★ 失われたメリークリスマス ★
クリエイター宮本ぽち(wysf1295)
管理番号364-5597 オファー日2008-12-05(金) 12:32
オファーPC レイド(cafu8089) ムービースター 男 35歳 悪魔
ゲストPC1 香玖耶・アリシエート(cndp1220) ムービースター 女 25歳 トラブル・バスター
<ノベル>

 このひろいせかいのどこかに、サンタクロースだけがくらす『サンタの村』があります。
 おとこのサンタやおんなのサンタ、おじいちゃんのサンタ、おばあちゃんのサンタ……。むらびとはサンタばかりです。だけど、こどもはサンタにはなれません。二十歳になっておとなサンタとしてみとめられるまでは、みならいサンタとしてほかのサンタのおてつだいをするのです。
 そんなむらのかたすみに、あるサンタのかぞくがすんでいました。
 まじめなおとうさんサンタ・クロードと、やさしいおかあさんサンタ・マリア、そしてこどものサンタ・ファレノです。
 「せかいじゅうのひとたちをしあわせにするのがサンタのしごとだ。おまえもいつかそんなサンタになれるようにがんばれ」
 ファレノはおとうさんがだいすきでした。ぼくもおとうさんみたいなサンタになる、というと、おとうさんもおかあさんもうれしそうにわらうのでした。



 クリスマスがちかくなるとサンタたちはおおいそがしです。プレゼントをきれいにほうそうしたり、リボンをかけたり……。12月24日のよるにプレゼントくばりにでかけられるように、こどももおとなも、みんなでじゅんびをします。
 ファレノのいえもおおいそがしでした。ファレノもおかあさんサンタもおとうさんサンタも、いっしょうけんめいプレゼントのじゅんびをしました。
 「やっぱり、いっちゃうの?」
 12月24日のよる。ばんごはんをたべおえてプレゼントをくばりにでかけるおとうさんサンタに、ファレノはかなしそうにいいました。
 この日はクリスマスイブで、ファレノのたんじょうびだからです。ファレノはおとうさんサンタがだいすきだから、たいせつなこの日はさいしょからさいごまでいっしょにいてほしいのです。
 ともだちはみんなかぞくといっしょにいます。たんじょうびはとてもたいせつな日だからかぞくとすごすものだといって、だいすきなおとうさんとおかあさんにはさまれて一日をおえるのです。
 「みんながプレゼントをまってる。せかいじゅうのひとたちをしあわせにするのがサンタのしごとだ。そうだろう?」
 おとうさんサンタはファレノのあたまをなでてでかけていきました。

 みんなのしあわせのため。
 じゃあ、ぼくのしあわせは?

 ファレノはそんなふうにおもいましたが、なにもいわずにおとうさんサンタをみおくりました。
 だけど……ほんとうは、ファレノはクリスマスがきらいでした。



   ◇ ◇ ◇



 ぎんまくしにじったいかしたファレノがみたのはクリスマスのけしきでした。
 きらきらとかがやくイルミネーション。ケーキやチキンのおいしそうなにおい。
 おおきなプレゼントをかかえてあるいているひとたち。

 ああ、みんなみんなしあわせそうです。
 ああ、みんなみんなわらっています。
 
 どうしてみんなわらっているの?
 クリスマスはたのしい日なんかじゃないのに。

 ……クリスマスなんかだいきらいだ。
 クリスマスなんかいらない。
 クリスマスなんかなくなっちゃえ!



 ――クリスマス目前のある日。浮かれた街に、小さな混乱が広がった。



   ◇ ◇ ◇



 クマは可愛い。しかし去年のプレゼントはクマのぬいぐるみだった。
 (ならクマのグッズか?)
 二年連続クマというのも芸がない。さてどうしたものか。
 あちこちの売り場や店を放浪し続けてかれこれ二時間になる。苦味ばしった眼帯の男(35歳)が、十代の少女が好みそうなファンシーグッズや衣類を扱う店舗をうろついていては不審者と勘違いされそうなものだ。もしかすると既に勘違いされているのかも知れないが。
 「……お」
 パステルカラーが溢れる売り場でレイド(35歳)が見つけたのはフリルのついたパジャマである。柔らかなパールホワイトの生地にポップなクマの顔がプリントされていて、何とも愛らしい。
 (おお。これなんか似合うんじゃないか?)
 自分が着るわけでもないのに、鏡の前に立ったレイド(35歳、身長185cm)は小さなパジャマをいそいそと体に当ててみる。あの白い少女がこの寝巻を着て眠る姿を想像すると自然に頬も緩むが、さすがに周囲の視線が痛い。パジャマをそそくさと元の場所に戻して立ち去るしかなかった。
 「あー、どうすりゃいいんだか」
 プレゼント選びという作業はえてして悩ましいものだが、幸せな時間だ。相手の欲しい物をあれこれと考え、喜ぶ顔を思い浮かべながらああでもないこうでもないと吟味する。相手のことを最も考える時間だと言ってもいいだろう。あの真っ白な天使の少女に贈るためのプレゼントとなれば俄然気合も入るというもの。
 余談であるが、レイドが市街地に買い物へ出かけると聞いた天使の少女は自分も一緒に行くと駄々をこねた(しまいには姉と慕う空手家の少女まで呼び出して三人で買い物に行こうと言い出したほどだ)。プレゼントを贈る相手にくっついて来られたのではサプライズもへったくれもあったものではない。「レイドと一緒にお買い物行く!」と頬を膨らませる天使をなだめるのは一苦労で、すっかり保護者役が板につきつつある悪魔は買い物に出かける前から疲れる羽目になった。
 他の友人たちに渡すプレゼントは既にいくつか買い求めたし、愛用の白イルカのぬいぐるみにかぶせてやるための小さなサンタ帽もしっかり買い込んだ。だが肝心かなめの少女に渡すための一品がどうしても決まらない。既に重くなりつつある足を機械的に引きずって大通りに出る。
 (日が暮れるまでに帰れりゃいいんだが)
 そう、今日は12月24日。今夜じゅうにプレゼントを渡さなければ意味がないのである。
 大通りの両側をずらりと埋めた街路樹には電飾が巻きつけられ、日が沈めば光のプロムナードとなるのだろう。ショウウインドウの中でめかしこんだマネキンは通りに向かって気取ったポーズを取り、ファッションビルや飲食店の入り口には赤と緑の飾り付けが並ぶ。気ぜわしく行き交う人々も今日だけはどこか浮き立って、笑顔を浮かべているようにさえ見えた。
 市街地の店を片っ端から覗いてプレゼントを探すしかないかと決めかけた時、浮かれた街の一角で悲鳴と炎が上がった。



