★ 扉の先に潜むもの ★
クリエイター高村紀和子(wxwp1350)
管理番号98-6157 オファー日2008-12-31(水) 23:21
オファーPC フレイド・ギーナ(curu4386) ムービースター 男 51歳 殺人鬼を殺した男
ゲストPC1 ブラックウッド(cyef3714) ムービースター 男 50歳 吸血鬼の長老格
<ノベル>

 杵間山の麓、昼なお暗い木立のあわいに大きな洋館がありました。明治時代に建てられた華族の別荘で、優雅なたたずまいをしています。
 最初の持ち主が亡くなった時、国の内外を問わず所有したいという方が名乗りを上げました。ですがどなたも、一年としないうちに手放されました。
 怪談めいた出来事が噂されるようになったのも、この頃からでした。子供が消えたの、いるはずのない者と会ったの、庭から――いえ、不吉な話はやめましょう。憶測で物事を語り、怯えさせるのは本意ではありませんから。
 ともかく、不幸が続いて買い手はなくなりました。市の指定文化財とならなければ、そのまま朽ち果てていたでしょう。
 管理人が手入れをするだけの日々が、長らく続きました。訪れる者もなく死んだように眠る館に転機が訪れたのは、平成も二桁を越えたある夏のことでした。銀幕市に魔法がかかり、突如として人口が増加したのです。
 市役所が慌てふためき秩序を整えた後、気づけば館には『黒木邸』の表札がかかっていました。
 館が、主を手招いたのかもしれません。
 近隣住民の心配をよそに、黒木邸は平和に時を重ねました。怪異など一つも話を聞きません。……耳に届かないだけ、かもしれませんが。
 主人のブラックウッド氏と使用人達は一つ屋根の下、穏やかなひとときを過ごしているようです。時折ジャーナルに掲載される記事から、幸せそうな様子を垣間見ることができます。
 けれどやはり、洋館には怪異が巣くい続けていました。
 黒木邸を訪れた方から、複数の目撃談が寄せられています。
 いわく、奥まった場所に開かずの間があり、得体の知れない妖気が漏れ出してくるとのこと。その部屋は一人のメイドに任されており、冬と夏の限られた時期にだけ封印が解かれます。身の毛もよだつ儀式が執り行われるともっぱらの噂になっています。
 目撃者のお一人は、すえた香り――腐敗臭が漂ってくると呟いていました。
 封じられているのはいかなる存在か。
 とある男を主人公に据えて、真相についてお話ししましょう。


