オープニング

 その日、ユーウォンはターミナルの道を歩いていた。今日は目的地までトラムに乗らず自分の足で歩きたい。なんとなくそんな気分の日だったのだ。
 そして、通り過ぎる人たちの中に、見覚えのある顔を見つけた。
 鍛えられた体付きの金髪碧眼の男、様々な人種が入り乱れるターミナルではさして珍しくもない風貌であった。
 しかし、ユーウォンは彼が元世界樹旅団の一員のであることを知っていた。
「バンカ君、久し振りだね! どう、元気でやってる? みんなとは上手くやれてる?」
 ユーウォンは近寄ると親しげにバンカに声を掛けた。
 しかし、バンカと呼び掛けられて振り返った男は、ユーウォンを見ると不思議そうに首を傾げた。
「誰だっけ?」 
「えっ、おれのこと覚えてないの?!」
「うん」
 バンカは腰を屈めて、ユーウォンと視線を合せる。
「前に壱番世界のハワイって場所で、我慢比べしたの覚えてない?」
「う~ん?」
「ほら、こうやって吹雪を浴びてさ」
 きょとんとしたまま首を傾げるバンカの前で、ユーウォンはギアの肩掛け鞄を開いた。
 鞄から噴き出す吹雪が2人に振り注ぐ。
「あー、あ~、あー?」
 高く、低く、後ろ上がりと発声練習のような声を出しながら、バンカは首を右に左に傾ける。
 その様子を見たユーウォンは、とりあえず思い出させることを諦めて鞄を閉めた。
「その調子じゃ、何も思い出せてないみたいだね」
 不思議そうに覗き込んでくるバンカに、ユーウォンは苦笑した。
「バンカ君、今時間ある? 良かったら、ご飯一緒に食べない?」
「うん、食べる!」
 ユーウォンが歩き出すと、その後ろをバンカが素直についていく。
 歩きながらユーウォンが世間話を振れば、バンカは分ってるのか分ってないのか怪しい相槌を打つ。
 そんな時、たまたまユーウォンの耳は、帰属について話している集団の声を拾った。
「そういえば、最近さ、ターミナルじゃ帰属の話が色々出てるよね」
 ユーウォンはちらりとバンカを振り返った。
「君はどう? かえりた、あ、いや、どっか帰属したい世界って、ある?」
 元旅団員には「帰る」世界なんてない、と気づいたユーウォンは慌てて言葉を変えた。
「もし一緒に居たい誰かがいるんなら、話は簡単なんだけどさ。そういう人はいるの?」
 そこまで話してからユーウォンには、そもそもの疑問が浮かんだ。
 ユーウォンは足を止めて振り返った。
「バンカ君、帰属って何か知ってる?」
「ううん、知らないよ」
 目を閉じてユーウォンは頭を捻った。バンカにも分るように、噛み砕いて説明するにはどうすればいいのだろうか。
 しかし、そこは物事を深く考えない性質であるユーウォンであった。
「帰属っていうのはね、好きな世界に住むことだよ」
「好きな世界に?」
「そう。でも、一度その世界に住むって決めたら、もう二度と別の世界には住めないし、旅にも行けなくなるんだ」
「おれは美味しいもの一杯食べれるとこなら何処でもいいなー」
 バンカには事の重大さを全く理解している様子はなかった。
「ま、おれも君も、どこ行ったって上手くやってける力を持ってるからね」
 肩掛け鞄に手を入れて、ユーウォンはごそごそと漁りだした。
「問題は、ずっと居たいような所をどうやって見つけたらいいか、だよね。とりあえず、どんなところが肌に合うか、シミュレートしてみるってのも面白いんじゃないかな。おれ、この前面白い物手に入れたんだ。『ロストレイル双六』ってね」
 ユーウォンが取り出したには折り畳まれた小さな盤であった。
「これで遊ぶと、現地の雰囲気がほとんどライブ感覚で楽しめるっていう優れものなんだ。ターミナルを振り出しに、モフトピアやらインヤンガイ、壱番世界とロストレイルの駅がある世界なら、どこだって巡れるよ! 一周してゴールもターミナル」
 手に持った双六盤を見せながら、ユーウォンは次々と説明をしていく。
「やり始めたらすんごく時間が掛りそうだし、この双六で負った怪我は全て自己責任であるとか書いてあるから、ちょっと覚悟がいるようだけど。でも、すごく面白そうだよ! 1人で双六しても楽しくないからね。どう? やってみない?」
「楽しいならやるー!」
 バンカは嬉しそう手を上げて叫んだ。
「その双六は何処でする?」
「前に空いてるチェンバーを見つけたから、そこでやるつもりだよ。トラムで移動した方が早いから、乗り場に行こう」
 トラム乗り場へユーウォンとバンカは歩き出した。
 また世間話に花を咲かせている中で、ふとバンカがユーウォンに問い掛けた。 
「ユーウォンは、帰属したい世界と一緒にいたい人ってないの?」
「おれ? ……おれは、このままでも帰っても、どっちでもいいや。旅が続けられさえすればね」
「ずっと1人で? それは楽しい?」
 バンカに他意はないのだろうが、ユーウォンは思わずその質問の応えに詰まってしまった。
 しかし、応えを期待してはいなかったのか、気にする素振りもなくバンカはパスホルダーからノートを取り出していた。
「バンカくん、何してるの?」
「今あったことをノートに書くんだ。こうすれば忘れても平気だから。沙羅が教えてくれたんだー」
「へー、日記みたいだね」
「そうそう、日記っていうみたい」
 歩きながらバンカは勢い良くペンをノートに走らせている。
「不思議なんだー。これしてると、おれが沢山増えたみたい。おれは覚えてないのに、日記にはおれがしたことが沢山あるんだ」
 前を見ないままにバンカは器用に歩いたが、誰かとぶつかるんじゃないかと心配したユーウォンはちらちらと様子を見守っていた。
「面白かった事とー、嬉しかった事、あと美味しかった事、一杯書くんだ! そうしたら一杯面白いよね」
 ノートから顔を上げたバンカは、ユーウォンへと子供のように無邪気に笑いかけた。 
「双六のことも一杯書きたいな!」
「うん、きっと一杯書けるよ」
 ユーウォンは優しく目を細めた。


