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<ノベル>
10月31日万聖節前夜祭、通称ハロウィーン
何日も前からこの日を待ち望んでいた人はどれくらいいるのだろうか。
特にここ銀幕市では他のどの市町村よりも、どんな大都市よりも楽しみにしている人が多いのは、間違いないだろう。
去年は秋祭だった。毎年みかける露店に混ざってムービースター達の出す屋台や大道芸、たくさんの人が出会って笑って楽しんだ。今年はハロウィーン、本来の意味での祭りとはかなりかけ離れているが、それはそれ。
実際本来の意味でのハロウィーンを知っている人は少ないだろう。
おばけの格好をしてトリックオアトリート!と叫べばお菓子が貰える。
かぼちゃを刳りぬいて顔をつける、たしか中にろうそくをいれるはずだ。
なんとなく、町中がオレンジと黒に彩られると、あぁ、ハロウィンか、と思うくらいで。
これもきっかけなのだろう。人と人が出会う為の。
数人の小人達を乗せて海岸沿いを散歩していた斉藤美夜子は、急に何人かの小人が車椅子から飛び降り、二人の青年に向かって行くのを楽しそうに見ていた。
「「こんにちは!!今日はハロウィンだよ!パーティーするんだよ!」」
「「たっくさんお菓子があるんだよ!向こうの船でやるんだよ!」」
急に小人達に声をかけられた黒い髪の青年ははろうぃん、と小さく呟くと赤い瞳で隣の青年を見る。太陽の光で真白に見える髪に目の前の海と同じ瑠璃色の青年だ。
「「そうだよハロウィンだよ!遊びに来てね遊びに来てね!!たっくさんお菓子を食べてね!」」
「楽しそうだね、後で寄らせてもらうよ」
柔らかい笑顔でそういった彼は、小人達と斉藤に手を振ると一緒にいる青年と共に海賊船とは逆方向に歩いて行った。
同じころ、パーティ会場の海賊船にウェイター姿の青年がやってきた。
青年の姿を見るなり、小人達が最初のお客さんだと嬉しそうに走り寄ると青年はしゃがみこんで
「こんにちは。よかったら僕もお手伝いさせてもらっていいかな?」
と、言い出した。
「「お手伝い?お手伝い?なにするの??」」
「うーんと、ほら、飲み物配ったり、あ、手の届かないお菓子を取ってあげたり。かな?」
確かに、小人達が作ったお菓子は大人が見上げるほど大きなものもたくさんあった。
どうしよう?どうしよう?いいのかな?と顔を見合せて言い合う小人達は悩んだ挙句にお菓子は食べてくれるのか、と聞いてきた。
「もちろんだよ、甘いもの大好きなんだ。」
「「じゃぁいいよ!うん!いいよ!!」」
「ありがとう。僕もみんなにお菓子をいっぱい食べてもらえるように、頑張るからね」
お菓子を食べて貰える事が嬉しいのか、小人達はまた歌いだす。歌に合わせてお菓子がどんどんでてくるのを見て彼は確信した。
――うん、やっぱりそうだ。この歌…この小人達はあの映画の……――
気がつくと、視界の隅にジャーナルで見かけたムービースターがいた。
「あ、こんにちは。ユウレンさんですよね?僕、薄野鎮と言います。今日はここでウェイターさせていただきますね」
「……ススキノ マモル……」
ユウレンが名前を確認するように呟きながら彼を見ると、薄野はにっこりと笑い、お菓子がたくさん並ぶパーティー会場を見まわしてから町のほうを見た。
「飲み物とかグラスとか色々確認させてもらっていいですか?もう人が来ちゃいそうですから。あと、あるならテーブルと椅子も」
遠くから、子供たちの大きな声が聞こえる。
トリックオアトリート!!!
