オープニング

 霊山のようなチェンバーが、そこには聳え立っている。
 炊事から特訓まで、あるとあらゆる機能が揃っているそのチェンバー。

「修行するならここにおいで~魅惑の霊山でGOGOGO!~」
 通称「修行でGO」と呼ばれている。

 また今日も、このチェンバーを訪れる人々が居た。
 ある者は筋トレを。
 またある者は秘密の特訓を。
 はたまた仲間作りを。
 エトセトラ、エトセトラ。

 さあ来たれ、己の信念と誇りと肉体と、なんやかんやを持って。
 世界樹旅団との戦いに備えたり備えなかったりし、絆と体力を作り上げるのだ!
 因みに、必要なものは何でも用意できるのが、この「修行でGO」の嬉しいところでもある。

 張り切って参加して欲しい。「ターミナル体力作りの会」へと……!

=========
!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。


<参加予定者>

ガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロード(cpzt8399)
清闇(cdhx4395)
氏家 ミチル(cdte4998)
五十嵐 哲夫(cmhh4249)
桐島 怜生(cpyt4647)
舞原 絵奈(csss4616)
ハーヴェイ・イングラム(crmv5133)

=========

品目企画シナリオ 管理番号1969
クリエイター霜月玲守(wsba2220)
クリエイターコメント この度、担当させていただくことになりました、霜月玲守です。こんにちは。
 何でも用意が出来ている霊山でございます。体力や絆のレベルアップを図っちゃってください。
 皆様の、ハッスルマッスルプレイングを楽しみにしております。

参加者
五十嵐 哲夫(cmhh4249)ツーリスト 男 17歳 高校生
清闇(cdhx4395)ツーリスト 男 35歳 竜の武人
舞原 絵奈(csss4616)ツーリスト 女 16歳 半人前除霊師
ガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロード(cpzt8399)ツーリスト 男 29歳 機動騎士
桐島 怜生(cpyt4647)コンダクター 男 17歳 騒がしい大学生
氏家 ミチル(cdte4998)ツーリスト 女 18歳 楽団員
ハーヴェイ・イングラム(crmv5133)ツーリスト 男 24歳 騎士