† † †


 夕日が沈んで、わずかな朱色が藍に飲まれていきます。
 その明かりが差し込む部屋で、フレイド・ギーナは目を覚ましました。
 毛足の長い絨毯の上に寝転がっています。体は縄跳びと荒縄とガムテープで三重に拘束されて、自由を奪われていました。無駄のない緊縛方法は、プロの犯行を匂わせていました。
 鳩尾に食らった右アッパーの記憶を振り払うべく、フレイドは現状把握に努めます。
 和室に換算すると八畳程度の、小さな部屋でした。品のいい調度品はどれも骨董品と呼んでさしつかえない古さです。
 正面には暗赤色のドアがありました。右手の壁には黒褐色のドアがありました。
 左手は出窓でカーテンが開けっ放しになっており、外の様子が見えました。葉を落とした木々が、寒風にしなっています。
 まるで、脱出ゲームのオープニングのようです。
 フレイドは自分に言い聞かせました。口はガムテープで塞がれていますから、心の中で唱えます。
(俺は生きる、俺は生きる、俺は生きる! 俺、ここから帰ったら職安に行くんだ……)
 対策課の依頼で生計を立てている彼にとって、割と切実な本音でした。老後を考えると、働けるうちに安定した収入が欲しいものです。
 そのためにまず、ここから脱出しなければなりません。
 芋虫状態にもいくらか慣れてきましたので、フレイドは進路を考えます。
 選択肢は三つです。正面の赤いドア。右側の黒いドア。左側の窓。
 思案の末、彼は赤いドアに向かいました。芋虫から尺取り虫に進化した瞬間です。
 しかし三十センチも進まないうちに、あっさりドアが開きました。
「――おや。お目覚めかね?」
 赤いドアから入ってきたのは、三つ揃えを着た老紳士でした。血の気のない肌に尖った耳。優しげな瞳は、奥にある秘密を闇で隠しています。
 老紳士はワゴンを押していました。ティーセットと三段のケーキスタンドが乗っています。アフタヌーンティーの給仕に現れた執事の風情ですが、使用人にしては貫禄がありすぎました。
 フレイドの背中に嫌な汗が伝いました。ここで襲われれば確実に死ぬでしょう。不幸中の幸い、相手から殺意は感じられませんでした。
 フレイドは老紳士に尋ねます。
「んむむんのも?」
 君は誰だ、と言ったつもりでしたが、ガムテープに邪魔されました。相手は優雅に一礼します。
「私はブラックウッド。この屋敷の主だよ……フレイド君」
 名を呼ばれて、反射的に窓際まで転がりました。精一杯の逃走でした。
 相手はこちらを知っていて、こちらは相手を知らない。警戒に値します。
 ブラックウッドとはどこかで会ったような気がしますが、はっきりと思い出せません。深層心理が思い出すのを拒否しているのかもしれません。
 ブラックウッドはフレイドからワゴンに視線を移します。
「失礼するよ。熱いうちにお茶を届けてあげたいからね」
 彼はワゴンを押して、黒いドアに向かいます。ノックをして間を置き、ノブに手を掛けます。
 暗かった部屋に光が満ちました。
 フレイドは目が馴染むのを待って、隣室の様子を観察しました。そして強い既視感にめまいを覚えました。
 三方の壁は重厚で背の高い本棚が占め、古今東西の希少な本がぎっしりと詰まっています。部屋の中央には、場違いな印象のスチールデスクが島を成しています。机上には紙と筆記具、それから口にするのもはばかられる数々の資料や文献が、うずたかく積まれていました。
 室内には数名の人間がおり、机にかじりつき一心不乱に手を動かしていました。その形相たるや、万魔殿もかくやといった有り様です。
 室内には薄煙のように、小さな欠片が舞っています。紙片に似ていますが透明で、様々な模様が描かれていました。
 フレイドは知りませんでしたが、その部屋こそが開かずの間でした。冬の祭典が間近に迫り、封印が破られたのです。
 少しばかり目が血走った人達と、緊迫した空気。それから、表の世界に解き放ったら混乱必至の文献。
 実際は、たったそれだけの代物を閉じ込めておくための場所でした。魔物などいません。人間と、人類の叡智が一極に結晶した物品が存在するのみです。
 ブラックウッドが洗練された動作で紅茶を淹れます。しかし机に向かう人々は無視しています。その中にはメイドの姿も混じっており、人によっては逆転により生まれた倒錯感を味わうことが出来たでしょう。
 フレイドは別の意味で、部屋の様子に釘付けになっていました。室内で作業する人物の中に、アパートの隣人を発見したのです。
 夏の祭典の折、売り子と称してフレイドをパイプ椅子に拘束放置した犯人です。あの時の恥辱の嵐は、生涯忘れられないでしょう。また、気絶する前にアッパーを見舞ったのも彼女です。
 ブラックウッドがフレイドの視線に気づき、隣人に近寄りました。少し言葉を交わし、メモのようなものを受け取ると退室します。
 ぱたん、とドアが閉まる音を聞いて、フレイドは息を吐きました。呼吸が止まっていたようです。
 ブラックウッドは壁のスイッチを押して、部屋の電気をつけました。
 橙がかった明かりが満ちます。ブラックウッドはソファに腰を下ろしました。
「私の愛しいメイドが、君の可憐な隣人と意気投合してね。冬の新刊……とやらを作るために、大勢で集まっているんだよ」
 日本では毎年、夏と冬に三日間ずつ、特殊な大祭が催されます。海に臨む会場へ行くために、残りの三五〇日を生きていると言い切る者もいるほどです。当落に一喜一憂し、休暇申請に苦悶し、締め切りと死闘を繰り広げ、売り子確保にありとあらゆる手段を使う参加者は少なくないでしょうす。
 黒木邸においては、メイドは職場放棄を超越して主人にお茶の世話までさせているわけですが、ブラックウッド自身が意に介していないので、構わないのでしょう。
