★ 赤いは酒の咎 ★
クリエイター木原雨月(wdcr8267)
管理番号314-7925 オファー日2009-06-05(金) 20:50
オファーPC 真船 恭一(ccvr4312) ムービーファン 男 42歳 小学校教師
ゲストPC1 ジム・オーランド(chtv5098) ムービースター 男 36歳 賞金稼ぎ
ゲストPC2 レイ(cwpv4345) ムービースター 男 28歳 賞金稼ぎ
ゲストPC3 アレグラ(cfep2696) ムービースター 女 6歳 地球侵略軍幹部
<ノベル>

 梅雨明けを迎えた、七月。
 今日はじっとりとした湿気もどこかへ飛んでしまったような、雲ひとつない快晴である。
 黒いガスマスクを首の後ろにやって、アレグラは小走りで公園に突撃した。こんなに天気が良いのだから遊ばずしてどうする! という使命感のようなものがアレグラの金の瞳にキラキラと輝いている。
「いざブランコーッ!」
「おう、アレグラじゃねぇか」
 元気よく飛び出した矢先、知った声にアレグラは振り返った。そこには座ってなおアレグラがぽかんと口開けて見上げるほどの、がっちりとした体格をしたジム・オーランドが、白い煙を吐き出す煙草を軽く上げて笑っていた。
 アレグラはぱっと顔をほころばせて、ぴょこんと手を挙げた。
「こんちにや、ジム!」
「おう。今日も元気だな」
 ジムはぐしゃぐしゃとアレグラの頭を掻き混ぜる。
 二人は今年のお花見で知り合った仲である。ジムの大きな手にきゃっきゃするアレグラは、はたから見るとどことなく珍妙な雰囲気(婉曲な表現)だ。
 もっとも、ジムは元々女子供には優しいもとい甘いもとい可愛がる性格。アレグラもあまり人見知りをする人柄ではないため、二人の間にあるのは男同士の友情的なものだ。
「ジム、公園で何してるのか?」
 アレグラが首を傾げると、ジムはやっぱりわしわしと金の髪を掻き混ぜる。
「ちょっとな。ま、用事は終わったから遊んでやるぞ」
 それにアレグラは目を輝かせた。頭を撫で来るジムの手を掴んで、砂場へと駆け出した!
 ジムは身長201センチの巨体で、しかもその40%がサイバー化されているという、接近戦闘特化型サイボーグである。その重戦車もかくやという体を、地球侵略軍幹部という可愛い姿に似合わない肩書きを持つアレグラは常人離れした身体能力を持って、軽々とジムを引っ張って、しかも走るのだ。
 さすがのジムも驚きを隠さなかったが、ここは銀幕市である。
「おっし、なに作る?」
「でっかいお城を作ってしんぜよう!」
「城か、そりゃ大仕事だ」
 かくして二人の巨城建造計画は幕を開けたのである。

「うおっ、第一城門が崩れた!」
「ジム、何やってるか! そこアレグラやるっ! ジム、手伝いしろ」
「すまんすまん」
「気がたるんどるぞ」
「はいはい」
「返事は一回だ」
「へい」
「返事は、はいっ! だぞ。かーちゃんが言ってた」
「ハイ」
 砂山の崩れたトンネルをぺたぺたと直しながら、アレグラはむかぷんと砂と格闘し始める。汗に砂が張り付いて、さながら砂団子状態であるが、アレグラは真剣な眼差しで砂を盛ってはぺたぺたと形を整えていく。
 その横顔を眺めながら、ジムは笑んだ。
「ジム、お留守番するな!」
「ハイハイ」
「返事は一回!」
「ハイ」

  ◇ ◇ ◇

「できたーっ!」
 汗と砂にまみれたアレグラは万歳した。隣ではジムがやれやれと笑いながら煙草を吹かしている。
 二人の前には、形はいびつだが堂々と盛られた砂山……あいや、城がそびえている。城門は南北を貫き、周りには堀があり、砲台らしいものを四方に配置してある。立派な軍用城塞だ。
「ジム、よく頑張ったな。褒めてつかわすぞっ!」
「ありがたき幸せー」
 へへー、と頭を下げるジムに、アレグラは得意そうに胸を張る。そんなアレグラの頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜて、ジムは立ち上がった。
「おら、砂はらって顔洗ってこい。メシ食いにいこうぜ」
 時計を見るまで気付かなかったが、すでに六時を回っている。陽が高くなったのと、ずっと砂と格闘していた(途中、気分転換に鬼ごっこやらブランコやらジャングルジムで遊んだりした)こともあり、時が過ぎるのも忘れていた。
 水飲み場でまた一騒ぎあって、二人はようやく公園を出た。

