★ mix story ★
クリエイター依戒 アキラ(wmcm6125)
管理番号198-3179 オファー日2008-05-19(月) 00:29
オファーPC 梛織(czne7359) ムービースター 男 19歳 万事屋
ゲストPC1 浅間 縁(czdc6711) ムービーファン 女 18歳 高校生
ゲストPC2 クラスメイトP(ctdm8392) ムービースター 男 19歳 逃げ惑う人々
ゲストPC3 バロア・リィム(cbep6513) ムービースター 男 16歳 闇魔導師
ゲストPC4 三月 薺(cuhu9939) ムービーファン 女 18歳 専門学校生
ゲストPC5 クライシス(cppc3478) ムービースター 男 28歳 万事屋
<ノベル>

 呆然と。梛織は辺りを見回していた。
 一言で言うならば、現状が理解できない。
 だってそうじゃないか? ほんの数分前まで、自分はクラスメイトPこと、リチャードとバロア・リィムの二人の友人と一緒に、聖林通りの服のショップにいたのだ。
 たまにはこういうのもいいだろう。ということで、バロアにいつものローブではない今風の服+ネコ耳フードを試着させてみたり(かなり嫌がってた)、リチャードをホスト風に変身させてみたり(結構イケてた)、自分もイメージチェンジで白ジャケット等を試着して、店員から見れば迷惑な客を楽しんでいた所だったのだ。
 それなのに。
 辺りを見回せば、そこは絵に書いたように完璧な、城の中。天井からは煌びやかなシャンデリアがいくつもぶら下がっているし、大きな二つの階段にはお決まりの真っ赤なカーペット。両脇には音楽隊のような何人もの集団が心地よい音楽を演奏している。
「わけ、わかんねぇ」
 小さく溜息をついて、梛織は小さく呟く。垂れた頭に嫌なものが、視界に入る。
 淡いブルーとホワイトのドレスに銀の靴。ドレスは童話などでお姫様が着ているような、あの王道のドレスだ。
 その姫ドレスを、何故か梛織は着ていたのだ。
 勿論。聖林通りのショップで試着した訳では決して無い。気がついたら場所も、服装も変わっていたのだった。
 ――ナオミ姫ー。おめでとうございます。
 聞こえてくるいくつもの声に、もう一度梛織は溜息をつく。認めたくは無いが、そのナオミ姫というのが自分の事だというのは、すんなりと頭に入ってきた。そしてこれがナオミ姫の誕生日を祝う式典だというのも、どうしてだか頭では分かっていた。
「オメデトーございます。ナオミひめー」
 抑揚のない無感情の、でも聞き覚えのある声に梛織は顔を上げる。
 そこには童話の赤ずきん。まんまその格好をしたバロアが不機嫌そうな顔で立っていた。違う所といえば、赤いずきんがネコ耳仕様になっている所だろうか。他は赤ずきんそのままで、スカートにハイソックスの出で立ちだ。
「…………」
「…………」
 梛織とバロア。お互い頭から足先までを見た後、しばし無言。
「……あ、ありがとう。ネコ耳バロナ、ずきん?」
 表現に迷っておそるおそる言った梛織に、バロアがぴくりとして返す。
「なんなの? これ。なんか僕はナオミ姫の誕生会パーティに呼ばれた事になってるんだけど」
 色々不明な事が多かったが、何故かそのことがバロアの頭にあったのだった。
「ハザードかロケエリ? 多分ハザードか。それよりリチャー……あ」
 言いかけて、梛織は近づいてくるクラスメイトPが目に入った。梛織の声にバロアも後ろを振り向く。
「なーおー……」
 どうなってるの。とでも言うように近づいてきたクラスメイトPは、これまた童話でみる王子様の姿だった。赤基調のピシッとした服に、足元までの白のマントを羽織っている。
 納得できない。そんな思いを心に押し込めて、梛織とバロアは一瞬だけ自分とクラスメイトPの姿を見比べる。
「やっぱりこれ……」
「ハザード。だろうね」
 クラスメイトPの言葉に、バロアが続ける。
「……はぁ」
 そして三人で溜息。なぜか真っ先に事件に巻き込まれて気疲れする性質。貧乏籤カルテット。その一員である三人は、なれっこだとでも言うように、ただ溜息だけをついた。
「お。見知った顔発見ー!」
 その声に顔を向ける三人。
 そこにはひらひらと手を振りながら近づいてくる浅間 縁と、その後ろで満面の笑みを湛えた三月 薺の姿があった。
「やっほ。P達も居たんだ? こっちも、折角の薺とのデートを楽しんでたのに。気がついたらこんな状況。何これ? やっぱりハザードかな?」
 ぐるりと城内を見回して、浅間。
「かなぁ」
 返すクラスメイトPの言葉に、その格好を見た浅間が言う。
「似合うじゃん。見たところ、王子様な感じ? 私のはこれ。魔法使い? それにしても、もう少し若々しい魔法使い姿が良かったなぁ。ちょっと地味じゃない?」
 そう言った浅間の姿は、緑のローブで体全体を隠し、同色のとんがり帽子を被った、いかにもな魔法使い姿だった。カバンの中という定位置を失ったバッキーのエンが、ローブの中からちょこんと顔を覗かせている。
「えー。縁ちゃん似合ってるよ。魔法使いかっこいい」
 嬉しそうに言う薺。ファンタジー好きの薺にとって、大きなお城に魔法使いや王子という状況は結構嬉しいものだった。
 しかしそれだけではなかった。薺の上機嫌はもう一つ大きな理由があった。
 それは薺自身の格好。薄ピンクのチュニックブラウスに黒いフレアの段スカート。は、デート時と同じなのだが。何故かうさ耳と尻尾が生えていた。
