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<ノベル>
欲望というものの恐ろしさと忌まわしさを、 ユージン・ウォンは知りすぎるほど知っている。
それは、彼が属する闇の社会に通底した原動力であり、表の経済を凌駕するほど莫大な資金を流通せしめる地下経済の主力商品であったりもするが、同時に、いつ自身に反旗を翻しておぞましい牙をむけるかも知れぬ怪物でもある。
おのれの欲望をかなえようと跋扈するものたちに対しては、利害関係が一致するようであれば取引をし、相反するようであれば敵とみなして駆逐してきた。あらゆる局面において冷静に対処できる経験と判断もまた、そうやって培われてきたわけだが。
ただひとつ。
さしもの『双花紅棍』王大哥であってさえも、手を焼くたぐいの人種がいる。
自らが設けた基準に照らして価値を認めたものを驚異的な情熱と執着で収集する性癖を持ち、その欲望を恥じ入るどころか誇りたがるような業の深いものたち。
――すなわち、コレクターである。
迷惑な神様連中が押し寄せている銀幕市が、現在、この地球上でもっとも希少価値の高い地域となっていることに異論を唱えるものはおるまい。
今の状態を身の危険と受け止めて市外に避難する一般市民も多いのだが、入れ替わるように、世界中からあらゆるマニアが集まってきている。彼ら好事家の中には、我が素晴らしきコレクションをより充実させるためならば、モラルなど14万8千光年彼方の大マゼラン星雲に飛ばしても構わない困ったちゃんな発想のかたも珍しくない。
そういったコレクターの中でも、あまりお行儀のよろしくないかたがたは適宜、われらが銀幕署の刑事さんがしょっぴいてくださっている。特に、クールビューティ流鏑馬明日刑事に逮捕されるのは、これはこれで別のマニアな皆さんの憧れであるので、彼女に手錠を掛けてもらった犯罪者は垂涎の的となる。
中には、杵間神社で「神様お願いです、俺は流鏑馬さん以外のひとに捕まりたくありません!」などと大声で祈願したのをたまたま神社を訪れていた別の刑事が聞きつけてお縄にしちゃった、という涙なくしては語れないケースもあったのだが、それもまた彼の人生であろう。
もちろん、警察官だけでは手こずる、戦闘力が桁外れな違法コレクターもいる。しかしそういう場合も、『対策課』で協力者を募れば何とかなる。そもそも銀幕市内に発生した事件で、物理的な攻撃に対処できないことなどあり得ない。
つまり、コレクターがどんなに手練れでも、それが人間でありさえすれば制御できる。
――問題は。
激レアシティ銀幕市で、激レアなブツを求める、人ならざるコレクターが実体化しちゃってたりする、ややこしいケースの場合だ。
ここに、ひとりの人形コレクターがいる。
とあるB級映画出身の人形フェチな悪魔である。
その名はアマイモン。四方を司る四大悪魔のひとりにして、「地」の元素に対応する北の魔王……のはずなのだが、なにしろB級であるので、魔王の貫禄はからっきし。この映画、脚本家があまりよろしくなかったらしく、とほほなトンデモ設定満載で、最低映画コンテストにノミネートされたものの入賞できなかったという微妙ぶりである。
とはいえ、悪魔はあくまで悪魔であるからして、悪魔のアイデンティティにのっとった悪魔的な発想をする。
彼は、希少価値の高い人形を手に入れたいと強く願っていた。
そして、その人形は某悪魔紳士が所持していた。
悪魔紳士のほうも悪魔はあくまで(以下略)ゆえに、こちらも、とんでもない取引を持ちかけてきた。
それは――誰あろうユージン・ウォンに関することである。
彼を、人形大にして渡してくれれば、望む人形と交換してもいいと――
つ・ま・り。
蜂さんを。
某有名玩具メーカーが開発した超有名ファッションドールサイズ(身長21センチ)にして連れてこい、と。
悪魔さんズはそんな契約を交わしたんである。
……(ぴー)ちゃん人形サイズの蜂さんを、手元に置いてからどうするのかは不明である。
たぶん着せ替え遊びはデフォルトであろう。
