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<ノベル>
――発端は、クリスマスに遡る。
銀幕市で大々的なプレゼント交換会が行われていた時期である。
その日、リャナは銀幕ベイサイドホテルの厨房にいた。
正確には、厨房に設置されている冷凍庫の前に。
繁忙期のこととて、例によって厨房は戦場であった。だが、シェフたちはムービースターの出入りに慣れているし、リャナは可愛い妖精である。そこにいるだけで心がなごむ。
リャナがよくここにくるのは、知己に会うためだとわかってもいたので、微笑ましくスルーするのもいつものことだった。
「ゆきだるまさんこんにちはー!」
「こんにちは」
「さむいねー。そと、ゆきふってるよ」
「ぼくは寒くても雪でも平気だけど。……そっか。じゃあ今日は、外もこの中と変わらないんだ」
そう、ベイサイドホテルの冷凍庫には、ムービースターの小さな雪だるまがいたのだ(註:『クリスマスツリーの森』のスノウマンとは別キャラ)。
この雪だるまは、ある日いきなり冷凍庫を開けたら隅っこに出現していたそうな。第一発見者のシェフは腰を抜かしつつ総料理長に報告したのだが、結局、小さいので場所を取らない・無害・物静か・追い出したら溶けてしまうからかわいそう、などの理由により、冷凍庫の主(?)として黙認されているのだ。
妖精と雪だるまが、ずれているようないないような、本日の天候から始まる世間話を、いつものように交わしていたとき。
厨房の窓が開き、雪まじりの風が吹き込んだ。
ひらりと現れた、赤い衣装の男。背には大きな袋――どうみても、 サ ン タ ク ロ ー ス なのだが、今日このファッションに身を包んでいる人物ほど、ムービースターなのか一般人のコスプレなのか、それとももしかして 本 物 なのかが判然としない存在もなかろうと思われる。
「……あの。失礼ですが、あなたはその……?」
さすがに不審人物をスルーするわけにはいかない厨房スタッフが、おずおずと声を掛ける。ちなみにここは高層階ゆえ、こんな登場は、普通の人間ならやんないわけだが。
「ご心配なく。ホテルの営業に差し支えるようなことはいたしません。プレゼントをお渡ししたらすぐ帰ります」
正体不明のサンタは、大きな袋から包みをひとつ取り出して、リャナへと歩み寄る。
「住民登録番号cfpd6376、扉を開く妖精のリャナさんですね?」
「そーだよ?」
「住民登録番号cvxf4223、ギャリック海賊団のルークレイル・ブラックさんからお預かりしたプレゼント『徳川埋蔵金発掘セット』をお届けします」
「まいぞーきんはっくつ? それっておたからさがすの?」
「はい。こちら、胡散臭い地図、眉唾な解説本、『財宝への鍵』と記された、底面にmade in Chinaの刻印がある仏像、ツルハシ&手ぬぐいが詰め合わされています」
「おたからー! おたからさがしだー! うわーい!」
「御礼やご感想などは住民専用フリーメール等にてルークレイルさんにお伝えし、交流のきっかけとなさるのも楽しいかと思います。それではわたしは急ぎますのでこれで」
「まってー、サンタさん。もっとおはなしする」
「……う゛ッ。……すみませんが、腕にしがみつくのはお許しを。何せ160人以上のかたがたのプレゼントをシャッフルして原始的手作業でこつこつクリック……もとい、ひとりで配送しているので腱鞘炎が、その」
「けんしょーえん? いたいの? かわいそー」
「痛いです、が。銀幕市の皆さんが喜んでくださるのなら、なんのこれしき」
腕を押さえながら、謎サンタは窓の外へ消える。
よくわかんないけどがんばれー! と、リャナはその背に手を振ったのだった。
(……おたからセット……! かいぞくからもらった)
リャナの大きな瞳が、きらきらと輝く。
埋蔵金発掘セットは、リャナの心を冒険心でいっぱいに満たしたのだ。
この嬉しさを伝えるには、メールなどではまだるっこしい。
妖精は包みをうんしょと持ち上げる。ひとまず雪だるまにいとまを告げ、七色の羽根をひらひらと動かす。
直接礼を言うため、海賊船まで飛んでいくつもりなのだ。
◆+◇+◆ ◆+◇+◆
