オープニング

「ふむ……『大樹の国』ですか……」
 レポートを読みながらヘンリー・ベイフルックは楽しげに瞳を輝かせる。そして、読み進めるうちに、ふと顔を上げ……部屋に入ってきたばかりのロバート・エルトダウンににっこり笑いかけた。
「先ほど、面白いプランを提出してもらいました。これはいかがですか?」

 そのレポートはかつてヴォロスでの依頼へ赴き、現地の老博士から話を聞いてきたジュリエッタ・凛・アヴェルリーノからもたらされた物だった。

 彼がとある国の宰相だった頃に赴いたその国は、大きな木まるまる一本が国となっているという。人々はその木に家を、街を、畑などを作り、所によってはその木の中にも街を作っていた。
 木の上から見る朝日や夕日も絶景だろうし、その国独特の文化や食べ物も期待できる、てっぺんに登れば未知との遭遇もあるかもしれない、と。
 そして、この季節。大樹の葉は赤や黄色、橙など美しく紅葉し、人々の目を楽しませてくれる、ともヴォロスの研究に携わる世界司書の『導きの書』にも情報が上がっていた。

「これはこれで面白そうだ」
ロバートは楽しげに口元を綻ばせると1つ頷いた。そして、早速他の資料を集め始める。

 そして、もたらされるツアーの知らせ。
『ヴォロス 大樹の国シムグルムで秋の休日を……』

 さて、どんな風に過ごそうか……。


=============
!注意!
パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。

品目パーティシナリオ 管理番号3021
クリエイター菊華 伴(wymv2309)
クリエイターコメント菊華です。
という訳で、お届けいたしますは『大樹の国シムルグム』での休日でございます。

『【竜刻はスピカに願う】じーちゃん、メイムに行く』内でカルートゥス博士が語った国ですが、まるまる一本の木が国になっています。それだけ大きな木です。

OP補足
『大樹の国シムルグム』
地上に近い部分はそうでもないが、上へ行くほど気温が低くなっている。但し木の中の街は意外と過ごしやすい(空気の循環がうまく行われている為)。
 木に生えるキノコと木から取れる琥珀が名物。この国で取れるキノコは全て食用になり、琥珀は上質で有名。

 上下にある街の行き来は魔法によるテレポートステーションを使用するか、籠に乗るかのどちらか。有翼種族の人々は飛んでいたりする。
 但し最上階へは途中から大きなキノコの階段を利用して登らなくてはならない。段数にして約3000段。

 流石にすべてを回ることはできません。今回は特に楽しみたいという事を次の選択肢から選び、プレイング冒頭に記載お願いします。

また共に行動する方がいる場合、相手の名前とIDの記載か【チーム名】を作って記載してください。

選択肢
【1】街の散策をする(外側)
【2】街の散策をする(内側)
【3】木のてっぺんまで登ってみる
【4】展望テラスで朝日or夕日を拝む
【5】琥珀探しをする
【6】その他

プレイング期間は10日間となっております。
それではよいご旅行を。

参加者
ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノ(cppx6659)コンダクター 女 16歳 女子大生
川原 撫子(cuee7619)コンダクター 女 21歳 アルバイター兼冒険者見習い?
司馬 ユキノ(ccyp7493)コンダクター 女 20歳 ヴォラース伯爵夫人
吉備 サクラ(cnxm1610)コンダクター 女 18歳 服飾デザイナー志望
ティリクティア(curp9866)ツーリスト 女 10歳 巫女姫
シーアールシー ゼロ(czzf6499)ツーリスト 女 8歳 まどろむこと
ユーウォン(cxtf9831)ツーリスト 男 40歳 運び屋(お届け屋)
ジューン(cbhx5705)ツーリスト その他 24歳 乳母
相沢 優(ctcn6216)コンダクター 男 17歳 大学生
キース・サバイン(cvav6757)ツーリスト 男 17歳 シエラフィの民
坂上 健(czzp3547)コンダクター 男 18歳 覚醒時:武器ヲタク高校生、現在:警察官
仁科 あかり(cedd2724)コンダクター 女 13歳 元中学生兼軋ミ屋店員
ルン(cxrf9613)ツーリスト 女 20歳 バーバリアンの狩人
ホワイトガーデン(cxwu6820)ツーリスト 女 14歳 作家
ロナルド・バロウズ(cnby9678)ツーリスト 男 41歳 楽団員
ルサンチマン(cspc9011)ツーリスト 女 27歳 悪魔の従者