 さて、ここで時間は少し遡る。
 レイドがプレゼント選びに四苦八苦する数時間前、何でも屋――もといトラブル・バスターの収入だけではなかなか厳しい現状にある香玖耶・アリシエートは、依頼を吟味しに市役所の対策課を訪れていた。
 そこでサンタクロースと出会ったのである。
 そう、あのサンタクロースである。
 髭もないし恰幅のある体型でもなかったが、袖と裾がムートンで縁取りされた赤のコスチューム、先端に白いぼんぼりのついた三角帽子はサンタクロース以外の何ものでもない。
 「どうぞよろしくお願いいたします」
 依頼が貼り出された掲示板の前で、眼鏡をかけた四十手前とおぼしきそのサンタは来庁者にいちいち頭を下げているのだった。
 一瞬ぽかんとした香玖耶であったが、そういえばここは銀幕市だったと即座に思い出す。このサンタクロースもムービースターなのかも知れない。
 「……こんな所で油を売ってていいの?」
 クロードと名乗ったサンタに対する香玖耶の第一声がそれだった。几帳面なクロードは黒縁眼鏡を指で押し上げ、しゃんと背筋を伸ばす。
 「油を売っているわけではありません。大切なことです」
 「でも、今夜はイブよ。サンタさんにとってはかき入れ時でしょ?」
 「は。お恥ずかしいのですが、そうも言っていられない事態に陥っておりまして」
 軍人のように腰の後ろで手を組んだクロードにつられて香玖耶も慌てて姿勢を正す。
 「私の息子が大変なことを……ああ、失敬、私と息子は『ロスト・クリスマス』という映画から実体化したのですが。教会をターゲットにした事件が頻発しているのをご存じでしょうか?」
 聞き覚えのある話に香玖耶は素早く掲示板に眼を走らせた。
 ――あった。先程斜め読みした依頼である。
 クリスマス直前の時期から、市内各所の教会に放火や投石などの嫌がらせが頻発している。死者こそ出ていないものの、深夜に放火されたケースもあり、危うく教会が全焼してしまうところだったのだそうだ。犯人はいまだ不明。警察と対策課が解決に乗り出すことになったため、協力者を募りたい――。概要はそんなところだった。
 「実体化したばかりで途方に暮れていた時に見つけたのがこの依頼でした。息子が関わっている可能性が高いと考え、依頼を受ける方に同行させていただけないかとこちらでお願いしている次第です」
 「あなたの息子さんが一人で全部の事件を?」
 「いえ……十歳の息子にそこまでの力はありません」
 ただ、と付け加えてクロードは眼鏡の奥の眉を顰めた。「息子が事件の中心になっていることは間違いないでしょう。今の状況は息子が映画の中でしでかしたこととよく似ております」
 苦しげな渋面から語られるエピソードに香玖耶の柳眉が跳ね上がった。
 「息子さんがどこにいるか、手がかりや心当たりは?」
 「あるにはあります。私のソリの中にいつの間にかこんなものが……」
 クロードが取り出したメッセージカードには拙い手蹟で乱暴な文面が連ねられていた。

 『てっぺんでふたりがであったとき、よるはおわり、かのものはうまれた
  なりひびくしゅくふくをうけたければ、なないろのひかりのしたにきたれ
  そこはおまえがころした人のそばである。ぼくはそこにいる』



 悲鳴を聞いて駆け出したレイドは渦を巻いて押し寄せる熱波に思わず足を止めた。
 薄い茜に染まり始めた空に向かって炎が唸りを上げる。炎上しているのは市街地に面した教会。空気が乾燥しているせいであろうか、炎は瞬く間に勢いを増して教会を舐め尽くそうとしている。
 クリスマスイブの今日、教会を訪れる者が普段よりも多かったのかも知れない。礼拝堂からばらばらと飛び出してくる人間の姿が目につく。
 「ち――」
 どうする。炎の中に取り残された者がいないか確認に行くか。
 一瞬決めかねたレイドの視界の隅を不審なものがちらりと掠める。
 弾かれたように振り返ると『それ』はそそくさと視界から遠ざかっていたが――レイドの目は、その場から逃げるように走り去る数人の背中を一瞬で捉えていた。
 (まさか)
 ――放火か?
 「ヴェルガンダ!」
 レイドの決断は早かった。何もないはずの空間からくるんと回転して唐突に黒いものが飛び出す。現れたのはヴェルガンダという名の漆黒のケルベロスだ。非戦闘形態である子犬姿ではなく、オオカミよりも少し大きな姿で現れた忠実な相棒は主の意思をきちんと察しているらしい。
 「追うぞ!」
 叫ぶが早いか、ケルベロスとともに地を蹴る。何事かと集まってきた野次馬に向って消防と警察に通報してくれるように言い残すことも忘れない。



   ◇ ◇ ◇



 ファレノはクリスマスがだいきらいです。
 ファレノはおとうさんサンタがだいきらいです。
 ファレノにとって、クリスマスはしあわせな日ではなく、このよでいちばんかなしい日なのです。
 ファレノにとって、たんじょうびはしゅくふくにみちた日ではなく、つらくかなしいおもいでだけがつめこまれている日なのです。
 ぎんまくしというまちにじったいかしたファレノは、ひとりぼっちでかくれています。
 (クリスマスなんかきらい。きらい、きらい、だいきらい!)
 だからファレノは泣いています。
 ひとりぼっちで泣いています。

 そこへ、何人かのおとこのこがあらわれました。



   ◇ ◇ ◇



 浮かれた街の風景を置き去りにして黒い疾風が駆け抜け抜ける。地獄の番犬と悪魔がひと塊になって大通りを矢のように貫く。
 (主殿。“キレやすい未成年”とやらのしわざではないのか)
 このケルベロスも現代社会にだいぶ馴染みつつあるようだ。
 「馬鹿。捕まえもしねえうちから決めつけるな」
 (しかし、少なくともあの背中は)
 その指摘にはレイドも口をつぐむしかない。
 視界に捉える背中はやや小さく、未成熟だ。服装から察するに恐らく少年たちではなかろうか。
 あの時、火事で集まった野次馬から少し離れた場所に彼らはいた。犯人は犯行現場に戻るという。様子をうかがっていたところにレイドの視線を受けて逃げ出したと見えなくもない。
 逃げる、逃げる。小柄ですばしっこい少年たちは人ごみをすいすいと縫いながら駆け抜ける。瞬発力に優れてはいても体躯の大きなレイドは彼らのようにはいかない。イブの夜を迎える準備で浮足立つ街には人波が溢れている。肩や胸が通行人にぶつかる度にわずかな足止めを食らい、それが相手との距離を少しずつ開かせる。
 先んじたのはヴェルガンダだ。オオカミより少し大きいだけのヴェルガンダは頭を低くし、人々の足許をつむじ風のように駆け抜ける。
 迫るケルベロスに気付いたのだろう。T字路に差し掛かった少年たちは肯き合い、素早くふた手に別れた。
 (どうする、主殿)
 「右を頼む。俺は左だ」
 (心得た)
 わずかの逡巡も見せずにレイドが命じ、忠実な番犬は最低限の返事を残して右へと折れる。数歩遅れてレイドは角を左に曲がった。
 レイドの視界から逃げるのは二人。メインストリートから一本横に入ったことが彼らにとって仇になった。追う者と追われる者の距離がぐんぐん縮まる。肉体も体力も未成熟な少年と悪魔の血を持つレイドでははなから勝負は決している。
 ざわざわざわ、と不意に人々がどよめく。
 レイドは耳を疑った。
 
 シャンシャンシャンシャン。
 シャンシャンシャンシャン。

 ひどく場違いなそれは心が浮き立つベルの音。まるでそう――ソリを曳くトナカイが鳴らしているかのような。
 足許に差し込む不自然な影に気付き、レイドは弾かれたように頭上を仰ぐ。

