オープニング

 ブルーインブルーでしばらく過ごすと、潮の匂いや海鳥の声にはすぐに慣れてしまう。意識の表層にはとどまらなくなったそれらに再び気づくのは、ふと気持ちをゆるめた瞬間だ。
 希望の階(きざはし)・ジャンクヘヴン――。ブルーインブルーの海上都市群の盟主であるこの都市を、旅人が訪れるのはたいていなんらかの冒険依頼にもとづいてのことだ。だから意外と、落ち着いてこの街を歩いてみたものは少ないのかもしれない。
 だから帰還の列車を待つまでの間、あるいは護衛する船の支度が整うまでの間、すこしだけジャンクヘヴンを歩いて見よう。
 明るい日差しの下、密集した建物のあいだには洗濯物が翻り、活気ある人々の生活を見ることができる。
 市場では新鮮な海産物が取引され、ふと路地を曲がれば、荒くれ船乗り御用達の酒場や賭場もある。
 ブルーインブルーに、人間が生活できる土地は少ない。だからこそ、海上都市には実に濃密な人生が凝縮している。ジャンクヘヴンの街を歩けば、それに気づくことができるだろう。

●ご案内
このソロシナリオでは「ジャンクヘヴンを観光する場面」が描写されます。あなたは冒険旅行の合間などにすこしだけ時間を見つけてジャンクヘヴンを歩いてみることにしました。一体、どんなものに出会えるでしょうか?

このソロシナリオに参加する方は、プレイングで、
・あなたが見つけたいもの(「美味しい魚が食べられるお店」など)
・それを見つけるための方法
・目的のものを見つけた場合の反応や行動
などを書くようにして下さい。

「見つけたいものが存在しない」か、「見つけるための方法が不適切」と判断されると、残念ながら目的を果たせないこともありますが、あらかじめご了承下さい。また、もしかすると、目的のものとは別に思わぬものに出くわすこともあるかもしれません。

品目ソロシナリオ 管理番号1049
クリエイター北野東眞(wdpb9025)
クリエイターコメント さぁ、どこにいく?
 どこでも自由だ。
 刺激を求めてさて歩きだせ