 フレイドはふと、今日の日付を思い出しました。印刷所の入稿締め切り前日です。割り増し料金を払えばもう少しだけ猶予がありますが、猶予を当て込んで原稿を作成するのは間違った計画です。同人文化とは接点のなさそうな男ですが、隣人のお手伝いをこなすうち身についた知識でした。
 フレイドは段々と状況を飲み込みました。
 原稿を落としそうな修羅場に、アシスタントとして拉致もとい招待されたのでしょう。
 そうやって何度も手伝わされた経験があります。ベタ、トーン、写植、集中線、白抜き白抜き白抜き。
 薄謝と手料理と引き替えに、魂の大切な一部分を削り取られた思い出でもありました。
 うちひしがれて脱力していると、逃亡の危険がないと伝わったのでしょうか。ブラックウッドがソファを立ち、フレイドの拘束を解きました。口を覆っていたガムテープを剥がされ、フレイドは深呼吸をします。新鮮な……と形容するにはややかび臭い空気を、胸一杯に吸い込みました。
「入稿に間に合うか怪しくなってきてね。君の可憐な隣人が、アシスタントを調達してくると言って――」
 ブラックウッドはそこで言葉を切り、フレイドに哀れみの眼差しを向けました。少しばかりの笑みを、口元に隠しながら。
 フレイドは虚勢を張って言いました。
「調達? ふざけるな。アシスタントだと? 拒否だ。わかったら俺を解放しろ」
 ブラックウッドは無言で、隣人から受け取ったメモをフレイドに握らせました。
 瞬間氷結したフレイドですが、そのまま持っているのも嫌なので内容を確認します。そこには不吉な題名が並んでいました。
『君が教師で金槌が俺で』
『スイートなの? スイーツなの? どっちが好きなの?』
『放課後の職員室 〜恋の方程式個人授業〜』
 精神衛生上大変よろしくない挿絵まで添えられていました。
 フレイドは絶叫すると、メモを握りつぶし床に叩きつけ踏みにじって踏みにじって踏みにじりました。
 映画――フレイドにとっての現実で、最悪な仲だった敵と何故に乳繰り合わねばならないのでしょう。事実無根とはいえ、虫酸が走るのは止められません。
「まさか、これの原稿を手伝えとは言わないだろうな! 考える奴も書く奴も糞袋だ!」
 ブラックウッドは穏やかに微笑んでいます。無言の肯定です。
 頭に血が上ったフレイドは、マッチを取り出しました。おごりで喫茶店に行った際に、ぬかりなく持ち帰った品です。
「ふざけるんじゃねえ! こうなったら部屋ごと燃や」
 その時、轟音を立てて赤いドアが開きました。解き放たれる開かずの間。あふれ出る臭気。
 黒髪のメイドが、鬼気迫る形相で仁王立ちしていました。
「ぎゃあああああ!」
 フレイドは飛び上がり、近くにいたブラックウッドにすがりつきました。ブラックウッドは両腕で震える体を支えます。図らずもお姫様だっこになりました。
 五十一歳と五十歳の男同士ですが、すべてを萌えに変換するブラックボックスの前ではその事実すらも美味しいのです。
「ウホッ、いい資料」
 開かずの間の作業員は、すかさず心のシャッターを切りました。ブラックウッドは吸血鬼であるため、写真に写りません。現像しても、不思議な格好で空中浮遊するフレイドの姿が記録されるだけです。
 黒髪のメイドはフレイドに向かって言いました。
「すごく……声が大きいです……」
 気が散るので静かにしてください、というハンドジェスチャーをします。具体的には、右手の親指を立てて、勢いよく頸動脈を掻き切る仕草をします。駄目押しの懇願に、親指を地面に向けて振り下ろしました。
「ハイィすみません静かにします!」
 フレイドは低い物腰で謝り倒しました。流石、ビビリ・マダオ・ヘタレの不名誉三冠王です。素人には真似の出来ない、チキン・オブ・チキンズの女々しい姿です。
「わかってくだされば結構です」
 メイドはドアを閉じました。
 フレイドは生まれたての子鹿のように、震え続けました。老いから来る痙攣とは違います。今の状態で原稿を手伝えば大惨事が起きて、精神的なおしおきを受けざるを得ないでしょう。
「少し、落ち着きたまえ」
 耳元で、魅惑のベルベットヴォイスが囁きます。
 そこでフレイドは我に返りました。開かずの間が恐ろしくて忘れていましたが、ブラックウッドも十分怪しい人物です。
 彼は声のない悲鳴を上げました。腕から逃れて窓際に走ります。両手で押さえた耳には、やけに艶めかしい吐息の感触が残っていました。
 震えどころではありません。動機・息切れ・めまいがします。危険な吊り橋にいるような心拍数です。
 部屋は気まずい沈黙に満たされ……などしませんでした。
「我々は原稿を落とさない!」
「「「Yes, we can!」」」
 ドアの向こう、開かずの間から熱いやりとりが聞こえます。これから一個師団を殲滅に行くかのような激しさでした。
 フレイドは己の命運が尽きたのを悟りました。
 前門の魔性の美壮年、後門のたぎる修羅場。絶体絶命という熟語を使うにふさわしい状況です。
 生への執着が激しい彼ですが、ありとあらゆる手段を考慮した結果、ここから生きて帰る確率が限りなくゼロに近いことを受け入れなければなりませんでした。
 ブラックウッドは、金色の瞳を細めてくすりと笑います。そして片手を差し出しました。フレイドは一瞬、震えだけでなく心臓まで止まりました。おそらく恐怖が頂点まで達したせいでしょう。
 ブラックウッドは言いました。
「庭を散策しないかね。凍えるような宵だから、月が綺麗に見えるだろう」
 それはフレイドの緊張をほぐすための、気分転換のお誘いでした。
「ああ、それなら……」
 フレイドは息を吐き、生命活動を再開しました。庭、すなわち外に出れば、逃げる機会が増えることでしょう。
 生への未練が、ブラックウッドの誘惑を受け入れました。
 それが悲劇の引き金になったことを、この時の彼は知るよしもありませんでした。



