★ 皆のヒミツ ★
クリエイター紅花オイル(wasw1541)
管理番号422-6875 オファー日2009-03-08(日) 19:29
オファーPC 小暮 八雲(ctfb5731) ムービースター 男 27歳 殺し屋
ゲストPC1 レイド(cafu8089) ムービースター 男 35歳 悪魔
ゲストPC2 ルシファ(cuhh9000) ムービースター 女 16歳 天使
ゲストPC3 音無 終世(cdyh3511) ムービースター 女 26歳 殺し屋
ゲストPC4 ジャンク・リロッド(cyyu2244) ムービースター 男 37歳 殺し屋
ゲストPC5 薄野 鎮(ccan6559) ムービーファン 男 21歳 大学生
<ノベル>

「夢を見ていたの、八雲?」
 心地よさと共に浮上した意識に、八雲は小さく吐息を漏らした。
 額に汗をかいている。体が鉛のように重い。
 よく覚えてはいないが、それはあまり良い夢ではなかったらしい。
 目覚めた事に安堵して、八雲は肩の力を抜いた。
「悪い夢はたくさんの人に教えなさい。そうすれば正夢にはならないから」
 自分を優しく撫でる手が、諭すかのように教えてくれる。
「逆に良い夢は自分の心の中で大切にしまっておくの。そうすればいつかその夢は叶うから」
 この人がそう言うのなら、きっとそうなんだろう。
 うつ伏せで膝枕なんてそんな無防備な体勢も、この人になら安心して己の急所を晒す事が出来る。
 髪をすくように撫でられる柔らかい手の心地よさに、八雲は満ち足りて薄く両目を細めた。
「花嫁さんは幸せにならなくちゃね」
「……え?」
 リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン。教会の鐘の音が鳴る。
 突然発せられた『花嫁』の単語に、ガバリと八雲は上体を起こした。
 まるで雪のように、頭上から舞い落ちるのは無数の花びら。周囲は一面の花畑。遠くに見えるのは丘の上の教会。
「……え、ええ?」
 純白のベールとレースが自分を包んでいた。
 鎖骨が見える程大きく開いた襟ぐりの左右には、大きく膨らんだ肩の袖。ドレスの裾は長く花々の間に埋もれている。
 八雲が今身に纏っているのは、紛れもないウェディングドレスで。
「えええ?」
「おめでとう、八雲」
 目の前で微笑むその人は――……。
 師匠? 鎮さん? それとも、あまり縁のなかった、オレノハハオ…ヤ……?
 リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン。青空の下響き渡る幸せの音色。
「ええええええーッ!?」
 大切な人に見守られ、本日八雲、お嫁にいきますっ。


「――――って、うおぉいッ!」
 当たり前ですが、夢でした。

 全身を襲う倦怠感と大量の汗に、小暮 八雲 (コグレ ヤクモ)はソファの上跳ね起き大きく息をついた。
「なんつー夢だよ……」
 今までにない最悪の目覚めに額を拭いながら脱力する。
 どうやら居間でテレビを見ながら転寝をしてしまったようだ。
 画面では、若いタレント達がはしゃぎながら今流行の婚活と夢のウェディングプランを紹介している。
 諸悪の根源を腹立ち紛れにリモコンで消しながら、八雲はそれまでひっきりなしに鳴り続けていたその音にようやく気が付いた。
「……ったくよ」
 半分は、この教会の鐘の音にも似たチャイムにも原因はあったらしい。
「煩せぇ、聞こえてるってぇの! そう何度もガスガス打ち鳴らすな!」
 玄関を開けるなり八雲は来客者に向け怒鳴り散らした。
 家主不在の留守を預かる今、いくら八雲とて普段からそんな粗雑な応対をしている訳ではない。
