★ せかいのはぐるま ★
クリエイター淀川(wxuh3447)
管理番号873-7258 オファー日2009-04-02(木) 00:14
オファーPC ヨミ(cnvr6498) ムービースター 男 27歳 魔王
<ノベル>

 ここではない遠い世界の話。
 魔法や剣が栄え、亜人であるゴブリンやホビットなどが存在し生活をしている時代。草木は生い茂り、未開拓の地は数知れず。冒険家が居れば盗賊や海賊も居て、天変地異を操る魔術師や岩をも砕く格闘家などもいる。良くも悪くも典型的なファンタジーの世界である。
 ――だから、お決まりの『勇者』と『魔王』も存在する。そう、『お決まり』だからだ。この世界

にはこの世界を覗く『第三者』の観念が大きく影響されるらしく、覗く『私たち』がそういう概念を抱いている為に「お決まりの設定」が反映されてしまう。そういう『システム』なのである。
 このシステムは非常に凶悪であり、生活をしている本人たちの意思とは無関係に『システム』へと組み込もうとするのである。
 そして、戦闘や事故などでその役割の人物が居なくなっても補充される――そう、永劫の時の間、ずっと。

 魔王が勇者と激しい戦いを繰り広げている時代。魔王軍は勇者一行によって勢力を10分の1へと抑えられ、勇者たちはいよいよ最終ダンジョンである魔王の城へと乗り込んでいた。

 その頃、ある小さな村に一組の夫婦が居た。夫は『ヨミ』妻は『ミライ』。ごくごく普通の村人夫婦である。夫婦は自他共に認めるほどのおしどり夫婦で幸せな時間を共に過ごしてきた。以前、この村にもモンスターが現れ、色々な家屋がめちゃくちゃにされ、村人たちは途方に暮れていたが勇者たちがモンスターを倒し、この村にまた平和な暮らしが戻ってきたのだ。村人たちはその後、何事もなかったかのように暮らしていた。夫婦もまた、平穏な暮らしの中で愛を育んでいた。
「ヨミ」
「んー? どうしたのー?」
 慌てて駆け寄ってきたミライにヨミは間延びした口調でその理由を問う。
「あの、あのね…子供が出来たみたいなの」
「ええーっ!? それは本当かい!?」
 嬉しそうに笑うミライの肩をガシリと掴み先ほどとは打って変わって慌てたように、しかし嬉しそうに確認をする。その慌て様にミライはくすりと笑って頷いた。
「そうかー…私が父親になるのかー」
「ええ、そうよ。頼りにしてるからね『おとうさん』!」
 そんなどこにでもありそうなやり取りをして、二人は新しい生命への喜びをかみ締めていた。

 ――同じ時、勇者たちは魔王と対峙し、激しい戦いを繰り広げていた。上位魔法が飛び交い、剣撃をはじき返し、増える手下たちを一掃し……戦いは三日三晩繰り広げられた。
 そして、ついに宿敵の魔王を打ち滅ぼしたのだ。長い長い戦いであった。感極まる勇者に魔王はこう言い放つ。
「これで満足か?――我が息子よ」