 「蒼天を巡る清しい涼風よ、嵐天を駆ける荒ぶる轟風よ」
 凛と呪文を紡ぐ女声が冬色の空から降り注ぐ。
 「疾く集い来りて――彼の童らを閉じ込めよ!」
 どうと轟くは風の唸りか、獣の咆哮か。現れたるは涼風の化身たるグリフォンと轟風の象徴たるフェンリル。双頭の聖獣は一対の旋風となり、人波の隙間を精確に縫って少年たちへと殺到する。
 
 「あら、レイドさん?」
 トナカイの曳くソリに乗り、眼鏡をかけたサンタクロースとともに地上に降り立ったのは香玖耶・アリシエートではないか。
 「何してるの、こんな所で」
 「そりゃこっちの台詞だ」
 香玖耶が召喚した風の精霊は檻となって少年たちを閉じ込めている。混乱して悲鳴を上げる彼らと香玖耶、それにトナカイとソリとサンタクロースを順々に見比べてレイドは首をかしげた。
 「何でも屋クリスマスバージョン、ってか? どうせならその格好よりサンタガールのほうがサマになったと思うが」



 クロードという名のサンタが差し出したメッセージカードには子供のものとおぼしき筆跡でやや物騒な文面が連ねられていた。あまつさえ表には『だいきらいなサンタへ』という乱暴な宛名まで書き殴られている。
 「この『だいきらいなサンタ』ってのはおまえのことか?」
 レイドの問いにクロードは軽く顎を引いただけだった。肯いたつもりなのだろうか。
 事情は大体把握した。市内の教会を標的にした嫌がらせが連続しており、対策課から出された依頼を受けて香玖耶が調査に乗り出したということらしい。レイドが目撃した火事も連続して起こっている事件の一端であるようだ。
 「で、このメッセージの内容がおまえの息子の居場所の手がかり……ってわけか」
 「恐らくは。しかし私はこの街のことをよく存じませんで、どうにも……」
 息子の不始末は親の監督不行き届き。迅速に事態の収拾を図りたいが、実体化したばかりのクロードは市内の地理すら把握していない。そこで対策課の依頼を受ける人間に同行させてもらえないだろうかと市役所で頭を下げ続けていたそうだ。
 「しかし……サンタの息子とこいつらがどう繋がるんだ?」
 レイドの視線は捕縛された少年たちに向けられた。手首を縛られてクロードのソリに乗せられた少年たちはふてくされてそっぽを向いている。見たところ普通の、それもエキストラの少年であるようだが……。
 「息子はクリスマスが大嫌いでした。古来、我々サンタ族にはクリスマスを司る力が賦与されていると言われています。いわば人々が幸せなクリスマスを送れるようお手伝いするのがサンタクロースという存在ですからね。恐らく……息子の場合はその力が逆の方向に働いてクリスマスを厭う人間の心と共鳴し、彼らの感情を増幅してしまったということなのでしょう。少なくとも映画の中ではそうやって騒ぎを起こしていました」
 「スターやファンじゃなくてエキストラが影響を受けたのは?」
 「俺らはあんな浮かれた連中とは違うからさ」
 レイドの問いに答えたのはクロードでも香玖耶でもなく少年たちだった。
 「何がムービースターだ、バッキーだ。何が夢の街だ。夢は所詮夢だ、糞の役にも立たねえだろうが。そんなもんに踊らされてるおめでたい連中と俺たちを一緒にすんじゃねえよ」
 「神サマも同じだ。祈っても信じても何も変わりゃしねえ。クソッタレな神の誕生日なんか知ったこっちゃねえし、神を信じてもいねえくせに馬鹿騒ぎしてる連中も大嫌いだ!」
 「だったら何をしてもいいっていうの?」
 夢と神を罵る少年たちを香玖耶の厳しい声が遮る。「あんたたちのやってることは紛れもなく犯罪よ。一歩間違えれば人を殺すかも知れない。その辺を覚悟の上でやってるんでしょうね?」
 だが、真っ直ぐに背筋を伸ばした瞳に満ちるのは苦さと哀しさが静かに綯い交ぜになった色合いだ。
 恐らく彼らにはクリスマスを祝う気になれぬ理由や神に唾を吐きかけたくなるような事情があるのだろう。かつての香玖耶がそうであったように。気が遠くなりそうなほどの昔、人からも世間からも神からも見捨てられた香玖耶たち孤児の群れが行き着いたのは皮肉にも打ち捨てられた教会であったけれど。
 エルーカとしての力を得て永き時を彷徨う間、魔女狩りの標的にされたこともあった。だから神というものへの感情を問われた時、香玖耶の口の中にはちょっぴり苦い味が広がる。
 それに――何よりも大切なあの少年が神の寵愛を受けた司祭だった。
 だが、レイドはその辺りの事情を知らない。厳しいながらも少年たちの言葉を否定しようとはしない香玖耶の様子に軽く首を傾げたが、理由を問うことはしなかった。
 (神、ね)
 代わりに、悪魔である己とは最も縁遠い存在の名に自嘲とも皮肉ともつかぬ笑みをこぼすだけだ。
 世界から疎まれ、天使に殺されるためだけに生み出されるのが悪魔という存在だ。あらゆるものから忌み嫌われる悪魔がいくら敬虔な信仰心を持ったところで神が微笑んでくれるとは思えぬ。恩師や大切な人々との出会いがなければ自分も彼らと同じようなやり場のない感情を抱えて生きていたかも知れない。
 レイドの故郷である世界では神が天使と悪魔を生み出したと言われていた。悪魔が天使に殺されるための存在だというのなら、神はなぜそんな存在をわざわざ創りたもうたのか。悪魔に苦しみを与えるためだけに生み落としたのではないのか……。そんなふうに考えれば神を呪いたくもなるというものだ。
 「仲間の居場所は? ……そんなの教えるわけないだろって顔ね」
 ぷいとそっぽを向いた少年たちの様子に香玖耶は軽く息をつく。その傍らでレイドは片方だけ覗く目を軽く眇め、メッセージカードを透かし見るようにしながら顎をさすった。
 「アジトが分からなくたってサンタの息子を探し出して何とかすりゃいいんじゃねえのか。この通り手がかりもあるわけだし」
 「分かったの? 彼の居場所」
 「ああ。具体的にどこと分かったわけじゃねえが、大体の見当はついてるってとこだな」
 しかし、とレイドはがりがりと頭を掻く。「この“おまえがころした人のそばである”ってのはどういう意味なんだか」
 半ば独り言のように落とされた台詞にクロードの表情がぴきりと音を立ててこわばった。
 「そういえば、息子さんの誕生日が12月24日で……24日はプレゼント配りに出かけるから息子さんの傍にいてやれなかった、って言ってたわね。だから息子さんはクリスマスを嫌うようになった、って」
 誕生日に父親が一緒に居てくれないのでは確かに寂しいだろう。父は自分よりも仕事を選んだのだと幼いファレノが拗ねたとしても不思議はない。だが、その程度のこと――と言っては何だが、そのことのみをもってこのような事件を起こすのは些か不自然ではないか。
 レイドも浅く肯いて応じ、説明を求めるようにクロードに視線を向けた。
 相変わらず生真面目に背筋を伸ばした父親サンタは苦虫を噛み潰したような表情で眼鏡を鼻の上に押し込む。
 「……確かに誕生日の件も原因の一端ではあるでしょう。しかしお察しの通り、決定的な原因は他に――」
 その時、ガシャーンという盛大な衝撃音がクロードの言葉を遮った。あ、と声を上げて振り返ると、ソリをひっくり返した少年二人が脱兎の如く逃走するところであった。
 「こら、待ちなさい!」
 香玖耶の鞭が唸りを上げる。しかしわずかに届かない。軽く舌打ちして反射的に召喚態勢に入るが、レイドがそれを制した。
 「どうして止めるのよ?」
 「力は後にとっとけ。確か召喚回数には限りがあるんだろ?」
 後から嫌でも精霊の力を借りなければいけないような状況になるかも知れないというレイドの弁に香玖耶は「そうね」と腕を下ろす。
 「ヴェルガンダ、いるか」
 返事の代わりに、何もない空間から黒い犬がくるんと飛び出して地面に降り立った。子犬の姿で現れたケルベロスに香玖耶が「可愛い」と目を輝かせる。
 「おまえが追った連中はどうなった?」
 (街外れのとある場所に逃げ込んだ。似たような年頃の子らが何人も集まっている。彼らに混じって、サンタクロースのような格好をした奇妙な子供が一人)
 「当たりだな。そこがアジトってわけか」
 (恐らくは。特に手出しはせずに監視に徹しておいたが……)
 「上等だ。よくやった」
 忠実なるケルベロスの声はあるじたるレイドにしか聞こえない。つまり香玖耶やクロードの目にはレイドが一方的に犬に向かって話し掛けているようにしか映らないのである。怪訝そうな視線を感じながらも更に二言三言会話を交わし、レイドは二人に向き直った。
 「ヴェルガンダが案内してくれるそうだ。手っ取り早く連中の足許に乗り込もうぜ」
 「ならば私のソリにお乗りください。地上を行くよりだいぶ速く移動できますので」
 クロードの言葉に応じるようにソリを曳くトナカイが軽く頭を下げた。ヴェルガンダは滅多に見ることのできないトナカイという生き物を珍しがってふんふんと鼻を近付ける。しかしトナカイのほうは少々嫌がっているらしい。彼らの天敵である狼は犬の仲間なのだから無理もないといったところか。
 「イブの日にサンタのソリで空中散歩、ってか。遊びじゃねえが、アイツも連れて来てやりゃあ良かったな」
 喜んだだろうに、と呟いたレイドに香玖耶がふと微笑んだ。
 「アイツって、天使の彼女のこと?」
 「ん、ああ」
 「ふふ。相変わらず娘思いのパパさんね」
 「誰がパパだ、誰が!」
 「レイドさんにもお子さんがいらっしゃるのですか。失礼ですが、娘さんはおいくつで?」
 「だからアイツは俺の娘じゃねえし、俺もアイツの親じゃねえ!」
 子を持つ父親どうしという親近感を露わにして話しかけてくるクロードを一喝するレイドであったが、香玖耶はその横顔を静かに微笑みながら見守っている。
 レイドが何と言おうと、彼が天使の少女に向ける愛情は本当に家族のようだと思う。物心ついた時には既に孤児だった香玖耶にとっての家族はあの『群れ』の孤児たちであったが、彼らは圧倒的で理不尽な力の前に呆気なく駆逐された。真の意味での『家族』を知らない香玖耶の目には、レイドと天使の少女の関係が少し眩しく映るのだ。



