★ チョコレート・レッスン ★
クリエイター依戒 アキラ(wmcm6125)
管理番号198-6646 オファー日2009-02-10(火) 22:55
オファーPC ルウ(cana7787) ムービースター 男 7歳 貧しい村の子供
ゲストPC1 シャノン・ヴォルムス(chnc2161) ムービースター 男 24歳 ヴァンパイアハンター
ゲストPC2 ハンス・ヨーゼフ(cfbv3551) ムービースター 男 22歳 ヴァンパイアハンター
<ノベル>

「作ってみるとかは、どうだろう」
 きっかけはその一言だった。
 迫る2月の14日、いわゆるバレンタインの日をどうやって過ごすかを話し合っていたシャノンとハンスとルウ。どこか店を予約してチョコレートスイーツなどを食べようか? と言ったシャノンに対してハンスが呟いた言葉だった。
 ハンスとしては何気なしに言った言葉だったが、まず最初にルウの目が輝いた。それでもうほぼ決まりのようなものだったのだが、次いでシャノンも乗り気で「それもいいかもしれないな」と答えた時に三人の予定は確定した。14日の当日はハンスのマンションでチョコレート作ることになったのだ。


 そして、当日。
 三人がまず始めたのは買出しからだった。
 シャノンの車で近くのスーパーまで行き、必要な材料を買い込んでいく。カートを押すハンスがあらかじめ用意したメモを見ながら必要なものと数量をシャノンに伝え、ルウと手を繋いだシャノンが空いた手で商品をカゴに入れる。
 失敗を考えて多目に材料を入れていくとあっという間にカゴが一杯になり、会計を終えてスーパーを出た時にはパンパンの袋が二つにもなっていた。
「おじゃまします」
 舌足らず気味なその言葉でルウがハンスの部屋へと入った時には、必要な調理器具はすでに用意されていた。
「わあー」
 ボウルや測りなどが所狭しと並べてあるキッチンカウンターを見てルウが感嘆の声を出す。
 どさり。シャノンが買い物袋をテーブルに置いてコートを掛ける。それを見たルウも同じようにするが、コートが引っかかってなかなか脱げない。ふふっと小さく微笑んでシャノンがそれを手伝う。
「さて、それじゃあまずは」
 ハンスが大小のエプロンをシャノンに渡しながら説明を始める。
 チョコレートを作る。といっても、シャノンもルウもその術を知らない。ので、実際はハンスがシャノンとルウの二人に教える。という形だ。
 ちらりと、ハンスは横目でルウを見る。
 シャノンに手伝ってもらってエプロンを着けているルウ。その表情は遠足の朝の子供のように嬉しさと期待を混ぜたように幸せそうな顔をしている。
 その表情にほっとするハンス。計画段階では、シャノンも一緒に作るからと言う事で、恐る恐るルウもと言った感じだったのだ。
 勿論それが、作るのが嫌だという意味ではなく、自分に出来るのかとか失敗を怖がっているという意味でのルウの不安だということはハンスにも分かっていたが、どうせなら楽しんで欲しい。そう思っていたのだ。
 それにしても。と、ハンスは視線をルウからシャノンに移す。
 すっかりと「ぱぱ」だな、と。
 買ってきた材料を袋から出して、まず三人が作るのは、ベーシックなチョコレートだった。市販のチョコレートを溶かして型に流すだけ。シャノンもルウもチョコレート作りは初めてなので、まずはそれで慣らそうというハンスの配慮だ。
「ルウは、どれにする?」
 沢山の型を並べてハンス。えとー、とルウが身を乗り出して選ぶ。
 星やスペード。凝ったもので犬など色々な型がある中で、ルウが選んだのはハートの型だった。バレンタインには相応しい。
「ぱぱとハンスもいっしょ?」
 ハートの型を大事そうに両手で抱えるルウに、シャノンが言う。
「一緒がいいか?」
「うん。ぱぱも、ハンスもいっしょがいい」
 答えるルウに、それなら一緒にしよう。と優しげにシャノン。
 ハート型の型は大中小とあったので、それぞれシャノン、ハンス、ルウ。と使うことにした。
 買ってきた板チョコレートをシャノンが包丁で刻み、ルウは包丁は危ないので代わりに手で小さく折る。パキポキと乾いた音が響く。
 それをハンスが湯せんにかけ、どろりと溶けたチョコレートに姿を変える。そしてそれをそれぞれの型に流し込む。
「後は冷蔵庫でしばらく冷やせば完成だ」
 作ったものを纏めて冷蔵庫に入れてハンス。
「なんだ、案外簡単だな」
 呆気無さそうにシャノン。ルウは上手に出来たのを嬉しそうにしている。
「あぁ、まあ……」
 初歩だからな。と、ハンスは言いかけたが、それを引っ込める。代わりに別の事を言う。
「次に作るのはもう少し難しい」
 メニューは予め決めていた。次に作るのはザッハトルテだ。
 まず最初にハンスは大雑把に流れだけを二人に伝える。これは、その説明で理解しろと言う意味ではなく、二人の様子を見ながら教えるハンス自身が過程を飛ばしてしまった場合に相手が気がつけるようにする為だ。
 次に必要な材料を必要な分量ごとに小分けにしていく。チョコレートやバター、グラニュー糖などはハンスが測って分けていき、卵の卵黄と卵白を分ける作業をシャノンに任せた。
「……む」
 割った卵を小皿に入れ、そのなかで箸を使って卵黄と卵白を分けようとしているシャノン。勿論、その方法で卵黄と卵白を分けようとしてもあまり上手にはいかない。
 それを見てハンスが苦笑する。
「卵黄を分けるときはこうして……」
 ハンスは真新しい卵を手に取り、小皿の上で二つに殻を割ると、中の卵黄を二つの殻に行き来してみせる。すると何度か卵黄を行き来させているうちに自然と卵白だけが殻割れの部分を通って落ちていく。
「……!」
 まるでマジックでも見ているみたいに興味深げに見ているルウ。
「成る程」
 シャノンは新しい卵を手に取ると、たった今ハンスが見せたように分けていく。今度は上手に卵黄と卵白に分けることが出来た。
 それを見てハンスは頷くと、最初に割った卵を小皿から手に移して指の間を使って卵白を落としていく。残った卵黄を小皿に入れて軽く手をすすぐと、元の計量に戻る。
 やがて必要な材料が出揃うと、ハンスは念のためにそれを確認する。そして全てに間違いがないのを再確認してからようやく作る作業にはいっていく。
 まず十分に練ったバターを湯せんで溶かしたチョコレートと混ぜ合わせる。混ぜる役目はルウが担当した。
「これをまぜればいいの?」
「ああ、頼んだ」
 うん。と静かに返事をして混ぜ始めるルウ。少しばかり緊張しているのだ。
 まぜまぜまぜ。
 ハンスはしばらくルウの作業を見守り、大丈夫そうだと分かった所でシャノンの方を見に行く。
 シャノンが行っていたのは卵白にグラニュー糖を混ぜ合わせる、いわゆるメレンゲ作りで、卵白をボウルに移していた。卵白と、グラニュー……。
「あ……」
 思わず、ハンスは呟く。不意に出たような声だった。
「……? どうかしたのか?」
 ハンスの呟きに気がついてシャノンが手を止める。
「あ、いや……」
 言い難そうに、ハンスは続ける。シャノンが訝しげな顔で返す。
「……それ、薄力粉」
「…………」
「グラニュー糖は――」
 言いかけたシャノンに、ハンスは一つの小皿を持ち上げて答える。
「こっち」
 つまりは、シャノンはグラニュー糖と間違えて薄力粉を卵白に混ぜてしまったのだった。
「……ふむ」
 もう一度、卵を割って卵白を集める作業に入るシャノン。ハンスは失敗したボウルの中身を別な所に移し、使ってしまった薄力粉を計量して小皿に入れなおすと、それを指で摘んでみる。そして手についたそれを指を擦り合わせて落とすと、次はグラニュー糖を摘んでみる。そして小さく首を傾げるのだった。
 間違えるものだろうか。と。

