ブルーインブルーは今日も青空爽やかいい天気。「ねぇねぇ、タコの海魔の討伐に行くっていうのはアナタ達ー??」 港に到着したロストナンバー6人は元気な声が迎えられた。声の主はパサパサの茶髪の漁師風の女性。 6人はサッと、世界司書シド・ビスタークに仕込まれてきたフォーメーションAに移行する。――説明しよう! フォーメーションAとは、アニキ世界司書シドにより考案された、「ブルーインブルーに居るらしいマッド生物学者アデリーナから人型じゃないロストナンバーを確実に護る為に、旅人の外套の効果を最大限発揮できるよう、とりあえずヤベェやつは後ろに隠しておけだって恐いし」というフォーメーションである。 とりあえず、今回の6人による陣形はこちらである。 ア 緋 ニ 撫 シ ユ 8 *今回は依頼の特性上、大事をとってNo.8を、一番後ろに配置することとする。――「ハイ! そうデス。アデリーナさんデスネ?」 中央のニッティが代表して答えた。 少々幼くはあるが、明るい笑顔が眼を惹く。ということで、中央に据えられた魔導師の少年である。「そそ! タコと言えばアタシ! ってことでもないんだけど、やっぱ一度変わったタコに会ってしまうと、気になって気になってオツマミにタコのマリネをついつい頼んでしまう……じゃなくて、やっぱり危ないわよねー討伐しないと!!」 胴付長靴姿のアデリーナは、そう言って片手を腰に当てた。もう片方の腕は白い布で吊っている。「あのぉその腕もタコに会った時に怪我されたんですか? とっても痛そう」 ニッティの右サイドを固める撫子が、そっと声をかける。バイトでの接客経験を生かした、感情のこもった表情に定評がある(フォーメーションの中で。)「ええ、たまたま岩場の調査をしていたら出食わしてね! かなり大きい上に、すばやくて攻撃的だったわ。なにより8本の足それぞれが違う色だなんて見たことが無かったし!」「はいはーい! じゃああの噂って本当なの??」 緋夏が真っ赤な髪を揺らしながら手をあげた。赤い瞳が興味……というより、食欲に輝く。「もっちろんよ! 8本の足はそれぞれ違う味がするの!!! アタシが齧りついて確かめたんだから、絶対よ!!!」「齧りついたりしたから、腕が折れたんじゃないかしらね」 龍人のシャニアはそう言いながらも嬉しそうに、隣のユーウォンに笑いかけた。もともと、海魔の噂を聞きつけ、図書館に持ちこんだのは彼女である。「タコの居るあたりなんだけど、海上はあまり波は高くないし、足場になるような浮島や岩場はいっぱいあるわ。 その分、あまり大きな船で近づけないから、船は2隻で行く予定よ」「一緒にいるっていう魚の海魔はどんなかんじなの?」 小型のドラゴンであるユーウォンがワクワクと声をかける。シドにはあまり発言をせず静かにしておけと言われていたが、すっかり忘れている。「えーっと、50cmくらいはあったかしらねぇ。歯が鋭くて噛みついてくるの。船員さんは結構齧られていたわねぇ。私にはあまり齧りついてこなかったんだけど……」 たぶんタコに齧りついていたからだ。「アタシ一応船に乗ってるけど、船酔いヒドイからそっとしといてね! でもって、タコの足楽しみにしてるから、ちゃんと取っといてね! 岩場に上がってから食べましょ!」「りょうっかい! いやー楽しみじゃねぇの、8色タコ足! うっまいといいなぁ!」 明るく請け負ったNo.8の足を、ロストナンバー一同はついつい見つめる。「やだ、えっち! どこ見てんのさ!!」 タコ足のスキュラであるNo.8がちょっと恥じらいを見せたところで――そもそも蛸海魔討伐の依頼ということだったので、最初から何度かこのやり取りはあった。だってやっぱりタコだし――ロストナンバー一同は二手に分かれて船に乗り込んだ。――出港!!=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>シャニア・ライズン(cshd3688)緋夏(curd9943)川原 撫子(cuee7619)No.8(cxhs1345)ユーウォン(cxtf9831)ニッティ・アーレハイン(cesv3578)=========