 日は既に暮れかけ、大通りを鮮やかなイルミネーションが彩り始める。サンタクロースのソリは薄暮の冬空へと翔け上がり、夜を目前にして一層華やかさを増した街を置き去りにしてぐんぐん高度を増していく。きんと透き通った空気をトナカイのベルが軽やかにかき混ぜるが、乗り合わせた三人と一匹には浮き立つようなイブの気分を楽しむ余裕はない。
 「教会?」
 天高く舞い上がったソリの中、吹きすさぶ木枯らしに負けぬよう香玖耶は声を張り上げた。香玖耶の腕の中には子犬形態のヴェルガンダが不承不承といった顔ですっぽりおさまっている。自らをヴェルちゃんと呼んで可愛がるあの少女以外の相手からこんな仕打ち(?)を受けるとは思っていなかったとでも言いたげな風情だ。
 「ああ。ヴェルガンダの話じゃ街外れの古い教会に連中が集まってるらしい。聖マリアンヌ教会だそうだ」
 「ファレノっていうサンタの子が残したメッセージカードとの関連は?」

 『てっぺんでふたりがであったとき、よるはおわり、かのものはうまれた
  なりひびくしゅくふくをうけたければ、なないろのひかりのしたにきたれ
  そこはおまえがころした人のそばである。ぼくはそこにいる』

 クロードの元に残されたカードには確かそんな文面が連ねられていたはずだ。
 「“なりひびくしゅくふく”と“なないろのひかり”って聞いて教会を連想しねえか?」
 「あ……もしかして、教会の鐘とステンドグラス?」
 「多分な。ってことは、“よるはおわり、かのものはうまれた”の部分は……神サマの誕生日のことだろう。前夜祭(イブ)が終わった後の25日のことを示してるんじゃねえか。“てっぺんでふたりがであった”っていうのはよく分からんが、もしかすると時計の針のことかも知れねえ。長針と短針が文字盤の頂上で重なった、ってとこだな。24時になって日付が24日から25日に変わったっていう意味だとすりゃあ話が通じる」
 すらすらと謎を解き明かしてみせるレイドに香玖耶は呆気に取られ、その後で賞賛に目を輝かせた。
 「すごい。レイドさん頭いい!」
 「あー……たまたまだ。事件が事件だから教会のイメージが頭にこびりついててな。居場所が教会だと仮定して読み返してみたら当てはまったってだけの話さ」
 「だけど、“そこはおまえがころした人のそばである”っていう部分は?」
 香玖耶の問いに、トナカイの手綱を取るクロードの背中がかすかに震えたようだった。それを視界の端に捉えつつレイドは素知らぬ顔で言葉を継ぐ。
 「それは俺には分からん。逆に言えば、ファレノとやらと父親にしか分からねえんじゃねえか?」
 「うーん……それはそうかも知れないわね。元々はクロードさんに宛てられたメッセージだし」
 顎に手を当てて思案顔を作った香玖耶であったが、ふと何かに思い当たったように「あ」と小さく声を上げた。
 「ねえクロードさん。奥さんの名前、確かマリアさんだったわよね?」
 「ええ、その通りですが」
 「息子さんたちがいるの、聖マリアンヌ教会よ。奥さんの名前と似てる。それに教会っていったらマリア像がつきものじゃない? 偶然にしては一致しすぎてる気が――」
 背筋をひやりとしたものが這い上がり、香玖耶は思わず口をつぐむ。

