのセクタン・マルゲリータが空へと舞い上がった。 「サポートを頼んだぞ、マルゲリータ」 応えるようにマルゲリータが円を描く。視野を共有し眼下を見下ろすと、青々とした木が見えた。さすがは森、地上の様子をここから見るのは少し難しい。 2人は2羽の高度を下げ、周りが一番よく見える木の枝に留まらせた。 「近くに居るね」 森に入った時から神秘魔術「魔力探知」を発動させていたリジョルが言う。カマキリは最初に位置を把握した時から動いてはいない。 ということは―― がさり、と茂みが揺れる。 「!」 「お出ましか……」 最初に現れたのは鎌。茂みを縦に割るように出てきた4本の鎌の向こうから、真っ赤な攻撃色に染まった複眼が続いて現れる。 情報通り切れ味の鋭そうな鎌だ。体も2メートルは軽く超えている。この様子だと体重もなかなかのものなのではないだろうか。 キチリ、と口が左右に動いた。 「避けろ、ジュリエッタ!」 健の声に弾かれたようにジュリエッタが後方へと飛び退く。その目の前で毒霧がぶわっと広がった。 「やる気満々じゃな!」 「これを使って。あとシューラも」 2人に持参したガスマスクを渡し、自分も着けると健は申し訳なさそうな顔を他の仲間に向けた。 「すまん、ガスマスクが人間用しかなかったんだ。他の面子は自力でどうにかしてくれ」 「ノラ、防ぐ策があるのですっ」 尻尾をビッと立て、杖を横に一閃。 「みんなを守るのです、アイスウォール!」 召喚された氷の壁が毒霧を跳ね返す。その壁に傷をつけたのは霧の向こうから突進してきたカマキリの鎌。白い傷を壁に残した後、獲物ではないと気が付き距離を取ろうとする。 しかしそれをジャルスは許さなかった。 カマキリの腹に矢が突き立つ。それにより出来た隙を狙ってジャルスのハルバードが重力に後押しされながら振り下ろされた。 『ギッ……!』 カマキリは体液を撒き散らしながら鎌で応戦する。 しかし4本の鎌を同時に相手にするのは不利だ。そう考え初めから受ける気のないジャルスはすぐさま後ろへ身を引き、避け切れなかった分だけハルバードの柄で横へと流す。 ジュリエッタはすでに近接向きの自分が主力になるのは危険だと判断していた。複眼の視野の広さは知っている。先ほどのように隙を作らなくてはすぐさま察知されるだろうし、察知されれば100%の攻撃を当てるのも難しくなる。 だからこそ、人任せになってしまうのは申し訳なかったが、ジュリエッタは仲間のサポートに回ることにしたのだ。 「右の鎌が速い! 後ろへ引くんじゃっ!」 マルゲリータと共有された視界からはカマキリの動きが細部までよくわかった。 ジュリエッタの指示を受けながらカマキリを囲むように戦闘が展開される。 ヴゥン…… 低い音がした。 「……これは」 それが衝撃波の前触れだと気が付いたシューラがメイスを高く振り上げる。 緑色と茶褐色の翅から驚くような振動が放たれたのと同時にメイスが地面を突き、轟音と共に空気を振動させ、カマキリの衝撃波を相殺した。 (自分はサポートでいいんだ) ジュリエッタを見ても分かる通り、戦闘での援護は大切な意味を持つ。 それに――そう、ここで本性を現す訳にもいかないだろう。 相殺に戸惑うカマキリ。その隙を突き、走って距離を詰めた健がトンファーの強烈な一撃を食らわせる。 「ナイス、シューラ! 近接は任せろ、うおおぉぉぉッ! トンファーは近接最強だぜ!!」 一撃、ニ撃と叩き込み、ポッポの視界も頼りにしながらタイミングを見計らう。……今だ、と本能的に感じた瞬間、トンファーが腕の関節部分へと吸い込まれるようにヒットした。 