ふらふら、きゅう〜。
荷物を抱えての飛翔はなかなかに難儀だった。
たまたま甲板にいたルークレイルが、埋蔵金発掘セットを持って飛んできた妖精をみとめたとき、リャナは墜落寸前だった。
「はふぅ、いたいたー。はわわわ、かいぞくだー。ルーくんだよね?」
あやうく甲板に尻餅をつきそうになったリャナだったが、ルークレイルが両手を差し伸べてくれ、キャッチされる。
「おう。ルークレイル・ブラック。ギャリック海賊団の航海士だ」
「リャナだよー。プレゼントありがとー! ルーくんて、うで、カギフックじゃない……。ざんねん〜」
「ははは。そういう勇ましいタイプの海賊じゃなくて悪かったな。そっか。俺のプレゼントはおまえんとこに届いたのか」
「うん。サンタさんがとどけてくれたー。ぜえぜえ」
息を切らしながらも、ありがとー! と、小さな身体でテンション高く、妖精は何度も謝意を告げる。
「荷物持ってここまで来るの大変だったろ。そんなに気に入ってくれて嬉しいよ」
「だってこれ、だいじでしょー? おたからさがせるんだから、おたからだよ? もらっていいの?」
「いいんだ。俺は――俺たちはというべきか――捜しに行くことができないしな」
ルークレイルは実体化後に、この世界に「幕府の埋蔵金」なる伝説の財宝があることを知った。
気合で情報蒐集を行ってはみたものの、しかし財宝が眠っているらしき場所は市外だ。手が出せない。
だから潔く、情報をセットにしてプレゼント交換に出したのだ。……まあ、集めた情報が眉唾なものばかりだったから、という理由もあるにせよ。
「……そーなの? まいぞーきん、さがせないの?」
リャナの瞳に涙が浮かび、ルークレイルは慌てる。
「まーな。ムービースターの大人の事情でな。……っておい、泣くな泣くな! 銀幕市から出なくったって別の宝探しがいくらでもできるだろ」
「べつのおたから……」
「そうだ、今度、ダンジョン系ムービーハザードが出現したら一緒に探検しようぜ、なっ?」
「ダンジョンでおたからさがし?」
「ああ。いいぞー、ダンジョンは! 思いも寄らないところに思いがけない貴重なアイテムが隠されているんだ。伝説の刀工師がドラゴンの力を借りて制作した剣と盾とか魔法攻撃を回避できる腕輪とかモンスターを吸収・封印して使い魔に変換できる調教の壺とかあらゆるガラクタをお宝に変える賢者の杖とか!」
こと、宝探しとなると異様にハイテンションになり、熱く語ってしまうのがルークレイルクオリティである。
(かいぞく、かっこいい……!)
徳川埋蔵金実地調査の夢はついえたものの、新たな知己と、わくわくする冒険の予感を得てリャナは大満足だった。
「はやくおたからダンジョンでるといいなー」
「俺としては、隠し扉の宝箱と迷路の奥のからくりに秘められたレアな武具と罠を踏まなきゃ取れない位置にある宝石は必須だな!」
対策課の誰かが聞いたら胃が痛くなるようなムービーハザード待望論だが、本人たちはいたって真剣である。
しかしながら。
すぐにめぼしいダンジョンが発生するでもなく、それから3ヶ月が経過し――
◆+◇+◆ ◆+◇+◆
「おーい。リャナはいるかぁ?」
「あ、ルーくんだ。どしたの?」
「朗報だ。例のムービーハザードが発生したらしい」
「おたからダンジョン?」
「もっとすごいぞ、聞いて驚け。どうやら埋蔵金発掘を扱ったドキュメンタリー映画の、発掘現場そのものが実体化したらしい。あのセットが使えるぞ」
「やったやったやったー! うれしー! きいた? ゆきだるまさん」
「良かったね、リャナちゃん。頑張ってね」
「うん。おたからたくさんみつけたら、ゆきだるまさんにもあげるねー」
「まだ噂段階で、対策課から正式な依頼は出ていない。詳しい場所を聞きに行こう」
ちなみにこの会話は、ベイサイドホテルの厨房内、冷凍庫前で交わされていた。
いつの間にやら厨房がムービースター待ち合わせ場所と化している事実に、シェフはそっとこめかみを押さえながら、
「……よろしかったら、お茶をどうぞ」
心を落ち着かせるために淹れたカモミールティーを、ルークレイルとリャナにも勧めたのだった。
◆+◇+◆ ◆+◇+◆
