世界樹が攻めてきたとき、ガルバリュートとアマリリスは、図書館と旅団の両陣営に分かれて戦った。その結果、アマリリスは敗北した。 その二人はコロッセオを訪れている。 翼の将軍は機動騎士を振り返った。「悔いが残ったと言えば否定できない。かけがえのないものも多く失った」「あの日より、よほど良い目をしている」「これは……散っていった者達への手向けだ」 コロッセオのシステムが起動し、あの日の図書館を再現する。 壁と天井を粉砕してバイキング船が大きくせり出しいる。無数の木の葉が舞い、辺り構わず破壊をまき散らしていた。絶え間なく響き渡る爆音。コロッセオの作り出す虚像の中で多くの命が失われた。 割れた黒板を正面に据え、講堂の両端に構える。 噴煙の中に二人は相対した。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>アマリリス・リーゼンブルグ(cbfm8372)ガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロード(cpzt8399)=========
コロッセオはあの崩壊の日の図書館に姿を変えていた。 ひびが入り崩れゆく柱。巻き上がる粉塵。そして、壁を突き破って突入してくるノエル叢雲。 決戦の日と違い、翼の将軍アマリリスは壁から突きだしたバイキング船の船首を見上げていた。衝角すら無い船がこうして強襲してくると言うところに失笑がもれる。 指揮官としていくつもの戦場を渡り歩いた。記憶を掘り返しても旅団ほど出鱈目な軍隊は無かった。 「あれは……烏合の衆だった。……それは図書館側も同じか」 能力様々なロストナンバーの集うここでは戦争組織は機能しない。 軽く関節を伸ばす。 コロッセオが作り出した仮初めの戦場には人の気配がしなかった。 対戦相手のガルバリュートはまだ来ていない。 あの日は、園丁が号を発し、続いてアマリリスも降伏勧告をした。当然、降伏はなされず戦いとなった。 あの時は、裏切り者を演じるのに精一杯であった。殺気が無いことはガルバリュートには看過されていたことだろう。 そして生き残った。 園丁を倒すこともできた。 しかし、灰人は救えなかった。 ばらばらと天井の漆喰が崩れて降ってくる。 視線をアマリリスの立つホールに戻すと、反対側の扉にガルバリュートの巨体が立っていた。 「壱番世界の武の達人は果し合いの地に遅れて現れ相手を焦らせたと云ふ。迷いは晴れたか」 「あいかわらずだな。……君に負けた時、悔しかった」 † 向き合う二人。 その向こうでは叢雲が――世界樹の葉を散らし始めた。 ガルバリュートはその心を告げた。 「我が心は今も姫に仕えている。世界樹旅団が滅んだ今でも望みはある。樹海に潜んでいるやも知れぬ。未だ見ぬ世界群のどこかに、第3のイグシストとやらと共にいるのかも知れぬ。姫の御無事を確認するまで拙者は戦い続ける」 巨漢は柄にも無いことを口にする。 「しかし御託を並べても拙者も今は世界図書館に仕える身、アマリリス殿に三君に仕え騎士に在らずと言った罵倒をお詫びしたい。不慮とはいえ我が道を違え生き永らえている己への怒りを貴殿にぶつけてしまったのであろうな」 「そうか、一見揺らいでいるようなことを口にしながらまったく恥じることが無い。この道が君の姫のために最善だと信じているのだな」 それに対してアマリリスは少し寂しそうな表情を浮かべた。 「私の答えは……」 将軍はつきかけたため息を飲み込んで、陣太刀をゆっくりと抜いた。この太刀・彼岸花は尋常の和式剣術を納めた者には奇異に映るだろう。サーベルのように護拳が付いているのだ。彼女のギアである鈴はその柄頭に結び付けられている。 世界樹の葉の一枚が地に触れ、爆発した。 「君を倒してから教えようっ!!」 刀を振るいつつ鈴を鳴らして、加速の力を身にまとう。対するガルバリュートもスラスターを起動する。 たちまち二人の間合いが縮んだ。 ランスの攻撃圏がせまる。 「おふぅランス!」 アマリリスを貫いたかのように見えた槍は空を彷徨う。彼女の得意の幻術である。 半身ずらした本物の羽将軍は半身になってランスをかいくぐり、鈴の音に強化された右腕は軽々と三尺に及ぶ陣太刀を突剣のごとく構えさせて突進した。 