想像を絶する威力により関節は折れ曲がり、引き千切れ、光を反射しながら鎌が宙を舞う。そのまま木の幹に突き刺さった。 触角を動かしカマキリは残った腕で健を切り付ける。しかしカマキリが予想していたほど肉を裂く感触はなく、赤い色もさほど見えなかった。 「その鎌は本当に鋭利だからね。ジパング・ブレード並みとは言わないけれど」 リジョルが毛のない尻尾を緩く動かしながら一言。 「……だから少し切れ味を悪くさせてもらったよ」 変性魔術「鈍らの刃」 刃物に属するものの切れ味を低下させる呪詛である。 この化け物相手にどれほど継続するかはわからないが、カマキリにとって痛手になるのは確実だろう。 牽制しながら破壊魔術「追い風」で毒霧を仲間とは逆方向へと吹き飛ばし、リジョルは今にもまた震えそうな翅を見遣る。あれの切断は誰かに任せた方がいいだろうか。 『ギイイイィ!!』 再び衝撃波。シューラがそれを相殺する間にノラを斬りつける。はらりと柔らかな毛が舞った。 「ノラ!」 「ジュリエッタも危ないっ」 ノラが攻撃されたことにより円陣が崩れ、そこから飛び出したカマキリが後方に位置していたジュリエッタを襲った。 その間に割り込んだ健とジャルスがそれぞれ別の鎌を弾き飛ばす。 「――ふひっ」 「ノ、ノラ……?」 傷の様子を見ようと視線をやったジャルスが首を傾げる。思わず呼び掛けたくなるような笑い声が聞こえたような気がするが……。 「ふひひ、ノラを苛めるなんて酷いのですー」 気のせいじゃなかった。笑っているのに目が怖い。 カンテラを翳すと顔が照らされ余計に怖くなった。 「めらめらなのですー」 カンテラの能力により炎が強化されたフレアカイザーがカマキリを襲う。突如現れた火柱はカマキリの足や胴を爆ぜさせ、周囲の草も円状に焦がした。 戦闘の途中までは森を燃やしたくはないと抑えていたのだが……キレたノラは恐ろしいのである。 ぼろぼろになりながらも開かれた翅にリジョルの幻惑魔術「蜂の毒針」が飛ぶ。ぴたりと止まったそれにジャルスのハルバードが食い込んだ。 地面に落ちる翅。剥き出しになった柔らかな部分へとジュリエッタの小脇差が突き刺さり、パリッ、と固い音が聞こえた。 小脇差が避雷針代わりとなり、雷をカマキリの体へと直接伝える。 『――――ッ!!!』 断末魔を上げる間もなく、ぶすぶすと黒い煙を上げながらカマキリが倒れ、地面を揺らした。 ● 気が付くとカマキリの体は砂のように崩れ去り、その真ん中に竜刻だけがぽつんと残っていた。 まだほんのりと温かいそれを手に取り、健が封印のタグを慎重に貼る。そのままリジョルが用意した竜刻用の革袋へと入れた。これでひとまず安心だ。 「お疲れさまです、さて……見晴らしの良いところを探して、準備を始めましょうか」 そう言葉の端に嬉しさを滲ませつつジャルスが言った。 丘になった場所にテーブルとイスを並べ、近くの川で手を洗ってから準備を始める。 ちなみに戦闘で受けた傷は軽傷ばかりだったため、包帯と絆創膏でなんとかなった。 リジョルが取り出したのはマイカップとマイポット。使い慣れたそれをテーブルの上に置き、隣にシュガーポットを添える。最後にヤカンを取り出した。 健は使い終えたガスマスクをしまい、コンデンスミルクや蜂蜜のチューブを並べてゆく。パンとソーセージは白い皿の上に置き、その横に綺麗な水入りのボトルを数本。他にも役立ちそうな道具をリュックに詰めてきたが、そのせいでとても重かったのは内緒だ。 ゴミ袋に重石をのせて飛ばないように固定し、何かあればここへ捨てるよう声をかけていく。 ジャルスにも愛用のポットとカップの一式があった。