★ Noisy Holiday ★
クリエイターリッキー2号(wsum2300)
管理番号107-6756 オファー日2009-02-20(金) 21:04
オファーPC 犬神警部(cshm8352) ムービースター 男 46歳 警視庁捜査一課警部
ゲストPC1 ジェイク・ダーナー(cspe7721) ムービースター 男 18歳 殺人鬼
ゲストPC2 小日向 悟(cuxb4756) ムービーファン 男 20歳 大学生
<ノベル>

「あ、風船、わたしも欲しい!」
 そう言って駆け出す少女。
「おい――」
 ジェイクは慌ててそのあとを追った。
 走りながら、周囲に視線を巡らせ、不審者の有無と警備状況を確認。
 だが、休日のパーク内は客でごったがえしている。親子連れ、カップル、若者たちのグループ……そして楽器を演奏したり、大道芸を披露しているパフォーマーたち……。その中を、渓流に泳ぐ魚のように、少女は人ごみをかいくぐっていくのだった。
 雑踏の中に見知った顔を見つけた。
 警備のために配置されている私服警官だ。そいつは、同情と嘲笑の入り混じった一瞥をジェイクに寄こした。軽い舌打ち。笑いたければ笑えばいい。どんな仕事も文句は言わないが、遊園地で女の子のお守という任務が、自分に似合わないことは誰よりおのれがわかっているのだ。
 ジェイク・ダーナーは、見たところはどこにでもいる若者だ。レインボーパークに遊びに来ている連中と外見では大差がない。彼の私服は、Tシャツの上に地味なダンガリーを羽織り、ボトムはジーンズといったもので、その点でも人眼は引かない。
 ただ、注意深く観察していれば、その眼光の鋭さに気づいたかもしれない。
 そして街の不良たちや裏社会とかかわりのあるものなら、この青年の名前と職業、そして名声とを知っていただろう。
 トゥモローポリスの治安を守る警察の、イーストエンド署に名高い刑事ジェイク“サイレント”ダーナーのことを。
 人ごみをかきわけ、ようやく追いついたとき、マリーは風船をくれた仮面の道化師に手を振っているところだった。
「急に走るな。離れるなとあれほど言って――」
 ジェイクが言いかけたまさにその時、パン!と音を立てて風船が弾け飛ぶ。
「びっくりしたぁ。あーん、せっかくもらったのに〜」
「怪我は!?」
「……平気よ。大げさねぇ」
 マリーは笑ったが、ジェイクは真顔だった。
 鼻をかすめる火薬の匂い。そしてひらひらと地面に落ちたちいさな紙片に、黒と白のまじりあった円形のマークがあるのを、彼は見逃さなかった。
 きっ、と、雑踏へ視線を走らせるが、風船を配っていた道化師の姿は、もうどこにもなかった。
「……」
「なに、怖い顔して。さ、行こう」
 マリーに促され、ジェイクは歩き出す。
 そんなふたりの様子を、すこし離れたスーベニアショップの陰から見送るひとりの男がいた。
 黒ずくめの大柄な壮年である。
「なんだあれは。あんなんじゃ脅かしにもなりゃせんぞ、悟?」
「ほんの挨拶」
 傍らに、仮面の道化師がすっと立つ。
 仮面の下からは、やわらかな微笑を浮かべた青年の素顔があらわれた。
「ショーはまだ始まったばかりだからね」