ノベル

1.開会

「番号!」
 ガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロードは、ずらりと並んだ六人を目の前にし、声高々に言い放つ。
「1!」
と、五十嵐 哲夫。本格的な山篭り、と軽く滾っている。
「2」
と、清闇。結構集まっているな、とちらりと他のメンバーを見る。見知った顔もある。
「3!」
と、舞原 絵奈。今回の修行に、力いっぱい取り組むつもりだ。決意の炎が、目に宿っている。
「4ー!」
と、桐島 怜生。にかっと笑いながら、楽しい修行を目指すつもりだ。
「5っ!」
と、氏家 ミチル。ジャージ姿に身を包み、やる気に満ちている。
「6!」
と、ハーヴェイ・イングラム。背に負っている大きな袋から、何やら良い匂いが漂っている。
「そして、拙者で7である! 合計7名にて、修行をするのである!」
 ガルバリュートはそう言い、こほん、と一つ咳払いする。
「本日はお忙しい中、お集まりくださりまして、有難うございます。いやはや、こんなにも沢山の人に集まって貰えて、拙者は嬉しい限りである。これも皆、己の体を鍛えたい、もとい苛め抜きたい、いやはや己というが拙者の体をというか!」
「押忍! ガルバリュートさん達みたいに、筋肉つけられるよう頑張るッス!」
 ミチルが力強く頷く。
「ふむ、感心である!」
「いや、でも長くない? 話」
 感心するガルバリュートに、さらり、とハーヴェイが突っ込む。
「確かに長いな。早く修行とやらを始めようぜ」
 哲夫が更に言う。ガルバリュートは「馬鹿め!」と一蹴する。
「壱番世界の若者は、こうやって精神を鍛えておるそうだ。そう、耐久朝礼なのだ!」
「なるほど、そういうものがあるのだな」
 清闇がこくこくと頷く。
「いや、俺、初めて聞いたんだけど」
 怜生が、小首を傾げる。が、周りのメンバー達は頷いている。
 壱番世界を知るのは、怜生しかいない。怜生しか、突っ込めない。
「肉体を鍛錬するには、精神も鍛える必要がある。そして、健全なる精神は、健全なる肉体に宿る。この意味が、分かるか?」
 びし、と絵奈にガルバリュートは振る。
「わ、私が未熟だからですね。だから、私は一人前の戦士になれてなくて」
「そうだ! こうやって精神を鍛え、健全なる肉体に健全な精神を宿すのだ!」
「ふむ、健全ではない精神は、健全ではない肉体に宿るということか」
「確かにそうだが、そう言ってしまうとガルバリュートへの見方が変わってくるな」
 清闇の言葉に、思わずハーヴェイが答えてしまった。
「では、修行を始める! 尚、拙者は肉体を苛め抜くつもりなので、参加したいものは、拙者の所に来るように!」
 軽く息荒く言いつつ、ガルバリュートは挨拶を締める。
「とりあえず、寝床探したいな。温泉も!」
 うーん、と背伸びをしながら怜生は言う。
「温泉か、なかなか良い案ではないか」
 声に振り向けば、清闇がいる。怜生は「だろ?」といいながら、にやり、と笑う。
「温泉といえば、やっぱり混浴だよな! もしなかったら、作って貰おうかなぁ。もちろん、混浴で」
 ぐふふ、と笑いながら言う怜生の頭を、ぺしん、と絵奈がほんのり顔を赤らめながら叩く。
「な、何を考えているんですか!」
「何って、ほら、温泉といったらさ」
「うん、女の敵っスね!」
 弁明しようとするも、柔軟をしながら爽やかにミチルが突っ込む。
 そのやり取りを見て、清闇は「ふむ」と頷く。
「怜生は、女の敵だったか。また一つ勉強になったな」
「だから、違うっつーの!」
「俺は分かるぞ。ちょっとしたロマンだよな」
 哲夫がにやっと笑いながら言う。思わず怜生は「同士!」といいながら、ぐっと拳を握り締めた。
「なるほど、哲夫も加わる、と」
 清闇が更に付け加える。
「だから、もうそれはいいっつーの! とにかく、俺は寝床探しとくから」
 怜生が宿を探しに行こうとすると、ハーヴェイが「俺も行く」とついてきた。
「俺、色々食べ物持ってきてるんだ。これ、置いておきたいからさ」
「へぇ、何持ってきたんだ?」
「具沢山のBLTサンドとか、ベーコンとほうれん草のキッシュとか。あと、鮭とか梅干が入ったおにぎりとか、色々」
「旨そうだな」
「見た目は悪いけど、味は保証するぜ!」
 にかっとハーヴェイが笑う。
「あ、あれとか良くね?」
 目の前に建物を見つけ、怜生が言う。聳え立つのは、古き良き温泉旅館のような建物だ。
「いいんじゃないか。温泉もありそうだし」
 悪戯っぽく、ハーヴェイは言う。
「だよなぁ。でも、全力で阻止されそうだけど」
 苦笑交じりに、怜生は答えた。
「修行を、始めるぞ!」
 ガルバリュートの大声が響く。怜生とハーヴェイは顔を見合わせ、駆け足交じりに宿へと向かうのだった。