「あ!ジュリーだ!ジュリーだぁ!!」
一人の子供が大声で叫ぶと、周りにいた子供達も同じようにジュリーだ!と叫びながら集まりだした。
ジュリーことバタリアン・リターンズのジュリーのコスプレでハロウィンパーティーに参加しにきたのは沢渡ラクシュミ。せっかくのハロウィン、仮装をしてどうどうと外を歩ける機会だ、と意気込んできたのはよかったのだが、
「うぇ〜、やっぱり普通のにしたほうがよかったかなぁ〜?コスプレしてるのあたしだけだよぉ〜」
「ねぇジュリー!決め台詞言ってよ!」
「えぇ!?ちょ、いきなり言われても!!」
キラキラと期待に目を輝かせる子供たちの勢いに負けポーズをとった。が……
「……だめ!!はずかしいよ!!そしてセリフ飛んだ!!」
頑張ろうとはしたがほかの大人だって見てる。何より子供が何人も目の前で見てる。あるいみ羞恥プレイにも似たこの状況から、ねーねとせがむ子供から逃げるには……
「と……トリックオアトリート!!」
びしぃ!!と効果音がつきそうな、人差し指をまっすぐに子供たちに向けると、え?と子供たちは固まった。
「お菓子をくれないなら、い〜たずらしちゃうんだからぁぁぁあ」
本気の追いかけっこの始まりだった。
ハロウィーンの仮装といえば、やはり魔女の格好だろう。
黒い服に黒いローブと黒いとんがり帽子それと箒の魔女スタイルでケーキBOXを持った女性が賑やかなパーティ会場に足を踏み入れた。
「まぁ、もうすっかり盛り上がっているのですね」
仮装をした子供たちが顔や洋服に生クリームやチョコレートをつけて走り回っているのを見ると、さすがにど真ん中を歩く気にはなれない。
彼女がゆっくりと奥に入っていくと、薄野が声をかけてきた
「いらっしゃいませ。空いてる席には自由に座って大丈夫だよ。飲み物が欲しかったら僕に言ってね」
「ありがとうございます。えっと、斉藤さんがいらっしゃるところに座りたいんですが」
彼女がそういうと、薄野はこっちだよ、と海賊船の近くにいた斉藤の傍に案内した。
「初めまして香我美真名実です。こっちは、バッキーの聖。これから宜しくお願いしますね」
「ムービーファンなんだ。僕も…あ、僕は薄野鎮、バッキーは雨天、同じミッドナイトだよ」
香我美が斉藤に挨拶をしていると、薄野は近くにあった椅子を持ってきた。
「まぁ、ミッドナイトのバッキーが三匹も揃うなんて、なんか嬉しいわ。」
お互いのバッキーはそっくりなのだが、薄野の雨天は彼と同じくウェイターの格好を、香我美の聖は魔女の格好をしているし、斉藤のアサミはコウモリマントを着ていたので、間違うことはない。
「それと、小人さん達のお菓子に比べたら見劣りするかもしれませんが、手土産にチョコレートケーキを作ってきたんでよかったらどうぞ」
「そんなことないよ、手作りのお菓子だなんてすごいじゃないか。僕、紅茶とお皿取ってきますね」
彼の他にウェイターはいないのだが、子供達は殆どが親と一緒で高いところのお菓子を取るのは肩車をしてもらっていた。久々の肩車に喜ぶ子供や、一緒に来たが走り回る気はないのか自由にさせているのか、久々にゆっくりとお茶を飲んで話に花を咲かせている親もいる。薄野の仕事といえば飲み物を配るくらいだが、彼のウェイター姿を仮装だと思っている人も多く滅多に声はかからなかった。
なにより、彼も甘いものが食べたいのだ。小人達のお菓子もおいしいが、気にせず食べられるケーキも楽しみだ。
「私、お菓子とか、アクセサリーとかを作ったりするのが好きなんです。今日は小人さんたちにレシピを聞いてみたかったし、斉藤さんと手芸のお話もしてみたかったので」
「もしかして、その魔女の衣装も自分でつくったのかしら?」
「帽子は作れなかったので買っちゃったんですけど、ローブはがんばって作ってみたんです」
「へぇー。すごいね。僕はそういった洋服を作るのとかはしたことないんだよね」
いつのまにか戻ってきていた薄野は三つのティーカップとお皿、フォークを置くと席についていた。彼が香我美お手製のチョコレートケーキを切り分けていると、
「手芸とお菓子作りって似てるんですよ」
と斉藤が言う。どこが似ているのかわからない香我美と薄野はきょとんとしている。