その他に、あんなことやこんなことをして愛でちゃうつもりかも知れない。
何という悪魔的(以下略)。
そして、いったい何考えてまんねん的、ティターン神族もドン引きしそうな計画は、実行に移されてしまったのだ。
悪魔アマイモンは、ユージンと対峙し、
彼に最大出力の魔力を放ち、捉えようとした。
ユージンは抵抗し、かろうじて、悪魔の手に捕獲されるのは免れたのだが……、
……なっちゃったのである。
そのぅ、
……………身長21センチに。
★ ★ ★
「ルイス・キリングを呼べ」
ここはユージンが所有する、とある高級クラブである。
場所は――銀幕ジャーナルには記載できない。お子様は近寄っちゃいけません系のアンダ〜グラウンドでアダルティ〜なお店なので、善良な銀幕市民にうっかりお客として訪ねてこられたら物議を醸しちゃうからだ。
何とかここまで避難してきたユージンは、店長室のテーブル上でバカラのスパイラル一輪挿しに寄りかかり、腕組みをしていた。
凄みのある容貌も、触れれば切れそうな刃物のような声も、いつもと変わらない。
ただ……、身長だけが………、人形サイズなのである。
変わり果てたオーナーの姿にパニックを起こして店長はわたわたする。それを一喝し、ユージンはルイスを呼ぶよう指示した。
善良な銀幕市民とはまるっと逆方向を素敵に無敵に斜め89度爆走中のルイス・キリングは、この店で 夜 の バ イ ト をしている(記録者註:黙ってさえいれば二枚目で、重いシリアスもこなせるはずの吸血鬼ハンターを、私はネタとかネタとかネタとか学園ハザードなアレや蝶々なアレでしか書いたことがない。ただそれはルイス氏の責任ではなく、私の記録者としての資質が小ネタ50%色モノ49.9%で構成されているからだと思われる)。
ともあれ、今日も全開でオシゴト(※銀幕ジャーナルは全年齢対象雑誌なのでオシゴト詳細はヒミツ)をしていたルイスは、店長に手招きされ、オーナーが君に用があるそうだ、とだけ告げられてぎくっとした。
(……やっばー。何がバレたんだろう……)
後ろめたいことなら星の数ほど、ペルセウス座流星群にも勝つ自信のある身である。
おイタがバレた→ママより怖〜い蜂さんのお仕置き、の図式が浮かぶ。
「今の、聞かなかったことにできない? 行かなきゃダメ?」
「行かなきゃダメ」
至近距離で二丁拳銃を乱射されたらどうしよう。かーなーりーありうる事態を想定し、ルイスはビックビクしながら店長室に向かった。
「あなたのルイスでーす。入りマース」
1オクターブ高い声で気合いを入れ、ドアを開け――テーブルの上を見る。
……途端。
「ぶはッ」
盛大に噴いた。
想定外すぎるぶん、衝撃もひとしおだったのだ。
思わず指さす右手も、笑いで震える。
「どどどどーして、ななななんでそんな小さく、ぶは、はははははは。笑いごとじゃないんだろうけどくわはははははは、だ、だめ、も、だめ、息苦し、わはははは笑い死ぬぐはははははぁぁぁぁ〜〜〜ぐぁぁぁ〜〜ひぇえぇぇぇやめて許して痛いの痛いのよ嫌あぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!!!」
ルイスの台詞の前3分の2は大爆笑、終わり3分の1は激痛による絶叫である。
不機嫌オーラを放っていたユージンが、人差し指を足で蹴り上げ、突き指させたのである。
「ンもう、蜂さんたら乱暴なんだから……」
指を押さえて目幅泣きしているルイスに、ユージンは表情を崩さず言う。
「笑ってる暇があったら手を貸せ」
「何でこんなことになったの?」
「クソッタレな悪魔野郎の仕業だ」
笑い転げたお詫びにと、ルイスは無駄な器用さを発揮し、ユージンのために着替え一式を作った。
スーツと――ゴスロリお人形ふうドレスを。
イイ笑顔で差し出されたドレスを見、ユージンは無言でルイスの鼻を捻り上げた。
そして再び、店長室に絶叫が……。
★ ★ ★
そんなこんなで。
「これは……。きみょ可愛いではないけれど……、渋可愛いと言うべきかしら……」