 ルウの方は、バターとチョコレートを混ぜた後、卵黄とグラニュー糖を加えて貰って混ぜる。さらにアーモンドパウダーを加えて貰ってまた混ぜる。
 手をグーにしたままゴムベラをぐにぐに回して一生懸命混ぜているルウ。その何度か持ち手を変えて混ぜている様子を見て、ハンスがルウの隣に座り込む。
「少し代わろう」
 手を差し出して言ったハンスを、ルウが見上げる。やわらかく微笑んだその笑みを見て、ルウはハンスにゴムベラを預ける。
「ありがとお、ハンス」
 ルウが疲れているのに気がついたハンスでもあったが、だから代わりを申し出たというハンスの意図にもルウは気がついていた。もっとも、ルウが思っていたのはもう少し単純なものだったが。
 そこへ完成したシャノンのメレンゲを少しとと小皿に分けた薄力粉を半分加えてまた混ぜる。手の疲れが多少取れたルウが自ら混ぜると言ったので、ハンスはルウとシャノンに任せることにする。
 ルウの後ろからシャノンも一緒に、二人で混ぜる。少しずつメレンゲを加えていき、最後はメレンゲと残りの薄力粉を加えて軽く混ぜる。
 これでザッハ生地の完成だ。
 次はこれを型に入れてオーブンで焼くのだが、ここはハンスが進める。
 暖めておいたオーブンは170度に設定し、約一時間。
 その間にやることはないので、しばらく休憩となる。最初に作った型抜きチョコレートが丁度いい具合なのでそれを食べる事にする。
「これ、ルウがつくったの?」
 型から外した綺麗なハートのチョコレートを見てルウ。冷蔵庫で冷やしていたのでひんやりとして気持ちいいのか、つんつんと触っている。
「巧く出来たな」
 ああ、そうだ。とシャノン。ルウは驚いたような顔で続ける。
「ほんとに、ルウがつくったの?」
 勿論。と、今度はハンスも答える。
 わあ、とルウ。売っているチョコレートと大差ないくらいのいい出来栄えに嬉しそうだ。
「ぱぱと、ハンス」
 三つあったうちの小さなチョコレートを二つ、それぞれ一つずつシャノンとハンスの前に置く。あげる、ということだった。
「ふふっ。それじゃあ俺の作ったのもルウとハンスに」
 小さく笑って、シャノンも大きなチョコレートを同じようにルウとハンスの前に置く。
「……俺のも、二人に」
 ルウとシャノンの視線を受けて、ハンスは少し恥ずかしそうにしながらもやはり同じように中くらいのチョコレートをシャノンとルウの前に置く。
 三人とも、大中小のハート型チョコレートを一つずつ。
 どれから手をつけていいのか分からない。といった具合だろうか。
 しばらくの間、ルウはそのチョコレートを食べれないでいた。
 そんな様子を、微笑ましそうに二人が見ていた。