「どちらも、きちんと「はかること」が大事なんです。お菓子は分量を、手芸は単位を。少しならずれてもいいと思われがちですが、やっぱり出来上がりが違うものなんですよ」
なるほど、と納得した二人と食べたチョコレートケーキに、薄野と斉藤は声を揃えておいしい、と言った。
そんな三人の、おそらくここで一番静かな、一番のんびりとしている席に沢渡ラクシュミはくたくたになって逃げてきた。子供たちとの追いかけっこが終わった後、というか夢中になってる子供たちから適当に抜け出したあと、その筋の皆さんにちょっと捕まっていたのだ。
カメラ小僧、通称カメコ。
一眼レフにバズーカとも呼ばれる望遠レンズをつけたそれはそれは高そうなカメラを首からぶら下げた皆さんに写真を頼まれ、ちょっとした撮影会になっていたのだ。
ちなみに、カメコの皆さんは礼儀正しく一列に並んで順番を待ち、あのシーンの、とかあのポーズで、と指定もする。
全身からバストアップ、下からあおりに彼女座らせて上から取るのも忘れない。もちろん正面左右の三方向、全て撮る。撮りまくる。
サイトに乗せていいか、というお声にはさすがにお断りしたが、予想もしなかった撮影会にぐったりしたのだ。
よろよろと近寄ってきた彼女に薄野は席を譲り、ジュースを持ってきてあげるあたり、彼はとても気の利く男性なのだろう。
「だ、大丈夫ですか?」
「ぎ……ぎりぎりで。あのぉ、クラブジャムとかラスグッラってないの?」
「聞いたことない名前ですね」
香我美がそう言いながらチョコレートケーキや小人のお菓子を彼女の前に置くが、
「ディワリも近いからあるとおもったのにー。せめてミターイだけでも……」
と、がっかりしたように机に突っ伏した。
ディワリって?と香我美が呟けば斉藤がインドのお祭りですよ、と教える。
あると思っていたお菓子がなかったのがショックだったのか、しょんぼりしている沢渡を見た斉藤が、じゃぁ小人さんに聞いてみましょう、と席を離れた。
「インドのお菓子ですか。私は食べたことないですね。どんな感じなんでしょう」
「面白いんだよ〜。コンビニとかで売ってるお菓子と違ってすんごい甘いの。食べると歯が痒くなったり頭が突き抜ける感じになるの。でもね、スパイスが入っていて、後味がスーッとしたりもするの。癖になるよ〜」
「それは、味が想像できないね。どこで売ってるんだろう」
「駅前の輸入菓子屋さんとか、輸入雑貨店にもたまにあるんだ。最近はネットでも買えるんだけど入荷は不定期だし一回品切れになるとどんなに気に入っていてもいつまで〜〜も品切れなの。ためしに自分で作ってみたんだけど、失敗したんだよね〜」
「ぜひ一度食べてみたいですね、小人さん、作れるといいんだけど……」
「ダメだったら今度一緒に買いに行こうよ!他にもいろいろあるからさ!あ、自己紹介してなかったね。私、沢渡ラクシュミ。こっちのバッキーはハヌマーンだよ」
彼女に続いて香我美と薄野も自己紹介すると、シトラスのハヌマーンが二匹のミッドナイトに挟まれた。
黒と白とオレンジと黒。偶然揃ったバッキーもハロウィンカラーで三人はそろって笑いだした。
何人かの小人を集めた斉藤は海岸の端、道路に一人の女性が立っているのに気がつくと、その色に見惚れた。
病的なまでに真白でありながら、太陽に当たらないから白いのではない陶器のような肌に漆黒の長い黒髪の見事なコントラストは、彼女が見てきた白と黒を並べ合わせた中で何よりも美しかった。その白黒を更に引き立てているのが、真紅の曼珠沙華が咲き誇る深紅の着物。同色であわせた生地もたくさん見てきたが、その色もまた素晴らしかったのだ。
一言で赤、と言っても、実際はたくさんの色がある。彩度と明度にわけられ、日本語名と英語名の二種類にもまたわけられる。
斉藤も、たくさんの赤を見てきた。だが目の前にある赤は肌の白と髪の黒の、どちらにも近くてどちらにも遠い。
鮮やかでありながら眩しすぎない、落ち着いた感じがあるのに霞んだ感じもない。大量生産ではでない自然そのものの色。
「なんて、綺麗……」
久々に心を揺さぶられる色に出会った斉藤は、無意識に口から言葉を落とした。声が聞こえたのか、彼女はゆったりと斉藤の方を見る。
「こんにちは、ここは賑やかですね」