2.午前の修行

「集合!」
 ガルバリュートが叫ぶ。目の前には、ずらりとメンバーが並んでいる。ガルバリュートは嬉しそうに見回し、怜生とハーヴェイが居ないことに気付く。
「あの二人は、どうしたんだ?」
「ちょっと遅れたか。ごめんごめん」
 軽い感じで、怜生が現れる。何か棒のようなものをポケットに入れて。
「時間厳守である! 時間も守れないでどうするのだ、この鈍亀野郎!」
「うーん、厳しいな」
 ハーヴェイが苦笑交じりに言うと、はっと気付いたようにガルバリュートが口を開く。
「や、やっぱりそれ拙者で!」
「この鈍亀野郎ー」
 びしっ!
 棒読みと共に、びしっと鞭がしなる。持ち主は、怜生。
「怜生、何故そのようなものを」
 清闇が尋ねると、怜生は「うーん」と言ってから、真顔で答える。
「なんとなく?」
「むむ、耐える修行であるな? な、なんという!」
 ガルバリュートの息が、ちょっと荒い。
「それで、修行はどうなったっスか?」
 ミチルの問いに、ガルバリュートは「あ」と声を上げる。一つ咳払いをしてから、再び皆になおった。
「これから、己の肉体のみで千尋の谷を降りきってもらう!」
 ガルバリュートが指差すのは、皆の真後ろ。思わず振り返れば、中々に深い谷が広がっている。
「……これ、降りるのかよ?」
 ひゅう、と哲夫が言う。谷底は暗くて遠くてよく見えない。
「さすが、厳しい修行ですね」
 ごくり、と絵奈がつばを飲み込む。
「自由落下で浮遊感を楽しむもよし、突出部を転がりブレーキをかけつつ降りるもよし」
「なるほど、浮遊感」
「いや、飛べないだろ」
 ぽん、と手を打つ清闇に、思わず突っ込むハーヴェイ。
「さあ野郎共、張り切って行くのだ!」
「押忍! ガルバリュートさん達みたいに、頑張るッス!」
 ミチルが、うおおおお、と叫びながら一歩踏み出す。ものすごい速さで、両足を交互に動かして駆け降りている。かろうじて地に足が着いている、とも言う。
「じゃあ、俺も行くかー!」
 うし、と気合を込めてから、哲夫が駆け出す。駆け降りるというよりも、トーントーンと軽く飛びながら降りているようにも見える。
「さあ、次はどいつだ! 愚図愚図していたら、日が暮れてしまうだろう! さあ、さっさと飛びやがれ、この豚野郎! いや、拙者」
「豚野郎ー」
 びしっ!
 すかさず入る、怜生の突っ込み鞭。
「じゃ、じゃあ私もいきますっ!」
 絵奈がきゅと両手を握り締め、駆け出す。何度かごろりとこけつつも、気合で起き上がって駆け降りてゆく。
「じゃあ、俺も行こうかな」
 うーん、と伸びをしながらハーヴェイは言い、飛び出す。おっとっと、とたまにバランスを崩しつつも、軽快に降りてゆく。
「さあ、次は誰だ!」
「では、俺が」
「いってらっしゃーい」
 行こうとする清闇に、怜生は手を振る。
「おまえは行かないのか?」
「俺、楽しい修行をしに来たから」
「ぐぬう、そんな貧弱な思考でどうする! 拙者のこれを見よ!」
 ガルバリュートは叫び、とう、という掛け声と共に崖に向かって飛ぶ。
 まるで水泳の飛び込みのような、美しいフォームだ!
「わわ、何してるんだよ!」
 飛び込んできたガルバリュートにぶつかりそうになり、慌てて哲夫が避ける。
「ふははは、これぞ拙者の修行だ!」
「カッコイイ、カッコイイッスよ!」
 ミチルが目を輝かせながら褒め称える。
「私も、頑張らなきゃ!」
 体勢を崩しつつ下る絵奈が、決意を込めて言う。
「あそこまでやるのは、どうかと思うんだけどな」
 冷静に言う、ハーヴェイ。
「フィニッシュ!」
 ガルバリュートは叫び、全身の筋肉を緊張させる。イメージとしては、鋼鉄やゴム。それにより、ガルバリュートの筋肉はガチガチに緊張し、そして。

――ダブグッ!

 言葉では言い表しがたい、しかし明らかに重たく硬いものが地に叩きつけられた音が響いた。降りていた者たちは地面でびくびくと震えるガルバリュートを見つめつつ、己のペースで降りてゆく。