 自他共に認める大のうさぎ好きの薺。自分がそのうさぎになれたので、上機嫌なのだ。
 ちなみに、バッキーのばっくんはしっかりと腕に抱いている。
「うん。二人とも似合ってるね……って、ぼ、ぼ、僕が王子っ!?」
 浅間と薺を見て言いかけたクラスメイトP。途中、今まで意識に無かった自分の姿に気がついて、慌てる。
「王子……王子」
 ぼそりと呟いて、ぴしりと背筋を伸ばす。なんとなく、王子らしく振舞わないといけないと思ったのだった。
「ちょっとおおおぉぉぉぉ!!」
 その三人のやり取りに、大きな声で梛織が割って入る。
「明らかに避けてるよね!? 触れないようにしてるよね!? 確かに出来ればあまり突付いて欲しくないけどね! ノーツッコミはよけいキツイよ? 刺さるよ。グサリグサリと心に何かが!」
「ははは。やっぱちょっと不自然だった? ……なんでそんななの?」
 梛織の悲痛な叫びに軽く笑って浅間。梛織とバロアの服装を見て口に出す。
「こっちが聞きたいくらいだよ。何で俺らだけ視覚的暴力!? 見たところ、童話ハザードっぽいけど、他にもっと選択肢あったはずだよね!? なんでこうも貧乏籤を引くかね……」
 じとーっと同じ貧乏籤カルテットのクラスメイトPに非難の目を浴びせる梛織。
「リチャードぉぉ。取り替えろー。この立ち位置を取り替えろおぉ」
 両手を前に突き出してゾンビのようにクラスメイトPに迫る梛織。鬼気迫るものを見て思わずあとずさるクラスメイトP。
 一方赤ずきん姿のバロアは、もう諦め……。もとい、この状況を受け入れていた。薺に生えているうさ耳と尻尾をじっと見て、小さく呟く。
「居候はいいね……。大好きなうさぎになれたんだから」
「うん。ちょっと嬉しい。バロア君、ネコ耳は残ったんだね。似合っててかわいいよ」
 そう言った薺に、バロアは答える。
「……うん、ありがとう。…………全然嬉しくないけどね」
 最後の方はボソリと小声で。
「フハハハハハハ」
 その時。大広間に高らかな笑い声が響いた。
 咄嗟に声の方を振り向く五人。そこには黒い魔女服に身を包んだクライシスが立っていた。
「げ。お姑さんもいたのかよ」
 思わず呟く梛織。
「よぉ。似合ってるじゃねーか。ナ・オ・ミ・姫」
 わざとらしく強調してクライシス。それに文句を言いかけた梛織の声に上から重ねて続ける。
「誕生パーティ? 楽しそうじゃねぇか。けど、何か忘れてんじゃないのかあ?」
 クライシスのその言葉に、梛織が思いついたようにポンと手を打って言う。
「あれ。そういえば、魔女はパーティに呼んでないはずだけど……あ」
 頭に浮かんだ設定という名の記憶をたぐっていた梛織が、失言に気づいて口を押さえる。
「いい度胸じゃねーか」
 クライシスも、訳の分からないうちにハザードに巻き込まれていた一人だった。気がついたら魔女の格好でお城の外に立っていたのだ。そして設定を知り、門兵を蹴り倒して中へと入ってきたのだった。
「なあ。知ってるか? 今の俺は魔女らしいぜ?」
 そう言ってニヤリと口の端をつりあげたクライシスを見て、梛織は直感的にヤバイと感じて叫ぶ。
「な、ちょ。待っ――」
「0時と共に、カボチャと、ネズミと、ガラスの靴――あぁ? 一人あまるな。めんどくせぇ。右の靴と左の靴だ。になぁーれ!」
 クラスメイトP、バロア、浅間、薺とそれぞれ指差していきながら、嗜虐的な笑みを浮かべてクライシスが魔法を掛ける。
「おまえは、そうだな。なんか眠り姫って単語が頭に浮かんだから、眠る魔法で」
 面白そうに、続いて梛織に魔法を掛ける。
「え。僕カボチャ!?」
「ネズミ……赤ずきんとどっちがマシかな」
「うわっ、やばっ。この魔法。私の魔法じゃ解けないよ」
「え!? 梛織さんは眠るだけ!?」
「いやあー! 何てことすんだよ。ハザードだけでも大変なのに、ややこしくするなっての。ああそれと、眠るだけって、いつまで眠るか分からないから逆に怖くない!? 眠り姫なんて100年だよ100年」
 五人の反応を見て満足そうにクライシスが笑う。
「よくも俺様を除け者にしてくれたナ! これはその制裁だ、制裁」
「いやいやいや。あんた面白いからやってるだけだろ!? なに魔女役にハマってんだよ! ってか本物の魔女よりたち悪いわ!」
「根本的に何かが違うよね。童話の魔女って、普通おばあさんでしょ? なんかあの魔女、普通に露出度高くない? 臍とか出してるし」
 梛織に続いて浅間が不思議そうに言う。ためしに自分の着ている魔法使いの服の一部を破ろうとするが、びくともしない。脱いだり破いたり。服装を変えれないようになっているのだ。つまり、クライシスはそんな着崩れた魔女服がデフォルトで出てきたのだった。
「さて。からかうだけからかったし、行くか」
 そう言って背を向けて歩き出したクライシスに、梛織が慌てて叫ぶ。
「ちょい待ち! 解いてけよこれ!!」
 梛織の言葉に足を止めて顔だけで振り返るクライシス。
「ァん? どこの世界に自分で掛けた呪いを解いてやる魔女がいんだよ。解き方なんて知るはずねーだろ」
 言い放ち、そのままバックレる魔女クライシス。
「あっ! 待てっ!」
 慌てて追いかける梛織。が。
 ――ドスッ。
 ドレスの裾を踏んで盛大に転んだ。
「お約束だね」
 バロアがうんうんと頷き、クラスメイトPは心配そうに梛織に手を貸して起こす。その様子はさながら。
「わあっ。お姫様と王子様」
 薺が指を組んで感激したように言う。
 姫と王子。そのものだった。