「うん、何でかNo.8さんもシャニアさんもあっちの船に乗ってっちゃったね」 『ええっ、8さんはこっちのふねっていってなかった!?」 金色の髪を爽やかに海風に流しながら、ニッティはアデリーナの居ない船でのんびりと釣り糸を垂らしていた。船速はさほど早くもなく、釣りにはもってこい。 アデリーナと別れてから呼び出した使い魔のカインは、前方を進む船をちらりと見て主人の影にうずくまった。今回の旅で一番アデリーナを怖がっていたのは、実のところローブを着た黒猫である使い魔カインである。 「釣り? エサは何にしたの?」 トテトテと人の子供の背丈ほどのオレンジの竜が歩きながら声をかけてきて、ニッティは笑顔に、カインはビクッと体を震わせてさらに小さくなった。 「エサはエビデス」 「そっかぁ虫ではないんだね」 「カインが怖がるノデ」 ユーウォンが90度に首をかしげてカインを覗き込む。 「ネコなのに?」 「使い魔デスからネ」 ニッティは笑ってカインを組んだ膝の上に乗っけてやりながら適当なことを返した。 「アデリーナさんスゴいデスね。骨折してるのに船に乗って先導するとか」 「しかも船酔いもするって」 「ユーウォンは大丈夫デス?」 「おれは酔ってきたら飛べばいいから」 「ナルホド!」 飛べばいいと言ったものの、ユーウォンは急激な環境変化に適応できる特殊能力がある。だから恐らく、そもそも船酔いというものはしないんじゃないかしら、とユーウォンは思っていた。 それでも飛べばいい、と言ってみたのは、目の前の少年が先ほどからキラキラとした目でユーウォンの衣服から覗く翼や尾を見つめているからだ。固定された釣り竿はまるで放置である。しかも怖がっているカインでさえ、チラチラとこちらを窺っている。 「……触りたい?」 ユーウォンはもったいぶって言ってみる。 ニッティは前のめりに大きくうなづいた。 「ゼヒ!」 得意げにユーウォンが傍らに屈むと、ニッティはそっとオレンジの鱗や羽根の被膜の感触を楽しんだ。ユーウォンがときどきプニプニひんやりとした感触が背中に当たるのを感じて目を細める。 「わー手も見せて下サイ。爪! 爪!!」 「ツメならぼくにもあるよ!」 突然大きな声で主張したカインは、自分の声の大きさにびっくりして、首を縮めた。 「じゃあきみの爪はおれに見せてね。あと肉球も」 「いいなぁーこの鱗いいなぁー爪の強度も申し分ないなぁーどっかに落ちてないかなぁー」 いつの間にやらニッティは頬ずりせん勢いでユーウォンの背中に尾の付け根あたりに張り付き、鱗を子細に検分しては熱いため息をついていた。戦鍛冶師の血が騒ぐ。 「牙とか爪とか、いやたて髪でもイイんデスけど、生え変わったりしません!?」 勢いにユーウォンはちょっと引いた。 「え、その組み合わせ。の、呪いにでも使うの?? おれ何か悪いことした??」 「いやいやいやいや、そんなコトに使うなんて モ ッ タ イ ナ イ !!」 「んんん、ちょっと前の船の様子を見てこようかな。8さんのことも気になるしー」 ふわりとユーウォンが飛び立ち、前の船へと飛んでいく。状況に適応した素晴らしい速度であった。 「ティー……」 カインは珍しく、自分の主人のことをじっとりとあきれたように見つめる。 「え、ボク?!」 黒猫はこくりとうなづく。 「うーん、ちょっと興奮しちゃったね。ここは何か釣って、お詫びをしないとなぁ」 釣り糸を上げて見ると餌の無くなった釣針だけが残っている。ニッティは口をへの字にした。 「今夜はタコ焼きタコ鍋タコスその他もろもろで決まりだね」 『ぜんぜんきまってないぃ~!』 カインは餌箱をタシタシと前足で叩いた。ニッティは仕方なく餌箱から新しいエビを取り出す。 「えー、じゃあカインには特別にタコケーキー!」 