こと『きみょ可愛い』に関する造詣の深さでは銀幕市一のエキスパート、いや、もしかしたら世界一、宇宙一かも知れない明日は、じっくりとユージンを眺める。無表情ながら、その聡明な瞳はきらきら輝いている。人形サイズ蜂さんは、明日たん的にOKのようだ。
「……移動が大変そうね。パルを馬みたく、使ってくれて良いわ。……パル」
明日のピップバッグから、ピュアスノーのバッキーが顔を覗かせ、すとんと地に降りる。
「ウォンさんを、乗せてあげてね……?」
パルはユージンに近づくやいなや、右脚でちょいと押し、くふん、と鼻を鳴らしてすり寄った。
「……。………」
無言で耐えるユージンを、さらに左脚でぐりぐり押す。
「…………。……。……………」
蜂さんはバランスを崩し、よろけた。
すかさずパルが体当たりをしたので、とうとう尻餅をつく。
どうやら、なついているらしい。
不機嫌オーラ大放出中なのに、遊んでほしいらしい。
……傍目には、蜂さんがパルに襲われているようにしか見えないのだが。
ここは、銀幕中華街の一角である。
風水思想に基づいて配置されている4基の牌楼(パイロウ)のひとつ、北の玄武門前に、彼らは集まっていた。
例の悪魔とユージンが遭遇したのがこの界隈であったので、手がかりを探すために訪れてみたところ、たまたま別件を捜査中の明日とばったり出会ったのだ。
このところ中華街で、奇妙な行方不明事件が頻発している。
チャイニーズマフィア系のムービースターが次々に姿を消しているらしい。
「ほんの一時間前にも市民から通報があったの。みるみるうちに小さくなって――連れて行かれてしまったって」
「ヤツだな。私を追いかけるついでに自棄になって、手当たり次第に人形化しているんだろう」
「おびきだすため……かも知れないわ」
「私をか」
「おそらくは」
「愚かしい限りだな。おびきだされようとしているのはクソ悪魔野郎のほうだというのに。……用意はいいな、ルイス」
ようやくパルの背中にまたがることに成功したユージンが、ルイスを見上げる。
ルイスは心得顔で片目をつむった。
「わかってますよー。ルイスに お・ま・か・せ ☆」
ルイスの手には、激無駄パワーを発揮して制作した某司令官の超リアルフィギュアがあった。
これを餌に、悪魔を呼び出すつもりなのである。
そのときだった。
すぐ近くのチャイニーズレストランから、店主らしき人物の世にも哀しげな声が聞こえてきたのは。
「あ、あの……。すみませんがどうか、もうその辺で許してください……」
駆けつけてみれば、店の周りは大変な人だかりだ。
「このままではお店がつぶれてしまいます……。お願いですから……」
店の中からは、人ならざるものの気配がする。空っぽのデザート皿がテーブルに山をなし、店主は蒼白になって両手を揉み絞っている。
すわ、悪魔アマイモン出現か!?
……と思ったら。
「イイねェイイねェ! 杏仁ドーフもゴマダンゴもライチゼリーもマンゴープリンもココナッツゼリーの黒ミツがけも食べ放題なんて最高だネ。全メニューお代わりしちゃうヨ!」
店主の嘆きをものともせず、中華スイーツを食べて食べて食べまくっているのは、ある意味、悪魔以上にお店に来て欲しくないかも知れない銀幕市指折りの恐るべきスイーツイーター、クレイジー・ティーチャーだったのである。
店内の壁には【あなたも挑戦しませんか? 本日限り。一時間スイーツ食べ放題! 全種類制覇したかたには素敵な記念品をプレゼント☆】という貼り紙があった。
CT先生の今日の気分はアジアンスイーツ巡りであるらしい。たまたま中華街に出向いて、この貼り紙を発見されてしまったのがこのお店の不運だったと言えよう。ちなみにお店側提供の素敵な商品とは、向こう半年有効のデザート割引券だった。踏んだり蹴ったりである。
「……楽しそうなところ悪いけど、せっかく会ったんだからウォンさんの事情を話して、先生にも協力してもらう?」
「そうだな。戦力は多い方がいい」
「オレちゃん的には見なかったふりしてスルーしたいけどねー」
囁きあう3人に最初に気づいたのは、クレイジー先生の愛と癒しの源泉たる可愛い生徒たち、人魂sのほうだった。