「さて」
 城内にいてもしょうがない。ということで城下町に出たナオミ姫御一行。とりあえず、魔女クライシスを探そうという事で、情報収集をしていた。
「……まるで頼りにならない情報だね」
 数人に聞いたのち、クラスメイトPががっくりと肩を落として呟く。
「どこかで聞いた様なのばっかりだしね」
 と、浅間。エメラルドの都はどっちだとか、堂々巡りの会合に参加させられそうになったりとか、そんなのばかりだった。
「ん。ん? 何か、聞こえる」
 ピクリ。と小刻みにうさ耳を動かす薺。その言葉どおりに、その声はすぐに聞こえてきた。
「大変だ! 大変だ! 遅刻しそうだ!」
 見るとそこには、チョッキを着こなした白ウサギが走っていた。そして梛織たちの前で一度立ち止まると、チョッキのポケットから時計を取り出して時間を確かめてから。大変だ! と再びせっせと走り出したのだった。
 4組のじと目+きらきらした目が1組。でそれぞれに見たあと、バロアが言う。
「なんかさ。追わないといけない気がするんだけど、僕だけ?」
「うん。俺もなんかそんな気がする」
 姫ドレスのまま普段の口調で言う梛織。
「なんか楽しくなってきたじゃん。行こっ。薺!」
 薺の手を取って走り出す浅間。
 しぶしぶと二人を追うバロア。
「僕らも行こうか」
「だな」
 頷いた梛織に、あ、とクラスメイトPは続ける。
「転ばないように気をつけてね。梛織」
「……だな」
 きょろきょろと二、三、周りを見回した後、梛織はドレスを摘んで走り出した。


 白ウサギを追って森へと入った一行。時刻は昼の2時を回っていた。
 白ウサギは森に入ると急に消えてしまい。森を抜ければ何かあるのでは? と進んでいる所だった。
 歩きながら、しきりにスカートを気にして眉をひそめるバロア。
「どうかしたの? バロア君」
 先ほどから何度もスカートの裾をピンと伸ばすバロアの行動が気になっていた薺が訊ねる。
「いや、別に……なんでもない」
 スカートがスースーするのが気になっていたバロアだったが、口には出さなかった。
「あれ」
 ふと。クラスメイトPが前方やや上を指差して呟く。
「ん?」
 指先を追って四人。そこには、木の枝の上にうずくまっているチェシャ猫がいた。大きな歯を剥きだしで五人を見てにんまりと笑っている。
「こんにちは。チェシャ州のネコさん」
「お尋ねしたいのですが、ここは何処なのでしょう?」
 薺が切り出して、クラスメイトPが続く。対話に向いていると思われる二人がチェシャ猫と話しをする。
「見て分かる通り、森だわな」
 と、チェシャ猫。
「私たち、この森を抜けたいんですけど、どっちに行けばいいのか分かりませんか?」
「そりゃ、あんたがどこに行きたいかによるわな。ただ抜けるだけなら来た道を引き返せばいいし、目的があるならそっちへ向かえばいい」
 にんまりとした笑みをそのままに、チェシャ猫は答える。
「とりあえず、引き返す以外の道で抜けたいのですが」
 と、クラスメイトP。
「そんなら。来た道以外ならどの道だって構わないだろう」
 ――プチン。
 何が切れたって? 切れたのは梛織の堪忍袋だった。
「……黙って聞いてりゃ、随分と生意気な猫ちゃんだなオイ!」
「そちらは随分と気性の荒いお姫様。どこの国のお姫様だい?」
 怒りを堪えた梛織の言葉に、追い討ちのようにチェシャ猫が言う。そのにんまり笑みに梛織が殴りかかる。
「てめっ! この、馬鹿にしてんのか!?」
 大きく跳んで振りぬいた拳が当たる寸前。チェシャ猫の体がスウっと薄くなったと思うと、梛織の拳は一瞬前までチェシャ猫のいた部分にすかりと空を切る。
「なっ。何処に隠れやがった」
 静まり返る森。
「面白れぇ。猫の身で俺にかくれんぼを挑むとは。猫探しは俺の得意分野だぜ」
「落ち着いて! 落ち着いて梛織! 相手はネコだよ!!」
 そんな事をやっている所に、今度はどこからか、えっさほいさという掛け声と共に小人が七人現れた。
「ご飯を作り、掃除もこなし、洗濯をして、破れた服を繕うのなら、住まわしてやってもいいぞ」
 いきなり、そんなことを言い出す。
 そして、あっけに取られている五人の前で、小人たちは声に出して相談し始める。
「こっちの姫は凶暴そうだ」
「こっちの王子は大人しそうだ」
「王子にしよう。そうしよう」
 歌うようにそう言って、王子であるクラスメイトPを引っ張って拉致しようとする小人たち。
「え? あ。ちょっと?」
 うろたえた様に言いながらも、引っ張られるそれに足を合わせる優しい王子。クラスメイトP。
「いやおかしいだろ!!」
 思わず叫ぶ梛織。
「違うよね!? これ元となった童話と明らかに違う道を意図的に歩もうとしてるよね!? そこは尊重しよう? そこ変わると物語が破綻するから!!」
「飛ばしてるなー……」
 感心したように浅間が呟く。
「そこ! 感心したように言わない!! 俺だって好きでやってる訳じゃないんだからね!?」
 ビシィっと指差して言う梛織に。
「あ、違うんだ?」
 と、バロア。
「こっちの姫は凶暴そうだ」
「こっちの王子は大人しそうだ」
「王子にしよう。そうしよう」
 歌うように繰り返す小人たちは、クラスメイトPを連れてそのまま歩いていく。
「って無視かよ!! ああ。もう、めんどくせー……」
 疲れたように梛織。小人に引っ張られていくクラスメイトPの手を掴んで小声で言う。
「逃げるぞ、リチャード」
 それを合図に、梛織はクラスメイトPを小人たちから奪い、そのまま手を引っ張って走り出す。片手でクラスメイトPの手を取り、片手でドレスを掴んで。
「おーい。みんな、逃げるぞ!」
 梛織の叫び声に、バロア、浅間、薺も二人を追って走り出した。