 ……もしその通りだとしたら、あのメッセージはクロードがマリアを殺したという意味になってしまうではないか。

 「ま、ファレノとやらに会えば分かるこった」
 硬くこわばったクロードの横顔に気付かぬふりをして、レイドはわざと何気ない口調で香玖耶に応じた。



 ふと目を開くとやけにひんやりとした空気が頬を撫でた。空気が冷たいのではなく、自分の頬が濡れているからだということに数秒かかって気付く。
 うとうとしている間に夢を見てしまったようだ。未だ涙の乾かぬ頬を手の甲で横殴りに拭うと、目の前には少年グループのリーダーが立っていた。
 寝ぼけ眼のファレノを見下ろしたリーダーの少年はあからさまに舌を打った。
 「いつ見てもムカつくな、その格好」
 馬鹿じゃねえのか、と吐き捨てたリーダーに仲間の少年らも同意する。サンタクロースの衣装に身を包んだファレノはぎゅっと唇を噛んでうつむく。ファレノたちサンタ族にとってこの衣装は普段着のようなものだ。特別に選んで身に着けているわけではない。
 「……ぼくだって、好きでサンタに生まれたわけじゃないんだ」
 「分かってるよ。おまえも俺らと同じでクリスマスが嫌いなんだろ?」
 リーダーは自嘲気味に唇の端を持ち上げてファレノの前にしゃがみ込んだ。十歳のファレノにとって、十四、五とみえるリーダーの少年はひどく大人びて見える。
 静寂と薄闇に沈んだ教会に十人近い少年が顔を揃えている。クリスマスに沸き立つ街の喧騒もここまでは届かない。浮かれる街を頑なに拒むように閉ざされた教会で、少年たちはかじかむ指先を温めながら額をつき合わせて算段を始める。
 「ぶっ壊してやろうぜ、クリスマスなんか。そんで最後にはこの教会ともおさらばだ」
 「教会なんか全部ぼろぼろにしてやる。居もしねえ神なんか誰が信じるかってんだ」
 口々にクリスマスや神を罵る少年たちの前でファレノは古ぼけた聖母像を見上げる。
 神子を腕に抱き、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる聖母の名はマリア。ファレノの母と同じ名前。ファレノが誰よりも慕った母も、かつてファレノにこんな笑みを向けてくれていたはずだ。
 生きていれば。母が生きていれば、今もこんなふうに笑いかけてくれたに違いない。
 自分や家族がサンタでさえなければ。クリスマスというものさえ存在しなければ。イエスという名の神が生まれさえしなければ……。ああ、幼く拙い思考回路は肝心かなめの事象を見落とし、結局そこに帰結する。
 そこへ荒々しい足音が響き、二人の少年が礼拝堂の中へと飛び込んできた。所々切り傷や擦り傷を作った彼らの姿を見てリーダーは眉を跳ね上げる。
 「変なのに、捕まっ……た」
 よほど慌てて逃げてきたのだろう。肩を上下させ、乱れた息を懸命に整えながら二人は口を開く。
 「きっとスターだ。眼帯の男と、銀髪の変なねーちゃんと、サンタクロース」
 「ちゃんとまいたか?」
 「多分。でも追って来るかも。連中、変なソリに乗って変な魔法使ってたし」
 「間違いなくスターだな。くそ、ここもあぶねえってことか」
 リーダーは薄汚れたスカジャンのポケットに手を突っ込み、苛々と頭をかきむしる。他の少年たちの間にも動揺と不安が伝播したようで、落ち着きのないざわめきが小さな礼拝堂に広がった。
 「どうする」
 「構やしねえ。最後までやり切るさ」
 彼らの中で最年長であり、自然とリーダー的な役割を担うことになった少年は胡乱な眼を仲間に向けた。
 「ただ……そうだな、火をつける準備はしとけ。いざとなったら連中を道連れにここを燃やす」
 物騒な発言にファレノの目が大きく見開かれる。サンタクロースの格好をした小さな少年にリーダーは不敵な笑みを落とした。
 「安心しな、心中する気はねえよ。どさくさに紛れて逃げおおせようってことさ」 
 「あらそう? うまくいくといいわね」
 どこからともなく響いた女の声が少年たちの会話を遮る。その声に聞き覚えがあったのだろう、逃げ帰ってきた二人組がびくりと肩をすくませた。
 
 「あかく舞い、清き牙を剥け。邪なるものを芯より焼き尽くし、食い破り、白き花に変えよ!」

 力強い詠唱にステンドグラスの弾ける音が重なる。きらきらと舞い散る七色のガラスを従え、突然頭上に躍り出たのは――サラマンダー!
 「さあ、試してごらんなさい。炎の中から本当にうまく逃げ出せるのかどうか!」
 断罪のように降り注ぐ女声は冷たく、厳しい。姿が見えないことが余計に恐怖をあおり立てる。燃え盛る炎を纏った巨大な蜥蜴が怯える少年らをぎょろりと睥睨する。深紅のあぎとががばりと開くのと少年たちが恐慌状態に陥るのとはほとんど同時だった。
 暴君のごとき火蜥蜴が炎と悲鳴を生み出し、清らかな祈りを捧げるための礼拝堂は一瞬にして阿鼻叫喚の巷へと変ずる。ドラゴンのブレスのごとく吐き出される火炎に追われ、少年たちは足をもつれさせ、這いつくばり、並べられた椅子に体をぶつけながら懸命に脱出口を目指す。
 「……やり過ぎじゃねえのか」
 少年たちが集まっている聖マリアンヌ教会、その上空でホバリングするソリの中でレイドはやや渋い表情を浮かべる。
 「平気よ。少しはお灸を据えてやらないと。あの子たちの言い分はともかく、やってることは犯罪だもの」
 「そりゃそうだがな……」
 「大丈夫。あれは浄化の炎だから、まともなものに害はないわ」
 ちょっと脅かすだけよ、と苦笑してみせた香玖耶にクロードも小さく安堵の息をついたようだ。
 「成程な。そういうことなら俺も一肌脱ぐか」
 レイドはひょいとソリの縁を乗り越え、地上へと舞い降りた。
 「ちょっとレイドさん、何する気?」
 ソリから身を乗り出した香玖耶が慌てて叫ぶ。
 「ああ? 決まってんだろ、ちょっとお灸を据えてやるのさ」
 「あんまりひどいことはしないでよ!」
 「おまえが言うか、その台詞」
 レイドは軽く苦笑を浮かべ、オオカミへと姿を変えたヴェルガンダを従えて燃え盛る教会へと駆け出した。



