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<ノベル>
●集まってくれた協力者たち
「俺、猫探し得意なんだ。力になるよ?」
依頼を探しに、丁度対策課を訪れていた梛織がリオネへと声をかけた。
万事屋、イコール猫探し屋と勘違いされるほど、日々猫を追いかけていたりするときもある。だから、その力を発揮できたらいいと思ったのだ。
「わしに任しとき」
晦も張り切って手伝いを名乗り上げる。
「配達終わり、あれ、リオネちゃん?」
対策課へ昼食の出前を配達してきたクラスメイトPは、対策課を訪れる人々に声をかけて回るリオネの姿に気付いた。
「あ、猫探しのお手伝いをして欲しいの!」
クラスメイトPへもリオネは事情を説明する。
「そうか、頑張ってるんだね。……いきなり全部償うにも何していいか解らないだろうしね……何かしたい気持ち、大事だと思うよ。よーし、猫好きだからね、手伝うよ!」
そう言って、クラスメイトPも猫探しの1人に加わった。
「物で人を釣るのは良く無い事よ。それに、まず、自分が頑張って出来なければ助けを求める事。心から出来る事を精一杯するの……あなたが一生懸命頑張っていれば、おのずと協力者が現れるはずよ」
流鏑馬明日はリオネのことを思い、やや説教っぽいことを残して、対策課を去った。
●それでも気になる
一旦は対策課を後にした明日ではあるが、相棒である桑島平へと電話をかけていた。
『猫が逃げただ? んなの、何処ぞの万事屋とかに、やらせてりゃ良いんじゃねぇか? おれぁ、今日、非番なんだしよぉ』
受話器の向こうから、そんなことを言われ、電話を切られる。
「……残念ね」
明日も再び電話をかけることはせず、ただ、皆に気付かれない程度に町の中を見て回った。
視線は低い辺りを見回し、リストに載っていた猫の姿を探す。
「だぁ〜っ! しゃぁねぇ! 見つけてやるかぁ」
明日の電話を一方的に切ってしまったものの平も猫のことが気になって仕方がなかった。リオネに頼まれたから、というわけではない。ただ、困っている人を見過ごせない性質なのである。
町へ繰り出すと、猫を探し始めた。
●迷い込んだ猫たち
「にゃあ」
ベアトリクス・ルヴェンガルドの下宿先に迷い込んだ猫が一匹。彼女が日常を過ごしていると、足元にまとわり着いてきた。
「迷い猫であろうか?」
抱き上げると、首に巻いてあるリボンに、カフェの名前と猫の名前らしき文字が刺繍されていた。
「ユキ……というのか。迷い込んだのならば、送っていこう」
そう言って、ベアトリクスはその猫を抱え、リボンに書かれた名前を頼りに、カフェへと足を向けた。
一方、時を同じくして、人懐っこい猫を自宅前で発見した赤城竜は、きちんと手入れされていて毛並みが良く、普段見かける野良猫とは違うことから何処かの飼い猫なのであろうと、飼い主を探すことにしていた。
右肩には彼の相棒である真っ白なバッキーを、左肩には対照的に真っ黒なその猫を乗せた。
「よし、クロ。お前の飼い主を探してやるぞ」
可愛いものが好きな竜は機嫌良さそうに、町へと繰り出した。
ベアトリクスはカフェの名前を頼りに、通りまで歩いてきていた。
猫の顔の形をした看板を見つけると、看板に書かれた名前と、猫のリボンに記された名前を確認する。
「この子は、ここの猫であろうか?」
「あぁ、ユキちゃん!」
ドアを開け、中に入るとスタッフらしき女性とリオネが出てくる。
「見つけてきてくれたの? ありがとう」
「たまたま下宿先に迷い込んできただけである」
リオネに礼を言われ、ベアトリクスは少し照れくさそうに言葉を返した。
「それにしても何を騒いでいるであろうか?」
ベアトリクスは、スタッフに猫を手渡すと、リオネへと訊ねかける。リオネは、事情を説明し、良かったら手伝って欲しいと付け加えた。
「そういうことなら余も手伝うのである」
頷き、ベアトリクスは表に出ると、幻獣<ケット・シー>を召喚した。ケット・シーは長靴を履き、羽根付き帽子を被った猫の姿をしており、動物の言葉も人の言葉も理解する。
ケット・シーに脱走した猫たちを見なかったか、町中を飛び回る野鳥たちに訊ねてもらいながら、ベアトリクスは猫を探してもらい始めた。
●猫を探せ!