ノベル

起:木の上と中に溢れる賑わいを

 ――ヴォロス・シムルグム

 ヴォロスのどこかに存在する、とてつもなく巨大な木。秋も深くなったその日、ロストナンバー達がそこを訪れると、一瞬空が金色に輝いたように見えた。伸ばされた枝に茂る葉は黄色や赤、橙に染まり、それは見事な光景だった。合間合間に青空や青葉もあり、宛ら空の上に織る錦のようにも思えた。
『大樹の国・シムルグム
 その昔、竜がいた時代に住み始めたと伝えられているこの国はとても質の良い琥珀やきのこを産出し、近隣の国々でも有名である。
 白鳳族の王により代々纏められ、人々は木の中や枝に街を作って生活をしている。そして秋になると葉が紅葉し、それは見事な光景を見せてくれる』
 かつてここを訪れた元ジェミューズ国宰相、カルートゥス・フォセスの手記にはそう書かれていた。そして、もっとも見頃となった日に訪れたロストナンバーたちは、陽光を浴びて宝石のように煌く木の葉に感嘆の息を漏らし、早速思い思いに散らばっていく。籠にのって登る者、自分の翼で飛ぶものと色々だったが、大樹の国への期待に瞳を輝かせるのはみな同じだった。

 ――シムルグム:幹中街

 この国は太い木の枝にある『枝上街』と幹の中にある『幹中街』の2種類に分かれる。その内、『枝上街』は比較的観光に力を入れている。特に秋の季節になると、毎日何かしらのイベントが開催されているらしい。
 一方『幹中街』は生活の場であるらしい。しかし大通りには市場が広がっていたり、屋台が並んでいる。
 屋台村できのこ料理などを食べ歩きしながら、相沢 優とキース・サバインは並んで町並みを眺めていた。ふと、優が傍らのキースを見上げれば、獅子の頭上にはヴォロスの真理数がちらついている。先日赴いた依頼が切欠で発生したソレと、それに至る出来事を思い出しながら、優は僅かに瞳を細めた。
 暫くしてきのこたっぷりのクラムチャウダーを休憩所のテーブルで食べる。そこで話題になったのは帰属に関する事だった。キースは帰属の準備も兼ねてここを訪れていたのだ。
「そういえば、優君は帰属についてどう考えているのかなぁ?」
「俺、ですか?」
 優はキースの問いに、柔らかい笑みを浮かべる。しかし、その目には確固たる決意が宿っている。
「それは、壱番世界を救ってからですね」
「そっかぁ……優しいねぇ」
 優の傍らでは、フォックスタンのタイムが胸を張って頷く。そんな様子にキースは金色の瞳を細めて頷くが優の笑顔に何かを覚え……少し心配になる。眼前のコンダクターに彼は穏やかな声で言葉を続ける。
「でも、辛くなったらいつでもおいで。皆で料理を作って持て成すよ」
「ありがとうございます、キースさん。俺も、お弁当を作って会いに行きますよ! ロストナンバーである限り……」
 優がにこり、と笑えば「優君のお弁当は美味しいからねぇ」とキースは楽しみにしている、と告げる。そうしながらも優が無理をしないかが心配だった。
「大丈夫だろうけれど、限界まで抱え込み過ぎちゃダメだからねぇ」
「ふふ、お気遣い感謝します」
 そういい合って口にするスープは、どこかほろ苦くも優しい味がする。これもいい思い出になるだろう、と思いながらキースは静かに飲み込んだ。
 その後2人は枝上街へ赴き、高台から枝上街と幹中街を眺めた。まるできのこを思わせる丸い家々に優が瞳を輝かせれば、キースは琥珀を使った街灯に気づき、暗くなればとても綺麗だろうな、と思った。

