★ 妖怪アパートとクリスマス ★
クリエイター依戒 アキラ(wmcm6125)
管理番号198-5903 オファー日2008-12-15(月) 20:53
オファーPC ゆき(chyc9476) ムービースター 女 8歳 座敷童子兼土地神
ゲストPC1 藤(cdpt1470) ムービースター 男 30歳 影狩り、付喪神
ゲストPC2 本陣 雷汰(cbsz6399) エキストラ 男 31歳 戦争カメラマン
ゲストPC3 栗栖 那智(ccpc7037) ムービーファン 男 29歳 医科大学助教授
ゲストPC4 二階堂 美樹(cuhw6225) ムービーファン 女 24歳 科学捜査官
ゲストPC5 狩納 京平(cvwx6963) ムービースター 男 28歳 退魔師(探偵)
ゲストPC6 ロス(cmwn2065) ムービースター 男 22歳 不死身のファイター
ゲストPC7 ベアトリクス・ルヴェンガルド(cevb4027) ムービースター 女 8歳 女帝
ゲストPC8 アレグラ(cfep2696) ムービースター 女 6歳 地球侵略軍幹部
ゲストPC9 ルイス・キリング(cdur5792) ムービースター 男 29歳 吸血鬼ハンター
ゲストPC10 崎守 敏(cnhn2102) ムービースター 男 14歳 堕ちた魔神
<ノベル>

「ジングルベ〜ル。ジングルベ〜ル。なんじゃよ」
 朗らかに。口ずさみながら家へと向かうゆきは、ころころといつも以上に増した笑顔だった。
 口ずさむ歌はこの時期に丁度いいクリスマスソング。右手に提げた手毬模様のエコバッグの中には用意し忘れていた割り箸の束。そして左手にはたった今、受け取ってきたばかりのクリスマスケーキの箱。
 楽しみに駆け出してしまいそうな気持ちを、ゆきはどうにかなだめ、代わりにその歌と笑顔に変換する。今走り出すとケーキが危ない。
 やがて馴染みの深い道になり、最後に一つ、道を曲がるとゆきの住むアパート。市ノ瀬荘が目に入る。
「おぉ」
 思わず、感嘆。
 豪華絢爛なお城。とまではいかないが、綺麗にドレスアップした市ノ瀬荘。アパートを飾る雪だるまや鈴などのオーナメントはこの日の為に住人のみんなで作ってきた手作り。そして正面、二階の手すりに取り付けられたのはベニヤを型取って色を塗ったサンタとトナカイ。ソリに乗ったサンタの滑った雪の道にはドドンと大きく描いてあるのだ。
市ノ瀬荘クリスマスパーティ!


 ――ピンポーン。
 呼び出しを告げるベルに、びくりとゆき。けれど一瞬後にはぱあと笑顔で炬燵から立ち上がる。
「来たみたいじゃの」
 市ノ瀬荘の管理人であるきらに向かってゆきは言う。きらの般若面がこくりと頷く。
 ゆきはそのまま玄関まで歩き、ドアに手を掛けた所で一度止まって振り返る。そして見えている住人、隠れている住人に向かって一言。
「最初からはしゃぎすぎないようにの」
 市ノ瀬荘は妖怪アパートだ。住人たちは勿論妖怪。もてなしの方法は、まぁ色々あるが、誰もが想像するもてなしが一番多いだろう。初めての人も来るであろうこのクリスマスパーティ。少しはセーブするようにと釘を刺す。
「はいよー、っと」
 言いながらも、含み笑いでゆきの後ろについたのは付喪神の藤(フジ)だ。着崩した着物に端正な顔立ちは、格好いいお兄さんに見えるが、勿論、市ノ瀬荘の住民である彼もまた、妖怪だ。もっとも、藤の出身映画では厳密に言えば藤の様な存在は妖怪ではなく『影』と呼ばれていて、この街に来た際、その妖怪という呼び名に少なからずショックを受けていたのだが、それはまた別の話だ。
 後ろについた藤に気がついていたゆきだが、住人総出じゃないだけまだいいかな、とドアを開ける。
「市ノ瀬荘クリスマスパーティ――」
「う〜ら〜め〜しぃ〜や〜」
 ゆきの言葉を遮り、般若の面を被った藤が鬼女の演技で迫る。憎悪と嫉妬の滲み出る般若面と藤の迫真の演技での出迎えは、来客に恐怖を与える。
「おォ。こりゃァ大層なお出迎えだ。ははっ。マイッタよ」
 はずだったのだが、来客はカラカラと笑い、冗談っぽく両手を肩まで上げる。
「よくきたの、京平。ようこそなんじゃよ」
「よォ。ゆき嬢ちゃん。メリークリスマス。ってか」
 あげた手をすっと降ろし、ゆきの頭を優しく撫でるのは狩納 京平(カノウ キョウヘイ)だった。
「招待状。ありがとな」
 二つ指でピンと立てたそれは、ゆきの贈った招待状。それを受けて、狩納は来たのだった。
「ぉ。炬燵か、いいねェ。外は寒い」
 お土産に持ってきたパーティーセットを袋ごとゆきに渡し、狩納は炬燵に入る。
「おーあったけェ」
 にっと笑って言う狩納に、その肩に乗っている天狐の焔炎が少し拗ねたように後ろを向く。冗談冗談。となだめる狩納。
「ちぇ。ざんねん」
 脅かしに失敗した藤が、般若の面を横にずらしながら炬燵へと戻り、挨拶をする。