 勇者たちが魔王を打ち滅ぼしたのが世界中に知れ渡るのにはそう時間はかからなかった。あの小さな村にさえ一日経たずと届いたのだから。
「勇者様がついに魔王を倒したそうだぞ!」
「なんだって?!そいつぁめでてぇな!」
「そうだ、いっちょ村祭りでもやって勇者様をお祝いしようじゃないか!」
「それがなぁ、その肝心の勇者様がどっこ探しても居ねぇんだってよ」
「他の仲間の方々は聞いたら口を閉ざしたりもんのすごく怒るって話だしな……」
「勇者様はどこへ行ってしまわれたのだろうか……」
 村の人の話しを少し外れた木陰から聞いていたヨミはご機嫌であった。勇者が居なくとも勇者が魔王を倒したのは事実だし、何より自分には子供が出来る。平和な時代に生まれるなんてなんて幸せなのだろうかと。そして、何より大切な……
「ミライ……?」
 先ほどまで隣に居たはずのミライが居ない。辺りを見回すがどこにも姿は見えない。いつも何処かへ行く時は声をかけていくはずなのに。急いで村を探す。……しかしどこにも姿は見えない。すぐ近くの村人に聞いても「知らない」としか帰ってこなかった。他の村人に聞いても帰ってくる返事は同じで。
軽い不安を覚えたヨミは村中を駆け回った。村人が平和を喜んでいる間、ずっとずっと行ける範囲まで探し回った。しかし、ミライは見つからない。走ったせいで心音がやたらと耳につく。立ち止まってる暇はないはずなのに。ここには居ないから探さなければならないのに。
 ――なんで?
 ふと、自分の行動に疑問を持ったヨミは、少し立ち止まって考えてみた。何故「ここには居ない」と分かるのだろう。確かに村の隅々まで探した。しかし入れ違いになっている事だってある。もう帰って食事を作っているんじゃないのか。そういう可能性だってあるはずだ。しかし……自分にははっきりと分かるのだ。「ここには居ない」と。
 ――ミライが危ない!
 直感的にヨミは走り出した。村を出て、街道を越えて川を過ぎても尚、走り続けた。
 そしてこの日、一組の男女が村から姿を消した。

 ヨミがミライを見つけたのはそれから半年後の事だった。深い山奥の自然に出来た鍾乳洞の洞窟に彼女は居た。ただ、それがミライだと分かるのは恐らくヨミだけだろう。大きな木の根のような触手が絡み合い、大きな繭を形成している。無論、中身は見えはしない。しかし、ヨミは確信していた。間違いなくこの中に居るのはミライだと。この不自然な胸の高まり。自分を見失いそうな程の感情の高ぶり。やっと会えた。そう零しミライへと近づいて行くが、見えない壁が行く手を阻んだ。
「邪魔をするなっ!!」
 手からどす黒い物があふれ出す。それを見えない壁へと向けた。しかし、本来であれば冷静になることなどない筈なのだが、急に頭から霧が消えたような感覚に囚われた。
「私は……何者かの手の平で踊らされている……?」
 ヨミは再び考え始めた。そして……考えてみるとおかしい。魔王が消えた後勇者も消えた。そしてミライも消えて…恐らく自分も「消えた」事になっているだろう。ミライには自分との子供が居て、魔王の最期に勇者に放った言葉。何かが見えてくる。
「魔王は……もしかして、元はただの人間……?」
 そして、魔王が消えた今、次の魔王に選ばれたのが……
「そんな……そんなことって……」
 ヨミは力の入らなくなったその体を地に着かせ、愛しい人が居るはずの繭をずっと見つめていた。

 それからまた年月が過ぎた。ヨミの体は朽ちる事無く、老いる事無くこの世界に存在している。ヨミは世界を渡り歩き、魔王と勇者の関係について調べていた。

 魔王の現れた時期、勇者の現れた時期。
 失踪した夫婦。
 身ごもっていた子供。
 魔王の城にあった物。
 この世界。

 ヨミは気がついた。この自分に宿る黒い力。コレを使えば他の生命と引き換えに愛しい人が自分の下へ帰ってくるのだと。しかし、ヨミはその力を使わなかった。――そんなコト、悲しい以外の何物でもないから。他の命を多数奪って得るなんて出来ない。
 そしてヨミは今も考えている。誰も傷つかず、愛しい人を救い出す方法を。
「苦じゃないかって? なに、時間はいくらでもありますからー」

クリエイターコメント納品が遅くなってしまい申し訳ございません。
捏造OKと言うことで色々設定してしまいましたが…お気に召すと幸いです。ヨミとうちゃん頑張れ!
この度はオファー有難うございました!
公開日時2009-04-18(土) 13:20
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