★ ぱぱとおべんきょお ★
クリエイター依戒 アキラ(wmcm6125)
管理番号198-3615 オファー日2008-06-23(月) 00:37
オファーPC ルウ(cana7787) ムービースター 男 7歳 貧しい村の子供
ゲストPC1 シャノン・ヴォルムス(chnc2161) ムービースター 男 24歳 ヴァンパイアハンター
<ノベル>

 太陽もゆるやかに下がり始めた昼過ぎの聖林通り。時間からか暑さからか、人のまばらなその道のを、二人は歩いていた。
「暑くはないか? ルウ」
 そっとその顔を覗き込んで調子を訊ねるのはシャノン。黒いシャツにスラックス。ジャケットは脱いでいるのにじんわりと感じる暑さに、隣を歩くルウが心配になる。
「うん。ぱぱもへいき?」
 その声に横を向き、見上げながらルウが返す。スノウカラーに黒のアクセントのロンTは、以前シャノンに買ってもらった服だ。
「ああ。俺は平気だ。もう少しで着くが、辛くなったらいつでも言うんだぞ?」
 暑さには強くないルウ。病弱で青白い肌に、容赦の無い太陽の光は考えるよりも随分と辛いものだ。だからシャノンは出来る限り直接日の当たらない道を選び、休憩も交えながら目的地へと向かっていた。
「うん」
 繋ぐその手をぎゅっと握って、ルウが返す。
 銀幕図書館。そこが二人の目的地だった。
 目的は、ルウの勉強の為。
 きっかけはほんの些細な事だった。
 シャノンのデスクの上に置いてあった本に興味を持ったルウ。ページを開いてみたが、文字が読めなかったのだ。
 懸命に読めない文字を追っていたルウに、いい機会だから。とシャノンが勉強を教える事にしたのだった。


 図書館に着いた二人。二層になっているドアを進むと、サァ。と空気が変わる。空調の効いた館内。外の暑さから館内の涼しさに、ルウが気持ち良さそうに左の目をそっと閉じる。
 少しの間そうして、やがて目を開けるルウ。シャノンと一緒に進んでいく。
「ぱぱ、ほんないの?」
 図書館は初めてのルウ。図書館に行けば本が沢山ある、と聞いていたのに見当たらなかった為、シャノンに訊ねる。
「いや、そこに……ああ。分かり難かったな」
 二人の居た位置からだと本棚の端しか見えなかった為、ルウの手を取って移動するシャノン。
「――!?」
 驚いて目を見開くルウに、シャノンは言う。
「これ全部が、本だ」
「わあー……」
 目に映った本のあまりの数の本に、感嘆の声のルウ。
「確か150万冊、と書いてあったな」
「ひゃくごじゅうまん?」
 はてな顔でシャノンの言葉を繰り返すルウ。
「そうだな……10が十五万……む」
 一瞬言い方を考えて、シャノンは続ける。
「十が10個で、百という数になる」
「ええと」
 両手を折って数えるが、足りなくなって困り顔のルウ。
「指一本を十にしてみたらどうだ? ルウ」
 ルウの立てていた指の残り9本をそっと上から押さえて伏せるシャノン。
「じゅうがいっこ、じゅうがにこ。じゅうが……――。じゅうがじゅっこで、ひゃく?」
「あぁ、そうだ。それが百だ」
 ルウの頭を撫でて頷くシャノン。嬉しそうにルウが顔を輝かせる。
「ルウは飲み込みが早いな。今度はその百を十個数えていくのだが、数字の本も探して、続きはそれから勉強しようか」
「べんきょおする」
 うん。とルウは答えた。
「さて」
 どんな本を参考書にして勉強するのがいいのだろうか、と悩むシャノン。文字の読めないルウ。やはり、絵本や図鑑など、絵という判断材料の入ったものがいいだろうと、児童書のコーナーへと移動する。
 児童書コーナーでは、小さな子供が絵を見て選べるようにと、専用の低い棚に表紙が見えるように有名どころの絵本が沢山並んでいた。
 教材として、何がいいだろう。そう考えた所でシャノンは、やはり本人が気に入ったものが一番いいだろうということで、ルウに選ばせる。
「読んでみたいのはどれだ? ルウ」
「…………」
 一瞬のほんの数倍。時間にして僅かな間。きょとんとした顔でルウはシャノンを見る。
 今はもう、分かってる。
 シャノンが、ルウに本を選ばせてくれたんだということを。
 シャノンの前では、自分の意見を言ってもいい。やりたいこと、したいことを言っても。いいんだ。って。
 だからルウは、シャノンのその言葉ににこっと笑って、嬉しそうに絵本を選ぶ。
「えー、とー」
 それはきっと、はたから見ればごく当たり前の、普通の光景。
「…………」
 でもそれは、シャノンにとって、とても、嬉しいルウの姿だった。
 棚の展示品を見終わったルウ。シャノンを呼んで読みたいと思った本を告げる。
「これと……これだな?」
 指された本をとっていくシャノン。ルウの選んだ本は『マッチ売りの少女』と『フランダースの犬』、どちらも雪の絵が描かれていた。
「ゆき。さらさら」
「ああ。それではこれを借りていこうか」
 その二つの絵本と、教材用の本を幾つか。それと数字の本を持って、二人はカウンターへと行く。
 本を借りるには利用カードを作る必要があると言われ、それならと、シャノンはルウに言う。
「ルウの利用カードを作るか?」
 と。言ってから少し考え、いや。と続ける
「ルウのは、文字を書けるようになってから、自分の手で作るのがいいか」
 記入事項を用紙に書き込んで自分の利用カードを作るシャノン。手続きを済まし本を借りると、ルウが本を覗き込んでいたので借りた本のうち絵本の二冊をルウに渡す。
「持ってくれるか? ルウ」
「うん」
 嬉しそうに絵本を胸に抱くルウ。そんなルウの姿に、シャノンは思わずふっと頬が緩む。
「可愛らしい子ですね。お子さんですか?」
 カウンター係りが、ルウを見ながらシャノンに言う。
「…………」
 ずっと以前から。もとよりそのつもりだった。
 けれど、聞かれるたびに迷っていたその言葉を。
 今は何の迷いも無く、胸を張ってそう言える。
「ああ。そうだ」
 図書館を出た二人。さっきよりはまた少し落ちた太陽を一度見てから、歩き出す。
 行き交ういくつもの人々に混じって、道の真ん中を歩く二人。
「ぱぱ」
 シャノンを見上げ、ルウ。片手には絵本を抱き、片手にはシャノンと繋いだ手。
「どうした? ルウ」
 シャノンの返事に、ぎゅっ。と、繋ぐ手を強く握るルウ。
 いつからだったろうか。引き摺る左足を庇う右足の負担が軽くなっていたのは。
 いつからだったろうか。その手を壁に触れて歩く頻度が減っていったのは。
 いつだって優しくしてくれて。
 いつだってぎゅうと抱きしめてくれて。
 だからそんなシャノンが、ルウは大好きで。
「ありがとう。ぱぱ」
 それはきっといままでと同じ。でも、どこか違うその呼び名を。
 ルウは幸せそうに口にした。


