オープニング

 
 元より霧深い海域だった。
 それにしても、だ。件の島は、何故かぽっかりと穴が開いたように全く風を感じなかった。そのせいで霧が晴れないのだろうか。もちろん、そんな単純な事だったなら調査の依頼もなかったろう。ましてや、こんな小さな島で錚々たるロストナンバーが消息を絶つなどあり得ない。
「どうやら彼らはここから上陸したようだな」
 膝をつきその痕跡を確認していたティーロ・ベラドンナはそれから、しかし、と呟いて立ち上がるとそちらを振り返った。
 風の止んだ島を覆う白い闇。天候を操る玖郎が「気持ち悪いな」と評したそれは想像以上に深く濃く、彼らの来訪を拒んでいるようにさえ見えた。
「後を追うのは骨が折れそうだぜ」
 両手の平を空に向けてティーロは小さく肩を竦めてみせる。彼の探索スタイルはほんの少し風の力を借りて情報収集をするところから始まる。だがここには借りられそうな風の力を殆ど感じることが出来なかった。とはいえ、もちろんここでギブアップする気もない。問題が難しければ難しいほど探索のプロとしてのプライドが疼くのだ。言葉とは裏腹にその目は絶対に見つけだしてやるという気概に溢れていた。
 それが仲間たちへと伝播していくのを見てヌマブチは余計な気負いを捨てることが出来た気がした。
「頼もしい限りでありますな」


 ■


 依頼を受けたのはつい先刻のことだ。
 場所はブルーインブルーのデルタ海域内にある濃霧の島。そこで怪異現象が発生したという。なんでも霧の中から謎の影が現れ、そこに訪れた者たちを次々に襲うというのだ。海賊か、海魔か、別の何かか。とにもかくにもそれらの調査のため、幾人かのロストナンバーが派遣された。しかし数日経った現在、彼らは戻らず、その行方もわかっていないという。
 ヌマブチは、すぐにメンバーを集めてその足でここまで来た。
 消息を経ったというロストナンバーの名前を聞いた時、愕然とした。一方で、脳裏を過ぎっていた、まさか、という最悪の予感が、何らかの事情で連絡が取れなくなっただけなのでは、という希望に変わった。
 しかし、魔法の存在しないブルーインブルーで、その世界のもつあらゆる通信手段とも異なるプロセスを持つトラベラーズノートが使えなくなったのだとしたらそれは尋常なことではない。むしろあり得ないだろう、とするなら、自ずと見えてくるのはノート自体が使えなくなったのではなく、使う側が使えなくなった可能性だ。希望としては非常に低確率ではあるが5人が一斉にノートを紛失した、とかそんなオチだったらいい。最も考えたくないのは霧の中の影がどんなに目を凝らしても認識出来ないのと同様に“霧”が能動的にノートの使用を認識出来なくさせている可能性だ。
 何れにしてもノートに限らず外部との連絡が取れなくなっていることは確かで、そこから推測されるのは、特殊な濃霧の中ではノートを含め有効な通信手段がなくなる可能性があるということだった。ならば手分けをするのではなく5人全員で移動した方がいいのでは、と想到する。消息を経ったロストナンバーといち早く合流を果たすことを最優先事項とし、それから濃霧と濃霧の中に身を隠した影の正体を暴くのが得策と思われた。
 霧の中で彼らが既に数日を過ごしていることを考慮し、携帯食糧を多めに用意する。
「水ならぁ任せてよねぇ☆」
 と愛らしく請け負った川原撫子に飲料水は任せるとして。
 もう一つ。
 霧の中では通信が出来なかったとしても、外に出れば出来るはずである。にもかかわらず連絡がないということは霧から出られない理由があるということだ。単純に迷っただけならいい。だが、そもそも霧の中には人を襲う正体不明の影が蠢いているのだ。
 彼らが何らかの理由で霧の中に足止めされているのだとしたら。
 今も戦闘中? ――消息を経ってから数日が経っている。さすがにそんなことがあるのか?
 謎の影に襲われ負傷者が出た? ――そう仮定して動かせないほどの重傷を負わせる影の正体とは一体なんだ?
 海魔、漂着した海賊、転移したロストナンバー、もっと別の未知なる驚異…。
 杞憂すぎるだろうか。だがあらゆる事態を想定してその対策を立てておくことは悪いことではないはずだ。それでも不測の事態というのは起こるのものだが。
 ただ。
 最も憂慮すべきは、自分たちが彼らと合流する前に、同様の足止めを食らうことであろう。

「ミイラ取りがミイラになるわけにゃ、いかねエからな」
 清闇が両手の指を組んで手のひらを向こう側へ向けると船旅で凝った体を解すように伸びをした。それが下ろされるのを待って。
「では、参るとしましょう」
 ヌマブチは一同を促したのだった。






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!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。


