★ イヴの星空 ★
クリエイター依戒 アキラ(wmcm6125)
管理番号198-5719 オファー日2008-12-08(月) 21:11
オファーPC ユージン・ウォン(ctzx9881) ムービースター 男 43歳 黒社会組織の幹部
ゲストPC1 リゲイル・ジブリール(crxf2442) ムービーファン 女 15歳 お嬢様
<ノベル>

 クリスマスに盛り上がるチャイナタウン。夕日が落ちて夜が始まった混雑の中、リゲイル・ジブリールはコートに帽子、それにサングラスという出で立ちで歩いていた。
 変装、という訳ではない。が、遠目からでは誰だか判別し辛いその格好は、リゲイルが意図的に選んだものだ。もっとも、似たような格好の人はそこそこに多いし、怪しい類のものではない。
 サングラスの下に覗く顔は期待と緊張が半々くらいだろうか。足取りにも軽やかさとぎこちなさの両方がうかがえる。気を張って振舞おうとするにも、待ち遠しくて仕方がない。といった具合だ。
 それもそのはず。今日、クリスマス・イヴ。リゲイルは初めて恋人であるユージン・ウォンの部屋へと上がる予定なのだ。
 手に持った大きな荷物も軽やかに、でもどこか緊張を残して、リゲイルは目的地へと歩く。
 やがて目的地のホテルを視界に入れると、リゲイルの顔にぱあっと笑みが強くなる。
 そこはごく普通の高級ホテル。高級ホテルをごく普通というのもおかしな話だが、これといって目立った部分はないホテルだった。が、その実。そのホテルはウォンの所属するチャイニーズマフィア『新義安』の本部のあるホテルなのだ。
 表向きは高級ホテルとして通っている本部。幹部であるウォンの部屋は、そのホテル内にある。そこは安全であり、危険だ。リゲイルに危険が及ぶのを恐れて市内でも会う場所には細心の注意を払うウォンだ。今まで自分の部屋に呼ぶのを避けていた理由もそういう部分にある。
 しかし、先日の事だ。クリスマスの予定を話し合っているときにリゲイルが口に出して言った言葉「ユージンさんの部屋に行ってみたいな」その言葉でクリスマス・イヴはウォンの部屋で会うことになったのだ。ウォンの立場や気持ちを知っているリゲイルは、こういう部分に関しては我侭の類はあまり言わない。だからせめて、特別な日ぐらいはと、ウォンは思ったのだ。
 ホテルに入ってフロントでチェックインを済ますリゲイル。フロントの者はあらかじめウォンから話を聞いていたので、リゲイルはすぐに案内される。
 ウォンは、リゲイルがホテルに来るにあたり、一般客を装って来るようにリゲイルに言った。表向きは高級ホテルとなっているので、それは当然のことだろう。
 そうしてリゲイルが案内された先に、ウォンがいた。
「こんばんは。ユージンさん」
「あぁ、よくきた。リゲイル」
 人目はもう大丈夫という事で、挨拶を済ませた二人はホテル内にある中華料理店で夕食へと向かう。その際、リゲイルはコートの類を脱いで案内に預ける。先に荷物と一緒にウォンの部屋へと届けてくれるのだ。
 予約しておいた個室に入り席に着くと、安心したようにリゲイルがウォンに笑いかけた。やはり少なからず、緊張していたのだ。
「ふっ」
 ウォンが小さく微笑み返すと、二人はメニューを見て注文を選ぶ。
 と、言っても吟味して選ぶわけではなく、食べれそうなものを適当に選ぶ。この場合、二人とも肉が嫌いなので、肉料理ではないものということになる。
 注文を頼み、二人して近況などを話していると、やがて料理が運ばれてくる。広東、北京、四川と所狭しに並んだ料理に、いただきますと言って食べ始める。
「えーっと……」
 並んだ料理を見回し、微かにリゲイル。
 辛いものや油っぽいものが得意とはいえないリゲイル。イメージ的な問題から、中華料理を食す習慣はあまりない。どれから手をつけようか迷ったのだ。
 リゲイルのそんな様子に気がついたウォン。彼女の好みを思い浮かべ、合いそうなものを勧める。
 おいしい。そう言ったリゲイルに、良かった。とウォン。
 そうして話を交えながらの食事。リゲイルはふと、遠くに避けられた皿が気になった。
「ああ。それは少し、辛いかもしれない」
 リゲイルが小分けにしてよそったのを見て、ウォンが言う。実はその料理は、運ばれてきた時にウォンが敢えてリゲイルから遠くに置いたものだった。
「え。これが? ……あまり辛そうに見えない」
 見定めるようにじいっとリゲイル。見れば見るほどに気になってきて、ぱくりと一口、口へと運ぶ。
「……っ!」
 口へと入れた瞬間。リゲイルの肩はびくりと跳ね、素早い動作で箸をおいて両手の指先で口を押さえる。
「ん、ん」
 すぐに飲み物を探すリゲイルだが、近くにはワインしかない。と、そこにウォンの手がが烏龍茶を差し出す。
「んんーん」
 ありがとう。押さえた口でそう言ってウォンの手から烏龍茶を受け取り、一気に飲む。「……これあげる!」
 そう言って食べかけのそれをウォンに渡す。
「辛いと言っただろう」
 心配するようにそう言って、ウォンは従業員を呼んで何かを注文する。
「だって……」
 辛そうに見えなかったんだもん。ひりひりする舌でそんな風に答えるリゲイル。
 それきり箸が止まるリゲイル。口内に残る辛さが気になるのか、何度か小さな声で呻いている。
「お待たせしました」
 そこに先ほどウォンが頼んだメニューが届く。ウォンが合図をしてリゲイルの前に運ばれたそれは、甘くて美味しいと評判のその店自慢のデザートだった。
「わぁっ」
 途端にぱあっと顔を輝かせるリゲイル。すぐに一口。
「美味し〜ぃ」
 嬉しそうに微笑むリゲイルを、同じようにウォンも微笑んで見ていた。