 二人は赤いドアをくぐり、廊下に出ました。
 黒木邸は日本らしい面影を持たない、純然たる洋館です。格調高い内装に、庶民派のフレイドは内股になって歩きました。
「あの額には面白い逸話があってね。右下に少年が座っているだろう? 彼は画家の愛弟子で――」
 案内役として、ブラックウッドは絵画や置物などの説明をします。由来のある古めかしい品が多く、それぞれにまつわる歴史は大変興味深いものでした。
 ですが、フレイドは上の空で聞いていました。
 暗がりで『何か』が動いているのです。そちらを向いた時にはいなくなっているので、正体を知ることはできません。そのくせ、正面を向くとまた視界の隅で、ちょこまかと『何か』が動くのです。
 落ち着いた照明は闇の深さをさらに増しています。
 蠢く存在に、ブラックウッドも気づいているようでした。時折『何か』を見ています。微笑みを浮かべて唇をかすかに動かすと、何事もなかったかのように案内役に戻ります。
 聞けば、『何か』の正体を教えてくれたかもしれません。けれどフレイドは、ただならぬ空気に圧倒されていました。
 フレイドが必死に無視していると、『何か』は次第に大胆な行動に出ました。
 ひたひた、と足音を立ててついてきます。
 フレイドの一歩に、ひたひたひたひた、と四歩。
 フレイドの三歩に、ひたひたひたひた、ひたひたひたひた、ひたひたひた、と十一歩。
 相手はずいぶん小さいようです。
 振り返っても、姿を捉えることはできません。
 ブラックウッドの解説を聞き流し、フレイドは『何か』の気配と必死に戦っていました。
 とことこ。
 ひたひたひたひたひたひた、ひたひた。
 急に立ち止まってみると、ひた、と一つ多い足音を残して止まります。
 とことことこ停止。
 ひたひたひたひた、ひたひたひた、ひたひたひた、ひたひた……停止。
 一歩多いということは、それだけ『何か』が近づいた証拠です。歩調を早めれば、急いで追いかけてきます。
 あがくほど状況は悪化します。覚悟を決めてフレイドは振り返りました。
 廊下は闇に沈んでいました。
 そして彼の真後ろ、手を伸ばせば届く位置に、らんらんと光る金色の瞳が二つ浮いています。
「ぷぎゅ」
 『何か』が声を発しました。それを聞いた瞬間、フレイドの恐怖が限界に達しました。
「うわぁぁあああああああひぃいいいいぎゃあああああああああぬおおおおおおおおおお!!!??」
 悲鳴を音声でお伝えできないのが残念です。
 彼は走って逃げました。
「ぷぎゅ……」
「惜しかったね。もう少しでタッチが出来るところだったけれど。また暇な時に遊んでもらいなさい」
 寂しげな『何か』の呟きと、ブラックウッドの優しい声が後方へ遠ざかっていきました。