 ぱたぱたと飛びながら、ユーウォンは籠から降りた。
「いやぁ、楽しかった! ありがとう!」
 彼が青い瞳を細めてそういえば、操縦者は楽しげに手を振って降りていく。テレポートやら上下する籠に興味があった彼はそれらを駆使しあちこちへと向かっていた。
(梢に近い部分から雲を取り込んで農業に生かしていたのも凄かったし、下層のきのこ畑や村も楽しかったなぁ)
 ゆく先々で興味が向いたものに対し住人に問い、いろいろな知識を得た彼は赤々と輝く柔らかな水晶のような物を手に取る。魔法によって【無害化】した炎の暖かさに瞳を細めつつ、彼は他に面白そうなものがないかあたりを見渡すのだった。

 その頃。吉備 サクラは市場の片隅で珍しいきのこやハーブ等をスケッチしていた。こういった独特な文化はそのまま意匠に使えるからだ。彼女は一人で黙々と書き込みながら静かに考察を重ねる。
(ヴォロスの多様性は好きですし、こういった賑やかな所は嫌いではありません。けれど、私はまた服を作る事ができるのでしょうか?)
 ぼんやりそんな事を思い、とりあえず考えない事にする。と、丁度一人の女性がサクラに声をかけた。背中に白い猛禽類の翼を背負っている所から、白鳳族らしい。
「貴女、仕立て屋さんかしら?」
『ええ、その見習いです』
 先日の依頼で喉を損傷し、声が出ないサクラは彼女に対し筆談で答えつつ、まだコミュニケーションが取れている事をより実感する。けれども、そうしながらも何時までこうする事が出来るのか、ぼんやりと考えた。

 一方、ロナルド・バロウズとルサンチマンは美味しそうな木の実を飴で固めたお菓子や、果実酒を買っていた。
(塞ぎがちな彼女だが……まぁ、気晴らしになるかね)
 悪魔を倒すのに不調で居られるのは困る、というのは建前で実の所、ロナルドはそれなりにルサンチマンを気遣っていた。彼はそれとなくエスコートし、共に街の人々と交流する。屋台では共にきのこ料理を食べ、広場ではバイオリンを奏で、今はこうして市場を巡っていた。市場には暖かな織物や愛らしいアクセサリー、美味しそうなお菓子も並んでおり、たまの息抜きにはいいかもしれない、と彼自身も思っている。
(とても暖かい。それでいて……安らげる。そう感じているのは……)
 傍らでお菓子の試食をしつつルサンチマンは穏やかに考察を巡らせる。そうしていると、傍らのロナルドは「今年は最高の出来だそうだ」と果実酒の瓶を見せて笑っていた。
「このお菓子は、美味しいですね」
 彼女がそう言えば、屋台のおばさんはありがとう、と笑顔でお礼を言った。そこから感じる暖かさに内心でくすぐったさを感じながら、ルサンチマンはそっと口元を押さえた。
「そうだな、後でテラスにでもいくか。そこから見る光景もいいそうだよ」
「……はい」
 ロナルドの提案に頷くルサンチマン。彼女の横顔を見つつ、ロナルドは内心で少し考えつつ、再び彼女をエスコートするのであった。

 シーアールシーゼロは、ふわり、と白い髪を揺らして街を散策する。巨大化能力を持つ彼女は、高台からの景色よりも街の方に興味を持ったらしく、怪しさがぬぐいきれないほど溢れ出ている屋台を覗いていた。
 今彼女が手に取っているのは、1本食べれば寿命が2年伸びる……らしい物。そして、店主らしき老人が熱弁を振るっているのは一定時間巨大化できるらしい物。その両方を見比べ、ゼロはふわり、と笑う。
「どちらも不要な効果ですけど、面白そうだから買うのです。いくらです?」
 そう言えば老人は嬉しそうに籠にきのこを詰める。ゼロは他にも変な効果のあるきのこを求めてはそれを籠に詰めてもらうのだった。
 尚、彼女はおまけとしてレンズ型の琥珀をもらった。それで木々を覗くと、木が見る夢を見ることができるらしい。ゼロはそれを手ににこり、と微笑むのだった。