「俺が?」
 ジェイクがその任務を言い渡されたのは、つい昨日のことだ。
 キャピタルから警察長官の娘がトゥモローポリスを来訪する。目当てはレインボウパークである。今日は特別なパレードイベントがあるのである。しかし父親はどうしても同行できず、娘一人で行くことになるので誰か着いていってやってほしい、という話が、トゥモローポリス署に入ってきたのである。公私混同もはなはだしい、とジェイクは思ったが、まあ、それはよい。問題は、ちょうど、レインボウパークに脅迫状が届いていたことだ。
 パレードを爆破する。
 差出人は、インヤン兄弟。この街を騒がせる悪人たちの中で、派手な予告とともに犯罪をくりかえすコンビであった。黒龍(ヘイロン)と白龍(パイロン)というアジア系の男二人組みだが、本名やバックグラウンドは一切不明。本当の兄弟ではないようだ。
 犯行予告があった以上、ジェイクたちがパークを警備するのは当然のこと。だが、あえてこの日に予告が出たのは、長官の娘の来訪を知っていたのだろうか、ということが議論になった。予告はパレードの爆破としか言っていないが、少女の来訪を知っているのなら、彼女の殺害が狙いなのかもしれない。大事をとってイベントを中止したり、彼女の来園をとりやめさせる案も出たが、この機会にインヤン兄弟を逮捕できるかもしれないというのもあって、結局、厳重な警備体制を敷き、長官令嬢は護衛をつけて来園させることとなった。
「なぜガードの担当が俺なんです」
「むろんキミを信頼しているからじゃないか」
 署長はあいまいな笑みで言った。
「それにキミがいちばん、彼女に歳が近い。一緒にいて自然だ」
 たしかに、他の刑事たちは中年で、しかも、いかにもむさくるしい。令嬢も喜ばないだろう。
 だが、ていのいい厄介払いなのだ、とジェイクは受け取っていた。ジェイクが一人で着実に成果をあげるのを快く思わないものは多い。そして他の配置は、チームで行う。いつも一匹狼で行動するジェイクはどのチームにも歓迎されていないのだろう。なら子どものお守りでもさせておけ、ということだ。
「当日は総力をあげて厳戒態勢を敷く。むしろ普段より安全なくらいにな。だからデートのつもりでいればいい」
「デート。子どもでしょう?」
「今年でミドルスクールだよ。……ああ、そう、レインボウパークのホットドッグはうまいそうだ」
 ジェイクは、ため息をついた。