愛着のあるものを使って飲むお茶の美味しさを思い返しながらそれらを丁寧に並べ、風にのって漂ってくる良い香りに目を細める。 ノラの持ってきたカップはこの中では特に可愛らしいもので、丸っこいフォルムがころころとしていて愛らしい。 柄は猫と蜜柑がごっちゃになったもの。この可愛らしさも目を引く。 「さてと……」 シューラが腕まくりし、ポケットから文字の書かれた紙を取り出した。 テーブルを組み合わせた簡易キッチンに向かいつつそれを改めて読む。 少し前のこと、シューラはここへ赴く前に村へと足を運んでいた。目指すは食材を扱っている店か、お喋りが好きそうな村人探し。 目当ての情報は最初に入った店で仕入れることが出来た。 紙に書かれたタイトルにはこうある。 「美味しい香草クッキーの作り方」……と。 それを物珍しそうな顔で覗き込みながら、ジュリエッタが摘んできた茶葉と香草をカゴに入れて置いた。 「クッキーか、美味しそうじゃのう!」 「ちょっとばかり簡単なものになるけれどね。本格的なのはいつか作ってみたいなぁ」 香草を軽く洗って小さく刻みつつ、生地作りも同時に行ってゆく。 そんなシューラの様子を眺めていたジュリエッタだったが、はっと我に返って自分の準備をし始めた。 「そっちは何を?」 「茶の準備は男性陣に任せたからのう、わたくしはこれじゃ」 瓶に入った赤いものを見せ、何だと思う、と問うてみる。 シューラはしばらく瓶を見つめて考えた後、瓶の中の粒に気が付いた。 「……トマト?」 「正解じゃ! うちで育てているトマトをソースにしたものじゃな」 自慢げにふたを撫で、続いてパンを取り出す。 よく焼けた、細長い棒のようなパンだった。 「なになに、パンなのですー?」 お茶菓子をせっせと運んでいたノラが見慣れないものに目を輝かせて駆け寄ってくる。お茶会の雰囲気に機嫌はすっかり直ったらしい。 「うむ。壱番世界のイタリアというところのパンでな、グリッシーニというものじゃ」 食感はクラッカーに似ているという。このパンの塩分がソースとよく合うのだ。 摘んできたバジルハーブと一緒にいただこうと思う、とジュリエッタは微笑んだ。 健の持ってきた2個のガスカートリッジバーナーの他、リジョルの魔法も活躍し調理に困ることはなかった。 特に川があるとはいえ丘から近いとは言い難いため、召喚された水やボトルの水は大いに役立った。このままだとバケツを片手に何往復もする破目になっていたかもしれない。 「よし、焦げ目もついてきたしこれくらいかな」 ぱちぱちと爆ぜながら香ばしい匂いを漂わせるソーセージをフライパンから離し、温めておいたパンと一緒にいつでも食べられるようにしておく。 テーブルの上にはジャルスが0世界で選んで買ってきたクッキーやフィナンシェも並んでいた。 フィナンシェには抹茶やショコラなど数種類の味があり、クッキーはデフォルトのセクタンのような形をしている。目でも楽しめる一品というのを気に入って購入したのだ。 「ソーセージも美味しそうですね、これは壱番世界で?」 「ああ、そんなに高いもんじゃないが味は保証するぞ」 「なるほど……それは楽しみです」 ジャルスはほんの少しそわそわとしながらランチョンマットを整えていった。 そうして数十分後。 見事に用意されたお茶会の場。そんな笑顔溢れる場所を食欲をそそる匂いが包んでいる。 「こんな素敵な場所でお茶会を出来るなんて嬉しいのです、ほくほくなのですー」 イスに座って足を揺らしつつノラが笑った。その手にはすでにカップが握られていたりする。 