「はぁ。はぁ」
 小人たちを振り切った五人。お腹空いたなー。等と話しながら歩いている所に、それは現れた。
「お菓子の……いえ?」
「に、見えるね。物凄く怪しいけど」
 薺の言葉にバロアが返す。
 目の前にはお菓子の家。パンで出来た家に、クッキーの屋根。透き通った窓は氷砂糖。
「誰かさんが見たら、涙を流して喜びそうな家だね」
 パン好きの同居人を思い浮かべてバロア。そうだね。と笑いながら薺が返す。
「薺ー。中にケーキやプリンもあるよー」
 先に中に入っている浅間の声。どうやら今の若い女の子には氷砂糖よりもケーキやプリンのほうが魅力的らしい。
「確かにお腹すいたけど……これ、食っても平気なんだろなあ」
 不安そうに呟いた梛織に、浅間が振り向いて答える。
「ん? はんへ?」
 何の疑いも無く既に食べていた浅間。パフェのスプーンを咥えたまま。ん? なんで? と返す。
「…………ま。平気か」
 童話でもしっかり食べていたし。そう割り切ってみんな食べ始める。
「あ。そっちの味も食べてみたい。一口ちょうだい? あ。これマジ美味しい。食べてみて」
「本当だー! 美味しい。何使ってるんだろう。家でも作れないかな?」
 楽しそうにあれこれと食べていく浅間と薺。
「こう、甘いものばかりだと、無性にしょっぱい物が食べたくなるな」
 梛織の言葉にバロアとクラスメイトPが頷く。
 ――ガチャ。
 その時だった。急にお菓子の家のドアが開いたと思うと、一人の女性が入ってきた。
「赤ずきんや……おばあさんにケーキとワインを届けておくれ」
 その言葉に、バロア以外の四人はじっとバロアを見る。
 恐らく自分のことだろうな、と覚悟していたバロア。一応周りを見てみると、やっぱりみんな自分を見ていた。届けないよ? とは言い出せそうに無い雰囲気だった。
 渋々ながら、ケーキとワインをバスケットに詰めて、おばあさんの小屋を目指すネコ耳バロナずきん+四名。
「このハザードの元の映画って、なんかすごい映画っぽいね」
 そんな会話を交わしているうちに目的の小屋までたどり着く。
「はぁ……行かなくちゃダメ、だよね?」
 ドアの前で深い溜息をついてバロア。
「勿論」
 頷いて梛織と浅間。
「狼に食べられないように気をつけてね」
 そう心配そうに言うのは薺。
「僕もついていこうか?」
「だいじょうぶ」
 クラスメイトPの言葉に、軽く笑い返して、バロアは小屋へと入っていく。
「おばあちゃん。ケーキとワインを持ってきたよ」
 わりとスムーズに、バロアは狼扮したおばあさんに話しかける。きちんとやらないと先に進めなくなるかもしれない。と、小屋に来る途中に散々練習させられていたのだった。
「おお。赤ずきんや、ありがとう。テーブルに置いて、もっと近くに来ておくれ」
 ちらりと窓の方を見るバロア。そこにはしっかりと四人が中を覗き込んでいた。
「ねぇおばあちゃん。どうしておばあちゃんのおみみは、そんなに大きいの?」
「それはね、おまえの声がよーく聞こえるようにだよ」
 (なら男の声だって気がつけよ!!)
 ツッコミたい衝動をどうにか堪えて、バロアは続ける。
「ねぇおばあちゃん。どうしておばあちゃんのおめめは、そんなに大きいの?」
「それはね、おまえの姿がよーくみえるようにだよ」
 (なら男の顔だって気がつけよ!!!!)
 ふー。ふー。と、必死で堪えるバロア。
「ね……ねぇ。おばあちゃん。どうしておばあちゃんのおくちは、そんなに大きいの?」
「それはね、おまえを食べるためさー!」
 がばりと布団を跳ね除けて、狼はバロアの前で大きな口をあける。が、そこで動きが止まり、ぱちくりと数回瞬きをする。その時初めて、狼は赤ずきんの正体に気がついたのだった。
 どうしよう。
 狼のそんな空気が、バロアにも、外にいる四人にも痛いほど感じられた。
「……ごほん」
 狼は小さく咳払いしたかと思うと、続けて言った。
「それはね、おまえの持ってきたケーキを食べるためさー!」
「随分とノリのいい狼だな!?」
「随分とノリのいい狼だな!?」
 小屋の中のバロアと、外にいる梛織のツッコミが重なった。