「えーっと……確かこの辺り」
 キョロキョロと辺りを見回しては手元の招待状に目を移し、二階堂 美樹(ニカイドウ ミキ)は通りを歩いていた。美樹も市ノ瀬荘のクリスマスパーティに招待された一人で、今はその市ノ瀬荘へと向かっているところだ。
「うん? あ、あれだ!」
 道を曲がり、視界に入った目立つアパートに首をかしげ、すぐにそこが目的地だと気がつく。クリスマス装飾を施されたアパートの正面には、市ノ瀬荘クリスマスパーティ! の文字。
「もう集まってるかな」
 呟き、意気揚々と一歩踏み出した所で、横手から、つまり美樹が今まで歩いていた通りの延長上から見た事のある顔が歩いてくるのに気がつく。
「…………?」
 一瞬、迷う。何故ならば、なんとなく落ちている様な気がしたからだ。その表情が。
 けれども、だからこそ、美樹は声を掛ける。元々元気よく通りを歩くタイプではなさそうだし、勘違いなら勘違いでいいと。
「ハローォ」
 上がり口調で一声。相手が顔を上げて美樹を見る。
「お久しぶりです。栗栖さん」
 改めて、今度はきちんと挨拶する美樹。
「二階堂、美樹」
 記憶にあった名前を声に出すように、栗栖 那智(クリス ナチ)は答える。
「こんにちは。これから――」
「クリスマスパーティーへ行くところ。……違うか?」
 美樹の言葉を待たずに、那智が言う。ほわぁ、と美樹が小さく口を開けて驚いている。
「なんで分かったんですか」
「まず第一に今の時期。次にその服装」
 その言葉に美樹は自分の服装を見下ろす。赤と緑のクリスマスカラーチェックのワンピース。確かに、クリスマスを意識した服装だった。でもそれだけでは。そう言おうとしたところで、那智は更に続ける。
「それとその袋。角ばった物が入っているように見える。恐らくプレゼントを梱包したものじゃないか? それと最後に……チキンの匂いがする」
「ぜ、全部……正解」
 右手のプレゼントを入れた袋と左手のオードブルの袋を軽く持ち上げて、美樹が言う。
「簡単な推理だ。それじゃあ私は失礼する」
 そう言って歩き出した那智を、美樹は引き止める。
「栗栖さん、もしかして暇だったりしません? よければ一緒にパーティ参加しません?」
 訝しげに、那智は美樹を見る。
「実はですね。市ノ瀬荘、聞いたことありません? 妖怪アパートの。噂には聞いていて、以前から行ってみたいと思っていたところに、ゆきさんに誘われて。でもえーと……その」
 言い辛そうに、美樹。察して那智が続きを言う。
「妖怪が……怖い?」
「……恥ずかしながら」
 しゅんとして、美樹。普段だったら、そんな訳……! と反発するところだったが、嘘をついても見破られそうだったし、同業者ということもあってか、素直に認める。
「科学者が……?」
 確認するように那智。その言葉を受けてもじもじとする美樹を見て、那智が小さく笑う。勿論。科学者という同業者だからこそ恥ずかしくもあったのだ。
「……ふふっ。いや、失礼。そうだな、私も多少興味があった。手ぶらでも平気というのなら、ご一緒させてもらおう」
 ある事情で塞いだ気分だった那智。誘いに乗って騒ぐのもいいだろう、と。美樹の提案に乗る事にする。
 やった。と大喜びの美樹。話が纏まったということで、早速二人で市ノ瀬荘へと向かう。短い距離、妖怪の話などをしているうちにすぐに部屋へと着く。ふう、と美樹が深呼吸を一つしてチャイムの鳴らす。
 ――ガチャ。
「あ、どうもこんにちは。私は二階堂み――」
「う〜ら〜め〜しぃ〜や〜」
「――ひぃっ!」
 突然あらわれた般若面の迫力に、美樹は意識を失う。咄嗟にオードブルの袋と美樹を支える那智。顔を上げてみると、般若の面をずらしながら楽しそうにしししとしたり顔で笑っている藤の姿があった。


 ――ピンポーン。
 再びチャイムが鳴った時、ゆきは狩納の出してくれた式神の太郎丸と次郎丸と共に料理を並べているところだった。
「……わたしが出ます」
 ひたりと玄関へと向かったのは市ノ瀬荘の住人。雪女の綾子さんだ。藤は美樹の気を失わせたとして美樹が目を醒めるまで様子を見ている仕事が入っていた。
「いらっしゃいませ」
「お? 美人のお出迎えとは、気が利くねぇ」
 カシャッ。と、手にしたカメラで一枚撮りながら、本陣 雷汰(ホンジン ライタ)。いきなりの写真に驚いた雪女に続けて言う。
「あ。悪りぃ悪りぃ。ついな。嫌だったら写真は処分しておくんで許してくれ」
「……いえ、でも私なんて撮っても…………」
 意味がないでしょう。と続ける雪女。その言葉に雷汰がうん? と疑問顔で返す。
「出迎えの笑顔、綺麗だったよ。俺の好きな自然な表情だ。意味がなくなんてないさ。あぁ、もしかして。写真に写らないとか、そういうことかい?」
 そういや妖怪アパートだったな、と雷汰。にっと笑う雷汰に、雪女は白い顔をほのかに赤くしてふるふると首を振る。
「いえ……写ります、よ」
 それだけ言って雷汰を案内する。
「ありゃ。綾子さんの惚れ癖が始まったかねぇ」
 雷汰の隣に座ってコーヒーのサービスまでしている雪女を見て、小声で藤が呟く。


