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<オープニング>
ざわざわ…… がやがや…… ぎゃあぎゃあ……
銀幕市の一角、山の裾野に程近いところでは常とは違う喧騒が広がっていた。 『はァーいエントリーする人は並んで下さァーい』 蛍光ピンクの女声が喧騒を煽るようにスピーカーから放たれる。 「ったく親父も面倒な事にしてくれたよな」 隠密部隊の女性のアナウンスを聞きながらナナキは苦笑した。 「今年の障害物競走は是非チャリンコで!」――とヤバイほど目を輝かせて言い出したのは、チャリンコ同好会の面々だった。それにあっさりOKを出したのが先王陛下で、どうやらチャリンコ同好会の面々は恐ろしいことに先王陛下に直談判に行ったらしかった。チャリンコへの情熱が先王陛下の恐怖を上回ったのだろうか。 否、先王の元から帰った彼らは先王に指一本視線一つ向けられていないのに「いいいいのち拾いしたああ!」「こっこここここわかったあああああ」「一生分の運を使い果たした……!」と半狂乱になっていたから、きっと勢いでいったのだろう。勢いとは恐ろしい。ついでに夏の暑さも。 しかしとにもかくにも恐れ多くも先王陛下がご関心を抱かれたことは明白であり、その日のうちに知らせが出された。 曰く、『今年の障害物競走はチャリンコで実施する』――と。 事前に何も知らされていなかった国王やナナキや大将軍、国の重鎮達には寝耳に水である。それもこれも先王陛下様様の独断であらせられるからだが、一体自分の身分をなんだと思っているのか王位を退いた身でそんな我が儘が、と思われるかもしれないが、この先王陛下の何を考えているか分からない提案で他国のスパイを退けた事も多々あり(とはいえ単なる馬鹿騒ぎになったことも同じくらいあるのだが)、また現国王は兄である先王の言葉に弱く、唯一のストッパー大将軍は特に問題がないと判断した場合一切制止しない。 しかもそれを聞いた兵が、「今年の障害物競走、チャリンコでやるってよ」「チャリンコ?チャリンコってチャリンコか」「チャリンコだとよ」「チャリンコレース!」「金一封!」「チャリンコレース!?」「待て、バイクはエンジンがついたチャリンコだぞ!」「なんだと!?こりゃスクープだぜ……!ものども出あえ出あえー!」「俺車しか持ってない」「車はチャリンコが二つくっついてエンジンをのせたものらしい」「万能たるチャリンコ万歳!」「一輪車はチャリンコを分解した物で」「一輪車すげー!」と盛り上がり、そこに先王陛下が「タイヤがあれば何でもいいだろう」とのたまい、なんだかカオスが始まろうとしていた。
年若き二人の将軍はレースの準備の指示をあらかた終えて並んで歩いていた。 「しっかしタイヤがあればなんでもいいたぁ……先王様もすげぇこと言ったな。見ろよアレ。どっかの店のカートで激走してんぞ」 「ラびィィィィィィィィィィィイ」と叫びながらどばーんと会場に突っ込む緑色の人間はカートから吹き飛ばされて宙を舞った。 その先に特攻隊の面々を見つけ、とりあえず合掌して会場の準備に戻る。特攻隊は、いつでも『さあ殺ろうぜ』状態の人物ばかりを集めた少しばかり特殊な少数精鋭の部隊なのだ。隣にいた将軍、ベオが呆れた顔で呟いた。 「誰だアレ」 「さぁな……俺にはフールっていうどっかの馬鹿に見えるが」 「ああ、とりあえず馬鹿か阿呆以外にゃ見えねーな……先王様はカートもオーケーしたのかよ」 「その方が面白いと思ったんだろ。我が父ながらとんでもない」 将軍ベオの先代国王への敬意と畏怖を差し引いても呆れが滲んでいる口調に、ナナキが肩をすくめて応える。 彼らの前ではタイヤを背負った者や一輪車を担いでいる者やバイクの手入れをしている者やスクーターに武器を詰め込んでいる者や何故かネズミ花火を持って不吉にニヤついている者、チャリンコをずらりと並べて悦に入っている者、トゲつき鉄球を磨いている…… 「おい、凶悪な武器は持ち込み禁止だぞ」 ドレッドヘアの黒い巨漢に呆れたように言葉を放ると、巨漢はいかにも悲しそうに天を仰いだ。 「コイツの何処が凶悪だってんだ!コイツは俺の体の一部ですぜ、見逃しちゃあくれませんかねナナキ将軍」 人好きのする笑顔で古傷だらけの腕を上げるドレッドヘアは、歴戦の猛者に見える。が、騙されてはいけない。特攻隊は歴戦の「狂戦士(バーサーカー)」たちの集団であるからだ。ナナキは片眉だけを器用に上げてしかめっ面を作った。もっとも、口は笑っている。 「武器持った特攻隊員参加させると『命の危険を感じる』って苦情が物凄く多いんだよ。自重しろ自重」 「……危険って意味で先王様に勝てる奴ぁいねぇと思いますが……」 「まぁな……」 思わず遠い目をするナナキの横で今度はベオが肩をすくめた。神出鬼没な先王陛下がこの場にいたらこの場の全員が恐怖に凍りつくところだ。 「ま、今回先王様は兵が使う武器しか持たねーらしいぜ」 ごくごく普通の武器でも持った途端に伝説級の威力をもたらすのが先王陛下なのだが。 「ま、とにかく必要以上に危険な武器は禁止だ。特攻隊にゃ別の事やってもらうぜ」 ベオがくいと人差し指でドレッドヘアを招いて歩き出すのを見送って、ふとナナキは近付いてくるエンジン音に気付いた。 ォン ォン ォン―― 独特な重低音を響かせて登場したのはポルシェ。 「ポルシェー!?」 「何処のどいつだコラ貧乏人の恨み思い知れやァー!!」 「フクロだ!フクロにしろ!」 「砂になりやがれィ!」 「俺達の血と汗と涙の結晶ー!」 「エターナルフォースブリザーッ!」