 やがてオーブンから美味しそうな匂いが漏れはじめてくる。後半戦のスタートだ。
 音で急かすキッチンタイマーを止めてオーブンを開けると、その匂いが一気に部屋中に広がる。ほんのりと甘い、チョコレートの匂いだ。
 取り出したザッハ生地は型の中でぷっくりと盛り上がっている。型から取り出して少し冷ました後、その盛り上がっている部分を薄く切り取って平らにしてから残りの生地を半分にする。
 その過程をキッチンカウンターを掴んで覗くように見ていたルウ。ハンスは切り取った生地のひとかけをルウの口に入れてやって感想を聞く。
「どうだ?」
「おいしい」
 その言葉を表すように、にこっと笑顔でルウ。ハンスも一口自分の口に放り込んで味を確認する。問題ない、美味しい生地に仕上がっていた。
 さて。けれども、ここからが勝負どころだった。上掛けのチョコレートを作るのだが、これがまた難しい。
 勿論作るのはハンスではなくシャノンだ。
 まずは鍋に水とグラニュー糖を入れ、煮立ったところに刻んだチョコレートを入れて混ぜる。
 が、すぐに焦げっぽい匂いが辺りに広がる。
 110度くらいになるまで。と事前に説明していたのだが、温度を測り忘れて必要以上に焦がしてしまったのだ。
「……失敗か」
 思っていた以上にあっさりと失敗して渋い顔でシャノン。もう一度挑戦する。
 今度は温度に気を着けていたシャノンだったが、沸騰させた所で何か違和感に気がつく。なんのことはない、グラニュー糖を入れ忘れていたのだ。
「……クソっ」
 小さく毒づき、シャノン。
 こうなるともう悪循環に陥ってしまい、度々その工程が雑になってしまう。次はまた焦がしすぎてしまい、その次はしっかり出来たと思えばグラニュー糖が多すぎた。
「別に食べれれば問題ないだろう」
 明らかに甘すぎるチョコレートソースを前に、シャノンが言い張る。
「いや、これは……」
 言葉に詰まるハンス。この甘すぎるソースではアプリコットジャムの風味もチョコレートスポンジの味も全て殺してしまう。これではザッハトルテとは呼べない。
「解った」
 ふう。と小さく息を吐いてシャノン。
「おまえが作れ、ハンス。俺は手を出さない方がいいだろう。その方が巧く出来る」
 そう言うなりリビングへと歩いていきボスンと勢い良くソファーに座るシャノン。もはやテコでも動かないぞという空気が漂っている。
 不貞腐れてしまったシャノンの背中を見ながら、どうしたものかと困り顔のハンス。視線をに気がついて横を向くとキョトンとしているルウと目が合う。
 ルウは心配そうにシャノンの後姿をみて小さく首を傾げると、再びハンスに視線を移す。
 こくり。
 小さくハンスが頷いたので、ルウはシャノンの元へと歩いていく。それを見ていたハンスはシャノンのことはルウに任せることにする。
 シャノンの所まで行ったルウは、心配そうな顔でシャノンを見上げる。
 そんなルウの表情に気がついたシャノンは、出来るだけ心配させないように優しい声を意識して訊ねる。
「どうした? ルウ」
 ちょこんと。シャノンの隣に座り込むルウ。それきり少し、無言になる。
 シャノンを見上げてじっ……と、ルウ。少しの間眺めた後に、やはり心配そうな声で言う。
「ぱぱ、だいじょうぶ?」
 はっとするシャノン。一瞬、返答が出来ないほどに動揺する。
「……ああ。大丈夫だ」
「……ほんと?」
 どこか泣きそうにも思える、少し震えたような声でルウが聞き返す。
 あたたかく、心に何かが広がるのをシャノンは感じる。
 ふっ。と小さく吐息を漏らして口元を緩めると。
「ああ。本当だ」
 ぱあっと。ルウの顔が一気に明るくなる。シャノンの声の調子で、ルウには気がついたのだろう。実際シャノンも少し不貞ていた気分もすっかり吹き飛んでいた。
「さて。休憩もしたし、続きを作るか」
「うん!」
 立ち上がって。シャノンはルウの手を取るとキッチンへと歩いていく。
「そういうことだ。すまないが、また続きを教えてくれ」
 二人の遣り取りをずっと見ていたハンス。苦笑しながらも、その言葉に頷くのであった。