 苛立ちに任せそう怒鳴ったのは、気配で誰であるか予め分かっていた為である。
「遅いってーの」
「はぁ? 時間通りだろ?」
 この時薄野家を尋ねて来たレイドは、殺気まがいの威圧感を纏い不機嫌全開で出迎える八雲に対し、気圧される事もなくただ眉を寄せただけだった。
「さっさとお前が来ないから、いやそもそもお前がやたらとチャイム押しまくるから! ああクソッ!」
「いいから退け」
 勝手知ったる他人の家。よくここには相棒を伴い遊びにくるレイドは会ってそうそう何やら訳の分からぬ事を喚く八雲の横をすり抜け、慣れたように家の中上がりこんだ。
「ああクソッ、何だってあんな夢……ッ」
「あ、なんだって? どんな夢を見たってんだ?」
「……いや」
 レイドに振られ、八雲は咄嗟に口籠った。
 かの人はこう言った。
『悪い夢は人に言いなさい。良い夢は誰にも言ってはいけない』と。
 師匠のような家主のようなよく分からないその人物の言葉は、夢の中とはいえ八雲にとっては何故か従わねばならないような絶対的な力を持っていた。が、
「なんでもねぇ……」
 この時ばかりは躊躇われた。
 だって自分がウェディングドレスを着て嫁に行くような最悪な夢だ。
 口にするのも馬鹿馬鹿しくて、不吉過ぎてやってられない。
「それよりも、よ。ちゃんと持ってきたんだろうな?」
 八雲よりやや強引に話を向けられ、日々心労が耐えない苦労性の同志の心中を憂いつつもレイドは気にせずそれに乗ることにした。
「ああ、もちろん」
 ニヤリと口の端に、年の割には幼い少年のような笑みを浮かべるレイド。
 何しろ、これから行われるのは八雲と二人、とっておきの楽しい宴会だ。
 居間のローテーブルの上、ドンと置かれたのは琥珀色の液体をたっぷり湛えた2本のボトルである。
「うお、マッカランの25年物!」
「そしてこっちがバランタインの30年」
 滅多にお目に掛かれない高級酒。どうしたんだこれ、と瞳を輝かす八雲にレイドは得意げに胸を逸らした。
「この間受けた依頼のムービーハザードでちょーっとなー」
 どうせいずれは消えるハザード、と街中で出現したその屋敷の中からどうやら失敬してきたらしい。
 さっきまでの夢見の悪さはどこ吹く風、上機嫌で八雲はグラスと氷の用意を始める。
「家、静かだな。他の連中もいないのか」
「依頼だとか用事だとかでそれぞれ出てる。鎮さんも、大学の学会の手伝いで泊まりになりそうとか言っていたな……」
「って事は。もちろん朝まで、だろ?」
「当ッたり前よ。その為にお前を呼んだんだからよ」
 互いに顔を見合わせて、その笑みを深くする。
「さあ、さっさと始めようぜ。誰か帰ってきても面倒だ。こんないい酒、他の奴に飲ますのは勿体ねぇ。俺達で空けちまおう。独り占めならぬ、二人占めってな!」
「ははは、殺し屋さんも悪よのう」
「いえいえ、酒くすねてくるような悪魔さんには敵いませんて」
 こうして、苦労性組の殺し屋と悪魔の飲み会は始まった。


 鬼の居ぬ間になんとやら。
 いい年した大人の男二人、渋く語り合い酒を飲み交わすかと思いきや、その宴は開始10分で互いに日々の苦労話&愚痴吐き合戦となり、30分後には――……
「俺、ルシファが嫁に行ったら泣くかもしれん」
 発言とは裏腹、出来上がったレイドがハンカチ片手に泣いていた。
「既に泣いてるじゃねぇか」
 八雲のツッコミにどこか険があるは、『嫁』の単語に先ほどの夢をウッカリ思い出してしまったからである。
 うまい酒が不味くなる、と乱暴に八雲はグラスをあおる。
 そんな八雲の様子に、酔いがちょうどいい感じで回っているレイドが気付く筈もない。