『そんなのみたこともないよぉ!』 「食える食える! I Gotta Believe!!」 『ティー!?』 メタでマイナーなネタを挟みつつ、時間はちょっと遡り、舞台は相対位置としては50mくらい前方に移る。 「アデリーナ、こっちで合ってるの? タコはまだー??」 緋夏が風で広がる赤い髪を疎ましげに押えながらアデリーナに聞く。 船主は特に風が強く、シャニアは帽子を深くかぶりなおして首の紐を締めた。 「あって……る……」 青空にも似た、いやそこの浮かぶ白い雲にも似た、ともかく顔色の悪いアデリーナがか細い声で答えた。 「フォーメーションB!」 さらに小さな声がしたかと思うと緋夏の後ろにNo.8がそっと現れ、緋夏の髪を自分と左右対称のサイドテールに仕上げた。 「おっサンキュー!」 「しーっ!」 大声でお礼を言ったら、No.8が神妙な顔で人差し指を口につけた。 ちなみにこのやりとり。シャニアやアデリーナからは丸見えである。 シャニアはその大げさすぎて不自然なNo.8の動作に苦笑しつつ、青い空と青い海原、心地よい潮風を堪能する。トレージャーハンターのシャニアは磯の香り漂う砂浜や岩場、長く波に晒された岩肌にできた洞窟。そういうのも勿論大好きだ。しかし何かが溜まったような香りがしない、海上の潮と空気だけでできた純粋な風もまたとても心地よい。 可愛らしい少年(ニッティのことである)とは別の船になってしまったが、このグッタリと弱り切ったアデリーナというのも、なかなか庇護力をそそるというか、可愛らしいものではないか。と思ったりしているシャニアである。 「何か飲みモノ持ってきましょうか?」 「レ……モン水……」 「フォーメーションB2!!」 No.8の声がすると、シャニアの後ろにレモン水を持ったNo.8が表れている。No.8はシャニアに後ろから顔を近づけると言った。 「あちらのお客様から、と、言え!」 「はい?!」 シャニアはびっくりしたが、良く冷えたグラスを受け取り「ごほん」と咳をしてから、アデリーナに言った。 「あの、あちらのお客様から……」 胸元に掲げられたグラスからシャニアの巨乳にしずくが落ち、緋夏がニヤニヤ言った。 「シャニアえろいなー!」 「悪……くない……ガクッ」 アデリーナはグラスを受け取ることなく、しずくの行方だけを目で追い力尽き。(乗り物酔いをしているときに小さいものを長く見つめちゃいけないよ! お姉さんとの約束だぞ!)とりあえずシャニアは焦った。 「え、え、アデリーナさーん!!」 「おお、おお、アデリーナが倒れちまえば私がコソコソする必要ないんじゃねぇの? やるなシャニアちゃん。ナイスお色気だぜ」 「道案内が倒れちゃってどうすんの? 早くタコに会いたいのにな!」 緋夏がシャニアの手からレモン水を奪い取り、一気に飲み干して酸っぱい顔をした。 「あっれぇ!? アデリーナさんが倒れている!! やっぱり船酔いと怪我が酷いの?!」 バサリと飛んで降りてきたユーウォンが驚いて全員の顔をきょろきょろと見渡す。緋夏は海の先のほうを見ていたし、シャニアは何だか困ったような顔をしていた。No.8がフフンとなぜか胸を反らし、代表して答えた。 「アデリーナはシャニアに悩殺されたんだぜ」 「ちょっとぉ! 違うってば!!」 「あーもうタコ食べたいよー! おなかすいたよー! もー!」 「ぎゃー! 齧るなバカ!!」 飢えた緋夏がNo.8の足を齧り、場はどんどんカオスになっていく。 「ねぇ、別に悩殺したんじゃないのよ、あたしは飲み物を渡そうとしただけで……! そもそもアデリーナは女の人だもん……!」 シャニアはユーウォンに必死に弁解をしてくる。 ユーウォンはシャニアが何をしたのかが少し気になりながらも、倒れたアデリーナに近づき顔や体をペタペタと触った。そして、ゆっくり首を振る。 その動作に、最悪の事態を想像した他の3人の顔が氷ついた。 「あ、いや、多分アデリーナは日射病だよ。暑い日にずっと外にいるとなるでしょう? 