晦は、自分の嗅覚を頼りに猫の匂いを追い続けていた。
匂いを追ってみてもたまに間違えたり、自分自身が迷子になってしまいそうになることもあり、苦労の末、1匹の猫に遭遇した。見た目からして、アメリカンショートヘアのシママであろう。
「ほら、こっちに来いや」
早速捕まえようと、手を伸ばすものの、猫は威嚇し、晦が居る方向とは逆の方向へと駆け出した。
「待て!」
猫を追いかけ始めた晦は、首から提げた宝玉の力を借りて、猫の動きを鈍くさせたり、ストップさせたりした。
ただ、宝玉の力を使うには、集中していなければならないため、鈍くしたり止めたりしても捕まえようと集中が途切れると、猫は駆け出し、なかなか捕まえることが出来ない。
苦戦しながらもその猫を捕まえることが出来たけれど、腕の中で暴れ、終いには引っ掛かれる。
「猫に嫌われとるんかな……」
呟きながら晦は、黒猫へと姿を変えた。そして、猫の言葉で捕まえた猫を何とか説得しようと試みる。
「お、こいつがクロロか?」
「うにゃぁっ!?」
説得途中で、晦は首根っこを掴み上げられた。彼の顔を中年の男――平が覗き込んでいる。
「わしは猫やないっ!」
晦は慌てて、人の姿へと戻るけれど、時既に遅し。先ほど捕まえた猫は、いつの間にか逃げていた。
捕まえた猫が人間になったと驚く平を他所に、晦は逃げた猫を探して、また嗅覚を頼りに歩き出す。
平も驚いた後は、また猫探しへと戻った。
梛織とクラスメイトPはチームを組んで、猫を探していた。梛織の指示に従ってクラスメイトPは、猫の名前を呼んだり、エサをちらつかせたりして歩き回っていた。
そこへ、梛織を虐めようとしたのに彼が外出中で、暇を持て余し、ぶらついていたクライシスが通りかかった。
クラスメイトPへとクライシスはそっと近付くと、驚かせるように、背後から抱きつく。
「うわわっ!?」
猫探しに集中していた所為か、背後からの人の気配に気付かず、クラスメイトPは、慌てた。
「何してんだよ?」
「猫探しをしてたんだよ」
振り返り、クライシスだということを確認したクラスメイトPは事情を説明した。
「そういうことなら」
クライシスは頷き、クラスメイトPと一緒に猫を探し始めた。
名前を呼び、エサをちらつかせてもなかなか猫は出てこない。
そこへクライシスの携帯電話に着信があり、彼は歩くことを止め、電話に出た。会話しているうちに、彼の表情は深刻そうになっていく。
「そうか」
……と、短く返事をし、通話を切った。
「待たせたな」
言いながら顔を上げると、クラスメイトPの姿がなく、どうやら逸れてしまったようである。慌てて、彼と、そして猫を探すことにした。
「こうなったら、仕方がない!」
クライシスと逸れてしまったクラスメイトPはこくりと頷くように決断すると、マタタビの粉を頭から被り、ロケーションエリアを展開した。
彼のロケーションエリアは展開すると、ゴキブリホイホイならぬ災害ホイホイ体質が強化される。マタタビの粉を被ったその身体は、強力な猫ホイホイと化していた。
『ちょっ! こら、P君!』
携帯電話で連絡を取っていた梛織は、電波越しの向こう側でクラスメイトPがロケーションエリアを展開したことを知ると、慌てて彼の元へと走り始めた。
梛織が駆けつけると、クラスメイトPは100匹近い猫に囲まれ……いや、襲われていた。
「あぁ、梛織……この中から目的の猫を探し、て……」
やって来た梛織に気付いたクラスメイトPはそのまま気を失ってしまう。
「リチャード!」
梛織はクラスメイトPへと駆けつけ、襲い掛かる猫たちから彼を庇う。すると飛び掛ってきた猫が地面に落ち、甘え始めた。