 折り損ねた清闇と、傍観者となっている怜生は、崖上から覗き込んでいる。
「だ、大丈夫ですか?」
 絵奈が駆け寄り、震えるガルバリュートに尋ねる。
「……だ」
「え?」
 思わず、絵奈は聞き返す。
「あと、2セットだ!」
 がばっ、と起き上がりながら、ガルバリュートは叫ぶ。思わず、一同はぽかんとしてしまう。
「何を呆然としているのだ! 拙者の言う事が聞こえんのか。そんな生ぬるい頭でどうする! ぬるま湯にひたりきった、カピバラか!」
「可愛いな」
 ぽつり、と怜生。
「もちろん、崖上に登るまでも修行だ! しかと登り詰めるように!」
「マジかよ。きっついな」
 哲夫が見上げながら言う。崖は上から見たのとはまた違うように見える。
 傾斜が、殆ど無いように見えるのだ。
「よじ登るしかなさそうだな」
 ふう、とハーヴェイが苦笑混じりに言う。
「でもそれが修行なんですよね。私、頑張ります!」
 ぐっと握り拳を作りつつ、絵奈が言う。
「うおおおお、燃えてきたッスよ!」
 ミチルは叫び、トントンとその場で足踏みをした後、勢いづけて崖を登ってゆく。
「おお、凄いな!」
 感心したように言う哲夫に、ミチルは「あきらめずに挑戦ッスよ!」と答える。
「足腰の鍛錬と、体力をつける為ッス! 同行も歓迎ッスよ!」
「……よっしゃ、じゃあ俺も!」
 うおおお、と哲夫がそれに続く。「筋トレはいつもやってっけど、これはきついな!」
「いつもやってるッスか!」
「おお、使わないと衰えるじゃん……ぞっとしねぇ?」
「するッスね!」
「ぷよぷよだとモテねぇし!」
「確かに、それもそうッス!」
 二人は話しながら駆け上がってゆく。そうして、いつの間にか崖の上へと到着する。
「精神修行とかも良いッスよね! 例えば、滝に打たれるとか」
「それは凄いな。でも、滝って結構水圧凄いんだぜ?」
「いやいや、負けないッスよ!」
 崖の上に到着したにもかかわらず、哲夫とミチルは話しながら駆けて行く。
「あと2セットと、ガルバリュートは言ってたが」
 清闇が駆け抜けてゆく二人の背中を見つめ、ぽつりと言う。
「いいじゃねぇか、楽しそうだし」
 怜生がそういったところで、ずざざざざ、と良い音が下から響く。
 絵奈が登っていた途中で、足を滑らせてしまったのだ。
「大丈夫か?」
 ハーヴェイが慌てて駆け寄る。絵奈は「はい」と答え、ぱんぱんと体についた土ぼこりを払う。
「私、これくらい乗り越えられなきゃいけないんです。いつまで経っても、半人前のままになっちゃうから」
「無理は、してないか?」
 ハーヴェイの問いに、絵奈はにっこりと笑う。本当は、既に体がしんどい。崖を駆け降り、駆け上ろうとして滑り落ちたのだ。
 だが、多少の無理は覚悟の上だ。何処までも着いていこうと決めていた。周囲に気を遣わせぬように、気をつけつつ。
「大丈夫です。さあ、行きますよ!」
「……おう、あんまり無理はしすぎんなよ」
 ぽん、とハーヴェイは絵奈の背を叩きながら言う。
「さあさあ、早く行くのだ! 拙者が先に行ってしまうぞ! 本当は最後に行って『結局最後じゃないか、この豚野郎!』と罵られたいのだが、先に行ってしまったらやはり言ってもらえないだろうな。やっぱり最後で!」
 息荒く早口で叫ぶ、ガルバリュート。
「相変わらずだな」
 苦笑交じりに、しかしどこか楽しそうに怜生は鞭を握り締める。
「お前も相変わらずだな」
 半ば感心したように言う、清闇。
「ふははは、早く行くのだ!」
 ハァハァと息が荒いまま、絵奈とハーヴェイを追い立てるガルバリュート。
「わわ、ちょっと待てよ!」
「はい、頑張ります!」
 慌てて駆け上ってゆく、ハーヴェイと絵奈。
「次は俺も行くか」
 清闇が言うと、怜生は「頑張れー」と手を振る。やはり、怜生は傍観するようだ。
「そういえば、ミチルと哲夫はどこまで行っ」