子供とか遊びに夢中になっちゃうと汗かけなくなっちゃって倒れちゃうんだよね」 『あぁ』 3人は頷いた。 「フォーメーションC!」 No.8の掛け声とともに、3人はささっとアデリーナを担ぎあげた。そして、ユーウォンが開けた船室のドアから中へ運び込み、船員に告げる。 「要介護者一人。日射病なので、冷やしたげてください」 「案内は大丈夫?」 確認をすると舵を取っていた船員が冷めた顔で言った。 「あ、ちゃんと海路決めてから来てるんで大丈夫ッス。アデリーナが上に居たのは○○袋を忘れたからなだけで」 全員がちょっとうんざりとした顔をした。 その頃、ニッティと後ろの船の船員が疑似餌を交換したりトローリング(船を走らせながら釣る方法)の手法を話し合ったり、さらにはニッティが漁具の改造にまで着手し、割と戦果を上げたりするほのぼのしたイベントもあったが、これは後ほど食卓に花を添えるまでは、特に語られることはなかった。 再度甲板に出て、マストに登ったNo.8が、件のタコを発見したのだ。 場所は聞いていた通り、波も穏やかな海域。 大小の岩が飛び出し、その中でも中央の一番大きな岩の上に、その大蛸はカラフルに鎮座ましましていた。 「わぁいタコ! って、でかすぎでショウ!?」 船を少し離れた岩場に係留し、一同は静かにひなたぼっこ(?)をするタコ海魔を眺めた。胴体は黒っぽく岩に擬態したような色だが、足がカラフルなので特に隠れているようにはほぼ見えない。色は赤、橙、黄、緑、青、紫、ピンク と一本だけ体と同じ黒。 「タコって目がいいんだったかしら?」 シャニアの問いにNo.8が答える。 「私はいいぜ。でもまぁ私はタコじゃなくてスキュラだかんな」 二人はそれぞれ自分のギアをポンと叩くとニヤリと笑いあった。 「ま、やってみましょ」 「オレンジューさんは火ぃ吹けないんだっけ? 誰か火ぃ持ってない?」 緋夏がユーウォンに聞く。 「今日は氷ばかりだよ。鮮度が大事だと思ってさ」 ユーウォンがちらりとカバンの中の氷かけらを見せる。それは一片一片がとても鋭い。 「炎の精霊魔法なら使えマスよ?」 ニッティが手を上げた。緋夏がふむ、とうなづく。 「じゃ、それちょっと出してよ。火種を体内に補給しておかないと、あんな大物とは戦れないかんね」 「た、食べちゃうんデス? 精霊は大丈夫かなぁ」 「大丈夫でしょーあとで出すし!!」 緋夏がバンッとニッティの背中を叩くので、ニッティは自らの右腕である魔装義手「レニアーティ」から火の精霊魔法を展開。目の前に渦巻く火球を生み出した。 念のため、魔術の中に精霊へのお詫びの祝詞を埋め込む。 「ははっ上等じゃん!」 緋夏はポーチからマッチ箱をひと掴み火球に投げ込むと、すっとその火を吸いこんだ。 「いざとなったら私のグレネードでもいけるんじゃね? ちょっと刺激的だけどさ!!」 No.8の言葉に緋夏が妖しげに笑みだけを返した。縛っていたはずの髪が解けてふわりと炎のように広がる。 「さてさて、ではあたしとNo.8でまず目くらましをかけるから、目ぇつぶっててね!」 「まぁ効くかわかんねーし、あとはとりあえず各自特攻ってことで!」 シャニアがトラベルギアの弓を構え、No.8がこちらもギアのベルトからスタングレネードを手に取りニヤリと八重歯を見せた。 「全色こんくらいずつは欲しいな」 「退治すればもっと食べられマスヨ!」 緋夏が飛び出しやすいように足場を整えながら手を広げるのに、ニッティが爽やかに答える。 「みんな食いしん坊だよね」 ユーウィンが人ごとの様に呟いた。 「ではいきます! 3!」 「2!」 「1!」 『ファイア!』 全員が強く目を閉じる。 しばし間。 ――カッ……!!! 瞼の裏に白い閃光を感じてから一息の後、各自岩場を足場に大蛸へと駆け出す。っと、 ――ザバァッ!!! 「ピラニア海魔!?」 今まで姿を見せなかったピラニア海魔が一斉に水面に飛び出す。 