「万事屋として最終兵器は使いたくなかったんだけどな。だが、相手が猫であろうとリチャードには怪我させねぇ!」
そう宣言し、クラスメイトPへと襲い掛かる猫たちを所持したマタタビで、周りに集まるように仕向け直した。
●捕まった猫たちと一緒に
100匹近くの猫たちの中から、店のスタッフが探し出せたのは5匹であった。
それに、ベアトリクスが連れてきた猫が1匹で6匹である。
今日中には全部の猫を捕まえることが出来ないだろうかと諦めかけたとき、晦が1匹、猫を連れてきた。
さらに、平と竜が1匹ずつ連れてくる。
「何か寄ってきて離れねぇんだけど、この猫」
最後にクライシスが耳の垂れた狸顔の猫を連れて、やって来た。
「皆、本当にありがとう!」
店長、店員だけでなく、リオネも皆に感謝の言葉を述べた。
「ふん、この程度のことに礼などいらぬ。…………まぁ、どうしてもというのなら、受けてやらんでもないが」
そう言いながらベアトリクスは、用意され始めたカウンターの上のケーキへと視線が向く。
「いいって、いいって。困ったときはお互い様だろ?」
竜もそう言って、お茶だけはご馳走になり、ケーキ代は支払う旨を告げた。
晦はいつの間にか去っていたけれど、リオネは最後に彼が満足そうな顔をしていたのを見逃さなかった。
「笑顔でしか笑顔はうまれない……でも……貴方の笑顔は、誰かの逆鱗に触れる場合も有る……それでも泣かずに笑顔で笑顔を増やす覚悟を持てるなら、いつでも力になるわ」
そう言って、明日はリオネへと厳しさとエールを送った。
「忘れないでこの魔法と時間に感謝してる奴がここにいるってことを」
梛織もリオネへと感謝の言葉を述べた。
「困ったら余り役に立たないけど喜んで手伝うし、一人じゃないよ」
クラスメイトPはお茶の用意を手伝い始めたリオネにそう告げた。
後方からクライシスが彼をアバンチュールへと誘う。
「させるか!」
けれど、梛織に阻止された。
「にゃあ♪」
阻止されたクライシスへと狸顔の猫――スコッティッシュフォールドのたぬ子である――がじゃれ付くようにのしかかってきた。
「平さ〜ん」
クラスメイトPに振られたどころか、猫に圧し掛かられ、クライシスは平へと矛先を向けた。
「そういうこともあるってことだな」
平はその様子を見て、笑う。
「これ、滅茶苦茶美味いぞー」
竜は一口食べたケーキの美味しさを伝えるべく、フォークで一欠けらすくうと、リオネへと向けた。
あーんと口を開けるよう促し、彼女へとケーキを与える。
「確かに、美味しいね」
リオネは満足そうに頷き、傍に寄ってきた猫たちと触れ合う。竜も自分が送り届けたクロ、もといクロロに触れた。寝転がるようにして触れさせるその猫の姿に、嬉しくなった竜は、感極まってほお擦りをした。
「うなぁっ!?」
猫は驚き、彼の頬を引っ掻く。
それでもめげずに竜は猫たちと触れ合い、和気藹々としたティータイムの時間は過ぎていった。
終。
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クリエイターコメント | ノベルに参加してくださった皆様、ありがとうございました。 口調、設定等に違いなどありましたら、指摘してやってください。 また、感想なんかいただけると嬉しいです。 それではまた、何処かで。 |
公開日時 | 2008-04-19(土) 22:20 |
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