★ 隊士行進曲 ★
クリエイター淀川(wxuh3447)
管理番号873-8491 オファー日2009-06-30(火) 22:19
オファーPC 志村 剣蔵(cufp6159) ムービースター 男 27歳 神戦組隊士
<ノベル>

 気が付いたら銀幕市だった。
 視界いっぱい銀幕市だった。
 剣蔵は唐突に周りの風景が幕末から現代へと変わり、銀幕市の公園広場のど真ん中で唖然としていた。無理もない。彼の出演していた映画でもここまで劇的な【オチ】は中々見られないものだ。
「何でござるかこのデカイ墓石は! あっちにもこっちにも!」
 ビル郡を見て叫ぶも空しく響く。周りを歩いていた人々はそんな剣蔵を視界の隅に写すと
「ああ、映画から出てきたんだ」
 と、いつも通り暖かく見守っていた。当の本人は今だ困惑しており、広場のど真ん中で一人冷や汗を流していた。異国の服を着て○○だよねー・○○じゃんとよく分からない喋り方をしている人々。一体何が起きたのだと言わんばかりに動揺していた。風景も西洋の書物などで見たような形式の公園であるし、髪の毛がなんと妖々しいことか!
「も、もしかしてコレは……敵の幻術か妖術でござるか!いやそうに違いないでござる!!」
 一人鼻息荒く居るはずもない幻術使いを探し始める剣蔵。しかし、街行く人人人……どう考えても幕末時代とがらりと変わってしまったその風貌を見ていると全員が怪しく見えてくる。しかし術使いは敵も味方も一般人をも術使いに見せているのかもしれない!と誤った方向に解釈を広げていった彼は広場の真ん中で一つ、深呼吸をした。
 「慌ててはいけないでござる……慌ててしまえば相手の術中でござるゆえに」
 もし本当にコレが術の類なのであればもう術にはまっている、という突っ込みを入れるものは居ないため更にボケに拍車を掛けていく剣蔵。留まる所をしらなそうである。
「きっとこれは拙者が自力で超えなくてはいけない試練なのでござろう……ならば、己を鍛え抜いてこのまやかしを破って見せよう!」
 こうして、剣蔵は精神鍛錬と称して強そうな相手を探して銀幕市を放浪するのだった。

 自己鍛錬のために辺りを探索していると、怪しい音がする、とその音のする方へと駆けていった。そこは一等ビル建設現場。現在は土台を作るために地下へ掘り進めている最中なのだ。そして工事現場に居るのはドリルを手に持った筋骨隆々の男たち。電気製品関係には全く違和感のない知識が備わっている剣蔵は、まず小手調べにと男たちに腕っ節勝負を求めに向かった。ドリルがどういう職業の人間が使うか考えたら微妙に戦う相手を間違っている気がしないでもないが、とりあえずこの術を破りたいので細かいことは気にしないことにして彼らの元へと向かっていく。本より強い者と戦うのが最強の武士への道なのだから問題ない。全く問題ない。
「たのもおおぉぉぉおぉぉぉおおぉぉっっっっ?!」
 突進した矢先、彼の視線は一回転半を記録した。次の瞬間、背中へと走る衝撃により口の端からひねり出した呻きが零れる。そして突然のブラックアウト。意識がなく動けなくなった哀れなムービースターに気が付いて工事現場のおっちゃん二人が彼の元へと駆け寄ってくる。
「あんちゃん、地べたに寝っ転がってどうしたってんだ。具合悪いのか」
「いや、ちょっと前にこの人『コレ』踏んじまって転んだらしいぞ」
 後から口を開いた方がもう一人へと手に持っていた変形している『空き缶』を見せる。つまり、勢い良く走りこんだはいいが、その先に空き缶が転がっていたのだ。当然剣蔵は勢い良く空き缶を踏んでしまい見事なサマーソルトを描いたというわけである。
「あー、それじゃあどっか打っちまってんだな。しょうがねぇ、気が付くまで事務所のソファーで寝かせてやっか」
 小一時間ほど経った頃、剣蔵が意識を取り戻しおっちゃん方に挑もうと再チャレンジするが相手にされなかったり、手伝いと間違えられて砂袋が飛んできたりその流れでいつの間にか手伝わされたりして結局手伝いだけで終わってしまったのだった。

 日払いだが給料を貰ってほっくほく……という場合ではない!と自分に突っ込みを入れつつ己の精神修行のための対戦相手を再び探し始める。
 何時しか日も暮れ始め、辺りが赤く染まりだした頃。見たことのあるような風貌の人物と出くわした。おそらく剣蔵と同じ幕末が背景の映画から出て来たムービースターであるが、この街は幻術でござる!と言い聞かせている剣蔵には同志か敵にしか見えなかった。いや、着ている物、背負っている文字が違う。あれは敵でござる!と刀を抜き切り捨てようとしたのだが。例によって例の如く、ハプニングが起こってしまった。剣蔵とそのムービースターが居る場所は車道を挟んで対角線上……剣蔵は車道を真っ直ぐ突っ切って行ったのだ。無論、車道のど真ん中で信号が変わったと共に動き出した車に挟まれて身動きが取れなくなってしまった。その間にムービースターはすたすたとどこぞへと消えていった。目で追っていた剣蔵の溜息はクラクションにかき消されたのだった。

 日が落ちたその後も剣蔵は強そうな相手を探し続け、その度に何かしらのハプニングに見舞われて敵と戦わずして体力を消耗し続けた。しかし、そんなことではこの術は敗れんとして体力の続く限り走り続けた。そう、彼は心に誓っていた。必ず、この術を己の力で破って見せると。
 そして現在、神の子がかけていたその術は解かれ、彼は元居た時代の光景を目にする。彼はこう言った。
「幻術、破れたり」
 にやり、と得意げに笑う剣蔵を尻目に他の神戦組の隊士はついに脳もやられたか、と口々に言うのであった。

クリエイターコメントお届けが遅くなりました…申し訳ございません。
ほのぼの〜コメディと言うことで、何故かコメディ色が強くなってしまいました。
剣蔵君はとてもおいしいキャラですね!書いていてトラブルに巻き込まれてるシーンが目に浮かんで気安かったです。(笑)

この度はオファーを頂き真にありがとうございました。
少しでも気に入って貰えると幸いです。
公開日時2009-07-16(木) 18:10
感想メールはこちらから