「「こんにちは!こんにちは!ハロウィンだよ!パーティなんだよ!!」」
「「僕たちのお菓子を食べていってよ!!なんでもあるよ!なんでも出すよ!!」」
小人達の誘いを聞いた彼女は一面に広がるお菓子の山を見てまぁ、と感嘆の声を漏らした。
「私、あまり食事をしないものですから…こんなに沢山あるのが全部お菓子だなんて、びっくりしてしまいますね」
「よろしかったら、寄って行きませんか?鬼灯さん」
斉藤がそういうと、彼女、鬼灯柘榴の影が蜃気楼のように揺らめき、何かの啼声が聞こえたが、小人も斉藤も変わらず笑顔だ。
気が付いているのかいないのか、それともどうでもいいのか。その反応がきっかけなのか、単にお菓子が珍しかったのか。鬼灯柘榴はパーティに参加することにした。
小人達と斉藤と共にもやってきた鬼灯はその場にいた香我美と薄野、そしてまだしょんぼりしている沢渡と自己紹介をしあった。三人ともムービーファンであることもあり鬼灯の事は知っていたのだが、これからよろしく、との意味を込めて各々が自然と挨拶を交わしたのだ。新しく人が加わったこともあり、小人達がまたお菓子を出すが沢渡の手は伸びなかった。
「「どうしたの?どうしたの?お菓子、食べないの??」」
「食べたいお菓子がないんですって。作れるかしら?」
「「どんなの?どんなの?」」
「えっとね、ミターイっていうインドのお菓子なんだけど……牛乳と砂糖で作った半生のミルク菓子、あ、味は練乳っぽいかな?」
「「みたーい?ミターイ。み、だから、M!」」
洋服にMのアップリケがついた小人がクルクルと回り、他の小人達も続いて回りだす。くるくる回ってぴょんぴょん飛んで、手をつないで歌って踊る。
「「Mのミータイ!たくさんたくさんでておいで!!」」
気がつくと沢渡の目の前にあったお皿には白い、四角いお菓子が表れていた。ぱっと見握り寿司のご飯の部分だけに見えるが、れっきとしたお菓子だ。
「わぁー!これこれこれ!うぅぅ〜〜ん、あんまぁ〜〜い」
「「どんなお菓子だって僕らに任せて!」」
「じゃぁねじゃぁね!モティチュールラドゥとミティチャワルと、えーとえーと。カタイとバンジーリとキールにハルワ!!あ、クラブジャムとラスグッラも!!」
不思議なスパイスの香りがするクッキーや黄色いごはんとホットミルクの香りがするお粥、香りだけで甘いとわかるシロップに浸かった赤くまるいお菓子。沢渡のリクエストに応える小人達は歌って踊って始めてみるお菓子を次々とだしていった。
鬼灯は少しずついろんなお菓子を味見してはまぁ、と感嘆し、初めてインド菓子を食べた薄野と香我美は口に合わないのがあったり少し困惑気味だったが、やはり珍しいお菓子に興味はあるのか、いろんなものを少しずつ食べ、好みのお菓子を探し出す。
「あ、僕これは平気か……って、えぇぇぇぇ、なんで口の中と喉を通る時で味が違うの!?」
「本当、面白いですね…これもスパイスの味なのでしょうか?」
「その味が癖になるんだよ〜」
「あらあら、これはご飯なのに甘いんですね」
「甘いご飯……僕はちょっと……ん、でもおはぎもお米だし、同じかな?」
「そう考えると一緒かもね。あ、そのお菓子イケルんならこっちもどうかな?」
テーブル一杯のお菓子を次々と味見しながら楽しそうに会話する人々を見て、小人達は嬉しそうに踊り、歌ってお菓子を出し続けていると、小人達に合わせてトランペットの音が響きわたった。
鬼灯柘榴がパーティー会場の奥に行ったのと入れ違いで同じ場所に現れたのは、船の持ち主である海賊、ユウレンだ。賑やかなのは嫌いではないが、子供や小人達がはしゃぎ続けずっと絶えることのない喧噪に包まれているのは流石に疲れたのだ。
が、彼女がこの場所に来た一番の理由は鬼灯柘榴だろう。
ユウレンはまだこの銀幕市に慣れていない。彼女が知っている情報はジャーナルと斉藤美夜子の主観のみ。残念なことにジャーナルではヴィランズや色々な事件の記事が多く、そのせいで他のムービースターには多少なりとも警戒をしてしまう。
当の本人も問題は起こしているのだが。
「……気にしすぎ……か」
会場一帯は賑やかな喧噪が耐えること無い。昼を過ぎたあたりから高校生くらいの若者達も増えてきている。