「お邪魔……します」
 食事が終わり、二人はウォンの部屋へとやってきた。ドアを開けて入るように促したウォンに、リゲイルは少しだけ緊張して言う。
「そんなにかしこまらなくもいい」
 ふっと笑ってウォン。なんだか可笑しくなってリゲイルも笑う。
 届けられていたリゲイルの荷物をウォンが持ち、部屋の中へと進む。
「…………ぇ」
 ウォンの部屋に入り、思わずリゲイル。驚いたように声を漏らす。
 そこは高級ホテルに相応しい広い部屋。が、それだけだったのだ。広すぎる部屋は目を疑うほどに殺風景で、物寂しさすら感じる。目に付くものといえば、二人掛けのソファーに、その足元のミニテーブル。セミダブルのベッドにテレビ。あとはスタンドや椅子などの家具が数点。のみ。横に伸びているキッチンにも冷蔵庫が置いてあるだけでそのほかのものは見当たらない。
 ウォンのことだから、少なからずそんな部屋を覚悟こそしていたリゲイルだったが、流石にそこまでとは予想していなかったのだ。
「うーん……」
 さっきの烏龍茶やデザートの事とか、人のことにはマメになれるのに、どうして自分のことだとこうも無頓着なのだろうか。そんなことをリゲイルは思う。
「……?」
 しかしリゲイルのそんな考えには気がつかないウォン。リゲイルの様子にどうかしたのかと顔で返す。
 もう。そんな風にリゲイルはぷいっと視線を逸らす。勿論、本気で怒っている訳でもふてている訳でもない。ただ、もう少し自分のことにも気を使って欲しかったのだ。
「すまない。準備をしておこうと思ったのだが、時間が取れなかった」
 言いながら、ウォンは窓まで歩いていって少し外を見てからカーテンをかける。そしてミニテーブルに置いてあったグラスの中に少し残っていた琥珀色の液体を飲み干し、その横にあるブランデーの瓶と一緒にテーブルの隅によける。次にケースから転がり落ちている葉巻をケースに戻し、やはりテーブルの隅に。最後に散らばった写真に手を掛けた時、リゲイルが思い出したように言う。
「あ、そうだ」
 手を止めてリゲイルを見るウォン。リゲイルは持ってきた荷物の元へ歩いていき、その荷を解く。取り出したのは、小さな二つの鉢植えだった。
 かわいらしいクリスマスローズと優雅な葉牡丹。どちらも小さめの鉢で、柔らかい色合いのものだ。
「花?」
「うん」
 軽い返事で答えて、リゲイルは部屋を見回して花を飾る場所を探す。多分殺風景な部屋だろうな。そう思っていたから買ってきた花だったのだが、正解だったようだ。
 花を選ぶ際、見た目というのは勿論だったが、特に花言葉が気に入ってリゲイルはクリスマスローズと葉牡丹を選んだ。クリスマスローズの花言葉は、いたわり。そして葉牡丹は祝福。
 葉牡丹の鉢植えをベッド横の電気スタンドの隣に飾り、クリスマスローズは使われていなそうな椅子の上に置き、その椅子を窓際に持っていった。
 そして部屋の入り口まで戻って全体を見回し、うんと小さく頷くリゲイル。次に荷物からフォトアルバムを取り出し、ウォンのいるミニテーブルへと行く。
「アルバム」
 ウォンの横に座り、アルバムを掲げてリゲイル。表面がフェルト生地で覆われていて太陽のモチーフがついたかわいらしいものだった。
「アルバム?」
「うん。折角撮った写真だから、綺麗にアルバムに入れていって、沢山並べたいな。って」
 ぱらぱらとアルバムのページを捲ってまだ何も収められてないのを見せてリゲイル。
「そうだな」
 小さく笑ってウォン。そのまま二人はテーブルの上に散らばった写真を選んで話しながらアルバムに収めていく。
「これ凄く綺麗。どこで撮ったの?」
「ああ、これは確か……」