――ンモーーー!!

 突如響き渡った牛(?)の泣き声に、怜生は言いかけた言葉を飲み込む。
 少しばかし、遠くまで行ってしまっているようだ。
 おそらくは、野生の牛がいる辺りまで。


3.昼食

 チャイムが鳴り響く。
「おお、昼ご飯であるぞ!」
 はぁはぁと息切らしつつ、ガルバリュートが言う。
「俺、新しい世界の扉開きかけてたわ」
 鞭を手にしたまま、怜生は言う。良い汗かいた、と爽快な笑顔を出した後、はっと気付いたのである。
 思いとどめてくれたチャイム音に、感謝すら抱く。
「良い笑顔だったぞ、怜生」
 清闇が真顔で言う。
「も、もうお昼なんですね」
 崖から這い上がりつつ、絵奈が言う。到着した途端、とてん、とその場に座り込んでしまった。
「あっという間だったな」
 そんな絵奈に手を差し伸べつつ、ハーヴェイは言う。
「お昼ッスか!」
 どどどど、と巨大なものを担ぎながら、ミチルと哲夫もやってきた。
「それは、どうしたのだ?」
「ああ、襲ってこられたから、ちょっと倒してみた」
 ガルバリュートの問いに、哲夫が答える。
 二人が抱えているのは、牛。見事な角を生やしている。
「ふむ、昼はバーベキューであるな! 一狩いかれたからには、こうしてはいられない。握り飯を作らねば!」
 ガルバリュートはうきうきと宿の方へと向かっていく。
「ハーヴェイ、料理取に行こうぜ。俺も、作りたいし」
 怜生の誘いに、ハーヴェイは「ああ」と頷く。修行前に宿へと置いておいたものをとりに行くのだ。
「自分も手伝うッスよ」
 ミチルの言葉に、怜生は「おお」と答える。
「材料とか道具とか持ってくるからよ、そうしたら手伝ってくれよ」
「押忍ッ!」
「あ、私も、お手伝いを」
 へろへろ、と絵奈が手を挙げる。
「怜生とハーヴェイが来るまで、休んでいたらどうだ?」
 清闇の言葉に、絵奈は少し照れたように笑い「じゃあ、ちょっとだけ」と答えた。
 哲夫は横たわる牛を見下ろしつつ、思い返す。
 ミチルと二人、牛と戦った。その際、トラベルギアが発動した。哲夫のトラベルギアであるルービックキューブは、ヴヴ、と震えて起動しようとした。
「気合、なのか?」
 ぽつりと呟く。起動法が未だに分からない。図柄に秘密があるのかとも思ったが、良く分からないままだ。
 だからこそ、震えて起動しようとした際、驚いてしまった訳で。
「止め方すら分からないもんなぁ」
 はぁ、と哲夫が溜息をついたところで、怜生とハーヴェイが料理や材料、道具などを持ってやってきた。その後ろからは、妙に硬そうなお握りを持ったガルバリュートもいる。
「硬く、硬~~~~~く握っておいた! さあ食べるのも体力を使うであろう、握り飯だ!」
「うん、それ、俺はいいや」
 じゅうう、とバーベキューの野菜を焼きつつ、さらりと怜生が言う。
「うぬう、放置プレイか。それもまたたまらんのである!」
 ほぅ、とどこか嬉しそうなガルバリュート。
「私は戴きます! 修行ですものね、修行!」
 絵奈は、ずしりと重たい握り飯を見つめつつ、呪文のように「修行修行」と繰り返す。
「牛は、どう捌いたら良いッスかねぇ?」
 ミチルが言うと、牛はあっという間に肉に変わる。
「便利だな!」
 隣でその様子を見た哲夫が、思わず突っ込む。
「でも、良かったです。私、捌く自信なんてありませんでしたから」
 ほっとしたように、絵奈が言う。
「いや、この場にいる殆どが、自信はないと思うぜ」
 作ってきたサンドイッチ等を広げながら、ハーヴェイは言う。
「……なるほど、そこで俺か」
「あるのかよ!」
 ごくりと唾を飲み込みながら言う清闇に、びしっと怜生は突っ込む。
 皆でわいわいと、楽しい雰囲気が漂う。
「あ、足りなかったら言って欲しいッス! 自分、補充しにいくッスよ」
「疲れてないのか?」
 哲夫の問いに、ミチルはにっこりと笑う。
「疲れてても、大丈夫ッス! 自分には、回復アイテムあるッスから」
「そんなものがあるのか。どんなアイテムなんだ?」
 ハーヴェイが興味深そうに尋ねると、ミチルは「へへー」と笑いながら、ポケットからハンカチの入ったビニール袋を取り出す。
「これ、先生に借りたハンカチなんスよ。この匂いを嗅げば、色んなものがスゲー回復するッス」
「素敵な先生ですね。修行を頑張れって、ハンカチを貸してくださるなんて」
 絵奈が尊敬の念を抱きつつ言うと、ミチルはあっさりと「無断ッス」と答える。
「無断で、借りてきたんですか?」
「先生の忠犬ッスから」
 にかっと笑う。いっそ清々しい。
「あ、これ、うまっ」
 哲夫がBLTサンドを口にしてもらす。すると、嬉しそうにハーヴェイが笑う。
「味には自信あるからな」
「確かに美味い……はっ、修行にはならんではないか!」
 もぐもぐとガルバリュートはおにぎりを食べ、気付く。そして、自ら作った握り飯を掴む。

――硬い!

「顎、鍛えられてる気がします」
 絵奈が苦労しつつ、ガルバリュートの握り飯を頬張る。
「ほいほい、肉焼けたぞー」
 バーベキューの肉をトングで掲げつつ、怜生が言う。
「よし、怜生。この皿に入れてくれ」
 ずい、と清闇が皿を差し出す。それを見て、我も我もと皿が出てくる。
「へふはいまふー」
 絵奈が握り飯を頬張りつつ、手伝いを申し出る。怜生は「おう」と答え、トングを絵奈にも渡す。
 かくして、昼ご飯は嵐のように過ぎ去るのだった。