 さて。外ではたった今、ベアトリクス・ルヴェンガルド(ビイ)が到着したところだった。
「うむ。なかなか立派なところではないか。余の城には遠く及ばないであるがな」
 ふんぞり返って舌たらず気味に。そうして満足したところでドアへと向かおうとしたその時、ビイの横に掛けてあったクリスマスオーナメントの白がにょろりと動いた。
 それはオーナメントに紛れてちょっと驚かせてみようかななんて思っていた市ノ瀬荘住人の一旦木綿の絹さんだったのだが、相手が悪かった。
「うえぇぇぇぇん」
 急のことに驚いたビイ。思いっきり泣き出してしまったのだ。
 すぐに何事かと部屋の中から何事かと数名が出てくる。そこまでするつもりもなかった一旦木綿さんはビイのとなりでオロオロと困ったように佇んでいる。
「うぇぇぇん。ビイを脅かしたぁ脅かしたぁ。余を誰だと……ひぐっ……余は、ルヴェンガルド帝国……187代皇帝……ひぅ、ベアトリクスであるぞ……ぅ」
 泣きながらも気丈に言う姿は立派である。
 すぐにゆきがやって来てビイを慰め、とりあえず涙は止まったビイはしゃくりをあげながらお土産にと下宿のメイドが作ってくれたケーキを差し出す。
「すまんのう。一旦木綿にも悪気はなかったんじゃよ」
 ぺこりと、お辞儀をするように長い身体を折って一旦木綿。泣き止んだビイに、お詫びに背中に乗せて空を飛ぶと言う。いい提案じゃの。と、ゆきも答える。
「わあ。たかい!」
 ふわふわとビイを乗せて空を漂う一旦木綿。スピードは控えめ。最初のうちは少し怖がっていたビイだったが、すぐに慣れて楽しそうに子供らしい声をあげる。皇帝らしく振舞う事もすっかり忘れてしまっているようだ。
「いい笑顔だ」
 そんな無邪気に喜んでいるビイの姿を、雷汰は嬉しそうにカメラに収めていた。
「おー! 飛んでる、なんでだ?」
 そこへやってきたのがアレグラだった。いつもの燕尾服に身を包んだアレグラも、今回のクリスマスパーティーの参加者だ。
「あら、いらっしゃい」
 ゆきと一緒に、幽霊の亜紀さんが話しかける。
「こんちにや、地球人!」
 こんにちは。と、アレグラなりの挨拶。続いて綺麗にラッピングされた細長い箱を差し出す。
「プレゼント、持ってきた。冥土の土産にするんだな。栄養たっぷりお腹もいっぱい、アレグラも嬉しい」
「ありがとう。後で交換会をしましょうね。これを当てた人はラッキーだわ」
 ふふ。と笑って幽霊の亜紀さん。
 そうしているうちに一旦木綿とビイも降りてきて、みんなで部屋へと入っていく。


 続いてやってきたのは、崎守 敏(サキモリ ビン)だ。独りで過ごすのが嫌だった崎守は、この市ノ瀬荘でクリスマスパーティをやると聞いて、楽しそうだとやってきたのだった。
 チャイムを押した崎守に応対したのはぬり壁の平さんだった。応対、と言っても、玄関に行ってしばらく見つめあい、くるりと踵を返したぬり壁の後を崎守が着いて来ただけだが。
「サンタクロース?」
 崎守の姿を見て呟いた那智に、崎守はそうだよーと返す。いつもの服装にサンタの帽子と白い袋での登場だった。
「よろしくだね!」
 改めてそう挨拶した崎守は、まだ来ていない人がいるかどうかを確かめる。
「どのくらいの人が来るかは分からないんじゃよ」
 ゆきの答えに、それならまだくるかもしれないんだね! と元気よく答えた崎守は、玄関先のドアプレートに靴下の模したクリスマス装飾を飾る。そしてそこからプレートを垂らす。
 と、その時、新しいお客さんが来る。
「……市ノ瀬荘のクリスマスパーティは、ここでいいのか?」
 ロスだった。紙袋を崎守に渡しながらの言葉だったので、問いというよりは確認の意味合いだ。
「あ、うん。だけど、僕も招かれた方だから、それは中の人にだね!」
 中へとはいる二人。
「いらっしゃいませ〜」
 挨拶のほかに、数名の妖怪がロスを驚かそうと試みるが、ロスはまったく意に介さずに、お邪魔する。など普通に話している。
「……たいしたものではないが」
 ロスが管理人に渡した紙袋の中には、お菓子がはいっていて、それらはテーブルに並べられる。
 それともう一つ。交換用のプレゼントの箱をゆきに渡す。
 そうしているうちに、そろそろ開催時間になろうという時間になっていた。準備はもう全て終わっていていつ初めてもいい状態だ。
「そろそろ始めようかの」
「こっちのお嬢ちゃんは」
 ゆきの言葉に、狩納が美樹を見ながら言う。なかなか目の覚めない美樹に罪悪感を感じ始めたのか、藤がバツが悪そうにこめかみをかいてよそを見る。
「……寝てるのか?」
 何故? という意味合いを込めてロス。しかし当人の美樹はというと。
「うぅ、ん…………現れたわね怪人ハンニャーノ……」
 どうやら気持ちよく(?)夢を見ているみたいだった。