「さて」
 家に戻り、借りてきた本をテーブルに置いてシャノンが言う。
「何から始めたい? と、聞くまでもなかったな」
 棚の引き出しから眼鏡を取り出してかけながらシャノン。ルウはテーブルの前にちょこんと座り、持っていた絵本を前に置いていた。
 シャノンはルウの後ろから覗き込むように座り、絵本の一冊を二人の見やすい位置へと引き寄せる。
「マッチ売りの少女」
「まっちうりのしょうじょ」
 シャノンが読み上げたタイトルを繰り返すルウ。
「まっち?」
「マッチというのはな、火をおこす道具なのだが……生憎、手元にはないな」
 手を使ってマッチのことを教えていくシャノン。それを聞いてどんなものだろうと考えていくルウ。視線が上を泳ぐ。
「ひどく寒い日でした。雪も降っており、すっかり暗くなり――」
 そして読み聞かせを始めるシャノン。ルウは真剣にシャノンの声を聞き、それと合わせて絵を見る。
 読み進めるうちに、ルウの表情がみるみる悲しげな表情になっていく。シャノンは片手でルウを後ろから抱きしめて先を読む。
「まっちのおばちゃん。どうなっちゃったの?」
 読み終わったところで、ルウは半身振り返ってシャノンを見上げる。
「どうなったと思う?」
 返すシャノン。
「ずっとさむかっただけど、さいごまっちのおばちゃんのおばちゃんとぬくぬく。しあわせ?」
 最初の状況と、火の中に見た夢の事だ。
「そう……なのかもしれないな」
 答えたシャノンに、ルウはシャノンに抱きついて言う。
「るうもぬくぬくしあわせ。ぎゅう」
 しばらくそうしていた二人。次の絵本に行く前に、ひらがなの本を開く。
「ひらがなを少し勉強しようか。まずは、俺の後に続けて声に出してみるか」
 うん。と言ってテーブルに振り返るルウ。
「あ。い。う。え。お」
「あいう、えお」
 単語単語としては、言葉を知っていたルウだったが、こうしてあ〜から順に学ぶのは初めてだった。
 何度かそれを繰り返した後、続いてシャノンはさっきの言葉と同時に、ひらがなの文字を見せていく。
「これが『あ』だ」
「あ」
 シャノンは、ルウの指に上から自分の指を重ねて、読み上げた言葉の文字をなぞっていく。
「い」
「い」
 一通りそれも終わると、次はシャノンの指をどけてルウ一人で読み上げ、なぞっていく。
「――は、ひ、ふー…………へ? ほ」
「あぁ。そうだ」
 優しい笑みで頷きながらシャノン。
 それも全てこなすと、次は濁音。そして半濁音へと続いていく。
「ぱ、ぴぷぺ。ぽ」
 指でなぞるルウ。それを終えた後、何もないテーブルへと指を移して、何かを綴っていく。
『ぱ ぱ』
「ぱ……、ぱ。ぱぱ!」
 シャノンを振り返って、嬉しそうに言うルウ。
「そうだ。それが『ぱぱ』だ。そしてこれが……」
 ルウの指をとって、『ルウ』と動かすシャノン。
「これが、『ルウ』だ」
 カタカナ表記の初めての動きにはてな顔のルウ。
「これはカタカナと言ってな。ひらがなの別の書き方なのだが、まだちょっと早いか……。ルウという名前だけ、覚えていくといい」
 言いながら、何度も『ルウ』と綴っていくシャノン。
「る……う。る……う」
 言葉にしながら、何度も繰り返していくルウ。
 次にシャノンは、ルウに鉛筆を貸して実際に書かせていくことにした。
 シャノンはルウの手に手を沿え、鉛筆の持ち方を教え、そのまま紙に文字を書いてみせる。
「――!?」
 紙に残った筆跡に驚くルウ。シャノンが手を放した後、鉛筆をひっくり返してその先端を凝視する。
 そろそろと、指先でその先端を触ってみるルウ。
「っ!?」
 ちくりとしたそれに驚き、手を引く。
「ああ。少しだが、ちくりとするだろ? だから扱いには気をつけないといけないな」
「あつかい?」
 首を傾げるルウに、使い方。と意味する所を丹念に説明するシャノン。そのシャノンの言葉に頷くルウ。
「さあ。もう一回、今度は一人で鉛筆を持てるか?」
 その言葉にさっきの持ち方を思い出して試みるルウ。だけどもどうにも巧くいかずに、最終的にはグーの手になってしまう。
 しょんぼりとした表情でシャノンを見るルウ。シャノンはふふっと軽く微笑んで、もう一度教える。
「こう……、人差し指。この指のことだな。この指を鉛筆に添わせるように……」
「ひとさしゆび、そわせる」
 何度か繰りかえし、持ち方を覚えていくルウ。
「完璧だな。よし、ついでに箸の持ち方も覚えてしまおうか」
 そう言って箸を二膳持ってくるシャノン。まずは自分で持って見せて、ルウに真似させてみる。
 最初は二つを一まとめにして、鉛筆と同じように持ったルウ。すぐに自分とシャノンの持ち方の違いに気がつくと、シャノンの持ち方を見ながら少しずつ変えていく。