<参加予定者>
ヌマブチ(cwem1401)
玖郎(cfmr9797)
ティーロ・ベラドンナ(cfvp5305)
川原 撫子(cuee7619)
清闇(cdhx4395)
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品目企画シナリオ 管理番号3004
クリエイターあきよしこう(wwus4965)
クリエイターコメント霧を吸い込む度に、霧を進む度に、仲間の存在があやふやになった
気づけばノートも使えず、大声をはりあげても届かない不安に浸食される
だがそれも、すぐに殺意や悪意によって塗りつぶされることだ
どこまで仲間たちとはチームとして機能し続けられるのか
はたまたこのまま個人戦のバトルロワイヤルに突入してしまうのか


こんにちは。或いは、初めまして。あきよしこうです


無事、生還し霧の謎も解かれることを祈りつつ
プレイングをお待ちしております

参加者
ヌマブチ(cwem1401)ツーリスト 男 32歳 軍人
川原 撫子(cuee7619)コンダクター 女 21歳 アルバイター兼冒険者見習い?
ティーロ・ベラドンナ(cfvp5305)ツーリスト 男 41歳 元宮廷魔導師
清闇(cdhx4395)ツーリスト 男 35歳 竜の武人
玖郎(cfmr9797)ツーリスト 男 30歳 天狗(あまきつね)

ノベル

 
 伸ばされた手が首を掴んでゆっくりと締めあげていくのに、自分は何故だか抵抗する事が出来なかった。彼の左脇の腰から溢れ出る血を止めようと両手は必死に傷口を押さえ、ただひたすらに止まれと念じている。彼が自分に向ける殺気も、首を締める手の平に籠められた殺意も、息が次第に苦しくなっていくことさえも半ば他人事のように感じながら、彼の蒼ざめた顔を見下ろしていた。口が動くのは酸素を求めてか、それとも願いを言霊にしようとしているだけか。
 ――止まって、お願い。
 このままでは彼は失血死してしまう。それとも、自分が彼の手にかかる方が先だろうか。
 薄らぐ意識の片隅で、誰かが自分と彼の名を呼んでいた。
 ――どうか、神様。彼を救けて下さい。

「コタロ、やめろ!! それは撫子だ!!」

 ――どうか……


 ▼▼▼


 カサリ、と何かを踏みつけ撫子は立ち止まると足元を見下ろした。
「どうした?」
 深い霧に仲間を見失わないよう細心の注意を払っていたティーロが声をかけてくる。
「あ、うん。今…」
 撫子はしゃがみこんで踏んだものを拾い上げた。何かの紙のようだ。広げて見ると読めない文字だか絵だかが描かれている。
「お札かなぁ?」
「先に入った中に、そういうのを扱う奴っていたか?」
「わかりません~☆ でも何かの目印かもぉ~? ヘンゼルとグレーテルみたいなぁ♪ 他にもあるかもぉ☆」
 撫子は周囲に目を凝らしてみた。霧が濃すぎてとても見渡せず俯く撫子にティーロの注意喚起。
「下ばっかり見てて木にぶつかるなよ」
 その直後、撫子は頭をぶつけて蹲った。
「もっと早く言ってくださいよぉ~☆」
「ははは、悪い、悪い」
 苦笑しながら差し出してくるティーロの手をとって撫子は頬を膨らませながら立ち上がった。とはいえその目はさほど怒った風もない。
「迷子になるなよ」
 揶揄するような顔で言うティーロの半ば子供扱いにムッとしながら撫子は言い返した。
「なりません~♪」


 なんて話していたのはつい先刻のことだ。
「あ、あれ? ティーロさん、ヌマブチさん、玖郎さん、清闇さん…どこですぅ?」
 霧の向こうに声をかけてみたが返事は一向に聞こえてこない。どうやら完全にはぐれてしまったらしい。
「もう、みんな迷子になるなんてぇ☆」
 自分が迷子になったわけではないとさり気なく誰に対してか主張して、ティーロから貰ったトラベルギア――ラップの切れ端を握りしめながら撫子はバックパックに結んだ遭難笛を手繰り寄せた。
 霧は深く視界を遮っているが、音はずっと遠くまで届くはずだ。
 撫子は力一杯笛を吹いた。これで仲間が来てくれる筈。はぐれてからそれほど経っていないし、すぐに皆と合流出来るだろう。
 笛の音が返ってくる。みんな傍にいる…と思ったら返ってきた笛の音は4つ以上あった。
「え…?」
 撫子は驚いたように目を見開いた。
「何だか凄く怖いですぅ…どうしてぇ?」
 不安が彼女を包み込む。
 と、草を踏む音が聞こえたような気がして撫子はそちらを振り返った。
 刹那、彼女のポケットから先ほど拾ったお札のようなもの――護法符が飛び出し彼女の前に人型を作ると、それはまるで撫子の身代わりのように彼女の前で爆ぜた。
 撫子はそれを愕然と見つめ、無意識に生唾を飲み込みながら後退っていた。
 今の爆発が自分を狙ったものだとすれば、笛の音は仲間よりも先に霧に潜む影を呼び寄せてしまったということか。偶然拾ったお札がとりあえず自分を守ってくれたようだけど。何の気配も前触れも感じなかった。影すら見ていない。
 白い霧の向こうの至る所から自分に対して殺意が向けられているような錯覚を覚え、撫子は更に半歩後退り木に背中をぶつけた。
 恐怖はやがて、殺られる前に殺れと命令する。ガチガチと奥歯を鳴らしながら撫子は首を横に振った。殺す事に対する忌避感が彼女を寸でのところでとどめているようだった。
 だが白い霧の向こうに影を見つけてしまった。
 その影が自分を殺そうと爆撃を仕掛けてきた相手か。
 殺さない。そう念じながら撫子はトラベルギアを構えたのだった。