「なんだかどっと疲れたよ」
 森を抜けて歩く五人。バロアが肩を落として言う。
「だなぁ。いつまで続くんだ? これ」
「少なくとも、0時になる頃には何らかの形で進展してるはず? じゃなかったら、私はガラスの靴の右だわ」
 梛織の言葉に、浅間が落ちていく夕日を見ながら答える。既に夕方の5時を過ぎていた。
「私はガラスの靴の左になっちゃうんだ……。意識とかって、宿るのかな?」
 という薺の言葉にバロアが言う。
「締まりのない会話だなぁ。どうやってその状況を避けるかを考えないと」
「僕はカボチャに……あ。ライオン」
 がっくりとクラスメイトP。途中、目の前にいたライオンに気がついて呟く。
「――ライオンっ!? うわぁ」
 が、すぐに事の重大さに気がついて飛び上がる。前方数メートル先にライオンがいたのだ。しかし、怖がりながらも先頭に立つクラスメイトPは、さすが王子様である。
「魔法使い様」
 そのライオンが、浅間に向かって話しかけてきた。浅間は、私? といった感じで自分を指差している。
「魔法使い様。約束どおり、私に勇敢な心を与えてください」
「……ん? あー……はいはい」
 組んだ腕で少し考えて、思い出したように浅間。自分がそんな約束をした覚えはないが、元となったであろう童話のことを記憶から引っ張り出していたのだ。
「オーケー。叶えましょ。でもその前に一つ」
 ライオンの前に立ち、人差し指を一本立てて浅間。
「どうして勇敢な心が欲しいの?」
「百獣の王として、名に恥じぬ存在になりたいからです」
 浅間の問いかけにライオンは返す。その答えに対し、浅間が真顔でまた返す。
「人から貰った勇敢な心で、あなたは名に恥じぬ存在になれるの?」
 言葉に詰まるライオン。ゆっくりと、返す。
「……臆病なままよりは、その方がよくはありませんか?」
「そ。それじゃ、あなたの思う、勇気って何?」
 その問いにライオンは少し考え込んで、答える。
「恐れずに、立ち向かえる事……ですか?」
「さぁ? 私に聞かれてもね」
 ひらりとした手の仕草で浅間。でも、と続ける。
「あなたがそう思うなら、きっとそれがあなたの勇気なんでしょ。で、恐れずに立ち向かうというのは、何に? 困難に? 敵に?」
 口元に僅かに笑みを浮かべて、浅間が言う。
「あなたはここに来るまで、いくつもの困難に立ち向かって来たよね? 崖から飛んだり」
 浅間は知っていた。童話の中でこのライオンがいくつもの困難を乗り越えて魔法使いの元へと来た事を。
「あなたはここに来るまで、恐ろしい怪獣にも立ち向かって来たよね?」
 浅間は知っていた。童話の中でこのライオンが、仲間の為に恐ろしい怪獣に立ち向かった事を。
「しかし、あれは夢中で……」
 反論しようとするライオンに、浅間はにこっと笑って言う。
「夢中なら尚更。咄嗟に出る行動なんて、備わってるもの以外は簡単に出来ないんだから」
「そう……なんですか。そう、ですよね! 私にも勇気があったんですね! ありがとうございます!!」
 嬉しそうに去っていくライオンが見えなくなってから、ふぅ。と浅間は力を抜いて呟いた。
「ふぅー。肩こった」
「……え、縁ちゃんカッコイイー!!」
 ぽかんとしていた四人の空気が溶け、真っ先に薺。
「でもあれって、諭してるって言うか喝入れてるって言うか。魔法じゃなくね!?」
「ん? いちおー、魔法は使えるよ? でも、魔法でそんなの手に入れても意味ないじゃん。それに私、あのライオンがホントに勇敢な心を持ってるって、知ってたからね。ズルだよズル」
 ははっ。と笑って浅間はそう言うと、みんなを急かして歩き出す。
「しっかし、何処まで行けばいいんだろ。てっきり、森を抜けたら何かあるもんだと思ってたのに」
 視界の隅まで続く地平線に、梛織は思わず口に出る。
「ハザードの解決は勿論だけど、その前にクライシスさんも早い所見つけないとね」
「ごめんなぁみんな、お姑さんが話しをややこしくして……」
「な、梛織さんが謝る事ないですよ」
 うな垂れる梛織を薺がフォローする。
「そうだよっ!」
 その言葉に高々と叫ぶ梛織。さらに続ける。
「まったく。クライシスのせいで俺がどんな目にあっているか……。銀幕市でも、顔が似てるってだけであいつの起こした厄介ごとのとばっちりをくったり……そもそも…………。なのにあいつときたら、さも当然のような顔をして…………………」
「うん。で? そのクライシス様が何だって?」
 ぶつぶつと長きにわたる愚痴を言い終えた梛織の目の前には、いつの間にか本人が立っていた。にっこりと嗜虐的な笑顔が、かえって梛織に寒気を与える。
「出たな、俺様魔女」
「あまりに退屈でな。仕方ねぇからこっちから来てやったぜ」
「ふっふ……その余裕が命取りに」
 欠伸の仕草をしながら言うクライシスに、梛織は不敵に笑って返す。そしてパチィンと大きく指を鳴らして叫ぶ。
「リチャード! バロア! 縁嬢! 薺嬢!」
 その言葉に、クラスメイトP、バロア、浅間、薺がそれぞれクライシスの逃げ場を塞いで立ちはだかる。
 梛織を含め、五人はじりじりと少しずつクライシスに近づく。
「わ、悪く思わないでください。……カボチャは嫌なんです」
 キラリと。クラスメイトPの眼鏡の奥が怪しく光る。
「一秒でも早く事件を解決して、この服装とおさらばしたいんだよ」
 バロアのそれは、まさに悲痛の叫びだった。
「今度は、そう簡単に逃げられないんじゃない?」
 何かあったらすぐに自分も魔法を使えるように、警戒して浅間。
「楽しいけど、そろそろ帰ってお夕飯の準備しないと……!」
 ごめんなさい。と小声で言って薺。
「さて。覚悟してもらおうか」
 ニヤリと笑って、梛織は続ける。
「かかれー!!」
 その言葉を合図に、五人はクライシスへと飛び掛った。