「うーん……」
 ルイスは迷っていた。
 市ノ瀬荘でのクリスマスパーティと聞いて、参加せずには居られないと特別なカフェからフルーツケーキまで買ってきて、さらにはネタもしっかりと用意して。なのに、市ノ瀬荘のドアの前でピタリと足が止まっているのだ。
 何故か? それはドアプレートに飾ってある靴下を模したオーナメントにあった。その靴下の中には怪しげな液体の入った瓶が入れられていて、掛けられたプレートにはこう書いてある。
ルイスお兄ちゃん専用
「怪しい……よなどう考えても」
 ルイスは思う。これは間違いなく罠だろう。こんな悪戯を仕掛ける奴にも心当たりがあるし、飲んだらきっと酷い事になる。
 それが分かっているのならば、無視して部屋に入ればいい。
 はずなのだが。それはルイスの本能が許さないと心の奥底で告げている。
「だってこんなことされたら……」
 すう、と大きく息を吸い込んで。
「飲むしかないじゃないかああああああああ!」
 大きく叫んで、ルイスは靴下の中の瓶を掴み取ると、親指一つでキャップを捻ってあける。
「ファイトオオオオオ。いっぱああああつ!」
 腰に手を当てて一気に飲み干すのだった。


 ――飲むしかないじゃないかああああああああ! 
 外から聞こえた叫び声に、市ノ瀬荘の中でパーティーを待っていたみんなは何事かとドアの方向に顔を向ける。
「ルイス? かの?」
 聞き覚えのある声にゆきが小首を傾げて言う。
「さあ。案外違ったりして」
 くすくすと小さく笑いながらそう言うのは崎守だった。これから起こるであろう出来事を思い浮かべると面白くて仕方がないのだ。
 ――ファイトオオオオオ。いっぱああああつ! 
「なんか嫌ァな予感がするのは、俺だけかァ?」
「どうにも俺も、そんな気がするねぇ」
 わざとらしく肩をすくめてみせる狩納に、カメラを引き寄せて雷汰が答える。那智やロスはさりげなく隅の方に移動し、藤はゆきの前に立つ。崎守は堪えきれない小さな笑いを漏らしているし、ビイとアレグラは興味津々にドアの方を見ている。美樹は相変わらず気持ち良さそうに夢の中だ。
 ――な、なんだこりゃあああああ。
 怒号のような叫びに、ドドドドと何かが物凄い勢いで近寄ってくる音。そうして現れたのは、トナカイの顔をしたルイスだった。文字通りに、本物のトナカイの顔だ。
 ぽかんとする一同。トナカイの顔から少し視線を下げると、『風紀の乱れは粛清する』と血文字で書かれたたすきが掛かっている。いかにも呪われそうな文字だ。
「……精巧すぎないか?」
 思わず口からでた那智の言葉に、場のテンションがいっきに上がる。すげぇ、だとかなんだこれ。だとか。そしてそんな騒ぎの声で美樹が目覚める。
「ぅ……ん……ん? アンソニー?」
 寝ぼけまなこで呟いた美樹のその目は、確かにルイスを捕らえていた。
「おぉぅ! ヘレェーン!」
 対するルイスも、そのトナカイの目で美樹を映してそう答える。その帰ってきた答えに美樹は飛び起きる。
「アンソニーっっ! どうしたのその姿は……。まさか、怪人ハンニャーノに魔法をかけられて」
「そうなんだヘレン……っ! でもオレは負けない!」
「いいえアンソニー! オレ達は、よ。私もいるわ。……そう、これは使命なのよ。世界中の子供たちにプレゼントをあげる使命!」
 ノリノリで美樹。途中で崎守がサンタ帽子と白い袋を渡すものだから、どんどんと勢いは止まらない。
「そうだねヘレン。オレは世界一のトナカイになる……!」
「そして私は、世界一のサンタに……!」
 ざっぱーん。と、二人の背後に大きな波がうねりを上げた。……気がする。
 ――カシャッ。
 誰かが止めなければならないその流れを止めたのは、雷汰だった。
「や、すまないね。いい絵だったもんで」
 つい、と言う雷汰に、誰もが賞賛を送っていた。しかしルイスは止まらない。
「こ、困りますぅ。写真は事務所を通してくださいっ!」
 足を内股にしてクネクネとするルイス。勿論顔はリアルトナカイだった。

 そうして一通り騒いだ後に、一度席について簡単な自己紹介を始める。初めましての人もそうでない人も、十分に盛り上がった後だからだろうか、気兼ねなく話せる。
 自己紹介を一通り済ますと、みんなの持ってきたおつまみや料理も交えて乾杯。飲む人はお酒で、未成年は勿論ジュースだ。
「まさかアンソニーが来るとは、ビックリしたわ」
 ソファーでは、カクテルを味わいながら美樹とルイスが話していた。妖怪など、ホラーの類が苦手な美樹だったが、多少耐性がついてきたのもあってか視界に入るくらいなら大丈夫。くらいにはなっていた。
「いやいや。オレもまさかヘレンがいるとは」
 返すルイス。薬の効果は既に切れていて、元々していたトナカイの角と血文字のたすきの姿だ。ちなみに今更だが、アンソニーとはルイスの、ヘレンとは美樹の、お互いの呼び名である。前に会った時にそういうネタを繰り広げたことがあるのだ。
「それにしても、やっぱりあれは罠だったかー」
 崎守を向いてルイス。あの瓶を置いたのが崎守だということも分かっているようだった。
「アハハ。飲んでくれると思ったよ。ルイスお兄ちゃん」
 対する敏も、そのことを隠そうともせずに答える。そして最後にはわざとらしい口調でそう呼ぶ。
「さっきの、おまえがやったか? なかなかやるな、地球人」
「地球人、うーん」
 アレグラの言葉にうーんと小さく唸る崎守。
「でも本当にすごい薬ね、成分が知りたいわ」
「ムービースターならでは、かな?」
 美樹と、続いて那智。那智の言葉に頷く崎守に、やっぱりそうかぁと美樹。