 ▼


 ふと気づくと撫子の姿が見当たらなくてティーロはやれやれと息を吐いた。迷子になるなよ、と言ったのに。どうせお札探しに夢中になってはぐれてしまったのだろう。
 程なく笛の音がした。迎えに来いという合図に違いない。
 それに応えるように皆が笛を吹いて返す。この遭難笛は島に突入する前に撫子が皆に配ったものだ。
 無論、笛を吹けば影にこちらの居場所を自ら知らせるようなものではないかという意見も出た。しかし、それはヌマブチの大声でも、玖郎の鳴き声でも同じことだ。ならば、むしろ同じ音があちこちで鳴った方が相手を撹乱出来るのではないか、という結論に至ったのだ。
「俺が迎えにいってくる」
 ティーロが片手をあげて言った。撫子の正確な位置も、皆の位置もラップで常に把握することができるからだ。彼が適任だろう。
「ああ、お願いしよう」
 白い霧の向こうから届けられるヌマブチの声を聞きながらティーロは撫子の元へと向かう。
 白い闇をかき分けるように進むと程なくして人影を見つけた。
 伸ばした手すら霧の中に朧げな輪郭を作るだけだとするなら、人が人影の輪郭を作るのは、かなりの至近距離のはずである。だが「撫子」と声をかけてもその影から返事はなかった。
 目の前の影は撫子だ。少なくとも彼女に持たせたトラベルギアのラップが自分にそう告げている。にも拘らず、その影が放つ気配に殺意に似た何かを感じずにはおれなかった。
 影の大量の水による攻撃――或いは威嚇だったのか、反射的に臨戦態勢をとる自分自身に違和感を覚えてティーロは首を振った。これは撫子だ。これは彼女のトラベルギアによる攻撃だ。先ほど、この辺りから爆発音を聞いた。もしかして。
 ティーロは風の渦で大量に噴き出す水に穴を空けその奥に手を伸ばすと、その腕を掴んだ。
「俺だ! 落ち着け!」
 何故彼女は近づく影を敵だと思ったのだろう。どうして仲間だとわからなかったのだろう。だが、ティーロ自身、ラップがなければ疑っていたかもしれない。元来好戦的でもない自分が影の放つ敵意に一瞬なりとも身構えてしまったのだ。
「ティーロ…さん…?」
 見えない敵への恐怖に半ば恐慌状態に陥りかけていた撫子はぎりぎりのところで正気を取り戻し、気が抜けたようにその場にへたりこんだ。
「突然、爆発が…」
「ああ、わかってる」
 撫子を襲った何かがこの近くにいるのだ。


 ▼


 ティーロを見送った直後、また遭難笛が鳴ってヌマブチは反射的に3歩進んでいた。ティーロが消えた先ではないから撫子ではない、とすれば、一体誰が。取り敢えず応えようと笛をくわえた時、また笛が鳴った。別の場所から、次々に…。
 少なくとも自分は吹いていない。にもかかわらず笛の音は5ヶ所以上から。
 どういうことだと振り返る。傍らにいると思っていた仲間は霧の向こうに消えていた。
「誰かっ!! 玖郎!! 清闇!!」
 声をかけてみたが、応えるものはない。
 ヌマブチは肩にかけていたトラベルギアの銃剣を無意識に撫でながらティーロが消えたと思われた方へ歩き出した。彼は笛の音を追いかけているわけではない。皆に配ったラップの位置で判断している。だから、笛の音に惑わされることはない。そちらへ向かえば彼らと合流出来るに違いないと考えた。
 そうして数歩進んだ時だ。
 何かが左袖に突き刺さった。もし左腕があったなら肘関節を貫いていたに違いないそれが、ボウガンの矢と知れた時ヌマブチは反射的に左へ体重移動していた。戦場でのある種の勘がそうさせたのか左に反転すると、続く矢が右側を掠めた。
 右手は得物を掴み脳裏に殺意がちらついたが、彼はそれをねじ伏せるようにして走り出す。今手を出せば影の正体を暴くどころか際限なく殺戮に身を投じそうな予感がした。まだ押さえ込める間は。
 この濃霧だ。うまく霧に紛れられれば逃げられる。
 だが気配はピタリと自分を追ってきた。距離が縮まらないのが幸いか。後は持久戦。
 途中玖郎の声を聞いたような気もしたが応える余裕もないまま霧の中を疾走する。
 と、何かが彼の足にひっかかり、ヌマブチは走る勢いのままダイブするように前に飛んで地面に派手に転がった。
「!?」
 殺される。そう思ったが、それはなかなか訪れず、振り返った先には自分を執拗に追っていた殺気は消え、代わりに霧よりも更に濃密な煙のようなものが影をその敵意ごとくるみとっていた。
 どこかで聞いたことのあるような声がしてそちらを振り返る。何を言っているのかよくわからなかったがヌマブチはその影に目を凝らした。脳裏では殺意が泡のように浮かんでは弾けていたがそれを押し殺すようにして、出された手をとると、漸く相手の顔を判別することが出来た。
「助かったであります」
 清闇に礼を述べる。しかしだ。自分がこのような状態なのだ、彼も似たような状態ではないのか、と思いそう問うと清闇は笑って応えた。
 走る影に左腕がなかったからな、と。
 我ながらこの左腕をこれほど頼もしく思った瞬間はなかったろう。