 その後も上掛けチョコレートを作るのに何度か失敗したシャノンだったが、失敗しても雑にならないように心がけ、何度かの挑戦で巧く出来た。
 それをアプリコットジャムを真ん中と上に施した二層の生地に一気に流し、パレットナイフでそっと表面を撫でる。
 正直に言うとここが一番難しく、最悪スポンジ生地を一からやり直しと言う事も考えていたハンスだったが、元々手先は器用なシャノンは一回で成功させた。
 これでザッハトルテの完成だった。
 そのまま少し置いてチョコを固めている間に、コーヒーと、ルウにはホットミルクを淹れる。
 綺麗にカットして皿に取り、三人でいただきますをする。
「いたらます」
 いただきます。と。ルウが最初に一口食べるのをシャノンとハンスが見守る。なんだかんだ二人とも少し緊張気味だ。
 ぱあっと、すぐにルウの笑顔に、二人もほっと安心する。
「なかなか」
「美味いな」
 ハンスに、そしてシャノン。一口食べての感想だ。
「うん。おいしいし、うれしい。ぱぱと、ハンスと、いっしょにつくって」
「楽しかったな」
 シャノンの言葉に、ルウも喜んで頷く。
 それぞれに、沢山苦労しただけあって。それはどんな有名な店のものよりも格別な味だった。


 食べ終わってみると結構な時間だった。夕方過ぎから始めて、もうとっくに夕食時間を過ぎていた。
 テーブルの上には、空になった皿。
 結局、三人で1ホールを食べてしまっていた。なので三人とも空腹感があるという訳でもなかった。
「う……ん……」
 ソファーの上でシャノンの膝に身体を預けてくつろいでいたルウがうとうとしだす。
 しばらくそんな様子を眺めていた二人、やがてルウが眠ってしまってからハンスが立ち上がり、キッチンへ向かう。作りっぱなしだった後片付けをするためだ。
「ああ、シャノンはいいよ。作るのは任せっきりだったからな。片付けは俺がやる。……起こすのもかわいそうだしな」
 ルウを起こさないように膝から退かそうとしていたシャノンに、ハンスが言う。
「そうか」
 シャノンはその言葉に甘える事にする。本当に、起こすのも戸惑う寝顔だった。
 カツカツと、時計の針の音。
 すうすうと、ルウの寝息。
 さあさあと、水を流す音。
「偶にはこういうのも、悪くないかもしれないな」
 カチャカチャと食器の触れ合う音が響く中、不意にシャノンが小さく呟いた。
 恐らくは、みんなで料理を作るのも、ということだろう。
「そうだな」
 ハンスが答える。
 ゆっくりと。静かな時間が流れていた。

クリエイターコメントこんにちは、依戒です。
バレンタインプラノベのお届けにまいりました。

チョコレート・レッスン。
さぁ、みなさんもノベル片手に……。
って、ダメですよ!? と、そもそもgとか書いてませんね。

さてさて。いつものように長くなるお話は後ほどあとがきというかたちにしまして、ここでは少し。

はい……ええと。
実は私、ザッハトルテはもとより、手作りでお菓子というものをまず作りません……。
作ってみたいと思うことは、結構あるんですけどねー……。と、この辺りはむこうで。
とりあえず、経験あるのは人のお手伝い。それもほんの些細な。
ですので、その。もしかしたらツッコミどころ満載だったりするかもしれませんが、軽めのものなら見逃していただけると有難く……。

最後になりますが、
この度は、プライベートノベルのオファー、有難うございます。
素敵な親子のほのぼの日常。書いていてほわわんとしました。

オファーPCさま。ゲストPCさま。そしてノベルを読んでくださった方のどなたかが、ほんの一瞬だけでも幸せな時間と感じて下さったなら。
私はそれを嬉しく思います。
公開日時2009-02-15(日) 22:10
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