 少なくとも署長のホットドッグ情報は真実だった。
「ねえ、ジェイクって、彼女はいるの?」
「……なぜそんなことを聞く」
「いいじゃない、別にぃ」
 マリーは口をとがらせて、ダイエットソーダのストローに口をつけた。
 テーブルの上で、彼女が片時も手放さないおとものテディベアが、丸い目でじっとジェイクを見ている。なんだか、少女の無邪気な質問につれない態度をとったのを責められているように感じて、ジェイクは視線をそらし、ケチャップをかけたフライドポテトを口に放り込むのだった。
 12歳だというが、外見はもうすこし大人びて見えた。すでに亡くなっている彼女の母親――ということは長官の夫人――は東洋人だったという。その特徴は、しかしマリーにはあまり受け継がれていないように見えた。言動も、ませたことを言うようだが、それはそれで子どもらしさのあらわれなのかもしれない。だが実際のところ、あれこれ言えるほど、ジェイクはこの年頃の女の子に詳しくはないのだった。
「ね、ポップコーン食べない?」
 そう言うと、ジェイクの答えを待たずにカフェテラスの席を立ち、ポップコーンワゴンへ駆けていく。独りで行動してはいけないとあれほど言っているのにまったく聞いてくれないことに舌打ちを漏らす。ジェイクは置き去りにされたがテディベアは彼女に手を引かれていた。丸い目がジェイクを見る。あとを追うべきだろう。ジェイクが腰をあげる。と――。
「!」
 ポップコーンワゴンからすっと離れる人影。あれは――
「戻れ! 近づくな!!」
 ジェイクの叫びは爆発音にかき消された。
 騒然――!
 駆け寄って、無事を確かめる。
「大丈夫か!?」
「う、うん」
 さすがに驚いた様子だ。ワゴンは半壊し、あたりにはポップコーンが散乱していた。ワゴンのあるじが腰を抜かしている向こうを、なにごとかと立ち止まる雑踏の中へ消えていく背中がある。
「誰か彼女を頼む!」
 ジェイクは叫ぶと――傍に警備チームの人員がいるはずだ――、そいつを追って駆け出す。
 角を曲がると、楽しげな音楽とともに、色とりどりのフロートが、向こうから近付いてくるのが見えた。まずい。もうパレードの時間だったのか。
「ダーナー刑事」
 誰かが傍によってきて、鋭く囁いた。
「あちらへ走り去った不審な人物が」
「そうか」
 行きかけて……、すぐに180度回転。教えてくれた男の手を捻じり上げる。
「つまらんことをするな、白龍!」
「あはは、さすがにこれにはひっかからないか」
 するり、とすり抜ける着衣。帽子をとれば、インヤン兄弟のかたわれの、手配描き通りの顔だ。
「なにが狙いだ!」
「さあね」
 掴みかかるジェイクを避ける。
「花火はどんどん大きくなっていくよ。そして最後には――夢を粉砕する」
「させるか」
 その時だ。悲鳴が空気を裂いた。マリーの声だ。その一瞬の隙に、白龍は逃げだす。ジェイクは、しかし、マリーのほうへ戻らざるをえない。
 路上にテディベアが転がっている。
 そして、男の脇に抱えられ、運ばれながら暴れている少女がいる。
「待て!」
 ジェイクのタックルがそいつを吹き飛ばした。
「ま、まてよ、サイレント!」
「!? おまえ――」
 そいつは顔見知りの刑事だった。
「避難させようとしたら、暴れやがって」
「ダニーが!」
 マリーが駆けていく。ダニーとはあのテディベアの名前だ。落としたぬいぐるみを、刑事はそれどころではないと構わなかったのだろう。それでマリーが喚いた。
 ちょうどそのとき、道の向こうにパレードの先頭があらわれたところだった。
 瞬間!
 轟音とともに火の手があがった。
 先頭のフロートが火を噴いたのだ。熱風がジェイクの頬をなでる。
 炎を背景に、大柄な男のシルエットが、テディベアを拾ったマリーを、抱え上げる。
「いただき!」
「黒龍!」
 相次ぐ爆発に、園内はパニックだ。
 ジェイクは走る。
 別の方角から来たフロートの列のわきを、ダンサーたちを突き飛ばして黒龍が逃げる。
 まるでそれい呼応するように、フロートが爆発する!
 ジェイクは走るのをやめて、片膝をついた。両手で構えた拳銃が、1発、2発、と火を噴く。
「なに!?」
 まだ無事なフロートの、上方の飾りが、正確無比に留め具を撃ち抜かれて、黒龍の進路上に落下し、やつを驚かせる。しくじれば令嬢に怪我があったかもしれない。あとで絞られるな、と思いながら、ジェイクは追いすがる。
「彼女を離せ!」
「いつも邪魔ばかり!」
 黒龍とジェイクの拳が交錯する。しかしヒットしたのはジェイクのパンチだけだった。大柄な体が仰向けに倒れる。
 マリーはぬいぐるみを胸に抱いて走った。
 だが彼女の途上――アトラクションのエントランスが、轟音とともに炎に包まれ、悲鳴をあげて彼女が倒れるのが見えた。
「マリー!」
 ジェイクが名を呼ぶ。
 警官たちの群れが走ってくるのが見えたので、彼女は任せて自分は犯人を……と思ったジェイクだが――
「止まれ!」
 拳銃を手に、少女と警官隊の間に割って入っていた。
「……!? 何のつもりだダーナー刑事」
「今――、白龍がいただろう!」
「???」
 ジェイクは確かに見たのだ。警官の群れの中に、なにくわぬ顔で制服姿でまぎれこんだ彼の姿を。インヤン兄弟の弟役――見た目は優男だが、変装の名人で、頭が切れる。兄弟の犯行を、計画を練っているのはあの青年だとされていた。
 横目で確認すれば、KOしたはずの黒龍の姿もない。
「くそ」
 ジェイクはマリーを助け起こすと、彼女の手を引いて走り出した。
 仲間は信頼できない。白龍がまぎれこんでいるかもしれないのだから。困惑の怒号を背後に聞きながら、ふたりは手近なアトラクションに飛び込んだ。
 高架の線路の上を走る列車状の乗り物は、この期に及んでまだ運行していた。
 ふたりが飛び乗ると、走り出す。
「……マリー」
 ジェイクは、少女が落ち着くのを待って、おもむろに訊いた。
「そのぬいぐるみは、どうした?」
「えっ、ダニーのこと?」
 少女は、何でそんなことを訊かれるのかと、不審そうに問い返す。
「これは……お兄ちゃんの贈り物なの」
「お兄ちゃん」
「お母さんが死んじゃったあと、どこかへ行っちゃったけど。……だから、お兄ちゃんのかわりに、この子を大切にしてるの」
「……最近、ほんのすこしの間でも、ダニーから離れたことは?」
「……? メイドのジェシカに、いちど、洗ってもらったわ。それだけ」
「そうか」
 ジェイクは息をついた。
「いいか、マリー」
 そして、彼がなにか言いかけたところで――
 急速に近づいてくるローター音。
 ヘリだ。ヘリコプターが、こちらへ向けてまっすぐに飛んでくる。
 ヘリの窓から黒龍が身を乗り出すのが見えた。その手に――機関銃!
「伏せろ!」
 銃弾の連鎖――悲鳴――そして……!
「大丈夫か!」
 思わず床に組み伏せた令嬢は、気を失っただけのようだ。
 すこし先に、テディベアが転がる。ジェイクはそれに手を伸ばした。
「……悪いが、恨まないでくれよ……」
 そして立ち上がる。
「蜂の巣にしてやるぞぉーーーー!」
 黒龍が笑った。
 ジェイクは、それを放り投げた。すなわち、テディベアを。
 きれいな放物線を描いて、効果の線路から投げ捨てられたそれは、その下に停車していたパレードのフロートのほうへ。次の瞬間。
 フロートが爆発する!
「!?」
 爆風のあおりを受け、バランスを崩したヘリが墜落していくのを、ジェイクは厳しいまなざしのまま、見つめていた。