 ▼


 笛があちこちで鳴り出した。こう多くては、どれが誰の鳴らしたものかわからない。玖郎は業を煮やしたように一つ高く鳴いた。しかしそれに応える声も笛もない。それほど遠くまで仲間らとはぐれてしまったのか。
 島に訪れた時、上空からこの島を見下ろした。さほど大きく感じられなかった島。声が届かないほどの距離とは一体。
 それともこの霧が邪魔をしているのか。風を起こし払おうと試みたが、霧は晴れなかった。人為的なものであることの証だろう。ならば笛の音を乱反射したり、人の声を届かぬものにしたりすることも造作もないやも知れぬ。
 霞む視界に苛立ちを覚えながら玖郎は霧の中を進んだ。視覚はあてに出来ない。声も届かぬとなれば、音もあてにはならぬかもしれぬ。ただし、霧に潜む人影が人を襲うというのであれば、そこには必ず気をはらんでいる筈だ。
 その気配に玖郎は反射的に身を退いた。自分のいた場所を影が走る。玖郎は地面を蹴った。間合いをあけるために。影の頭上へと飛んだのは、草を踏む音がしたからだ。影すら見えぬのに枝が揺れたように感じたからだ。あてに出来ぬとしながらも。否、聴覚と視覚だけで情報を構築しているわけではない。
 翼を広げ飛翔する。
 影が何かを口走った。よく聞き取れなかったのは足下から這うように自分を包み込んだ高揚感ゆえか。武者震いに意味をなさぬ雄叫びをあげて玖郎は樹上の大枝を蹴った。
 後になってよくよく考えてみれば何の根拠もない。しかし、確かにその影は自分に害をなすものと心が判じていた。
 霧の向こうにあるのは青空であったか。だが関係ない。大風をもって雲を呼び雷を我が身に落とす。
 雷の鎧を纏い、再び影に向かった。
 影が後方へ飛ぶ。
 追撃に疾る。
 突然現れたのは炎を纏った猩々。それが壁のように立ちはだかったのだ。
 玖郎は小さく舌打ちした。炎に風を用いれば炎は強さを増すだろう。木は炎を生み出す糧だ。燃やし尽くされ土に還るわけにもいかぬ。
 だが炎の猩々を操るのが後方の影ならばそちらを仕留めればいい。
 後になって思う。何故この時疑問をもたなかったのか。このブルーインブルーに果たしてこんな業をもつ人間がいるだろうか、と。