承:天に近い場所で眺めれば

 ――大樹の天辺へ向かう階段。

 最上階を目指すロストナンバー達は、皆楽しげに話しつつきのこの階段を登っていた。この階段は王族たちの住まう区域から続いており、その段数は約3000段。意外としっかりとしたきのこの踏み心地を確かめつつ、弾むように登っていく。
坂上 健はオウルタンのポッポと共に先導し、ホワイトガーデン、ティリクティア、仁科 あかりという3人の乙女と共に進んでいた。
 健は、ロストナンバーとしての活動を来年の3月末で終える所存だ。4月からは警察官として働く為、二足の草鞋は難しいと考えたからだ。再帰属できるかは関係がない。がむしゃらに頑張って地域に馴染めば、結果は後からついてくる。そう、考えて。
「さぁ、どんどん進むよーっ!」
 フォックスタンのモーリンと一緒に元気に歩くあかり。その傍らでは赤に黄色のラインが入ったリボンで髪を纏めたホワイトガーデンが左肩から生えた白翼を動かし、あたりの景色にため息を吐く。
「籠からみた外の景色もすてきでしたが、この階段の光景も暖かくていいですね」
「でも、最上階の景色も楽しみだわ」
 ティリクティアが弾んだ声で言えば、健もにこり、と笑って相槌を打つ。振り返ればポッポが気遣ってくれており、彼はそっと相棒の頭を撫でて答えた。
(どんな光景が見られるのかな?)
 実の所、彼自身もワクワクしている部分はあるのであった。

 暫くして、4人は最上階へと到着した。木々で作られたテラスは頑丈で、それでいて風は枝上街より冷たい。あかりは防寒着を着ていてよかった、と内心で頷いた。
一行は手すりに捕まってあたりを見渡し、紅葉するヴォロスの風景を楽しんだ。赤や黄色、橙に茶色、黄緑に緑……と華やいだ木々の様子は、一行の心を弾ませ、澄んだ空気は心を洗っていく。
「わぁ……! 素敵だわ!」
 ティリクティアの歓声に、健は瞳を細める。傍らのホワイトガーデンはふと、後ろを振り返り、大樹を見る。
「竜刻の力であっという間だったのかもしれないけれど、これだけの大きさになるまでにどんな物語があったのかしら……」
 うっとりとなる彼女の傍らではあかりが凄い凄い、と大はしゃぎ。危なっかしい彼女を助けつつ健も優しい声で呟く。
「こういう機会もそろそろ最後なら、異世界探訪しておくのも悪くないと思っていたが……来てよかったよ」
「えっ? どっかに帰属する予定あるの?」
 あかりの問いに対し健は曖昧に濁し、小さく微笑む。それで何かを悟ったのか、彼女は小さく頷き……カバンからお弁当を取り出した。
「軽くランチするですか? ほら、お弁当あるですよ! みんなで食べましょ~!」
「いいわねっ♪ みんなで景色見ながらランチだなんてすてき!」
「賛成です! ここあたりとか、日あたりもいいですし……」
「俺も賛成! さっそく食べようぜ?」
 4人はわいわい言いながらあかりの弁当などを分け合い、結構長い時間を共有した。そんな楽しい一時を、健は胸に刻み込む。そして、思った以上に澄んだ天辺の光景と、こうして語らう仲間の輝きに、彼は少しだけ瞳を細めこみ上げるものを隠れて拭った。ポッポとマーリン、3人の少女たちはそれに気づかないふりをして、景色を見つめていた。

 やがて日が暮れていき、太陽が沈む光景を自然と並んで見ていた。帰属するしないにかかわらず、胸にみちる何かを共有し、4人はこの一日を忘れないようにしよう、と心に決めるのだった。