4.午後の修行

 昼食と片づけを終え、ガルバリュートは「さて!」と叫ぶ。
「午後からの鍛錬を始めるのである!」
 ガルバリュートはそういうと、皆を連れて山の前に立った。
 針が沢山立っている。いわゆる、針山。
「……痛そうだな」
 ぽつり、とハーヴェイが言う。
「ここで、模擬死合をやってもらうのである! 騎士として名乗り、己の持てる限りの能力を駆使し、戦って貰おう!」
「針の山の意図は?」
「己を苛め抜くことこそが、開眼への第一歩なのである!」
 哲夫の問いに、堂々とガルバリュートが答える。
「自分が痛いのがいいからっていう、理由ではなく?」
「……内緒なのである!」
 怜生の問いに、やや間を持って答えるガルバリュート。
「なかなかに辛そうな試練ッスね。でも、これがあるから大丈夫ッスよ」
 ビニール袋を握り締めるミチル。
「これくらいの覚悟がなければ、いけないんですね」
 ごくり、と喉を鳴らす絵奈。
「なんだか大変そうなことになってるけど、皆頑張ってくれよー」
「参加しないのか? 哲夫」
 清闇に問われ、哲夫はこっくりと頷く。
「やっぱ、こういうのは観戦するのが楽しいからな。勉強にもなるし」
「なるほど。俺もこういうのは参加じゃなく、観戦にするか」
「あれ、清闇。参加しねーの?」
 拍子抜けした顔で怜生が言うと、清闇はにやりと笑うだけだった。
「さあ、第一試合は、誰から始めるのであるか? やはりここは拙者が」
「私、いきます!」
「じゃあ、俺が相手になるぜ。女の子だからって、容赦しないからな」
「もちろんです!」
 絵奈とハーヴェイが、正面に立つ。ガルバリュートが少し寂しそうだ。だが、すぐに「放置プレイであるな?」と気付いて軽く興奮する。
 絵奈とハーヴェイは、それぞれ武器を手にする。絵奈は短剣を、ハーヴェイはバスターソードを。
「始め!」
 掛け声と共に、二人は動く。
 絵奈は短剣を武器にし、体術も交えつつ戦う。魔力を武器に纏わせているが、陣は用いていない。地面に触れて念じるだけで出現し、陣の中にいる者の能力を増幅することが可能ではあるが、今回はあくまでも修行である。攻撃のための魔力は使うが、陣は使わないと決めていたのだ。
 ハーヴェイは、バスターソードと体術を組み合わせて戦う。剣舞にも似ている。
「あっ」
 絵奈の突き出した短剣を、ハーヴェイが弾く。絵奈は慌ててハーヴェイと距離をとり、体勢を立て直そうとする。
「させるか!」
 ハーヴェイはあえて近づくことはせず、炎の魔法を放つ。絵奈は飛んでくる火の玉を避けつつ、一つ息を吐き出す。
「まだまだ、行きますよ!」
 絵奈は短剣を握り締め、地を蹴る。ハーヴェイは火の魔法を剣に纏わりつかせ、すばやく繰り出される短剣からの攻撃をいなしてゆく。それと同時に、火の粉がひらひらと二人の周りを飛び散ってゆく。
「これで、どうだ!」
 ガキン! と、よりいっそう大きな音が響き渡る。ハーヴェイが、力いっぱい絵奈の短剣に振りかざしたのだ。より強く重い衝撃に、思わず絵奈は短剣を手放す。
 それに少しだけ息を漏らしたハーヴェイに、絵奈からの拳が繰り出される。一瞬の判断で、絵奈は短剣から体術への攻撃へと変えたのだ。
「まだまだぁ!」
 絵奈はハーヴェイが体術への対応をする前に、次々に魔力を纏わりつかせた拳を繰り出してゆく。それらをハーヴェイは剣で受ける。
 まるで、二人は踊っているかのように見える。
「二人のギアは、がっつり武器なんだな」
 観戦しつつ、哲夫は呟くように言う。
「短剣はリーチが短いがスピードが出る、バスターソードはリーチが長く重量もあるが、短剣に比べるとスピードにやや劣る。まあ、それぞれの短所を補う様に、魔力を纏わりつかせたり体術を組み合わせて対応したりしているようだな」
 ふむ、と哲夫は分析する。そして「これがギア、だよな」と付け加える。
「ガルバリュートさん、自分と手合わせして欲しいッス! ガイシャス!」
 二人の試合を見ていたミチルが、ガルバリュートにいう。ガルバリュートは「もちろんなのである!」と答え、構える。
「あっちでもやるみたいだな」
 怜生が言うと、清闇が「ふむ」と頷く。
 ガルバリュートとミチルが対峙する。
「我が名は、ガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロード! あるガにあの誇り高き騎士にて姫の忠実なる守護者!」