 一度戦いに身を投じれば理性が焦げ付くのは瞬く間で、知らぬ間に撒かれた殺意という種が芽吹き己れを支配するのも、また一瞬であった。


 ▼


 撫子を襲った奴が近づいてくる。
 ティーロは撫子をその場に残して、殺気のする方へゆっくりと歩き出した。
 影が足下の小石を蹴り上げる。
 ティーロはそれを風で払った。影が小石を掴み損ね、顔をあげた。常の彼なら状況を把握することを優先するため応戦もしない。だが状況などはっきりしていた。この影が友人である撫子を襲ったのだ。まるで理由はそれだけで十分だと、自分ではない自分が囁きかけている。気づけば影の動きに咄嗟に真空刃を放っていた。
 影がそれをかわす。
「何でオレ、こんなに好戦的に?」
 自問に自答する余裕はなく。背後で別の何かがやかましく喋りかけていた。落ち着いて聞こうとしていればその意味を理解することが出来たかもしれない。だが、そんな余裕もなかったようだ。「うるさい」と怒鳴りつけ。
 ティーロは転移して影との間合いを詰めた。接敵も彼らしからぬ。
 攻撃を加える前によろめいた。頭をぐるぐると回されたような強い目眩に襲われて大木に手をつく。影が間合いをあけた。爆発がくると察してティーロは後ろへ飛ぶ。案の定彼のいた場所が爆発した。その爆風に地面に転がるようにして勢いを殺しながら立ち上がり、頭を軽く揺する。
 ティーロは目の前の影に気をとられ気づかなかったが、そこにはもう一つ影があったのだ。ティーロに話しかけていた声の主が。
 真空壁を鎧のように纏う。これで自分に攻撃は届くまい。
 その時だ。背後から何かが彼の傍らを駆け抜けたのは。
「っ!?」
 それが撫子を襲い、撫子を越えて自分のところまで飛んできたものだと知って踵を返す。
「撫子っ!?」
 ティーロは影のことも忘れて走り出していた。撫子とティーロを掠めたのは一本の矢だ。見覚えのあるボウガンの。それを見たとき、頭に昇っていた血が急速に引いていくのを感じた。
 今、撫子を襲ったのは先にこの島に訪れ消息を絶っていた友人の武器だ。
 影の正体はわからないが、わからないが故に、少なくともそこに誤解が生じているのだとしたら。
 撫子もボウガンの矢に気づいたのだろう。
 彼女は持っていたトラベルギアを手放した。
 そして見上げている。
 樹上に佇む影を。
 ボウガンを頭上へ向けて立つコタロを。
「コタロ…さん?」
 音にならないような声、或いは口の動き。それはコタロのところまで届きようもなく。
 ただ。
 霧が撫子の放った水によって一瞬、洗われたのか。コタロが撫子に覆い被さった。
「!?」
 その背を空から降ってきたボウガンの矢が貫いた。


 撫子の元へ駆けつけようとしたティーロを小爆発が止める。自分を無視されて不満を露わにしたような気配が伝わってきた。
 ティーロは再び怒りで血が沸騰するのを感じた。影がコタロだったように、ならば。
 遠隔的に次々と爆破を行えるような人間がこのブルーインブルーにそうそういるわけがない。今、自分が相対しているのも、恐らくは、霧に潜む影ではなく、その影と誤解したロストナンバーたちなのだ。
「まだ、わからないのかっ!!」
 苛立ちと焦燥に怒気をこめて吐き捨てると転移して影との間合いを詰める。
 一撃をくわえようとしてティーロは目を見開いた。
 腹を押さえ膝をつく。
 口から血が溢れ出した。
 胸が焼けるように熱かった。体の中で何かが爆発したようだ。真空の鎧を通してどうやって。
 答えは簡単だった。彼が無視し続けた声の主が音波を使ったのだ。音が伝わるのは何も空気だけではない。地面を通り地面に接触した足下から骨を振動させ三半規管を揺さぶり内蔵を破壊したのだった。


 ▼


「良かった…」
 そう呟いて、そう笑いかけて撫子に覆い被さった影はそのまま力が抜けたようにくずおれた。
 撫子はコタロの体を支えるようにして地面に横たえると、溢れる血に息を呑んだのも一瞬で、肩にかけていたバックパックから救急箱を取り出して、はみ出したボウガンの矢を切り落とすととにもかくにも止血を試みた。背中というよりは左脇の腰。
 出血よ止まれと念じながら手当をする。
 右半身を下に横向きになっていたコタロが撫子を見上げていた。その瞼がゆっくりと閉じられる。
「コタロさん!!」
 撫子は悲鳴にも似た声をあげた。血は白いガーゼをみるみる赤く染めていく。止まれ、止まれと念じながら。
「目を、開けて…」
 その声が届いたのか瞼が開かれた。
 けれどそれは先ほどまでのどこか安堵に満ちたものではなかった。
 殺気を帯びた目が撫子を見上げ、その首に手をかける。
「!?」


「コタロ、やめろ!! それは撫子だ!!」


 ティーロの絶叫。
 果たしてどちらの意識が途絶えるのが先だったのか。
「コタロ…?」
 影の一つがその名前に反応した。
 ただ、もう一つの影は。
「ふっ…ふっはっはっはっ…はっはっはっはっはっはっ!!」
 壊れていく愛すべき者たちへ歓喜の声をあげていた。