転:木の恵みに触れて

 ――下層・琥珀捜査現場およびきのこ狩り現場

 街の下には、琥珀を主に算出している場所やきのこ狩りをしているゾーンが広がっている。きのこの栽培をしている区域もあり、多くの人が働いている。

「あ、かわいい」
 天辺から降りてきたティリクティアは直感で琥珀を探し当て、にっこり笑う。自分の瞳に似ているようなそれに、いいお土産ができた、と心が弾んだ。傍らでは途中で合流した司馬 ユキノが楽しげに相槌を打つ。彼女は木の中の街に驚き、感心して回っているうちにここへたどり着いたようだった。
「私もがんばって探してみようっと! ヘンリーさんやロバート卿へのお土産にもしたいし……」
 相棒のドッグタン、カリンと共にあちこち探してみれば、中に花のような結晶が入った物をみつける。その綺麗さに、ティリクティアもまた瞳を細める。
 楽しげに話しながら探していたティリクティアとユキノは、合わせて8つの琥珀を見つける事が出来たので仲良く分け合った。

 外の方ではジュリエッタ・凛・アヴェルリーノがオウルタンのマルガリータと協力して珍しい琥珀を探していた。本当は上層へも行ってみたかったのだが人間の身では限界がある、と考えてこの辺りで活動していた。
(琥珀は、擦れば静電気が出たな。雷を操るトラベルギアを持つわたくしにはうってつけの存在じゃな)
 そう言いながら面白い内包物がないかと考えるジュリエッタ。彼女は自分の背より高い部分にあった琥珀をどうにか採取し、中を覗いてみた。すると、琥珀とはまた別の結晶を内包した物を見つけた。どことなくそれが赤く見えるのは何故だろう?
(ほぅ、これは珍しい物を含んでおる)
 ジュリエッタは暫くの間、その琥珀を見つめ続け……ペンダントに加工しようかと考えた。

(私はぁ、欲張りなんですぅ)
 川原 撫子が気合を入れた表情で琥珀を探していた。宝石の効能を調べてみれば、琥珀は【社交性を高め、人間関係を豊かにし、心身明るく軽やかにする助けになる】とあったからだ。傍らではロボタンの壱号もまた撫子を応援しようとネジをキコキコ鳴らす。
(渡したい人が一人、二人、三人……っと。あと、私の分ですねぇ~。いっぱい、いーっぱい探しちゃいますよ!)
 撫子は持ち前の体力と行動力でじっくり琥珀を探していく。と、実に質の良い琥珀が5つ見つかった。撫子はそれらを手に小さく微笑む。
「みんな笑顔になりますように……」
 自分には願掛けしかできない。だから、こそ……と、彼女は心を込めてアクセサリーを作る事にした。一つ作りすぎた分は、誰にあげよう、と考えながら。

 一方、きのこのエリアでは天辺から降りてきたあかりが街の人達と一緒にきのこの採取に勤しんでいた。その傍らではルンも張り切っている。ルンは、食べられるきのこだけが生える、という情報に飛びつきここへ来たのである。
「干して、焼いて、鍋も良い。楽しみ楽しみ! ルン、張り切る!」
 根こそぎではないものの、がっつりときのこ狩りを楽しむルン。なにしろ、報酬は新鮮なきのこを使った料理なのだから。これにはあかりもルンも気合が入る。
 暫くしてたくさんのきのこを採取した2人は、街の人に出来たてののきのこ料理をご馳走になる。煮物、フライに素焼き……等など目白押しだ。香草を塗してからりと揚げたきのこもジューシーで中々美味しかった。
「うっめー!! 大樹もテンション上がるし、料理もうまいし、サイコー!」
「さすが、神さまの国。ふしぎふしぎ!」
 テンションの上がりっぱなしの2人は名物料理の作り方も教えてもらい、それだけではなくお土産用のきのこももらって幸せだった。

 なお、あかりが許可をもらってとったデジカメの写真をみた人々は、とても楽しそうに目を細めたという。

結:大樹の国から思いを馳せて

 ――展望テラス。

 枝上街の中でも最も高い場所に、展望テラスはあった。そこは観光スポットの1つであり、また恋人達のデートスポットの1つでもあった。夜になれば星を愛する人々が観察にやって来る事も多いらしい。