ガチャリ
「……」 「……」 「……」 「……」 「誰だよ、フクロにしろとか言ったの」 「知らない。お前じゃね」 「違う違う違うそれはきっとコイツが言ったんだ」 「何っ!?砂になりやがれとか叫んでたくせに!」 「ちっがぁああああう!!俺は何も言ってないぞオオオ!大将軍様、コイツが言いました」 「違います俺じゃないッス。あいつが言いました」 「いやなんかあっちの方で聞こえました」 「違います!そっちの方で聞こえました!」 「何を!?お前なんてさっき10円玉で傷つけてやるとか言っモゴモゴ」 小学生並の押し付け合いから取っ組み合いに発展する寸前、ポルシェから降りた男がフム、と考え込みつつ言った。 「私をフクロにか。兵士がチームワークを鍛えようとするのは良い心掛けだ、いつでも受けて立つが」 ポルシェから降りたのは生真面目な顔に精悍な空気の漂う偉丈夫、大将軍アイザック・グーテンベルク。ぶんぶんと首を飛んで行きそうなほど激しく振り、遠慮しますすみませんでした俺たちが悪かったですオカーチャーンと騒ぐ兵に向き直る。心持ち片足を引いて構える彼に見ほれる者も多かったが、土下座せんばかりに謝り倒して違いますぅううう!!と叫ぶ者はそれ以上に多かった。 「アイザックさん……もうなんて突っ込んでいいのかわかんねぇよ……。にしても、こんな高価な物買う金何処から出て来るんだ?」 「ナナキ殿下か。これは銀幕市の富豪から贈られた車だそうだ。左大臣殿がこのポルシェに乗って参加するらしいが」 「あの爺さんもいい加減老人らしくしろよなあ」 「『まだまだ若いモンには負けん』だそうだぞ。気張ってくれ、ナナキ殿下」 「よせやい、俺は今回障害物側にまわるんだ。城の周りの障害物として特攻隊が配置されるだろ?近くで監督してねーと勝手に戦い始めるからな、あいつら。特にあの特攻隊隊長……「すんませーんうっかり斬っちゃった」なんて言いかねないしな」 「上手く操縦してくれると助かる。……べオ将軍は実況に付き添いか」 「ああ、実況のコンビも時々興奮して暴走するしな。……てかアイザックさん、ベオはちゃんと将軍って呼ぶのになんで俺は殿下なンだよ」 「殿下は殿下だろう」 真顔で言い放つ大将軍。誤魔化しているのか天然なのか、全くもって区別がつかない。 「いや、あのな……」 どうやって突っ込んだものか、とほとんど諦めの境地ながらも考え込むナナキを尻目に、大将軍はふとこちらに気付いたようにいつもの真顔――良く言えば真面目極まりない顔――に笑みを浮かべた。 「ん、そちらの方は参加希望者か、見物ならば会場内に入らなければどこで見ても構わないが。もし参加するというのであれば心より歓迎しよう」
種別名 | シナリオ |
管理番号 | 665 |
クリエイター | ミミンドリ(wyfr8285) |
クリエイターコメント | こんばんは、皆様。 久しぶりにシナリオ提出しましたミミンドリです。 今回のシナリオではレースを開催いたします。 今流行の(?)カオスなテンションで逝きたいと思いますので、皆さん思う存分ハメを外してください!
さて、レースは罠のたくさん仕掛けられた森を突破する ↓ 当たり外れの激しい料理を一セット選び完食 ↓ 樽の降り注ぐ泥地(落とし穴多数)を走り抜ける ↓ 城の周りを三周(城内を通るなどのショートカットあり)して一番最初にゴールに着いた方が優勝です。
・城内ショートカットは普通に城の周りを走るより半分以上時間が短縮できますが、城内をうろついているナナキ、特攻隊隊員と出くわすともれなくバトルになります。 ・また、会場内は何もない平地だと思って油断して走っていると罠が突然出現したり他のレース参加者の妨害にあったりします。 基本ルールは ・参加選手に「直接」攻撃を加えるのは禁止 ・タイヤや車輪無しでの進行は禁止(乗り物の種類・数は自由) ・途中放棄禁止(優勝者が出るまではちゃんと競いましょう) です。 最後のルールが「?」と思われるかもしれませんが、カオスな競技では飛び入りや場外乱闘があるものです(笑) プレイングは基本、カオスでネタな方が華々しい活躍が出来ます。遠慮は一切無用です(笑) またシナリオ傾向がカオスなお祭騒ぎなだけに、雰囲気の全く違ったプレイングは採用できるかどうかお約束はできかねます。その点だけはご了承くださいませ。
では、皆様のご参加を心よりお待ちしております。 |
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