=========
!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。


<参加予定者>
ユーウォン(cxtf9831)
バンカ(cdts4653)

=========

品目企画シナリオ 管理番号3010
クリエイター青田(weem7811)
クリエイターコメント企画シナリオのお誘いになります、青田でございます。
最初にオファーを読んだ時に某双六映画ジュんマンジんが脳裏をよぎりました。
わいわい楽しく遊ぶシナリオということで準備させてもらいました。
青田の暴走で双六が壊れてゲームが終わらずさあ大変というハプニングは起きないはずです。
プレイングで指定がなければ。(←

双六とありますが、各世界を疑似体験するようなシナリオの予定です。
そこで、プレイングに3個ほど世界と疑似体験を自由に御指定ください。
ほのぼのからトンデモまで自由度は高いと思います。
お任せの場合青田が勝手に捏造します。


ヴォロス
密林で巨大な獣に襲われる。

モフトピア
クッション渓谷にダイブして弾む。

ブルーインブルー
大海原で日の入りを見る。

シナリオとしては、チェンバーに入ってサイコロを振ったところからスタートのつもりで考えております。

>ユーウォンさん
オファーありがとうございます。
おかげさまで、今回バンカについて掘り下げられました。日記は全く考えておらず今回の流れでふら~っと出てきました。
彼の質問には答えないとダメということはありませんので、御自由に対応してください。


それではご参加お待ちしております。

参加者
ユーウォン(cxtf9831)ツーリスト 男 40歳 運び屋(お届け屋)