「えいっ」 ユーウォンがトラベルギアの鞄の内圧を上げて氷のつぶてでピラニアを落とす。 「バロッドゲイザー!」 ニッティが義手を翳すと青い魔方陣が生まれ、そこから勢いよく噴出した水がピラニアを吹き飛ばす。 その間にも大蛸は閃光弾が効いたか効かなかったのか、ずるずると足を動かしながら水中へ逃げようと体を海に運びだす。 「待て待て待てぇっ!!!!」 緋夏が口から吹き出した炎を銛状に成形し、大蛸に向かって投げつける。 ちりりっ。と足の端を焦がすも寸でのところでタコは海中に逃げた。 「ちょ、この食欲を誘うのはカレー臭……! さては一本はカレー味だな!!」 No.8がガッツポーズを作りながら高らかに叫んだ。 「ねぇ、ちょっと待って、ユーウォンが落とした以外のピラニア海魔が見当たらないわ。気をつけて!」 シャニアが叫んだ途端、ビュッと桃色の足がユーウォンの横を鞭のように通過する。 「速いけど、浅いところに来れば見えたよ!」 本体は見えない。が、足だけは海面に近づけば色があるので見える。 ニッティが足場近くを黒い足に叩かれるも辛うじて横に飛びかわす。 「黒いのは見えにくいデス!」 ――シュパッ その黒い足が海中へ引っ込む前に、シャニアのマーキング弾が補足する。 「誰か、追尾弾に合わせて攻撃を……ッキャッ!」 ピラニア海魔がシャニアの手元を狙い飛び出してくる。 「危ない!」 ユーウォンの鞄の隙間から氷片がキラリと光り、シャニアを襲うピラニアを落とす。 が、次はユーウォンの手元にピラニア海魔が飛び出してくる。 ――ゴッ 「おっと、焦って何も効果の無い手榴弾を投げてしまった! 勿体なかったか!?」 No.8がピラニアに投げた手榴弾は爆発もせず、ただピラニアにめりこみ、二つはそのまま海の中に落ちた。 「あらっ、なんか、あたし、狙われてる!?」 追尾弾を撃とうとギアを構えるシャニアにピラニア海魔が殺到しだしている。 「んん? なんでだなんでだ?? あたしにも魚を食べさせろよ!!」 緋夏が吹いた火を10指に嵌めた指輪で巧みに操り、シャニアの周りのピラニアを落とす。と、その手元に向かってもピラニアが飛んで来た。 「ははっいらっしゃーい!」 ガブリ。と、緋夏はピラニア海魔を食べてしまう。 「お腹壊しマセン?」 「大丈夫だろ」 カカと緋夏は笑って、小さく炎のゲップをした。 『ティー、ティー、ぴらにあ、ひかりにはんのうしてる、とおもう』 ニッティの背中に張り付いていたカインが小声で言う。 「ほんと?」 ニッティは左手の義手から小さな閃光を放つ。 ――びゅびゅっ!!! すかさずそこにピラニア海魔が飛びかかってきた。 「シャニア! 一度ギアを仕舞ってくだサイ!」 シャニアは疑問を顔に浮かべながらも一旦ギアを閉じた。 その途端、ピラニアの襲撃が止む。シャニアの弓型ギアに張られたレーザー状の弦にピラニア海魔が反応していたのだ。 「ピラニアは光に反応しマス!!」 その言葉に、全員が次の手を考えだす。 合間に海中の大蛸が飛ばしてくる墨を避け、時には緋夏が吐く炎で相殺した。 「シャニアは弓を出せないから、私だな! スタングレネード2,3個投げたるから飛び出したピラニアを一掃OK?」 No.8が両手に閃光弾を持ちニヤニヤする。 「同志討ちしないよう距離置きマショウ!」 「シャニアはギア以外の武器は?」 「ご心配には及ばないわよ!」 シャニアはナイフを逆手に持って、海面へ反射光が行かないように器用に掲げて見せる。 全員が最初に大蛸が居た大岩を中心に円になる。 「んじゃ、いっちょ。ぽいっとなー!」 No.8は器用に閃光弾を岩の周辺の海へ播いた。 ――カッ!!!! 青い海が再び白く発光する! ――ザバァッ!!! 「大漁大漁!!!」 ユーウォンの氷片が、シャニアのナイフが、ニッティの魔法が、緋夏の炎が…… 「そして私のサブマシンガンがぁ!!」 No.8が放つ弾丸が、飛び出したピラニアを掃射する。 「っと、ついでにお仲間発見!!!」 