「で?」
 仰向けに倒れこんでいる梛織に、クライシスは言う。
「まさか、本気で俺様に勝てるとでも思ってたのか?」
 動けなくなった他の四人を一瞥してから、梛織に向き直ってニヤリと笑う。
「さて。覚悟してもらおうか」
「て、てめっ。魔女の力を悪用しやがって。いや、元々魔女って力を悪用するけどさ」
「ところで梛織」
 急に真顔になってクライシス。雰囲気が変わったのにハテナ顔で梛織が返す。
「??」
「腹が減ったな。何か作れ」
「ちょっ!! ええええぇぇ!? この状況でそれ言うの!? 誰のおかげでこんな状況になってると思ってる訳!? 自覚なし?」
 飛び起きて梛織。
「いいだろ。面白かったんだし」
「いや面白かったのはあんた一人だけだからね!? そこんとこ自覚して……はぁ。して、やってるんだよな、そういえばあんたは」
 途中、気がついて諦めたように言う梛織。当のクライシスは、そんなの当たり前だが? とでも言うような涼しい顔をしている。
「分かったよ。それじゃ、今日の食事当番は俺がやるから、ハザード解決に協力してくれよ」
「ァん? もともとおまえの担当だろ? むこう半年間はやってもらわねーと割りに合わないな」
「いやなんかさらりと言ってるけど、今日の当番あんただからね!? ついでに言うと、その前も前も前も前も前も、ずーーーっと俺が代わりに作ってるからね!? そのくせ、文句ばっかりは妥協しないから、俺の料理の腕はめきめき上達中だよ! アリガトウゴザイマスだよ! まったく」
 ふてたように言い放つ梛織に、気を良さそうにしてクライシスが言う。
「お? 素直にお礼を言うなんて珍しいな。かわいいとこあるじゃねぇか」
「い・や・み・で、言ってんだよ」
 そんなやり取りをしばらく繰り返した後、やれやれ。とクライシスが言う。
「しょうがねえ。俺様が仲間になってやるよ。ほら。さっさと戻って飯にするぞ」
「……作るの俺だけどね」
 そんなこんなで、俺様魔女クライシスを仲間に引き入れた六人は、先へと歩き出すのだった。


 夕日照らされて黄金に光る芝生。辺りから漂う果実の甘い香り。目が覚めるような見たこともない鮮やかな花。さらさらと流れる透き通った小川。
 そんな素晴らしい景色の中を歩いている六人。しかし、その様子はぐったりという表現が相応しいくらいにぐったりとしていた。
「……疲れた、ね」
 隣を歩く薺に話しかける浅間。普段の元気はどこにいったのか、言葉どおりに少し疲れた様子だった。それでも、話しかける顔は軽く笑顔だった。
「うん。ちょっと、ね」
 対する薺も、同じような感じで答える。まさに童話のような綺麗な景色。一番に喜びそうな薺だが、実はもうさんざんはしゃいで駆け回った後だったのだ。
「疲れたって? なら、俺が魔法でなんとかしてやろうか?」
 二人の少し前を歩いていたクライシスが、振り返って言う。面白いオモチャを見つけた。そんな表情でニィっと笑って。
「いや、遠慮しておくわ。なんかとんでもないことになりそうだし? ――ってちょっとお!?」
 浅間が言い終わる前に、クライシスは小さな動作で浅間に魔法を掛けた。途端。浅間は小気味良いステップで軽やかなバレエのステップを踊りだす。
「え? ちょっと、身体が、勝手にっ」
 浅間は薺の手を取って、そのまま踊りだす。
「え? え!?」
 手を引っ張られて薺。あっちへこっちへ右往左往。
「おー、ありゃ呪文間違ったかナ! ハハハ」
 愉快そうに笑い出すクライシス。その様子を視界の端に入れていた浅間は、言いたいこともあったがそれどころじゃなかった。薺の手を離し、クラスメイトP、バロア、梛織。と次々と相手を換えて踊りだす。
「どうしよう?」
 踊り続ける浅間を見てクラスメイトPが呟き、梛織がクライシスに詰め寄る。
「おい! どうすんだよこれ!?」
「さぁ?」
「ダイエットに便利かも、これ。明日は筋肉痛だろうけど」
 なんて言っている浅間。適応力が早い。
「ねえ。原因はあれじゃないの? あの靴、さっきまでと違うよね」
 バロアが浅間の足元を指差して言う。確かにさっきまでは皮のブーツだったのに、いつの間にか綺麗な赤い靴になっていた。
「みんな。縁ちゃんを押さえて!」
 薺の言葉に、クライシスを除く四人が浅間が動けないように押さえ込む。
「ばっくん。その靴、お願い」
 薺のバッキー。ばっくんがその言葉に反応するように、むしゃむしゃと浅間の靴を食べてしまう。
「……は。助かった。ありがと、薺。ばっくん」
「うん。ありがとう。ばっくん」
 お礼を言われた薺。そのままばっくんに流し、頭を撫でる。ばっくんがくりくりの丸い目を向ける。
 再び歩き出した一行。今度はカメが数人の子供にいじめられている場面に遭遇する。
「っ!?」
 大変。とすぐに助けに入る薺。その後ろから梛織が呟く。
「あれって、日本むかしばなしじゃね……?」
「うん。まさしく、あれ。だね」
 浅間がその物語を思い出して答える。そういえばあれは、カメを助けてもろくな事にならない。と、そこまで考えて薺にストップをかけようとする。
「薺ストッ……プ」
 が、遅かった。事態は既に薺に諭された子供たちが走り去った後だった。そして助けられたカメが甲羅から首を出して口を開いた。
「探しましたぞ。うさぎさん。さぁ、あの丘の麓まで私と勝負してもらいますよ」
「そっちかよ!! もう何でもアリだな!?」
 思わずカメの甲羅を叩く梛織。スパァンと軽快な音が辺りに響く。
「えーっと……」
 そして何故かどちらが足が速いかの勝負で麓まで走ることになったうさぎの薺。スタートラインにカメと並ぶ。
「薺。スカート大丈夫?」
「あ、うん。その……カメだから」
 ちらりと相手を気にして控えめに答える薺。別段大きいわけでもない普通のカメ。歩いたって平気だろう。と思っての答えだ。
「それじゃ、ヨーイ。ドン」
 上げた手を思いっきり下ろして振りぬき、スタートの合図を出す。
 瞬間。カメが二足歩行で物凄い速さで走っていく。
「――ぶはっ!」
 完全に油断していたギャラリー。思わずふきだす。
 シャカシャカと小さな足を高速で動かして人間並みの速度で走るカメ。走っているカメと、勝負している薺には悪いが、見れば見るほど滑稽だった。
「ちょっ。はやぁ」
「……え?」
 予想外の出来事に呆気に取られていた薺。すぐに我にかえって、スカートの端をぎゅっと絞って結ぶと、走って追いかける。
「ガンバレー」
 カメと薺が走っていった後、残った五人が顔を見合わせて、気がつく。
「あ、僕らもゴールにいかなきゃね」
 一方。カメに遅れてスタートした薺だが、徐々にその差を縮めていた。
 運動が得意そうには見えない薺。実力はあるのか、それともうさぎの力が宿っているのか、遅くはないスピードで走っていた。
「はぁ……はぁ」
 荒く息をつく先、徐々に近くなってくるカメの甲羅を見ながら、リレーの選手ってこんな気持ちなのかな。と、薺は高揚感に似た気持ちを感じていた。
 さて。先回りしてゴールで待っていた五人。見えてきた薺とカメは、並んでいた。どちらが優勢とも言えないデッドヒート。
 薺が一歩リードすれば、すぐさまカメが速度を上げ、それを横目に見た薺がさらに速度を上げる。お互い疲れ果てているのに、そこはもう意地のぶつかり合いだった。
「ガンバレー」
 薺を応援する声援の中、バロアは声には出さないで、薺を見ていた。
 柄じゃない。
 そんなことは分かっているのに、一生懸命なその姿を見ると、どうしてもほんの少しだけ頬が緩んでしまう。
 だからバロアは。ほんの小さな声で言った。
「ガンバレー。居候」
 その時、走っていた薺と一瞬だけ目が合ったように、バロアは感じた。
 一歩。二歩。薺がカメをつきはなす。
 一瞬前の事など、深く考える余裕もなく。バロアはその顛末を見ていた。
「っゴール!」
 勝ったのは、薺だった。
「はぁ……はぁ。つ、かれたー」
 仰向けに倒れこんで大きく深呼吸する薺。贈られる祝福の言葉に荒い息のまま微笑みを返す。
 人一人分離れた向こう。仰向けに寝転んだ薺と、薺を覗き込んだバロアの視線はぶつかった。
 にこっ。と微笑む薺。僅かに眉をひそめたバロアは、わざとらしく人差し指でこめかみを掻いて、目を逸らした。