ノベル

 ただ草原が広がっており、ところどころに木が生えている。ユーウォンが見つけたチェンバーはそんな場所だった。
 そして、持ち込んだ双六を広げて準備を始める。
「あれ、駒が一つしかないね」
 ユーウォンは双六の盤を逆さまにして振っている。
「それじゃダメなの?」
「それぞれが駒を持ってどっちが先にゴールするかを競う遊びだから、一つじゃ遊べないんだよね」
「できないの?」
 バンカの疑問に、少し考えたユーウォンが閃いた。
「あ、そうか、体験するための双六だから、駒が一つだけなのかもしれないよ」
 ユーウォンは双六のスタート地点に駒を置いた。
「それじゃあ、最初にサイコロを振って大きい目を出した方から始めよう」
 それぞれがサイコロを手に取って振る。ユーウォンは3で、バンカは5であった。
「じゃあ、振るよー!」
 バンカが勢い良くサイコロを振ると、6が出た。
「凄いね!」
 バンカが駒を6進めると、ゴール地点に文字が浮かび上がった。
「えーと、モフトピアのクッション渓谷。断崖絶壁だけど怖くない。勇気をもって跳び込もう」
 突然、周囲の風景が音をたてて切り替わる。双六を中心にして、同心円状にチェンバーの風景が書き換えられていく。
 そして、モフトピアのカラフルで優しい世界が目の前に現れた。
 しかし、2名の少し先から地面がいきなり無くなっている。恐る恐る近寄り崖から下を覗き込んでみる。
「下の方が見えないねー」
「ここに飛び込むんだよね」
 思わずユーウォンはごくりと生唾を飲み込んだ。その時、突然に背中を捕まれた。
「わっ、びっくりした。どうしたの、バンカ君?」
「飛び降りるんだから、飛んじゃダメだよ?」
「へ?」
 ユーウォンの背にある翼を押えたまま、バンカは元気良く飛び降りた。
「えええ!?」
 視界が反転する。体の中が浮き上がるような一瞬の感覚の後、風を切って落ち始める。
「あはははは!」
「ぇえぇええ!」
 バンカは楽しげに笑い、ユーウォンは驚き続ける。しかも、羽を押さえられてるので飛ぶこともできない。
 落下地点にクリーム色の柔らかそうな地面が見える。自然な反応で、ユーウォンは体を固くする。
 地面にぶつかるとふにょんと沈み込み、素晴らしい弾力性が衝撃を受けとめてくれる。そして、すぐに上へと押し返される。
 天地がひっくり返り、モフトピアの世界がぐるぐると回る。
「たーのしいー!」
「おおおお!」
 ユーウォンも早速順応したのか、体を伸ばして自由落下を楽しむ。やがて弾まなくなると、周辺の風景が切り替わり元のチェンバーへと戻った。
「面白い! 早く次しよう!」
 ユーウォンがサイコロを振って、駒を進めて浮かび上がった文字を読む。
「インヤンガイでラーメンを食べよう。何だか怖そうな人が一杯集まってきた。3つ戻る」
「ラーメンって何?」
「麺っていう粉を練って細長い紐みたいにしたのを、味の付いた汁に浸して食べる食べ物だよ」
「美味しいの?」
「美味しいよ!」
 再びチェンバーの風景が切り替わる。インヤンガイのビル街の真っ直中、その街路の端に屋台があった。
 2名がその屋台の暖簾を潜って席に座った。ユーウォンは背凭れのない椅子の上に丸くなり、首を縮めて収まる。
「へイ、お待ち!」
 注文する前に、ラーメンの丼が2つ目の前に並べられる。早速、バンカが食べようと手を伸ばした時。
「めっ!」
 ユーウォンの声に驚いたバンカが手を止めた。
「ちゃんとお箸を使って食べるんだよ」
「おはし?」
「この2本の棒のこと。見たことない?」
 ユーウォンは備え付けてあった箸をバンカに見せた。
「知ってるー。おれ、使えるよ」
 バンカは備え付けの箸をきちんと使ってみせた。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
 ユーウォンに習って、意味が分からないながらバンカも手を合わせる。
「美味しい!」
「美味しいね!」
 一口啜って、その味に舌鼓を打つと、後はひたすらに食べ続ける。
 しばらくすると、後ろの方から怒鳴り声が聞こえ始めた。どんどんと声は近付いてくるが、2名は気にせずラーメンを啜り続けた。
「お前さんたちも早く逃げな!」
 屋台の親父がそう言い捨てて逃げ出すや否や、銃声が響き台に小さな穴が開いた。
「けんか?」
 ここでようやくバンカは後ろを振り返った。
「早く食べちゃおう!」
 次々と鳴り出した銃声に、首を竦めつつもユーウォンはラーメンを汁まで飲み干し完食した。
 急いで丼を戻した瞬間、それが流れ弾で砕け散る。
「うひゃー!」
 逃げようとしたユーウォンが隣を見ると、丼を持ったバンカが箸を咥えて唸っている。
「バンカ君、まだ食べ終わらないの?!」
「お代わりしたい」
「また今度ね!」
 渋るバンカの手を掴んでユーウォンが屋台から逃げ出すと、すぐに元の草原の風景に切り替わった。