「――ハッ! いかん! こうしている間にも、ルシファに悪い虫がついているかもしれん!!」
 本日は友達と遊びに行っているルシファへの悪い想像と妄想が爆発したレイドは、突如立ち上がると使い魔の召喚を始めた。
「ヴェルガンダ、ルシファの危機だ! 様子を見に行ってくれ。頼む」
 召喚されたケルベロスは街中に合わせ、子犬ほどの大きさだった。
 基本的に使い魔は主人との契約の元動く存在。魔物の声は、主であるレイド以外には聞こえない。
 レイドと使い魔の間で成り立っている会話も、傍から見れば子犬に真剣に話しかける危ないオッサン以外の何物でもない。
「……阿呆か」
 深いため息と共に毒づいた八雲は、いい機会だからとレイドのこの天使に対する過保護を超えた執着ぶりに意見した。
「お前さ、いい加減ルシファ離れとか、出来ねぇのか。本当にあの嬢ちゃんに好きな相手が出来た時可愛そうなのは……って、うわっ!!」
「不吉な事を言うな。言霊になって本当になったらどうする」
「ナチュラルに目がビームを出すな、この野郎ッ!」
「……なんだ、八雲。さてはお前ルシファを狙う一人か」
「なんでそうなる。んな訳ねぇだろ」
「お前は俺の敵か」
「コラ、待て、止めろ! 眼帯外すな馬鹿野郎ッ!!」
 一方的な酔っ払いの喧嘩が一触即発になった、その時。
「だーれだ」
「え?」
 突然、レイドの首の左右から刃物が生えた。
 首筋にシミターをハサミのようにクロスして当て、後ろから耳元に楽しげに吐息を落とすその男は、確かに直前までそこには居なかった。
 居なかった、筈なのに。
「てめ、ジャン……!?」
 そして。
「腑抜けたな、八雲」
「―――ッ!」
 ゴッ、と。八雲の後頭部鈍い音がした。
 背後から伝わる感触は、馴染みの銃口の冷たさ。
 それ以上に膨れ上がる、殺気と怒気に八雲は背筋を寒くする。
「―――し、師匠!?」
「こうも簡単に後ろを取られるとは……。酒が入っているとはいえ、この体たらく。全く嘆かわしい」
 左右に頭を振った弾みで、後ろで結わかれた黒髪が肩からこぼれた。
 突然2人の背後に現れたのは、レイドとは腐れ縁であるジャンク・リロッドと、八雲の師匠 音無 終世 (オトナシ ツイゼ)だった。
 奇しくも2人は殺し屋である。
 レイドにとっても、八雲にとってもどちらも馴染みの深い人物であるが、しかしこの2人互いに知己はなかった筈。
「どうして、2人が……?」
 大人しく両手を挙げ降参の態を示しながら、八雲は恐る恐る背後の終世を窺った。
「家の前でな、会った」
 弟子と同様実体化後は薄野家で世話になっている終世は、銃を下ろしながら両目を細めた。
 見据える先は、吼えるレイドに緩んだ笑み返しながら獲物のシミターを音も無く空で消すジャンの姿だ。
 終世の視線を受け、ジャンは僅かに笑みを抑えると、子供っぽいしぐさで小首を傾げた。
「俺は何だか甘い物が食べたくなってー。鎮ん家にくればプリンあるかなぁ、なければ八雲に買ってきてもらおーと思って来たんだけど……」
 殺し屋達は、対した瞬間互いの力量を察したらしい。
 間にレイドと八雲を挟んでも、その瞳に隙が生じる事は無い。
「なんで俺が買ってこなくちゃいけねぇんだよ」
「んーそれよりも、随分良いもの飲んでるね」
 にこやかに発せられたジャンの言葉に、ドキリと心臓が軋む。
 語調はのんびりしているのに、何故か非難されているような気するのは恐らく気のせいでは無い筈だ。
「うん、これはいい酒だ。八雲には勿体無い」
「師匠!」
 簡単に弟子からグラスを奪うと、中身をひと舐め終世は正座の八雲を見下ろした。