 一方、炬燵の方は酒宴会場となっていた。
 この日を待ちわびていたという、市ノ瀬荘の中でも大の酒好き宴会好きである一本だたらの刃金さんが飲むわ飲むわ。それを見て周りのものもぐんぐんと酒が進む。
「お。そうだそうだ」
 忘れてた。と、言いながら雷汰が紙袋を漁る。そしてでん、と炬燵の上に置かれたのは、塊のままのローストビーフだった。
「ローストビーフ。酒のつまみにゃ最高に合うんだ」
「こりゃァ、うまそうだ」
 赤ワインに漬け込んだ雷汰お手製のローストビーフ。最高に酒に合うと聞いて歓声があがる。
「切って、きましょうか……?」
 雪女がそう言って台所に持って行こうとするのを、雷汰は手で制す。
「まぁ見てな」
 そう言って炬燵回りの人に少しだけ距離を取ってもらうと、雷汰はローストビーフの包みを剥がして立ち上がる。
「なんだなんだ」
 雷汰が立ち上がったことでソファーの方にいる人達も雷汰に注目する。雷汰はそのまま炬燵と少し距離を取り、ショルダーバッグから数本のナイフを取り出しす。雷と文字の入ったそれは投擲用の薄くて重いもので、ナイフの尻の部分に丸穴が空いている。雷汰はそれを片手に数本構えたかと思うと、はっ、と小さな吐息とともに投擲した。
 が、雷汰の投擲したそのナイフはまるで明後日の方向に飛んでいく。
「……え?」
 当然、そのナイフでローストビーフを切るものだと思っていた観客。予想もしていなかったその展開に思わず気抜けした声。
「……えぇ!?」
 もう一度。しかし今度のは驚きのそれだ。雷汰が明後日の方向に投擲したナイフは、雷汰がさっと動かした手に合わせるようにどういう訳か空中で弧を描いてローストビーフに向かっていく。仕掛けとしては投擲したナイフをワイヤーで操っているのだったが、細いワイヤーに光の影響もあり、その仕掛けは見え難く。気がついているのは数人しかいない。
 そのまま何度か雷汰が手を動かし、投げたナイフの全てがローストビーフに刺さる。そして雷汰がそれを一本、二本と手で抜いていくと、塊だったはずのローストビーフがぐにゃりとずれる。それらは見事に薄切りスライスされていたのだった。
 最後に一本刺さったままのナイフを持つと、スライスされたうちの一枚がついてくる。雷汰はそれを一口噛み切って。
「仕上がりは上々。って具合か?」
 にっと笑ってそう言ったのだった。

「これは、ルイスが持ってきてくれたケーキじゃの」
 コトリと、テーブルにケーキを置きながらゆき。
 主催者であるゆきは、パーティーが始まってからもいろいろともてなす側の仕事をしていた。食べ物にしても、全てのメニューをテーブルに置ききる事の出来ない数なので、ある程度減った物を纏めて空いた皿を別の皿に取り替えたりとだ。
「おっと、ゆき嬢ちゃん」
 ケーキを置いてまた空いた皿を持って台所へ戻ろうとしたゆきを、狩納が引き止める。うん? と返すゆきに、更に続ける。
「後はあいつらに任せて、ちょっと休んでもいいんじゃないか」
 式神の太郎丸、次郎丸を指して言う。けれど、ゆきは小さく首を振って返す。
「ありがとうの。けど、いいんじゃよ」
 元々ゆきは、主催者として裏方的な作業をしようと決めていた。大きなパーティーになればなるほど、そういった役割は必要だ。主催した自分が率先してやらなくてどうする、と。それに、そういったことをするのを、ゆきはちっとも苦とは思っていなかった。みんなの笑顔や笑い声だけで、ゆきは嬉しくなり、楽しめるのだ。
 と、そのとき。室内から大きな歓声。何事かと狩納とゆきが声のほうを見ると、ロスがファイアマジックを披露していた。
「おぉ。すごいものじゃの」
 派手に行き交う炎を目に、ゆき。すると横からやってきた幽霊の亜紀さんが、ゆきの手から皿を取ってゆきに言った。
「これは私に任せて、楽しんでいらっしゃい」
 にっこりと笑って言うものだから、ゆきは一瞬言いよどむ。そこへさらに続ける。
「しばらくは皆さん夢中で、下げるものもなさそうですし。少しの間私に任せて、ね」
 その心遣いが分かったから、ゆきは嬉しそうにこくりと頷いてもっと近くでファイアマジックを見る事にした。
 ゆきが近くまで来たのに気がついたロスは、ぼうっ、と手に大きな炎を纏わせる。おお、と皆が驚いた所でその手を軽く2,3度振る。すると振るたびに炎の勢いは弱まり、その手にはクリスマスカード。そしてそのカードをゆきに向けて弾く。咄嗟に受け止めたゆきがロスを向くと、ロスがそっと微笑んだので、やっぱりゆきも微笑みを返すのであった。