 ガキン、と力強くランスを地に突き立てる。名乗りの声が響き渡り、心地良い。
「自分は、氏家 ミチルッス! ガイシャス!」
 ぺこん、とミチルは竹刀を握り締めて頭を下げる。こちらもガルバリュートに負けぬ大声である。
「では、構えよ!」
「押忍ッ!」
 ランスと竹刀が、先端で触れる。沈黙の中、二人は動かない。号令待ちとも思える光景だったが、別に号令を待っているわけではない。
 互いに、動きを見ているのである。
「……押忍!」
 先に動いたのは、ミチル。竹刀でランスを振り払い、地を蹴って突き進む。ガルバリュートはランスを構え、受け止める体勢を取る。
 ガキンッという重い音が響く。ミチルの竹刀を、ランスで受け止めた形だ。
「なるほど、なかなか重みがある!」
 ガルバリュートは「ふんっ!」と大きく息を吐き出し、ミチルの竹刀を振り払う。ミチルは竹刀と共に飛ばされ、受身を取った。
「中々良い踏み込みである!」
「アザス!」
 ガルバリュートは「HAHAHA!」と笑い、ランスを振りかざす。
「わっ」
 ガルバリュートの重い一撃を辛うじて避け、ミチルは声を上げる。ランスは地面をえぐり、辺りの針がばきばきと折れてしまっている。
「こっちも中々の戦いだな。ランスと竹刀はそれぞれ攻撃力がありそうだ。ランスのほうはガルバリュート自体が力があるから、余計に攻撃力が上がってる」
 哲夫が分析していると、ミチルは「行くッスよ!」と竹刀を構える。ガルバリュートから距離をとったままで。
「はぁ!」
 力を込め、ミチルは竹刀を振りかざす。ミチルの声を乗せた竹刀は、離れた場所にいるガルバリュートに一撃加える。
「……声が、竹刀の力になっているのか!」
 ほう、と哲夫は感心したように声を上げる。
「なぁ、清闇。手合わせしてくれないか?」
 哲夫の隣に居た怜生が、清闇に声をかける。「ん?」と尋ね返す清闇に、怜生は言葉を続ける。
「良い機会だし……俺が全力を出しても、敵わないじゃん? だから、生死を考えずに済むし」
「なるほど、分かった」
 こっくりと、清闇は頷く。
「え、いいのか?」
 怜生が言った途端、清闇は「ちょっと出て来いよ、太郎」という。
 清闇が声をかけた途端、太郎と呼ばれる赤虎が姿を表す。首は三つ、全長は五メートル。
「あのー……清闇さん?」
「太郎、行け!」
 ガオ、と太郎は答え、怜生へと向かってゆく。
「ちょちょちょ、清闇!」
「あーうっかりうっかり」
「嘘つけ、明らかにわざとだろうが!」
 怜生は構え、拳を握り締める。はぁぁ、と氣を拳に込めてゆく。蓄積が長いほど、威力は上がってゆく。
「ギリギリまで、溜め込んでやるぜ!」
 太郎が真っ直ぐに怜生に向かってきている。清闇が「のびのびと体を動かす」事のできる相手ということは、怜生も本気でかからなければいけない相手ということにもなる。
「くっそぉ!」
 怜生は溜め込んだ氣を両の拳に溜め込み、太郎が飛び掛る瞬間に放つ。氣を浴びた太郎は少しだけ体勢を崩したが、すぐに受身を取って再び向かってくる。
「怜生のギアは、手甲と足甲か。氣を用いているから、本人に合っているギアといえるな」
 哲夫はそういった後、清闇を見る。清闇は、皆が戦う様子を見て、静かに笑んでいるように見えた。
「ん? どうした」
 視線に気付き、清闇は問う。
「なんだか、楽しそうに見えたんだ」
「そうだな。こうして皆が鍛錬している様子を見るのは良いもんだ。昔を思い出すからな」
 清闇は思い出す。
 自分が守護していた王家の子らを。明日を生きるために立ち向かっていた、命たちを。
「よし、続けて相手を変えて、もう一試合するのである!」
 ガルバリュートが、声高々に宣言する。試合をしていた者たちは一息ついた後、今度は相手を変えて試合へと挑む。
「怜生、太郎の動きをもっと見た方がいいぞ」
 清闇がアドバイスを入れる。
「ああ、そうだなって……また俺は太郎かよ!」
 怜生の突っ込みが響き渡る。
 最終的には、哲夫と清闇を除く五人で総当たり戦が行われた。清闇は途中、太郎とじゃれあい(傍から見ると殺し合い)もしていたが。
「……ギア、か」
 皆の戦いを見つつ、哲夫が呟く。
「さっぱりわからねぇ。トラベルギアってのは、持ち主に一番合ってる武器なんだろ? これのどこが俺向きなんだ?」
 自らのギアを思い出しつつ、哲夫が言う。
 ルービックキューブ。
 未だに使用方法が分からない。牛との対決時を思い出せば、起動方法は見当がついた。