数個あるポットに入っているのは現地の茶葉を使ったお茶、ロストナンバーが持ち込んだお茶、茶葉と香草を合わせたもの。 シューラは例のメモの下に茶葉と香草のブレンド配分を付け加え、それをポケットにしまう。 「さて、それでは――始めましょう!」 ジャルスの一言をみんなの拍手が迎えた。 お茶にはまず何も入れず、ありのままの味を楽しむ。味わい、堪能し、ジャルスはゆっくりと息を吐いた。 そうして一度楽しんだ後、もう一度新たな楽しみを堪能するために砂糖を入れていく。 なるほど、良い茶葉である。香草との相性も驚くほど良い。 「こっちも飲んでみんか?」 「これは……レモンティーですか」 ジャルスはジュリエッタからお茶を注いでもらい、揺れるその表面を眺める。一口含むとさっぱりとした味が口の中に広がった。 「ふむ……仄かなこの香りは、もしやレモングラスでしょうか?」 「そう、ここで摘んだんじゃぞ。市販のものよりよく馴染むじゃろう」 「これはいい。自宅でも楽しむために少し摘んで帰りましょう」 ジャルスの自宅には様々な茶葉や香草が保管されている。それとブレンドするのはきっと楽しいだろう。友人が訪ねてきたらお披露目するのも良いかもしれない。 「……こうしてみんなでお茶をするのは好きだよ。ホッとする」 カップを置き、シューラがぽつりと言う。 仕事というからにはどうしても物騒なことになりがちだが、こうして落ち着いた時間を仲間と過ごすのは悪いものではない。次の依頼に向けて力も出るというものだ。 「ん……? それは?」 ふと向けた視線の先、そこにはリジョルのカップがあった。 「ラプサンスーチョンさ」 「ラプサン……?」 「紅茶好きなら知ってる人も多いね。まあ初心者向けではないけれど、リジョルは好きだよ」 例えるなら煙のような味の紅茶だ。初めて飲む人はこれが本当に紅茶なのかと驚くものだが、リジョルはその味を気に入って愛飲していた。 今回はこれと香草をブレンドして楽しむのだ、とスプーンでかき混ぜる。もちろん角砂糖も忘れない。 「世界には変わったお茶もあるんだな……」 「あとで試してみる?」 えっ、と一瞬固まるシューラ。頷いたかどうかは彼女とリジョルのみぞ知る。 「へえ、これジュリエッタが作ったのか!」 トマトソースとグリッシーニに舌鼓を打つ健にジュリエッタがにこにこと答える。 「うむっ、どうじゃどうじゃ? トマトとバジル、この組み合わせがまた絶妙なのじゃ!」 自信作を褒められちょっと興奮気味のジュリエッタ。心なしか目の色が変わっている気がする。 「うん、美味い!」 身を乗り出し気味のジュリエッタに笑いつつ、健はグッと親指を立ててみせた。 和気藹々としたお茶会。嬉しそうに、楽しそうに尻尾を揺らし、ノラはふと先ほど倒したカマキリのことを思い出す。 (さっきのカマキリさんも、竜刻がなかったらこの辺りでまったりしていたのでしょうか……) むう、と少し表情を翳らせる。 竜刻やその影響のことはよくわかっているつもりだが、やはり悲しいものがあった。 きっと森の生き物も自分たちが駆けつける前に犠牲になっているだろう。こんなに楽しいことを出来る場所なのに、似合わない悲しいことが起こっている。 ならば……。 「……一夜限りですが、皆さんも一緒にどうですか?」 ノラの能力、死火操りでカマキリが、動物たちが制限付きの命を持って蘇った。 今だけみんなで楽しもう。種族も、しがらみも関係なく。青空の下で誰にも邪魔されずに。 だって、ほら―― こんなにも沢山の笑顔と、美味しいものがあるのだから。
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