 ごうごうと渦を巻いて迫る炎。ガシャーンという音とともに次々とガラスが割れていく。教会の横手に回り込んだレイドが石つぶてを投げているせいなのだが、もちろん少年たちはそれを知る由もない。これも不可解な魔法による現象と勘違いし、混乱に拍車がかかる。
 窓から脱出することはできないと悟った少年たちは礼拝堂の扉へと真っ直ぐに駆け出した。よろめき、けつまずきながら先頭の少年が扉に手をかけたその瞬間!
 「う……っ、わあっ!」
 扉を蹴破って突入してきた何ものかに襲撃され、先頭の少年はしたたかに尻もちをついた。少年を押し倒して獰猛に身を躍らせるのは漆黒のケルベロス。ぎろりと光る紅蓮の双眸は業火の色を映しているのか。荒々しい狩猟者に睨まれた少年たちは縮み上がり、凍りついたように動きを止める。
 「さあて、どうやって逃げおおせる?」
 ゆらり――と少年たちの背後で別の気配が揺らめいた。
 「おまえらが投石した教会の連中もおまえらみたいに怖がったんだろうなあ? おまえらが火をつけた教会もこんなふうに燃えたんだろうなあ?」
 くくく、と低く喉を鳴らすその長身の男が無造作に担いでいるのは――抜き身の剣。
 割れた窓から礼拝堂へと侵入したレイドは、片方だけ覗く目でぎろりと少年たちを睨めつける。
 「逃げられるもんなら逃げてみな。もっとも、俺とそのケルベロスを相手にする度胸があるならの話だが」
 ぶんと振るわれた幅広の刀身が凶暴な烈火の色をぎらりと反射し、少年たちに容赦なく突きつけられる。
 燃えるような赤い瞳に凍てつくような光を乗せ、レイドは唇の端を凶悪な形に持ち上げた。心配性だの苦労性だの人が好いだのと言われるレイドだが、少年らがそんなことを知っている筈がない。力なきエキストラは炎を背負って残忍に笑う悪魔のような男の前でただ怯え、震えるのみだ。
 「さあどうする? 猶予はそんなに残ってねえぞ。このまま焼け死ぬか? 俺の剣に斬り殺されるか? それともヴェルガンダに喰い殺されてえか? せめてもの情けだ、好きな死に方を選びな」
 前方には牙を剥く地獄の番犬。後方には剣を携えた眼帯のムービースター。
 年少の者らを背にかくまったリーダーは一歩も退かず、唇をきつく噛み締める。だが、彼にあるのは意地であって力ではない。決して逃げない代わりに、前に進むこともできやしないのだ。
 その中で――ただ一人、サンタクロースの格好をした子供だけがレイドの前に進み出た。
 「ぼくの……ぼくのせいです」
 「ああん? ぼそぼそ喋ってんじゃねえよ、聞こえねえぞ?」
 185cmのレイドは小柄な子供からすればまさに見上げんばかりの身の丈だろう。頭の上から落ちてくる乱暴な声に小柄なサンタは「ひっ」と身を縮ませる。
 それでも彼は突きつけられた切っ先の前から退かない。頭にかぶっていた赤い帽子を取って手に握り締め、がたがたと震えながら恐る恐る顔を上げた。
 「ぼくのせいなんです。みんなのせいじゃない。おねがい……おねがい、みんなを助けて!」
 「おまえ――」
 リーダー格の少年の目が見開かれる。彼の後ろに隠れていた少年たちも一斉に顔を見合わせた。
 ファレノを見下ろすレイドはひょいと眉を持ち上げたが――やがて、ニィと笑ってみせた。
 「だとよ。聞こえたか香玖耶?」
 レイドの呼びかけに応じるように、炎が、サラマンダーが、嘘のように忽然と掻き消える。
 後には所々焼け焦げを作った礼拝堂と、割れて砕け散ったガラスの破片と、ぽかんとした顔の少年たちが残された。



    ◇ ◇ ◇



 おかあさんサンタのマリアはからだがじょうぶではありませんでした。ふゆのさむさとクリスマスのじゅんびのつかれでねこむことがおおくなり、プレゼントをくばりにいくこともできなくなりました。
 そのとしの12月24日も、おかあさんはねつをだしてねこんでいました。いつもよりたかいねつで、おとうさんサンタはたいそうしんぱいそうにしていました。だけど、おかあさんサンタに「みんながプレゼントをまってるわよ」といわれて、おとうさんサンタはいつものようにプレゼントをくばりにでかけました。
 ファレノはなきました。おかあさんがこんなにくるしんでいるのにおとうさんはどうしてそばにいてあげないの、といってなきました。
 「おかあさんはね、おとうさんのああいうところにほれてけっこんしたのよ」
 おかあさんサンタはわらいました。
 ねつでくるしんでいるはずなのに、しあわせそうにわらってファレノのあたまをなでました。



 それがファレノとおかあさんサンタがさいごにかわしたことばでした。



   ◇ ◇ ◇



 ようやく息子を見つけ出した父親は手酷い歓迎を受けることになった。
 「おとうさんなんか大きらいだ!」
 騒動の張本人たる子供のサンタは父親の言葉になど耳を貸そうとしない。生真面目な父親は困り果ててどうにか言葉をかけようとするが、息子は泣きわめいて父親を拒むだけだ。
 「結局、親子喧嘩に巻き込まれたってことか?」
 「シッ。やめましょうよ、そんな言い方」
 「……と。そうだな」
 香玖耶に制され、ファレノの泣き顔を遠目に見やってレイドは口をつぐむ。
 
 ――妻のマリアは元々病弱でしてね。ある年のクリスマスに高熱を出して亡くなってしまったのです。――私がプレゼントを配りに出かけている間に。小さいファレノではお医者様を呼ぶこともできやしません。村の大人たちも皆プレゼント配りに出かけていましたから、あの子一人では本当にどうしようもなかった。
 それ以来、息子はクリスマスが大嫌いだと言うようになりました。妻が亡くなった翌年のクリスマスに『クリスマスなんかなくなっちゃえ』と吐き捨てて家を飛び出して……クリスマスを厭う人々と一緒に、教会を次々に打ち壊して回ったのです。