「次はバンカ君の番だよ」
「はーい。あれ、駒が戻ってる?」
「そういえば、3つ戻るって書いてあったね」
 バンカがサイコロを振る。
「ブルーインブルーの大海原。水平線に沈む太陽を見よう」
 双六を中心にして風景が海へと切り替わる。凪いだ海面には波一つなく、見渡す全て空と海と水平線で埋まる。
 自分の居場所や自分自身さえ、呑まれるような壮大な光景であった。
「何にもないねー」
「本当に海だけだね」
 2名は海に沈むことなく海面に立っていた。
「バンカ君、日が沈むよ」
 太陽が水平線へと沈んでいく。真円を描く太陽の形が崩れる。まるで水平線が吸い付いているようだ。
 空が、橙色、青、紫、とコントラストを描き、夜へと移り変わる。雄大な自然が世界を昼の色から夜の色へと厳かに塗り変えていく。
 その光景に言葉もなく見惚れていたユーウォンがふと横を見ると、バンカが胸を右手で押さえていた。
「バンカ君、どうしたの?」
「分かんない。何でかここがぎゅーってする」
 バンカは服に皺が寄る程に強く握り締めている。
「何だろう、何で」
 バンカの目から涙が零れた。泣いていると気が付いていないのだろう。
 ユーウォンはバンカに近寄ると、空いている左手を握った。すぐに、その手はぎゅっと握り返された。
 それから日が沈み切るまで、バンカは静かに涙を流していた。
 海原が夜の闇に包まれると、風景が切り替わり元へと戻った。
「次は俺の番だね」
 ユーウォンがサイコロを投げようとした時。
「ちょっと待って、今あったこと書きたい」
 ユーウォンが目を向ければ、地面に広げたノートにバンカが一生懸命に書き込んでいる。
「それにしても、日記っていい考え。今までの楽しいことがいっぱい集まれば、これから好きなこと、楽しいことを探すときにも役に立つよね」
 ユーウォンは感心したような呟く。
「沙羅さん、頭いいね。面倒見もいいみたいだし、そんな友達は大事にしなよ」
「ともだちってー?」
 手を止めずにバンカは聞き返した。 
「友達は友達だよ?」
「何かの名前? おれ、知らないなー」
「えっ?」
 まるで分かっていないバンカに、ユーウォンは一瞬呆気に取られてしまった。
「えっと、友達って今みたいに話したり笑ったり一緒に色んな事する仲間のことだよ。バンカ君にはいないの?」
「うーん、分かんない。いたかもしれないし、いないかもしれない。おれ、覚えてないからなー」
 そう言うと、手を止めたバンカは日記をぱらぱらとめくり出した。
「うーん、日記に書いてないから、きっと友達いないね!」
 日記から顔を上げて、バンカは無邪気に笑った。何も分かっていない笑顔に、ユーウォンは言葉に詰まった。
「じゃ、じゃあ、俺のことは日記に書いといてよ!」
「うん、書くよー。今日はユーウォンと一緒に遊んでるもんね」
 そして、書き終わるのを待って、ユーウォンがサイコロを振った。
「ヴォロスの水晶の谷。灯りを消して星の海を歩いてみよう」
 チェンバーの光景が草原から切り替わる。透き通る水晶が足下に広がり、両側に突き立つ。上を見上げれば、雲に覆われた空が見える。
「灯りってどれだろう?」
「これじゃないかな」
 ユーウォンは双六の横に出現したランプを掴んだ。
 すると、ランプに勝手に炎が灯り、世界に夜の帳が落ちた。
 一つだけの灯りが水晶の中に、無数に浮かび上がる。
「おおー」
 少しの間、ランプを翳して水晶の谷を珍しげに見回した後、いよいよランプに蓋をする。それに合わせて、夜空を覆う雲が流れて消えた。
「うわぁ」
「ひゃー」
 2名は口を開けたまま呆然と唸った。
 満天の星が水晶の中に浮かび、天と地に星々が生まれる。幽かな星灯りのせいで水晶の境目が曖昧になり、目が慣れると星の海に立っているようである。
 圧倒的な景観に言葉も出せずにただ静かに佇んでいた。
「星が動いた!」
 そんな時、バンカがある方向を指差した。
「流れ星?」
「ながれぼし?」
 今度はユーウォンの目も流れ星を捕らえた。
「今みたいに星が空を横切るのを流れ星って言うんだ」
「へー! ユーウォンは物知りだね」
「旅してると、色々なもの見たり聞いたりできるんだよ」
 また星が流れた時。
「えーい!」
 突然、バンカが地面に横になった。
「ど、どうしたの?」
「こうすれば、いっぱい空が見えるから、流れ星もいっぱい見えるよー」
 ユーウォンもバンカに習って地面に横たわった。
「だけど、この姿勢はおれには難しいね」
 仰向けになろうとするが、ユーウォンはごろんと横向けに転がってしまう。何度か繰り返した後、横向きのまま首だけ捻る体勢に落ち着いた。
 そのまま存分に夜空を眺めた後、ランプの蓋を開けると風景が切り替わり始める。
「日記に書くから、ちょっと待っててね!」
 草原へと変わっていく地面に日記を広げて、バンカが筆を走らせた。


