★ 君と会えた奇跡 ★
クリエイター神無月まりばな(wwyt8985)
管理番号95-5521 オファー日2008-11-30(日) 01:11
オファーPC 真船 恭一(ccvr4312) ムービーファン 男 42歳 小学校教師
ゲストPC1 アレグラ(cfep2696) ムービースター 女 6歳 地球侵略軍幹部
<ノベル>

 私は記録者である。よって名は秘す。
 さて。今日も今日とて私は市役所の住民名簿閲覧の窓口に陣取り、つきまとい対象げほんごほんもとい鋭意取材対象を熱く物色していた。
 ところで、住民名簿チェックって楽しいですね。ときどき、皆さんの美麗写真が新しく添付されてるのを発見しては「おっ♪」とか思ったり。違うパターンのショットが複数拝見できるケースもあっていい目の保養でありますよ。
「……おおおっ♪」
 思わず叫んでしまったのは、真船恭一さん42歳定時制高校の生徒、……じゃなかったごめんなさい、あれ学園ハザード設定だった。教職歴17年奥様とはラブラブ、牛乳嫌いが玉に瑕、愛称まふまふの眼鏡なしバージョン写真を見つけたからである。
 最初に添付されてた写真を見たときだって、白衣で眼鏡で理科教師! 記録者をときめき死させるつもりですねそうに違いない、と思ったものだが、あえて眼鏡を外してみたこの写真もまた、さりげないプライベート感と温厚なお人柄が表れていてんもうどうしましょうモヤシコロサレ死しそうですよ、うーんフォーリンラヴ。
 ……ああ、でも恭一さんには最愛の奥様がいらっしゃるのよね〜。周囲の反対を押し切って結婚なさったのよね〜、ほぅぅ。そうよねぇ、いい男は瞬殺でいい女のものになっちゃうのよね。
 報われぬ恋に目幅泣きしながら閲覧を続けていた記録者は、やがて、恭一さんの隣人、アレグラさん外見年齢6歳音楽教師、っと失礼、こちらも学園設定でした、本来の職業は地球侵略軍幹部でいらっしゃいました――の写真を見つける。
 名簿の添付写真では可愛らしいお顔をガスマスクで隠していらっしゃるが、しかし記録者はその素顔を知っている。
 銀幕市自然公園の片隅に空間型ムービーハザード『クリスマスツリーの森』が現れたときのこと。
 ひとりぼっちで実体化したスノウマン1号の仲間を作るため、銀幕市民は大協力して雪だるま作りを行った。そのときアレグラさんも雪だるま『スノウマン10号』を作成したのだが、当時の様子が銀幕ジャーナルクリスマス増刊号の特設ページに載っているのである。
 それはもう楽しそうで嬉しそうで、眺めているこちらもほのぼのし、あまりのかわいらしさに横抱きにしてお持ち帰りしたくなってしまうほどで、記録者的には鼻血ものの悩殺写真――ん……?
 はたと、記録者は気づく。
 何やら、『対策課』の皆さんの視線がえらいこと痛く感じることに。
 そういえばここんとこ、市役所に出向くたびに誰とは言わないが胃痛持ちで腹黒の彼やしょっぱいものが好きそうな銀縁眼鏡の彼女に「……また泣きながら鼻血出してますよあの記録者」「困りますよね……。お掃除のかたに苦情言われるのは私たちなんですから」 などと、遠巻きに囁かれていることが多い。
 うわーん!
 まるで不審者かヴィランズでも見るような目ではありませんかひどいわあんまりだわ私だって銀幕市民なのに何とかなりませんか市長。『市民の声&ご要望ボックス』に投書しちゃうぞ。
 ぐしぐししてたら、変な柄のネクタイ締めた無駄美形や子犬っぽい新規職員からも「銀幕市民に取材を行う場合、ご本人の許可はちゃんと取ってくださいね」「そうですよ、真知子巻きの記録者に付きまとわれて困っているので何とかしてくださいという依頼がたくさん来てるんで」と、生暖かい笑顔で言われる始末。
「そ、それは大丈夫だもの。だって私、定時制生徒の恭一さんと音楽教師のアレグラ先生が臨海学校でカオスの渦中にいるとき、花火大会の真っ最中にどさくさに紛れて『今度取材していいですかいいですよねやったラッキー!』」って言ったもの(註:面白花火の連発や浜辺の大歓声や巨大花火の大音響の中だったので、聞こえたかどうかすら不明)。許可ばっちりだもの!!!」
 かーなーりー苦しい言い訳とともに、記録者は閲覧コーナーを泣きダッシュで去ったのだが。