 ▼


 霧の中に仲間を見失った清闇は、あちこちで笛が鳴ろうとも、爆発が起ころうとも、取り立てて仲間を捜すことを考えなかった。
 先行して行方不明者となったロストナンバーの1人に手練れの友人がいる。その友人――歪が連絡もなく消息を絶ったということは、余程のことがあったのだろう。霧の中に強敵が潜んでいる可能性と同じくらい清闇は別の可能性を考えた。霧そのものか霧の中に潜む何かによって精神を操られたり、自失状態にされるのではないか。そう考えると仲間と遭遇する行為は逆に同士討ちを引き起こしかねないという結論に至る。
 ならば合流はティーロのラップに頼った方がいい。はぐれてしまった以上、自分がすべき事は霧の発生源を探すことだと思う。島に訪れた時それを探るために自分の中にある竜の部分を切り離し、大地に染み込ませてもいた。
 ただ、おかげで力は半減している。万一、影に襲われたら戦うには分が悪いだろう、逃げの一手を考えていた時だ、その影と出くわしたのは。
 殺せと何かが命じる。しかし半身を切り離しているせいか、精神は希薄でどこか冷めていた。それが幸いしたのか。影の左腕の袖が妙に揺れていることと、それを追う殺気に清闇はキセルに火を灯していた。
 煙を影と影の間に割り入らせる。
 殺気に満ちた影は煙の中に突っ込み、左袖の垂れた影が何かにつまずいて転がった。
「大丈夫か?」
 と手を伸ばすと、その影は敵意を押し殺すようにして自分の手を取り立ち上がった。
「助かったであります」
 その声はやはりと言うべきか間違いなくヌマブチのものだった。運良く仲間と合流できたらしい。
 ヌマブチは、ともすれば今自らがけつまずいたものを観察し始めた。
「どうした?」
 と清闇が後ろからのぞき込む。どうやらそれは死体のようだ。
 よく目を凝らせば、そこここに新しいものから古いものまで、それが散らばっていた。
 ここへ訪れる時、話として聞いていた。霧の中に謎の人影があって訪れた者を襲う、と。つまり、この島には自分たちが訪れる以前にも訪れた者があるということだ。その者たちは一体どうしたのだろう。
 先行した者たち同様、消息を絶ったとして、さほど広くない島である。
 島に潜む影とやらに殺された、か。
「……今まで、戦場でいくつもの死体を見てきたが、これには、何か違和感のようなものを感じるであります」
 古いものからは、さすがに死因は読みとれなかったが。何故彼らは死んだ――殺されたのか。
 ヌマブチはそれを確かめたいと言って再び他の死体を調べ始めた。
 人が人を殺す理由を考える。たとえば、生きる為だとしよう。食料調達もままならないような霧の深い小さな島で、それらを得るために人が人を襲うのだとしたら…死体の傍らにある同じだけ腐敗した食料やそのままの水筒は何だ。極限状態であれば、人は人を食らうことさえある。だが、ここにあるのは、まるで殺してそのまま放置されたようなそれだ。生き残った者はすぐにこの島を離れたから食料を必要としなかったとして、ならばかつてより霧に潜む人影とは…。その答えがこの死体の中にあるというのか。
 その時だ。
 死体を調べるヌマブチからふと顔をあげ、自分の中に澱のように溜まる殺意を他人事のように感じながら清闇は誰何の声をあげた。そこにある人影に身構えながら。
「誰だ?」
 うっすらと感じる殺意、それを必死に押し殺したような声が返ってくる。
「俺は敵じゃない」
 清闇はその声に緊張が解けるのを感じた。
「その声、もしかして歪か」
 それは消息を絶っていた友人だった。すると更に殺意は和らぎ安堵したような声が近づいた。
「清闇か…どうしてここに?」
 歪の疑問は尤もだろう。清闇からも近づいた。声の感じから怪我などをしているようには感じなかったが、その姿を確認する。
「お前らが消息を絶ったと聞いてな。無事でよかった」
「消息を…?」
 歪は少し驚いたように呟いた。自分たちが消息を絶っていたことを自覚していなかったようだ。しばらく考えるみたいに俯いて、ハッとしたように顔をあげた。
「どうやらこの霧は…」
「ああ、大体わかっている。とはいえ、実は俺たちも仲間とはぐれてしまっていてな、2人しかいないんだ」
 うずくまるようにして死体を観察しているヌマブチを清闇は目配せするように見た。その仕草が歪にはわからなかったのか、それとも別の理由か、歪の顔は清闇に向けられたまま。
「清闇?」
 ただ名を呼んだだけだが、問い質すような強い語気に。
「ん?」
 と一瞬首を傾げて、心当たりに苦笑を返す。
「ああ、大丈夫だ」
 歪は目が見えない分、清闇のあり方に違和感を覚えたのだろう。
「俺がお前たちの護衛をしよう」
 歪が申し出る。有無も言わさぬ態で。
「……」
 竜の力を失っている自分を慮ったのだろう、友人の申し出に清闇は困ったような笑みを返す。だが、彼の腕を知っているだけに心強くもあった。
「ところで、彼は何をしているんだ?」
 歪が、ヌマブチの方に顔を向けて尋ねた。
 清闇はそちらを振り返りながら応える。
「ああ、死体を調べているらしい」
「死体?」
 清闇はヌマブチの違和感をかいつまんで説明してみせた。生きるためではないらしいとするなら、何故、人影は人を襲うのか。
「影の目的とはなんでありましょう?」
 ヌマブチが立ち上がる。
「なんなんだ?」
 清闇が聞いた。快楽殺人者か。いや、違う。それは清闇の推測を立証する答えのようでもあった。
「ただ、殺意にまみれ殺すだけの鬼…」
 ヌマブチの言葉の後を歪が繋いだ。
「疑心暗鬼、という名の鬼か」
 霧がそうさせているのか。
 されど対処法は簡単だろう。
 心を強く、強く保てばいい。聞こうとすれば聞こえるはずだ。見ようとすれば見えるはずだ。解ろうとすれば解るはずだ。霧に惑わされるな。
 だが疲労や痛みは心を弱くする。空腹や睡眠不足は心を脆くする。弱くなった心は快楽で上書きするか、不安に呑まれて暴れ出すか。何れにせよ人は楽になりたがるものだ。長引けば…このままでは同士討ちで全滅することになるだろう。この島に散らばる屍こそがその証であった。自我が保てる内に、余力の残る内に、仲間と合流し霧を発生させている何かを破壊しなくては。
「発生源らしい場所は感じているんだが…」
 という清闇の言葉に歪とヌマブチがその場所へ急いだ。しかしエネルギーの滞留するその場所は少し違っていた。