「皆の留守をいい事に、2人でこそこそと」
「え、いや、あの」
「どーして誘ってくれないかなー。お酒は皆で楽しく飲むものなのに」
「違、や、そーゆー訳じゃ」
「八雲。グラス」
「はいぃぃっ!」
「なぁに、その嫌そうな顔―。別にいーんだよ? ガレージ行って皆呼んできても」
「……てめっ、この腹黒魔神っ」
「あはは、悪魔さんに言われるなんて光栄だねー」
 こうして八雲とレイドのとっておきの酒で飲み明かす計画は、殺し屋達との宴会に突入した。


「あれ、随分楽しそうな集まりだね」
「あー、レイドにやっくんにジャンさんに終世さんもー! 皆で何飲んでるの?」
 学会の手伝いが思ったよりも早く終わり帰宅した薄野 鎮 (ススキノ マモル)は、自宅のリビングの面々に笑みをこぼした。
 帰る途中、偶然会ったルシファを「家で夕食でもどう?」と誘い一緒に帰ってきたのだが、彼女の保護者であるレイドが家に来ているとは思わず、ちょうどよかったと鎮は笑みを深くする。
「あ、鎮さん。お帰りなさい」
「お帰り」
 同居人達に笑顔で迎えられ、微笑を返しながら鎮は鞄を置くと、座る事なくその足で台所に向かった。
 手早くルシファと自分の夕食用にオムライスとサラダを作る。
 飲んでいる大人達にはツマミの方がいいだろうと、用意するのはナッツにジャーキー、ドライフルーツを刻みクリームチーズに混ぜた簡単なサラダ。
 トレイに乗せリビングに戻れば、レイドとルシファはお酒を巡り攻防戦の真っ最中だった。
「コラ、駄目だって言ってんだろルシファ!」
「えー、だってキラキラしててとても綺麗だし。すっごくいい香りだよ?」
「とにかく、これは大人が飲むものだから駄目だっ!」
「そんな事言って、レイドってば美味しいから独り占めしようとしてるんでしょ。ズルイー」
 幼い子供のようにぷうっと大きく頬を膨らますルシファと、あまりにも必死なレイドの焦った様子に、鎮は笑いを口の中でかみ殺しながら助け舟を出した。
「ホラ、ルシファさん。ご飯出来たよ」
「ふえ? あ、オムライスだぁー。うわーい、まもちゃんありがとう。美味しそう〜。いっただきまーす」
「どういたしまして。召し上がれ」
 きちんと両手を重ねお辞儀するルシファに合わせ頭を下げると、鎮も一緒にスプーンを取る。
 オムライスの上、トマトケチャップでハートを描く事に夢中なルシファの様子に、レイドはホッと胸を撫で下ろした。
 食事中聞こえてくるのは、殺し屋達の物騒な自分の殺しの美学トークだ。
 あんまり食べている時聞いていて楽しい話題じゃないなぁ、と苦笑する鎮の元に、新しいウィスキーグラスを持った八雲がやって来た。
「スミマセン、鎮さん。鎮さんも飲みますよね?」
「うん、ありがとう。でもどうして八雲さんが謝るの?」
「え? いや…その……」
 歯切れの悪い八雲の態度に、ピンと来た鎮は少し意地悪そうに両目を細める。
「分かった。ホントはレイドさんと2人、お酒楽しもうと思ってたんでしょう。僕今日帰れないかも、って言っていたしね。で、終世さん達に見つかっちゃって、後ろめたいんだ。違う?」
「……! もうっ、本当に鎮さんには敵わないなぁ……」
「あはは、当たりだ」
 バツ悪そうに首を竦め頭をかく八雲の様子に声を上げ笑っていた鎮だったが、ふとある事を思いつき笑い収めるとその声を改めた。
「じゃあね。そんなに悪いと思ってるんなら……、ひとつ八雲さんにお願いしちゃおっかな」
「え?」
 顔を上げ、鎮の顔に浮かぶその笑みに、八雲は顔を青くする。
(これは、鎮さんが何か企んでいる時の顔だ! 鎮さん的に面白くて、俺的には災難が降りかかる、そんな恐ろしい事が起こる前兆の笑みだ……っ!)