 ……ううむ。
 しかし、たった今、恭一&アレグラコンビへの取材意欲スイッチが入ってしまったぞ。どうしてくれよう。
 このうえは――外堀から埋めてみようかしら。
 よし、奥様の許可を取ろうそうしよう。

 そんなわけで。
 真船家へお電話である。
 ちなみに市役所に聞いても、個人情報保護の観点から携帯や自宅の電話番号なんかは教えてはもらえない。対策課の依頼等で至急連絡を取る必要があるなどの事情があれば、また別だと思うけれど。
 なので、連絡先情報は記録者独自調査にて入手した。手段は例によってヒミツ。
 どきどきしながらプッシュして、3コール目。
 柔らかな女性の声が響く。
「はい。真船でございます」
 なんという声。『恋心』という名の香りの良い紅い薔薇があるが、それを彷彿とさせるような美しい佇まいが目に浮かぶ。さすが女優さん。いいなー記録者もこんな奥さんがほしい……って、あれれ?
「こんにちは。突然ごめんなさい。橘美春さんでいらっしゃいますか? 真船恭一さんの奥様の」
「そうですが」
「私、名乗るほどでもない記録者です。あ、あの、恭一さんってすごく素敵ですね」
「ええ、ええ! わかってくださる? あなたもそうお思いになる? うれしいわ、そうなのよあのひとはもう(以下7523文字省略)、誕生日には真紅の薔薇を贈ってくれて(以下12685文字省略)……ところで、何の御用でしょう?」
「実は折り入ってお願いが。恭一さんを私にください」
「………!! それはできないわ」
「あ。間違えちゃった。ええと、恭一さんを私に取材させてください」
 危ない危ない。うっかり修羅場になるところだった。
 何とか誤解(?)は解け、美春さんはこころよく(恭一さんが了承しているのなら、という条件付きではあるが)取材を認めてくださった。
 今ちょうど、恭一さんとアレグラさんは子犬のお散歩中であるらしい。
 そのルートを教えていただき、記録者は後を追うことにした。

  ◆◇◆ ◆◇◆

 ――ヴィヴェルチェ。
 それが、アレグラさんが譲り受けた子犬の名前だ。
 以前、幼い夢の神が、その小さな手で自分にできることを模索していた時期があった。雨に濡れた子犬たちの貰い手を探すためアレグラさんも協力し、それが縁で引き取った一匹である。

 たたた、と、勢いよく子犬が走る。
 散歩が楽しくてしょうがないようだ。
 子犬に引きずられるようにして、アレグラさんも小走りになる。
 磨かれた鏡のように空気は冷えているが、澄み切った冬空には雲ひとつ見あたらない。
 恭一さんは眩しそうに空を見上げ、ついで、どちらが散歩させられているのだかわからない、かわいらしいふたつの生き物に声を掛ける。 
「そんなに走ると……」
 転ぶよ、と、恭一さんが言いかけた途端に、アレグラさんはこてっと転んだ。
「わ」
「わふん」
 手綱を振り切って走った子犬は、しかしすぐに回れ右して、しりもちをついたアレグラさんにじゃれかかる。
「やめやめ、くすぐったい」
「大丈夫? 立てるかい?」
 手を差し伸べる恭一さんに、アレグラさんはむんと胸を張る。
「しりもち平気! アレグラ強い」
「ぷぅ?(訳:でもひとりで立ち上がれないでち?)」
 恭一さんの肩にいる、パステルカラーのマフラーをくるりんと巻いたピュアスノーのバッキーが、何やらツッコミ鳴きしたような気がしたが……空耳だったかも知れない。

 ふたりと二匹は、休憩がてら、ドッグカフェに立ち寄った。
 イタリアンレストランを兼ねた、オープンカフェである。
 冬場でも寒くないようにと、テラスにはパティオヒーターが備え付けられていて、犬連れの客のほか、親子連れも多かった。
 渡されたメニューをみんなで顔を寄せて見て、にぎやかなひとときが始まる。
「アレグラ、卵持ってない。クリームあんみつ食べる。いい」
「ヴィヴェルチェはワンちゃんメニューの『五穀米のチキン&ベジタブルリゾット』を食べたまえ」
「わん♪」
「……(訳:ホットミルクをのみたいでち)」
「ふー坊もまふまふも、ホットミルクを飲む、いい!」
「……いや、僕は、牛乳は………………」
「まふまふ弱い。だから牛乳飲むして強くなれ」
「牛乳だけは……」
「牛乳飲む! たくさん強くなれ」
「弱くてもいいから牛乳だけは」
 そうこうするうちに、お店のひとが気を利かせて、
「そんなに牛乳がお好きなんですか? じゃあ是非、このホットミルクをおためしください。当店の牛乳はとある牧場から直接仕入れてるんです。成分無調整、60℃30分の低温殺菌、ノンホモジナイズド製法なので、自然の風味が生かされた味ですよ」
 サービスサイズの巨大マグカップで持ってきた。
 恭一さん、もう涙目である。