 ▼


 何故自分は怯むことなく影と相対しているのか。竜巻で業火を煽るわけにもいかず、攻め倦ねながらだ。それでも自らの優勢を疑っていなかった。
 玖郎は再び飛翔した。
 間合いを測り滑翔する。
 紫電の如き線を描き、火炎を纏った巨大な影に向けて疾った。
 巨体であるが故の大振りを電光石火でかわしながら、玖郎はもう一つの影へと間合いを詰める。
 その時だ。金属と金属を擦り合わせたような刃鳴りが玖郎の鼓膜を叩いたのは。
 自分を御せなくなった玖郎は失速し地面に転がって膝をついた。なおも構えようとするが足下がふらつく。相手の影を睨めつけるのが精一杯で。
 するとその前に別の影が割って入った。
「両者退け!!」
 ヌマブチの大音声を、玖郎ははっきりと知覚して我に返る。
「歪?」
 奥の影が間に割って入った影を見返していた。そちらも我に返ったように。
「どういうことだ?」
 奥の影の問い。
「玖郎は、仲間だ」
 答えたのは、歪と呼ばれた影ではなく、ヌマブチの傍らにいた清闇だった。
 それから清闇は奥の影を目配せして玖郎に向けて言った。
「十三も」
「……」
「すまない」
 たった今の今まで互いの得物を交えていた影が頭を下げた。
「いや、おれもおなじ」
 玖郎はうなだれた。何故気づかなかった。何故わからなかった。この霧の中に入ってからだ。こんなにはっきりと仲間を知覚しているのに今も沸き上がる高揚感がある。
「どうやら、霧の発生源ではなかったようだな」
 清闇が肩を竦めて言った。
「しかし、この様子では、他の者たちも…」
「ああ、その可能性は大いにある」
 仲間と気づかずに戦闘を、いや、殺し合いを。
「二手に分かれよう」
「だが、連絡手段が…」
「俺の火燕を連れて行け」
 十三が言った。彼の偵察用の式がヌマブチの頭上を旋回している。
「わかったであります」
「俺は清闇らを護衛し、このまま霧の発生源の捜索を進める」
 歪が言った。
「ならば、俺たちは他の仲間を捜し、戦闘中ならやめさせよう」
「仲間たちの居場所に心当たりはあるのか?」
「それなら、おれがわかる…不思議なことだがさっきまでまったく耳にはいらなかった声がいまは聞こえるようになった」
 鳥たちのざわめく声が。それほどまでに先ほどまでは心が乱れていたということか。
「ならば、そちらは任せた」
 かくて5人は二手に分かれたのだった。


 ▼


 玖郎と十三が仲間たちの元へ駆けつけた時戦闘は終わっていた。
 倒れる影に慌てて駆け寄る。
「大丈夫か!?」
 気を失っているらしい撫子に十三が気付けをするとけほけほと噎せながら撫子は意識を取り戻し、コタロを探すようにきょろきょろと視線を巡らせた。
「コタロさんは!?」
「今、止血のツボを突いた。後は、本人次第か」
「私が…私が、手当をします」
 一方、玖郎は少し離れた場所で倒れている影の方に近づいていた。ティーロだ。玖郎に気づいて仰向けになると手を振ってみせた。
 コタロを撫子に任せた十三がこちらへ来るのに玖郎は「大丈夫そうだ」と応えてティーロに手を貸してやる。
「撫子とコタロは…?」
 立ち上がったティーロが自分のことよりも、そちらが気になるらしい十三に尋ねた。
「彼には止血を施した。気を失っていただけらしい彼女が今、応急処置をしている」
「そうか」
 ティーロはそうしてのろのろと2人の方へ歩き出した。
 十三はティーロの傍に佇んでいた影に近づいた。
「不可抗力…?」
 彼女――消息を絶ったロストナンバーの1人ベヘルが首を傾げている。十三はそれには何も言わなかった。玖郎も何も言えなかった。自分とて、歪とヌマブチが割って入らなければ、どこまで我を忘れたかわからないのだ。
「ところで、もう一人…蒔也は?」
 十三はベヘルに聞いた。消息を絶ったロストナンバーの最後の1人。
 ベヘルはそれにゆっくりと視線を背後へ向ける。無言が彼が行ってしまった事を伝えていた。