  ◆ ◆ ◆

 真船恭一は肩にピュアスノーのバッキー・メンデレーエフ(恭一は「ふー坊」と呼んで可愛がっている)を乗せてさがしものをしていた。
 さがしものとは、もちろんアレグラである。
 午前は愛犬ヴィヴェルチェと遊び倒し、昼食後はヴィヴェルチェがくうくうと寝入ってしまったので、天気もいいしと外へ飛び出していったのだ。
 アレグラのことだ、よほどの事がない限り問題はないであろうが心配はある。近頃は暑くなってきたし、熱中症や脱水症状などになっていないか。人見知りをするタイプではないし、むしろ進んで仲良くなろうとする彼女のことだから、何かよからぬ者によもや攫われるのではないか。いつもは彼女にべったりな彼も、今日は珍しく着いて行かなかったのだ。
 心配は尽きない。
「あーちゃんはどこに行っちゃったんだろうねぇ、ふー坊」
 と、そこへ見覚えのある金髪にサングラスの男が前を通りかかった。
「やあ、レイくん。久しぶりだね」
「ああ……チョコクルーズ以来か?」
 レイは軽く手を上げる。
「仕事帰りかい?」
「まあ、野暮用だ。真船はどうしたんだ」
「僕は」
「まふまふーっ!」
 声に振り向けば、アレグラが満面の笑みで駆けてくる。恭一の顔がほっと緩む。しかしその後ろに厳つい兄ちゃんを見つけて、思わず顔が引きつる。
「おう、レイ」
「なにやってんだ、あんた」
「ああ? 飯食いに行こうと思ってな。おまえも行くか? そっちの兄ちゃんもよ」
「まふまふ、一緒にご飯食べる行くか?」
「え。あ、ううん……」
 親しいらしいレイと男の会話に、恭一は動揺を隠せない。しかしアレグラが「行かないのか?」と首をかしげると、おろおろしている自分が情けなくなった。肩のメンデレーエフがむいむいと頬にすりよる。それにふと微笑んで、恭一はアレグラの頭をくしゃりと撫でる。
「そうだね、それじゃあお言葉に甘えて。僕は真船恭一というんだ。アレグラの保護者かな」
「オレはジムだ。ジム・オーランド」