「正解♪」
 その様子をオペラグラスで確認すると、白龍はにこりと笑って、嬉しそうに爪先で床を叩いた。
 パーク全体を見渡せる観覧車からだった。
 続いて、視線は、落ちたヘリから逃げ出し、警察に追い回されている黒龍へ。
 くすくすと、白龍は笑った。
「まあ、いいか。雪之丞にしちゃ上出来だ。……それに、目的は果たしたのだからね。夢は砕け散り、もう戻ることはない……」
 そのとき――
 青年の横顔に、ふっと、寂しげな微笑が差したのは、気のせいだったろうか。
「そうさ。もう、戻らないんだ――」

 ★ ★ ★

「結局、兄弟には逃げられてしまったか。パークにもずいぶん被害を出してしまったし……、頭は痛いが、令嬢が無事だったのは何よりだ」
「……しかし泣いているでしょう」
 ぼそり、とジェイクは言った。
 署長は意味を掴みかねて、怪訝な視線を返す。
「ダニーがいなくなったから」
「ぬいぐるみのことかね。インヤン兄弟もなんという卑劣漢だ。ぬいぐるみの中に仕込んだ発信機とパーク各所に仕込んだ爆発物を連動させるとは。……しかし、キミはそれによく気づいたもんだ」
「彼女の行く先を追いかけるように爆発が起こっていましたから。……時に署長。長官のご子息は戻られないのでしょうか」
「な……。キミ、なんでそんな……。それはワシらにはわからんことだよ。家を出た理由さえさだかじゃない。本庁ではタブーになっている話題だそうだが……」
 浅く頷いて、ジェイクは署長の前を辞した。
 マリーは、無事に、トゥモローポリスから発っていった。
 しばらくはメディアがうるさいが、いずれ、別の誰かが派手な事件を起こせば、その話題にとってかわられるだろう。
 ジェイクは報告を澄ませると、半日の休暇をとった。
 近くカフェテリアで、ホットドッグをかじりながら、絵葉書にペンを走らせる。
 コーヒーを飲み干し、席を立つと、ハガキをポストへ。
 ふと、道の向こうから、こちらを見ている二人組を見かけたような気がしたが、車が通り過ぎるとその影も消えている。
 トゥモローポリスは、今日は平和だ。


『親愛なるマリーへ

 心配かけてごめんね。
 遊園地の騒ぎで、きみとはぐれちゃったみたい。
 でも平気。なんと、ぼく、お兄ちゃんと会ったんだよ。
 これからしばらく、お兄ちゃんと世界を旅してきます。
 いつか帰るから待っててね。

 ――ダニーより』



THE END

クリエイターコメント大変お待たせしました。
各人さまとも、ちょっとキャラが違う!ような気もしますが、そこは趣旨にかんがみてご容赦を〜。特にJ様には、一生分くらいセリフを喋ってもらいました。

さて、このお話、語られているエピソードとは別に、あえて、詳細をはっきり描いていないストーリーが盛り込まれています。それについてはもうこれ以上語りませんので、あとはどうぞ、ご想像のままに――。

※ご発注者さま以外の読者の方へ
これは役柄になりきってしまうムービーハザードの中の出来事、です。思い切って経緯は省略して書きました。もしもワールドだと思ってくださいませ。
公開日時2009-04-06(月) 18:20
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