航海士と妖精コンビはぶっちぎりな勢いで対策課に駆け込んだ。鎮静作用があるはずのカモミールティー、彼らに効果はナッシング。
「埋蔵金の」「おたからー!」「実在する発掘現場が」「おたからさがすー!」「実体化したドキュメンタリーの」「おおばんこばんがざっくざく」「ムービーハザードの場所は」「どこにあるのー?」「どこだ?」
ルークレイルとリャナが代わる代わる放った言葉がうまく聞き取れず、応対した職員は脂汗を流す。
「実在する場所にある埋蔵金……。永田町で話題の『霞が関埋蔵金』のことでしょうか? 複雑怪奇な28の特別会計の積立金を『埋蔵金』にたとえて、それで」
「おいおいここは銀幕市だぞ。そんな夢のない話をするなぁ!」
ばん! と、カウンターを叩き、ルークレイルは身を乗り出して声を落とす。
「徳川埋蔵金発掘現場を題材にした映画から、発掘現場が実体化したという噂を聞いたんだが」
「……ああ! それなら事実です。先ほど詳しい連絡が来たばかりでした。特に害はなさそうなので、依頼は出さずにこのまま様子を見ますねと、昴神社の宮司さんと7人の巫女さんが仰ってました」
「ちょっと待て。じゃあ、その場所というのはまさか」
「杵間山麓にある昴神社の境内に発生したハザードですが、何か?」
「……リャナ」
「ルーくん」
「宝探しの神は俺たちの味方だ! 昴神社へ行くぞ」
「うん!」
職員がドン引きするのもかまわずに、ルークレイルとリャナがカウンターでハイタッチを行った、そのとき。
「いつもありがとうございまーす! 出前迅速・愛嬌0円、銀幕市民の憩いの殿堂『九十九軒』です。ランチメニューをお届けに来ましたー」
間がいいのか悪いのか、九十九軒の岡持を抱えたクラスメイトPがやってきた。
彼の足元には、今の今まで市役所の床にはなかったはずのバナナの皮がいくつも横たわっている。大いなる宇宙の意思により亜空間から出現したと思われる。
しっかりきっちり、お約束通りに、クラスメイトPは す べ っ た 。
岡持が、丼が、餃子を乗せた皿が、宙を飛ぶ。
対策課職員の大事な昼食、【スタンダードセット】みっつと【大満腹セット】みっつと【小食さん向けプチセット】ひとつがあわや台無しに――
「ああああ、うわああああーーーー! すみません皆さんー、キャッチしてくださいぃぃーー」
――なるところだったが、そこはそれ。
風のように現れた職員たちが、自分が注文した分の丼と皿をひょいひょいと空中で受け取り、何事もなかったかのように自席に戻っていった。カウンター前にいた職員も、いつの間にか【小食さん向けプチセット】をしっかりゲットしている。
「ぴー。こんにちはー」
「……あれ? リャナちゃん。珍しいところで会うね」
「いまからねー、かいぞくのルーくんとまいぞーきんはっくつにいくんだよー」
「海賊……? 埋蔵金……?」
今ひとつ状況が掴めず、リャナとルークレイルを交互に見てクラスメイトPは目をぱちぱちさせる。
「何だリャナ、知り合いか?」
「うん。ときどきラーメンおごってくれるんだー」
「ど、どうも。クラスメイトPです。銀幕市ではリチャードって呼んでもらったりしてます。あ、あの、海賊さん……なんですか……?」
クラスメイトPは今までルークレイルと話す機会がなかった。なので、海賊=七つの海を股に掛けて大冒険を繰り広げ時には戦闘もこなす荒々しい海の漢、というイメージから、ちょっとビクビクしている。どう考えてもルークレイルが歩んできた人生の過程で、我が身との接点があるとは思えないからだった。
腰がひけているPにルークレイルは気さくな笑顔を見せ――その肩をがっしと掴む。
発掘には人手があったほうがいい、リャナが親しいようなら問題ない、ラ ッ キ ー 。よ し 拉 致 ろ う と 瞬時に判断したのだ。
「そうとも、海賊だ。宝探し専門のな。よろしくなリキュール。ここで出会ったのも何かの縁だ、今こそ旅立ちのとき、めくるめく冒険と輝く財宝が俺たちを待っている」
リャナが持っていた発掘セットから、いきなり手ぬぐいとツルハシを渡されてPはおろおろした。
「え? あのその。旅立ちって冒険って財宝ってその。っていうか、リキュールじゃなくてリチャード……」