 そうして四人がやってきたのは、最近開かれたという屋台村その名も「ぎんまく横町」である。
 軒先には屋号の書かれた暖簾と提灯が並び、その数は15,6店舗だろうか。ひとつの店舗で座10前後とこぢんまりとしているが、それは気兼ねなく談話が楽しめるようにという趣向らしい。
「いい匂いだなー」
 アレグラが早速目をきらきらとさせるのに軽く笑いながら、ジムは『串焼 はなまる』と書かれた暖簾をくぐった。
「らっしゃい!」
 暖簾をくぐると、威勢の良い声が飛ぶ。声の主は捻りタオルがよく似合う、日焼けした肌に白い歯が光る初老に差し掛かった男だ。
「よう、繁盛してるかい」
 ジムが言うと、店主は目端にシワを寄せて笑った。
「まあぼちぼちな」
 続いてレイや恭一が入ると、さらに上機嫌そうに笑う。
「ジム、やっと客を連れてきたな。そっちのグラサン兄ちゃんがレイだな」
 レイは軽く眉を上げる。慌てて「大将」と小さく言うと、はなまるの店主は含み笑いをして、席を勧めた。
「なまたまごー、なまたまごーっ!」
「いや、串焼き屋で生卵はさすがにないんじゃ」
「ははっ、じょーちゃんは生卵が好きなのか? だったらこれはどうだ?」
 店主が出したのは、香ばしく焼き上げたつくねに特製のたれ、そしてトロリとした生卵を添えた、月見つくねだ。
 黄色いまんまる卵に、アレグラは目をきらきらとさせる。
「たいしょう、エライぞ! はなまるだ!」
「ははっ、そうかい。ありがとよ!」
 豪快に笑って、店主は上機嫌そうに焼酎を取り出し、恭一、レイ、ジムと注いでいく。アレグラにはもちろんお冷やだ。
「そんじゃ、ひとまず乾杯ってことで」
 ジムが軽く持ち上げ、それにレイと恭一が応える。
「今日はジムの驕りだな」
「てめぇ」
 顔を引きつらせるジムを横目に、レイはくつくつと笑みながら焼酎を喉に通す。
「ははっ、そんじゃあ長く楽しんでもらわなきゃなぁ」
 店主は言いながら、定番のねぎまからササミ、小玉ネギ焼、手羽先などを皿に並べていく。
 恭一は少し困り顔で、しかしアレグラが美味しそうにつくねを食べるているのが幸せそうで、ほんわりと和みながら串焼きに手を伸ばしつつ焼酎を楽しむのだった。
「ったく」
 ジムはがりがりと頭を掻いて、自分もまた焼酎を喉に流し込む。
「おいおい、せっかくの酒をそんな不味そうに呑むんじゃねぇよ。酒と飯は楽しむもんだ」
「そうだぞ! たいしょうの言う通りだ!」
 むぐむぐとつくねを頬張るアレグラにまで言われれば、降参するしかないのはジムである。
「ったく……おらアレグラ、口の周り汚れてっぞ」
 タレの付いた口の周りぐいぐいと拭ってやると、なんだか昔を思い出した。
 まだレイを拾ったばかりの頃。食事の取り方やらなんやらが奇妙で、いちいち世話をしてやったものだ。 
 ちろりと視線を上げれば、憮然とした顔で串に手を伸ばすレイの姿がある。サングラスのせいで余計にそう見えるのだが、ジムには満足そうに食べているのがわかるし、アレグラの世話を焼く自分をなんとも言えない表情で見ているのもわかる。思わず口元に笑みが浮かぶ。
「どうしたんです、ジム」
「いや、ちょっと昔を思い出してな。こいつもチビの頃は可愛かったんだぜぇ」
 ぴくりとレイの眉が動く。
「人の後ろをヒヨコみてぇによちよち付いて来てよ」
「おい」
 平行に保たれていたレイの眉間に皺が刻まれる。ジムは軽く眉を上げるが、話を続けた。
「世間知らずで、力の加減も知らねぇガキでよ」
「黙れ、てめぇ」
 ガタンと音を立てて椅子を蹴倒す。恭一はびくりと体をすくませた。アレグラはぽかんとしている。
「ホントのことだろ?」
「うるせぇ、首へし折るぞ」
「はっ、やってみろ」
 ジムもまた立ち上がる。
「ちょ、ちょっと落ち着こう、二人とも。美味しい串焼きがあって、美味しいお酒もあるんだし……」
「「外へ出ろ」」
 恭一の努力も空しく、二人は視線を反らさないまま軒先に出る。
 あちこちの屋台から、何事かと顔を覗かせる。
 じりじりとした時が流れ。
 二人は同時に足を踏み出した。まるで絵に描いたような美しいクロスカウンター。体格差は、微妙な腰のひねりや踏み込み具合ですべてカバーされている。
 わっ、と歓声が上がった。
 二人はバッと離れ、相手をにらみ据える。
 レイが踏み込み、拳を繰り出す。それを軽くいなして、体格に似合わない俊敏さでジムの掌底がレイの顎に入る。くらりとするのはなんとか耐えて、レイは舌打ちをした。
「どうした、首をへし折るんじゃなかったのか?」
「うるせぇ」
 互いに体の数十パーセントをサイバー化したサイボーグである、そして賞金稼ぎとして生きてきた二人である、その喧嘩は一種のショーとなり得る。頭を抱える恭一をよそに、
「いいぞ!」
「もっとやれ!」
「俺、ガタイのいい親父に千円」
「オレはグラサンの兄ちゃんに千」
 喧嘩の勝敗への賭け事が始まったりした。
 そんな声は聞こえていないかのように、二人の喧嘩はエスカレートしていく。足払い、関節技、地を轟かせるような踏み込み、一般人ならば意識も飛びかねない強烈なパンチやキックの応酬。しかもムービースターの喧嘩だ、迫力も満点である。