《あれ〜? 明日さんだ。こんにちはー》
《ルイス(呼び捨て)もいるー。なにしてるの?》
《せ、せせせせせ先生!!! たいへんたいへん。ウォンさんがちっちゃくなってるよ!》
「……ンぐむ?」
口いっぱいに胡麻団子を頬張ったまま、人魂sがふわふわ近寄っていく方向にCTも視線を移し――
ユージンを見――
――――――。
――。
――――――。
「OH! HAHAHAHA、HAHAHAHAHAーーーー!!!!!」
勢いよく仁王立ちになり、腰に手を当て、これ以上はないくらいのポジティブ無限大の声でCTは爆笑した。
キャラ設定上あり得ないアメコミ調巨大描き文字が、蛍光色のベタフラッシュつきで背後に乱れ飛ぶ。
店中に充満した「HAHAHAHAーー!!!」がようやくおさまったのは、ユージンが無言でぶっ放した対物ライフル(ミニサイズだが殺傷能力ばつぐん)の弾丸が、CTのこめかみど真ん中へヒットしてからだった。ふつーの人なら人生にジ・エンドになるところだが、CTなので無問題。
額に穴を開けたまま、CTは「カワイクて、いいんじゃナイ?」とのたまった。
人魂sは嬉しそうにユージンを取り囲む。
《ウォンさんも小さいものクラブだね》
《わーい、いっしょだいっしょだ》
《こんどみんなで、どこかにいこうよ》
《どこいくどこいく? 春のピクニック、楽しかったよね》
《きせつによって、いきたいとこってちがうよね》
《春だとお花見とー、ピクニックとー》
《夏は海賊船で海へ行ってー、あとは高原とかなぁ》
《秋はねぇ、モミジがりでしょ、キノコとりでしょ、それからそれから》
《冬はもちろん、雪像づくりと雪合戦だよね》
季節ごとに繰り出される小さいものイベントの圧倒的癒し空間を想像し、血と硝煙が似合う男ユージン・ウォンも、ほんの一瞬、なごんでしまった。
だが、ああしかし、チャイニーズマフィア新義安の紅棍が小さいものクラブに入会するわけには――とまで思いかけた瞬間。
「コレ中身、どーなってんだろォねェ! 内臓とかさァ」
解剖学方面に関心をお持ちになられたCT先生にむんずと掴まれて、遠慮なく四肢を引張られ、我に返る。
「クソ悪魔のやることなど、理屈で説明がつくものか」
「元に戻しちゃうの、勿体ないナァ。いっそボクのコレクションに」
「………」
再び、こめかみにキツイのをお見舞いされて、CTはようやく承諾した。
「ベイサイドホテルのケーキバイキング奢ってくれるんなら協力してもイイよ!」
「まだ食べたりないのか」
「悪魔アマイモンってもしかしてSweets? ソレって悪魔的に美味しいのカナ?」
「絶対、誰かがそこに突っ込むと思っていたが、CTだったか」
眉ひとつ動かさずユージンが呟き、そして――
★ ★ ★
突然――
あたりは闇に、いや、闇に似た異形の世界に包まれた。
空に浮かぶのは、禍々しくも紅い三日月。
枯れ木のように立ち並ぶのは、白骨で構成されたオブジェ。
足元を埋め尽くす白く丸い固まりは、すべて頭蓋骨だった。
「クソ悪魔のロケーションエリアだ」
ユージンのいまいましげな口ぶりに呼応するかのように――
はらり、はらりと。
雪が降ってきた。
空には三日月があるというのに、だ。
風が吹く。
速度を増しながら渦を巻く。
桜吹雪のようにはらはらと舞っていた雪は、小さな竜巻を描き、
すぐに――ひとりの悪魔のすがたに変わった。
骸骨状の身体にボロボロの黒布を巻き付けた、寒々しい……、はっきり言って貧乏くさい容姿である。
それでもまあ、悪魔はあくまで(略)なので、悪魔的な誘惑をするのもお約束だったりするのだ。
アマイモンはまず、クレイジー・ティーチャーを攻略しようとした。
「甘いものが欲しいなら、私がいくらでもあげよう」
「ホント?」
「ユージン・ウォンを最小化した技法を知りたければ、教えてやる」
「イヤッホウ! アマイモンクンは話がわかるナァ」
「その代わり、彼を捉えて、私に渡すんだ」
「ウンわかった」