「完敗です……」
 レースに負けたカメは、残念そうにそういうと、決まっていたことのようにそれを口にした。
「さぁ。竜宮城へ案内いたしましょう」
「ここでまさかの路線修正!? だから日本むかしばなしだろこれ!」
 嫌な予感しかしないが、仕方無しに竜宮城へと招待される六人。
「ねぇ、梛織。なんだかこれ。時間を忘れて楽しんでいるうちに0時を回るっていうことになりそうな気がするんだけど……」
「だよな……」
 不安そうに言うクラスメイトPに、梛織も不安そうに返す。
「まぁ。その辺は気をしっかり持ってすぐに帰れば、大丈夫かな……?」
 意思というよりは、やや希望を語るように、梛織。
 やがて竜宮城へと辿り付き、予想通りにそこでは豪華絢爛。歌に踊りに料理にと。至れり尽くせりな状況が待っていた。
 手を出すと危ない。と分かってはいても、こんな状況を前にして帰るとは言い出せない。
 クライシスはそんな危惧すら無しに、思うままに料理に手を出しているし、浅間は手こそ出していないものの、明らかに目が泳いでいる。
「ちょ……ちょっとだけ」
 親指と人差し指でほんの小さな隙間を作って、梛織はクラスメイトPに言う。
「なおー。危ないってえ。そりゃ、魅力的だけど……」
 最初はたしなめていたクラスメイトPだったが、少しだけなら。と理性が緩んで、少しだけお邪魔する事にする。
 しかし、一曲歌を聴き終わり、普段着で時計を持っている薺が時間を確認したら、時刻は午後の10時過ぎ。何故か歌一曲の間に一時間ほど経過していた。
「ちょっと、やばいぞこれ!」
 すぐに梛織はみんなを立たせて、乙姫にもう帰ると言ったのだが。
「あら。まだもう少しいいじゃないですか」
 の一点張り。
「あ、ちょっと俺ら帰りますんで」
「あら。まだもう少しいいじゃないですか」
「いえ。用事とかもあるんで」
「あら。まだもう少しいいじゃないですか」
「あ、玉手箱はいりませんので」
「あら。まだもう少しいいじゃないですか」
「もおおおおおおおっ。会話にならねぇよこいつ!!!!」
「あら。まだもう少しいいじゃないですか」
 ぷるぷると拳を振るわせる梛織の腕を、クラスメイトPが必死に押さえる。
「落ち着いて! 落ち着いて梛織! 相手は女性だよ!!」
 なんとか心を落ち着けて、出口を探す梛織たち。しかし、どこにも出口が見当たらない。それどころか、部屋を仕切る襖さえもびくともしない。
「縁嬢。魔法でなんとかならない?」
「試してみたけど、ちょっと無理みたい」
 さっきから魔法を試していた浅間だったが、襖を開ける事すら出来なかったのだ。
 仕方ない。と梛織は続ける。
「お姑さん。魔法でおねがい」
 まだ料理を食べていたクライシスが、振り向いて梛織に答える。
「お願いする態度、ってもんがあるんじゃないのか」
「お・ね・が・い・し・ま・す!」
 拳を震わせて梛織。
「ああ。ここに飽きたらな」
「いやいやそれじゃ0時過ぎちゃうだろーが!!」
 叫んだ梛織に、クライシスが面倒そうに答える。
「別に0時過ぎたって俺に影響あるわけじゃないしなぁ」
 ああ。こういう奴だったこいつは……。と、そのくせ、本当にギリギリになったら手を貸して恩を売って、効率的にこき使うんだ。
 クライシスの思い通りに行くのも癪なので、梛織はクライシスの魔法は諦めて他の方法を探す。
「この料理を全部食べると、出れるようになる、とか?」
 腕まくりをする仕草で浅間が言う。
「縁ちゃん。さすがにこれは……」
 ずっと奥までずらっと続くテーブルに所狭しと並べられた料理を見て、薺。
「強引に、突破する?」
 襖に向かって手をかざして、バロアが言う。
「しか、ないか?」
「あまり、無茶はしないでね……」
 視線を合わせてにやりと笑うバロアと梛織に、クラスメイトPが言う。
 梛織はドレスを摘み上げ、銀の靴のつま先をトントン。と整える。
「……ん?」
 何か違和感を覚えて、周りを見る梛織。他の四人もどうやらそのようで、目を細めたり小さく唸ったりして何かを考えている。
「ま、いいか。いくぜ」
 そして左足を軸に、大きく身体を捻って回し蹴りで襖を打ち付ける。
 ――ガッ。
 しかし。襖はそれでもびくともしなかった。ドレスからすらりと伸びた足が襖に伸びた姿勢のまま、その先の銀の靴を見て。
「あーーーーっ!」
 みんな一斉に叫ぶ。
「これだ!!」
 そう。梛織の履いていた銀の靴は、知らない場所へ迷い込んだ主人公を、元の場所へと導いた魔法の靴だったのだ。
 それじゃあ早速。と、記憶にある靴の使い方を引っ張り出して梛織が試す。
 トントントン。カカトを三度、打ち付けて。
「銀幕市へ帰して下さい」