「そうか、悪かった。いい名前だなリバプール。善は急げださあ行こう今行こう」
「りdbcじゃskbなhなlhfbjぐっkjcああああー!」
「おったからー♪ みつけるぞー♪」
そして、航海士と妖精は現地に向かう。
聞き取り不能な悲鳴を上げてじたばたするPを、ストラップのように携帯して。
◆+◇+◆ ◆+◇+◆
「……ほう。これが、ルークレイルさんが入手した徳川埋蔵金に関する資料ですか。なかなか興味深い」
依頼を出したわけでもないのに自主調査(?)に来てくれた3人を、昴宮司は歓迎した。
まずは社務所に招き入れ、発掘セットの地図と解説本と仏像を見て目を細める。
「いかにも眉唾だろう? でも、宝の手がかりなんてそういうもんだよな。何割かは、必ず嘘が混ざってる」
「真実を秘匿するため、故意に目くらましの情報を入れるのは基本だと言いますからね」
「徳川埋蔵金といえば赤城山麓が有名らしいが、あそこは本来の埋蔵地の囮だっていう説もあるしな」
「そして、ルークレイルさんが比定地となさったのは上野東照宮だったと――」
上野東照宮は、上野恩賜公園内に実在する神社である。
祀られているのは、家康、八代将軍吉宗、十五代将軍慶喜。
元和二年、二月。
藤堂高虎と天海僧正は、危篤状態の家康の病床で遺言をうけた。
末永く鎮魂できる場所を造り、奉ってほしいと。
そして、高虎の領地であった上野の山に、上野東照宮本営が造宮されたのである。
しかし三代将軍家光はこの建物に満足できず、慶安四年、現在の社殿を造形した……。
拝殿・幣殿・殿からなり、本殿は金箔の唐門(唐破風造りの四脚門)である。門柱には左甚五郎作の昇龍と降龍の高彫、門の側面には錦鶏の透彫がある。
ルークレイルの調査では、家康が晩年を過ごした駿府久能山には、小判換算にして約200万両の遺産があったはずだった。
これを江戸に引き上げようとした3代将軍家光と、それを拒んだ弟忠長の争いが記録に残っている。
結局、家光の元に残ったのは約100万両。
――問題は。
家光没後、僅か30年後の5代将軍綱吉の時代には、江戸城に備蓄していたはずの金銀が底をついていたという事実だ。
江戸の街づくりにあてられた、ということだが、しかし家光は本当に、敬愛する祖父家康の遺産を使い果たしてしまったのだろうか?
そして、仮説が生まれる。
もしも家光が、祖父の遺産を手つかずのまま秘密裏に保管しておこうと思い立ち、家康の時代から仕えている天海僧正に相談したとしよう。天海は、どこに隠すべきだと言うだろう?
久能山に埋葬されていた家康の遺骸を改葬して祀った霊廟――日光東照宮か?
だがこの100万両は、いざというとき江戸のために使う予算だ。日光は遠すぎる。埋めるにしても掘り出すにしても不便だ。
「……だったら、上野の東照宮じゃないかなと思ったんだよ。江戸城に近いし、不忍池は江戸城の外堀だったから運搬も容易だったはずだ。で、そんな矢先にたまたまこの仏像を市内の古道具屋で見つけてな。ご丁寧に胡散臭い地図と眉唾な解説本のおまけつきで。古道具屋もはなっからガラクタ扱いしてて、タダ同然で譲ってくれたんだが――これを見てくれ」
ルークレイルは仏像をひっくり返し、made in Chinaの刻印がある部分を押した。
底が、外れる。
仏像の中は空洞になっており、中には古びた紙が丸められて入っていた。
広げられたそれを、クラスメイトPとリャナが覗き込む。
「………う」
「………むーん」
ところどころかすれた、流麗な筆文字で書かれた文字が読めず、Pとリャナは顔を見合わせる。
古今東西の文書解読にかけては、どんな言語であろうとプロフェッショナルのルークレイルが、すらすらと読み下した。
かごめかごめ
籠の中の鳥は
いついつ出やる
夜明けの晩に
つるつる滑った
鍋の鍋の底抜け
底抜いてたもれ
「かごめ歌の一形態だ。天海僧正が作者だとも言われてるし、埋蔵金の隠し場所を示す暗号文であるとも言われる」
――それでだな、仮に上野東照宮に埋蔵金があるとしたら、どこを調べりゃいいのかってことだが。
かごめ → 籠の編み目の意。「囲まれた場所」と解釈。
籠の中の鳥 →「囲まれた場所の鳥」と解釈。唐門に錦鶏の透彫があるが、そのことでは?