 バンカがサイコロを振る。
――ブルーインブルーで大嵐。嵐が過ぎるまで船から落ちるな

「うひゃぁー!」
「ユーウォン、大丈夫? しっかり捕まらないと」
「か、風に飛ばされそうだよ!」
「ここに縄があるけど、これで柱と縛る?」
「う、うん、そうするよ」
「えーっと、こうして、こっちを通して、あれ、こっちだっけ?」
「そういえば、バンカ君は縄の結び方って知ってるの?」
「ううん、知らないよ。えい!」
「ぐええ!」
「あれー?」


 ユーウォンがサイコロを振る。
――モフトピアにいるはらぺこ大蛇にご飯をあげて元気しよう

「めっ! それは大蛇にあげる分だから食べない!」
「で、でも、こんなにあるんだから、ちょっとくらい」
「仕方ないな。これ運び終わったら食べてもいいよ」
「わーい、頑張って運ぶー!」
「そんなにたくさん運んでも大蛇が食べられないよ!」
「ほら、口開けろー!」
「そんなにあげたら喉に詰まるよ! 少しずつ分けてあげるんだよ!」


 それから、しばらくしてとうとう駒がゴールに辿り着いた。
「終わっちゃったね」
「それなら、日記書くー」
 バンカが日記を書き始めた横で、ユーウォンは双六を畳んで鞄に仕舞った。
「時間掛かったけど、面白かったねー! また旅に出たくなってきたな」
 ふとユーウォンは本来の目的を思い出した。
「そうだ。バンカ君は、どこの世界に帰属したいか決まった?」
「ううん、決まんない。ぜーんぶ楽しかったから、どこがいいとかないや」
「そっか。急いで決める必要はないよね。今回のだけで無理に決めない方がいいかもね」
 日記を書く手を止めて、バンカは顔を上げた。
「ユーウォンはどこに帰属するか決まったの?」
「おれは旅が出来れば、それでいいかな」
「独りで? それは今みたいに楽しいの?」
 バンカはユーウォンを静かに見詰めた。
「バンカ君、なかなか鋭いこと言うね!」
 双六に誘った時、ユーウォンはバンカに同じ質問をされたことを思い出した。
「一人がつまんないとか考えた事もなかったね。旅は一人でするものだって思ってたよ」
 ユーウォンは頭を悩ませる。
「皆と旅するのは楽しいね。同じ所に何度も帰ることが楽しいっていうのも、ターミナルで初めて知ったしね」
 ユーウォンが首を傾げて唸り出す。
「このままのがいろいろ欲張れていいかな。でももう一度子育てするのも悪くないな。やっぱり、どっちでもいいや!」
 そして、とうとうユーウォンの種族の特徴でもある淡泊さを発揮したのであった。
「そっかー、どっちでもいいんだね!」
 バンカは止めていた手を動かし始めた。
「バンカ君、また遊ぼうね!」
「うん!」
 バンカは顔を上げると、嬉しそうに笑った。


クリエイターコメントお待たせ致しました、青田でございます。
企画シナリオへのご参加ありがとうございます。

文字数の制限を勘違いしており、急遽大幅にシーンをカットしました。
シーンを重ねていくシナリオでしたので、いくつかのシーンを外すだけで済んだのが幸いです。
全体の流れを書き直すという惨事にならずにほっとしました。
カットシーンは、ヴォロスの密林での競争、ブルーインブルーの港町、ダイジェストのインヤンガイとモフトピアになります。

まさかのお誘いありがとうございました。
おかげさまでバンカの一面を描くことができたと思います。

オファーの内容と子育て経験があるということから、ユーウォンさんが無意識にバンカを子供扱いしているように思えました。
それなので、所々に親が子を相手にするような言動を意識してみました。
バンカは能力のせいで全て忘れてしまいます。そのため経験を積んで成長するということがなく、中身は子供のような状態です。
その辺をユーウォンさんは無意識に拾ってるのかな、と解釈してみてました。
現在はギアのおかげで少しずつ経験を積んでいる状態になります。ただ馬鹿なのはそのままですが(←

ユーウォンさんの淡泊さは、メンタル面の強さとしてロストレイル内でもトップクラスに思えました。
深く考えないということで、考えなしというわけではなく、物事に捕われない自由な心を感じます。
恐らくどんな環境下に置かれようとも、自分なりにそこに適応して満足するように生きてしまう。
悩むこともあるし困ることもあるが、それに決して捕われないでするーっと生きられる。
生きる達人というイメージですね。これと似たような精神性の方を探すと、某謎団子の究極美少女さんを連想します。


それでは、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
またご縁があればよろしくお願いします。
公開日時2013-11-25(月) 21:10

 

このライターへメールを送る

 

ページトップへ

螺旋特急ロストレイル

ユーザーログイン

これまでのあらすじ

初めての方はこちらから

ゲームマニュアル