そんな中、黒スーツをびしっと来た八人の男性陣が向かってきた。ユウレンを見ると、一人、片手に青いトランペットを、開いている片手で帽子を押さえながら走ってきた。
「まだパーティはやってるよな!?よし!演奏会するけど、いいな?いいよな??」
「おいディズ落ちつけって。困ってんだろうが」
「全くだ。自分で飲むビールまで俺達に持たせやがって」
「俺の手はブルーノ専用なんだよ」
「ちげぇねぇ」
八人は笑いながらも奥に入り、楽器を持ち出した。ディズという青年だけでなく、全員演奏したいことのは変わりないらしい。
「……つくづく、楽師と縁がある……」
そう言うとユウレンは使われていないテーブルを消しさり、船の中にあったステージをそこにだした。砂浜の上にできたステージだが、バランスは悪くない。ディズと共にトロンボーン、テナーサックス、バリトンサックス、ギター、ベース、アコーディオン、ドラムとそれぞれが自分の楽器を持ち、ステージにたった。
青いトランペットを持ったディズが、銀幕市全てに届く音を鳴らした。トランペットの音に続いてドラムがリズムを取る。
「さぁ、小人さんも、みんなも一緒に!歌って踊ろうぜ!!」
そういうとディズと一緒に楽団が盛大に音を鳴らし出した。小人の歌に合わせた即興なのにタイミングがばっちりなのは彼等のつき合いの深さゆえか、小人達がだんだんと集まってくる、28人全員がそろってくるくると廻ったり、二人で手を握り合って踊っている。それを見ていた子供たちも一緒に混ざりだす。
曲が変わっても、みんな踊り続けた。ある人はリズムに合わせて身体を揺らすだけだったり、社交ダンスを踊っていたり。子供達が学校で習ったのか、数人纏まって踊り始めたり。
「香我美さん!薄野さん!アタシ達も行こう!」
「え、私ダンスはしたことがなく……」
「適当に、身体揺らしてたら良いんですよ」
「そうそう!踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損よ!ってね」
三人が行くのを楽しそうに見た後、斉藤が鬼灯の足下を見て皆さんも、出られると良かったですね、と言う。
「ふふふ、そうですね。でも、この子達も楽しそうにしてますよ。それに私、この子達の歯を護ってあげないといけませんし。」
鬼灯がそう言うと、斉藤はにっこりと笑うだけだった。
そんな二人のところに向かってきたのが盗賊団【アルラキス】のシャガールだった。
「こんばんは、凄い盛り上がってるね」
「あら、皆さんお揃いではないの?」
シャガールはさっきまで一緒にいたよ、というと。遠くでおかしらぁぁぁぁ!!と悲痛めいた声が聞こえた。どうやらまた一人で行動したらしい。
「いっぱい美味しそうなモノがあるし、楽しませて貰うね」
そういって彼はいなくなってしまった。会場にはいるのだろうが、他のメンバーには合流していないのか、どこからかまだ叫んでる声は少しだけ、聞こえた。
子供達が散々踊り続けていると、ディズ達の音楽が聞こえたのだろう高校生くらいの人が増えてきた。みんなこういった「ジャズ」「スカ」「ファンク」系統が好きなのだろう。大人が増えてくると曲のテンポが早くなる。
大声を上げ、ヘッドバンキングをし、肩に手を回しあってラインダンスの用に。そのまま円陣を組んでお互いに砂を掛け合う。
夕方になっても続く祭りのため篝火が灯され、ディズが持ち込んだビールが大人に配られていた。彼が持ってきたビールが無くなると、どこからかユウレンが樽で持ってきた。
もうここまでくるとなんでもこいだ。ビール掛けをしたり浴びるように飲んだり、でろんでろんに酔っぱらったり。前後不覚になりかけているモノも多数居る。そんな大人達が出来上がってくる時間になると、さすがに子供達はそろそろ帰るべきなのだろう。はしゃぎ疲れて眠っていたり、座り込んでうとうとしている子供達を抱える親が増えだすと、小人達がまたステージ前に集まりだした。
「「今日はね今日はね、楽しかったの!!嬉しかったの!でもね!」」
「「パーティは終わっちゃうから、だからね、これが最後なのー!!」」
楽しそうに、小人達が踊り出し、28人でU字型に整列すると、ロケーションエリアが展開された!!