いついつ出やる → 「何時、何時、出会う」と解釈。
夜明けの晩に → 相反する「夜明け」と「晩」を、「昇」・「降」と解釈。左甚五郎作の昇竜・降竜のことか?
「というわけで、唐門の錦鶏鳥と、昇竜・降竜に、入口への鍵が隠されてるんじゃないかと思うんだ」
ルークレイルの独自解釈に、リャナは興奮して羽根をぱたぱたさせ、クラスメイトPはひたすら感心した。
「わかんないけどすごいー!」
「ルークレイルさんは、その、正統派――なんですね。真っ向から挑んでるって気がします」
「そりゃな。……だって、向こうは本気で隠してるんだ。こっちも本気で探さないとな」
暗号文を見つめる瞳に、大海原で潮風に吹かれているような爽快さが漂う。
Pはふと、聞いてみる気になった。
これほどの知性と行動力のある男が海賊になった、その理由を。
「どうしてルークレイルさんは、海賊に……? そ、その、海賊がいけないとか、そういうんじゃなくて、きっとたくさん選択肢があって、その中から選んだんだろうなって」
「そうだな……。海賊になった経緯は話すと長くなるが、ギャリック海賊団に入団した理由ならすぐに答えられるかな」
「じゃあ、入団理由は?」
「信条が気に入ったんだ。それだけだよ」
殺さない。
堅気から奪わない。
その上で、『伝説の財宝』を探す。
さらりと言うルークレイルに、クラスメイトPはずっと握りしめていたツルハシごと、肯いた。
(……す、すごいひとだ。かっこいい……!)
「あ、あの、がんばります僕。たとえこの宝探しが、どんなに罠が張り巡らされたカオスであったとしても……!」
なんかもう、これから起こることを予感しているような言いようだが、ルークレイルは笑顔でその背をどんと叩いた。
「その意気だ。宝探しは楽しいぞ、リヒテンシュタイン!」
「………リチャードです」
「すまんすまん、リオデジャネイロだっけ」
「………リがついてれば構わないかなって気になってきました。リキッドファンデーションでもリクライニングシートでもリスクマネジメントでも、ルークレイルさんの好きなように呼んでください……」
「それはそうと、『夜明けの晩に』以降はどんな意味なんでしょうね?」
ほっとくとトンデモ方向に爆走しそうな気配を感じた昴宮司が、王道へ引き戻そうとしたが。
すでに、ルークレイルはテンション無限大だった。
「ん? この先は解釈するまでもないだろう?」
つるつる滑った → つるつる滑っちゃうかもしれないけど
鍋の鍋の底抜け → 底の抜けた鍋のように豪快な入口があるぞ!
底抜いてたもれ → 底抜けの冒険が待っているんだ。HERE WE GO!
◆+◇+◆ ◆+◇+◆
ACT.1★冒険への旅立ち
まあそのあれです。
このハザードの由来であるところの映画は、一応、ドキュメンタリーということにはなっているものの。
無駄にサービス精神旺盛な監督が、虚実ないまぜのいらん演出を凝らしたため、あっと驚く特撮が施されており――
上野東照宮の、錦鶏の透彫と、昇龍・降龍の高彫に同時に触れたとたん、地が揺れてスライドし、ダンジョン(ダンジョン!?)への入口が出現!
ずごごごごごごーーー!!!