「おい、レイド! 逃げ……、ヒイィ!!」
 同志の危機まで察し、慌てて腰を上げたがその時にはもう遅かった。
 殺し屋談義に夢中になっていた筈の、ジャンと終世が揃って八雲とレイドの腕や肩を掴んでいる。
「な、なんだ?」
 一人状況が飲み込めず、目を丸くするレイド。
 彼が悲鳴を上げるのは、この数分後の事である。
「何々? 何が始まるの、まもちゃん?」
 ルシファの無邪気な問いかけに、
「うん。飲み会には、余興が付き物だから、ねぇ?」
 鎮は楽しげに肩を揺らした。


「じゃーん、雲雀さんとレイ子さんの登場でーす」
 明るい声でリビングに戻ってきた鎮を先頭に、その後に続く2人の生きる屍の様を見るなり、ジャンと終世は腹を抱えて爆笑した。
「うわぁ! ウサギさんにネコさんだ! カワイイ〜」
 1人、ルシファだけが穢れない瞳を輝かせ、違う方向に喜んでいる。
「うん。我ながらメイクも完璧。『楽園』で色々教えてもらって良かった」
 先日のホワイトデーの際行われた白薔薇の宴で、森の娘達より女装『させる』テクニックを学んできたらしい鎮は自分の『作品』に大満足の様子だ。
 さて、本日のラインナップをご紹介いたします。
 エントリーNO.1 雲雀さん。
「ま、鎮さん、これは、ちょっと…前ら辺がシャレに…なっていないっていうか……。あ、止めて、師匠、お願い、俺を見ないでくださいいいいぃぃぃ……ッ!!!」
 頭部を覆うのはピンと伸びた黒いファーの耳。
 殺し屋として鍛え上げられたその肢体を、艶やかで光沢のある黒ナイロンのレオタードが包み込む。
 首元と手首にはお約束の蝶タイとカフス。
 当然、剥き出しの足は黒の編みタイツである。
 羞恥に揺れるヒップには、愛らしい白の丸いホワホワ尻尾。
 鎮のせめての良心か、唯一の未成年者であるルシファへの配慮か。視覚的破壊力抜群のハイレグ下半身部分には、腰下タイプの白いフリル付エプロンが控えめに秘密の花園を守っていた。
 八雲、否今の名は、源氏名『雲雀』。バニーガール仕様である。
 続きまして、エントリーNO.2 レイ子さん。
「うん、そう、ネコさんだぞ、ルシファー。……ああ、なんで、俺が、こんな目に…ただ楽しく酒を飲みに来た筈だったのに……楽しく…楽し……フフフ、ハハハ、アハハハハハハハハハ……!」
 現実逃避か早々に理性を手放し壊れた高笑いを上げるレイド、否源氏名『レイ子』は、雲雀のバニーガールに対し、キャットガールであった。
 頭にはふんわり白に内側がピンクのネコ耳カチューシャ。
 耳に合わせ、ピンクのレオタードの後ろの尻尾は当然白の長いネコ尻尾で、逞しい網タイツの足の後ろでユラユラ左右に揺れている。
 バニーと違うのは、この衣装がチアガール仕様という点だろうか。
 腰から下は白のヒラヒラプリーツスカートである。それでもひざ上15センチとミニで太もも丸出しには違いなかったが、前面の特に下半身部分は揺れる布地の下守られており、一見こちらの目に優しい感じになっていた。
 2人とも、鎮の手によって、綺麗に化粧が施されている。
 どこの店に出ても恥ずかしくない、完璧な出来栄えであったが、如何せん27歳と35歳の壮年男性。
 その迫力と破壊力は抜群であった。
「……ああ、腹が痛い。ハハハッ、まさかお前のそんな姿が見られるとはな。実体化して良かった」
「し、師匠〜〜〜」
「なんだ八雲、その情けないヘッピリ腰は。ホラ、こっちへ来て酒を作れ。その為の格好だろう、それは」
「ううう……。ハイ」
 師匠の命は絶対である。八雲は恥ずかしさを押し殺し、終世の指示に従う。
「し、失礼します……」
 終世の横、オドオドと膝を付きグラスを貰い受ける姿は、まさにその手の店のホールレディその物であったが、そこまで気の回らない八雲は早く役目を果たし逃げたいが為、グラスに酒と氷入れ給仕を行う。
 カチャカチャと慣れない手つきでマドラーを動かしていた八雲は、突然股間を襲った衝撃と師匠の仕打ちに悲鳴を上げた。