剣線はガルバリュートの胸に収束していったが、機動騎士がロールするとランスの根元がせり上がる。 こすれた刃はランスのラッパを滑り、逸らされた。 † 立ち位置を入れ替えた二人は、しかし、旋回のための軌道にずれが生じ、二撃目は最初とは違う展開を見せた。 変態機動に推力を振っても尚、ガルバリュートは突進力がずば抜けている。 しんしんと降る世界樹の葉をかいくぐる折れ線軌道。 対してアマリリスはランスを受け流しながら、縦横無尽に駆けた。 ホールの天井は高く三次元戦闘家同士全力が出せる。 ガルバリュートが壁を打ち破り突き抜けるごとにステージが広がっていった。 そして、今日は邪魔するものもいない。 ――たぎる。 爆発する葉を突き抜けてガルバリュートが下から突進してくる。 太刀とランスの攻撃線が激しく交錯し火花を散らす。 ガルバリュートはランスをこじらせつつも間合いを維持する為にアマリリスの刀を右手に逸らそうとする。 突き技は内から外に向かってねじりこむが故にその流れに逆らうは難しい、アマリリスはガルバリュートと三度目のすれ違いをしかける。 そして、すれ違いざまに横に力を加え、スラスターを曲げる。 この位置盗りは危険。世界樹の葉のいくつかは幻術で作り出したもの。 ガルバリュートはノエル叢雲の船体に突っ込まされた。 鈍い音共に、堅い世界樹から切り出された木板が割れ、重騎士の半身がめりこんだ。 推進剤が苦しげに噴射されるが、どこか引っかかったのかなかなかに動き出せない。 陣太刀による一撃を見舞おうと接近したアマリリスは、無数の葉に囲まれていることを悟った。 ガルバリュートも交錯しながらスラスターで葉を巻き上げ気流をコントロールしていたのだ。 致命的な葉は互いに連鎖誘爆し、羽の将軍はネズミ花火に捲かれた蛙のようになった。閃光と煙に視界が遮られる。 とっさに羽で自らの全身を覆い魔力を解放させ結界を張った。 世界が揺らぐ。 煙が晴れるにあわせて慎重に幻の煙を重ねて位置を変えるも、それは徒労であった。 圧倒的なバルクを感じると、肩を叩かれた。 「背後を取った」 羽越しに振り返ればサイドチェストの機動騎士。大胸筋をアピールするためかブレストプレートは外されており、素肌が見えた。 そして、広げた翼ごと羽交い締めにされた。 「HAHAHA、これが男女の筋力の違いよ!」 翼が掴まれたあの日の屈辱がよみがえる。 「うおおぉぉ!!」 羽を魔力にくべ、アマリリスの翼は炎に包まれた。そしてガルバリュートが燃やされる。 たまらずか、我慢比べで決着をつけるつもりが無いのか、筋肉自慢はすぐに離れた。 二人が間合いを取ると、バイキング船は二人の間に割って入ってきた。 図書館の崩壊が始まったのだ。 落ちてくる天井をさけてアマリリスは飛びすさった。どうしても精神が高揚する。 「……手加減された。羽を折ろうと思えば折れたはずだ」 いや、模擬戦に熱くなりすぎか。ついつい笑みがこぼれる。 † 図書館の構造物が落下を始める中、二人は再び激しくぶつかり合った。 アマリリスは落下物に幻影をかぶせ。 ガルバリュートは柱を突き破って不意を突く。 お互いに慣れ親しんだ手だ。決着にはつながらない。 そして世界計が破壊される。天空のプリズムが砕け虹の七色が踊る。 カレイドスコープとなった中央閲覧室、天井が抜け落ちて、高い空間となっていた。 急降下するアマリリスからは、瓦礫の底から見上げるガルバリュートが見える。 打ち下ろした突撃はランスを滑り、そして、ガルバリュートをかすめる。 続く引き手は強大な力に阻まれた。 彼岸花の刀身が巨漢の脇に挟まれている。 「うぉぉ」 刀を引く力を転じ、その勢いでけりを放ち重騎士の膝に当たる。 堅い。 躊躇の一瞬に、ランスを手放したこぶしが迫る。 顔面に届く一歩手前で、背の翼が眼前で交差し呵責無き一撃を緩衝させる。それでも衝撃で視界が暗転しかかった。 アマリリスはそのまますっとんでいき、壊れた世界計の残骸につっこんだ。インパクトの瞬間、刀身が自由になったのは幸い。彼岸花はガントレットに引っかかったままであった。 「護拳に救われるとは不覚悟なり。