――気合。

 手に力を込めた際、ヴヴヴ、と震えた。だからこそ、起動方法はそれに思えた。
 どう使用するかは分からないが。
 哲夫は溜息を一つついたのち、目の前で繰り広げられる戦いへと視線を移す。
 何か野次でも飛ばしてやろうかな、と苦笑交じりに呟きつつ。


5.閉会

 どこからか、カラスの声が聞こえた。
 空は真っ赤に染まっている。
「これにてっ、終了っ!」
 息を切らしつつ、ガルバリュートは叫ぶ。
 一同はそれを聞き、その場にごろんと横になった。
「よーし、温泉だー!」
 一番に怜生が叫ぶ。
「噂の混浴か?」
「それは無いッス!」
 にやりと笑うハーヴェイに、笑顔で答えるミチル。
「よくここまで修行に耐えた! 皆、頑張ったのである!」
「はいっ、ありがとう、ございます!」
 ガルバリュートの言葉に、絵奈が起き上がって礼を言う。
「うむ、皆それぞれに能力アップができたんじゃないか?」
 清闇の問いに、一同は顔を見合わせる。ガルバリュートは嬉しそうにこくこくと頷く。
「では、一人ずつ成果を言って貰おう!」
「俺は……とりあえず、トラベルギアの起動法は分かった気がする」
 哲夫が言う。
 午後からの模擬試合に参加してないため、比較的体力が残っているようだ。皆の動きを観察したりしていたため、精神的に疲れはあるようだが。
「私は、その……強くなってたら、嬉しいんですが」
 絵奈が申し訳なさそうに口を開く。
「だが、魔力は相当なのではないか?」
「え?」
 清闇の指摘に、絵奈は小首を傾げる。
「ふむ、確かに。体力はもう無いようだが、魔力はまだ尽きていないのではないか?」
 ガルバリュートにも言われ、絵奈は気付く。
「私……確かに、まだ、魔力が」
 そっと微笑みながら、絵奈は言う。
「俺は、たぶん基礎体力が上がった! はず」
 ハーヴェイはそう言って起き上がり、笑う。あれだけ動いたのに、まだ動けるのだから。
「自分は、体力と精神が鍛えられたッスよ! これも、先生のおかげッス」
 ミチルはそう言い、ポケットのハンカチを取り出す。
「これのおかげッスよ……先生ってば、でへへ」
「精神力が鍛えられたか、ちょっと疑問になる発言だな」
 真顔で、ハーヴェイが突っ込む。
「俺は、そうだなぁ……良く分からないけど、夕飯の献立が浮かぶくらいには」
「お母さんレベルが上がったのだな?」
「そんなレベルあるのかよ!」
 うんうんと頷く清闇に、怜生が頭をがしがしと掻いた。
「うむ、皆それぞれがレベルアップできて、何よりなのである! これで今日の修行は終わりだ、存分に夕飯を食べ、風呂につかり、眠るのである!」
 ガルバリュートの言葉に、皆が「おお」と手を叩く。
「……ちょっと待て。今日の、という言葉、おかしくないか?」
 ふと、哲夫が気付いて言う。
「そういえばそうッスね」
 ミチルも頷く。
「明日もやる気なのか?」
 直球で尋ねる清闇に、ガルバリュートは「もちろん!」と答える。
「本日は逆さ吊りで就寝するのだ! 今から興奮するのである!」
 ハァハァというガルバリュートに、怜生は鞭を取り出して叩く。
「この、ブタ野郎!」
「ああ、もっと!」
「あ、でも、それくらいやらないと、レベルアップできないということですね」
 真顔で言う絵奈に、ハーヴェイが「そんなことないぜ」と真顔で答える。
「とにかく、今日は終了なのである! しかし、これからも対旅団組織として、修行を重ねてゆくのだ。次回は、明日!」
「だから、早いっつーの!」
 びしっ。怜生の鞭と共に、哲夫が突っ込む。
 一同に笑いが起こった。
 次回が明日本当に行われるかは分からないが、皆これから夕飯を和気藹々と取り、風呂に入り、泥のように眠るだろう事は間違いがない。
「さあ、夕飯作るか」
 怜生の言葉に、ハーヴェイと絵奈、ミチルが手伝いを申し出る。
「拙者も、握り飯を」
「今日の修行終わったし、それはもう良いんじゃないか?」
 ガルバリュートの言葉を遮って言う哲夫に、ガルバリュートはどこかしら嬉しそうに「最後まで言わせて欲しいのである!」と答える。
 そんな様子を見ながら、清闇は「おっと」といいながら、手招きをする。
 そちらでは、召喚したままだった太郎が、月に向かって吼えているのであった。


<月に吼える声を聞きつつ・修行終了!>

クリエイターコメント この度は企画シナリオの執筆機会を戴きまして、有難うございました。
 少しでも楽しんでくださると、嬉しいです。
 ハッスルマッスルできまして、私自身は大変楽しかったです。

 それでは、またお会いできるその時まで。
 
公開日時2012-07-02(月) 21:40

 

このライターへメールを送る

 

ページトップへ

螺旋特急ロストレイル

ユーザーログイン

これまでのあらすじ

初めての方はこちらから

ゲームマニュアル