大蛸の頭部と海底との色身の違いを目ざとく発見したNo.8は、大蛸の頭部にワイヤーをひっかけることに成功する。 無理やり引っ張ると海中から水撃が飛んでくる! 「そいっ」 そこへ緋夏が駆け寄り間に入って炎を噴き出した。水撃が相殺される。 「ぎゃー熱い! 蒸し蛸になっちゃう……って私はスキュラだ!!!」 「さっき自分でもタコを仲間って言ってなかった?」 「そんなことは……たぶんない!」 「ま、いいけど」 緋夏はNo.8の懐を探るといくつか手榴弾を果物をもぐようにもぎとった。 「これ燃えるやつだよな?」 「んんん? 色んな手榴弾があるから気をつけろよ! でも大丈夫、全部あたりだ!」 「じゃいただきまーす」 緋夏はどういう構造になっているのか、手榴弾をパクリと口に入れ飲みこんでしまった。 火種の補給は万全になったようだ。 「ふぬぬぬぬ、重い、重いぞ、虹ダコめ…」 ギリギリとワイヤーを近場の岩に巻きつけるとNo.8はため息をついた。 「5人で持ち上がるのか?」 『ボクが』 ニッティの影からカインがトテと飛び出したかと思うと、着ている赤い衣・魔道具「ヘカトンケイルの衣」が光を放ちだす。 ――ぶわり 大きな力に全員に一瞬寒気が走った。 あたりを走った光の筋より巨大な獣毛の手が8つ、現れる。 それは大蛸の足の数と一緒ではあったが、手はカインが見えるものしか追えない。 まず一本がワイヤーを引き、残りの7本が色つきの腕を殴り、海底から引きはがそうとする。地面がゆれ、白波が起き、5人はそれぞれ姿勢を低くし、岩肌に捕まる。 「カイン、取れそう?」 『……んん、あと一本……』 そこで、ハッとニッティが顔を上げて叫ぶ。 「シャニア!!! 追尾弾!!!!!!」 シャニアが顔にかかる海水を払いながら大きく頷く。 「オーケー!」 カインが追えていない足はマーキング済の一本。この一撃が届けば大蛸を引き上げることが可能だ。 シャニアがギアをくみ上げ、レーザー状の弦を引く。 ――パシュンッ! 追尾弾は水の抵抗を諸共せず小気味良い音で海に潜っていった。 「あったしもー!」 それに緋夏が生み出した大きな炎の銛が後を追う。 ――ジュババッ 水が急に蒸発する鈍い音とともに、大蛸の体が海面をせり上げるように上がってくる。 心なしか本体が赤味を帯びている。 「アムネジアハンマー!!!!」 ニッティがトラベルギアである自身の背丈の2倍もあるハンマーを大蛸の頭に振り下ろす。メゴッと頭がへこみ蛸足から急激に力が抜けていく。 「まだ生きてるかもしれないけど、鮮度は保たなきゃね!! えーい全部撒いちゃえー!!」 ユーウォンが空から大蛸の足めがけて氷を多量に降らせる。 「ついでにとどめのグレネードー!!!」 せっせと、No.8が蛸の口の中に手榴弾を投げ込む。 ――ドーーーーーーーーン!!! ――ボタタタタタタタタタ 「げぇーなにこれぇー!!」 「黒いよう。なまぐさいようううう」 「たこ……すみ……」 「絶対余計ダッタ。余計ダッタ」 「うっさいなもー! 私大活躍だったでしょー!!」 No.8の余計な一撃で、大蛸の墨抜きは完了し、一同は真っ黒になった。 「本体と、同じ色だった足んとこはゆでダコカラーになっちゃったねー。でも氷で締まってて既に美味しいよ! あとカレー味なのはねぇ、黄色じゃなくって緑」 さっそくそのままかぶりついているユーウォンの報告にNo.8が地団太らしきものを踏む。 「先に食べるなぁ! しかしカレー味は何に合わせても美味しい。つまりピラニア海魔と合わせていただいてもイケるってことだぁ!!」 No.8はタコ足やピラニアを棒に刺し、火の上でひたすらグルグル回していた。 時々落ちる脂がジュウジュウと良い匂いや、何とも言えない匂いを発していた。ちょっと味の不安の足もあるようだ。 「シャニアさんタコ焼きできるんデス?? 絶対タコ焼きで食べたいと思ってたんデスヨ!!」 ニッティはシャニアの横でピョンピョンと子供らしく跳ねた。