「ギャッ! ちょ、師匠ッ!!」
「何だこの平らなシリは。気合でもっと色気を出せ、八雲」
「ギャー、止めてくださいッ。尻尾わし掴みで上に持ち上げないで! 食い込むッ、色々ヤバイですってッ、マジでッ!!」
 レイドはレイドで、ジャンのセクハラ紛いの嫌がらせと、ルシファのキラキラ輝く視線にやられていた。
「レイ子さーん、俺プリン食べたいなー」
「さっきお前鎮ん家のストック食べたばっかりじゃないか。もう無いぞ、いい加減にしろ」
「えーだって、1日に3個は食べないとさぁ、俺エネルギー不足で止まっちゃうからー」
「ふええ! ジャンさん、止まっちゃうの!? 大変だよ、レイド!!」
「ルシファ…騙されるな……」
「あはは、そうそうおじさん止まっちゃうんだー。だーかーらー、買ってきて」
「断るッ」
「買ってきてあげてよ、レイド!!」
「だから、頼む騙されるなルシファ!!」
 その後、鎮の指示により、記念撮影と称した羞恥プレイを科せられた雲雀とレイ子の2人は、部屋の隅でさめざめと泣いていた。
「ううう、もうお婿にいけない」
「やだな、大丈夫だよ八雲さん」
 諸悪の根源が明るくそう八雲の肩を叩く。
 その笑顔には、悪気も根拠も何も無い。
「え? じゃあ、鎮さんが貰ってくれますか?」
 潤んだ瞳で顔を上げる八雲は、先ほどの師匠への接待で散々返杯させられ、半分酔っ払っている。
「何で僕が。僕も八雲さんも男でしょう? 女性なら、終世さんかルシファちゃんがいるじゃない」
 軽い冗談で提示された二択。
 師匠と、なんて想像するだけでそら恐ろしくて、顔を背けた拍子に目が合ったのはもう一方のルシファだった。
 話を聞いていたのか、ルシファが花咲くような愛らしい笑みで、特定の1人にとっての爆弾を無邪気に投下する。
「やっくんがお婿さん? そしたら皆で一緒に暮らせて、毎日楽しいねぇ」
 ビキッと空気が割れた。
「やああぁぁーくうううぅぅーもおおおぉぉぉー」
 ゴゴゴゴゴゴ、と周囲を振動させながら、レイドが黒いオーラを発している。
 このレイドも、先ほどジャンに散々返杯させられ、いい感じで酔っ払っていた。
「馬鹿、コラ、ヤバイって! 黒いのなんか出てるって……!!」
「はーい、ここは危ないからルシファちゃんはおじさんとあっち行こっかー」
「八雲、物だけは壊すなよ」
「え、ちょっと、皆して何処行くの、コレ一緒に止めてって……」
「あ、ヴェルちゃんお出かけしてたの? お帰りー」
「レイドさんの使い魔? なんか普通に頭3つになってるけど…まあいっか。台所いこっか。ケーキあるよ」
「わーい、ケーキケーキ」
「俺はプリンの方がいいなー」
「マジで、皆、待って、行かないでって…ギャアアァァァーッ!」
 皆で和やかにリビングを後にするその背後で、湧き上がるドス黒いオーラと共にバニーガールの断末魔が響き渡った。


「本当は八雲さんにはウェディングドレス着てほしかったんだけどなぁ」
 台所のダイニングテーブルに落ち着き、3人にケーキを切り分けコーヒーを入れながら、鎮は小さくため息をついた。
「ウェディングドレス? 何でまた」
 コーヒーの香りを楽しみながら、終世が愉快そうに鎮に尋ねる。
 自分と同じ顔の彼女にそう聞かれ、鎮は笑いながら答えた。
「夢を見たんだよね。僕と八雲さん2人で色々楽しい格好をする夢。フリフリのゴスロリとかメイドとか、今日のバニーガールとか。その中でウェディングドレスも出てきたんだけど……」
 一瞬鎮が浮かべた笑みは、愉悦の中に黒さが混じっていた。
「それを着た時の八雲さんのうろたえぶりが一番面白かった」
 クスクスと肩を揺らしながら鎮は笑った。
「でもね、ウェディングドレスってそうそう用意出来るものじゃないでしょう? だから今回はバニーガールで我慢したって訳」
 憂いげにつくため息の内容は当人にとってはとんでもない物だったが、鎮本人にしては至極真剣だった。
 楽しむ時は、手を抜かず真剣に楽しむ。それが鎮のポリシーだ。