「そうだな、まず、こう……」
 自分のを見せたまま、もう片方の手で鉛筆の時と同じようにルウに教えていくシャノン。
 大分形が出来てきたので、シャノンはルウに近くにある適当な物を箸で掴むように言ってみる。
「こんなふうに、挟むように動かして何かを掴むんだ」
 カチカチ。と二、三度鳴らして、近くにあった消しゴムを摘んで持ち上げて見せるシャノン。おおー。と感嘆のルウが同じ事をしてみる。
 しかし摘んで持ち上げたまではいいものの、巧く力のバランスを取れずに、すぐに消しゴムは転がり落ちてしまう。
 転がり落ちる消しゴムを目で追っていたルウは、もう一度箸で持ち上げる、が、またすぐに転がる。
 そして困ったようにシャノンを見たルウに、シャノンがアドバイスを与える。
「もうすこし、力を抜いてやってみると巧くいくかもしれん」
「うん。ちからぬく」
 言われたとおりにやってみるルウ。すると、さっきよりもずっと不安定さもなく、長い間持っていることが出来た。
「ああ。上手だな。これからは箸を使って食事も出来そうだな」
 基本がすべて出来た所で、次は数字の本を使って一から学んでいく。
 あいうえお。の時と同じ要領で、少しずつ。言葉を覚えた後は書き方も学んでいく。
「図書館での続きだ。150万まで数えれるか? ルウ」
 その言葉に指を折って数えていくルウ。
「いち、にー、さん…………――。じゅう」
 両手の指を折り終えると、次は開いて続きを数える。
「じゅういち、じゅうに、じゅうさん……」
「ごじゅうご、ごじゅうろく……」
 一生懸命数えているルウの微笑ましさに、黙っていたシャノンだったが、放っておいたらどこまでもそのまま続けそうなので、小さく笑いながら言う。
「よく覚えたな。ルウ。だけど、150万まではまだまだ先だから、少し飛び足でいこう」
「はしる? ルウうまくはしれない」
 悲しげに言うルウに、シャノンは優しい声で言う。
「いや。そうじゃない。走らなくていい。ずっと俺が横についてるから」
 そう言ってルウの数えていた指を全部伏せて、シャノンは続ける。
「数の方だ。一。十……」
 一つ、二つとルウの指を上げていきながらシャノン。
「次はなんだったか、判るか?」
「じゅういち」
 三本目の指を上げながらルウ。シャノンは小さく首を振りながら、その指を優しく伏せる。
「……なんだが、一が10こで十。十が10個で?」
「ひゃく」
 答えたルウの言葉に、ああ。そうだ。と、ルウの三本目の指を上げてシャノン。
「そして百が10個で、これだ」
 書いてあった1000(千)という部分を指差してシャノン。
「せん。という数字だ」
「せん」
 繰り返すルウ。
「ああ。そうだ」
 もう一度ルウの指を全部伏せ、指を上げながら一から言っていくシャノン。
「一、十、百……」
「せん」
 ああ。そうだ。とシャノン。同じように、次々と単位を上げていく。
「――……ひゃくまん」
 ルウがそこまで数えた所で、頷くシャノン。
「次は、そこから10万ずつ増やして、150万までいってみようか」
「ひゃくまん、ひゃく……じゅうまん?」
 不安げに首を傾げてルウの言葉に、頷くシャノン。ルウは続ける。
「ひゃくにじゅうまん。ひゃくさんじゅうまん。ひゃくよんじゅうまん」
「ひゃくごじゅうまん!」
「ああ。そうだ。良く出来たな。ルウ」
 頭を撫でられたルウ。嬉しそうに笑う。
 数字の勉強も終わり。二人は少し休憩してから。最後に残った『フランダースの犬』をテーブルに置き、再びシャノンが読み聞かせる。
「フランダースの犬」
「ふらんだーすのいぬ」
 繰り返すルウ。少し待って、シャノンは続ける。
「ネロとパトラッシュは、この世で二人きりでした――」
 読み進めていくシャノン。
 ネロとパトラッシュが幸せそうにしている絵を嬉しそうに見るルウ。
 やがて物語の雲行きは怪しくなり、ルーベンスの絵の場面での最後を迎える。
「…………」
 言葉ないルウ。悲しげな表情。
「物語は、読んだ人間によって様々な捉え方が出来る」
 シャノンの言葉に、振り返るルウ。
「結果としては、死という最後を迎えた」
「……難しいものだな」
 小さく頷いたルウ。
「ぱぱも」
 シャノンにしがみついて、ぽつりと話し出す。どうした? とシャノンが返す。
「ぱぱも………ねろのおじちゃんとぱとらしゅのいぬさんみたいに。ずっとるうと、いっしょにいてくれる?」
 不安げで小さな声。僅かに震えた身体。
 それは。切実な想い。
「…………」
 答える事なんて、決まっていた。
 ぎゅう、と。シャノンはルウを少し強めに抱きしめて答えた。
「当たり前だ。……ずっと一緒にいる」