 雷汰の投げナイフ。ロスのファイアマジックときて、場は芸の披露会場の空気になっていた。
 そしてそんな空気を逃さないものが一人、いや二人。
「一番、ルイス! いっきまーす!」
「一番、二階堂美樹、歌いますっっ!」
 まったく同じタイミングで同じように立ち上がって手を上げる二人。お互いに自分以外の誰かがタイミングを同じく声を発したのに気が付き、キョロキョロと首を回し、視線が合う。
 にやり。
 一瞬先に行動に移ったのはルイスだった。玩具カラオケセットのマイクを掴んで一声。
「アンソニーとヘレン。デュエットいきまーす! 曲は勿論」
 え。え。と一瞬慌てる美樹を横目に、ルイスはすうと息を吸い込んで。
「恨み節」
 そう言ってマイクを一つ美樹に放る。そのマイクをがしりと受け止めた美樹は、望むところよ。と、やはりにやりと笑って返すのだった。
「♪あぁ〜この風習が憎ぅいぃ〜♪」
「♪あぁ〜周りの目が痛ぁいぃ〜♪」
『♪温かい部屋、こころは冷たい♪』
 歌いだす二人。勿論アドリブで作った歌だ。ねっとりと、でもどこか明るい調子のその歌に部屋が沸き、笑い声が飛ぶ。『風紀の乱れは粛清する』ルイスのそのたすきがさらに笑いを誘うのだ。
「ははっ。いいねぇ」
 歌え歌えとけしかける藤に、今度はアレグラがマイクを握る。
「アレグラも、歌、歌えるぞ」
 アカペラで歌いだすアレグラ。
「お」
 うまいねぇ。と雷汰。
「これはなんという歌であるか?」
 説明を求めたビイに、那智が答える。
「諸人こぞりて。クリスマスソングとして有名な、賛美歌」
「さんびか? なんであるか?」
 ふむ。とビイを一度見て、那智は続ける。
「神をたたえる歌だ」
 賛美歌の一般的な説明は頭に入っていた那智だったが、またそのままいうと次の質問、次の質問となりそうだったので簡単に答える。
「なるほど。では次は皇帝をたたえる歌を歌うがよいぞ」
「…………そうだな」
 嬉しそうにはしゃぐビイを横目で見る那智。
「?」
 そのあたりで、数人が首を傾げ始める。
 なにか違和感が、と探り、ぽつぽつと気が付き始める。
「歌詞、微妙に違わない?」
 と、美樹が言う。しかしアレグラはそんな素振りを見せずに気持ち良さそうに歌っている。
「そうなんだ? 僕、この歌の歌詞しらないから」
 美樹の隣にいた崎守が返す。同じように、この場では、なんとなく聞いたことのある歌だ。程度で詳細な歌詞は知らない人のほうが多かった。
「この世の闇路を照らしたもう」
 呟いたのは雷汰だ。確かアレグラは、『闇路』の部分を『旅路』と歌っていた。
「あ、やっぱり」
 その他にも、『花を咲かせ』の部分を『花の博士』だとかよく聞けば所々間違えている部分がある。
「でも、ま。楽しそうだからイイんじゃねェの」
 本当に楽しそうに歌うアレグラを見て、狩納が笑って言うのだった。

 歌って踊ってのカラオケ大会に発展したソファー周りを抜けて、那智は炬燵付近の酒を手に取る。
 部屋の中は大きく分けて二つの会場に分かれており、ソファー付近では歌に踊りに芸といったパフォーマンス会場で、炬燵周りが酒に談話の酒宴会場となっていた。料理の類はほとんどがテーブル付近に集中しており、各々料理を取りに行ってはソファーと炬燵を行き来するといった具合だ。
 炬燵の酒を取って部屋全体を見渡せる入り口側へと数歩下がる那智。その背中がなにかにぶつかる。
「ん? ああ、失礼」
 振り向いて言う那智の目には大きな壁。ぬり壁の平さんだった。
「…………」
「…………」
 答えは、ない。というか、ぬり壁がなにをしているのかも那智には分からなかった。ずっと佇んでいるだけだ。
 とりあえずこれ以上はさがれなそうなので数歩前に出て手に持った酒を喉に流し込む。
「ぉ。いい飲みっぷりじゃねぇか」
 手に持った盃を揺らしながら言うのは藤だ。挑発的に口元を歪めて続ける。
「どうだい? いっちょ飲み比べなんてのは」
 じっ、と。たっぷり五秒は眺めてから、那智は返す。
「……受けてたとう」
 こうして始まった飲み比べ。ルールは単純。一本だたらの刃金さんと同じペースで飲み続けること。一杯分の差をつけられたらアウトだ。パーティーが始まってから休むことなく飲み続けている一本だたらだ。なかなかに辛い条件であるのは二人とも分かっていた。
 スタートを合図に、まずは最初の一杯を一気に飲む二人。一本だたらはチビチビと、けれど休むことなく飲んでいく。