 ▼


 獲物を求め、玩具を求め、徘徊する蒔也が歪らと出会うのは必然であったか。
「先に行け…」
 起こった爆発に歪が身構える。こちらははっきりと影の正体をわかっていたが、相手は自分を認識しているのか。
「だけど…」
 清闇の逡巡。
「絶対、殺させはしない」
 それは自分も含めて、誰も、だという歪の気迫。
「……」
 清闇が後を歪に任せる。
 直後、爆発が歪を包み込んだが、清闇とヌマブチは振り返らなかった。


 ヌマブチらが訪れた場所は、一見井戸のように見えた。だが中を覗いてあるのは水ではなく扉だ。
 厳密にはその場所は霧の発生源ではない。霧はこの島のあちこちから沸き出していた上に、地面の浅い部分には霧を定着させる静電プレートが敷き詰められていた。おかげで清闇はこの場所を見つけるのに思いの外時間がかかってしまったのだ。大きなエネルギーの滞留を誤認してしまうほど。
 扉の奥に、この霧を生み出すシステムがある。過去の遺物だ。これが何かを隠すために用意された防衛システムであるなら、その何かも未だ眠っている可能性がある。破壊することは簡単だが、破壊してたとえば毒ガスや細菌兵器のようなものであったら目も当てられない。
「撫子がいれば…」
 コンピューターにあまり自身のない顔で清闇が呟いた。ヌマブチも同じなのか頷いている。
 すると。
『撫子って子がいればいい?』
 突然、背後から声がした。
「え?」
 と振り返るが人影はない。
『なら、少し待ってて』
 その声に、ヌマブチと清闇は顔を見合わせた。 

 ▼

「撫子って、きみ?」
 コタロの手当を終えて人心地ついていた撫子にベヘルが声をかけた。
「え?」
「呼んでる」
 ベヘルは蒔也を追尾させていたスピーカーの一つに、蒔也と接触したヌマブチらを追尾させていたのだ。
「どういう…こと?」
「霧の発生源? …が見つかったらしい。きみの力が必要なんじゃないかな?」
「!?」
 それに撫子はロボットフォームのセクタン壱号を呼んだ。このメンバーで自分を呼ぶとしたら、そういうことなのだろう。だがコタロが心配で戸惑うように撫子はティーロを振り返った。
「でもぉ…」
「大丈夫だ。行って来い」
 ティーロが笑った。
「はい☆」
 ティーロを信じて撫子は頷く。
「あれを追えばいい」
 ベヘルがスピーカーで撫子を先導した。撫子が霧に消えるのを見送ってベヘルはティーロを振り返る。
「強がり?」
「うるせぇー、治癒魔法はちょっと苦手なんだよ」
 だけど自分よりも友を助ける方が優先された。


 ▼


 撫子がヌマブチと清闇の元を訪れる。
 清闇は切り離していた半身を取り戻した。
 壱号の力を借りてシステムにアクセスすると、霧の発生と静電プレートを止めさせる。
 後は。
 ほっておいても自然に霧は消えるだろうが。


 撫子が姿を消してからどれほどの時間が流れたのか。
「来るぞ」
 と、十三が言った。頬を撫でる風を感じる。それは次第に強さを増していった。
「うむ」
 と玖郎が羽を広げる。
「加減が出来ぬゆえ、頼む」
「ああ」
 飛翔する玖郎に「俺も手伝うよ」とティーロが前へ出た。
 十三はコタロとベヘルを守るように結界を張る。

 歪もその気配を感じていた。
 蒔也は感じる気もないのか。

 重く垂れ込めていた霧が皆の生み出した強風によって吹き飛ばされた。
「霧が…晴れた…?」
 その声に振り返る。
「コタロ! 気づいたのか!!」
 ティーロが思わず歓喜の声をあげた。撫子に早く知らせたくてベヘルの肩を叩く。

 島を覆っていた霧が晴れ、青い空が見えた。
 だが霧に潜む疑心暗鬼が晴れてもなお蒔也は攻撃をやめない。
 霧に意識を奪われていたのではなく、彼の意思だとでもいうのか。
「はい、おしまい」
 圧倒的な力が子供から玩具をとりあえげるように蒔也を拾い上げた。
「!?」
「清闇…」
 歪がその大きな影の気配を見上げる。何故だかなくなっていた彼の半分の気配を今はちゃんと感じ取ることが出来て歪はそっと相好を緩めた。


 さあ、帰ろう。



 ■End■

クリエイターコメント少々遅くなりましたが
無事(?)帰還となりました

とっても楽しんで書かせていただきました。
キャライメージなど、壊していない事を祈りつつ。
楽しんでいただければ嬉しいです。
公開日時2013-11-23(土) 12:30

 

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