クリエイターコメントこんにちは。依戒です。
プライベートノベルのお届けにまいりました。

ほのぼの親子ノベル。
執筆中。私まで幸せを分けてもらえました。

さて、いきなりですが。次に私が言う事はなんでしょう? 

3.2.1.

正解は
長くなる感想などは、後ほどブログにて綴りますので、良ければ見に来てくださいませ〜
でした。
……ちょっとはしゃぎすぎかな。ごめんなさい……。

さて。ここでは少し。

作品中。二人の間柄については、意図的に表記いたしませんでした。
迷いましたが、プラノベですし、関係性を伝える為に不自然に記述するのは、野暮かな。と思いまして。

後一つ。
タイトルは思い切りました。
が、『おべんきょう』か『おべんきょお』かものすごく迷いました……。ニュアンス的にあっていたらいいのですが……。

と、それでは、最後になりましたが。
素敵なプライベートノベルのオファー、ありがとうございました。
幸せ一杯です。


※作中の『マッチ売りの少女』『フランダースの犬』について、以下の翻訳を引用させていただきました。
マッチ売りの少女:結城浩訳
フランダースの犬:荒木光二郎訳

それでは。
オファーPL様。ゲストPL様。そして作品を読んでくれたすべての方が、ほんの一瞬でも幸せな時間を感じてくださったのなら、私はとても幸せに思います。

公開日時2008-07-13(日) 00:40
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