別に頼んだわけでもないのに、7人の巫女が見送ってくれました。
「「「「「「「行ってらっしゃいませー!」」」」」」」
ACT.2★トラップ・パラダイス
ルークレイルは先頭切って、とにかくどんどんがんがんお宝目指して突き進む。
「おったから♪ おったから♪ ハイホー! ハイホー!」
リャナは自作の謎歌を熱唱しながら、プリンについてくる透明プラスチックのスプーン(スコップのつもりらしい)を手に、ぱたぱたとついて行く。
ツルハシと手ぬぐいに加えて【安+全】と書かれたヘルメットをかぶった重装備のクラスメイトPは、すでに脱力気味だった。
【地下1階】
謎のボタンを発見
◆リャナ → 喜びいさんで押す
◆クラスメイトP → 叫ぶ
◆ルークレイル → 気にしない
結果:全員落とし穴に落ちて地下2階へ。
【地下2階】
どう見ても怪しい色違いの石が床にある
◆リャナ → ジャンプして飛び乗る
◆クラスメイトP → 悲鳴をあげてルークレイルにしがみつく
◆ルークレイル → しがみつかれた拍子に足を滑らして尻餅
結果:壁に「人の一生は重荷を負て、遠き道をゆくが如し、いそぐべからず。by家康」の文字が浮かび上がり、床が抜ける。やはり落とし穴。
【地下3階】
どう見ても怪しいレバーが壁にある
◆リャナ → 勢いよく引こうとするが、力が足りない
◆クラスメイトP → 止めようとして、うっかり一緒にレバーに手を
◆ルークレイル → 財宝っぽいものを見つけて走り出す
結果:巨大な丸い岩が通路にごろごろと! 走って逃げるルークレイルの頭に乗っかり、楽して難を逃れるリャナ。クラスメイトPの絶叫が通路に響いたが、ちょうど壁が人の形に崩れたところに挟まって無事。ちなみに財宝に見えたものは石ころ。
【地下4〜12階】
◆リャナ → 笑顔で罠を発動させ続けてふたりのHPをごりごり削り、疲れたら寝る
◆クラスメイトP → 巻き込まれて罠が罠を呼ぶ。すがる。頼る。腰を抜かす
◆ルークレイル → 罠は無視して財宝まっしぐら
結果:リャナはお宝探しの冒険自体が「お宝」なのでオールオッケー。Pはとっくに目的が「宝探し」から「生還」にシフト。ルークレイルはひたすらHERE WE GO!
ACT.3★黄金の夢
「おーい、生きてるか、リテールバンキング」
「僕の名前はリニアモーターカー……だったような気がします〜。一応生きてます〜、今のところは」
「たっのしいな♪ うっれしいな♪ おったからさがせてうっきうき♪」
「えっと、あの、ルークレイルさん……」
「どうした? 疲れたか?」
「いえ、その……。僕、こういう宝探しって初めてなんですけど、ワクワクしますね。誘ってくれてありがとうございます」
「ああ、財宝は世界中に満ちている! また行こう。見つかっても見つからなくても」
ACT.4★財宝の価値
地下13階に降り立ったとき、彼らは――見つけた。
宝箱、を。
埋蔵金なら千両箱じゃん? と思うのは素人の浅はかさ。なんとなれば、これはトンデモ映画であるからだ。
そして。
そして。
そして、である。
喜び勇んだ彼らが宝箱に近づいて、開けた、そのとき。
このハザードは強制終了したのである。
『埋蔵金発掘ドキュメンタリーでは、決して埋蔵金は発見されない』というお約束どおりに。
しかし……。
彼らの手には、ひとつずつ、宝箱に入っていた小さな『何か』が残された。
◆リャナ → 【野いちご栽培キット】※蟻とてんとう虫に食べられないよう注意
◆クラスメイトP → 【原木しいたけ栽培キット】※しいたけが栽培できます(説明書つき)
◆ルークレイル → 【金のなる木(別名:花月)の苗】※花言葉は「一攫千金」
一同、唖然とし――
次の瞬間、大爆笑。
ハザードの消えた昴神社の境内に、朗らかな笑い声が響き渡った。
――Fin.
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クリエイターコメント | おおおおおおまたせして申し訳なくぅうわあぁぁぁぁ〜〜(転がってきた巨大岩に押しつぶされてひらら〜ん状態)(自業自得) 埋蔵金はいいですよねロマンですよね! 記録者、宝探しミステリーも暗号ミステリーも大好きで、これが重なった埋蔵金発掘ったらそれはもう。以前、徳川埋蔵金ではないんですが、わたくしめの故郷と縁の深い武将に関する埋蔵金伝説について調べてみたことがありまして。彼が、家康に会いに行くために冬の立山連峰を越えたときのこと(マジで語ってうっとおしいので以下32行削除)今も地元には、宝の在処を示す暗号歌っぽいものが何種類か残されており(以下54行削除)他県からも古文書を持ったグループが実際に捜しに(以下25行削除)。
華やかな著名人でも学者でもなく、有力な武将の末裔でもなく、けれど埋蔵金探しをライフワークになさっている市井の男性が、インタビューに答えてこのようなことを仰ってたのを読んだことがあります。
「あるも夢。ないも夢」
3名さまにふさわしい、すてきな言葉だと思いましたので、書き留めておきたく思います。 |
公開日時 | 2009-04-26(日) 19:00 |
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