 ユキノは琥珀を探した足でテラスへとやって来た。夕暮れのテラスに見知った顔はなかったものの、琥珀色に染まった景色はとてもほっこりするモノだった。
(この琥珀、どんなふうに加工してもらおうかな)
 手にした琥珀を夕日にすかしながら、ユキノはそっと微笑んだ。ここへくる途中に見つけた宝石店でロバート卿とヘンリーへの土産を作って貰うことにしていた。
 日が沈むまで一人でのんびり景色を見ていたが、冷えてきたので幹中街へ戻る。その途中ピンクの髪の女性とすれ違った。

 ジューンは自然体で空を見上げていた。散りばめられた星は静かに彼女を照らし、優しく微笑んでいるようだった。しかし、彼女の気分は晴れない。
(真理に目覚めて人の寿命が止まるならば、機械の摩耗も止まるのでしょうか?)
 どこか曇った表情で、彼女は大樹を振り返る。柔らかな灯りがあちこちに灯り、幻想的な風景を生み出している。そして、風に乗って聞こえる生活の音。それに彼女はどこか遠い眼で考える。
 ここは重力の井戸の底、季節が移ろい、豊かな土香る大地。故郷に戻れないと悟った今、残りの時間をコロニーの中では有り得ない世界で、こうして星を見上げて過ごすのだろうか?
 ジューンは、自然とそう考えていた。故郷である世界に戻れない、とは不本意ながらも納得している。けれども、自己の願望を優先するのはアンドロイドたる自分の生き方ではない。ならば、どう生きていこうか。
(美しい風景ですね。ええ、でも、嫌いではないのですけれども……)
 口篭る。自然と何かがつっかえ、言い淀むジューンの目の先、一つの青白い星が、微笑むように瞬いた。

 ……そして、ジューンが立ち去って数時間後。
「ここで夜明けを見ようじゃないか」
 そう、ロナルドに誘われ、共にブランケットを纏って東の空を見るルサンチマン。彼女はその意味を見いだせず、素直に疑問に思いながら市場でかった果実酒を口にする。傍らではロナルドがチーズを齧りながら僅かに明るくなり始めた空を見つめていた。
「……少しは気分が紛れたかい?」
 不意に問われ、ルサンチマンが首をかしげるとロナルドは手に持った瓶を呷り、小さく微笑む。ルサンチマンはナッツを口にして飲み込んでから、言葉を紡ぐ。
「どことなく、は。食べ歩きをして、街の人と話して……、暖かい気持ちになりました」
「だろ? たまには、こういった事も必要なんだよ」
 彼女の言葉にロナルドがウインクする。そして、一息ついた所でもう一言。
「確かに俺は……君が苦手だけどさ、苦しんだり何だりすれば良いとは思わない訳だよ」
「理解に苦しみます」
 ルサンチマンはすぐさまそういい、果実酒を飲み干す。傍らのロナルドは白い息を履きながら自分は変な所で甘い、と自嘲する。けれども、ルサンチマンは気にしていなかった。

 やがて夜が明ける。群青から青、青紫、水色と移りゆく空の色。まばゆい太陽の光を浴びてロナルドは瞳を細める。元々、夜明けの光景から力を得られるのではないか、と感じたからだ。ルサンチマンもまた、この光景に胸を打たれ、言葉を無くす。2人は暫くの間、無言で朝日を見つめていた。

 優しい香りと、鮮やかな彩りに飾られた大樹の国。その秋を満喫したロストナンバー達はそれぞれの胸にいろいろな思い出を詰め込んで国をあとにする。再びこの地を訪れることができれば、と願いながら……。

(終)

クリエイターコメント菊華です。
おまたせして申し訳ありません。
ようやく完成です。

この旅は大樹の国ツアーに参加していただきまして、誠にありがとうございます。ヴォロスの秋を満喫していただけたら嬉しい事です。

なお、このパーティーシナリオで得たものに関してはノベルをご覧下さい。

それでは、この辺りで。
また縁がありましたら宜しくお願いします。
公開日時2013-12-04(水) 22:50

 

このライターへメールを送る

 

ページトップへ

螺旋特急ロストレイル

ユーザーログイン

これまでのあらすじ

初めての方はこちらから

ゲームマニュアル