 レイドがヴェルガンダとともに燃え盛る教会に入っている間、クロードは香玖耶にそんなことを話して聞かせたという。
 「クロードがマリアを“殺した”ってのはそういう意味か」
 「ええ。それでも……あの子、礼拝堂のマリア像だけには手を出さなかったそうよ。お母さんと同じ名前の像にだけは……」
 サラマンダーが暴れた聖マリアンヌ教会の礼拝堂は所々すすけて黒くなっている。古ぼけたマリア像に歩み寄り、香玖耶は神子を抱く慈母を静かに見上げた。
 古い教会。忘れられた礼拝堂で肩を寄せ合い、感情を鋭利に研ぎ澄まして目をぎらつかせる子供たち。苦々しい既視感と軽い眩暈に襲われそうになって、地につけた足に慌てて力を込める。
 香玖耶たち孤児の群れが暮らしていたあの教会のマリア像には首がなかった。香玖耶達が住みつく前からそうだったのか、孤児の誰かが怒りと苛立ちをぶつけてそうなったのかは知らぬ。磔にされたイエスの像はひびだらけで、錆びた刃と矢が突き立てられていた。
 それでもイエスは無言で彼らを見下ろすだけだった。首のないマリアは我が子だけを腕に庇護し、行き場を失くした孤児たちをただ見守るのみだった。
 何の皮肉か、エルーカとなって長じたのちも香玖耶は神と関わりの深い人生を送ることになる。銀色の髪を持ち精霊を使役する香玖耶は人々から恐れられ、魔女狩りの標的にされたこともあった。そして、金髪緑眼のあの司祭が、いつか神の側に立つ者として『魔女』の自分を裁く日が来るのではないかと考えて塞ぎ込んだこともあった。
 「サンタクロースじゃなければ母親は死なずに済んだかも知れねえ。サンタが存在するのはクリスマスがあるから。神さえ生まれなければクリスマスは存在しなかった。クリスマスなんかなくなっちまえばいい、神なんかいなきゃ良かった……ってか」
 あまりに稚拙で偏狭な理屈だと笑い飛ばすこともできただろう。だがレイドはそうしようとはせず、ただ腕を組んで考え込むだけだ。
 「神なんてそんなもんだ。祈ろうが縋ろうが何もしちゃくれねえ。神が本当にいるならそのサンタの母親だって死ななかった筈さ。みんなに幸福を与えるのが本当の神なんだからな」
 口火を切ったリーダーの少年に続き、他の仲間たちも次々に鬱憤をぶちまける。
 「偉そうなことばっか言うくせによ! 祈りを捧げて飯が食えるかってんだ!」
 「神なんざ弱い人間が縋るために作り出した偶像だろうが! そんなもんに踊らされて恥ずかしくねえのかよ!」
 「神を信じてもいねえくせにクリスマスで浮かれる連中も大嫌いだ!」
 クリスマスを厭う負の感情がファレノによって増幅され、事件が起きたとクロードは言っていた。元々神に対して良い感情を抱いていなかった少年たちの心は、ファレノの力から解放された後も荒んだままということなのだろう。
 彼らから聞き出したところによれば、この聖マリアンヌ教会が属する宗教法人はかつて児童福祉施設を経営していたという。様々な事情を抱えて親元で暮らせなくなった子らを神の加護の下へという理念にのっとって運営されていたのだが、折からの不況のあおりを受けて呆気なく経営が破綻、庇護を失った子供たちはほうぼうの親戚や施設を容赦なくたらい回しにされた。日々神への感謝と祈りを忘れぬようにと教えられていた彼らが神というものに幻滅し、絶望し、神を罵るようになるまでにはそう時間はかからなかったそうだ。
 だが、口々に神を詰る少年たちの前で、レイドも香玖耶も口を閉ざしたままだ。
 レイドは存在そのものを忌み嫌われ、拒絶され続けて生きてきた。世界から疎まれ、迫害され、天使に殺されるために生まれてくるのが悪魔という存在だ。そんなレイドに対して神は冷たく、縋ることも祈ることも許さなかった。もっとも、敬虔な信仰心を持って神にすべてを捧げていれば何か変わっていたというわけでもなかろうが。
 (……じいさんやアイツらがいなけりゃ俺もこいつらと同じようになってたんだろうな)
 神の名とともに浮かぶのは神ではなく、大切な相手の顔だ。レイドがよりどころにすべきは居るとも居ないとも知れぬ神ではなく、現実に傍に居て、確かに支えてくれる、かけがえのない人たちだ。
 (だが……神がいなきゃ俺もアイツも生まれることはなかったのかも知れねえ。俺がじいさんと出会うこともなかった、ってか?)
 元居た世界でも神の存在ははっきり確かめられていなかったが、天使と悪魔を生んだのが神だという言い伝えが残っている。天使と悪魔は神から生まれた子供、兄弟のような存在であるのだと。
 もしそれが真実だとするなら、何とも皮肉な奇跡ではないか。神とは最も縁遠い存在である悪魔が、神によって生を享け、かけがえのない相手に巡り会うことができたなど。
 それでも――皮肉であろうと何であろうと、奇跡であることに変わりはない。
 「ねえ、ファレノ君」
 という香玖耶の声でレイドはふと我に返った。見れば香玖耶は泣きじゃくるファレノの傍にしゃがみ込み、そっと言葉をかけてやっている。
 「神を怨みたければ怨めばいいと思うの。神がいるかどうかなんて誰にも分からないことだもの」
 鼻と頬を真っ赤にしてしゃくり上げるファレノはおとなしく香玖耶の言葉を聞いている。
 だけどね、と香玖耶はさらりと首を傾けて言葉を継いだ。
 「神がいなければ……クリスマスがなければ、サンタクロースもファレノ君のお母さんも生まれてなかったかも知れない。お母さんが生まれなければファレノ君だって生まれて来なかったし、ファレノ君がお母さんと出会うこともなかったのよ。違う?」
 ぐすぐすと目をこするファレノの手が初めて止まり、薄汚れた指の向こうに真っ赤に腫れた幼い瞳が覗いた。
 「お母さんのこと大好きなんでしょ? だからこんな事件を起こしたのよね?」
 涙と土埃でどろどろになった頬を白い指が優しく拭い、アメジストのような瞳が幼いサンタの顔を静かに覗き込む。
 「だったら……お母さんの死を悲しんで自暴自棄になる気持ちも分かるけど、お母さんとの思い出を大事にして生きて行ったほうがいいんじゃないかな。お母さんと過ごして幸せだったよね?」
 「……うん」
 「お母さんと一緒で楽しかったよね?」
 「……うん」
 「ね? そういう思い出も、大切な相手と出会えたからこそのものなのよ。それに感謝して、大事にしなきゃ」
 その言葉はファレノのみに対して向けられたものではなかっただろう。少し離れて聞いている少年たちにも、レイドにも、そしてきっと香玖耶自身にも言い聞かせるための台詞であった筈である。
 幼いサンタは答えない。香玖耶の手の中で顔をくしゃくしゃに歪め、ぼろぼろと涙をこぼすだけだ。
 大きな父親の手が伸びて来て無言で息子を抱き上げる。ファレノはわあっと声を上げてクロードの胸に縋り付き、父もまた愛息の頭を幾度も幾度も撫でてやった。
 「おまえら、聞こえたか?」
 片手を腰に当てたレイドは少年たちを斜めに見やった。父親に抱かれて泣きじゃくる幼い子供の前で、荒んだ少年たちは複雑な表情を浮かべている。
 「香玖耶の言う通りだ。神なんざ信じたくなけりゃ信じなきゃいい。怨みたきゃ好きに怨め。だがな、おまえらにも大切なものくらいあるだろ? 例えばおまえらは全員友達だから一致団結して行動を起こしたんだろ、違うか? まあ、その行動自体は褒められたんじゃねえがな」
 友達、という言葉に少年たちはわずかに反応したようだ。だがばつが悪そうに視線を交わすだけでいらえはない。がりがりと頭を掻き、「柄じゃねえが」と前置きしてからレイドは続けた。
 「たった一つでも大切な想いがあるんならそれを大事にしろ。百の不幸を嘆くより、得ることが出来たひとつの幸せに目を向けて感謝するんだな。どうせ生きるならそのほうがいいぜ。不幸なことをいちいち数え上げてちゃキリがねえ」
 もしこの場に恩師がいたらレイドの変化をきっと心から喜んでくれただろう。かつてのレイドはこんな物言いができるような男ではなかった。
 そして、レイドを変えてくれたのは――レイドに多くのものを与えてくれたのは、紛れもなくあの天使だ。
 (出会えた天使がアイツで良かった)
 心からそう思い、レイドは唇の端にそっと笑みを乗せた。