 さて、テーブルの料理コーナーではケーキの食べ比べが開催されていた。美樹とビイだ。
 ゆきが買ってきたケーキに、ビイ、ルイスの持ってきたケーキ。さらには幽霊の亜紀さんが作ったケーキなど、沢山のケーキがここにはある。
「うむ。なかなか良い出来である」
「ほんと、美味しい」
 一口ずつ食べては、控えめにしてある甘さがいいとか洋酒が効いていていい味だとか。
「ん……? ん! これ美味しい!」
 興奮したように美樹が言ったのは、塩キャラメルのアイスケーキ。ほのかな塩の味がキャラメルクリームの甘みを一層に引き立て下のアイスがまた違った甘さを届けてくれる。
「これは余の住まいにおるメイドが作ったものであるな。帰ったら誉めてつかわそう」
「いいなぁ。ケーキとか作れる人って。毎日食べ放題」
 うっとりとして美樹は呟くのであった。

 もう何杯目になるだろうか。炬燵周りでは雑談に花を咲かせながら飲んでいるうちに、那智も藤もそこそこに酔いが回ってきていた。火照った顔で、それでもまだ一本だたらにあわせて飲んでいる。
 ソファー側から炬燵側を見ていた崎守。これは面白そうだと炬燵近くへとやってきて、みんなが雑談に夢中になっているうちに、飲み比べに使っていた酒の瓶をかなりアルコール度数の強い酒の瓶と摩り替える。
「うぁ……っ」
 気がつかずにそれを注いで飲み、那智が顔を歪める。鼻につく匂いと喉を通る熱さに耐える。
「……つっ」
 同じように藤も。そして悪戯が成功した崎守は上機嫌に笑っている。
 けれど一度は手が止まった二人だったが、一本だたらがそれを平気で飲んでいるのを見ると、小さく呻いて再び手を伸ばした。


「そろそろかの」
 うっすらと暗くなってきた窓の外を見てゆきは管理人のきらに向かって言う。その言葉にきらは頷いて別室へと歩いていく。
「それじゃあそろそろプレゼントの交換をするんじゃよ」
「お?」
「待ってましたー」
 その合図に一同、中心へと集まってくる。そこへ別室に行ったきらがプレゼントを持ってくる。
 今回の交換会は、参加形態によってプレゼントの有無があるので、持ってきた人のプレゼントに住人たちの用意したプレゼントを足して人数分揃え、全員に行き渡るようにした。方法は古典式にクジ引きだ。
「引きたい人から引くんじゃよ」
 ゆきが赤黒水玉模様の籠を両手で持って差し出すと、まず引きにきたのはビイだった。
 ぐるぐると籠に手を入れて何度もかき混ぜて選んだビイが引いたのは、ベーゴマや紙風船などの昔ながらの玩具セットだった。
「??」
「なつかしいの」
 見た事のない玩具を珍しそうに眺めているビイをみながらゆきが呟く。
「どれ」
 コマと紐を両手に持ってはてな顔のビイに、狩納が使い方を教える。
「おぉ! これは魔法であるか?」
 炬燵の上で回っているベーゴマを見ながらはしゃいだように言うビイに、狩納は小さく笑う。
 それじゃあ。と言いながらそのまま狩納が次のクジを引く。番号を教えて渡されたラッピングを解くと、そこにはミニチュアツリー。手に持てるほどのサイズのツリーで綺麗に装飾されているものだ。
「いいねェ」
 事務所に飾らせてもらうよ。と箱を持ち上げて狩納。
 続いて引いたの雷汰だ。小さめの箱の中を開けてみると、中にあったのはシンプルな名刺ケース。アルミ製のスリム型で、隅には有名なブランドのロゴが入っている。
「どうだい?」
 胸ポケットに仕舞う手を半分で止めて、似合うかい? と演技っぽく見せる雷汰。雪女などはうっとりと見つめている。
 ルイスが引き当てたのは、最新のゲームソフトだ。
「おぉ。CMでやってるやつ。やってみたかったんだよこれー……って! ハードがないよぉぉぉ!! 買えってか!? 買えって言うのか!?」
「大丈夫よアンソニー。私の家にあるわ……!」
 ぐっ。とサムズアップして美樹。
「さすがヘレェン! でもゲーム機のコードっていつも絡まっちゃうんだよね」
「そんな時はこれ! 絡まるコードも一纏め。ゲームパソコンなんでもOK。巻き取りクン! 今ならお値打ち価格……」
「oh!! なんと素晴らしい! さっそく5パックほど注文するよ」
 まるで通販番組のような遣り取りを一通りした後、続いて美樹が引く。
「ええとなになに? 作るよー直すよー……?」
 包装を解いて現れたカードを読む美樹。すると崎守が美樹の前に出て同じように言う。
「作るよー直すよー」
 なんとその場で崎守が何かを作ったり直したりするというのだ。その崎守の言葉に、美樹はじゃあ! と顔を輝かせて言ったのは。
「さっきのトナカイの顔になる薬をお願いします!」
 成分を細かく調べてみたい、と。科学者としての興味がどうにも抑えられなかったのである。
 次に引いたのは崎守。引き当てたのはまたカード状のものだった。
「福袋引換券?」
 読み上げたそれは、聖林通りに並ぶデパートの新年福袋の引換券だった。毎年かなりいいものを福袋に入れるという評判のデパートだ。
「新年が楽しみだね!」
 いいものが入っているといいな。と崎守はにこにこと言う。
 残り3つ。ロスが引き当てたのは携帯電話のストラップだった。
 焼き物の土偶のストラップ。出来はいいのだけれどどうにも不気味さが漂う。
「……ありがとう。これは、誰が?」
 思わず興味で聞いたロスだったが、名乗り出るものはいなかった。
「アレグラ、引く」
 そう言ってアレグラが引いたのは、これまた怪しげな御神籤箱だった。
 二リットルボトル程の大きさの御神籤箱を抱えて首を傾げるアレグラ。何に使うものかと考えているようだった。そんなアレグラを見て市ノ瀬荘の住人たちが小声で囁きあっている様子は、その御神籤箱がなんともいわくつきであるように見えるものだった。
「残り物には」
 言いながら最後の一枚を那智が摘む。一応広げて番号を見せ、渡されたのは生卵一ダースとその他に数個の生卵だった。
「……鶏卵?」
 まさか卵が出てくるとは思わず、注意深く見回す那智。パックに入っている方はスーパーなどでよく見かけるパックなので、個別になっている方を観察する。
 それらは一つ一つ綺麗にラッピングされているのが数個。その一つを取り出して感触や重さを確かめる。そして揺らしてみるところころと、中に何かが入っているのが分かる。
「これは、チョコレートか」
 結論を出し、殻をぱかりと割ってみせ、中に入っていたボールチョコを一つ口に運んだ。
「あれ? みんなは?」
 ゆきや藤をはじめ、市ノ瀬荘の住人にプレゼントが行き渡ってないのを見て疑問の声が上がる。
「わしらは今日はもてなす側だから、いいんじゃよ」
 だから。と、ゆきは続ける。
「みんなに、ささやかな幸運をプレゼントするんじゃよ」
 それがゆきからみんなへのプレゼントだった。
「座敷童子からの幸運のプレゼントとは、縁起がいいな!」
 にっと笑って喜ぶ雷汰。
「市ノ瀬荘のみんなにはこっちじゃ」
 言いながら、住人一人一人にお守りを渡すゆき。
「ありがとな」
 お守りを受け取り、藤。
「んじゃあ」
 ゆきが住人のみんなにお守りを配り終えたのを見て、雷汰がバッグから何かを取り出す。
「ゆきにはこれを」
 ラッピングされた紙袋に入っていたそれは、子供用の手袋とマフラーだった。ゆきへのプレゼントとして持ってきたのだが、渡すタイミングがなかなかなかったのだ。
 さっそくつけてみるゆき。毛糸で二つ繋がったミトン手袋に、それと同じ素材のセットマフラー。色は白に水色を数滴落としたような淡い色合いのものだ。
「ありがとうなんじゃよ」
 まさか自分も貰えるなんて思っていなかったゆき。嬉しそうに笑う。
「そうだ。私もみんなに持ってきたの」
 言いながら大きな荷物を引っ張り出した美樹。みんなに用意したプレゼントだった。
 一人一人、市ノ瀬荘の住人も含めて手渡ししていく美樹。外見的に迫力のある住人などには、明らかに腰が引けている。
「お」
 中身は全部ばらばらで、クリスマスリースや雪だるまの人形、それにポストカードなど。クリスマス雑貨だ。
 そうしてみんなで貰った色々なプレゼントを抱えて、メリークリスマス! と祝いあったのだった。