「……おぉ。ここは」
 見覚えのあるヤシの木に。梛織が感動気味に呟く。
 すっかり暗くなってはいたが、そこは銀幕広場だった。六人は銀幕市へと帰って来ていたのだ。
「なんか、ドレスじゃないと違和感あるなー……」
 普段着のジャケット+チノパンに戻った梛織の服装を見て、浅間が言う。
「こらソコ! 物騒なこと言わない」
 はは。と笑いながらごめんごめん。と浅間。
 バロアも自分の姿を見下ろして、ほっと安堵。
 薺は戻ってこれた嬉しさ半分。うさ耳を失った悲しさ半分。
「あぁ。梛織! 戻しやがったナ! まだ食べてる途中だったのに余計なことしやがって」
 と、クライシスが梛織に文句を言う。が、すぐに付け加える。
「ま、いいけどな。帰って晩飯を作るのは梛織だし」
 それを苦笑で聞き流す梛織。
「あ。梛織、これ」
 クラスメイトPが足元に落ちていたプレミアフィルムを拾い上げて梛織に見せる。
「よかった。解決したんだな。一事はどうなる事かと……主にクライシスのせいで」
 ぼそっと小声で付け加えて言う梛織。
「でもさ。最初に靴に気がついていれば、あんな苦労しなくて済んだんだよね」
 そう言ったバロアの一言に。薺が笑って言う。
「でも、楽しかった。童話の世界を体験できたし、うさぎにもなれたし」
「美味しいものも食べれたし?」
「だね」
 浅間の言葉に、クラスメイトPも頷く。
「ま。貴重な体験の一つを楽しんだっつーことで」
 笑いながらの梛織の言葉に。
「おつかれさん!」
 思い思い。帰宅のとについたのだった。

クリエイターコメントこんにちは。依戒です。
プライベートノベルのお届けにあがりました。

まず最初に。このたびはプライベートノベルのオファー。ありがとうございます!
心躍る素敵なオファー文に、色々驚いたのはかなり前のこと。ギリギリまでかかってしまいましたが、お気に召していただけたのなら嬉しく思います。

さて。今回は初めて挑戦するジャンルだったり。それはもう語りたいことが多々。
まぁ、長くなるお話は、公開後にブログにて綴るとして。(よければ覗いてみてくださいね!)
ここでは少し。

まず一つは不安要素。
呼び名とか、関係性とか、これでよかったのでしょうか……!? 見つけれなかった部分は、若干想像なども混じっております……。
呼び名など、修正が必要な部分があれば、お気軽に。

もう一つ。
会話を考えているのが最高に楽しかったです。
こっちの方は、もう少し色々とお話ししたいので、ブログにてあとがきという形で。

素敵なオファー。本当にありがとうございました。

オファーPL様が。ゲストPL様が。
そして作品を読んでくださったすべての方が、ほんの一瞬でも幸せな時間だと感じてくださったのなら、私はとても幸せに思います。
公開日時2008-06-27(金) 20:40
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