 闇雲に走ったフレイドは、運の良いことに玄関ホールにたどり着きました。
 脇目もふらずに玄関を抜けて洋館から脱出します。
 室内着のフレイドにとって、骨にしみる寒さでした。欠けた月と星々が、夜空に輝いています。
「自由だー!」
 歓喜のあまり夜空に吠え、フレイドは正門へ走ります。頑丈な門扉は閉ざされていましたが、容易に乗り越えられそうでした。
 立派な洋館ですから、広々とした前庭が横たわっています。けれどフレイドは、この機会を逃したら生還できないと察していました。身体能力の限りを尽くして、門を目指します。翌日、あるいは二日後に筋肉痛で起き上がれなくなろうとも、それは生きている証拠と受け止めるつもりでした。
 ――しかし、あと数メートルというところで。
 フレイドは何かに足をとられ、転倒しました。立ち上がろうにも、足首に冷たいものが絡みついています。何気なく手を伸ばしたフレイドは、月が照らし出す光景に顔色を無くしました。
 地面から生えた青白い手が、彼の足首を掴んでいました。
「っひぃ!」
 種明かしをしてしまえば、そこには地下貯蔵庫に繋がるドアがありました。開かずの間に籠もっていたフレイドの隣人とメイドが、夜食を取りに来ていたのです。
 手入れが十分でなかったため、また夜ということもあり、注意深く観察しなければ出入り口の存在がわかりません。それに計ったようなタイミングの良さでした。あと一分でも行動がずれていれば、フレイドは脱出を果たせたことでしょう。
「ぎゃああああ助けて助けてWhat's the hell?」
 フレイドは半狂乱でもがきます。けれど指はますます強く食い込み、逃してくれそうもありません。靴下を脱げば、指の形が痣になっていることでしょう。
 跳ね上げ式の扉から、女の顔が半分だけ現れました。目玉だけを動かしてフレイドを睨みます。
「うわああああああごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ!」
 フレイドは反射的に謝りました。けれど指の力は、ますます強まるばかりです。
 もがき続ける彼に向かって、隣人は一文字ずつはっきりと告げました。
「……逃げるなんて ユ ル サ ナ イ よ」
「ひ」
 白目を剥いて気を失ったフレイドは、ずるり、ずるりと、地の底へ引きずられて行きました。


† † †


 大したことのない真相だったのではないでしょうか。
 巷には物騒な噂が流れていますが、開かずの間に詰まっているのはちょっとした秘密です。
 ですから、好奇心のままに詮索しないでください。
 藪をつついて出てくるのは、蛇ではなく得体の知れない化け物かもしれませんから。
 ちなみにその後、フレイド氏の消息は杳として知れません。
 冬の新刊は無事に販売されていましたから、修羅場が明けるまでは生きていたのでしょう。

 さて、すっかり長くなってしまいました。
 またの機会にお会いしましょう。

クリエイターコメントこのたびはオファーありがとうございました。
怪談調になっているのはWRの仕業です。

かなり捏造させていただきました。
不都合な部分やPCさんにそぐわない言動がありましたら、ご連絡ください。前向きに対応させていただきます。
お気に召していただければ幸いです。
公開日時2009-01-19(月) 19:00
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