科学の徒であるクレイジー先生はあっさり攻略された。彼はもともとイロんなものを極めるためなら最初から持ち合わせていないモラルを56億7000万年後の兜率天にワープさせてしまう イ・ケ・ナ・イ 先生である。
すっきりきっぱりけろりんぱとユージンの胴体を鷲掴みにしようとして、
「……先生。そういう取引は良くないと思うわ……」
流鏑馬明日刑事に美しい眉をひそめられ、
「悪魔との約束って、たいてい裏があるんだよね」
ルイスに、すっごいまともなことを真顔で言われ(かえって意外)、
「……。………。…………」
仏頂面のユージンにまたも額を穴だらけにされ、渋々あきらめたのだった。
「手強いな。では、これでどうかな?」
〜〜♪ 〜〜〜♪ 〜〜♪ 〜〜〜〜〜♪
〜〜〜〜♪〜〜〜♪♪〜〜♪
〜♪〜〜〜♪
〜〜〜♪
どこからか、BGMが流れてきた。
歌詞つきである。
もの哀しい曲調で、切々とした内容の――
――――――演歌だった。
悪魔的世界観としてちょっとどうよと思われるそれは、国民的演歌歌手「美空はるみ」の名曲「北の大地の宿から」である。
寒さ厳しい北の大地の小さな旅館にひとり逗留する中年男が、片思いの女性に、着てはもらえぬセーターやら付けてもらえぬ手袋やら巻いてもらえぬマフラーやらを延々と編み続けるという、涙なくしては聞けない歌である。
明日は先ほどから、顔には出さずに困惑していた。
どこにどうツッコンでいいのか、そもそもボケてるのかマジなのかすらわからない。
幽霊ならば怖いが、これは悪魔のロケエリ。銀幕市民としても銀幕警察署の一員としても、そんなん日常のひとコマである。
「……足場が、悪いわね」
頭蓋骨の上は、歩きにくい。
率直な感想のみを明日が述べたとき。
「だめだ。戦闘不能」
ルイスが、がっくりと膝を突いた。
「涙で前が見えない。……セーターくらい着てやれよ。ひどいよ……」
なんと、「北の大地の宿から」に感動して目幅泣きである。
ぐしぐし鼻をすすりながら、某司令官フィギュアをアマイモンに差し出した。
「やる!」
「……おお、近くで見るとますます……! なんという軍服のしわの巧みさ、軍帽の傾きかたの絶妙さ、火傷の痕の再現具合といい、透明感のある瞳の彩色といい、制作者の観察力、再現力、表現力、造形力の素晴らしさといったら、これぞまさしく天才、いや、神」
「行け、パル」
蘊蓄を語り続ける悪魔が隙だらけなので、ユージンは短くそう言った。
パルはユージンを乗せたまま、ゆっくりとアマイモンに近づく。
ぱ、くっ。
もぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐもぐ、
………ぺぃっ!
悪魔を食べ終わったパルがプレミアフィルムを吐き出し、一件落着と相成った。
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げしっげし。
げしげしげしげし。
げしげしげしげしげしげしげしッ!
元の姿に戻るなり、ユージンは靴の裏でフィルムをこれでもかと踏みにじった。
そんなにげしげしするとバラバラに粉砕されてしまうと思うが、誰も止めない。
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「それでパル。アマイモンは甘かったのかなァ?」
CTにそう聞かれたパルは、きょとんとするばかりだったそうな。
――Fin.
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クリエイターコメント | お ま た せ し ま し た ! このたびは蜂さまのちっちゃいもの化という驚天動地の素敵オファーをいただき、ありがとうございます。 「ユージンと愉快な仲間たちの大冒険」(勝手に副題)が、もっと続いてほしいような気もします、が……、あ……ぁぁぁ(撃たれた) 皆様の冒険に幸い在らんことを。 |
公開日時 | 2008-12-26(金) 18:00 |
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