 一枚の写真を手に取り、リゲイル。写真には綺麗に開けた澄んだ蒼の空。その写真をウォンが覗き込み、思い出しながら答える。
「あれ…………この風景は見た事ある気がする」
 今度は別の写真を手に取り、うーん。と考える仕草。写真は地面から斜め上の空に向けて撮ったもので、写真の下の方には僅かに建物が入り込んでいる。
「ここは――」
「あ、まってまって! わたし当てる!」
 記憶の隅に引っかかっているその映像を引っ張り出すリゲイル。そのうーんと唸る姿を見てウォンが小さく微笑む。
 そうしてテーブルの上の全ての写真に収めると、今度はリゲイルの持ってきたゲーム機を使ってゲームをする事になった。
「……それは?」
 ゲーム機をセットするリゲイルを見てウォンが訊ねる。ん? と、手を止めてリゲイルが振り返る。
「あ、そっか」
 ユージンさんは見た事ない? リゲイルの言葉にウォンが頷くと、リゲイルはセットしながらそのゲーム機のことをウォンに教える。
「これを持っ、て……と」
 細長いリモコン型のコントローラーを手に持つリゲイル。同じものをウォンにも渡す。そしてゲームを起動し、実際にやりながらウォンに教えていくリゲイル。
「ボールに合わせて、振る!」
 二人のやっていたゲームはテニスのゲームで、リゲイルの動作に合わせるようにゲーム内ではラケットを振り、テニスボールを弾いている。
「これを?」
「うん。思いきって」
 手に持ったリモコン型のコントローラーを軽く掲げてウォン。うん。と、リゲイルが返す。それを聞き、画面内のテニスボールに合わせてウォンが勢いよく腕を振る。
 ――ブンッ。――ガツン。
「きゃっ」
 風切り音。次いでリモコンが床に叩きつけられる音。最後に驚いたリゲイルの悲鳴。
「……あれ?」
 何が起こったのかと把握に努めるリゲイル。空になったウォンの手元と前方に転がっているコントローラーを交互に見やる。画面内ではウォンの打ったスマッシュが得点を決めていた。
 一瞬、しんと静まった室内に、ウォンが口を開く。
「……すまない」
「……ふっ、ふふふっ」
 そこで完全に状況を理解したリゲイルが可笑しそうに小さく笑う。
「ごめんね、ユージンさん。バンドつけるの忘れてたね」
 当たり前の感覚で進めていたリゲイル。こうなる事を防ぐ為のバンドをしてコントローラーを持つと説明するのを言っていなかったのだった。
 それからは細かい事にも気を使って丁寧に操作方法を教えていく。ウォンはリゲイルの言葉に頷きながら一つ一つ教わった事を試していく。
 が、どうにも不器用である。リゲイルの返球の場面で振ってしまったり、押すボタンを間違えたり。
 しかしそれも仕方のない事だった。映画内では勿論。銀幕市に来てからだって、今まで一度もウォンはゲーム機というものに触れたことが無いのだ。
 やがてウォンも操作に慣れ、しばらく白熱したところでリゲイルに疲れが見え始めたので一時中断する。
「あっつーい」
 ぱたぱたと手で作った団扇で風を送るリゲイル。それを見たウォンは窓まで歩いてゆき、そのままカーテンを開ける。
「あ……」
 ほんの少し、リゲイルの顔が翳る。それに気がついたウォンは、大丈夫とでも言うように笑顔を見せる。
「少し、ベランダに出ようか」
 そう言って窓を開けるウォン。気がついたように掛けてあるコートとマフラーを取りに戻り、それを手にしてベランダに出る。リゲイルがそれに続く。
 ベランダに出たウォンは手すりにもたれかかり、リゲイルを呼ぶ。
「おいで、リガ」
 はっとするリゲイル。ウォンが自分を呼ぶ呼び方の変化に気がついたのだ。
「でも、ユージンさん……」
 けれどリゲイルは躊躇する。リゲイルは知っているのだ。ウォンが星空を嫌いだという事を。そして、このベランダからの景色で一番に目に入るのは星空だった。