「ああ、それなら」
 鎮が買ってきたプリンケーキのプリン部分だけ、上機嫌で頬張っていたジャンが明るい声を上げた。
「ドジっ子ちゃんそーゆー欲しい物出したりするの得意じゃない。今度頼んでおいてあげるよ、ドレス」
 ジャンの住まうガレージの、同居人のムービースターは鎮の友人でもある。
 彼女のとても便利な能力に、そっか、と嬉しそうに鎮も声を上げた。
「鎮、いい事を教えてやろう」
 終世がテーブルに肩肘を付きながら、薄く笑みを浮かべる。
「悪い夢はたくさんの人に教えろ。そうすれば正夢にはならない。反対に良い夢は自分の心の中で大切にしまっておけ。そうすればいつかその夢は叶うから」
 ニヤリと口元を歪める終世に、鎮も同じ笑みを返す。
「フリフリのドレスはこの間叶ったね!」
 ルシファが言ったのは先日皆で行った楽しかった『楽園』の思い出だ。
「で、今日はバニーガール」
 自分の空間から取り出したスプーンを振りながら、ジャンが付け加える。
「あはは、本当だ。叶っちゃったね」
 笑う鎮に、終世が笑みを重ねた。
「楽しい夢は、自分の力で叶えろ、鎮」
 それならば、鎮のウェディングドレスを八雲に着せる夢も、いつかきっと叶うだろう。
「夢かー。夢ならそういえば、この間屋根の上で昼寝してたら楽しい夢、見たよ。レイドと八雲、弟子1号君や弟子2号君達も一緒に、可愛いメイドさん姿でおじさんにプリン作ってくれるんだー」
「わー、プリンプリン!」
 いいな、私も食べたいとはしゃぐルシファは自分の見た、現実になって欲しい楽しい夢を語る。
「私はね、私はね。皆で遊園地行ったの! お揃いのウサギさんの耳付き帽子とマントとステッキ持って! 楽しかったの」
 鎮と終世が同時に頭に思い浮かべたのは、ファンシーなグッズを身にまとう八雲の姿だ。
 あの年で、あの外見で、それはさぞ見物だろう、と同時に噴出す。
「私は……」
 皆より視線を向けられ、記憶を探るように言葉を切った終世は、彼女にしては珍しく一瞬柔らかい笑みを浮かべた。
「懐かしい夢だ。昔、八雲が厳しさの余り修行を逃げ出した時の夢だった。アイツがまだ10代の、アイツの弟子達よりも幼い、出会って間もない頃。私よりも年を取り、成長したクセに慢心が原因で自分の弟子に負けるような腑抜けめ。初心を忘れぬようあの頃に戻して、その性根を叩き直してやりたいんだが……。ははは、流石にこの夢を正夢にするのは、難しいな」
 終世の独り言のような呟きに、顔を見合わせた3人は笑顔で揃ってこう答えた。
「「「銀幕市だからだいじょーぶ!!」」」
 そう、ここは魔法の街。きっと願えば何でも叶うだろう。
 ウェディングドレスだって、メイド服だって、皆で遊園地だって、幼い頃の姿だって。
 楽しい夢は叶えなきゃ。
 自分の力で、叶えなきゃ。
「用意する衣装、結構たくさんあるねー」
「皆でお出かけ、楽しみだなぁ」
「幼児化……うん、やっぱりまるぎんの食材かな!」
「ふふふ、久々に修行か。腕が鳴るな」
 でも、それも内密に事を進めなければならない。
 特に八雲と、レイドのあの2人には。
 なんたって、良い夢を実現させるには、誰にも言ってはいけないのだから。
 夢が叶うその瞬間を思い描き、4人は小さく笑い合った。


 ヒミツね、ヒミツね、あの2人には絶対ヒミツ。
 楽しい夢だもの、叶えなきゃ。
 黙っていようね、皆のヒミツ。

クリエイターコメントお待たせいたしました。
殺し屋さん達の飲み会、お届けいたします。
飲み会風景よりも、余興の方に力が入っているように見えるのは、きっと気のせいです。(笑)

苦労性のお2人には、この先も色々試練が待構えているようですよ!

それでは、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
公開日時2009-05-10(日) 22:00
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