 ……楽しそうだ。
 水入らずの邪魔をしてはいけない気がして、記録者は少し離れた席に腰を下ろす。

  ◆◇◆ ◆◇◆
 
「山、トンネルあった。基地あるか思って入るした!」
 到着したクリームあんみつを頬張りながら、アレグラさんは、晩秋の杵間山で遊んだ話をした。
 恭一さんは微笑みながら耳を傾けている。
『山のトンネル』とは、杵間山中腹の広大な鍾乳洞のことだろう。今は平和記念公園になっている『穴』のあった場所とは、かなり離れた位置にある。
「……。あの鍾乳洞は広いし、変わった形の鍾乳石もたくさんあって驚いたろう?」
「怖くなかったぞ。でも基地無かった。水の音してた」
「ああ。水琴窟があるからね」
「すいきんくつ?」
「水を張った瓶を地中に埋めて、そこに水滴が落ちると、反響して音が作り出されるんだよ」
 さすが理科教師。解説にはよどみがない。
 興味を惹かれたようで、アレグラさんが目を輝かせ、スプーンをくわえたまま身を乗り出したときだ。
「お父さん。ぼく、鍾乳洞いきたいよ。つれてってよ」
「いいぞ。じゃあ、今度の日曜日な」
 となりのテーブルにいた大型犬連れの親子が、偶然にも同じ話をし始めた。
 福々した丸っこい顔立ちのお父さんと、表情やちょっとした仕草までがお父さんそっくりの小学生である。
「やったあ。約束だよ」
「はいはい。……あれ、でもおまえ、月曜日に小テストがあるって言ってなかったか? 勉強はいいのか?」
「楽勝楽勝」
「ほんとかなぁ」
 笑い合う親子に、恭一さんは穏やかな眼差しを向けた。
 その横顔が、何処か寂しそうに見えたのは――、記録者だけではないはずだった。
 スプーンを口から引っこ抜いてかたんと皿にのせ、アレグラさんは恭一さんの手を握る。

「アレグラがついてる」

 恭一さんはふっと笑い、片手でアイロンの効いたハンカチを取り出す。
「……そうだね。ついてる」
 アレグラさんは、口の横にクリームをつけっぱだったのだ。
 口元を拭ってあげ、そして、アレグラさんの頭と、ちょこんとテーブルに座っているふー坊の頭を撫でている様子を、記録者はしばらく見つめる。
 その胸中は、想像するしかない。
 恭一さんは記録者などよりもっとずっと深く、アレグラさんのことを理解しているだろうからだ。

 これからも、様々な経験をしてほしい。
 思い出を作るだけでなく、色々なことを学んでほしい。
 辛いことがあっても、こんなふうに人を思いやる気持ちを忘れずに頑張ってほしい。
 いつかくる、 別れの時まで。

 映画の中で、彼女が「ぴーす!」をしながら、笑顔で散ることを知っているからこそ。

 ……はらり。
 青空の下、風花が、舞う。

「雪だ。雪だぞ! まふまふ」
 アレグラさんは大喜びで、小さな両腕をめいっぱい広げる。
 恭一さんの目元にも、ひとひら、落ちる。
 雪と呼ぶにはあまりにも儚いかけらは、冷ややかさを感じるまえに溶けてしまう。
 いともあっさりと、消えてしまう。
 
 ――夢、のように。

 恭一さんは目元を拭った。
 たとえようのない哀しみが、端正なおもてに浮かぶ。
 しかしそれはすぐに、あたたかな笑みで柔らかくかき消された。 

  ◆◇◆ ◆◇◆
 
 そして記録者は立ち上がる。
 恭一さんに近づく。
 どさくさ紛れにではなく、正式な取材を依頼するために。

 あなたたちのことを書きたいのですが、許してくださいますか、と。


 ――Fin.

クリエイターコメントお待たせいたしましたアアアアァァァー!
このたびは、まふまふさんとアレグラたんのほのぼのお散歩を尾行させていただき、ありがとうございます。奥様にも(勝手に)ご挨拶させていただきました。うっかり暴走発言をしましたが、記録者との仲を誤解されるようなことはないと思います、たぶん。
 
尾行しながら涙腺がゆるんだ記録者は、楽しいひとときが少しでも長く続けばいいと祈るばかりです。
公開日時2009-01-15(木) 19:00
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