「ああああ、怪我するって……っ!」
 恭一の心配を余所に、二人の喧嘩はさらにヒートアップしていく。
「周りがうるせぇなァ」
「関係ねぇよ。さっさとかかってきな」
「はッ、いつまでその余裕が続くか楽しみだぜ。奥歯ガタガタ言わせてやらァ!」
「やってみろ!」
 肉眼ではない黒いレンズの瞳が、行動パターン、回避率、軌道などを次々に弾きだしていく。人間の肉体では不可能なことも、サイバー化した身体を持つレイならば、それは可能になる。
 そしてそれを迎えるのは、恵まれた体格と抜群の格闘センス、それを実行できるだけの冷静な判断力と、サイバー化し飛躍的にその稼働率を上げた身体だ。
 上段蹴りをなんなく躱され、レイは舌打ちをする。
「ああ何やってんだよそこはパンチだろ!」
 飛ぶ野次に小さくうるせェと顔を歪めて、レイはそのまま体に回転を加えようと振り抜こうとする。しかしその足を取って、ジムはレイをぶん投げた。
「げっ」
「わぁあああっ!?」
「ぐえっ」
 それに野次馬の何人かが下敷きになる。レイの体は60%以上をサイバー化されている。その重さは半端無い。
「おめぇに格闘を教えたのは俺だって事、忘れんなよ」
 にやにやと笑うジムに、レイは口端を拭って唾を吐く。
「言ってろ!」
 レイは一足飛びに距離を詰める。
「……ってぇ、やりやがったな」
 下敷きをかろうじて免れた者たちがゆらりと立ち上がる。立ち上がるさいに、隣の者と肩がぶつかった。
「あ?」
「んだよ、コラ」
「やるかテメェっ!」
「おお、やらいでか!」
 お酒も良い感じに入った彼らに理性というタガは、肩のひとぶつかりでぶっ飛んでいる。
「ちょ、ちょっとみんな落ち着こうっ!? 美味しいご飯とお酒が台無しだって!」
 恭一は慌てて仲裁に入ろうとするが、
「なんだ? これお祭りなのか?」
 ぽかんと見ていたアレグラが、そう言い出したからもっと大変だ。恭一はざっと顔を青ざめさせる。
「違う、違うよアレグラ!」
「まァ喧嘩もたまにゃいいよなぁ」
「大将まで何言ってるんですかっ!?」
「そうか! アレグラも頑張るぞ!」
「頑張っちゃだめぇええええ」
 必至に止めようとする恭一の腕をするりと抜け、アレグラは駆け出して行ってしまった。
「覚悟するしろ!」
 ばっと腕を掲げたかと思うと、アレグラのその腕がぐわと伸びていく。反対にその体は縮むが、その伸びた腕で組んず解れつしている一角をまとめて掴んでぽーいと放る。
「ぎゃあああああ」
「ぐえっ」
「ふぶっ」
「がふっ」
 一気に四人がK.O。
「ああアレグラ、相手は一般人だからっ……!」
 恭一、あまりの混乱具合に突っ込むところがズレ始めましたよ。
「くっ……なかなかやるじゃねぇか」
「アレグラ強いぞ、地球人怖くない!」
「見晒せ、地球人ナメんなぁああ!」
「ああああ子供相手に大人げないっ!」
「喧嘩に子供も大人もあるかっ!」
「いやあるでしょっ!?」
「いいぞ、もっとやれ」
「大将ぉおおおおおお!?」
「おい、兄ちゃん」
 ぽんと肩を叩かれ、恭一は弾けるように振り返った。そこにはにやりと笑って拳を握ったおっちゃんが。
「ひぃいいっ!?」
 ぎんまく横町は戦場へとのその姿を変えた。
 並ぶ提灯が照らすのは、男達の汗と血となにか。
 あくまでも素手と素手のガチンコ勝負。
 最後の一人になるまで、それが終わることはない。
 最後に笑うのは誰か。
「……えーっと」
 並み居る強敵共から逃げ惑い、最後までそこに立ち続けたのは。
「みなさん、大丈夫ですか?」
 真船恭一42歳、小学校教師であった。
 仲裁を試みるもことごとく敗れ去ったが、最後に勝ったのはこの人。
 正義は勝つ。
 それを体現した大いなる男であった。
 ピロリロリン。ピロリロリン。
 プルルルル。プルルルル。
 慌てて受話器を取るのは、恭一とレイだ。
 妻からの電話、その内約は二人ともこうである。

「いつまで夜遊びしているの、早く帰ってきなさい」

 こうして熱い大乱闘は幕を閉じたのだった。
 しかし、彼らの心には拳と拳で語り合い感じ合った互いの魂がある。がっしと手を握りあい健闘をたたえ合う者たちもいる。意気投合し、飲み直そうという者たちも。
 そんな中で一人しょっぱい気分になったのは、ジム・オーランドだ。そういやなんで喧嘩してたんだっけ、と思うくらい、なんだかしょっぱい気分である。そこへとてとてとアレグラがやってくる。何だろうと思っていると、
「元気出せ、お前」
 小さな手で頭をなでなでされるのであった。
 恭一の愛バッキー、メンデレーエフが人知れず「ぷっぷぅ」と鳴いたとか鳴かなかったとか。

クリエイターコメント大変お待たせ致しました、木原雨月です。
あれこれ悩みながら楽しく書かせていただきました。
楽しんでいただけましたら、幸いです。

口調や設定などでお気づきの点がありましたらば、遠慮無くご連絡くださいませ。
この度はオファーをありがとうございました!
公開日時2009-07-21(火) 18:00
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