貴殿はより可憐な剣が似合うであろう」 このように護拳があることにより太刀を取り落とすことはなくなるが、組み討ちに転じることが難しくなる。 また半身に構える突剣術には有利だが、手甲と干渉しやすいので両手持ちにはむかない。 もとより、片手剣として使っているアマリリスにとっては灰燕より譲り受けたときより承知していることである。 「それでも君の槍をうけるのには便利なのでね」 降ってくる瓦礫をかいくぐり上昇する。 そして、空中で二人の戦士が相対する。 「私は図書館にも旅団にも仕えてなどいない。私の主は、今は亡きアメリア唯一人だけ。君の姫君と違って……彼女は私が看取った。故郷に戻れる日があっても彼女に会うことは無い」 ――次の一撃で決着をつける。 「なぁに。辛気くさい話しでは無い。彼女の子供達も立派に育った。私は幸せな騎士だ」 アマリリスはガントレットから左手を抜いて、素の手をさらした。これから行う技には精密な操作が必要だからだ。 「私に重い陣太刀は不釣り合いと言ったな。君に彼岸花の真価を見せてやろう」 「よほど良いツラをしている。参られい」 「参る」 正面を向き・上段に構えるのは羽の推進力を最大限にうけるため。 護拳の先端と取り付けられた銀の鈴を握りこんで、左手の人差し指を護拳の端に添え――斬撃とともに引く。 ちりんとギアが音を発っし、アマリリスが加速される。 そして梃子の原理で刀身が振り下ろされる。二段階加速の超高速斬撃。これは刀の作り主の灰燕の世界の術理を取り入れた秘中の一手だ。 刃は空気を切り裂きくさび形の衝撃波を曳く。光の半弧が宙に描かれた。 惜しむらくは、アマリリス重量の軽い小兵であったことだ。そして、飛行しているが故に下方に力の逃げ場が出来てしまっていることだ。 「貴殿の意義や良し。……が、軽い!」 尋常の相手ならば、瞬きする間もなく切り捨てられた斬撃は、パワードスーツの傾斜装甲に食い込み合金層を寸断する。しかし、その下の複合繊維を滑り流れた。剥離した金属片が舞う。 「一切を断ち切る重みに欠ける!」 ガルバリュートの口上は自明の武理である。体勢を崩し死に体となったのは仕掛けたアマリリスの方であった。 機動騎士の左手が陣太刀・彼岸花の柄を掴み、思わず開けてしまった脇に太い右腕が差し込まれた。 巻き込まれ体位が入れ替わる。 ――苦っ!! 離脱するよりも速く、ブースターが点火されジンバルロックに陥る。 そして二人はきりもみ状態となって地面に叩きつけられた。重戦士の下敷きとなったアマリリスはしたたかに頭を打ち付け、力の集中した肩関節が砕ける。 薄れゆく意識の中アマリリスはガルバリュートの勝ち名乗りを聞いた。 「天空一本背負いである」 † 瓦礫の山。 ガルバリュートはどっかりとあぐらをかき。アマリリスは世界計のなれの果てに腰掛けた。治癒の魔法はかけたが、右肩はまだ痛む。 「また負けてしまった。くやしいが、はははっ、楽しかった。今日はありがとう」 「なんの勝負は時の運。それに将軍閣下がいちいち最前線に出るものでも無い。拙者らのような戦士にお任せあれ」 「図書館にいるとなどうにも勘が狂う。率いるべき軍団も無ければ。いるのは有象無象ばかりだからな」 「今度拙者の懇意の所で酌み交わそうぞ! もう一人の軍人の友人も紹介しよう」 「ふふっ、実はな。酒ならここにある」 ノエル叢雲の船倉から二本のぶどう酒が取り出された。数少ない割れずに残ったものだ。 図書館に一礼をして栓を抜く。 グラスは全部割れてしまっているので、ラッパ飲みの廻し飲みをするしか無い。 互いにボトルを掲げ、粉となって舞う世界計の透明に祝福をいただく。 そして、盛大に煽った。 「君は女性への扱いがなってないな」 そう言ってガルバリュートが口をつけたボトルをかっさらい自分のを押しつける。ナラゴニアの酒はうまい。 二人の脳裏には旅団との死闘とそして、砕けていった世界計の残響がよみがえる。 「螺旋の旅の終着点……」 アマリリスは首筋をさすりながらつぶやいた。かつてそこには世界計の破片が埋まっていた。 「……君の姫君はひょっとしたら『螺旋の旅の終着点』で君を待っているのかも知れない。あの灰人の残した言葉だ」
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