「「きちんとはみがきしてないこだーれだーー!!」」
風景は変わらなかったが、小人達に悪魔の尻尾や羽根がついたようになると、急に叫び出す人が続出した。
子供は泣き出し大人も蹲る。それぞれ痛がり方に差はあるものの、いろんなところで頬を押さえている人がいる。その中には薄野とディズも含まれていた。
「なんかうずうずする……なんでだろ、ちゃんとキシリトールガム食べたのに……みんなにも配ったのに…………!」
※余談 キシリトールは虫歯の原因にならない甘味料を使い、歯を丈夫にするのですが、虫歯の予防にはあまりなっていないとかなんとか。
ディズはおそるおそるトランペットを吹いてみるが、音が不安定だった。
「ぉぉぉぉぉぉ、は、歯が欠けたら不味いとは思ってたけど、虫歯になってもここまでバランス崩れるのかよ……!トランペット吹けないとかもうだめだ」
そんな虫歯になってしまったメンツの中で、おそらく一番悶絶しているであろう六人がいた。
盗賊団【アルラキス】のメンバーと海賊ユウレンである。
痛すぎて言葉が発せ無いのか、地面にorzとなったりテーブルに突っ伏したりしている。シャガールを含み四人が身体に包帯を巻き、そのうち一人だけ包帯がおざなりになっているが、何故か一人だけ剥き断てゆで卵のようにつやっつやしている。なのに、この大惨事。脱皮とはまた違った激痛、と言っているが、脱皮?と不思議になる人の方が多かった。
同じようにorzとなっているユウレンも砂浜をぎりぎりと握っては殴っている。彼女も協力したのにこの仕打ちだ。
「な……なんだこの心臓出張中…………!!」
※要約 心臓がどきどきする度に激痛が走り、歯の部分に心臓が行ってるような気分になっている。
そんな、ムービースター達の姿を見て、香我美とラクシュミは自分の頬をそっと撫でた。屈強な戦士とも言えるムービースターのあの痛がりを見ていて、自分は虫歯になっていないのに痛いような気がしたのだ。
「あらあら、虫歯って痛いんですねぇ。知りませんでした」
のんびりとそう言う鬼灯は、虫歯になったことがないのだろうか。目の前で痛がっている人達を見ても、顔色一つ変えないで小人のお菓子をまた一つ、口にいれた。
子供達も泣き出しては親に見て貰い、帰ったらちゃんと歯磨きしようね、と言われている時、ふっと小人達が元に戻った。
彼等のロケーションエリアは10分も持たなかったのだが、激痛に見回れた面々はもっと長い時間経っていた気分だ。無くなった筈の、虫歯だった箇所が、今も疼いている気もするのだ。
「「おわっちゃった、おわっちゃったー。これでおっしまーい」」
小人達は楽しそうにくるくると廻っている。トランペットが吹けない事にぞっとしたディズは、深呼吸してから相棒ブルーノートを鳴らす。いつもの音が出て、ぐっと握り拳をしてやっと落ち着いたようだ。
「なぁおい!オレの歯大丈夫だよな!?治ってるんだよな!?」
「「たぶんーたぶんー。でもね、気を付けないと。ちゃんとはみがきしないと」」
「「今痛かったところが虫歯になちゃうよー」」
誰もがこう思った。帰ったらいつもより時間かけて歯磨きしよう、と。
祭りは終わった……筈だったのだが、大人数人がまだまだ飲み続けるようだ。先程の痛みで酒が抜けたメンバーが、消毒だ!と酒を煽る。もう痛い事にはならない、と確認した上で【アルラキス】のメンバーも酒盛りに混ざる。
ディズは薄野を捕まえると、飲み比べを始めたが、先に潰れたのはディズだった。現役大学生をなめちゃぁいけない
四人の女性、香我美と沢渡、鬼灯と斉藤はこの飲み会に参加せず、途中まで一緒に帰ると、別れる時に合い言葉のようにこう言い合った。
「帰ったら歯磨き、ですね」
余談だが、飲み会は朝まで続き、何人かが本当に虫歯になったらしい。
今日も銀幕市のどこかで小人達が歌って踊っているのだろう。
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クリエイターコメント | 遅くなって申し訳有りませんでした。
プレイングにない事を沢山書いてしまったような気がしますが、気に入っていただけるとありがたいです。
ご参加ありがとうございました。 |
公開日時 | 2007-10-31(水) 00:50 |
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