参加者
ニワトコ(cauv4259)ツーリスト 男 19歳 樹木/庭師

ノベル

 蒼穹の空に、輝く太陽。
 ざぁ、ざぁと港町特有の張りのよい人の声に混じって波の音が聞こえてくる。
「んー」
 ニワトコは両手をあげて、伸びをした。
 ここ最近はハロウィンのお祭り――ターミナル・ナイトで一日中暗いなかにいたせいか、太陽がずいぶんと眩しく思える。
 暗いところにいると眠くなってしまうので苦手だが、みんなで闇鍋や百物語でわいわいと過ごすのは、とても楽しかった。
 しかし、ずっと暗いばかりだと太陽が恋しくなるのは仕方のないことだ。
 その点、ここだと太陽の日差しが十分に浴びられる。
 ここ数日、太陽の日差しを浴びなかった分を取り戻すために、もう一度体を大きく伸ばして空を仰ぐ。
 塩をふくんだやや強い風に、空にはかーかーとカモメだろうか、白い鳥がいくつも飛んでいる。
 素晴らしい日差しに自然とニワトコは自分の口元が緩むのを感じた。
「さて、と」
 この日差しを思う存分に浴びるのにいい場所を探さなくては。
 それも出来れば、街中の喧騒から遠のいてのんびりとできる場所がいい。もっと欲を言えばごろりと横になってお昼寝なんか出来れば最高だ。
「どうしようかな」
 忙しく行きかう人々を見回しながらニワトコは頭を軽くかいた。
 出来れば誰かに聞いていいところを、と思うが何かをそんなにも忙しいのか、みな素早く声をかけるタイミングが中々掴めない。
 仕方ないので、自力で探そうかと歩き出したはいいが、密集した建物のなかをうろうろすると、とたんに迷宮にはいったかのように自分がどこにいるかわからなくなってしまった。
 ――困った。
 いや、どうせ目的はのほほんとすることなどたし、このまま歩き回ろうか、そしたら、そのうちいいところが見つかるかもしれない。
 などと気楽に考えていると
「どうしたの? お兄ちゃん」
「あ、こんにちは」
 自分の腰くらいしかない少女が声をかけきたのに、ニワトコはにこりと笑った。
「ぼく、ここらへんで、とっても日差しのいいところを探してるんだ。出来れば、横になれるようなところがいいんだけど、知らないかな?」
「日差しのいいところ?」
「うん」
「……あっ! ここを真っ直ぐいったら道があって、右に行くと岩場にいけるの。そこはね、いまだったらきっときれいだよ。あとね、左に行くと丘があってね、ピクニックできるの」
「へぇ、それは、いいな。教えてくれて、どうもありがとう」
 少女に礼を述べると言われた通りに道を真っ直ぐに進むと、言われたとおり左右に別れた道――右手は下り坂、左手はゆるやかな上り坂まで来ることができた。
 せっかく来たのだから、海を間近で是非とも見てみたい。
 右手にある下り坂を数メートルも歩くとかたい地面から白い砂に変わりはじめた。
 砂は白く、裸足にはくすぐったく、少しだけ熱い。
 さらにその先には青い海が見える。
 満ち引きする白い波を横目に進み続けると、言われた通りにごつごつとした岩場があった。
 湿った塩の強烈な匂いとともに、ちゃぷん、ちゃぷんと水の音がするのに誘われるように奥へと進むと、小さな海がそこにはあった。
 海に繋がっている岩の、複雑に入り組んだなかに、水が溜まり、そのなかには色鮮やかな魚、海のなかでしか生きられない植物が生息している。
「わぁ」
 いい場所を教えてもらったとニワトコはにこにこと笑って、せっかくだと乾いた岩に腰かけると、小さな海に足をそっと浸してみた。
 好奇心に駆られて足から海の水を吸収してて、とたんにニワトコは眉を潜めた。
「うーん」
 軽く小首を傾げて
「海の水はぼく向きじゃないなぁ」
 足を浸したまま苦笑いを零して、ニワトコはゆっくりと体を横にした。
「やっぱりおひさまはいいなぁ……」
 照りつける太陽に、繰り返す波の子守唄を聞きながらとろんとした目でニワトコは呟く。
 ふわふわと浮かぶ白い雲に目をとめる。いったい、雲はいくつあるのだろう?
「一、二、三、四、五……あっ」
 視界にさっと黒い影が過ったのに目を瞬かせる。――あ、鳥か。と邪魔されてしまったのに微笑み、そういえばどこまで数えたっけ、とまどろみのなかで考える。
「まぁ、いいか、もう一回」
 白い雲を数え直していると、その形につい目が囚われた。
 そういえば、あの形、闇鍋で食べたものに少し、似てないかな? 
「っと、あ、また数、忘れた……えーと、もういっ……ん?」
 何か近くで動く気配を感じて視線を向けると、小さなカニと貝を背中に背負ったヤドカニがかさかさと動いている。
 その姿が可愛らしくてニワトコはくすっと笑い、手を伸ばしてつついてみた。あわてて逃げるカニは可愛く、ヤドカニは貝のなかに閉じこもったりしてこれまた面白い。
 ニワトコはにこにこと笑って指で、カニとヤドカニをつついて遊んだ。
「あ、逃げられちゃった」
 カニとヤドカニが岩の奥へと逃げてしまったのに、再び伸びをして目を閉じた。
 かー、かーと鳥の声。
 ざぁ、ざぁと海の音。
 あたたかい、日差し。
 意識がゆっくりと、ゆっくりとまどろみのさらに深みへと落ちていく。
 すこし、だけ――。

 冷たい風に頬を撫でられたのにニワトコは目を覚ました。
 少しのつもりだったが、空を見れば茜色に染まっているのはかなり寝てしまったようだ。
 んーと伸びをすると、体が痛むのは岩の上で寝てしまったせいだろう。
 唇を舐めると、ざらりと、海水が渇いたのか、細かな塩の粒がついていた。それを腕でごしごしと拭って足元を見ると、ここに来たときには足首しか浸からなかった水かさが増して、いまでは膝くらいまでに達している。
「いけない、いけない」
 このままでは海に攫われてしまうと、急いで起き上がると帰りの道を歩き出した。
 砂浜を歩きながら、名残惜しくちらりと海を見ると、燃える太陽の色に染められている。
 美しい海に口元に笑みを浮かべて帰りの、分かれ道まできたときふと足を止めた。
「そういえば、丘があるって言ってたな」
 少し考えたあと、ゆっくりとなだらかな坂道をニワトコは昇り始めた。
 歩き出すと、素足にはかたい地面となり、すぐに道は左右に植えられたらしい木々によって狭くなり、鬱蒼と暗くなる。
 そのなかをひたすら歩くと、はっと視界が開けた。
「あ」
 暗い木々のトンネルを抜けると視界を遮るものはなにもなくなり、かわりにあらわれたのはどこまでも続く赤い海と、その先で顔の半分を飲みこまれた太陽が視界にいっぱいに飛び込んできた。
「……きれいだな」
 やや寒いともいえる吹きつける風に髪を弄ばれながら、目を細める。
ニワトコの周りでは、巣へと帰ろうとする鳥たちの鳴き声が忙しく聞こえてくる。
 そっと目を閉じると、ざぁ、ざぁと波の音だけが聞こえてきた。
「さて、そろそろ帰らないと、な」
 ニワトコはそういいながら目を開けると、赤い海をもう一度、その目に焼き付けるように眺めた。

クリエイターコメント 参加、ありがとうございます。

 太陽をいっぱい浴びて、のほほんとしていただけたでしょうか?
 また、太陽と海が恋しくなければぜひ遊びにきてください。
 またのお越しをお待ちしております。
公開日時2010-12-08(水) 22:50

 

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