「俺の事は、ジーンでいい」
 そう言ってもう一度笑いかけるウォン。その自然な笑みを見てリゲイルはウォンが無理をしているわけではないと分かり、ウォンの隣へといく。
 並んだリゲイルと、ウォンは一緒にコートを羽織り、マフラーを巻く。その使い込まれて少しくたびれたマフラーを見て、リゲイルは嬉しくなる。何故ならば、そのマフラーはリゲイル編んでがウォンにプレゼントしたものだったからだ。リゲイルに貰ってからずっと、ウォンはそのマフラーを使っているのだ。
「ジーン」
「どうした?」
 リゲイルが呟き、ウォンが返す。
「えへへ、言ったみただけ」
 嬉しそうに。もう一度、ジーンと呟くリゲイル。そんなリゲイルの笑顔を見て、ウォンの頬も自然と緩む。
「なんだか、ちょっとだけ照れるね」
 言葉どおりに照れたように笑うリゲイルに、そうか? とウォンが返す。
「リガ」
 そうして呟き、少しの間を置いて二人で笑う。
「……星空は、美しいものなのだな。久しぶりに、そう思った」
 遠く、満天の星空を見上げてウォンが言う。
「そっか……。よかった」
 同じようにリゲイルも空を見上げる。凛と空気の澄んだ冬は、一年の中でも一番に星空が綺麗だ。一番に目に入るシリウス。そしてオリオンへと視線を移してリゲイルが優しい声で答える。
「よかった?」
「いつも辛そうだったから、ジーン」
 オリオンのベテルギウスから更にプロキオン、冬の大三角を視線で繋ぎ、リゲイル。やはりどこまでも優しげな声で。
「辛そう……そう、か」
 星空は、ウォンにとって嫌な記憶を引き出させる。大好きな人の最後と、そんな時でも能天気に美しい星空。
「心配掛けてしまったな。すまない」
「ううん、そんなこと」
 星空を見上げたまま、二人。
「寒くはないか?」
「だいじょうぶ」
 強く吹いた風に、ウォンがリゲイルを向いて訊ねる。リゲイルは同じようにそれに答えると、より一層ウォンに身を寄せ、手すりに置いたウォンの手に自分の手を重ねる。
「こうしていれば、あったかいよ」
 血の気の無いウォンの身体は、手は、驚くほどに冷たい。
 はずなのだ。
 けれどもリゲイルは、びくりと手を硬直させる事もなく、強く吹く風に震える事もなく、本当に幸せそうに、そう微笑んだ。
 だからウォンも。
「ああ。そうだな」
 同じように幸せそうに微笑んで、腕を回してぎゅっとリゲイルを引き寄せた。

 どこまでも寒い冬の夜。
 嘘みたいに美しい星空を眺めながら。
 誰よりもあたたかく、二人は。
 いつまでも語り合っていた。
 ゆっくりと流れていく、幸せな時間の中で。

クリエイターコメントhappy Xmas!!

こんにちは。依戒です
クリスマスプラノベのお届けにあがりました。

クリスマス。
大好きです。
こういった日には無条件に幸せになってくる私です。
星も、大好き。

と、どうでもいい私の事や長くなるお話は、後日あとがきにて。
ここでは少し。

呼称の事。
呼び方を変えた後、○○さん。と、敬称をつけるかどうかが少し迷いました。ノベル内ではつけませんでしたが、必要な場合は遠慮なくおっしゃってください。修正いたしますので。

さて、それでは最後になりますが
この度はプライベートノベルのオファー、有難うございました。
書いている間中。幸せいっぱいでした。

それではこの辺で失礼します。

オファーPL様が。ゲストPL様が。この作品を読んでくださった方が、ほんの一瞬だけでも幸せな時間と感じてくださったのなら、私はとても幸せに思います。
公開日時2008-12-24(水) 18:00
感想メールはこちらから