シャニアはその可愛らしさに内心デレデレする。 「あとタコケーキはないデスカ?」 『そんなのないぃ~!』 カインが、ニッティの足をタシタシと叩く。 「あら、大活躍のカインちゃん。でもタコケーキもイケるかもしれないわよ? この中に甘くてフルーティな足があったらだけど!!」 『やだぁ~~』 「って、ぎゃあああまたかぁああああオマエラ! っていうか、一匹増えてる!! スキュラの! 足は! 食うなぁああ!!!!!」 料理の進みに我慢できなくなった、ユーウォンと緋夏に足に噛みつかれNo.8が悲鳴を上げる。 「意外に普通のタコ味だね」 「ねー」 「普通のタコとかいうなぁ!」 No.8が叫び狂う。 「あなた達、良くやってくれたわね!!!」 船を岩場に寄せてからヨレヨレと降りてきたアデリーナも今はユーウォンの作った氷嚢を頭に乗っけつつも満足そうな笑顔を見せていた。 「バター炒めも良かったわよ! あと焼き蛸ね!! おにぎりも持ってきたから、網で軽く炙って一緒に食べるといいわよ!!」 米はブルーインブルーでも珍しい気がしたが、アデリーナはどこかの伝手で手に入れてわざわざ積んできたらしい。 「マリネができたわよ~! あとトマト煮。時々弟にも作ってあげてる料理なんだけど、今日は味見をしていません!!」 シャニアが晴れやかな笑顔で仕上がった料理を並べ出す。 「タコ焼きも盛りつけまシタ!」 ニッティはシャニアの作ったタコ焼きを大皿に丸く並べた。その雰囲気は見るからにロシアンタコ焼きの様相を呈している。 「緋夏ちゃんが火力を調整してくれたから、火加減はかんぺきよ!」 さぁさぁとばかりにシャニアが両手を広げるが一同は匂いや色味でどれが食べれる味なのか判断するのに忙しかった。 「No.8さんアーン」 「ん? なんだそのファンシーカラーなマリネは」 そう言いつつNo.8はニッティの差し出すピンクと水色のマリネを律義に口にした。 「ぶはっっ!!! なんだこれは、あまずっぱくホロ苦い青春の味……っつかマズーーーーい!!!!」 「8ちゃんの青春ってマズかったのね……」 シャニアはドライに頷いた。 「そんなに不味いかな? おれは結構イケると思うんだけど」 ユーウォンが自分の瞳の色と同じ蛸を口の中で砕きつつ首をかしげる。 「それより、オレンジューさん! こっちも焼けそうなんだよ。塩以外になんか味付けを頼む。あ、カレー味もなしな!」 「ん、じゃあおれの秘伝のスパイスを……」 「この流れで、ユーウォンに味付けを頼める8ちゃんも凄いわ……」 シャニアはみんなの反応を見ながらこっそり美味しいお皿と、ちょっとアレなお皿をテーブルの左右に分けていた。 「んーふぐふぬぬぬぬんぬぬぬぬぬんぬー!むぐぬぬぬぬぐんぬう!!(んーこの紫のって鶏肉みたい。トマト煮と凄い合う!)」 緋夏が口いっぱいにトマト煮を頬張り嬉しげに何事かしゃべった。 「ウハァ、やっぱりタイも普通のタコも美味しいデス、シャニアさんお刺身にしてくれてありがとうデス」 「いいえいいのよ、行きにこんなに釣ってるなんて、帰りも夜釣りにチャレンジしてみたら?」 「それもいいデスねー。あ、ネコがタコ食べたら力が抜けるって話なかったっけ?」 『それ、イカじゃないの?』 臆病なカインは大蛸料理は避けて、ニッティの釣った普通のタコや魚料理を食べている。美味しいらしく、心なしかウキウキしたようなカンジだ。 「ぶぇえええええ、マズいぞオレンジューさん!! スキュラとドラゴンの味覚はここまでも違うのか……!」 「え、そうかなーおいしいようなー」 「あたしは竜人だけど、8ちゃんの味覚を採用するわ」 ドタバタと。 夜は更けていく。 何度目かのハズレ料理で倒れたNo.8の足が、気づいたら数本減っていたりとトラブルもあったが、「ブルーインブルー・グルメ紀行 ~タコ編~」 概ね、大成功!!! (終)
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