 宴もたけなわ。そろそろ終了の時間となり、みんなで市ノ瀬荘の外へと出る。
 そこまで遅い時間ではないのに、我慢弱い冬の陽はもうとっくに落ちて街灯が灯っていた。
「雪、降らなかったなあ」
 誰かの言ったそんな言葉に、そういえばそうだね。と誰かが返す。
「雪、か」
 呟いたルイス。続いて雪女になにか耳打ちすると、雪女はこくりと頷いて、二人は集団から少し離れる。
「どうかした?」
「ルイスと雪女のお嬢さんの一大ショー!」
 そう言ってルイスは身に着けていたロザリオを外す。そして笑みを浮かべていた顔がふっと真顔になり、意識を集中させる。
 凛と、空気が張りつめる。肌寒い風とともに届いたのは、雪だった。
 ひらり、ひらり。
 舞い落ちる雪は月と街灯の光を受けて純銀の光を放つ。それは言葉を失ってしまうほどに綺麗で……。
 だれもが時間を忘れて、魅入っていた。
「さて、それじゃあ」
 やがて雪はやみ。
「お疲れ様」
「楽しかった」
 楽しい時間を過ごしたという笑顔と。
 素敵なプレゼントと。
 そして少しの幸運を持って。
 それぞれの帰宅の徒についた。

クリエイターコメントhappy Xmas!!

こんにちは。依戒です
クリスマスプラノベのお届けにあがりました。

うーん。クリスマスパーティ。いいですね。
楽しいですよね。幸せですよね。

さて、長くなるお話は後ほどブログに綴るとして、ここでは少し。

まずは心配事。
今回、私自身も始めまして。キャラ同士も始めましての方々も多く、呼称がものすごく心配です。間違った部分があれば修正いたしますので、どうかお気軽に。

プレゼント交換は、誰のものかとかは基本的には明かさない方針で行きました。予想してみたりとかも楽しいかもしれませんので、是非に。

さて、それでは最後になりますが
この度はプライベートノベルのオファー、有難うございました。
ケーキもパーティも恋しく。幸せいっぱいと一握りのやきもきで楽しく執筆できました。

と、それではこの辺で

オファーPL様が。ゲストPL様が。この作品を読んでくださった方が、ほんの一瞬だけでも幸せな時間と感じてくださったのなら、私はとても幸せに思います。
公開日時2008-12-25(木) 18:40
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