 「名演技だったわね」
 「あ?」
 「ほら、教会の中であの子たちに迫った時。意外にはまり役だったんじゃない?」
 「ああ……ありゃあ脅しのためだ」
 「それはそうだけど。あの天使の子には見せられないわね、あんな怖いところ」
 レイドは唇をへの字に曲げた。その表情がおかしくて香玖耶はまたくすくすと笑う。
 クロードはファレノをソリに乗せて立ち去った。律儀なクロードは香玖耶とレイドを自宅まで送ると言ったのだが、親子水入らずでイブの空中散歩を楽しめば良いと二人が辞退したのだ。
 少年たちは対策課に引き渡された。放火も投石も立派な犯罪だが、それがムービースターの能力によって引き起こされたとなれば話はやや複雑になる。その辺りの判断は専門の機関が下すことになるだろう。
 「エキストラの子ばかりが影響を受けたのはどうしてだったのかしら」
 「さてね。あいつらの言う通り“浮かれた連中とは違うから”とは思いたくねえが……ま、あの教会の系列の福祉施設に入ってたのがたまたまエキストラの子供ばかりだったってだけなんじゃねえのか」
 真相は藪の中だと肩をすくめてみせるレイドに香玖耶も浅く肯いた。
 「所で、ちゃんと買った? あの子へのクリスマスプレゼント」
 「ん。いくつかはもう用意してあるんだが」
 手に提げた複数のギフトバッグを示してレイドは苦笑した。「肝心のアイツに渡す分がまだ……ああ、そうだ。おまえにもあるんだ」
 「え?」
 「だから、香玖耶へのクリスマスプレゼント。あー……あったあった、これだ」
 複数の紙袋を覗き込んだレイドはその中から小さなギフトバッグを選んで差し出した。香玖耶は激しく眼を瞬かせてレイドと紙袋を見比べる。
 「え……プレゼント? 私に?」
 「いらねえなら無理強いはしねえがな……」
 「あ、違うの、そういう意味じゃないのよ。ありがとう」
 意外だったからびっくりしただけだと慌てて説明して香玖耶は包みを受け取った。
 一言断って開封すると、中から出て来たのはリボンがかけられた小さな箱。アクセサリーのようだ。片手に乗る大きさのその箱に入っていたのは――小さな小さなピンキーリング。
 「レイドさん、これ」
 弾かれたように顔を上げると、レイドは目をぱちくりさせて「ん?」と応じた。
 「何だ? お気に召さなかったか?」
 「ううん、とっても綺麗。だけどこの色、どうして……」
 次々と溢れ出る感情が喉を塞ぎ、言葉を紡ぐことができない。
 小指にはまるサイズの小さな指輪の地金は豊かな稔りのような金。はめ込まれた石は――若葉のような緑色のエメラルド。
 魔女とみなされた香玖耶を庇い、香玖耶の目の前で命を落としたあの司祭と同じ色合いだ。
 「この間、たまたまジャーナルでハロウィンの記事を見かけてな。おまえ、ハロウィンのパーティーに行ったんだって? あの盗賊団の」
 「え、ええ。確かに行ったけど」
 「その時に緑色の火が入ったジャック・オ・ランタンを持ち帰ったって書いてあったから、緑が好きなのかと思ってそいつにしたんだが……」
 いけなかったかと怪訝そうに問うレイドに、香玖耶は緩やかにかぶりを振って応じるのが精いっぱいだ。
 「綺麗。とっても……綺麗」
 そして、ようやくその言葉だけを押し出し、とびきりの微笑を添えた。
 「ありがとう、レイドさん。大事に使わせてもらうわ」
 「ん、ああ。気に入ってくれたんなら何よりだ」
 きっと――かつての香玖耶なら、彼と同じ色彩の前でこんなふうに笑うことなどできなかっただろう。彼の髪や目と同じ色をしたものを見、彼に関する事物に触れる度に、錆びた刃で心臓を抉られるような痛みに衝き上げられて慟哭していたかも知れない。
 彼の最期が凄烈すぎて、それまでに積み重ねてきた筈の穏やかな時間までもがすべて消し飛んでしまっていた。だがあの日の黄昏、不思議な観光電鉄に乗った香玖耶は、心の奥の奥にうずめてしまっていた一番大切な記憶を思い出すことができた。
 悲しみが消えることはないけれど、彼と過ごした優しい日々の記憶もまた消えることはない。だから背負うのではなく抱き締めたい。この鈍い痛みも彼がくれた暖かい思い出も大切に胸に抱いて歩いて行こうと今は思える。
 (シヴ……見て。あなたと同じ色)
 彼の愛称を口の中でそっと転がし、小さなリングを小指にはめてみる。かつてはこんなふうに名前を声に出すこともできなかった。
 「お。ちょうどいいみたいだな、サイズ」
 小指にぴったりはまった指輪を見てとったレイドが安堵したように笑った。緩やかに笑みを返す香玖耶の小指で、愛しい人と同じ色のリングが静かな輝きを放っている。
 神が真に存在するかどうかなど些細なこと。神などよりももっとずっと貴い相手が香玖耶にはいる。その相手との出会いをくれたのが神だとしても、香玖耶の祈りは神ではなく、聖なる大切な者へと捧げられる。
 金色の髪に緑色の目を持つ彼がこの街に実体化していることを香玖耶はまだ知らないけれど。



 香玖耶と別れたレイドは尚も市街地をうろつき、ああでもないこうでもないと散々迷った末、天使の少女に渡すプレゼントをようやく買い求めることができた。
 (喜んでくれるかね?)
 複数のプレゼントの包みと一緒に抱えるのは真っ赤なサンタクロースのブーツである。サンタ靴の入れ物にカラフルなお菓子が詰め込まれている、定番のあの品だ。それほど高価な品ではないが、甘い物が大好きな彼女は喜んでくれるだろう。もっとも、彼女は大切な相手からもらったプレゼントならどんな物でも心から喜ぶのだろうが。
 ケーキの箱やプレゼントの包みを抱えて家路を急ぐ人々に紛れて通りを歩く。気が付けば日はとっぷりと暮れ、大通りは華やかなイルミネーションに染め上げられていた。
 ショッピング街の一角にある広場でレイドはふと足を止める。
 そこに聳え立っていたのは大きなもみの木だった。硬質な葉は冬の寒さの中でも深い緑色を保ち、てっぺんに大きな星を戴いて誇らしげに繁っている。可愛らしいオーナメントやカラフルな電飾で贅沢に彩られたクリスマスツリーは、まるで幸福の象徴であるかのように燦然と輝いているのだった。

 ――……また見たいね、一緒に。
 ……ああ。

 去年のクリスマス、イルミネーションやきらめくツリーを一緒に見ながらそんな会話を交わした。彼女が何ひとつ哀しむことなく常に幸いであり続けられるようにと祈ったのも去年のクリスマスだった。
 レイドも香玖耶と同じだ。レイドの祈りは神ではなく、たくさんのものを与えてくれた、何よりも大切なあの少女に向けられる。
 (もし神サマとやらがいるんなら、今日くらいは感謝してやってもいい……か)
 敬虔なクリスチャンが聞いたら眉を顰めそうな不遜なことを内心で呟く。もっとも、もし声高に非難されたとしてもレイドがそれを気に留めることはないだろう。
 サンタクロースの靴を軽やかに抱え直してレイドは家路を急ぐ。



 神の存在や信仰心などこの際重要なファクターではない。クリスマスは幸せに、楽しく過ごすためのものだ。
 イブの夜は始まったばかり。さあ、十人十色にきらめく時間が待っている。



 (了)

クリエイターコメント果たして公開はイブに間に合うのか…!?

ご指名ありがとうございます、宮本ぽちでございます。
イブに間に合わせたいとごりごり作業した本作、滑り込みでお届けいたします。

対策課依頼のシナリオのような雰囲気になりましたが、実はクリスマス向けシナリオの題材としてストックしておいたネタをアレンジしたものでして。
当該シナリオの運営はスケジュールと本家イベントの関係で断念いたしましたので、このネタはお二人に差し上げます。受け取ってやってくださいませ。

『香玖耶様にプレゼントを渡す』はレイド様のPL様からのご指示ですが、お品は宮本チョイスです。
出演作品を漁りつつ選ばせていただきました。過去のシナリオやプラノベと少しリンクさせた、つもり、です。

レイド様がかなり柄の悪い雰囲気になってしまったシーンがありますが、あれはあくまで「彼らにお灸を据えるため」だと思っていただければ幸いです(汗)。
素敵なオファーをありがとうございました。良いクリスマスを!
公開日時2008-12-24(水) 02:00
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